─本日はお忙しいところありがとうございます。

「いえ、構いませんの。まだ次の締め切りには余裕がありますの」

─そうですか。では早速自己紹介からお願いします。

「御影すばる、マンガ家ですの」

漆黒の戦神アナザー

御影すばるの場合

─さて、早速ですが、一体どう言う経緯で『彼』とお知り合いになられたんですか?

「前の連載が終わった後、和樹さん ─私の旦那様ですの─ と二人で取材を兼ねて旅行にいきましたの。
そのころは西欧方面も大分落ち着いてきてましたし、何よりアキトさんに興味がありましたの。アキト
さんはまさしく現実に存在するヒーローですから、ぜひお話を聞いてみたかったんですの」

─なるほど、ヒーロー物を得意とする先生らしいですな。

「それで、アキトさんが所属してる基地に取材 ─もちろん許可はとりましたのよ─ に行く途中で
戦闘に巻き込まれましたの」

─本当ですか!?・・・よく無事でしたね。まあ、理由は見当が付きますが・・・。

「はいですの。私も何機は無人兵器を投げ飛ばしながら和樹さんと二人で逃げてたんですけど、
そのうち黒いエステバリスが飛んできて敵を蹴散らしてくれましたの」

─それが『彼』だったと。まあ、結構お約束のパターンですが。それはそうと、
生身で無人兵器を投げ飛ばしたんですか!?

「はいですの。条件さえ揃えばダンプくらいなら投げ飛ばせますのよ」

─ははは・・・、それで、その後そどうしたんですか?

「戦闘が終わって、皆さん基地に帰ると言うので、ついでにアキトさんのエステバリスに同乗して
基地まで連れて行ってもらいましたの」

─あの狭いエステバリスのコクピットに三人乗りですか?

「はいですの。どうしてもアキトさんに密着しないといけないので、和樹さん複雑な顔をしてましたの。
でも状況上仕方ありませんでしたの」

─だったら無理して三人乗りなんかしなきゃ良かったんじゃないですか?

「それはそうなんですけど、軍の皆さんの中でアキトさんのエステバリスが一番足が速かったんですの。
それで、基地に着いてコクピットハッチが開いたとたん、整備員の皆さんの目が点になってましたの」

─そりゃそうでしょうね。

「それで、私たちが降りたとたん皆さん物凄い勢いでアキトさんに詰め寄ってましたの。特にレイナさん
って言う女の人は『この女の人は誰なんですか!』って特に凄い勢いでしたの。でも和樹さんを紹介して、
私たちがここに来た理由を説明したらどうにか落ち着いたようですの」

─まあ、先生は既に結婚してますからね。その点は例の彼女たちの懸念は杞憂ってわけですか。

「はいですの! 私にとって一番の男性は和樹さんですの!」

─ははは・・・、先生と旦那さんがラブラブなのはよく分かりました(笑)

「あ、ごめんなさいですの。それで、その後でアキトさんを始めとして、整備員のレイナさん、仲間の
パイロットのアリサさん、オペレーターのサラさん、部隊の隊長のオオサキさんあたりに話を聞くことが出来ましたの」

─実際に話してみてどの様な印象を持たれましたか?

「まず稀代の女たらしって話ですけど、少なくともアキトさん自身はそんなつもりはありませんの。
ただアキトさんは優しい人ですから、その行動が結果的に女の人を魅き付けてるだけなんですの」

─それはそれで問題って気もしますけどね。

「あと意外かもしれませんけど、どこか寂しそうな印象を受けましたの」

─寂しそう・・・ですか?

「はいですの。もちろん仲間の人は大勢いるんですけど、それでもどこか孤独を感じてるような・・・
そんな気がしましたの」

─まあ、彼自身ナデシコを離れてだいぶ経ってましたからね。そんな雰囲気を出しててもおかしくはないでしょうね。

「もちろんそれもあるんでしょうけど・・・、何かそれだけじゃないような気がしましたの」

─そうですか、それでは最後に『彼』に一言メッセージをお願いします。

「アキトさん、ヒーローの戦いは最後は必ずハッピーエンドで終わる物ですの。この先アキトさんの
前に立ちふさがる物が何であれ、絶対に負けないでほしいですの。敵その物にも、世の中の不条理にも!
正義は最後に必ず勝ちますのよ! あ、それとついでにもう一つ。あの時格納庫で少し離れた場所で
アキトさんを睨んでいた整備員の人、あなたがアキトさんにどんな感情を持ってるかは何となく分かっちゃいますけど」
だからと言って馬鹿な事を考えるのは止めてほしいですの。ヒーローは孤独な存在でもありますの。
他の人に無い力を持ってるからと言って、必ずしもそれが幸せとは限らないんですのよ」

─今日はどうもありがとうございました。

民名書房刊「漆黒の戦神 その軌跡」より抜粋






「・・・なるほど。やっぱりこのマンガの主人公ってアキト君がモデルになってたんだ」

ここはナデシコ艦内、『漆黒の戦神 その軌跡』の新刊を読んでいたヒカルはそう呟くと、傍らに
置いてあった『コミックZ』最新号を手に取った。この雑誌に御影すばるのマンガが連載されている
のだが、その主人公がどうもアキトとかぶって見えていたのである。ちなみに今回は別にアキトに
不審な点は無かったのでお仕置きは無しである。エステに同乗した件は、旦那と一緒に乗っていた
事もあり不問にされている。ルリやラピスは絶対何かあったはずと決め付けて事情を知るサラ達に
詰め寄っていたが・・・。しかしよく考えてみればアキトがどう行動しようが某同盟のメンバーに
それを咎める権利など本当は無いはずなのだが。

「それにしても、『正義は必ず勝つ』か・・・。今となっては白々しく聞こえるぜ」

同様に本を読んでいたリョーコが思わずそう漏らす。確かにこの戦争が所詮はただの人間同士の争い
に過ぎない事を知ってしまった以上そう思うのも無理の無いことである。

「うん、それにこのマンガの内容、何か暗示めいた物を感じるんだよね。ただの偶然だとは思うけど・・・」

ヒカルに促されマンガに目を通すリョーコ。その中で主人公は、強大な力を持つが故に権力者に疎まれ、
次第に社会から孤立しつつも平和と人々の幸せのため己を捨てて戦っていた。偶然とはいえ、今のアキト
の状況とかなり似通った立場だと言えるだろう。

「このまま戦争が終わった後、アキト君はどうなるんだろ?こんな事言いたくないけど、あんまり楽しくない
運命が待ってるような気がするんだよね・・・」

「おい!縁起でも無いこと言うなよ!・・・って言いたい所だけど、確かにその可能性は否定できないよな・・・」

ヒカルの発言を否定したくても否定できないリョーコ。彼女自身その事は気になっているのである。

「で、でもまああんまり心配は要らないかもね。ほら、この本にも書いてあるじゃない
『ヒーローの戦いは必ずハッピーエンドで終わる物』だって」

「・・・そうだな、いまの俺たちに出来ることはテンカワをサポートして、この戦争が早く終わるよう
頑張る事だけか。まだまだ先は長いからな!」

「そうだよね、私たちも頑張らなくっちゃ!」

こうして戦いの決意を新たにするリョーコとヒカルであった。





「ねえアリサ、レイナ・・・」

「何姉さん?」

「どうかしたの?」

先ほどとは別の場所、サラ、アリサ、レイナの三人が同様に例の本を読んでいた。

「この本のここの所だけど・・・」

サラに促されその部分を読む二人。

「あ・・・、この『アキトさんを睨んでいた整備員』ってもしかして・・・」

「多分・・・、彼の事だろうね」

彼女たちには彼の正体がすぐに分かった。アキトに嫉妬するあまり取り返しのつかない過ちを犯してしまったあの男の事であろう。

「彼・・・、あの後故郷に帰ったんだよね」

「今頃どうしてるんでしょうか・・・?」

「さあね・・・」




日本某所

「『馬鹿な事を考えるのは止めてほしい』か・・・。忠告少々遅すぎたよな・・・・」

サイトウ タダシ ─現在自動車修理工場に勤務─ は自宅で例の本を読みつつそう呟いた。さすがに
ここに書かれているのが自分のことだと言うことには気が付いたようである。

「確かにテンカワはもう平凡な生活は送れそうにないよな・・・。一番それを望んでるのはテンカワだろうに・・・」

この本に書いてあることも今なら理解できる。アキトは絶大な力と引き換えに平凡な生活を捨てざるを
得なかった。むしろ自分自身の事などまったく考慮していないのかもしれない。

「その点は、俺はテンカワに勝てたのかもしれないな。少なくとも俺は手に入れたからな、平凡でささやかな幸せってやつを」

「タダシさん、どうかしたんですか?」

物思いにふけるサイトウに声をかけたのは、最近彼と同居を始めた女性である。特別美人と言う訳ではないが気立てのいい女性である。

「いや、ちょっと昔の事を思い出してただけさ」

「そうですか? そうそう、晩御飯の仕度ができましたから」

「ああ分かった。すぐ行くから」

食卓に向かいつつ『平凡でささやかな幸せ』を実感するサイトウであった。


おしまい

 

 

後書き

皆様始めまして! 本業は葉っぱ系駄文書きのGX9900と言う者です。

ここの作品群を読んでいたら突如電波を受信しまして、勢いだけで書き上げてしまいました。

今回ネタにしたのはDC版こみっくパーティの新キャラの御影すばるですが、私的には『時の流れに』
世界にこみパ世界が存在するものとしています。元々こみパが現代の話だとはどこにも書いてない(笑)
のでこう言うのもありでしょう。

で、作中での状況ですが、すばるエンドの数年後、和樹はすばると結婚して二人ともコミックZに連載
を持っていると言うことにしてます。他のキャラについては考えていませんので、万が一この設定を
使いたいと言う方は好きなようにして構いません(まあ、まず居ないとは思いますが)

それにしてもこの話、当初の予定ではギャグになる予定だったんですが、『サイトウを出せ!』と言う
電波を受信したのが運の尽き。気が付いてみればかなりシリアスな内容に・・・。内容自体も少々無理が
あるとは思いますが、私の構成力なんざこんなもんです・・・。サイトウも勝手に幸せにしちゃったし・・・。

でも実際サイトウは『一般人の代表』なのでアキトとのこう言う対比もありなのではと思います。
何せアキトはもはやあらゆる意味で『平凡な幸せ』を得ることはできませんからね。

それでは、また機会があったらお会いしましょう。

 

 

 

代理人の感想

 

いや、サイトウにだって幸せになる権利くらいはあるでしょう。

アキトがちゃっかり幸福な不幸を謳歌していたんですし(爆)。

 

それにしてもギャグじゃない戦神シリーズというのも珍しい。

おしおき抜きでも成立するんですねぇ、これ(笑)。