「こんな所にまで取材に来るなんて大した根性してるわねえ」

―いえいえ、『漆黒の戦神』についての話が聞けるのならどんな所にも出向きますよ。それでは、早速ですが自己紹介をお願いします。

「・・・まあいいわ、あたしの名はナーデル。真の芸術を追求するものよ」

 

漆黒の戦神アナザー

ナーデルの場合

 

―(真の芸術って・・・)え〜、確かあなたが『こんな所』に居る事になったのは『彼』の所為だとお聞きしましたが?

「その通りよ、あの頃のあたしは真の芸術を追及する為にパリのあちこちで行動していたわ」

―あの〜、その『真の芸術の追求』と言うのは、絵画を引き裂いたり、美術品を破壊したりする事ですか?

「何言ってるのよ、あたしは中途半端な未完成品を完全な姿にしていただけよ?それなのに誰一人として理解しようとせずに挙句に
こんな所に放り込んで・・・、どうしてどいつもこいつもこのあたしの芸術が理解できないのかしら!」

―そ、それはお気の毒に(そんなもん理解できるやつはいねーよ!)

「で、あの時の話だけど、あの日あたしはルーブル美術館に潜り込んだわ。あそこには山ほどの未完成品があたしの手で完成されることを
待ち望んでいたからね。だけどどう言う訳か展示室に入ったとたんに警官隊に囲まれたわ。一体なんであたしが来るのが分かったのかしら?」

―(そりゃああんたの行動パターン調べりゃあ大体の予想は付くってもんだろーよ)

「何とか外に逃げ出してみれば、警官隊に十重二十重に囲まれちゃってるじゃない。あたしも真の芸術の為に捕まるわけにはいかなかった
からね。いざと言う時の為に隠しておいた蒸気獣達を呼び出したわ」

―蒸気獣?何ですかそりゃ?

「あたしの下僕達よ。無人兵器の『ポーン』と、あたし自身が操縦する『ノクテュルヌ』こいつらを使って囲みから抜け出そうとしたわ。
警察の装備なんかじゃノクテュルヌどころかポーンにすら太刀打ちできないし。でもね・・・、まさかあたしを捕まえる為に軍まで出てくるとは思わなかったわ、しかもその部隊は・・・」

―彼の所属する『Moon Night』だった訳ですね。

「・・・その通りよ、流石にポーン程度じゃエステバリスには敵わないからね。ノクテュルヌなら何とか相手になるけど戦う必要なんて
無いしね。それでポーン達を捨て駒にして逃げようとしたんだけど・・・」

―『彼』に捕まったと。

「その通りよ!ええ、いとも簡単にあの黒いエステバリスにぶちのめされたわよ!おまけに半壊したノクテュルヌは警官隊に囲まれるし・・・。それで結局お縄よ!全く糞忌々しい!!」

―それは自業自得と言う物では?

「何言ってるのよ!あたしは何も悪いことなんかしてないわよ!ただ単に未完成品の芸術品を完成させてあげてただけじゃない!なのに
何で逮捕されなきゃいけないわけ!しかも軍まで持ち出して!それに!護送車に押し込まれる時にエステから降りてたあの男の顔見たけど、あたしってあんな芸術のかけらも感じない顔した男にやられた訳!?全く冗談じゃないわよ!!」


―(・・・駄目だこの女、完全に美的感覚が狂っとる)そ、それでは最後に何か『彼』にメッセージをどうぞ。

「漆黒の戦神!あたしはあんたを絶対許さないわ!近いうちにこの恨みは百億倍にして返してやるから!首を洗って待ってなさい!」

―・・・ほ、本日はどうもありがとうございました(無駄な事を・・・)




西暦2198年 パリ サンテ刑務所にて




現在サンテ刑務所にて服役中のナーデル嬢ですが、どうやら彼女は戦神に対して復讐するつもりのようです。無駄なのは分かりきってますが、
当編集部は彼女の行動を草葉の陰から見守りたいと思います。読者諸氏もどうか生暖かい目で見守ってあげてください。




民明書房刊 漆黒の戦神 その軌跡 より抜粋




「ふ〜ん、西欧でそんな事があったんだ?」

ナデシコブリッジにて、ユリカは『漆黒の戦神 その軌跡』最新刊を読みつつそうのたまった。

「ああ、警察から軍のほうに連続美術品破壊犯の逮捕に協力してくれと言う要請がきてな、たまたまパリ付近に駐屯してた俺達が向かった
わけだ。これに書いてある通り相手は大量の無人兵器を持ってたんで流石に警察だけじゃ荷が重すぎてな」

「でもさ〜、この蒸気獣って一体どんな代物な訳?まさか名前の通り蒸気機関で動いてるって訳じゃないんでしょ?」

「まさか、レイナが調べてたけど、エネルギーはバッテリーを使ってたみたいですよ。蒸気獣って言うのは多分ゲキガンガーの敵をメカ怪獣って呼ぶのと同じようなものじゃないですか?」

「それにしても残念です・・・、この内容ではお仕置きが出来ません・・・」

上からシュン、ミナト、サラ、ルリの発言である。しかしルリよ・・・、君は一体どこに注目しているんだ・・・?

「それにしてもこのナーデルとか言う女、個人で大量の無人兵器を保有していたとはな」

「残骸を解析したレイナさんの報告だと、駆動系などにエステバリスの部品が多用されていたそうですねえ・・・」

「それって、誰かがエステの部品をどこかに横流ししてるって事ですか?」

「その可能性は高いな。ネルガルのSSが調査してるところだが、どうやら裏の住人に無人兵器等を供給する闇マーケットが存在するらしいのは以前から分かっていた事だが、おそらくそこに流れているんだろう」

プロスとゴートも会話に参加。ユリカの問いにあまり楽しくない答えを返すゴート。

「それにしてもこのナーデルって人、アキト君に復讐するって、一体どうするつもりなのかしらね」

「彼女の乗ってたノクテュルヌって機体も調べてたけど、ノーマルエステならまだしも当時のアキト用カスタムエステにすら及ばない性能
だったようですよ、ましてやブローディアが相手じゃ結果は火を見るより明らかですね」

「まあ、どちらにしてもこの人は今刑務所に収監されてます。気にする必要はちっともありませんね」

ルリがそう言った時、

『テンカワ・アキトォォォォォォォォォォォォォォォォ!!』

ブリッジに凄まじい大声が響き渡った。

「な、何?何なの?」

「レーダーに反応、本艦に接近する飛行物体あり。どうやら木連の無人兵器では無いようですが」

慌てるユリカにルリが冷静に報告する。

「今モニターに出します」

モニターに映し出されたのは、カラスを思わせるデザインの機動兵器と、それにつかまってへろへろと飛ぶサソリを擬人化したようなデザインの機動兵器だった。どうやら先ほどの通信はこれから行われたようだ。

「あ・・・、あれって例のノクテュルヌとか言う機体ですよ?」

サソリモドキロボを指差しながら説明するサラ。

「え〜〜〜〜〜!それじゃああのナーデルって人が本当に復讐に来たわけ?でも確か今刑務所に入ってるんじゃ・・・?」

「今確認しました。どうやら先日仲間の手引きで脱獄したようです。おそらくあのカラス型機動兵器のパイロットがその仲間なんでしょう」

ブリッジでそのような会話が行われてる最中もナーデルからの罵声は続いている。

『このナーデル様が引導渡しに来てやったわよ!覚悟決めてでてきなさ〜〜〜〜〜い!!』

どうやらコクピット内で暴れているらしく飛び方が実に不安定である」

『こらナーデル!そんなに暴れるんじゃない!この『セレナード』は元々他の機体を運ぶようには作られてないんだぞ!バランス崩して墜落したらどうする気だ!』

通信に割り込んできたのはカラスモドキロボこと蒸気獣セレナードのパイロット、マスク・ド・コルボー。ナーデルの犯罪者仲間であり、
その名の通りカラスをイメージさせるマスクをしているのが特徴である。

『うっさいわね!あんたは黙ってあたしの手伝いすればいいのよ!あの男ギタンギタンにしてあたしを怒らせるとどうなるか思い知らせてやるんだから!』

『・・・今更だが、あの『漆黒の戦神』に勝てると本気で思ってるのか・・・』

ナーデルが逮捕されたと聞き、仲間のよしみで彼女の脱獄を手引きしたコルボーだったが、己の判断を思いっきり後悔していた。まさか
こんな無謀な事に巻き込まれるとは思わなかったから。





とまあナーデル側が不毛な言い争いをしてる間に――――――




「オモイカネ、迎撃よろしく」

『OK、ルリ!』

 

ちゅど〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!

 

 

いい加減うんざりしたルリによって容赦なくミサイルを打ち込まれ、ノクテュルヌ、セレナーデ共々あっさり叩き落されてしまった。
ちなみにここは海の上である。

「ル・・・、ルリルリ?ちょ〜〜〜っとやりすぎじゃないかな?」

「身の程知らずの相手してる暇はありません。あんなの相手にしてると馬鹿が移ります」

「そ、そう?(汗)」

そうあっさり答えたルリに対し乾いた笑いを返すしかないミナトであった。

 

さて、当のアキトはと言うと、

トントントントン・・・・・・

「テンカワ、それが終わったらこっちの仕込みも頼むよ」

「あ、はい」

・・・全然気付いちゃいなかった






「悔し〜〜〜〜〜!一度ならず二度までも〜〜〜〜〜!!」

「いや・・・今回戦神は関係ないと思うが・・・」

海上にプカプカ浮かびながら飛び去るナデシコを見送るしかないナーデルとコルボー。ちなみにかなりの高度があったはずだが二人とも
ピンピンしている。ま、所詮はギャグキャラだしね。

「こ、今回はこれで勘弁してあげるけど!次こそは絶対ギャフンと言わせてやるからね〜〜〜〜〜!!」

「お前・・・、まだ懲りないのか・・・」

ろくでもない事に巻き込まれた己の不幸を思いっきり呪うコルボーであった。




「覚えてなさいよ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」

 

・・・いや、覚えとくも何もアキト自身はナーデルの存在などこれっぽっちも認識しちゃいないんだけど・・・。





おしまい




後書き

どうも、さくら戦神ナーデル編、やっとこさ完成しました。

公約してから今までかなり経ってますけど、実質的な執筆時間は4時間程しかかかってないんですよね。

私は書くときには一気に書き上げてしまうんですが、気分が乗らないと全然書けないんですよ。書く気力が溜まるまで今までかかったと言う訳で。

しかし、ナーデルとコルボーの掛け合いってこんなんで良いんでしょうか?実はまだこの二人がコンビを組む八話まで行ってないんですよね(汗)

ちなみに原作と違いナーデルもコルボーも普通の人間です。ナーデルの場合胸のサソリのタトゥーが実はIFSだったりしますが。
IFSは手の甲に出る物ですが彼女のは特別製だと考えてください(ちょっと無理があるかも)

それではまたネタが出来たら投稿しますので。










 

 

代理人の感想

 

コルボー・・・・・

 

アンタ背中が煤けてるぜ(爆笑)。

 

 

これで実はコルボーが密かにナーデルを想ってたり、

ナーデルが心の底ではアキトに惚れてたりしたらますます救われないな〜、とちょっと思ったり(笑)。