「ならば、俺の武器は空だっ!」

 

 アキトが飛んだ。垂直に。

 空中で背中の光翼が再び展開し、その全身が黄金の炎に包まれる。

 

 バトルフィールドを覆うバリアは、高い所で高度200mを越す。

 さしものガイアクラッシャーも、この高度では有効な打撃を与える事はできない。

 そのバリアの天井にぶつかり・・・いや、身を翻して天井に「着地」する。

 バリアが過負荷にたわみ、悲鳴を上げた。

 そして次の瞬間、アキトの姿が消える。

 バリアの反動、己の推力、そして重力加速度をも加えてアキトが彗星の如く、一直線に走る。

 リョーコは今、周囲のものがコマ送りの様にゆっくり動く中で、

 ただアキトだけが閃光のようなスピードで自分に向かって来るのを知覚していた。

 

 大地の盾の唯一薄い直上から、しかも十分な加速をつけての乾坤一擲の特攻。

 それは確かにガイアクラッシャーの攻性防御壁を破る唯一の手段であろう。

 だがこのスピードで的を外して大地に激突し、

 あるいはまともにカウンターを受ければ即死してもおかしくないというのに、よくやる。

 そう冷静には考えつつも、リョーコは口元に笑みが浮かぶのを押さえ切れなかった。

 なぜなら、自分が逆の立場でも必ず同じことをしたに違いないだろうから。

 

 

 

 炎を引く彗星が、天空より駆け下りる。

 堅牢なる大岩をも砕き、大地をこぼつ一筋の流れ星。

 あたかも不遜な人を罰するため、神が下した天の燃える鉄槌。 

 

 大地より、天に向かい駆け上がるものがある。

 大地を裂き、いかずちと共に天かける昇龍。

 あるいは天と地を貫き、倣然とそびえるバベルの塔。

 

 それらはともに、黄金の輝きを放っていた。

 

 

「俺のこの手が真っ赤に燃える!」

 

 アキトが吼える。

 吼える。

 吼える!

 いまはただ、この一撃に全てを込める!

 

 

「勝利を掴めと轟き叫ぶ!」

 

 リョーコが轟く。

 仲間の命を賭け、

 アキトとの決着を賭け、

 必勝を胸に秘めて大地が轟く!

 

 

 

 

「爆熱! ゴッドフィンガァァァァッ!」

「炸裂! ガイアクラッシャァァァッ!」

 

 

 

 直径十m。今までのものとはまるで違う、脈打つような輝きを放つ花崗岩の柱が三本、

 リョーコを中心に正三角形の頂点を描いて出現する。

 落ちて来るアキトにも劣らぬスピードで天高く上るそれは、まさしく岩の鱗に覆われた三頭の昇龍。

 リョーコを底辺とし、触れるものみな打ち砕く金剛石の三角錐。

 金剛の龍の頂点が赤く燃える彗星と激突し、

 次の瞬間、木端微塵に砕け散ったのは大地の龍だった!

 柱の残りを砕きつつ、アキトがリョーコ目掛けて一直線に落下する。

 

「ぬうっ!」

「これで決める!」

 

 ゴッドフィンガーがボルトナデシコの頭部を捕らえる。

 だが、その瞬間。

 アキトが勝利を確信したその瞬間、

 同時にボルトナデシコの両の拳がゴッドの頭部を挟み込んでいた。

 

「ぐ・・・何だとっ!」

「ぐぐぐぐぐ・・・本番は、これからだぜ!」

 

 牙を剥き出し、リョーコが笑った。

 頭部を鷲掴みにされながらも、リョーコの両拳の力は全く衰えない。

 爆熱する右掌に捕らえられたボルトナデシコの頭部が赤熱化し始めているのと同様、

 黄金に光る拳に挟まれたゴッドの頭部装甲に細かなひびが入りはじめている。

 会心の表情を浮かべ、サブロウタが勝ち誇った。

 

『見たか! 高速震動で相手の分子結合を破壊する・・・・これがガイアクラッシャーの真の力だ!』

「そう。サブロウタの作戦が大当たりって訳だ!

 捕まえちまえば俺の・・いや、俺達の勝ちだっ!」

 

 

 遠距離で焦らしておいて相手から接近戦に持ち込ませる。

 一撃必殺を狙って攻撃を掛けてくれば防御はどうしても甘くなる。

 あの、花崗岩の龍でさえアキトを減速させる為の牽制にしか過ぎなかったのだ。

 身をよじり、スラスターをふかしてアキトが逃れようとする。

 だが、相手の頭部を捕らえたままではそれにも限界があり、

 なにより頭部を挟み込んだボルトナデシコの両拳は万力の様に動かなかった。

 

 互いの技が威力を相殺しあっている故に、一撃必殺にはなっていないが

 このままでは純粋な耐久力勝負になる・・・・そしてゴッドと比較した場合、

 スピードと言う要素を捨てている分、耐久力は圧倒的にボルトナデシコのほうが上。

 

 サブロウタとリョーコが仕掛けた最後の罠がガッチリと口を閉じた。

 

 

 ゴッドナデシコの頭部から首、肩、胸の装甲へと微細なヒビが広がっていく。

 対してボルトナデシコの全身も赤熱化してはいるが、まだハイパーモードの黄金の輝きは失われていない。

 

「ぐ・・・おおおおおっ!」

「どうだ・・・テンカワ! お前は確かに俺より強いかも知れねぇ・・・

 だが、今日お前は俺とサブロウタに負けるんだ!」

 

 その通信を拾った瞬間、ガイの体が雷を受けたかの様に硬直した。

 リョーコは、サブロウタとの協力によって優位を得ている。

 だが、自分はアキトの闘いを優位にしているだろうか?

 自分がそういったことも何かできれば、アキトは今回負ける事はなかったのではないか?

 だが、そんなガイの心中も知らずアキトが吼えた。

 

「この程度で・・・・勝ったと思うなっ!」

 

 咆哮と共に、リョーコの頭部に掛かる圧力が増す。

 同時に、全身にかかる圧力に押されてボルトナデシコの足が岩肌にめり込む。

 

「なにっ!?」

「ゴッドフィンガーの出力を無理矢理上げているのか・・・・なんて無茶を!」

 

 アキトが何をやったのか理解した瞬間、ガイの顔から血の気が引いた。

 リミッターを外し、強制的に出力を上げる・・・・・それは自爆と紙一重の危険な大バクチである。

 また、技の制御に今まで以上の気力を費やす為、体力の消耗も早くなる。

 だが自爆のリスクと引き換えに出力を上昇させたゴッドフィンガーは、明らかにリョーコの技を押し始めていた。

 ゴッドの装甲板に走っていたヒビの拡大が止まり、逆にボルトナデシコの赤熱化が広がり始める。

 リョーコが舌打ちを一つ、鳴らした。

 

「サブロウタ、こっちもやるぜ!」

「危険だ!」

「このまま負けたってどの道危険にゃ変わりねぇよ。

 ・・・・・・なあ、サブロウタ。もし俺が死んだら仲間のこと、よろしく頼むぜ」

 

 そう言うなリ、サブロウタの返事を待たずにリョーコが機体のリミッターを切る。

 黄金の輝きが強まり、ボルトナデシコが体勢を立て直す。

 だがゴッドフィンガーを押し返し再び力が拮抗した後、異変が起こった。

 がくん、と唐突にボルトナデシコの膝が揺れる。

 必死で踏ん張り、辛うじて崩れるのは堪えたものの

 伝達系、駆動系、制御系とボルトナデシコの全身で動作異常が起こっている。

 リョーコにも異変が起こっていた。

 全身から大量に発汗し、先ほどまでは万力の様に揺るぎなかったゴッドの頭部のフックがぐらぐらと揺れている。

 今度は、サブロウタの背筋が凍る番だった。

 幸か不幸か、彼はこの異常の原因が自分の作戦にある事を直感的に理解してしまったのだ。

 

「そうか・・・最初のガイアクラッシャーの連発で、機体とパイロットに負担がかかりすぎていたんだ・・・

 ごめんよリョーコちゃん・・・・・こいつぁオレの作戦ミスだっ!」

 

 サブロウタが無念の表情でコンソールに拳を叩き付ける。

 その顔を上げさせたのは、からかうようなリョーコの声だった。

 

「・・・・バーカ」

「え・・・」

「勝利が俺達二人の物なら、敗北だっておれたち二人のものさ。違うか、相棒」

「・・・・・・・・っ!」

 

 サブロウタが喉を詰まらせる。

 彼が涙をこらえようと必死に上を見上げたとき、

 遂にボルトナデシコは大地に崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

「・・・あ〜あ、また負けちまったか」

「一つ間違えれば、俺が負けてたさ」

「馬ぁ鹿。ンなの、慰めにもなりゃしねぇよ」

 

 軽口を叩きつつ、リョーコがナデシコをチェックする。

 先ほど赤ランプが点灯していた所を予備の回路に切り替えてゆく。

 あの状況でとどめを刺されなかった以上、装甲や内部器機には殆ど損傷はない。

 先ほどまでの闘いではボルトナデシコは言わば渾身の力比べをしていたような物だ。

 疲れてはいるが怪我と言うほどの怪我はない、と言ったところだろうか。

 

 不意に、アキトとリョーコが揃って上を見上げる。

 その二人の前に影が一つ飛び降りて来た。

 ヒサミである。

 首尾よく壁を超えた彼女は、岩壁の最上段からこれまでの一部始終をその目で見て取っていた。

 

「スバル・リョーコ。テンカワ・アキト。

 ナデシコファイターの拳と拳での語り合いとやら、見せてもらったわ」

「・・・・・・・で、どうする」

 

 アキトが立ちあがり、構えを取った。

 タッグマッチが続いている以上、ヒサミはアキトの敵である。

 だが、ヒサミが取った行動は完全にアキトの予想外の物だった。

 

「スバル・リョーコ! 私は今一度あなたに、ナデシコファイトを申し込む!

 あなたはファイターなら拳と拳で語れと言った・・・・

 ならば母さんを殺していないというその言葉が嘘か誠か・・・・拳で語ってもらうわっ!」

「・・・・・・・・・・・・ああ、いいぜ・・・・・・・・その挑戦、受けた!」

 

 唇をめくり上げ、獰猛な笑みを浮かべてリョーコが挑戦に応じる。

 しばし観客席が揺れ、そして驚愕のどよめきが去った後嵐のような歓声に包まれた。

 

 

 

「・・止まりそうにありませんね、これは」

 

 相変わらずほけっ、とした表情で観戦していたメグミが諦めた様に呟く。

 ホウメイはといえば気の抜けたメグミに拍子を外され、

 なんとはなしに一緒に観戦する形になってしまっていた。

 

「ほぉ? 首相も多少は拳の心がわかってきたかい」

「まさか。馬鹿の扱いかたに慣れて来ただけですよ」

 

 ホウメイのからかうような物言いを軽くあしらい、

 はぁぁぁぁ、と長い溜息をついてメグミが椅子に沈み込んだ。

 おまけのようにもう一つ、短い溜息をつく。

 

「はぁ。どうしてこう言う人たちばっかりなんでしょうかね、ナデシコファイターと言うのは」

「そんなもんさね。・・・・・・・それに、そんな男だからホレたんじゃないのかい?」

 

 ガードが緩んだ所へ必殺のレバーブローが決まる。

 普段、全くと言って良いほどその内面を人に見せないメグミの、

 笑顔の仮面が外れた顔が見事に紅潮するのはちょっとした見物だった。

 

「は・・・・・・へ、変な事を言わないで下さいホウメイさんっ!」

「それより、アナウンスを行なわなくていいのかい?」

「・・・覚えてて下さいよ」

 

 メグミの抗議を涼しい顔で受け流し、ホウメイがそらとぼける。

 それを睨みつけながらメグミが手元のスイッチを入れた。

 

 

 

 

 

 

 エリナ経由で報せを受けたアキトがメティと合流する。

 殆ど同時にファイト開始時と同じくメグミ首相の立体映像が現れた。

 会話する暇もなく、アキトとメティの視線が、そして場内の視線全てがメグミ首相の立体映像に注がれる。

 

『只今のネオロシアのボルトナデシコ及びネオカナダのランバーナデシコのファイトについて説明させていただきます。

 その前に確認しておきたいのですが・・・・これは正規のナデシコファイトではありません。

 双方、それでもファイトするという意志に変わりはありませんか?』

 

「ああ、当然だ!」

「申し訳ありませんが、これだけは譲れません」

 

 予想通りの答えに溜息一つ。

 

「よろしいでしょう。それでは、ネオホンコン首相メグミ・レイナードの名において、

 ボルトナデシコVSランバーナデシコのファイトをスペシャルマッチとして承認します!

 なお、このファイトの勝者には特別に勝ち点2を与える事にします・・・よろしいですね、ネオカナダの方々?」

 

 勝ち点2・・・要するにこの試合に勝てば、元々のタッグマッチで勝ったのと同じ得点を上げられると言うことだ。

 この一言で、それまで騒いでいたネオカナダ陣営が静かになる。

 タッグマッチのパートナーであるボルトナデシコが敗北の判定を下された現在、

 消耗してはいてもリーグ戦の成績でツートップを走るゴッドとノーベルを同時に敵に回すよりは

 まだボルトナデシコとの一騎打ちの方が勝算が高いと判断したのだろう。

 意図した通りの結果に満足したメグミが高らかにファイト開始を告げる。

 

「・・・・・・ねえ。メティってさ、何の為に出てきたのかなぁ」

「・・・・・・まぁ、こう言うこともあるよメティちゃん」

 

「それではナデシコファイト・スタンバイッ!」

 

 

「「レディ・ゴォッ!」」

 

 

 

 先日のファイトの冒頭を思い起こさせるかのように、ボルトナデシコとランバーナデシコが激しく激突した。

 だがもはやどちらも武器も小手先の技も使いはしない。

 ただ力とスピードに任せて相手に拳を叩きこむ。

 もっとも原始的で、もっともピュアなファイトの形がここにはあった。

 

 無論、ヒサミが柔術の技を繰り出せば疲労しているリョーコをさほど苦労せずに下せただろう。

 だが、今ヒサミが欲している物は勝利ではなかった。

 復讐でもなかった。

 拳と拳で語り合う事、そしてそれによって真実を見極める事。

 ただそれだけが今のヒサミの望みだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、想いは届いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 次回予告

皆さんお待ちかねぇ!

 マスターホウメイから届いた果たし状!

 ですが、拳で火花を散らす二人の前に突如ナデシコヘッドが出現!

 かつての師弟は流派東方不敗最終奥義を持って迎え撃つではありませんか!

 そして、その裏では各国のクルーやファイターをも巻き込む大いなる陰謀が蠢いていたのです!

 機動武闘伝Gナデシコ、

「石破天驚拳! 決闘マスターホウメイ」に!

レディィィィィィ!GO!

 

 

 

 あとがき

 はい、遅れました。

 ごめんなさい。

 でも、もうしないとはお約束できません。(核爆)

 重ね重ねゴメンナサイ。

 

 それはさておき。(おくなっちゅーの)

 

 書いていて思いましたが、やはりヒロインやらせるより「馬鹿ばっか」とツッコませてた方が絵になりますね、ルリは(爆)。

 十六歳じゃなくて十一歳バージョンにしておいたほうがよかったかなぁ。

 

 原作をご覧になった方なら色々と「おや?」と思ったでしょう。

 そうです、この作品ではデビルホクシンの暴走は地球に落ちたことが原因ではありません。

 ウリバタケもハーリーもデビルホクシンを手に入れようとして暗躍していたりはしません。

 

 この話はさっさと切り上げて(早!)、今回のラストについてですが、

 原作では「彼女」関係の展開がラストに入ったために

 本来このエピソードの主役である筈のアルゴ(リョーコ)とグラハム(ヒサミ)の扱いが

 やや割を食っているかなと思っていました。

 それでGナデのこのエピソードは丸々リョーコとヒサミの因縁話に変更された訳です。

 (そこ、ルリに食われてたら結局同じだろ、とか言わないように)

 しかし、シャッフル四連戦の中で唯一話のメインから外されてるとは・・・不憫な。

 この扱いを見るにやっぱり人気なかったんだろうか、アルゴ(笑)。

 

 







プロフェッサー圧縮inオリエント(嘘)の「日曜劇場・SS解説」


ハイ、暫くぶりですねー。お元気ですかー? プロフェッサー圧縮でございます(・・)

今回は「VS新シャッフル同盟」シリーズ最終回、リョーコとの死闘でした(゜゜)

決勝トーナメントと言う大きな流れの中でも、中核をなす大イベントの一つであった四連戦も、これにてひとまず決着がついた訳でございます。

しかしトーナメントはまだまだ続いている訳でして、舞台が変わらぬ以上、ある程度次回への伏線を入れなければならないのは連続ものの宿命であります(゜゜)

・・・まあ、パワーファイターはえてして地味になりがちで、どーしても玄人好みになってしまうのもまた宿命でありますが(爆)





閑話休題。

実はわたくし、元ネタでのこの後の急展開から、打ち切り話が持ち上がっていたのではないか? と思いまして少々調べて見たのですが・・・・・・そのような噂は見当たりませんでした。

もっとも、元ネタ自体を扱っているサイトの数自体が少ないので(爆死)真相は分かりませんが。

まあ、急展開であっても某Xのよーに端折った気配は無いので(爆)多分予定通りかそれ以上の話数でやらせてもらえたのでしょう(゜゜)

もし、読者の皆さんで情報をお持ちの方がいらっしゃったら、是非お寄せくださいませ。





最後に。

どうやら本作は、読み切り版とはまた違ったルートを辿るご様子。

今後如何なる展開が待ち受けるか、皆さんと一緒に刮目して待つといたしましょう(・・)






さて、そろそろ時間(読者の忍耐力)も押してまいりました(゜゜;)

この辺で、お暇させていただきましょう(゜▽゜;)

いやーSSって、ホント〜に良いものですねー。

それでは、さよなら、さよなら、さよなら(・・)/~~

                By 故・淀川長治氏を偲びつつ プロフェッサー圧縮