決着の時

 

 

 

 

ゆっくりと視界が傾き、反転する。そして俺は倒れたまま立ちあがれなくなった。

敗北・・・・この俺が・・・・負けたって言うのか!?

信じられないが、確かにこれは現実だ。

血を流して震えながらも奴は立ち、俺はこうして地に伏したまま起き上がれないでいる。

こいつは誰がどう見たって俺の負けと言う物だ。

そう認めてしまうと、なんだか楽になった。

 

「アキト!」「アキト君!」「テンカワ!」「アキトさん!」

 

奴の周りに奴の仲間が駆け寄ってくる。

やたらに多いな。それも女ばかりだ。

 

「北ちゃん!」「北斗!」

 

だから零夜。それはやめてくれといつも言ってるだろうが。

舞歌も・・・泣きそうな顔してるんじゃねえよ、まったく。

駆け寄ってくる女たちを手で制し、テンカワアキトがこちらに歩いてくる。

俺に止めを刺す気か?

それはそれで構わないが・・・何故かそうではない様に思えた。

ん?

いきなり零夜が俺のほうに向かって駆け出す。

俺とテンカワアキトの間に入るとブラスターを構えた。

・・・・相手はテンカワアキトだぞ?『漆黒の戦神』相手に無茶をしやがる。

俺の事は何かと心配して世話を焼くくせしやがって、

お前のやる事の方がよほど無茶だろうが。

まあ、手が震えてないのは誉めてやりたいところだがな。

 

「それ以上・・・北ちゃんに近寄らないで!」

 

「どけ。」

 

びくり、と体を震わせる零夜。

その一言にははっきりと、有無を言わせぬ強い意思が込められていた。

その場にいる全員の視線がその一言を発した人物・・・つまり、俺に注がれる。

 

「どけ、零夜。」

 

「・・・どかない。北ちゃんを、北ちゃんだけを殺させはしない!」

 

奴の・・・テンカワアキトの表情が緩むのが分かる。

奇妙な事だ。零夜の影になってここからでは見えないというのに。

 

「今更北斗を殺したりはしないよ。話がしたいだけさ。」

 

「・・・・・・・・・・・・そいつの言ってる事は本当だ。それに、嘘をつく必要はないだろう。

 殺そうと思えばいつでも殺せるんだからな。」

 

「で、でも・・・」

 

「大丈夫だって・・・・言ってるだろうが。わかったら舞歌の所へ戻ってろ。」

 

ブラスターを下ろし、一歩下がりはするものの、俺の言葉に無言で首を振る零夜。

・・・好きにしろ。自分でも苦笑しているのがわかる。

 

アイツは俺の近くまで歩いてくると、力尽きた様にぺたん、と腰を下ろした。

・・・・・そりゃあそうだな。考えて見ればあいつの体力だってもう限界のはずだ。

 

しばし、転がっている俺と座り込んだアイツの視線が絡まる。

 

「ふ・・」

 

「はは・・」

 

「はははははははははは!」

 

「あはははははははは!」

 

どちらからともなく笑い始める。

零夜も、テンカワアキトの仲間達も、顔に疑問符を浮かべているが、そんなことはどうでもいい。

俺とテンカワアキトにしか・・・命がけでお互いを確かめ合った同士にしかわからない事だ。

 

俺の心の中にあった澱が消えていくのがはっきりと分かる。

俺の飢えは底無しではなかった。

この男・・テンカワアキトが飢えと云う名の虚ろを満たしてくれた。

今、それらすべてが笑いに溶けて、風の中に消えていく。

 

笑いながら思い出した。

そう言えば、昔は俺もこんな風に笑っていたっけな。

零夜がいて、舞歌がいてケンがいて、そして母さんがいた。

あの夜を境になくした筈の物が、自ら訣別した筈のそれが、いつのまにかそこにあった。

こんなにも近くに・・・すぐそこにあったなんて・・・気がつかなかったよ。

 

ひとしきり笑い終えるとテンカワアキトが俺に尋ねてきた。

 

「なあ、北斗。お前これからどうするつもりだ?」

 

だがその顔には物言いたげな笑みが浮かんでいる。

・・・・分かっているなら聞くなよ。

 

「もちろん、修行をやりなおすさ。・・・・次は負けない。」

 

それでも答える自分に少し驚く。

 

「それはお前の勝手だけど、負けてやるわけにはいかないな。彼女達に怒られるのは御免だからね。」

 

楽しそうにほざきやがる。

 

以前のあいつなら、こんな風に戦いを語る事はしなかった。

むしろ自分の中にある戦いへの衝動を抑えようと必死になっていたはずだ。

俺が飢えを満たしたように、あいつも俺との戦いで何がしか変わったのかもしれない。

自分の中の闇を否定するのではなく、正面から受け止め、克服したのだろう。

俺がアイツとの戦いの中で自分の『飢え』を昇華させたように。

 

勝負自体はアイツの勝ちだったが、そう言う意味ではこの戦い、引き分けかもな。

そんな馬鹿な事を考えながら、俺の意識は心地良い闇に落ちていった・・・・

 

 

 

 

 

横たわる北斗の目が閉じられる。

座り込んでいたアキトも横に倒れ、そのまま目を閉じる。

 

「アキト!」

 

「北ちゃん!」

 

舞歌とイネスが手早く二人の容態を調べる。

 

「命に別状はないわ。二人とも疲れて眠っているだけ。」

 

「今はそっとしておいてあげましょう・・・ちょっと妬けるけどね。」

 

苦笑しながら言うイネスにその場の人間の半数以上が頷く。

周囲のそんな様子など知らぬげに、

北斗とアキトは二人並んでしばしの休息を楽しんでいるかのようだった。

 

 

 

後書き

 

こんばんわ。長編が全然進まないのに関係ないアイデアはほこほこ出てくる鋼の城です。

元はと言えば、掲示板でマルよさんが「北斗の完全な敗北はありえない」と書きこんだ時、

「マルよさんの考えている『完全な敗北』と私の考えているそれは違うんじゃないか?」

と思ったのがきっかけでした。

で、私なりの「完全なる北斗の敗北」を書いて見たのですが・・・・・

ちっとも完全でないやん。

下手すれば「敗北」ですらないし。

結局、「どうやらマルよさんとは同意見らしい」という結論が出たようです(苦笑)。

それだけの為にSS一本書いてしまった私って・・・・たはははは。

いや、この分量からするとSSはSSでも「ショートショート」の方か(笑)。

お後がよろしいようで。

 

 

 

 

 

 

 

 

管理人の感想

 

 

鋼の城さんから六回目の投稿です!!

なんだか、鋼の城さんの持ちキャラになりつつある北斗君です(笑)

う〜ん、決着を先に書かれてしまいました(爆)

Benは今後どうすればいいのでしょうか?

・・・仕方が無い、ここは早々と本編で北斗君に倒れてもらって(ガスッ!!)

 

・・・(3時間経過)

 

は!! 俺の身に何が起こったんだ?

・・・まあ、いいか(爆)

 

では、鋼の城さん!! 投稿有難うございました!!

 

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