投稿十回突破記念&打倒「北ちゃん」SS(笑)

真紅の羅刹

 

 

 

 

 

ぽたり、ぽたり。

 

「1021、1022、1023、1024、・・・・」

 

ぽたり、ぽたり。

板張りの床に汗が滴る。

端っこに申し訳程度、三枚ほどの畳がある百畳敷き程の広い板張りの部屋。

元は倉庫だったものをある目的の為に改造した物である。

一見、武道か何かの道場を思わせるたたずまいだったが、

三方と天井、板張りの床下は宇宙船の外壁にも使われる強化材の壁で、

開いた一方は同じ材質の太い格子で塞がれている。

片隅にはトイレもあり、また炊事等の設備も一応は整っている。

少々広すぎはするが、それはまさに「座敷牢」と呼ぶべき代物だった。

その中央で歳は十二くらいだろうか、一人の少年が一心不乱に指立て伏せをしていた。

「腕立て伏せ」ではない。「指立て伏せ」だ。

片方の手の指一本で体を支え、腕立ての要領で上下動を繰り返す。

親指から小指まで指一本に付き三百回。

少年の上気した頬からは汗が滴り落ち、床に小さな水溜りを作る。

この指立て伏せが終わると、次は指二本だけでの逆立ち歩行。

格子にぶら下がっての懸垂、腹筋。足腰を鍛える為のあんば立ち。

その他諸々の「日課」をこなした後、仕上げに部屋の外壁に沿って走る。

10キロ分も走っただろうか、立ち止まって呼吸を整え、最後に軽くストレッチングを行う。

普段ならこの後一休みして軽い食事を取った後、型稽古に移行するのが常だったが、

今日はその予定が少し狂った。

 

少年の異常なまでに鋭敏な聴覚が近づいてくる足音を拾い上げる。

微かな足音だけから瞬時に体重、歩幅、歩調を割りだし、足音の主を特定する。

左右の足音のごく僅かな違いから、片手に荷物を下げているのも分かった。

 

「・・・・・零夜か。いつも時間に正確だな。」

 

ストレッチングを終えて、少年・・・北斗があぐらをかいて座りこむ。

間もなく、幼馴染の少女が小ぶりの風呂敷包みを左手に下げて格子の前にやってきた。

 

「ホクちゃん・・・?」

 

「ホクちゃん、はよせと言ってるだろう。何の用だ?」

 

いつもの事ながら殊更ぶっきらぼうに尋ねる北斗。

それでも嬉しそうに笑みを浮かべる零夜が顔を突然朱に染めてうつむく。

 

「ん?どうした、零夜。」

 

「あの・・・ホクちゃん・・・胸・・・・。」

 

そういえば鍛練の最中で上半身は何も身につけていなかったのを北斗は思い出した。

一見細身の、絹の様になめらかで綿の様に柔らかく、野生の獣の様にしなやかな体。

だが、力を入れればたちまち鋼線をよじったような筋肉が膨れ上がり、肉体の厚みは倍近くにもなる。

一片の贅肉も無い、戦士としては理想的なその体の中にあっても

なお微かな二つのふくらみが肉体本来の性を主張していた。

忌々しげに自分の体を見下ろす北斗。

 

「こんな物・・・切りとってしまえればいいのにな。」

 

「ホクちゃん・・・。」

 

「・・・・なんで女なんかに生まれてきちまったんだろうな、俺は。」

 

自嘲する北斗を十二やそこらの少女には似つかわしくない、切なそうな瞳で零夜が見つめる。

 

「でも、でも、ホクちゃんが男でも女でも、私はホクちゃんの事が好きだよ!」

 

「フン、・・・・・。」

 

どこか必死に言い募る零夜に呆れた様に、口の端を歪める北斗。

だが零夜は知っている。

そんな表情であっても、北斗がそれを見せるのはただ零夜と後一人に対してだけであると。

だから、たとえ北斗の反応がそれだけであっても零夜は嬉しかった。

 

 

 

「そう言えば、何の用だ?」

 

着替えながら北斗が問う。

いつもの事だから分かってはいるのだが、ついついそんな事を言ってしまうのは

この幼馴染に対する後ろめたさの裏返しだろうか。

そんな北斗の言葉も気にせず、相変わらず嬉しそうに零夜が持ってきた風呂敷包みを持ち上げた。

 

「お弁当作ってきたの。一緒に食べようと思って。もうそろそろお昼でしょ?」

 

何気なさそうに装ってはいるが几帳面な零夜の事、

鍛練が一段落する時間を計って来たに違いなかった。

北斗もそれがわからないほどには心を閉ざし切ってはいない。

 

「折角だしな。食わせてもらうとしようか。」

 

「うん!」

 

 

重箱に詰められた弁当を二人で平らげ、取りとめも無い話をして零夜は帰っていった。

北斗は腹ごなし代わりの軽いストレッチングをした後、技の稽古をする為にまた着替える。

不意に、その眉が不快げにひそめられた。

 

「おい。」

 

答えは何も無かったが、北斗は構わず言葉を続けた。

 

「用があるなら隠れてないでさっさと出て来い。不愉快だ。」

 

通路の暗がりから染み出す様に、一人の男が姿を現す。

北斗も見覚えのある男だった。北辰の子飼いである「六人衆」の一人。

名前は知らないがそんな事はどうでもいい。

北斗にとってはあの男の部下であるという一事だけで、この男を嫌悪するには充分だった。

北斗の殺気が膨れ上がる。

常人なら金縛りや気絶どころか、気死しかねないその殺気の中でも、

さすがに男は膝を突いてはっきりと口上を述べる事が出来た。

ただ、喉はからからで背筋の毛をちりちりと逆立たせていたが。

そして目を合わせる事も到底出来なかった。

 

「フン・・承知した、と伝えろ。それと、これから型稽古をするんだが付き合わないか?」

 

口調とは裏腹の、凄絶な北斗の笑み。

男に出来たのは、今度こそ震える声で丁重に辞退する事だけだった。

 

 

びくん。

 

一つ痙攣して、哀れな犠牲者はゆっくりと体を傾かせ、

目から口から鼻から耳から、大量の血を流して倒れる。

地面に伏した時、既にその生命活動は停止していた。

ただ指先の微かな痙攣だけがかつてこの体に存在していた命の存在を主張している。

倒れた男を見下ろす様に、全身黒ずくめの小柄な影が闇に佇んでいた。

顔面への掌打の一撃で男を屠ったこの影はもちろん北斗である。

この男も木連式の達人だったが、北斗から見れば子供同然だった。

 

「達人が聞いて呆れる・・・。つまらん。」

 

わざわざ姿を見せ、時間を与えてやったにも関わらず、

北斗の踏み込みには反応すら出来なかったのである。

もっとも、瞬時に二間(約3.6m)を移動する北斗の踏み込みに

反応できる人間は木連中を捜しても十人とはいないだろう。

躱す事が出来る者ともなれば皆無と言ってよい。

だが、北斗にしてみればそんな事はどうでもいい事であり、

相手のふがいなさに対する怒りと同じくらいに

無抵抗の人間を虐殺したような後ろめたさと、自己嫌悪があった。

北斗が求めているのは戦いであって殺人ではない。

北辰の様に殺すのを楽しむのでもなければ、

うざったい枝織の様に理由があって殺すのでもない。

戦いの結果として、相手が死んでしまうだけの事だ。

ただ純粋に戦いを求める北斗の、その欲求を満たしてくれる相手。

北斗が自分の「運命」に出会うまでは、まだ幾ばくかの時が必要だった。

一陣の風が舞い、道路の土埃を吹き上げる。

風が収まった時北斗の姿はどこにも無く、ただ無残な姿に変じた男が一人、倒れていた。

 

 

六年後。艦内の鍛練場で今日もまた十数年間続けてきた鍛練を北斗はこなしていた。

一息つこうとした瞬間に零夜からの通信が入る。

 

「ホクちゃん、ごはんできたよ。」

 

「ああ、わかった。」

 

答えてからふと奇妙な符合を感じて口元に自嘲の笑みを浮かべる。

 

(零夜は相変わらず時間に正確で、俺は鍛練と戦闘に明け暮れる毎日・・・。

 結局俺は、六年前と同じ事をやっている・・・。)

 

だが、北斗は首を振るとその考えを打ち消した。

 

(いや、違う。六年前、俺がやっていたのは単なる人殺しだった。

 今の俺は・・・・「戦って」いる!

 そう・・・俺の拳を、俺の闘志を受けとめてくれる奴がいる!

 ただ無心に全てを叩き付けて、なお返してくれる好敵手がいる!

 アイツと出会わせてくれた・・・ただそれだけでも運命って奴に感謝しなくては、な・・・。)

 

いつのまにか、再び北斗は笑みを浮かべていた。

自嘲のそれではなく、零夜と話す時に浮かべるそれでもない。

壮絶なまでに純粋な闘志をたぎらせたそれは、まさしく羅刹の微笑だった。

 

 

 

 

 

あとがき

気がつけばもうBenさんの所への投稿も十回目。

ここはやはり、北斗の話を書くしかあるまい!

と、訳の分からぬ理屈を元に搾り出されたのがこのお話。

そもそも最近、「北ちゃん」なる不届千万な異端者(笑)がのさばっている今日この頃。

ここはひとつ、烈々たる一文をもって男・北斗を世に問わずばなるまい!

というのが着想の原点だったのは君と僕だけの秘密だ(笑)。

んむ?北斗は女の子じゃないかって?

いいの、体は女でも心は男なんだから。

 

 

北斗異聞(北斗)

邂逅(アキト&北斗)

あにいもうと(舞歌)

ある日、厨房で(アキト、ホウメイ)

Stand by me(ナオ)

決着の時(北斗)

たまご(メティちゃん)

きずな(アキト、ホウメイ、イネス&アイ、ガイ、ウリバタケ、ハーリー、メティちゃん、メグミその他)

イネスの呟き(イネス)

北斗十二歳(北斗)

 

しっかし、アキトを除けばオリキャラと脇キャラのオンパレードだな、私のSSは。

いや、脇キャラだけに「怨パレード」(一発変換したらこう出た)かもしれない(笑)。

お後がよろしいようで。

 

 

 

 

 

 

管理人の感想

 

 

鋼の城さんから十回目の投稿です!!

とうとう、鋼の城さんの投稿作品も桁が上がりましたね〜

いやいや、有り難い事ですね、本当に。

今後は頑張ってBenも更新をしないと駄目ですよね。

投稿して下さった皆さんに申し訳ないですからね。

 

しかし、北斗ファンの大御所らしい作品でした!!(笑)

何だか某女性レスラーと勘違いしそうで怖いですが(爆)

う〜ん、ポリシーを持ってられますね〜

鋼の城さんの、北斗に対する思いは凄いです。

さて、本編では今後はどうなるのでしょうかね?

 

では、鋼の城さん!! 投稿有難うございました!!

 

感想のメールを出す時には、この 鋼の城さん の名前をクリックして下さいね!!

後、もしメールが事情により出せ無い方は、掲示板にでも感想をお願いします!!

出来れば、この掲示板に感想を書き込んで下さいね!!

 

 

ナデシコのページに戻る