「時の流れに」偽典

第十九話 明日の『艦長』は君だ!

・・・って、どうして貴女がいるんです?

 

 

 

どん。

「きゃあっ!」

ナデシコの通路の角。

厨房に行く途中だったアキトは山のような荷物を持った女性クルーと鉢合わせしてしまった。

その拍子に女性の持っていた荷物が床に落ちて、いくつか不吉な音を立てる。

倒れそうになる女性をアキトが慌てて抱きとめた。

「す、すいません。大丈夫ですか?」

「は、はい・・・。」

いきなりの事で驚いたのか、支えられたままの女性がか細く答えた。

歳は二十を少し過ぎたくらいか。

光沢のある黒髪を高い位置でまとめて背中に垂らし、黒ぶちの眼鏡をかけている。

豊満と言うほどではなかったが、スポーツでもやっているのか

引き締まってバランスの取れた美しいプロポーションの持ち主だった。

アキトがそこまで見て取った時、女性が何故か頬を赤らめてアキトに話し掛けた。

「あの・・・・」

「な、なんですか?」

「手を・・・もうそろそろ離して頂けませんか?」

気が付くと女性は自分の足で立っているのに、アキトの手は腰に回されたままだった。

「すすすいません!そっ、そうだ、荷物を拾うのをお手伝いしますねっ!」

弾かれたように身を離し、慌てて屈んで女性の落とした荷物を集めるアキト。

その様子がいかにも不自然でわざとらしい。

その不器用なアキトを見て微笑むと、女性は自分も荷物を拾い始めた。

「これで最後かな・・っと。」

アキトが小さい紙の箱を拾うとじゃりっ、という音がした。

慌てて開いてみると、もとは湯のみであったらしい陶器が見事に砕けていた。

「あ・・・割れてる・・。」

「そんなぁ。これ気に入ってたのに・・・。」

「すいません・・・よそ見してた俺のせいです。同じ物買って返します。」

「そんな・・。いいのよ、こんな大荷物もって歩いてた私も悪いんだし・・・。」

「でも・・・・。」

「そうね、じゃあ妥協案を出しましょ。お詫びと言う事で、私のお願いを一つ聞いてくれない?」

びく。無意識の動作だろうか、アキトの体が震えた。

「ど、どんな『お願い』ですか・・・?」

目に見えて緊張するアキト。

いつもいつも同じ失敗をするこの男にも一応の学習能力はあるらしい。

それが活きるかどうかはまた別問題なのだが。

「?なに緊張してるの。私料理が趣味なんだけど、新しく作ったメニューの味見をして欲しいのよ。

 あなたコックさんだから普通の人より信頼できそうだし。」

「な、なんだ。そんな事でしたらお安いご用ですよ。」

全身で安堵を表現するアキト。

それを見た女性がくすり、と微笑んだ。

「あの・・・俺、変ですか?」

「ううん。可愛いわよ。」

今度はアキトが赤くなった。

「か、からかわないで下さいよ。そう言えば、お名前を聞いてませんでしたね。俺は・・・」

「テンカワアキト君、よね。今時あなたを知らない人なんていないわよ。

 私はハナツキ・マイ。今度入った補充クルーの一人よ。マイ、って呼んで頂戴。」

 

 

 

 

 

「ハナツキ・マイ・・。しばらくの間はこれが私の名前ね。」

「苗字はともかく名前は本名に近い方が何かと便利です。漢字は『花月舞』ですね。」

「それはいいわよ。あちらでは漢字なんて殆ど使わないんでしょう?

 問題は正体がばれない様にする方法ね。」

「そもそもナデシコクルー二人に顔を見られているのでしょう?

 やはりおやめになったほうが・・・・。」

「ああ、それは大丈夫よ。これをこうして・・・ほら!どうかしら?」

「・・・・どうかしら、じゃないですよ。髪を尻尾にして眼鏡を掛けただけじゃないですか。

 そんな事で誤魔化しきれると思っているんですか?」

「大丈夫よ。どこかの宇宙人なんて髪型変えて眼鏡かけるだけで六十年以上誤魔化してるんだから。」

「どこの話ですか、それは。」

「それはさておき配属はどこなのかしら?」

「艦内物資・資材の管理調達部門・・・要は兵站ですか。基本的には事務仕事ですね。」

「ええ〜!?折角机の前から離れられると思ったのに・・・」

「・・・・・・・。」

「冗談よ。」

「しかしそれにしても何故・・・?

 まさか、本当に事務仕事がお嫌になったからじゃないでしょうね。」

「それこそまさか、よ。彼を知り己を知らば百戦危うからず。戦術戦略の基本中の基本でしょ。」

「それはそうですが・・・。」

何も、敵の艦に潜入して情報を集めるのに、

総指揮官自らが乗り込んでいかなくてもいいではないかと呆れ顔の千沙。

「例のミスマルとか言う艦長にも会ってみたいし、ね。」

そしてテンカワアキトにも。と、これは声に出さずに呟く舞歌だった。

 

 

 

 

 

「と、言うわけで舞歌様は行ってしまわれたわ。」

「・・・・あの方もまあ、よくやるわよねぇ。」

「大体ご不在の間は誰が代わりをするの」

彼女達優華部隊の面々でさえ時々忘れ勝ちになるが、

舞歌はれっきとした優人部隊の総指揮官である。

まあ、無理も無い話だが。

「ほら、え〜と、誰だっけ、副官のあの人。」

「ああ、あの存在感の薄いアレか。」

「いっつも名前忘れちゃうのよね。」

「しょんなか。ほんま影ば薄いこつ。」

「いつも舞歌様に振りまわされっぱなしだから、

 その内存在感だけじゃなくて頭も薄くなるわよ、きっと。」

「きゃはははは!それ最高!」

「でもあの人、本当に仕事してるの?」

「一応副官としては優秀らしいわよ。」

「そう言えばいつも事務仕事押し付けられて泣いてたな。」

「・・・・惚れた弱み、って奴ね。」

「え!?そうなの!?」

「あら、知らなかったの?もっとも、全く相手にされてないけど。」

「・・・・でしょうね。」

「よねぇ。」

「だな。」

「ところで、本当になんて名前だっけ?」

「「「「「「さあ?」」」」」」

 

 

 

 

 

「東少将閣下。報告をお持ちしました。」

「ご苦労さま。下がってよろしい。」

「はっ。失礼します。」

「ああ、一寸待って、白鳥少佐。」

「は?なんでありましょうか。」

「例の戦艦、ナデシコについて訊きたい事があるんだけど。」

「は。」

獲物を狙う猫の様に細められた舞歌の瞳が悪戯っぽくきらめく。

しまった、と九十九は思ったがもう遅い。

「あのナデシコの航海士、ハルカミナトって言ったわよね。

 九十九君とあの子とはどこまでおつきあいが進んでいるのかなぁ〜?」

 

暫しの後。

 

「失礼しますっ!」

舞歌の執務室の扉が開き、憔悴し切った九十九が出てくる。

心なしか顔を赤くして、部屋の中の人物から逃げる様に足早に去っていった。

 

「死せる舞歌、生ける九十九を走らすとはまさにこの事ね。」

「・・・それ、違うと思います。」

「舞歌様死んで無いもん。」

「いや、そういう問題でもなかと・・・。」

「大体あの舞歌様はなんなの?」

零夜が疑問を口にした時、

「ぴかぴかーん!」と、どこかで聞いたような効果音が鳴った。

「こぴぃ舞歌様ぁ〜。」

「その口調やめい。」

「どうしてなの〜?のび●君。」

「誰が●び太だ、誰が。」

「飛厘が作ったの?あれ。」

「舞歌様が出発する前に、コンピューターの記憶回路に

 舞歌様の記憶や経験、人格なんかを移しこんでおいたのよ。

 名付けて『超AI』!まあ、まだ未完成だから日常会話はともかく

 戦闘指揮や作戦会議への出席なんかは無理だけどね。」

「・・・・貴方って時々とんでもないものを作るわね・・・。」

「単に無人兵器のAIの上等な奴、ってだけよ。

 まあ、プログラミングとかはかなり私のオリジナルだけど。」

「・・・・まさか、他にも作ってないでしょうね?」

「ふふふふふふ・・・・・・。」

その笑みには、残りの六人を一斉に引かせるだけの力があった。

 

 

 

 

 

 

「急に調理場を貸して下さいなんて言うから何をするかと思えば・・・。」

こんなセリフを前にも言ったような気がして、ホウメイはふと可笑しくなった。

もっともその時とは違い、目の前の娘は実に手際良く、てきぱきと料理を作ってゆく。

下ごしらえから使った器具の後片付けまで、いくつもの作業を並行してこなし、

流れるような鮮やかさで無数の食材を料理の形に仕上げる。

その手際の良さはホウメイをして感心させるほどのものだった。

 

どこから手に入れてきたのか、上等の鯛を使った鯛めし。

同じく鯛頭の潮汁。

鶏の竜田揚げ。鯛の骨の揚げ物が添えられている。

ほうれん草のおひたし。

金平ごぼう。

大豆の煮物。

昆布巻。

おから。

 

実に正統派の、これでもかと言うくらい真っ向大上段、ど真ん中直球勝負の和食であった。

特に絶品なのは里芋の煮付けである。

固くなく、柔らかすぎず、中まで火が通っているのに外側が崩れたりはしていない。

アキトやホウメイも舌を巻く、芸術品と言ってもいい出来映えだった。

実は舞歌が一番得意とする料理だったりするのである。

そして、今は亡き舞歌の兄八雲の好物でもあった。

 

「さあ、召し上がれ。」

「あの・・・マイさん?」

「何かしら、アキト君?」

「とても美味しそうですけど、本当に『新しいメニューの味見』なんですか?」

「アレは嘘。本当は私の料理をあなたに食べて欲しかったのよ。」

「・・・・いただきます。」

悪戯っぽくマイが笑う。

その答えと表情に苦笑しながらアキトはマイの料理に箸を付けた。

 

「・・・あの、私の料理どうかしら。」

不安げに首を傾げてアキトに尋ねるマイ。

成熟した大人の女性なのに、こうした仕草は妙に可愛らしい。

つられるように、アキトも微笑んでいた。

「うん、とても美味しいですよ。マイさん、コックでも食べていけるんじゃないですか?」

優しさがにじみ出る、暖かい微笑み。

舞歌の胸が鼓動を一回飛ばした。

少女の様に胸が高鳴り、全身が火照る。

頬を染めて、舞歌がうつむいた。

「あ、ありがとう、アキト君・・・。」

ようやくそれだけの言葉を絞り出し、はにかむような笑みを浮かべる。

 

「おやおや。」

食堂の隅で、またホウメイが苦笑していた。

(ミカコたちがいなくて良かったよ。それにしても・・・・例の組織にまた一人新規参入かねぇ?)

 

 

 

アキトに手料理を食べてもらったあの後、何やら常に視線を感じるようになった舞歌である。

補給物資の件で格納庫に行ったり、同じく医務室に行ったりした時、

艦橋や食堂でも殺気を感じた。

一人で仕事をしている時でも時折何か敵意の篭もった視線を感じたが、

気のせいばかりとはあながち思えなかった。

アキトや北斗のように人間離れこそしてないが、

舞歌も達人の域に達した武芸の徒である。

そこらへんの感覚にはいささか自信があった。

そして、当然ながらそれは気のせいなどではなかったりしたのだが、

それはまた別の機会に語られるべき物語である。

それはそれとして、乗船した三日後にはもう艦内の雰囲気を掴み、

あまつさえ順応して一緒に馬鹿騒ぎを繰り広げているのはさすがと言うべきか。

もっとも「朱に交われば赤くなる」とは言い条、

舞歌の場合は元から真っ赤だったと言えなくもない。

だが、そんな中でも舞歌は冷静にこのナデシコと言う艦を観察していた。

特に一週間ほどで某同盟と某組織の設立の経緯、活動と抗争の実体から

構成人員まで把握していたのはさすが・・・・でもないかもしれない。

ともかく、彼女は行動を起こした。

 

 

「ハルカミナトさん、よね?」

「そうだけど・・・貴方はハナツキマイさん・・だっけ?」

「あら、私の事知ってるとは思わなかったわ。」

「はははは・・まあね。」

少し汗を浮かべるミナト。

まさか、某同盟定例会での議題に

『最優先抹殺対象』として名前が挙がっていたからだ、とはさすがに言えない。

ちなみにその時のもう一つの議題は

『手料理を食べてもらう』というお仕置きの採用の可否であった。

「でも、違うの。」

「違うって?」

「こう言う事よ。」

纏められていた黒髪がふぁさ、と下に垂れ、眼鏡が外される。

一瞬遅れて、ミナトが息を呑んだ。

「貴方にお願いしたい事は3つ。

 一つ目は、ミスマル・ユリカ艦長との会談のセッティング。

 二つ目はそれを時が来るまで内密にしておいてもらいたいと言う事。

 そして最後は・・・・」

 

その夜遅くまで、ミナトを交えてマイとユリカの会談は続いた。

ミナトの協力でハーリーが宿直の時を見計らって行われた為、

この会談の内容について知るのは今の所当事者のみである。

 

 

 

 

そんな中で開催が決定した、新艦長を決定する「明日の一番星」コンテスト。

舞歌は即座に参加を申し込んだ。

自分の容姿その他に対する自負はもちろんだが、

『木連軍少将、優人部隊総指揮官がナデシコの艦長になる』という

アイデアが痛くお気に召したらしい。

極めて微妙な交渉を終えたばかりであるはずだが、気にした様子は微塵もない。

舞歌とはつまり、そう言う人間であった。

 

参加申し込みを済ませて上機嫌で部屋に帰ろうとするマイを、アキトが呼びとめた。

「マイさん。」

「あら、アキト君?また私の手料理が食べたくなったの?」

真剣だったアキトの顔が一瞬、情けないものに変わる。

分かっててやっているのだ、この女性は。

「冗談よ。誰から聞いたの?」

「カン・・・ですかね。それに貴女の体つきと身のこなしは只の事務員の物じゃない。」

「あら、あの時そんな事まで確かめていたの?さすがに手が早いのね。」

「何がさすがなんですか!・・・・それはともかく、なんでこの艦に乗ったんですか?」

上ずりそうになる声を慌てて抑え、本題を切り出す。

漆黒の戦神テンカワアキト、まだまだ未熟である。

「貴方に会いたかったからよ。」

舞歌の言葉とウインクに顔を赤くして口をパクパクさせるアキト。

そう言うウブなところがまた、舞歌を惹きつける。

「冗談よ。半分は、ね。」

少なくともそれが理由の一つではあるんだから、と心で呟く。

舞歌が少し表情を引き締めた。

「一つは、もちろん木連と地球政府との和平についてね。

 そしてこのナデシコが一体どう言う艦だか確かめる事。

 三郎太君の報告でかなり具体的な話は聞いたけれども、

 この艦と地球連合軍の間にはかなり軋轢がある。

 それがどう和平に影響してくるか、確かめるのも今回の目的の一つよ。

 それらの一環としてミスマル艦長と会談したの。」

「それは理解できます。ですが、何故総指揮官自らが?」

「・・・私にはね、一つ違いの兄がいたの。戦術や戦略に関しては

 私なんかよりもっとずっと凄い才能の持ち主だったわ。

 でも、あの人は暴力とか戦争とかが大嫌いだった。

 私の前に優人部隊の指揮官をしていたのだけれども・・・・

 何かの間違いだったのよね、あんな人が軍人になるなんて。

 子供の頃にこんなこと言ってたわ。

 『僕達は百年前に火星を追われてここまで逃げ延びてきた。

  当時の地球の軍がやった事は許されて良い事じゃない。

  でも、百年前の恨みが許せないから、忘れられないからと言って

  地球に戦争を仕掛けて、沢山の人を死なせても良いのかい?

  恨みをはらす為に、戦争を引き起こしても良いのかい?』って。」

「だが、戦争は始まってしまった。それも最悪の形で。」

「ええ。でも、私はあの人に人殺しをさせたくはなかった。

 だから・・・・・・・・・・罠にかけて、軍から追放した。」

「・・・・・・・お兄さんは、今?」

「天国よ。のほほんとした人だったから道草食ってるかもしれないけど。」

「そうですか・・。」

「だから、私がやらなければいけないのよ。・・・こうも言っていたわ。

 『僕達は許さなければいけない。

 許し合わなければ、いつか人間はこの宇宙から消えてしまうよ。』って。

 ・・・・いっつもいつも私に後始末をさせるんだから。

 本当に・・・しょうのないお兄ちゃんよね・・・・。」

「・・・・・・!?」

「ごめんなさい・・・・。少し・・・ほんの少しの間だけこうさせて・・・。」

 

 

 

 

 

コンテスト当日。

ユリカ、ルリ、メグミ、リョーコ(!)ら、色とりどりのナデシコの華達が咲き誇る中、

一際あでやかに花開いた一輪があった。

ストレートロングのつやのある黒髪。

悪戯っぽくきらめく黒い瞳。

少女の無邪気さと女の色香の中間に位置する微妙な雰囲気。

そよ風になびく薄桃色の衣装がその雰囲気をさらに華やいだものにしていた。

(お、おい、誰だっけ、あの子?)

(あんな可愛い子、ナデシコにいたか?)

(ふっふっふ。チェックが甘いな、貴様ら。マイちゃんだよ、ハナツキマイちゃん。

 資材課の隠れたアイドル!)

(ああっ!)

(そ、そう言えば・・・。)

二十を越している筈だが、どう見ても十代のアイドルにしか見えない。

ひらひらふりふりの舞台衣装が恐ろしいほどに良く似合う。

整備員達が信じられないのも、まあ無理は無い話だ。

(さすがは班長・・・・!)

(艦内の女性のデータは全てチェックしているこの俺が、

 あんなかわいこちゃんに気がつかないとでも思ったか!)

(でも班長・・・。)

(艦内の女性と言ったってその殆どは・・・。)

(ええい、言うな!だからこそ、彼女は我々に残された数少ない希望なのだ!)

知らないと言う事は幸せである。

彼らには無限の希望があるから。

ともあれ、このように情報収集力に関しては

某同盟に対して某組織は大きく劣っていた。

それが、直後の悲劇(喜劇?)を更に大きなものにするのである。

 

 

 

 

 

「私のアキト君への想いを、精一杯歌います。」

恥ずかしそうに頬を赤らめて「私の」「アキト君」を強調するマイ。

その瞬間、会場の温度が十度ほど上昇した。

ひょっとしたら十度ほど下がったのかもしれない。

人間は熱さを冷たさと、冷たさを熱さと錯覚してしまう時がある。

物理的な物だけでなく、精神的な物に関しても。

そんななかで、アキトだけは冷静にコーヒーの入った紙コップに手を伸ばした。

もっともその手がぶるぶる震えていたのでは演技の意味がないのだが。

 

 

 今あなたの声が聞こえる 「ここにおいで」と・・・

 

 淋しさに負けそうな私に

 

 

イントロに続いてマイが歌い始める。

十を越える鋼の視線を受けているというのにいい度胸だ。

 

 

そんな中、ナデシコに蘭(あららぎ)少佐を艦長とする

木連のゆめみづき級戦艦「ゐまちづき」が密かに接近しつつあった。

それを感知すべき一体のコンピューターは演出にその容量の大半を使い、

オペレーターの内二人は激怒に我を忘れ、残りの一人は既に滅殺されていた。

もちろん他の二人による八つ当たりの結果である事は言を待たない。

合掌。

 

蘭達が驚くほどあっさりと、偵察用の小型ジンタイプがナデシコに取り付いた。

少数のオペレーターとコンピューターシステムによるオペレートに頼り切った

効率最優先のオートメーション艦の弱点が露呈された形である(ホントか?)。

 

「意外と脆いな・・・噂ほどではないと言う事か?それとも・・・誘いか?」

ふと不審を抱く蘭。もっとも、「艦内でミスコンをやっているのが原因です」

と言ったところでまさか信じはしないだろうが。

 

 

 今 あなたの姿が見える 歩いてくる

 

 目を閉じて 待っている 私に

 

 昨日まで 涙でくもっていた 心は今・・・・

 

 

マイの歌声が会場に響く。

それは確かに、男女を問わず人を惹きつけるだけの魅力を持っていた。

それだけならこれ以上の問題は起こらなかった筈である。

 

 

 おぼえていますか 目と目があったときを

 

 おぼえていますか 唇と唇が触れ合った時

 

 

マイがそこまで歌ったその時、会場が爆発した。

アキトが震える手でようやく口に運んだコーヒーを盛大に吹き出し、激しくむせた。

男性陣の殺気の篭もった視線がアキトに刺さり、女性陣が憤怒の炎をまとう。

ようやくアキトが息を整えた時、既に会場は修羅場と化していた。

殺気の半分はアキトに向けられ、残りは平気な顔で歌い続けているマイに向けられている。

そして、アキトに向けられるのは抜き身の刃のような殺気や業火の如き怒りばかりではなかった。

「アキトさん。」

絶対零度の微笑。

漆黒の戦神は凍り付きそうになる心と舌をどうにか動かし、この最悪の事態を収拾しようとした。

もちろん、無駄な努力だったが。

「な・・・・何かなルリちゃん・・・?ほ、ほら、次が出番だろ?急いで仕度しないと・・・」

「この件に関してはじっくりと話を聞かせていただきますね。」

「あ、いや、その、落ちついて!あれは歌詞だよ!単なる歌・・・・・!」

「元の歌にはあんな歌詞はありません。オモイカネに検索させました。」

「お、俺は何も!」

ルリのみならず周囲の女性全ての殺気が一段と明確な物になってアキトに突き刺さる。

「いいですね、アキトさん?」

「・・・・・・・はい(涙)。」

 

 

「艦長!敵艦から正体不明の電波信号が発信されています!」

「よし、こちらに回して解析を続けろ!」

「・・・解析、完了しました。こっ!これは!」

偵察機パイロットからの音声が途絶した。

蘭がそれを問いただす前に、艦橋の大スクリーンに映像が転送される。

そこに映っていたのは彼らも良く知っている人物。

木連軍最高幹部の一人にして優人部隊総指揮官、東舞歌少将・・・

 

 

 それは初めての愛の旅立ちでした

 

 I LOVE YOU SO・・・・

 

 もう一人ぼっちじゃない あなたがいるから

 

 

「やっく!でかるちゃー!」

その一言を残して、蘭をはじめとする総勢128名は人事不省に陥った。

彼らが昏倒している間に主機関の暴走や生命維持系の不調など、

致命的な事故が起きなかったのは僥倖と言うべきであろう。

後に、彼ら128名は栄光ある「舞歌様ファン倶楽部」の礎を築き、

アララギはその名誉ある初代会長に、あの偵察機のパイロットは親衛隊長に就任した。

草壁春樹を倒したクーデターの時、舞歌の「あの」映像をバックに流しながら

彼のぶち上げた演説は木連の歴史に刻み込まれる事となる。

「この放送を、東舞歌少将の歌を聴く全ての者に告げる。

 今、我らの心は一つ!草壁春樹を倒し『文化』を取り戻すのだ!」

 

 

 

 

『明日の一番星』コンテストの前後、ナデシコの記録はひどく混乱している。

後悔航海日誌を含めた記録は散逸し、乗組員も当時の事を語りたがらない。

確かな事実は二つ。

コンテストの後もミスマル・ユリカが引き続き艦長を勤めたと言う事。

そして、資材課のハナツキ・マイがコンテストの数日後艦を降りたと言う事だけである。

また、テンカワアキトの運命に関してはこれ以上は無いというほど

確実な予想は立てうるものの、やはり確認はされてない。

ただ、しばらくの間艦内で彼の姿を見かけるものは無かったそうだ。

 

 

 

 

「♪ふんふんふん・・・・。」

「・・・嬉しそうですね、舞歌様。」

「わかる?」

「一目でわかります。そのカードだかプレートみたいなものは何なんですか?」

「秘密。」

くすくす笑いながら掌にすっぽり収まるサイズの薄い金属製のプレートをもてあそぶ舞歌。

その表面には『TA同盟構成員No.17』と刻印されていた。

 

 

 

 

 

あとがき

 

と、言うわけで自分で書いてしまいました(笑)。

何が「と、いうわけで」なのかわからない人は

「想い」のあとがきを読んでね。

実はあのあとがきを書いた直後にすぐさまこれを書き始めてたりして(笑)。

 

まあ、正直言ってBenさんが書く前にこんなもんを書いていいのかどうか、

かなり迷ったんですが。

結局自分の欲求に忠実に生きることにしました(爆笑)。

 

何を言うにも舞歌さんの扱いが悪いっ!

出番は無いし、目立たないし、動かない。

まあ、優人部隊の総指揮官なんて立場の人間がホイホイ動くわけにもいかないんですが。

そんな、本編では(今の所)見られない舞歌姐さんを見たいが為に、

自分で書いてしまったのがこのお話。

楽しんでいただけましたか?

 

ちなみに、わからない人の為に注釈を入れておきますと

コンテストでの舞歌の衣装、スタイルはまんま「リン・ミンメイ」(マクロス)です。

スーパーロボット大戦αをおやりになった方なら

わかって頂けるかもしれませんね。

歌っているのは「愛・覚えていますか」という劇中曲です。

歌詞は少し違いますが(笑)。

原作ではこの歌が物語の極めて重要なカギを握っていました。

この話でも重要なカギとなります(笑)。

 

結局名前が出てこなかった副官は「氷室」と言います。

ヒムローとかいって妖獣に変身しそうな名前ですな。

影竜さんの舞歌の設定にあったのですが本編では全く影も形も出てこない為、

哀れをもよおしまして。←それであの扱いか?

影竜さん、こんな感じでどうですか(笑)?

 

あ、某同盟の会員番号ですが一番は欠番です。

血で血を洗う争いになりかかったところでミナトさんあたりが仲裁に入ったんじゃないかと(笑)。

私のSSは基本的にBenさんの本編準拠なので

一部で人気のハナコちゃんとかカワナギは出てきません。

・・・今の所は(笑)。

よって私のSSでも某同盟は十五人で構成されてます。

なので舞歌はNo.17なんですね。

 

後、ハナツキ・マイのかけている眼鏡には特殊なレンズが組み込まれていまして、

タレ目をツリ目に見せる特殊な偏光機能があります。

って、誰が分かるんだこんなネタ(笑)。

 

それでは、次回作でまたお会いしましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

管理人の感想

 

 

鋼の城さんから十二回目の投稿です!!

書いちゃったんですね?(笑)

まあ、Benの筆が遅いのが原因ですがね(苦笑)

しかし、リン・ミンメイできますか(笑)

いや〜、あの歌詞を見た時と「やっく!でかるちゃー!」には爆笑しましたよ!!

・・・なんか、お笑い部隊みたいだな木連って。

 

では、鋼の城さん!! 投稿有難うございました!!

 

感想のメールを出す時には、この 鋼の城さん の名前をクリックして下さいね!!

後、もしメールが事情により出せ無い方は、掲示板にでも感想をお願いします!!

出来れば、この掲示板に感想を書き込んで下さいね!!

 

 

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