機動武闘伝
ナデシコ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プロスペクター「もしよろしければ皆様方に、このナデシコファイトをご説明させて頂きましょう。

そもそも六十年前の事です。汚れきった地球を後にコロニーへ上がった人々が

コロニー国家間の全面戦争を避けるため、

四年に一度各国の代表を"ナデシコ"と名付けられたマシンに乗せ、

"ファイト"と称し、戦って、戦って、戦い合わせ!

最後に残ったナデシコの国がコロニー国家連合の主導権を手にする事が出来る・・・・

何とスポーツマンシップに溢れた戦争を作り出した事でしょうか。ですが、残された問題が一つ。

この、ファイトの舞台は地球。そう・・・我々の住む汚れきった地球だったのです。

しかし、今回の大会は何やら様子が少し違う様です・・・。」

「・・・そこのお前!この写真の少女に見覚えはないか!?」

赤い長鉢巻を締め、赤いマントに身を包んだアキトがいきなり写真を突きつける。

色褪せ、半ばから千切れた古い写真。

そこには、肩車をされて無邪気にはしゃぐ少女が写っていた。

「この写真がいかなるファイトの嵐を吹き荒らすのか!?

さて、今日のカードはネオチャイナ代表、ドラゴンナデシコですが、

どんなファイターが乗りこむのかは・・・・ナイショ。

それでは!

ナデシコファイト・・・レディィィ!ゴォォォゥ!」

 

 

 

 

 

 

 

第三話

「倒せ!魔神ドラゴンナデシコ!」

 

 

 

 

 

 

 

宇宙に浮かぶスペースコロニーの一つ、ネオチャイナ。

今、戦いに赴く女戦士に対し国家元首である総師から直々にはなむけの言葉が贈られていた。

(よいか、東舞歌よ。お前はこれよりドラゴンナデシコとともに地球に降り、

来るべき宇宙の覇権の争いにおいて覇王たる国はいずこかとの問いに、

ネオチャイナの名をもって答えられるよう心得、必ず勝利せよ。よいな・・・・・)

戦士は、自分の左掌に右拳を打ち付けてその言葉に応えた。

(ならば・・・行け!)

 

やがて、ネオチャイナから一筋の流星が地球へ降りた。

だがその時、流星から一筋の細い星が落ち、いずこかへ消えた事に気がついた者はいない。

そして、流星の本体が降りた場所には巨大な龍がその姿を現していた。

龍の顎の上で、一人の女が高笑いを上げている。

「ふ・・ふふふふふ・・・!遂にナデシコが私の物になったのね!

いざ立てよ紅龍団!燃やして、殺して!奪い尽くすのよ!」

紅龍団。

女性ばかりで構成されたその盗賊団はナデシコを手に入れたのを境にして、

一帯の村を焼き、物を奪い人を殺し、若くて美形の男はことごとくさらわれた。

噂によれば首領が美少年を集めてハーレムを作っているのだと言う。

 

今もまた、山中の小村が紅龍団に襲われている。

その傍若無人な暴れぶりをうかがう二対の目があった。

「見なされ元一朗。」

「嘆くな九十九。」

「とはいえ、まさか盗賊などに堕するとは・・・」

「思いもよらなかった。」

「こうなれば、もはや我々の取るべき道はただ一つ・・・!」

「待て、あれを見ろ!」

炎の中に、紅のマントに身を包んだ男が立っていた。

言わずと知れた、ネオジャパンのナデシコファイター、テンカワアキト。

その拳が、ガイとともに女盗賊たちを次々と地に這わせていった。

たまらず、蜘蛛の子を散らす様に盗賊どもが逃げ出す。

「アキト!なんなんだ、こいつら!」

「わからん!だが・・・!」

アキトが百mほど先を見据える。

そこには、闇の中で炎の照り返しを受ける巨大な人型兵器の姿があった。

特徴的な頭部を見れば、一目でナデシコタイプとわかる。

「なぜ盗賊がナデシコをもっているのか、それは知らん・・・だが!

ガイ!ファイトだ!シャイニングナデシコを出せ!」

「おう!」

「「あいや、待たれよ!」」

空気が渦を巻く。

瞬刻の後、二つの渦は修行僧の格好をした二人の若者の姿に変じていた。

「「お手前、名うてのナデシコファイターとお見受けした。その上で頼みたき儀が御座る!」」

 

 

一夜明けて。

「おっし、これでもう大丈夫だ。ただ、まだ余り動かさない様にな。」

「ありがとうございます。」

ガイに子供の傷を治療してもらい、母親が嬉しそうに礼を述べる。

ちなみに、ガイは一応医師免許の持ち主である。

「・・・しっかし、こいつぁ本当にひでぇな・・・。」

村の建物は軒並み燃えつき、石の土台だけを無残に晒している。

命は助かったものの焼け出された人々が、虚ろな目をしてそこかしこにたむろっていた。

「焼け残った薬だけじゃ足りなさそうだな・・・それにアキトが・・・。」

アキトももちろんだが、ガイは自分と同じ顔をした男のことも気になるのである。

 

湖に突き出した、古びた亭(あずまや)でアキトは二人の修行僧の「願い」の内容を聞いていた。

片方が言葉を途中で切ると、もう片方がそれを継ぐ。

それが、妙に息が合っていた。

「何とぞ・・何とぞ我らネオチャイナのナデシコファイターを・・・」

「抹殺しては頂けぬものでございましょうか・・・!」

「何だと・・・?」

「不審に思われるのも無理は御座らぬ。」

「ですが、我ら二人考えに考えての事・・!」

「・・・お前達、何者だ?」

「・・これは失礼しました。我ら、地球の少林寺に残る者。」

「少林寺だと?」

「さよう、そもそも我ら少林寺は・・」

「知っている。」

「「は?」」

「修行の一環として仏法とともに拳法を修める、かつては地上最強を謳われた拳の寺。

ところが六十年前、殆どの僧がコロニーの竹林寺へ上り、今ではその名を伝えるだけの場所・・。」

「そこで、我らが大僧正はナデシコファイトで優勝すれば寺の再興も夢ではないと、

正統の証たる"アズマ"の名を継ぐ幼い妹舞歌をコロニーの竹林寺へ修行に出し、

それがこのたびめでたくドラゴンナデシコを授かり、地上へ戻ってくる事になりました。」

「「ですが、事はご覧の通り。聞けば五台山を根城にしているとか。」」

「そこで、これ以上寺の恥が広がらない内に俺に始末をつけさせようって訳か。」

「「左様。せめてナデシコファイトで敗れるのが情けかと。」」

「断ると「おし!やってやろうじゃないか!」

耳が痛くなるほどの大声がアキトの言葉を遮る。

アキトが顔をしかめた。無論大声のせいばかりではない。

「「おお!やって下さるか!」」

(おい、勝手に決めるな!)

(まあ、いいじゃねえかよ。そっちの・・九十九とか言ったっけ?他人に思えないんだよ。)

(確かに不気味なほどよく似てるな・・・けど、それとこれとは・・)

(どうせ戦う相手じゃねえか。ナデシコをぶっこわしゃいいんだろ?な、頼むよ。)

「「もし・・・やっていただけるのでしょうか?」」

アキトが溜息をついてアサルトピットを呼ぶ。

「ガイ。俺は先に行く。五台山で待ってるぞ!」

言うなり、アサルトピット=コアランダーに乗って走り去った。

「・・・彼は願いを聞き届けてくれたのだろうか?」

「・・恐らくはな。」

 

 

 

 

アキトはランダーで竹林の中の道とも言えぬような道を走っていた。

突然、前方の竹の間から白くて細長いものが突き出す。

それが女性の脚だとわかるまで一呼吸。

直後、操作をしくじったアキトはスピンを起こし、

ランダーは脇の竹林に突っ込み、竹を数十本程折ってから止まった。

顔を真っ赤にして操縦席の強化ガラスを開く。

こう言う時は思わず地が出る。

「何をしてるんですか、何を!」

「あら。だって車を止めるにはこれが一番効果があるって聞いたわよ?」

めくったズボンの裾を下ろしながらその女性が平然と答える。

歳は二十を少し過ぎたばかりか。

つやのある黒髪を肩の所で切りそろえ、料理道具一式らしい大きな荷物をしょっている。

ゆったりしたズボンをはき、上半身は袖なし、その上からチョッキのような上着を着ている。

顔立ちや体つきは大人っぽいのだが、まとう雰囲気は十代の少女と大して違わない。

妙な女性であった。ただ、魅力的なのは間違いない。

「坊や、物は相談なんだけど、乗せてってくんない?」

「駄目です。俺は先を急ぐので。」

(・・・それに危険な事はわかりきっている。関係ない人間を巻き込むわけにはいかない。)

「あ、そ。」

女性がしゃがんで、アキトからは死角になる位置に入った。

(!?)

気配が消えた。

視界のどこにも彼女がいない。

「どうしたの?早く行きましょうよ。私も急いでいるから、丁度よかったわ。」

再びアキトは衝撃を受けた。

今度の声はアキトの斜め後ろ、1mにも満たない至近距離から掛けられたものであったからだ。

操縦席後ろの荷物を置くスペースに女性がちゃっかり陣取っている。

女性がその気なら、アキトは倒されていたかもしれない。

卑しくも武闘家の端くれとしてありうべからざる事である。

「ね、早く!」

無邪気な、という形容詞がぴったり来る笑顔で女性が催促した。

 

 

 

巨大な岩山と点在する緑、そして悠揚迫らず流れる大河。

一幅の水墨画のような壮大な風景を夕焼けが赤く染めていた。

その絵の中を一台のアサルトピットが気持ちよさげに走っていた。

「悪いわね〜、助かっちゃった。ありがと、坊や。」

「・・・よく言いますね。それと、俺の名前はアキトです。坊やはやめてください。」

ふと、いつも妹二人や幼馴染の少女に手玉に取られていた昔の自分を思い出す。

自分は、どうも女性には勝てない星の下に生まれついているらしい。

溜息をついて例の写真を取り出した。

「そういえば、貴方も旅しているならこの女を見かけた事は?」

「・・・御免、見た事ないわ。誰、この子?」

「知らないならそれで・・・ちょっと、余りくっつかないで下さいよ。」

「あら、真っ赤。いい年してカワイイんだから。」

くすくす笑いながら女性が更にアキトに接近する。

アキトの背筋に冷や汗が流れ、体がこわばった。

今、アキトが感じている危機感を敢えて一言で言い表すなら、

それは「貞操の危機」であったろう。

女性の意識をそらすべく、アキトが慌てて大声を出した。

「あ!村ですよ村!」

「ん〜、じゃあ今夜はあそこで泊まりね。」

「・・・生憎、盗賊にやられてしまいまして、すっからかんなんですよ。」

「大丈夫!この私に任せておきなさいって!」

 

 

 

 

 

村の目抜き通りを電飾された飾り提灯の列が照らす。

夜空を大輪の花火が彩った。

田舎の祭り特有の騒々しく、だが決して不快ではない喧騒が街路に満ちている。

その喧騒の中でアキトは・・・宿屋の厨房で皿洗いをしていた。

その後ろ、かまどの前ではあの女性が中華鍋を自在に操って手際よく調理をこなしている。

料理人としてのアキトの目から見ても見事な腕前だった。

「・・・・・・・」

「悪く思わないでよ?丁度村は祭りの只中、人手はいくらあっても足りる事はない。

そうでもなければ、今時只で泊めてくれる所なんてないもの。

それに、私料理の修行中なのよ。」

黙々と皿洗いを続けるアキトであった。

 

 

 

「あ〜、おもいっきり労働した後は心地良いわね〜。」

仕事が一段落した二人は宿屋の二階の空き部屋で身を休めていた。

大きく開け放たれたベランダから祭りの喧騒が流れこんでくる。

アキトはまだ少し怒っているのか、とぼけた事を言っている女性を見ようともしない。

「ほら、機嫌直しなさいよ。」

「?」

アキトの手にぽん、と放られたものがある。

笹の葉でくるんで蒸したもち米の混ぜ御飯・・・いわゆる"ちまき"であった。

「いつの間に・・・?」

「料理の合間に、ちょこっとね。」

ウインクされたアキトは苦笑するしかなかった。

笹の葉をむいてちまきを食べようとしたその矢先、宿に震動が走った。

大通りの飾り提灯が次々に割れる。

一瞬だけだが初めて、女性の顔に鋭い表情がよぎった。

街路が暗闇に閉ざされ、山から光の群れが降りてきた。

「紅龍団だぁっ!」

瞬く間に、村の家々が炎に包まれる。

巨大な足音が、震動となって村全体を揺さぶった。

「・・・あれは!」

(・・・ドラゴンナデシコ!)

厳しい表情で女性が呟く。

ふと、下をのぞいたアキトが怒りと悔しさのない混ざった声を上げる。

納屋に隠してあったアサルトピットが見つかったらしい。

直結でもしたか、紅龍団の下っ端が乗って走り去って行くのが見えた。

一通りの略奪を済ませたらしく、それが合図だったかのように

紅龍団も、ナデシコもきびすを返して去っていく。

アキトは燃える村の中、半壊した宿屋の屋根の上でそれを見ていた。

「・・・どのみち、奴らとは戦う羽目になったな・・。アサルトピットは返してもらうぞ。」

 

 

 

五台山は、蜀の桟道か、あるいは梁山泊を彷彿とさせる険路隘路の中にあった。

五百年前なら、どんな軍隊をもってしても攻め落とす事は出来なかったろう。

もっとも、今ここに拠っているのは只の盗賊達だったが。

「見なさいよ、アキト君。あの天然の要害を。

 警備はばっちり、その上守るに易く攻めるに難い、まさしく難攻不落の砦ね。」

「・・・・よく知ってますね。理由を聞いてもいいですか?」

「乙女の秘密よ。」

ほぼ予想通りの答えに苦笑する。

「あ、そうだ。ついでに偵察してくるわね。乗っけてくれたお礼の大サービス♪」

「わかった!わかりましたからくっつかないで下さい!」

 

「何・・・!?」

十分後、アキトは周囲に気配を感じた。

「・・・完全に囲まれているな・・。」

盗賊達にとってここは自分の庭のような物。

地形を利用して巧みに気配を消したのだろう。

そこまで考えたとき、女盗賊の集団が姿を現し、アキトを包囲する。

それと同時にこの数日で聞きなれた声がした。

「いえ、私は一介の料理人なんですけど、皆様方のお噂を聞いて

是非ともお仲間に入れて頂きたいと思いまして。

『コレ』は入団の挨拶がわりです。なかなか上玉でしょう?

煮るなり焼くなりそのまま食べるなり、お好きにどうぞ♪」

周囲の女達の目の色が変わった。

アキトの顔が引きつる。背筋に、生まれて初めての凄まじい悪寒が走った。

「そう言うわけだからアキト君。これもご時世なのよね〜。」

 

 

 

「こいつ?私に用があるとかほざいているのは。」

声とともにツナギの上からスモックのような派手な上着を着けて、幅広の帯を締めた女が出てきた。

盗賊達のアジトの大広間。

アキトは荒縄で芋虫の様に括られ、天井から吊るされていた。

「・・・ようやく出てきたか・・貴様がドラゴンナデシコの東舞歌だな!」

「・・・」

「こんな子分どもを使わなけりゃ俺と勝負できないとは・・九十九と元一朗が嘆くわけだぜ!

せめてナデシコファイトで勝負したらどうなんだ!?」

激昂するアキト。

頭に血が昇っていた彼は、そばにいた彼女がばつの悪い表情をしたのに気がつかなかった。

「・・そうか、アンタもナデシコを持っているのね!なら、ここで決着をつけてあげましょう。

やっておしまい!」

盗賊どもが、よってたかってアキトを痛めつける。

暴行は沈黙したアキトが牢に放り込まれるまで三十分ほど続いた。

 

 

 

「今度入った新入り、確かに料理はうまいな!」

「ああ、結構拾いもんだったかもな。」

半地下の牢獄に、盗賊達のはしゃぐ声が聞こえてくる。

自分の体に、深刻な損傷がない事を確認してアキトが身を起こした。

あの状況で殴られながらもわずかに身をひねる事によって、

致命的なダメージを防ぎ続けていたのだ。

「アキト君、起きてる?」

食事の乗った盆を持ち、彼女が立っていた。

アキトは振り向くどころか身じろぎもしない。

「御免ね〜。これもみんなここに入りこむ為の作戦だったのよ。

ほら、機嫌直してよ。食事持ってきてあげたんだから。」

それでもアキトが動かないのを見て、さもいい事を思いついた、とでも言うように拳を打つ。

「あ、そうだ、その証拠にこの牢屋の鍵を開けちゃうから!よっ・・と。

はい、後はお好きにどうぞ。ちなみにアサルトピットは正門脇の倉庫の中。じゃあねぇ〜♪」

鍵を開けて、そのまま彼女は姿を消した。

いぶかしく思いながらも潜り戸を抜けて左右を見まわす。

格子の列の続く廊下、その真ん中辺りにアキトはいた。

ふと見ると、廊下の一方の端に彼女がいる。

こちらを見てにこり、と笑うと大声を上げた。

「牢破りよぉ!ナデシコファイターのあの男が逃げたわ!」

「な・・なんて女だ!」

呆然としながらもアサルトピットの場所を目指して走り出すアキト。

わらわらと雑魚どもが群がってくるが、アキトの相手ではない。

 

「あの男にアサルトピットを渡すんじゃないよ!」

部下に怒鳴ってから首領はきびすを返した。

もしあの男がナデシコを動かしたら・・それを止められるのは同じナデシコしかない。

滝の方へ向かう階段を上り、そこで首領の足が止まった。

滝へ続く道にあの新入りが佇んでいる。

その向こう側、数十mはあろうかという瀑布の中に巨大な影がうっすらと見えていた。

「案内、ご苦労様。」

「貴様・・ここで何をしている!」

「私の大切なものを預かってもらったお礼をしたくて♪」

鈍い音が響き、数秒後、下の河に水柱が上がった。

「・・・ナデシコファイト国際条約第四条!

ナデシコファイターは己のナデシコを責任を持って守りぬく事!・・・ふふふっ。」

 

 

 

 

倉庫の壁を突き破って、アキトの操るアサルトピットが勢いよく飛び出した。

(後は、東舞歌を探し出して・・・)

「アキトくぅ〜んっ!」

機械で増幅された音声が滝壷の方から響いてくる。

ドラゴンナデシコが、動いていた。

「アキト君のおかげで、私のナデシコを取り戻す事が出来たわ。あ・り・が・と!」

「じゃあ・・・貴女が!」

「大当たりィ!本物の東舞歌よ!」

物言いたげなジト目の視線に、思わず苦笑する舞歌。

「あはははは・・・それが実はおまぬけな話でね、

コロニーから降りてきた時ナデシコとはぐれちゃったのよ。

無事だったのはいいけど盗賊の道具に利用されちゃった、てわけ。」

「それで俺を利用したって訳ですか。

・・・なら、その借りはファイトで返させてもらいますよ!」

「望む所!ならば、ナデシコファイトスタンバイ!」

「レディ・・・ゴォォォォッ!」

アキトの指が小気味良い音を響かせる。

愛機、シャイニングナデシコが大地に立つ。

モビルトレースシステムが、アキトとナデシコを一体化させる。

日本と中国。

東洋の二つの国の武者が相対した。

日本の鎧兜を模してデザインされたシャイニングナデシコに対し、

ドラゴンナデシコは基本的に古代中国の武人をモチーフとしている。

唐代の甲冑に似たボディとマスク。

頭部の後ろからは辮髪(べんぱつ)にも似た構造物が垂れ下がり、

その先端は刃物の輝きを放っている。

背中と肩には伸縮自在の棒状格闘戦武器、ビームフラッグが取りつけられている。

両手首を守る篭手は龍のあぎとを、両腕は龍の胴体を模して作られていた。

「ドラゴンナデシコの初陣・・勝利で飾らせて貰うわよっ!」

拳が引っ込み、両腕が龍そのものに変じる。

その腕が伸びた。双龍がうねり、シャイニングナデシコに襲いかかる。

体当たりをかわされ、アキトの背面に回った龍の首が炎を吐いた。

アキトが左手のガードでこれを受ける。

つい、笑みがこぼれた。

「さすがに・・少林寺の再興を託されただけの事はある!」

「アキト君には色々お世話になったけど・・・勝負は別だからねっ!」

うねる龍の胴体二本がシャイニングナデシコを弾き飛ばす。

空中で回転し、岩壁に着地。反動を利用してドラゴンナデシコの方へ、真っ直ぐ跳んだ。

既に腰のビームソードを抜いている。

舞歌も背中のビームフラッグを抜く。

短いままの二本を両手に構え、短杖を十字にしてアキトの剣を弾いた。

アキトも力に逆らわず上に跳ぶ。

直後、前蹴りがドラゴンナデシコの胸板に決まった。

たまらず舞歌が後退する。

宙返りをして衝撃を逃しながら、両手の短杖を合わせて作ったビームの大旗を振る。

その旗を正面からアキトの剣が裂いた時、そこにはドラゴンナデシコの姿はなかった。

「何・・!?」

「てやあっ!」

いつのまにか、後ろに回っていた舞歌の棍がアキトのビームソードを叩き落した。

アキトもさるもの、瞬時に間合いを詰め、正拳を放つ。

しかし、既に舞歌の姿は消えていた。

「旗だけ・・・!」

「ふふふふふ・・・私がどこにいるか、わかるかしら?」

いつのまにか、舞歌のビームフラッグが視界を埋め尽くしていた。

微かな気配が周囲に浮遊している。

舞歌はビームフラッグによってセンサーとアキトの感覚を混乱させながら

周囲を高速で移動しているに違いなかった。

アキトが目を閉じる。

周囲を回転する舞歌の気配を捉えるべく、感覚を研ぎ澄ます。

右手が、あの輝きを放ち始めた。

「・・・・・そこだぁっ!」

ビームの旗を貫き、輝く指がドラゴンナデシコの顔面を捉える。

だが頭部を握り潰される直前、その姿は薄れて消えた。

「外れッ!」

「上かッ!」

棍を振り上げた舞歌がアキトの頭上を襲う。

だが、舞歌は一つ忘れていた。

自分の目の前にいる男が、並のファイターではない、という事を。

シャイニングナデシコの体が沈む。

鋼鉄の肉体のバネと、全推力を使ってアキトが垂直に跳んだ。

「必殺!

シャァイニング!

フィンガァァァァァァァッ!」

それは、輝く牙を敵に突きたてようとする昇竜にも似ていた。

その牙が、完璧なカウンターとなってドラゴンナデシコの顔面を捉える。

捕えた獲物を空中で振りまわし、顔面を掴まれたままドラゴンナデシコは大地に叩きつけられた。

「・・・とどめ!」

「「待たれよ!」」

ドラゴンナデシコの上に馬乗りになり、アキトが最後の一撃をくれようとした刹那、

二つの声がそれを押しとどめた。

「「テンカワ・アキト殿!ここは引き分けとしなされ!」」

「何ぃっ!」

「「でなければ、お手前のナデシコも首を失う事になりますぞ!」」

九十九と元一朗の指摘に、自分の首を見たアキトは慄然とした。

ドラゴンナデシコの「辮髪刀」が、シャイニングナデシコの首に巻きついている。

アキトが指に力を込めれば、ドラゴンナデシコの頭部は砕ける。

だが、そのわずかな時間のうちに引かれた刃がシャイニングナデシコの首を断つ。

舞歌が、この期に及んでなお笑みを含んだ声でアキトに提案する。

「どうする?アキト君さえよければ引き分けにしておいてあげるけど?」

「・・・いいでしょう。今日は引き分けですね。」

どうもこの女性にはかなわない。

苦笑しながらアキトも拳を引いた。

 

 

 

「「テンカワ・アキト殿。今回は色々とお世話になり申した!

以後、このような事がないよう、我々が舞歌殿を後見申し上げます。

数々のご無礼、平にお許しを。」」

「九十九と元一朗に後見されるほど落ちぶれちゃいないわよ・・・・」

「「・・・何か申されましたかな?舞歌殿。」」

「な、何でもないってば!」

説教モードに入りそうな気配を鋭敏に察知し、舞歌が慌てて手を振る。

やがて三人の姿は夕焼けの中に消えていった。

暫くしてガイが口を開いた。

「・・・結局彼女も関係なかったのか?」

「・・・ああ。残るはネオフランスとネオロシアか・・・。」

ネオイタリア、ネオアメリカ、ネオチャイナ、ネオフランス、ネオロシア。

五つの国の名前が記された紙片をひっくり返す。

表に移っているのはアキトの捜している少女。あの写真だった。

「だが・・俺は必ずこいつを探し出して見せる!・・必ずだ!」

 

 

 

 

 

 

次回予告

 

皆さんお待ちかねぇ!

華麗なるナデシコファイター、ミスマル・ユリカ!

ですが彼女は、何とアキトの幼馴染でした!

彼に対し戦意を見せない彼女と戦うため、

ユリカに恋する王族を人質にとってしまうアキト!

遂に怒ったユリカはナデシコローズで出陣!

パリの街を舞台に、武士道と騎士道が激しくぶつかり合います!

次回!機動武闘伝Gナデシコ、

「いざ勝負!真紅のバラのお嬢様」に

レディィィ、Go!

 

 

 

 

あとがき

 

凄まじいスピードで執筆が進んでいます。

この速度を維持できる内に、書いて、書いて、書きまくって!

最後まで書きつづけた作家の国が「ActionHomePage」の覇権を・・・って違う!

かなりノウミソが壊れてきてますね〜。

なに、お前の場合は元からだって?

こりゃまた失礼いたしました。

何はともあれ、全49回の長丁場。

応援よろしくお願いしますね。

 

 

 

 

管理人の感想

 

 

鋼の城さんから連載第三弾の投稿です!!

出ましたね、鋼の城さんお気に入りキャラ第二弾!!

東舞歌嬢の登場です!!

このさい、二人の邪魔者は忘れましょう!!

・・・それ以前に、九十九、元一朗、お前等ちゃんと頭は剃ってるんだろうな?

キリスト教じゃないんだから、ちゃんと剃っとけよ(ニヤリ)

まあ、元一朗は別人になるだろうな〜

次の登場が実に楽しみにですな〜

ねえ、鋼の城さん(ニヤリ)

 

では、鋼の城さん!! 投稿有難うございました!!

 

感想のメールを出す時には、この 鋼の城さん の名前をクリックして下さいね!!

後、もしメールが事情により出せ無い方は、掲示板にでも感想をお願いします!!

出来れば、この掲示板に感想を書き込んで下さいね!!

 

 

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