機動武闘伝
Gナデシコ
「雨。この天よりの恵みの水のしずくは昔から我々に潤いと憂いを与え続けてくれました。
時には優しく。時には厳しく。ですが今宵この雨は、ある男とある女の過ぎ去った過去に降り注ぎます。
その結果、二人がどのような運命にその身を濡らす事になるのか。
もしかすると『この雨さえ降らなければ』二人はそう思うことになるのかもしれません。
さて、今日のカードはネオトルコのミナレットナデシコ。
それでは!
ナデシコファイト・・・
レディィィ!ゴォォォゥ!」
第十一話
「雨の再会・・
少女ファイターの涙」
雨が降っていた。
イスタンブール旧市街の、石畳で舗装された街路を戦車のキャタピラが踏みしだく。
橋のたもとに座りこんだ老人から、アキトは話を聞いていた。
「ああ・・その噂なら聞いてるよ・・・。一週間ほど前の事だ・・
この国のナデシコがいきなり暴れだし、この街の西半分を火の海に変えた。
確かにこんな事が世界に知られれば国の恥。
憲兵どころか機動部隊までも引っ張り出して血眼で犯人を捜しておる。
だが・・・全ては無駄な事。神は何もかもお見通しであるからには、
いずれ真実は明かされようぞ・・・・。」
また一台、アキトの目の前を戦車が通った。
雨に煙る市街のそこかしこに銃を持った兵士達が立っていた。
そのせいか、ガイはそこはかとない息苦しさを感じている。
兵器は好きだが、軍隊のこう言う側面はどうしても好きになれない。
ガイが心なしか歩調を速めて待ち合わせ場所に来た時、アキトはまだ来ていなかった。
あたりを見まわして雨宿りできそうな場所を物色していた時、
視界の端で小柄な人影がバランスを崩してふらり、とよろめいたのに気がつく。
その、金髪の少女が倒れる寸前ガイの腕が彼女を支えていた。
「お嬢さん、大丈夫ですか?このダイゴウジ・ガイ様が来た、から、には・・・・・・・」
ここぞとばかり格好をつけて自己紹介しようとしたガイの声が
少女の顔を見た途端次第にかすれて、消えた。
心なしか顔から血の気が引いている。
うっすらとまぶたを開け、その顔を見た少女が瞳を輝かせた。
「ガイ・・ガイさんなの?ああ・・・・・・・・・なんて感動的でドラマチックな展開なのかしら!
愛し合いながらも悲劇的な運命に引き裂かれた男女の運命の再会・・・・
ああ・・・まるで映画のワンシーンのようだわ!」
「誰と誰が愛し合っているって?」
「残酷な運命に翻弄され、遂に雨の中倒れようとした女の窮地を救ったのは、
今なお彼女を愛するかつての恋人だった・・・・・素敵・・・。」
ガイのツッコミを物ともせず、少女の目が潤み、頬が紅潮する。
いつのまにか来ていたアキトが呆れたように二人を見ていた。
結局、ガイが彼女をおぶって宿まで連れていった。
倒れた事に変わりは無いし、女の子を雨の中に放置するわけにもいかない。
なんだかんだ言ってお人よしのガイである。
「俺は人間科学部。アレは機械工学部。コロニー大学の頃の話さ。」
この男にしては珍しく、言葉少なにそれだけを言ってガイが少女をベッドに寝かせた。
今は部屋の中で診察をしている。
「同級生、ね・・・邪魔しちゃ悪いか。」
言葉だけ聞けば親友に気を使ったようにも思えるが、
人の悪そうな笑みを浮かべながらでは説得力がまるで無い。
そのまま部屋を出ようとしたとき、テーブルの上に無造作に置かれた少女の上着から
何かが床に落ちてごとり、と重い音を立てた。
ニヤニヤ笑っていたアキトの表情が一瞬にして鋭いものへと変わる。
「・・・・ナデシコの、起動キーだと!?」
ベッドに横になった少女の横で、ガイは診察の準備をしていた。
「本当に久しぶりですね・・・・ガイさん。」
「あ・・・ああ。」
「本当に・・・こんな所で出会うなんて運命的と言ってもいいくらいね。」
「そ、そうだな・・・。」
わきの下を冷や汗が流れる。
この少女と関わりあったばかりに・・・いや、今は診察が先だと自分に言い聞かせる。
「と、とりあえず診察を・・・腕を見せてくれや。」
少女のそでをまくったガイの表情が固くなる。
銀色のウロコのような物がびっしりと肘から上を覆っていた。
そして一年ほど前、ガイは記録映像の中でではあったがこれと同じものを見た事があった。
(デビルホクシン細胞!)
ネオジャパン政府の仕事についている科学者達、軍人達を集め、
デビルホクシンの脅威をハーリーが訴えたとき、その場にガイも居合わせていた。
「残念なことではありますが、デビルホクシンはアイ・オオサキとともに
地球へと逃亡してしまいました!
我々はホシノ、オオサキ両博士の研究室を調べる事により来るべきデビルホクシンとの、
壮絶を極めるであろう戦いへの方策を立てられないものかと、手がかりを探していました。
そして我々は発見されたデータにより恐ろしいものを見ることになったのです!」
会議室のモニターが記録映像を映し出した。
ホシノ・ルリとオオサキ・アイの二人がマウスに注射をする。
「彼女達が今、マウスに注射しているのが問題のデビルホクシン細胞、略してDH細胞です。
驚くべき事にこれは金属の一種でありながら有機物と結合する事ができ、
まるで生きた細胞のように分裂、増殖し体内に広がります。
そして、潜伏期間を経て皮膚の表面のDH細胞による侵蝕、金属化が始まります。
この段階ではまだ治療も可能ですが、もし脳まで冒されれば
デビルホクシンに操られ、破壊と殺戮を繰り返す完全なマリオネットと化すのです!
このようにして自分の仲間を増やす。
これが、ホシノ博士が作り出したデビルホクシン三大理論の一つ、『自己増殖』です!
そして、なによりも恐ろしいのはもし我々人間がこのDH細胞に冒されたとしたら、
やはり同じ結果を迎えるであろうと言う事なのです!」
「ガイさん?ガイさん!?」
ガイが我に帰った。
「知られたくは・・・なかったのですけれども。」
淋しそうに少女が言う。
男ならば何を置いても守ってやりたくなるような、そんな表情をしていた。
もっとも既にその正体を知っているガイには全く意味が無かったが。
それでもやはり心配せずにはいられないのがガイという男であった。
「君の・・・それは一体どこで?」
「・・・・あなたと引き離されたあの後、私は強制的にナデシコに乗せられたんです。
機械工学の知識と趣味で習っていた剣の技を見こまれまして。
そして、ナデシコファイターとして戦っていたある日。
赤い・・・巨大な異形のナデシコが私の前に姿を現しました。
恐ろしい強さでしたわ・・・抵抗すら出来ませんでした。
遂に私の華麗な人生にも、悲劇的な終わりが訪れたのだと覚悟しました。
ですが、気がついてみるとあのナデシコはいなくなっていました。それからです。
ナデシコに乗っている最中に時々意識を失うようになったのは。」
「・・・・意識を失う、だと?」
少女が胸に手を当て、悲劇のヒロインばりのポーズを取る。
「ええ。そうですわ。ある時気がついてみると・・・イスタンブールの町は火の海でした。
ああ、なんて呪わしい運命でしょう!祖国の誇りと威信をかけ戦うべき私が、
祖国を傷つけてしまったなんて・・・!」
「・・・・・もしも〜し。」
自分の『悲劇』に陶酔する彼女には当然ながらガイの声は聞こえていない。
「自分の罪の深さと悲劇的な運命に恐れおののき!
あちらこちらとさまよって、気がついたらあなたに救われていたんです。
やはりガイさんはわたくしの運命の人なのですね!」
「勝手に決めるな!」
「でも、所詮ガイさんと私とはこの世では一緒になれない運命。
戦火の中に抱擁を交わす二人がいつしか一つになり・・・
最後は無情な軍の追っ手の銃弾の前に揃って蜂の巣になるんですのね。」
うっとりと、夢見るような表情と口調で恐ろしい事をさらりと言う。
「絶対、イヤだ。」
「しくしくしくしく・・・。ガイさんは私がお嫌いなのですね。」
泣きたいのはガイの方である。
ガイが部屋を出る。
丁度、帰ってきたアキトと鉢合わせる格好になった。
「ガイ・・・あの女・・・」
「ナデシコファイターだってんだろ?彼女の口から聞いたよ。」
「市街の半分を破壊したのもやはり・・・?」
言いかけてふとガイが迷った。彼とても医師の端くれである。
患者の秘密を喋るのにはやはり抵抗があった。
だが、結局ガイのその倫理が自体をさらに悪化させる事になった。
言いよどむガイを前にして、アキトも無言のまま暫しの時が流れる。
突然、宿の建物が揺れた。
アキトとガイが顔を見合わせ、部屋に飛びこんだ。
ベッドに人の影は無く、カーテンが風に揺れていた。
開きっぱなしの窓から重い足音が聞こえてくる。
ネオトルコのミナレットナデシコが市街を闊歩していた。
巨大な三日月刀を振り回し、町を廃墟に変えてゆく。
「アキト。彼女は・・・DH細胞に冒されていた。」
「・・・・やはりか。」
ミナレットナデシコのコックピットで、少女は・・・・・・・・・・・・・・・・自分に酔っていた。
『ああ・・・悪魔に操られ、自らの意思とは無関係に愛しい故郷を破壊してしまうなんて・・・
なんて悲劇的な運命なのかしら!神よ、これもあなたが与えたもうた試練なのですね!』
「・・・・・・なんか、嬉しそうだぞ、おい。言ってる事とやってる事が随分違わないか?」
「彼女の頭の中では完全に一致しているんだよ。」
『ガイさ〜ん、どこなの〜!?
私と一緒に悲劇的な最期を迎えましょう〜!』
「あれもDH細胞の影響か?」
「いや、アレは昔からだ。」
「あ、そ・・・。」
「思えば鮮やかに甦るあの記憶・・・。
テロの予告現場に俺を連れて行って「テロに倒れる悲劇の恋人達」を仕組んだり・・・
自分の別荘に俺を招待して一服盛ってから別荘に火をかけて
『炎の中に消えるヒロインとその恋人』を演出したり・・・
二人分の遺書を用意してあの手この手で心中を図ったり・・・・
警察に圧力をかけて俺に濡れ衣をかぶせ、
罪を犯してしまった恋人を必死で庇う『健気な女』を演じる自分に酔ったり・・・。
あの女と・・・アクア・クリムゾンとうっかりと知り合ってしまったばかりに
俺がどんな目にあったか!貴様に分かるか!」
「わ・・分かるわけが無いだろう!」
そうしている間にもミナレットナデシコが戦車を踏み潰し、ヒートシミターが切り裂く。
軍がいなくなると建物を蹴り砕き、モスクの尖塔を押し倒した。
破壊を続けるミナレットナデシコの背後に、もう一体のナデシコが降りたつ。
「せめて、勝負はナデシコファイトでつけさせてもらうぞ!ナデシコファイト!」
「レディ!」
「「Go!」」
ヒートシミターとビームソードが交錯する。
ミナレットナデシコの右腕がごとり、と落ちた。
「・・・やったか!」
「うふふふふふふふふふ!」
アクアの不気味な含み笑いとともに、右腕の切断面から触手が伸び、
落ちた腕とつながり、引き寄せる。
何事も無かったかのように右腕がくっついた。
振り向きざま振るった一撃がアキトの手からビームソードを叩き落す。
「デビルホクシンの三大理論の一つ!『自己再生』!」
「・・・ならば!
俺のこの手が光って唸る!
お前を倒せと輝き叫ぶ!
必殺!シャイニング!フィンガァァァッ!」
「このままじゃ済まないわよぉ〜!私は、必ず〜!」
アクアを乗せた護送車が雨の中を走って行く。
「・・・・すぐ出てくるんだろうな、彼女。」
「元々ファイターになったのだってどうせ実家のごり押しだろうからなぁ・・・。」
あの後、アキトはコックピットからアクアの体を抉り出した。
そしてアクアをガイに預け、ミナレットナデシコのボディを完全に消滅させたのである。
ガイの処置によりアクアの体内のDH細胞は間もなく死滅する筈であった。
「まあ、これでこの国に用は無くなったわけだ。
とっとと逃げようぜ。・・・・・あの女が追っかけてくる前に。」
「・・・・同感だ。」
「ああ、でも、濡れ衣を着せられて愛しき人と引き離される不幸な私・・・・
私は今、悲劇のヒロインなのね!待っていて、愛しいあなた!
アクアは、必ずあなたの元へと戻ってまいります〜!」
「・・・・・・・どこが濡れ衣だ。」
護送車の運転手が疲れたように呟いた。
「・・・・誰だか知らないが不幸な奴もいたもんだな。」
「全くだ。」
監視の兵士達が見知らぬ誰かに対する同情を込めて囁きあう。
どこかで、くしゃみをする音が聞こえたような気がした。
次回予告
皆さんお待ちかねぇ!
謎の機動兵器群によって廃墟と化した東京の街!
そこで、アキトとガイは一人の格闘家に助けられます!
彼女こそ先代のキング・オブ・ハート、アキトの師匠ではありませんか!
次回!機動武闘伝Gナデシコ、
レディィィ、Go!
あとがき
え?予告の内容と随分違うって?
まあ、細かい事は気にせんと、海のような心で読んでつかぁさい(笑)。
今回はちょっと彼女の「活躍」が足りませんでしたね〜。
どうも、自分の中でアクアのキャラ立ちが弱かったようです。
壊れたキャラを書くのって、やっぱ難しいですわ。
しかし、今回ビデオで第十話を見返していて気がついたんですが、
アクアの声ってGガンダムの「ブラック・ジョーカー」と同じなんですよね。
水谷優子さんって本当に芸達者だな〜。
そう言えばあの水谷さんとなんかゆかりのある人なのかな?
苗字同じだし。
管理人の感想
鋼の城さんから連載第十一弾の投稿です!!
恋人ってコレかい!!(笑)
確かに<時の流れに>の本編では出会ってたけど。
・・・立場が逆転してる(苦笑)
アキトの影も薄いし。
今までの話の中で、一番戦闘シーンが短いし(爆)
・・・また、出てくるんだろうか? やっぱり?
では、鋼の城さん!! 投稿有難うございました!!
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