機動武闘伝
ナデシコ

 

 

 

 

 

 

 

ギアナ高地。それは地球に残された最後の秘境。

ネオギアナ、ネオブラジル、ネオベネズエラの国境にまたがるギアナ高地の土台は、

二十〜三十億年前の変成岩や深成岩で構成されている。

その上に十数億年前の堆積岩が積み重なったのがテーブルマウンテンだ。

ナデシコファイトで地球環境が破壊されようとも、ここは数十億年前の、

地球が若かった頃の匂いを濃厚にとどめていた。

うっそうと茂る密林。

その密林から天に向けて数百から千mもの高さで突然と屹立しているテーブルマウンテン。

廬山の滝を「飛竜直下三千尺」と詠んだのは唐代の詩仙・李白であったか。

だがこの世に本当に三千尺の滝があろうとは、

その李白の眼を持ってしても見抜けなかったに違いない。

世界最高の落差979mを誇る滝、「エンジェルフォール」を初めとして、

高さ千mの台地から降り注ぐ水の流れはやがて集まって悠々たる一つの流れとなる。

一面の緑と、豊かな水と、そして屹立するテーブルマウンテン。

それが、ギアナ高地であった。

そのテーブルマウンテンの一つから、アキトとガイがこの、地球が生んだ奇跡の一つを見下ろしていた。

ガイはさっきから風景を眺めて飽かない。

すっかりこの雄大な自然に魅せられてしまったようである。

「ここだ・・・ここがかつて、俺と師匠が修行を積んだところだ・・・!」

「こんな所で・・・」

「そうだ。そして今からは、スーパーモードを使いこなす為の、修行の地だ!」

 

 

 

「さて、みなさん。ここ南米ギアナ高地でテンカワアキトは修行の真っ最中です。

 謎の覆面ファイターシュバルツ・シヴェスターによって

  自分の技の未熟を思い知らされたアキトは、

  かつて師匠と共に修行に励んだこの地に、再び戻ってきたのです。

  シャイニングナデシコス−パーモードに自在を会得し、デビルホクシンを倒す為に!

  果たして、上手くいくのでしょうか・・・・?

  今日の相手は、宿命のライバルヤガミ・ナオと彼のクルー達!

  ところが、彼の様子がちょっと変なのです・・・。

  それでは!

  ナデシコファイト・・・

レディィィ!ゴォォォゥ!」

 

 

 

 

第十八話

「必殺技を盗め!

中年軍団の大作戦」

 

 

 

 

新宿でデビルホクシンと遭遇した後、ヤガミ・ナオは再び故郷のこの街へ戻っていた。

そして今まで通りナデシコファイターとして、国の威信と名誉をかけて戦っていくはずであった・・・。  

マンハッタン・ブリッジの上。ここで、今日もナデシコファイトが行われていた。

両手に分厚い蛮刀を握ったネオモンゴル代表、テムジンナデシコが高く跳躍した。

間髪を入れず、ナオが必殺のサイクロンパンチを放つ。

「ホヮァット!?」

テムジンナデシコの蛮刀がナオの右拳が生んだ竜巻を切り裂いた。

次の瞬間、マックスターの分厚い胸部装甲が深々と切り裂かれている。

テムジンナデシコがラッシュを掛けた。

二本の蛮刀を風車の様に振り回し、畳み掛ける。

ナオの両腕でのガードが追いつかない。

「いかんな・・・ナオの奴、動きが固い。」

「・・・・・むう。」

攻撃をさばき切れず、ナオが弾き飛ばされた。

テムジンナデシコが馬乗りになる。

左の刀を捨て、右手の蛮刀の両端を持ってマックスターの首を押し切る構えだ。

その刃が半ばまで食いこんだ時、ナオが絶叫した。

同時に轟音が響き、テムジンナデシコが大きくのけぞる。

マックスターの腰から硝煙が上がっていた。

両腰に装着したままのハンドガンを回転させ、そのまま腰部から発射された銃弾が

テムジンナデシコの両腕を肩から吹き飛ばしていた。

両腕を吹き飛ばされよろめくテムジンナデシコに、ナオが拳銃の乱打を叩きこむ。

穴だらけになった所を地面に引き倒し、今度はナオが馬乗りになった。

「うぉるぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

咆哮。両の拳でテムジンナデシコの顔面を乱打する。

テムジンナデシコの顔面が歪む。マルチブレードアンテナが吹き飛び、カメラアイが潰れる。

装甲板が弾けとび、内部構造が剥き出しになった。

その上から、更にナオの拳が食いこむ。

循環系が潰れ、どろりと流れだした冷却液がナオの拳を緑色に染める。

それでも、まるで何かに憑かれた様に、ナオの拳は止まる事がなかった。

「ナオ!やめろナオ!相手は動けん!もう勝負はついた!」

「うわっ、うわっ、うわぁぁぁぁっ!」

カズシの声にも反応はない。

明らかに、ナオは正気を失っていた。

舌打ちを一つして、カズシが大きく息を吸いこんだ。

「いいかげんにしろ!」

びくり、とナデシコマックスターの体が震えるのが遠目にもわかった。

その頭がカズシ達三人の方を向く。

「よく見てみろ、ナオ。もう相手は動けない。」

ナオが恐る恐る視線を下に向けた。

テムジンナデシコはカズシの言葉通りぴくりとも動かない。

その顔面は既に元の形もわからないくらい無残に破壊し尽くされていた。

完膚なきまでに潰された肉の間から砕けた骨が見え隠れしている。

じくじくと流れ出す液体がこの惨状を更に無残な物に見せていた。

ファイターも良くて重傷・・・ひょっとするとパンチドランカーになっているだろう。

たとえ一命を取りとめたとしてもナデシコファイターとしては死んだも同然、と言う事だ。

ナオの両手が震え始めた。

「俺は・・・俺は一体どうしちまったんだぁっ!」

(あの時・・・首に刀を当てられたあの時・・・あの記憶・・・

DH細胞を移植された時のあの感触がはっきりと甦った・・・

腕にへばりついた銀色のウロコが次々と増殖して、俺の体を覆い、犯し尽くすあの感触。

絶叫して・・・・気が付いたら・・・・ああなっちまってた・・・なんだってんだ、くそぉっ!)            

「ふん・・・情けない事よのう・・・ネオアメリカの夢も、ああなっちまったら御終いさ・・。

  まるで戦う事に恐れを感じて、自分を見失っている子供の様じゃ・・・。」

突然、カズシ達の右手の方からしゃがれた声が聞こえてきた。

いつの間に来たのか、河べりのベンチにすり切れたコートをまとい、

ぼろぼろの帽子をかぶった老人が座っていた。

カズシ達は無言のままだったが、内心は密かに戦慄を覚えている。

ナデシコファイトに没頭していた事を差し引いても、

百戦錬磨の自分達に気配を悟らせず、いつこの老人はベンチに座ったのだ!?

「こんな時は何もかも忘れて、心の底から無心になって戦うしかないんじゃろうな・・・。

そう、相手は大きければ大きいほど、強ければ強い程いい・・・。

そして、戦う事によって己を取り戻す事が出来れば、

再びネオアメリカの輝ける星ともなれるじゃろうて・・・・。

何処かにおらんものかのう・・・そんな、強いファイターが・・・。」

よっこらしょ、という感じで老人が腰を上げる。

「そう、強い、強い、ライバルがのう・・・・。」

三人が声を出しかねている間に、老人の姿はすうっ、とマンハッタンの霧の中に消えていった。

しばし、無言のまま三人が顔を見合わせる。

最初に口を開いたのはカズシだった。

「どう思う?いかにも胡散臭げで怪しいが・・・。」

「だが、言ってる事は間違ってはいない。」

「そうですね〜。このままでは優勝はおろか、決勝大会まで生き残るのも難しいでしょう。」

「試してみる価値はあるか・・・。」

「少なくとも今のままよりはマシでしょう。」

「問題は、話をどうやってそこまで持っていくか、だ。」

「それに付きましては私にいい考えが・・・。」

顔を付き合わせて三人がひそひそと話し始めた。        

大木の陰にいつのまにかあの老人がいた。

満足そうに何度も頷き笑顔を浮かべる。

帽子を掴みとりながら一人呟く。

「上手くいったわい・・・若き獅子達は、互いに鍛えあうのが何より・・・ふふふふ・・」

含み笑いが、途中から女性の声に変わった。

その下から現れたのは黄、赤、黒に塗り分けられた覆面。

ネオドイツのナデシコファイター、シュバルツ・シヴェスターであった。

「さて、私も急ぎましょうか・・・。」

呟いた瞬間、シュバルツの姿はもうそこにはなかった。

 

 

           

「うぉ〜い、帰ったぞォ〜!なあ、プロスペクターさん、開けとくれよ。

カズシさんでもゴートさんでもいいからさぁ?」

顔を真っ赤にしたナオがロイヤルスイートのドアをばんばん叩く。

呂律が怪しい。

しばらくドアを叩いた後、でろん、とその顔が崩れる。

「そ〜か、そ〜いうことならしょ〜がねえよなぁ?ぅおらぁっ!」

ナオの拳をまともに受け、扉がへこんで吹っ飛んだ。

明りもつけずに、よたよたと千鳥足でソファに倒れこむ。

ふと、横を見るとデキャンタ(飲み物を入れておくガラス瓶)を重しにして、

テーブルから何やら書きこまれた紙が垂れ下がっていた。

「あぁ〜ん?」

ナオの部屋に明りが付く。

紙に書かれていたのは伝言であった。

読み進める内にナオの顔から酒気が抜けて白く、次いで怒りに赤くなった。

「あいつら・・・!」

ナオが部屋を飛び出す。        

ナオへ

最近のお前さんを見ているとどうも腑抜けている様にしか思えん。

そんなお前をこれ以上見るのは飽き飽きしたし、

下手にファイトして負けてもらっても困る。

そう言う訳だからお前の代わりに俺達がファイトの実績を作っといてやる。

とりあえず、テンカワアキト辺りがいいだろうな。

何やらギアナ高地にいるという話だから、気が向いたら見に来い。  カズシ 

きっかり五分後、ニューヨーク上空を南へ飛んでゆくナデシコマックスターが 多数の市民に目撃された。

 

 

 

普段は滝の音と野生動物の鳴く声くらいしか聞こえないこのギアナ高地の静寂を、

今、遠慮会釈の無い蛮声がさんざんに乱していた。

ゴリラとライオンとトラと狼と・・・諸々の猛獣の咆え声鳴き声を集めて合成したようなその声を

事もあろうに人間の声だと聞かされてすぐ信じられるものはそういまい。

こんな声を出すのはスクリーンの中のジョニー・ワイズミューラーくらいのものだ。

だが、それを出しているのは紛れも無く人間、それもナデシコファイターであった。

アキトが咆哮し、テーブルマウンテンの上を疾駆する。

走りながら剣を抜き、イメージの中で作り上げた仮想の敵をすれ違いざまに斬ってゆく。

木の上を、奇岩の上を、平地であるかのように跳び、駆けてゆく。

数キロほども走っただろうか。遂にアキトはテーブルマウンテンの端に到達した。

下まで数百メートル、轟々と滝が流れ落ちている。

一瞬立ち止まったアキトの脳裏で、滝と、師匠マスターホウメイの顔が二重映しになった。

「この程度の滝に勝てない様で・・・・師匠に勝てるか!」

服を脱ぎ捨てると、アキトは真っ逆さまに数百m下の滝壷に飛び込んだ。

水の渦がアキトを翻弄する。

その苦しみの中から、アキトは何かを見つけ出そうと必死になっていた。        

その頃、ガイは。

「ふあ〜〜〜〜〜〜あ。」

シャイニングナデシコに持たれかかって大あくびをしていた。

ここギアナ高地へ来てからナデシコファイトもなく、

アキトが怪我をする事も絶えて無いから要するに暇なのである。

「滝に飛び込んでばかりで、本当に修行になるのかねえ?

まあ、空気は綺麗だし景色はいいけどな。」

陽射しは暖かく、風は心地良い。

ガイが大いびきを立て始めた。          

(チャンスだ。)

(・・・寝てしまった様ですな。)

(善は急げ、だ。早速行こう。)

(この場合、悪は急げ、ではありませんか?)

(・・・・どっちでもいい。善だろうが悪だろうが、俺達はやる事をやるだけだ)

(はいはい、わかっておりますよ)

(・・・了解。)  

シャイニングナデシコのコックピットハッチを開き、三つの影が侵入する。

ゴートがナデシコの戦闘データのコピー、

カズシはガイの見張り、プロスペクターはいざと言う時のバックアップだ。

ゴートとカズシはもちろんだが、プロスペクターも結構様になっている。

本人曰く「昔取った杵柄」だそうだ。    

「・・・・データコピー90%まで完了。」

「しかし、いいのか?こんな真似をして。」

「盗んだデータのおかげで勝っても意味がないのではないのか?という事だな。」

「いいのですよ。これを取り戻す為、彼テンカワアキトはナオさんを追いかけて

ファイトをしようとするに違いありません。いえ、せざるをえない筈です。」

「・・・・さすがだミスター。・・・・コピー完了。」

「よし、撤収するぞ。」

「・・・しかし、遂に最後まで目を覚ましませんでしたな〜、ガイさんは。」

その瞬間、ぱちりとガイのまぶたが開き、のぞきこんでいたプロスペクターと目が合った。

「・・・・・・あ〜!てめえら、何してやがった!」

「目的は果たした!撤収するぞ!」

「了解。」

「申し訳ありませんねぇ、はい。」

ガイの大声がギアナ高地に響く。

声に驚いて一斉に飛び立った鳥のように、三人が脱兎の如く駆け出した。

「待ちゃあがれ!」        

 

 

 

ナオがカズシ達の使った大型飛空艇を見つけ出した時には、もうそこはもぬけの殻だった。

とりあえず目立つマックスターを飛空艇の格納庫に収容し、

アサルトランダー(多くのナデシコには装備されている)を駆るナオ。

そそり立つ絶壁の間を走りぬけながら、思わず感嘆の呟きが漏れた。

(ひゅう。こりゃあ、確かに凄いとこだぜ・・・あの滝なんか何mあるんだ・・・・人!?

あんな所に人影・・・・・テンカワアキト!?)

諸肌脱ぎのアキトが、刀を持ったまま滝壷に飛び込む。

(あのJapanese、こんな所で何やってんだ!?)

突如、滝壷の水が渦を巻いて天に伸びた。

次の瞬間、水の柱が弾けてアキトが現れる。

「哈ッ!吩ンン!樊ッ!」

拳を繰り出し、蹴りを振るい、震脚を踏む。

見ていたナオには、その動作ひとつひとつが繰り出されるごとに

空気がびりびりと震えているかのように感じられていた。

(なんて気迫だ・・・・一体全体奴は何を・・・・・・・まさか!?)

唐突に、ナオは理解した。アキトは、デビルホクシンと戦っているのだと。

アキトは、デビルホクシンを恐れても、そこから逃げようともしていない。

自分はデビルホクシンの影に怯え、ファイト一つすらまともに出来ないというのに。

ナオが、拳を握った。その瞳が燃えている。

およそ一ヶ月ぶりに灯った、熱き炎であった。

 

 

             

「ふふふふふ・・・竜虎相打つ、か。面白くなってきたわね。」

シュバルツがテーブルマウンテンの中腹から目を細めてその様を眺めている。

にわかに黒雲がおこり雷鳴が轟く。天も、この対決に興奮しているのだろうか。

「二人の闘志が嵐を呼ぶ・・・・!」

 

 

             

雷鳴の中、四人の追いかけっこはまだ続いていた。

カズシ達の予想に反して、ガイの足は結構速かった。

追いつかれる事は無いが引き離す事も出来ない。

そろそろプロスペクター辺りは息が切れかけ、

ゴートとカズシもかなり呼吸が荒くなっているのだが、ガイは呼吸を乱してもいない。

「・・・まずいですね。スタミナで言えば圧倒的に我々が不利です。」

「何食ってりゃあんなに元気なんだろうな。」

「速度で振り切れず、スタミナでも勝てないとなれば・・・」

三人が頷き、三方に散った。

普通なら、追う側は一瞬なりとも逡巡する物だがこの男は違った。

何も考えず前に向かって走りつづけたのである。

運良く、追いかけられる側にとっては運悪く、直線上にはプロスペクターが走っていた。

既に息の上がっているプロスペクターに密林の切れ目でタックルを掛ける。

間の悪い事にすぐそこが河だった。

二人は三十度近い急な斜面をゴロゴロと転がり落ちていった。  

 

 

           

アキトが刀を抜き、跳躍する。

樹齢数千年を数えようかという巨木に、錆びた刃がわずかにめり込んだ。

「まだか・・・まだこの刀を使えるようにならないのか!」

「・・・・MADE IN JAPANにしてはお粗末なカタナだな?テンカワアキト。」

アキトが振り向き、声の主に鋭い視線を投げかけた。

稲妻が走る。そこに、ヤガミ・ナオが立っていた。

「そんなカタナでデビルホクシンを斬ろうってのか?笑わせるぜ!」

「ナオさんには関係の無い事だ!」

「それが大有りなんだよ。・・・お前に、ナデシコファイトを申し込む!」

雷鳴が轟き、土砂降りの雨が振り出した。

アキトの瞳が値踏みをする様にナオの顔をなでる。

やがて、その顔に不敵な笑みが浮かんだ。

「貴方を相手に修行の成果を試すのもいいか・・・。いいだろう・・受けてやる!

出ぇろぉぉぉぉっ!

シャイニング、ナデシコォォォッ!」

「マックスター!」

アキトが指を鳴らし、ナオがVサインと共にそれぞれのナデシコを呼ぶ。

モビルトレースシステム、セットアップ!

二人の肉体をポリマーが覆ってゆく。

アキトは全身黒、胸に赤い日輪。

ナオは青に黄色い星。

シャイニングナデシコの全身に力が満ちる。

  マックスターの装甲が弾け、両肩のアーマーが両拳に装着されるボクサーモードとなる。

  シャイニングナデシコが拳を振り上げながら叫ぶ。

「ナデシコファイトォッ!」

  マックスターもやはり、拳を振り上げながら叫ぶ。

  「レディ!」

「「ゴォォォッ!」」

戦いは、見事なクロスカウンターから始まった。

相打った竜虎のパンチは、互いに顔面を捉えている。

ナオが続けて撃ったサイクロンパンチがアキトを岩の絶壁まで吹き飛ばす。

くるり、と一回転したアキトが両足で絶壁に「着地」し、

岩を蹴った反動を最大限に乗せて跳び蹴りを繰り出す。

ナオはそれを後方に跳んで避けた。

「こいつだ!俺はこの戦いを必要としていたんだ!」

「この凄まじい気迫!これ以上の修行は無いな!」

雷鳴が轟き、雨が激しくなる。

二人の好敵手が、凄絶な笑みを浮かべて対峙していた。        

「二人が戦っている・・・やはり追ってきたか、ナオ。」

「ミスターの作戦は図に当たったな。」

「はっはっは。いや、そう誉められますと照れますな。・・いたたたた。」

「治療中だ。余り声を出すなよ。」

あの後、不審なものを感じたカズシとゴートは道を戻り、川辺の岩場で倒れているプロスペクターと

その足の骨折の治療をしているガイを発見したのであった。

ナオとアキトのファイトを見ていたカズシが、何処からともなくデータディスクを取り出した。

「あ、そうそう。これ返しておくよ、ガイ君。」

「・・・・・つまり、あんたらはナオさんをその気にさせる為だけにこれを盗んだ、と?」

さしものガイが呆れ顔になった。

「そのとおりです。ですから、今は無用の長物と言うわけでして、はい。・・・いたたたた。」

「しばらくは動かない方がいいぜ。とは言ってもおぶってもらってでも移動はした方がいいな。

増水しているし、流されたらこと・・・」

ガイの言葉が終わらない内に、一同の足元ががたん、と傾く。

岩場が川岸から切り離され、増水した川の中の孤島となった。

「ダイゴウジさん、マーフィーの法則というのをご存知ですか?」

「・・・・・・・。」

「とにかく、助けを呼ぼう。」

「残念ですなぁ。せっかくいいファイトを展開していたというのに。」

「我々が死んでしまっては元も子もあるまい。」                

赤い信号弾が、アキトの背中越しにナオからも見えた。

「アキト、ちょっと待て!」

「どうしたファイト中だぞ!」

「・・・後ろの川を見ろ!ガイもいるぜ!?」

ガイ達の叫びがあがる。

濁流が、ガイ達四人を飲み込もうとしていた。

咄嗟に、シャイニングナデシコをガイ達と濁流との間に滑りこませる。

「何のこれしき!   シャァイニング!フィンガァァァァッ!」

アキトの右手から発せられる輝きが濁流を押し返す・・かに見えたが、

次の瞬間アキトは濁流に呑み込まれていた。

押し流されることはなく、次の瞬間にはまた姿を現してはいたが、

濁流全てを支えるにはさすがに力不足だったらしい。

必死に、右手に力を込めるアキトの目に巨大な岩石が映る。

(あれを・・止められるかっ!?)

「バァァニング!パァンチ!」

赤い衝撃波が、大岩を砕いた。

ナオの右手から流星雨の様に繰り出される炎の拳が、次々と的確に岩を砕いてゆく。

「ナオさん・・いつの間にこんな力を・・・!」

「馬鹿野郎!ボッとしてんじゃねえ!後ろには、お前のクルーもいるんだろうが!」

思わず後ろを振り返るアキト。

ガイが、まっすぐにアキトを見ている。

アキトへの信頼をたたえるその瞳には一点の曇りもない。

その目を見た瞬間、アキトは自分の体の奥底から、何かが湧きあがってくるのを感じていた。

シャイニングナデシコの頭部が展開し、肩アーマーが開く。

その全身が黄金に輝いた。

「こ・・・これは!」

「お・・・・おおおおおおおおおおおおおっ!

シャァイニング!

フィンガァァァァァァァッ!」

濁流が、割れた。

アキトの右手から、膨大なパワーが迸る。

その輝きが濁流を押し戻し、この大河の水面自体を真っ二つに割った。

誰もが言葉を忘れたかのように立ち尽くす。

アキト自身ですら呆然としている。

「これが・・・俺の力・・・・。」

「よくやったわ、アキト君。」

振り向くと、ナデシコシュピーゲルが立っていた。

両手にはガイ達四人が乗っている。

「私が手を貸すまでもなかったようね・・・しかし、本当の修行はこれからよ!」

「何だと!?」

「自分が好きな時、自分が必要とする時、自在に使いこなせるかどうかが問題なのよ!」

「くっ・・・!」

ガイ達を地面に下ろすと、次の瞬間ナデシコシュピーゲルは跡形もなく消え、

ただシュバルツの声だけが風に残った。

「アキト君!これからも貴方の修行、楽しみに見させてもらうわよ!

ふ・・・・ほほほほほほほほほほほほほほほ!」  

 

 

         

「で?」

カズシ、ゴート、プロスペクターが並んで立っている。

その前を、不機嫌そうなナオがうろうろしていた。

「何の事だ?」

「さて・・・何の事でしょうね?」

「・・・・・・むう。」

いつもの如く、笑みを浮かべるプロスペクター。

ゴートもいつも通りの無表情。

カズシだけがニヤニヤ笑いをこらえきれずにいた。

しばらくうろうろした後、音を上げたのはやはりナオの方だった。

「あんた達ゃ俺のクルーだろうが。勝手にどこかへ行ってもらっちゃあ困るんだよ!

これからはこんな事はなしにしてもらうぜ。いいな!」

「了解しました、ナオどの!」

「・・・・うむ。」

カズシが笑いながら敬礼し、ゴートもそれにならう。

プロスペクターはにこにこ笑いながら揉み手をしていた。          

 

 

次回予告  

皆さん、お待ちかねぇ!

アキトが修行を続けるギアナ高地で、

激しいファイトを繰り広げる舞歌とリョーコ!

しかし、彼らの身辺にはムヅラアーミーの魔の手が忍び寄っていたのです!

機動武闘伝Gナデシコ、

「激闘!ドラゴンナデシコ対ボルトナデシコ!」に

レディィィ!Go!

 

 

あとがき   タイトルのインパクトが全てですな、この話は(笑)。

やっぱり各国のクルーにも次第次第にスポットを当てていかないと。

そう言うわけで「中年軍団」ことカズシ、ゴート、プロスペクターの三人が主役です。

実はネオアメリカのクルーにミリアを入れる案もあったのですが、

今回のタイトルを思いついた瞬間、ミリアさんにはクルーから外れていただきました(笑)。

まあ一人だけ女性が入っているよりは全員中年男の方がバランスも取れているでしょう(爆)。

 

 

 

 

 

管理人の感想

 

 

鋼の城さんから連載第十八弾の投稿です!!

シュバルツも怪しいけど、中年軍団の濃さに負けてますね(笑)

いやはや、この三人が揃ったら無敵ですね〜

対抗できるのはシュン隊長くらいか。

でも・・・故人だし(爆)

個人的には、ミリアを出して欲しかったですが。

まあ、そのうち登場するでしょう、ね?(ニヤリ)

 

では、鋼の城さん!! 投稿有難うございました!!

 

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