機動武闘伝
Gナデシコ
「いよいよ師匠マスターホウメイと訣別して、
最後の決着を着けんとするテンカワアキト!
そこへ再び立ちはだかるデビルホクシン!
そう、アキトの運命は、今まさに大きな岐路を迎えたのであります!
果たして、アキトに勝ち目はあるのでしょうか?
この恐ろしい悪魔を相手に・・・・・!
それでは!
ナデシコファイト・・・
レディィィ!ゴォォォゥ!」
第二十三話
「宿命の戦い!
アキト対デビルホクシン」
ネオジャパンの地上監視システムが一斉に悲鳴を上げていた。
「南アメリカ地区、エネルギーの異常反応!」
「異常地磁気及び放射線検出!」
「チェック1、チェック2、検出レベル上げろ!」
「了解!検出レベル、上げます!」
「デビルホクシン確認しました!」
コントロールルームに、今まで以上の緊張が走る。
数値を見て取ったハーリーが心なしか顔を青くして呻いた。
「凄い・・・。この反応は新宿に現れた時とすら比べ物になりません・・・。」
「しかも、テンカワが修行しているのは確かここだったな!?」
「ガイ兄さんに連絡を取ってください!」
「それが・・・電波が完全にシャットアウトされています!」
ウリバタケとハーリーが顔を見合わせた。
「シャイニングナデシコではデビルホクシンに太刀打ちできない・・・ゴッドを発射しましょう!」
「む・・・。」
ウリバタケが逡巡する。
コンソールを操作してナデシコキャリアー発射の準備を整えるハーリーをエリナ委員長が制止する。
「馬鹿な真似は止めなさい!明日はもう、決勝大会なのよ?
アキト君はとっくにネオホンコンに向かっているわ!
それとも、彼がまだギアナ高地にいる保証があるの!?
ゴッドは決勝大会用の、いわば切り札よ!
ギアナへの射出はダイゴウジ君との連絡が着いてからでなくては許可できないわ!」
再びウリバタケとハーリーが顔を見合わせる。
確かにエリナ委員長の意見が正論である。
「しかし、万が一アキトさんがギアナ高地にとどまっていれば
デビルホクシンの餌食になるしかありません。
そうなれば決勝大会用も何も無くなるんですよ!」
ハーリーの反論も、エリナ委員長を翻意させる事は出来なかった。
「・・・・キャリアはギアナ高地への射出コースを保ったまま待機!
中継機を射出して何とかアキト君達と連絡をつけてみて!」
ハーリーが唇をかんでうつむく。彼とて確証があるわけでは無い。
ただ、嫌な予感がしてしょうがないのだ。
「兄さん・・・アキトさん・・・無事で・・・」
VOOOOOOOOOOO・・・・・・・!
巨大な瞳に禍禍しい赤い光が宿る。おぞましくも力強い、魔の咆哮。
「デ・・デビルホクシン!アイちゃん!」
呆けていたのは一瞬だった。
マスターの方に視線を戻し、再び憎悪の炎を纏った視線を叩き付けるアキト。
その視線など意にも介さずアキトを圧する気を放つホウメイ。
「テンカワ!そんな腕でこのアタシを倒せるとでも思っているのかい!?」
「ああ!俺はもう容赦はせん!必ずこの腕で、お前を倒して見せるぅっ!」
言葉と共に無数の拳を放つアキト。
だが、東方不敗にはただの一撃たりとも、当たるどころかかすりさえしない。
僅かに体を反らし、首をかしげ、身を沈める。 それだけでアキトの攻撃の全てをかわしていく。
「どうしたテンカワ!お前の得意なスーパーモードは出さないのかい?
それとも出し惜しみしているのかねぇ?」
むきになって更に拳を繰り出すアキト。だがやはり、そのことごとくをしなる柳の様に外すホウメイ。
「ほれ!ほれ!ほぅれ!」
アキトの回し蹴りをふわりと跳んでかわし、
「テンカワ!真の戦いの何たるかを、今お前に見せてやる!・・・・ほぉぅりゃあっ!」
空中で竜巻の様に回転しつつ、マスタークロスを繰り出すホウメイ。
一本のマスタークロスが十本にも見える、恐るべきマスターの技。
それがシャイニングナデシコを縛り上げ、動きを封じる。
「はぁたたたたたた、たぁ!」
そのままマスターの連続蹴りを食らい、人間サンドバッグと化すアキト。
「馬鹿め!お前はこの地で何を修行しておった!・・・とどめ!」
マスタークロスを引き付け、最後の一撃を与えようとしたそのとき、
一瞬速く、一本のクナイがマスタークロスを切断する。
マスターとアキトの間に割って入る黒い影。
「ナデシコシュピーゲル・・・またしても貴様か!」
がっくりと、膝を突くアキト。それを支えるシュバルツ。
「大丈夫?しっかりして!」
ふらつきながらも立ちあがるアキト。
「そ奴の手を借りなければあたしに勝てんのか!」
そんなアキトの様を嘲るマスター。
「!おのれぇ・・・東方不敗!許さん!」
「堪えて、アキト君!怒っては駄目!奴は貴方を挑発して怒りのスーパーモードを使わ・・・」
ザザッ。シュバルツの通信が途切れ、マスターの顔に切り替わる。
「いいや、怒るんだよテンカワ。お前はアタシが憎い筈!
怒れ!怒れ!怒れ怒れ怒れ怒れ!怒って!怒って!怒り狂えぇぇぇっ!」
「東方・・不敗ィィィィッ!」
爆発寸前のアキト。それをシュバルツは必死で抑えようとする。
「待って!冷静になるのよ!怒りにそそのかされていては、真のファイターにはなれない!」
「クク・・何を言う。思い起こせ!怒りのエネルギーがお前を幾たび勝利に導いたかを!」
「東・・・方・・不敗ィィ・・・!」
アキトの顔が一段と歪む。
「おお、見よ!あの御方の御出ましだ!」
荒れ狂う稲妻の中、倣然として天にそびえるデビルホクシン。
その肩の上に、かつてアキトが妹と呼んだ少女が姿を現す。
夢見るような眼差しは虚空を見つめ、
服が風になぶられるままに任せて立ち尽くしている。
「同じ血を引きながら、力はお前とは天と地の差!己の未熟を悟って、あの御方の前にひれ伏すがいい!」
地上の事などに関心はない、とでも言うように天を見つめていた少女が、
その言葉に誘われる様に足下へ視線を向ける。
その表情が醜く歪み、狂ったような笑いが溢れる。
「ふふふふふ・・・・あはははははははははは!
きゃはははっはははははははははは!
あひゃはははははははははははははは!」
「何がおかしい・・・・・・・何がおかしいぃぃっっ!!」
「よしなさい、アキト君!」
「奴をスーパーモードで叩き潰してやるッ!」
「怒りのスーパーモードは駄目といったはず!」
「どぉけぇぇぇぇぇっ!」
怒りに任せ、突進しようとするアキト。
それを体全体で必死に押しとどめるシュバルツ。
「その調子だよ、テンカワ・・・怒れ、怒れ!」
「堪えて!堪えるのよアキト君!」
手に生み出した光を地面に叩きつけ、周囲を閃光で包むナデシコシュピーゲル。
次の瞬間、二体のナデシコは消えていた。
「むっ!?消えた・・・・小癪な真似を・・・まあいいさ。
どうせ奴らはデビルホクシンの手中からは逃れられん・・・
・・・・・・・・・ふははははっははっはは!はあっはははははははははは!」
ギアナ高地にある無数の滝の一つ。その裏にある小さな洞窟にアキトとシュバルツは潜んでいた。
「一体どう言う気だ!」
「落ちつきなさい、アキト君。貴方の妹は、貴方の怒りを誘う為のエサなのよ。」
「エサであろうがなんであろうが、これは俺の戦いだ!邪魔するな!」
「怒りのスーパーモードでは勝てないと言っているの!」
「試さん内は分からん!」
「アキト君、聞いて!」
「余計なお世話だ!」
「馬鹿!」
「!」
「貴方には分からないの?マスターホウメイがなぜあれほどスーパーモードを使わせようとしているのか!
怒りは人間から冷静な心を奪い去る。それは敵に大きな隙を与えてしまう事になるの!
マスターホウメイはそこを狙っているのよ。」
(この声は・・・どこかで聞いた事がある・・・懐かしい・・温かみのある声・・・誰だ?誰の声だ?)
「ここは引きなさい。貴方の目的は優勝してお父様を助ける事ではなくて?」
「だから!その為にもデビルホクシンを今のうちに倒しておきたいんだ!
今を逃せばいつアイツを倒せるか分からない!」
「・・・・・聞いてはもらえないようね。」
ピチョン・・ピチョン・・・ピチョン・・・
天井から落ちるしずくをじっと見つめるシュバルツ。
「『明鏡止水』・・・!」
「えっ?・・・」
「曇りなき鏡の如く、静かに湛えた水の如き心。それが勝つ為の唯一の方法・・・
まあ、今の貴方には無理でしょうけどね!もう止めないわ!闘いたければ勝手に闘いなさい!
私は去る!もし万に一つも命があれば、ネオホンコンで会いましょう!」
飛び去るナデシコシュピーゲル。
デビルホクシンの前を通りすぎる。襲い掛かるホクシンヘッド数体を鎧袖一触とばかりに撃破し、
向きを変えて飛び去る一瞬、アイとシュバルツの視線が絡み合う。
茫洋としたアイの視線。言葉に出来ないような「何か」が篭もったシュバルツの視線。
一瞬の後、つと視線を外してナデシコシュピーゲルは飛び去っていった。
「ガイ兄さんから連絡が!?」
コントロールルームの、ハーリーの表情が一気に引き締まる。
電波障害域から脱出したポチョムキンの通信室を借り、
サブロウタの監視のもとガイがネオジャパンに通信を送っていた。
「こちらガイ!ダイゴウジガイ!応答せよ!」
(よろしいのですか?他国の者に・・)
(少しの間だけだ・・・・俺が責任を持つ。)
「ではアキトさんは未だにギアナ高地でデビルホクシンと戦っているんですね!?」
『ああ!急いでくれ、ハーリー!シャイニングナデシコはメインフレームに歪みが来てる!
デビルホクシン相手じゃ荷が重い!』
通信を切ったハーリーが向き直る。 視線を受けたエリナが頷いた。
「ゴッドナデシコの射出を許可します!照準は合わせてあるわね!?」
「勿論です!ゴッドを射出せよ!」
数十秒後、打ち出されたナデシコキャリアーが加速を始め、
南米に落下してゆくのがコントロールルームからも見えた。
「頼むぞ・・・Gナデシコ!」
「どうした、まだ姿を現さんのか、テンカワアキト!
だがどこへ姿を隠そうが、ここへ戻るしかないのがお前の定め!さあ出て来い!」
「俺は・・・・・ここだぁ!」
明らかな挑発。だがそれに逆上したかのように姿を現しマスターに襲い掛かるアキト。
軽くその拳を払い、ホウメイがアキトの両腕を鷲掴みにする。
シャイニングナデシコのフレームが軋み、アキトの腕が痺れる。
「ふっふっふっふ・・今度は一人か!どうやらお前も乳離れできないのを恥じた様だね!」
「うるさい!アイツを倒す前に、貴様を倒してやる!」
「フ・・・笑止。弟子が師匠に、勝てる筈があるまい!」
嵐のようなアキトの攻撃を柳に風と、僅かに身を反らせるだけでかわし続けるホウメイ。
「黙れ!言った筈だ、お前を二度と師匠とは思わないと!東方不敗!」
「馬鹿者ぉっ!」
顎への蹴りがまともに決まり、吹き飛ばされるシャイニングナデシコ。
水月に追い討ちの正拳、さらに左からの連続回しげり。真っ逆さまに地に落ちる。
「・・・お前如きに呼び捨てにされる覚えはない!十年早いわぁ!・・・はぁっ!」
マスタークロスが右足にまきつき、落下の止まるシャイニングナデシコ。
そのまま上へ放り投げられる。落ちかけたところに、マスタークロスの一撃。また一撃。
「己を知らぬ無知ほど、扱いにくいものは無い!」
「ぐぅぅっ・・・!」
苦痛に身を折り、今度こそデビルホクシンの触手の上に落下するアキト。
「お・・・おのれぇぇぇっ!」
憤怒の相で跳ね起きる。マスター目掛けて、バーニアを吹かして跳ぶ。
すれ違いざま、腰のビームソードで居合の一刀を送る。
マスタークロスとビームソードが火花を散らせた。
二人が、再び距離を取って対峙する。
マスタークロスの先が僅かに短くなっていた。
アキトの剣が先端を断っていたのだ。
だが。
「ぐあああああぁぁぁっ!」
一拍遅れてシャイニングナデシコの全身が爆炎に覆われ、アキトの全身を苦痛が襲う。
あの一瞬で、マスタークロスはシャイニングナデシコの全身を痛め付けていた。
再び落下するアキト。
「お前の力も、これが限界のようだねぇ・・・?」
よろよろと立つアキトを見て哄笑するホウメイがデビルホクシンの方へと体の向きを変える。
「我が王よ!愚かなる兄テンカワアキトに憐れみを!」
「ア、アイちゃん・・・・」
「ふふふふふ・・・・あはははは!きゃあっはっはっはっはっはっはっは!」
またしても狂った様に笑う少女。
「・・・・・何がおかしい・・・何がおかしいィィィィッ!
いいか、お前のお陰でシュンさんは死に、ルリちゃんは冷凍刑、お前を追ってきて俺はこのざまだ!」
デビルホクシンの触手がシャイニングナデシコに絡みつき、少しずつ自由を奪っていく。
「お前に笑われる筋合いは無い!俺はお前を許せん!
お前を・・・叩き潰してやるぅあ!」
アキトの目が赤く輝く。それは怒りと、憎しみの光を宿した鬼の目。
アキトの怒りが、憎悪が、シャイニングナデシコの内に巣食う戦鬼の力を呼び覚ました。
噴き出す怒りの「気」に触れ、全身に巻き付いたデビルホクシンの触手が一瞬のうちに千切れ飛ぶ。
「ククク・・・遂に出しよったか・・・・スーパーモード・・・」
三体同時に襲いかかってきたホクシンヘッドは瞬殺された。
倍のホクシンヘッドと全身を包む触手をも、『気』の爆発のみで粉微塵に吹き飛ばす。
「やはりあたしの目に狂いは無い・・・・」
無数とも思えるホクシンヘッドを、剣の一振りでなぎ払い、切り裂き、叩き潰す。
北欧の伝説にある狂戦士の様に、動く物全てを破壊するアキト。
「今のテンカワは怒りに取り憑かれ、徒にエネルギーを浪費しているに過ぎない。
・・・狙うは今か・・・・!」
ホウメイがアキトの前に立つ。明らかな「誘い」である。
だが怒りに狂ったアキトは、構わず大上段の剣を振り下ろした。
衝撃波と、爆炎が巻き起こる。
一瞬にしてアキトの前からマスターの姿が消え、背後に現れる。
「もらったぁっ!」
だが、とどめを刺さんとするマスターの貫手を、背後から掴んだ者が居た。
「何奴!?」
その自らの言葉より速く、振りかえったマスターの今一方の貫手が、闖入者の胸を貫く。
「く、ぅああっ・・・」
「シュバルツ!?」
「ア、アキト君・・・・!」
最後の力を振り絞り、掴んだ右手でマスターの肘を砕き、握り潰すシュバルツ。
「うがあっ・・・!」
片腕を砕かれた苦痛に耐えようとして耐え切れずホウメイが膝を付く。
「ナデシコ・・・シュピーゲル・・・」
余りの事に呆然とするアキト。
その目から、体から怒りの色が抜けていく。
それに安堵したかのように、力尽きてくずおれるシュバルツ。
その胸の装甲は大きく破れ、コクピット内部が露出している。
シュバルツも体中がズタズタだ。
崩れ落ちるナデシコシュピーゲルをアキトが支える。
「シュバルツ・・・・」
「馬鹿な子ね・・・あれほど忠告したのに・・何故スーパーモードを発動させたの・・っ!」
「俺を見捨てていったんじゃあ、無かったんですか・・」
「・・・貴方に自重させる為・・・闘いに際して頼る者が無ければ貴方も慎重になるかと・・うぅっ!」
「済まない・・・俺はなっちゃいない・・・本当に修行が足りなかった・・・!」
首を垂れるアキトのシャイニングナデシコの首に不意に背後から巻き付く物があった。
「ぐぅっ!?」
マスタークロスがアキトの首を締めつけ、へし折ろうとする。
「なっちゃいない!本当になっちゃいないよ、テンカワ!
ナデシコシュピーゲルに一命を救われ、怒りも収まったと言うのに隙だらけでこのざまだ!
さあ!首をへし折ってやるよォッ!」
「ぐああああああああっっ!」
朦朧とした意識の片隅に苦しむアキトを捉え、
霞む視界を必死で保ちながらシュバルツが言葉を絞り出す。
「アキト君・・・思い出して・・・あの時を・・あの洞窟での一瞬を・・・明鏡止水の一瞬を・・!」
ピチョン・・・・
唐突に、苦痛と酸欠に朦朧とするアキトの脳裏に水音が響く。“何か”が見えた。
ピチョン・・・・
(シュンさん・・・ルリちゃん・・・俺は・・・俺は・・・!)
脳裏に浮かぶ、在りし日の幸せな家族の一コマ。シュンとルリ、幼いアイを肩車するアキト。
どの顔も、笑顔に彩られている。
悪意の稲妻がその情景を裂いた。
手許に残ったのは、肩車されてはしゃいでいる少女の色あせた写真。
幻影のアイが邪悪な笑みを浮かべ語りかけてくる。
(アキトお兄ちゃん・・・心静かに・・・死ぬのよ。)
(死ぬ・・・・俺が死ぬ!?・・・そうだ・・・あの時と同じだ・・・あの時と・・・・!)
思い起こすのはあの洞窟での一瞬。
この上なく澄明でフラットなあの一瞬。
ピチョン・ピチョン・ピチョン・ピチョン・ピチョン・・・・・・・・ポチャン!・・・・・・・
アキトの脳裏で、切れ間無く落ちているかのように見えた水滴が、一瞬止まって見えた。
いや、落ちる水の一滴、一滴が、今のアキトにははっきりと認識できる。
それを「見る」ことのできる境地・・・心のあり方こそ・・・・・・・
『明鏡止水』!
「見えた・・・・・・!見えたぞ・・・・・!
水の・・・・・ひとしずくっ!」
くわっ!と目を見開く。
「てぇりゃあああああああ!」
そのまま首に巻き付いたマスタークロスを掴み、マスターを引っ張って力任せに投げ飛ばす。
「小癪な真似を!」
クロスを離し、猫の様に回転して着地するマスター。
「ふんっ!」
奪ったマスタークロスを上半身に縛りつけ、「たすき掛け」にする。
「哈ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・!」
胸の前で交差させた腕をゆっくりと下ろしつつ息を吐く。
空手で言う「息吹」を行うアキトのその全身に圧倒的な「闘気」が充満していく。
その「気」が、マスターホウメイをして思わず数歩を後ずさりさせた。
「な・・なんだ・・・奴のあの気迫は・・・今までの奴の物とは明らかに違う・・・まさか・・!」
アキトに満ちる「気」が、輝きを強める。 アキトのオーラから怒りの赤が薄れ、金色の輝きを放ち始めた。
同時にシャイニングナデシコの全身もまた、金色のオーラに輝く。
ホウメイを、シュバルツを、そしてデビルホクシンとアイを、金色の輝きが照らし出す。
アキトの両手が動き、自然に「智拳印」を結ぶ。左の人差し指を伸ばし、右の拳で軽く握る。
それは密教において主尊・大日如来のみが持つ最高の「智」、即ち「悟り」を表す印形。
その姿はもはや戦鬼ではない。明鏡止水の境地に達した・・・・闘神!
「貴様ァーッ!」
アキトに貫手を放つホウメイ。
その瞬間、アキトの双眸が、金色の気迫を放つ。
右正拳。東方不敗マスターホウメイが只の一撃で吹き飛ばされ、地に這った。
シュバルツが瞠目する。
「アキト君・・・出来たわ・・・!それこそまさしく・・・真のスーパーモード!・・・うぁっ・・」
デビルホクシンから滑り落ち、姿を消すシュバルツとナデシコシュピーゲル。
「シュバルツ!」
一瞬アキトがそちらに気を取られる。
その隙に吹き飛ばされたマスターナデシコの千切られた腕から触手が伸び、失った腕と融合した。
再生した腕で構え、間合いを詰めるホウメイ。
「少しは利口になったようだね!だけど・・・つけあがるんじゃないよ!テンカワ!」
振り下ろされるマスターの右の手刀。アキトが左手で捌き、右の拳を叩きつける。
「ふん!こんなもの・・・・・・ぐあっ!?」
紙一重で見切った筈のアキトの拳が、ホウメイの顔面を捉える。
ホウメイの反撃。当たらない。かすりもしない。
逆にアキトの攻撃は嵐の様にホウメイを打ちのめす。
「何だと・・・こんな・・・馬鹿なぁっ!」
「肘打ち!裏拳!正拳!とおりゃあっ!」
「馬鹿な・・このアタシが・・・東方不敗が!
手も、足も出せないなんてことが有って・・・・・・たまるかぁっ!」
跳ぶホウメイ。だが、その背後には既にアキトがいた。
振り向くホウメイの、マスターナデシコの顔面に、アキトの渾身の右正拳が突き刺さった。
地上に叩きつけられたホウメイが巨大なクレーターを作る。
身じろぎもままならぬ体でホウメイが唇を震わせた。
「奴は・・・・このアタシを越える・・つもりか・・・・!」
シャイニングナデシコの全身を覆っていた金色の輝きが、右の拳に集中していく。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・」
おぞましい偉容を誇るデビルホクシン。
その肩に立つ義妹に、アキトはその視線を向ける。
アキトがかつて妹と呼んだ少女は虚ろな無表情を崩さぬまま、アキトに向けて腕を振り下ろす。
襲いかかる無数のホクシンヘッド。
だがそれらはシャイニングナデシコにかすり傷の一つも付けぬまま、
すれ違っただけで次々と爆散していく。
「アイ・・・いや、アイちゃん・・・ここで、終わらせるよ・・・・
キング・オブ・ハート!」
アキトの決意に応え、右手の紋章が一際強く輝く。
全てを込めた輝く右拳を、全身全霊をもって、ただ無心に撃ち下ろす。
「シャァァイニング!
フィンガァァァァァァァァ!」
デビルホクシンの、コア(頭部)の根元に、闘志を込めた渾身の一撃を撃ち込む。
ギアナ高地を覆い尽くしたデビルホクシンの全身にその一点から光の亀裂が走る。
アキトの表情が次第に穏やかな物に変わっていく。
「消える・・・俺の怒り、悲しみ、復讐は消えていく・・・!」
光の亀裂に沿って、無数の爆発が起きる。
苦痛に喘ぐ様に身をのけぞらせるデビルホクシン。
やがて一際巨大な爆発が起こり、少女とデビルホクシンのコアはその爆炎の中に消えた。
「あ・・あああ・・・アタシの・・・アタシのデビルホクシンが・・・・・・!」
「諦めが悪いわよ、マスターホウメイ・・・・」
「シュバルツ・・・!あんたさえ、邪魔をしなければぁっ!」
仰向けに倒れたまま動かないナデシコシュピーゲルの上に立ち、シュバルツはマスターを見据える。
「見苦しいわねマスターホウメイ・・・貴方はかつての弟子に敗れたのよ!・・・・くうぅっ・・」
そこまで言い放ち、力尽きた様に膝を付くシュバルツ。
その拍子に先ほどの衝撃で破れかかっていた覆面が地に落ちた。
輝く金髪。女性としての魅力を湛えながらも知性を感じさせる整った顔立ち。
「お・・・・お前は・・・・!ま・・・まさか!」
シュバルツの素顔を見て愕然とするホウメイ。
後に、言葉は続かない。
地に落ちたシュバルツの覆面が風に飛ばされ、
炎が作り出した上昇気流に乗って高く舞った。
「終わった・・・終わったぞ・・・・!」
デビルホクシンが崩れ落ちる。静かにその様を見守るアキト。
その時、地獄の炎に覆われたギアナの大地に、天を覆った黒雲の中から輝く光が降りてきた。
それを見つめるアキトの顔にふと不審と戸惑いの表情がよぎる。
「あ・・・あれは・・」
次回予告
皆さん、お待ちかねぇ!
遂にデビルホクシンを倒したアキト!
しかし、瀕死のマスターホウメイがシャイニングナデシコを打ちのめし、アキトは絶体絶命!
ですがその時、アキトを想う人の祈りが最強の戦士を目覚めさせるのです!
機動武闘伝Gナデシコ、
レディィィ!Go!
あとがき
個人的に「Gガンダム」の名エピソードを三つあげろと言われれば・・・
まあ、三つには入りませんがその次に必ず入るのがこの回。
ですので結構気合を入れました。
見所はやはり「明鏡止水」!
うむむむむむむ。
これ以上の物は今の自分には書けない!
かといって、満足しているか、と言われると100%は満足していないんですよね。
気に入っているか?と言われれば「はい」と答えちゃうんですけど(笑)。
管理人の感想
鋼の城さんから連載第二十三弾の投稿です!!
とうとう出ました明鏡止水モード!!
そして次回には「G」が登場です!!
う〜ん、やはり衛星軌道からのダイブをやってくれるのでしょうか?(爆)
あれって、絶対に燃え尽きると思うけどな・・・
ま、彼等は物理法則を超越したところがあるし(苦笑)
では、鋼の城さん!! 投稿有難うございました!!
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