よぉ。久しぶりだな、そのまずいツラも。

 

 よせよ、足を洗ったんだよアタシは。カタギなんだよカタギ。もう犯罪者じゃあないの。

 あぁん? その面構えをどっからどう見たってカタギには見えないって?

 

 ・・・・・・へぇぇぇぇぇ、アンタに自殺願望があったなんて知らなかったよ。

 今この場でその願望をかなえてやろうか? 

 サービスで葬式も付けてやるぜ。もっとも火葬以外は選べないけどな。

 人殺しは犯罪だって? 馬鹿言ってんじゃねえよ。

 女が男を殴り倒すのは犯罪じゃない、憲法とやらでも保証されたれっきとした女の権利って奴だ。

 たまたまアタシはそれが拳から炎になるだけさ。だから安心して逝きな。

 

 

 

 

 

 わかったわかった、店の中ではやらないよ。

 マスターに訴えられたらまた犯罪者に逆戻りだからね。

 それじゃアイツに借りを返せなくなっちまう。

 なんだ、まだいたのかい。見逃してやるから早く行きな。まったく面倒だね、カタギ女ってのもさ。

 

 ふふっ、「どうして?」って顔だな。

 まぁな。そう思うのも当然だ。

 なんてったって懲役一千年。巴里一、いやさ欧州一の大悪党、

 悪事千万何でもござれ、泣く子も黙る炎の魔女、極悪非道のロベリア・カルリーニ様だ。

 

 けどな、今はそいつも昔の話。刑期も終えて綺麗な体。

 今のアタシはただのカタギ女、ロベリアさ。

 そう、アイツが永遠にこのアタシを変えちまったんだ・・・・。

 

 あ? オゴるからその話を聞かせろって? 妙に噂好きになったもんじゃないか、情報屋でもないアンタが。

 ま、いいさ。せっかくのオゴりだ、酒のサカナに話してやろう。

 それに・・・・なんでかね、今夜はアイツを思い出す。

 そう言えば初めてアイツに会ったのも、戦争中のこんな裏路地の酒場だった・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

漆黒の戦神アナザー

ロベリア・カルリーニの場合

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦時中だったけど、流石に巴里(パリ)は賑やかだった。その分アタシらみたいな人間も活躍できた訳さ。

 丁度例の「漆黒の戦鬼」の部隊が近くにいたこともあって、戦争なんてどこ吹く風って感じだったね。

 そういやアンタはその時塀の中だったんだっけ? なるほど、納得したよ。

 まあそれは置いといてこんな感じの、巴里のどこにでもあるような裏路地の酒場。

 そんな酒場の一軒で一杯やってたと思いな。

 客はあたし一人。カウンターでは無愛想なバーテンがグラスを磨いてた。

 で、いきなりドアが開いてアイツが入ってきたのさ。

 黒いボサボサの髪は汗でびっしょり濡れて、同じ色の瞳はおどおどとせわしなく動いてた。

 くくっ。なんかこう、猫に追われるハムスターって感じだったね。 

 

 で、開口一番「かくまってください」って来たからバーテンに頼んで店の奥に引っ込ませてやった。

 柄にもないって思ってるな? ・・・・・・・そうなんだよ、まったく。酔ってたのかね。

 奴さんが震えながらトイレに駆け込んだのとほぼ同時にまた酒場のドアが開いて、

 目を血走らせた金髪の小娘が「アキトさんはどこですか」ってえらい剣幕で怒鳴りこんできやがった。

 もっとも、ひと睨みしたら尻尾巻いて逃げてったけどな。

 馬鹿、カタギの小娘なんざ相手にもなりゃしないさ。そう言うのを「大人げない」って言うんだよ。

 

 

 

 

 世の中全てギブアンドテイク。助けてやったんだからその代価は払って当然だろう?

 着のみ着のままで逃げてきたから金は持ってないって言うし、

 料理ならできるってふざけた事をぬかすんでアパルトマンに連れて帰って台所に立たせてみたのさ。

 無論、不味かったらそのまま本人をミディアムレアに焼いてやるつもりでね。 

 

 

 

 美味かったね!

 思わず褒めてやったら嬉しそうな顔しやがってさ。それもいい顔で笑いやがんの。

 どうも帰りたくなさそうだったからついでに酒の相手もさせて、結局一晩泊めてやったのさ。

 本当に柄じゃないね、まったく。 

 

 

 ・・・・・・・・・。なんだよ、その期待するような目は。

 言っとくが一杯飲ませたらひっくり返っちまったから何にもしてないぞ。

 大体あんなボウヤは元からアタシの趣味じゃない。・・・と、思ったのさ、その時はね。

 翌朝? 朝飯作らせてから追い出したさ。

 アパルトマンの玄関から少し行った所で油臭い黒髪の小娘に捕まって、

 そのままずるずる引きずられていったけどね。

 まあとにかく、それが最初の出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 ハーテッド家って知ってるかい?

 そうそう、そのハーテッド。西欧方面軍司令のあのハーテッドさ。

 グラシスってのは糞真面目なカタブツらしいから金目のものとは縁がないだろうって?

 そこが素人の浅はかさ、アソコの家は由緒正しき軍人貴族って奴でね。

 美術品だの貴金属だの、結構な値打ちものが代々伝わってるのさ。

 実際、ルーベンス(掛け値無し本物だぜ?)が居間の壁に無造作に掛けられてたからねぇ。

 やっぱお貴族様は違うわ。 

 

 ああ、アイツの話だったな。

 例によって綿密な下調べをして、実際に忍び込んだその夜だ。セキュリティに関しては楽勝だったね。

 別荘とは言え、これが軍の最高司令官の屋敷かって位本当に手応えがなかった。

 SPどもも一人としてアタシの気配に気付きやしない。アタシが木星蜥蜴のスパイだったら今頃命は無いよ?

 

 ・・・・・・・とかほざいてはいたものの。結局の所、その夜の仕事はアタシの大ドジだったんだ。

 

 

 準備しておいた逃走経路からなんなく脱出し街路に降り立ったその瞬間、夜が変わった。

 静かな夜、盗賊の夜から嵐の夜、闘争の夜に。

 見なくてもわかったさ。

 星明かりもない、戦時中で街灯の光量も制限された暗い大通りに、闇よりなお暗い闇が立っているのが。

 その闇が放つ気配が、一瞬にして夜を変えたんだってね。 

 

 何の拍子か、切れる筈がないほど分厚い雲が切れて月明かりが差した。

 けど一瞬にして街路の闇を切り取ったその月光も、その闇を切り払う事はできなかったのさ。

 さえざえとして闇を切り裂く月光の刃の下に、人の姿を取った闇はなおも倣然と立っていた。

 黒いバイザーに表情を隠し、黒いマントに姿を隠して。

 そいつはバイザー越しにもはっきりわかる抜き身のナイフのような視線でただ一人、アタシだけを見ていた。

 心の中でくそったれな神に呪いの言葉を吐き(まあ、それまで祈った事はいっぺんもなかったけどさ)、

 その可能性を失念していた自分の迂闊さに舌打ちすると同時に直感的に理解した。 

 

 目の前にいる男こそがかの「漆黒の戦鬼」だってね。

 

 

 

 

 

 

 本気を出して、「力」まで使って勝てなかった相手ってのは初めてだった。

 人間サイズに限ればアイツ以上の化物はいまだに見た事がない。

 正直、今でもアイツが純粋な人間なのか半信半疑だね。

 なにかアタシみたいな特殊な「力」を持ってたか・・・特別な血筋なのかもしれない。

 おっと、話が反れたな。

 ん? 化物とか血筋とかのこと? あ〜うるさいうるさい。そっちの方はノーコメントだ!

 

 

 

 アタシも炎を操る力だのなんだのと結構人間ばなれしてるけど、まぁ上には上がいるもんさ。

 あの晩、それを嫌って言うほど思い知らされたね。

 動きは信じられないくらい速いし、蹴りがかすめただけで防弾にしたはずのコートがざっくり裂けた。

 目の前にいたと思ったら次の瞬間にはアタシの背後を取ってやがる。

 まるで・・・なんだっけ、ほらあの木星の・・・そう、ボソンジャンプとやらを使ってるみたいだったね。

 後で聞いたら東洋の武術のなんか特殊な歩き方だとか言ってたけど。 

 

 東洋の神秘、ね・・・・陳腐だけど、まぁ今は信じる気になれるよ。

 何せあの時まざまざと見せつけてくれたからね。

 

 信じられるか?

 手刀で炎を切り裂いたんだぜ。

 もちろん生身でだ。

 クリーンヒットした・・・するはずだった炎にアイツが鋭く手刀を振り下ろしたんだ。

 その振り下ろした軌跡に沿って大きくアタシの炎が裂けた。本当の話だよ。

 驚きで一瞬動きが止まった所に当て身を食らって、気が付いたらサツの下っ端に両脇から抱えられてたのさ。

 

 気がつくと同時に、バイザー越しだったけど「戦鬼」がこっちをじろじろ見てるのがわかった。

 それが妙な事に視線にさっきまでの鋭さが綺麗さっぱり無くなってたんだ。

 ・・・・そりゃまぁひっ捕えたんだから鋭くなくてもいいだろうと思うかもしれないけど、

 そういうのとも少し違ったんだよな。

 

 引きずられながらぼんやりと頭をひねっていた時、「戦鬼」にいきなり黄色い声をあげて女が抱きついた。

 で、「戦鬼」が妙に慌てたその拍子に、バイザーが鼻までずり落ちて素顔が見えたのさ。

 あの黒い、おどおどするハムスターみたいな目がね。

 

 

 そうなんだよ!

 さっきまでアタシと命のやり取りしていたのはアタシが一晩泊めてやった、

 あの料理の上手い東洋人のガキだったのさ!

 

 

 

 

 かの「漆黒の戦鬼」がいきなりあの時のボウヤに変わっちまった。

 その余りの変わりっぷりにさすがのアタシが唖然としたね。

 服だけはそのままだったけどその中身がまるで別モンだ。

 今考えるとあの張り付いた女は見覚えがあった。ほら、初めに出てきた金髪の小娘さ。

 まあとにかく目の前に「戦鬼」がいきなり出てきた時以上のショックだったよ。

 その後特別監房に叩き込まれるまでの事を良く覚えてないから、

 多分呆然としたまま連行されていったんだろうね。

 

 ・・・ここんとこ、人には言いふらすなよ。サマにならないったらない。

 

 

 

 

 

 

 

 三度目に会ったのは戦後だった。あのロクでもない戦争が終わってからしばらくしての事さ。

 その頃アタシはちょっとしたワケありで「シャノワール」ってとこで踊ってた。

 (本業は一時休業さ。・・・・結局は完全に廃業する事になっちまったんだけどね)

 へぇ、あんたにしちゃ物知りじゃないか・・・冗談だよ冗談。人の軽口にいちいち目くじらたてんなって。

 ああ、もちろん本名じゃなくて芸名でだけどね。

 

 

 でさ、巴里市警の警部でエビヤンってのがいるだろ。

 あのまるまっちい、まんじゅうみたいな顔してる癖にブルドッグみたいにしつこい奴。

 あれがよりにもよってアタシに熱を上げてさ、三日に明けず通い詰めて来やがんの。

 いや、アンタにもその時のやっこさんの顔を見せたかったねぇ!

 あのマンジュウづらの鼻の下をでれぇっと伸ばしてさ、だらしないったらありゃしないよ・・・・・

 ん、サツ野郎の話はいいからアイツの話をしろって?

 

 ほぉ。

 偉くなったもんじゃないか。

 アタシの話に口を差し挟むなんてねぇ?

 

 まぁいい、確かに不細工なおっさんの話なぞ聞きたくもなかろうさ。

 で、アイツなんだけどな。そのシャノワールで働いていたのさ。住みこみの・・・・便利屋かな?

 モギリやって厨房でコックやって、暇な時は大道具の仕事を手伝ったりしてさ。

 あの「漆黒の戦鬼」・・・あ、いやその時はもう「戦神」だったっけ。

 その「戦神」、かの英雄様が巴里の劇場の片隅で下働きしてるんだぜ?

 しかもそれが全然違和感ないでやんの。笑っていいのか頭抱えていいのか悩むところだね。

 妙に納得はできたけどさ。

 

 

 

 

 

 その頃のことだな。

 きっかけは覚えてないけど、なんかで口論になって・・・・

 犯罪が悪い事だとかなんだとかそう言う話になった。

 ああそうさ。アタシは犯罪者だった。もちろん犯罪者は悪人さ。

 だったらアタシは悪人、いやその中でもとびきりの極悪人に決まってる。

 そう言ったら、しばらく声も出ないほど驚いてね。

 それで何を言うかと思ったら「悪いとわかってて何故犯罪を犯す」だとさ。

 

 

 馬鹿が。

 

 

 あんたもそう思うだろう? 甘ちゃんもいいとこさ。

 育ちのいいボウヤとは思ってたけど、ここまでとは思わなかったよ。

 

 多分、食うのに困った事なんざないんだろうね。

 そりゃあれだけの戦闘技能に玄人はだしの料理の腕、おまけに天然の女たらしの芸があれば

 どこでだって、何してたって食ってけるだろうさ。

 けどそいつは強いヤツ、力のあるヤツの話さ。

 世の中には真っ当に生きたくても、生きられない奴ってのがいる。

 生きる為に裏の世界に関わらなきゃならない奴、犯罪に手を染めなきゃ生きていけない奴がいる。

 そして、一旦はまった裏の世界からはそう簡単に抜けられやしない。

 別に同情が欲しいわけじゃないさ。けどね、許せないセリフもある。

 

 

 

 アタシが生まれたのは巴里のスラムさ。

 しばらく前に取り壊されたって聞いたけど、壊したってなくなるもんか。

 あんな場所はどこにでもある。無くそうとしたってどこかにまたできる。

 あれは街の歪み、ゴミ捨て場みたいなもんさ。街その物が必要とするんだよ、スラムを。

 あそこは本当の吹き溜まりさ。盗人と淫売と人殺し、後は落ちるとこまで落ちたクズどもの巣。

 ・・・・アタシもそのクズの中の一人だったわけだけどさ。

 

 そうさ。いつから犯罪に手を出したかなんて覚えてやしないよ。

 ひょっとしたら物心つく前だったのかもね。もちろんそりゃ冗談だけどさ・・・・・・・・否定できるかい?

 

 

 

 騙さなきゃ生きていけない。盗まなきゃ生きていけない。傷つけなきゃ生きていけない。

 ・・・・そして殺さなきゃ生きていけない。

 アンタだってわかるだろう? あそこはそう言う所なんだ。

 「そう」じゃなきゃ生きていけないんだ。

 「そう」ならなきゃ他人に食われるか、あるいは野垂れ死にするしかないのさ。

 

 必要なら、例えダチだってその喉笛を食い千切らなきゃ生きて行けない。

 それをためらったら逆に昨日までのダチに喉笛を食い千切られるか

 ダチと一緒にまとめて野良犬のエサになるかなんだ。

 

 

 

 そんなことを一気にまくし立ててから、アイツの方をじっと見た。多分すごい顔をしてただろう。

 これ以上何か馬鹿な事を言ったらひっぱたく・・・いや、本気で殺すつもりだったかもしれないね。

 それくらい頭に血が昇ってたと思う。

 

 アイツはそんなアタシをじっと見てた。

 多分あたしが何を考えてるかもわかってたろう。

 で、ほざきやがったのさ。

 「どんな理由があっても、やって本当に後悔するような事はやっちゃいけない」ってね。

 

 けどアタシはアイツを殺そうとはしなかった。頬げたをぶん殴る事も、怒鳴る事すらしなかった。

 ただ驚いてるばかりだった。

 そう言った時のアイツの眼は・・・・・・・・アタシがよぅく見慣れた色の眼だったからさ。

 そうさ。アタシらの眼と同じだったんだよ。暗くて濁った、疲れたような眼。

 真っ当な人生を送ってきた奴には絶対にする事の出来ない眼だった。

 そして、なにより驚いたのはあれだけ暗くて濁った眼をするくせに

 普段笑う時は本当に嬉しそうに無邪気に笑ってたってことだった。

 ・・・・・・・・信じられないね、まったく。

 

 汚れた事も、血に濡れた場面も、考えてみりゃ人の死だってもちろん沢山見てきてるだろうし、

 そのうちの何割かは確実にアイツ自身がやったこと、アイツのせいで起こった事だろうさ。

 アンタもさ、あの目を実際に見りゃわかるよ。

 アイツは本当の意味での人殺しだ。アタシと同じ人間のクズで生きてる値打ちもない人間だ。

 それでも。

 いいかい、それでもだよ? それでもアイツは綺麗事を口にするんだ。

 ああ、確かにアイツはアマちゃんだ。大アマちゃんだ。この身体を賭けたっていい。

 けどな、アイツは自分が真っ黒に(それとも真っ赤に、かね)汚れてる事を自覚して、

 なおかつアマちゃんでいようとするんだ。綺麗事を口にして、実際にその綺麗事を護ろうとしてるんだ。 

 

 同じクズのアタシに何が言える?

 

 

 

 

 

 『アレ』が起こったのはそれからすぐだったね。

 

 当時巴里に妙ちきりんな化物どもが出没してたのは知ってるかい?

 ウサギだのカラスだのサソリ女だのさ。

 ゴシップ紙は木星トカゲの変種か? とか書いてたけどありゃ別モンだ。

 いや、そりゃまぁ、大昔のアニメを崇めるような連中だからないとは言いきれないけどさ。

 そうそう。美術館を荒らしまわって絵を引き裂いたりしてたあのサソリ女とかさ。

 ありゃアタシが言うのもなんだけど実に嫌らしい変態女だったねぇ。

 ん? ・・・・ああ、いっぺん出会ったことがある。大きな声じゃ言えないけどな。

 

 で、話は戻るけどその大騒ぎ、巴里全市に戒厳令を飛び越して避難命令が出たときのことさ。

 ニュースでもなんでもさんざんやってたから知ってるだろう。

 『アレ』が現れたときのこと・・・・・・・・・

 

 そう、巴里が一度消滅したときのことさ。

 

 運悪く(運良く、とは口が裂けても言いたかない。見物ではあったけどな)アタシはそれを間近に見てた。

 ん? ああ、理由は聞くな。・・・・・・・・なあ、聞くなって言ってるだろう? 

 テメェにゃ耳がねぇのか?

 そうそう、人間素直が一番だぜ。今日はまたひとつ賢くなったな。

 

 でだ。もちろんサツにゃどうしようもなかったし、

 よしゃいいのにでしゃばってきた軍のエステバリスもあっさりと戦艦ごと全滅した。

 『アレ』のそばじゃな、電子機器がうまく働かなくなっちまうんだそうだ。

 唯一『アレ』に対抗できた・・・あ〜、なんだろね。え〜と・・・確か軍の特殊部隊って事になってるんだったな。

 その特殊部隊も一人を残してもう殆ど壊滅寸前。お手上げだったね。

 

 

 その時さ。

 噂の「戦神」専用機、カスタマイズされたエステバリスじゃなくて

 特殊部隊の使ってたのと同じ型の機体だったけど、色はやっぱり黒だった。

 両手にふた振りの剣を構え、ただ立ってるだけなのに雑魚どもが気圧されてた。

 なんでか、アイツの姿を見なくても、声を聞かなくてもアイツだと確信できたね。

 それが「漆黒の戦神」としてのアイツの姿なんだって。

 

 で、アタシを包囲してた雑魚どもが・・・いちいち五月蝿い奴だね。

 特殊部隊の巻き添えでアタシも包囲されちまってたんだよ。

 雑魚どもが一斉に飛び上がって、アイツに群がる・・・群がろうとした。

 

 

 雑魚どもがさ、普通に攻撃すると単に爆発するだけなんだけど。

 アイツが斬るとパァッ、て綺麗に散るんだよ。花火みたいにね。

 でさ、アイツが通る軌跡に沿って次々と散ってくんだよ。

 パァッ、パァッ、って。

 本当、舞ってるみたいだったよ。

 夜空にくるくると回転しながら黒いシルエットが剣の舞いを舞ってた。

 そのふた振りの剣の先端に空を漂う星の種が触れる度、光の花が咲くんだ。

 

 

 そりゃもう綺麗なもんだったさ・・・・見とれちまってた。この、すれっからしのアタシが。

 で、そん時思ったのさ。

 「ああ、負けた」って。

 

 

 「ロベリア・カルリーニって女は、テンカワ・アキトって男に負けたんだ」

 

 

 ってな。

 

 

 

 

 勿論、負けっぱなしで済ませるつもりは無いさ。

 今度は逆にアタシがアイツをねじ伏せて、敗北を認めさせてやる。

 アイツをアタシの足元に這いつくばらせてやる。

 借りをまとめて叩き返して、ついでに利子もふんだくってやる。

 そうさ、あの時のアタシみたいな目で、「愛してる」って言わせてやる。

 この勝負、次に勝つのはアイツじゃない、このアタシだ。

 だってそうだろう? ・・・・そうだよ。そうでないと、不公平ってもんさ。

 

 

 

 ま、男として最低限の責任だけは取ってもらったけどな。

 

 

 

 

 アタシが変わっちまった経緯についてはこれで終わりさ。

 どうやってカタギになれたかとかそう言うのはまた別の話。

 どうだい? 自分で言うのもなんだが酒の肴位にはなったろ・・・・ん?

 

 ・・・・・・・・・・てめぇ。そのポケットのふくらみはなんだ?

 なんでもない? ンなわけねぇだろう。考えてみりゃさっきから妙にふところを気にしてやがるし、

 そもそもテメェが理由も無しにアタシに酒をオゴるってのがおかしかったな。 

 

 ははぁん。 

 

 さてはあのブン屋に頼まれやがったな?

 何度も追っ払われて、今度は搦め手で来やがったってわけか。

 やってくれるねぇ。あのブン屋も・・・・・・・・・・それからテメェもだ。

 まぁ、結構な礼金は弾まれてんだろうから治療費なり葬儀代なりの心配は要らねぇよなぁ?

 

 

 

 何顔ひきつらせてんだよ。・・・・・・ああ、笑ってたか?

 

 そうさ。

 人は変わるが変わらないモノだってある。

 例えばアタシのこの炎を操る力とかな。

 迫力もだって? 

 それだけ言えれば上等だ。

 ・・・・・・・・・・・・逝って来い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「燃え尽きやがれぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 

 

・・・・・・・・・・・ザザザザザッ・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 以上がロベリア・カルリーニ女史から得られたインタビューの全てである。

 辛うじて記憶媒体部分は無事であった為、今回我々は読者のもとにこのエピソードを届けることを得た。

 なお彼女がいかなる手段によって千年もの刑期を免除されたかは今回の調査では判明せず、

 この件に付いては追って更なる調査を行ないたい。

 

 追記

 今回取材に協力してくれたジャン・ポール・ベルモント氏(仮名)は現在入院中である。

 

 (「漆黒の戦神その軌跡 特別篇・戦神と巴里の女性達」より)

 

 

 某所にて

 

「ロベリアさんずるいです〜! これじゃあの人がロベリアさんの恋人だったみたいじゃないですか!」

「・・・・・・・・まあよかろう。ヤツとは一度決着をつけねばならぬと思っていたのだ(チャキッ)」

「ねえねえ、『責任』ってなんなの?」

「責任・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(ぽっ)」

「はは、おちびちゃんにはちょっと早い話かねぇ」

「あのぉ〜、『責任』ってぇ、なんなんですかぁ?」

「・・・・・貴女にもちょっと早い話かしらね」 

 

「ところでそのロベリアはどこだい? あたしゃしばらく姿を見てないけどさ」

「あら、そう言えばわたくしも・・・」

「探しましょう! この本の件に付いて問い詰めるんです!」

「落ちつけ。そなたはどうも直情に過ぎるのが悪い癖だぞ。

 故に、問い詰めるのは私がヤツを叩き斬った後まで待つがよい」

「叩き斬っちゃったら問い詰められないんじゃないかなと思う・・・・」

 

 

 また某所にて

「責任・・・・」

「責任・・・・・・・」

「責任・・・・・・・・・・・」

 

 

「「「「「「「「責任(怒)!?」」」」」」」」

 

 

 

 

 さらに某所にて

 

「ふふ・・・もういっぺん男の『責任の取り方』ってのを教えてやるよ・・・・」

「・・・・・! ・・・・・・・!! ・・・・・・・・・・・・・・?!%&#$*¥っ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ、流れ星。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

漆黒の戦神アナザー

ロベリア・カルリーニの場合

おしまい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

漆黒の戦神アナザー

エビヤン警部の場合

 

 

 

 

_初めまして。本日は取材に応じていただきありがとうございます。

 それではお名前の方を・・・

 

 はっ、巴里市警警部ジム・エビヤンであります。

 

_いきなりですがロベリア・カルリーニとは長い「お付き合い」だそうで。

 

 ええ、ロベリアを刑務所に叩きこむことこそ私の生き甲斐でしたよ!

 何年もの間、追っては逃げて逃げては追ってと丁丁発止の追跡劇を演じたものです!

 

_でも、結局彼女を捕らえたのは「漆黒の戦神」ことテンカワアキトだったわけですよね?

 

 ・・・・・・貴方もなかなかツッコミが厳しいですな。

 そーですよ、結局ロベリアを捕まえる事にも更正させる事にも警察は何の役にも立たなかったんですよ。

 役立たずだの無能だのカカシだの給料泥棒だの気楽な親方三色旗だの・・・

 我々だって市民を守るべく危険にも超過勤務にも安月給にも耐えて日夜努力してるのに・・・(ぶつぶつ)。

 

_ま、まあそれはさておき・・・(汗)。

 

 (ぶつぶつ)・・・雨にも負けず、風にも負けず、雪にも夏の暑さにも負けず・・・

 

_あの〜〜〜〜(汗)。

 

  ・・・・一日にクロワッサンとコーヒーと少しのサラダを食べて満足する、そう言う警察官に私はなりたい・・・・・

 

 ・・・・あ、申し訳ありません、なんでしょう?

 

_「漆黒の戦神」に対する印象を伺いたいのですが(汗)。

 

 彼ですか・・・初めて会った時は「シャノワール」で働いてましたな。

 あそこのオーナーとは懇意にさせて頂いておりまして、よく通ったものですが。

 

_そう言えば当時“サフィール”ことロベリア・カルリーニに知らずにプロポーズなさったとか?

 

 い、いえ、それはその・・・・なんですな。

 事実が多少歪んで伝わっております様で・・・・・・・おほん。

 ああそうそう、テンカワアキトくんの話でしたな!?

 近頃珍しいほどの好青年で・・・非の打ち所のない若者でした。

 ただ、ひとつだけ欠点がありましたな。

 

_ほう? 女グセの悪さ以外にですか?

 

 本当にツッコミが厳しいですな・・・・・・・これがわかったのは彼と別れた後ですが、

 実は彼はロベリアでさえも敵わぬ巴里一の大泥棒だったのですよ。

 なにしろ、最後にとんでもないものを盗んで逃げていきましたからな。

 

_とんでもないもの!? いったいそれは!

 

 それは、ロベリアのです!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_・・・・・・付かぬ事をお伺いしますが、日本の埼玉県警にお知り合いは?

 

 日本人でしたらICPOにひと・・・・ゲホゲホ。

 あ、いや、職務上の機密に抵触する恐れがありますのでお話いたしかねますな。

 

_ふ〜ん。まぁ、そう言う事にしておきましょうか。では最後に『彼』に一言どうぞ。

 

 さっぱり噂を聞かんが元気かな? 巴里の市民は皆君に感謝してるよ。

 話を聞くに魅力的な御婦人の方々に迫られているそうだからそろそろ身を固めてはどうかね?

 ああ、もちろん一人だけですぞ? 法と正義に仕える者としてそれ以上は認めがたい。うむ、断じて。

 そのうちぜひ奥さんと一緒に、いいかね、奥さんと一緒にだぞ?

 巴里に来てくれたまえ。心から歓迎するよ!

 

 

 

 なお、その後の調査により同氏が「組織」入りの血判状にサインしていた事が明らかになった。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まだ諦めていなかった模様である。

 

 (「漆黒の戦神その軌跡 特別篇・戦神と巴里の女性達」・・・・のオマケ記事より)

 

 

 

 

 

 

 

これで本当におしまい

 

 

 

 

 

 代理人の感想

 

 もとい、後書き

 はい、人呼んで「悪のメガネっ娘」こと、

 「さくら戦神ロベリア・カルリーニの場合」をお届けします(笑)。

 長くなったな〜。(執筆期間も長くなったな、とか言わないように)

 でも、長いのにはわけがありまして。

 ロベリアというキャラクターにその理由があるのですね。

 彼女は凄まじくひねくれた(ツッパった、の方がニュアンスとしては近いか)キャラクターで、

 たとえテンカワスマイルを以ってしても落せはしないだろう、

 仮に落せたとしても彼女のツッパリ=誇りがそれを表にあらわすことを絶対に許さないだろう、と。

 

 ですので料理・個人戦・ブラックテンカワスマイル・機動戦と四段構えで落ちていただきました(笑)。

 

 今「誇り」と言う表現を用いましたが、彼女のキャラクター形成において重要なのは

 「悪党」「ひねくれ者」「醒めた現実主義者」という以上に「悪党、ツッパリの誇り」、

 言わば「ワルにはワルのプライドがある」と言う点であると思います。

 極めて独特の、しかもしっかりした価値観を持っているんですよ、ロベリアというキャラクターは。

 ・・・・・まぁ、恋愛に関しては割とウブで純な(?)一面もあると思うんですが(笑)。

 

 実はロベリアの育ちについて、ゲーム中でははっきりと語られてはいません。私の創作です。

 ただOPのムービー等を見る限り、それほど遠くはないと考えていいかと思います。

 また「巴里を消滅させたアレ」ですが、よく考えると思いきりネタバレなのでああ言う書き方になりました(爆)。

 ロベリアでクリアした方はもちろん、他のキャラでのクリアでも大体は御理解頂けるでしょう。

 ゲームではあの後クライマックスに雪崩れこむわけですが、

 本人も言ってたとおり「ロベリアが変わった」話にはもう関係ないのでカットしました。

 

 

 オマケに出演していただいたエビヤン警部ですが、

 役どころはともかく御本人は某とっつぁんのようなコワモテではありません(笑)。

 「ガオガイガー」の護くんのパパを警官にしたような人の善い真面目な刑事さんです(声も同じ)。

 まぁ、他にコメディリリーフが少ない事もあって

 「怪盗を追いかけるマヌケな警察官」とか

 「おだてに弱い脳天気なオジサン」とか

 「若い女に入れ込んで人生を踏み外す(寸前だった)中年男」とか

 多少損な役割を割り振られてますけど(苦笑)。

 なお、ゲーム中ではちゃんと目を覚ます(※)んですが、

 このシリーズには基本的に真っ当過ぎる人間は出せないらしい(核爆)ので

 ちょっぴり壊れていただきました(爆笑)。

 

※ロベリアのシナリオをクリアした場合の事です。他のキャラの場合でもそうなのかはわかりません。

 

以下ネタバレ追記

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロベリアの心」ネタですが、これは「さくら3」のゲーム中に実在します(核爆)。

いいのかあかほりさとる(爆笑)。