"神により地の奥底に封印されし闇の国に――"



ルイズが口ずさむ詠唱に、リリスとアークデーモンが同時に僅かな反応を示した。
だがリリスは取りあえず疑問を忘れ、手早く空壁(バマツ)の呪文を唱え始める。
先ほどとは違い、今やキュルケやタバサも壁となって、残りの五人全員で中央のルイズへの攻撃を防ぐ陣形である。
タバサも攻撃は捨て、精神力の消耗を承知で風の障壁を全員に張り巡らせる。
そこにさらに空壁(バマツ)を重ねれば、ヤンやショウ並みとは言わないまでも、板金鎧を着て楯を構えた程度の防御力は確保できるはずであった。
ショウは突撃してくるレッサーデーモン共を一体でも多く無力化すべく、鳳龍の剣技を放つタイミングを伺っている。
ヤンは自分の仕事は変わらないとばかりに、いつも通り剣と楯を構えてルイズの右斜め前に立つ。
そしてキュルケは湧き起こる笑みを止める事が出来ないでいた。
何と言っても自分はフォン・ツェルプストーでルイズはラ・ヴァリエールである。数百年の因縁を持つ仇敵どうしである。
それが自分の使い魔に対してならともかく、こともあろうにこのあたしに、ツェルプストーに対してヴァリエールが『命をくれ』と頼み込んできたのだ!

(ここで見栄を張り通して見せなければ、あなた方に顔向けできませんわよねぇ、ご先祖様?)

ありったけの精神力をつぎ込んだ最高の炎の呪文を用意しながら、キュルケは不敵に、そして艶やかに微笑んだ。



「やれ! ルイズ以外を悉く殺し尽くせっ!」

まさか・・・な。だがたとえ疑惑だけであってもその存在を許す訳にはゆかぬ

一方ワルドが目を血走らせて絶叫するのと同時に、ルイズの詠唱を聴いたアークデーモンが僅かに眉根を寄せて呟いている。
アークデーモンは片手を軽く振り、レッサーデーモンのみならず、自らの直衛である奈落王(ヘルマスター)とその引き連れるヘルハウンドをも全て投入した。

問題はこの男だが・・・まぁよい、やりようはいくらでもある

殺せ、殺せと憑かれたように叫ぶワルドに冷たい一瞥をくれ、アークデーモンもまた呪文の詠唱を開始した。



"鳳龍百撃斬!"

突貫してくるレッサーデーモンども。
その先陣十数体の足が、チーズのように穴だらけになる。
ぽっかりと、赤い毛皮に黒く空いた穴から青黒い血が噴き出し、ショウの技を受けたレッサーデーモン達は悲鳴を上げて折り重なるように倒れた。
さらに後続のレッサーデーモンが足を取られて転び、それを免れたものは積み重なった仲間を迂回する事を余儀なくされる。

"百撃斬!"

再びショウの技が飛び、迂回した一隊がまたもや足を穴だらけにして動けなくなる。
直接動きを止めたのは全体の二,三割程度ではあったが、それでもそれらを即席の障害物代わりに用いる事で、ショウ達はレッサーデーモン共が殺到してくるのを遅らせる事が出来ていた。
敵はルイズを巻き込む広範囲攻撃呪文が使えないし、仮睡(カティノ)などの行動阻害呪文も通用しにくいだろうことは先ほどの攻防で証明済み。
実質物理攻撃しかできないなら、足を止めて動けなくしてしまった時点で遊兵(戦闘に参加できない戦力)と化す。
倒せずとも時間を稼げばいいのであるから、取りあえず戦闘に参加する敵の数を減らそう、という判断であった。

"百撃斬!"

もっとも、いかに鳳龍の剣といえど百を越す敵を全て食い止める事など不可能ではある。
雪崩を打って押し寄せたレッサーデーモンがついにショウ達を押し包んだ。その巨体が日の光を遮り、さながら壁に覆われたかの如くである。
ショウはそれでも剣を振るい、当たるを幸いと悪魔共を切り伏せる。だが切り伏せれば後ろに控える新手が現れるだけで、一向に彼らを囲む敵の数は減らない。
頼みの鳳龍の剣術も今日は爆裂波、透過波、烈風斬、そして数度の百撃斬と幾度となく行使を重ねており、最早限界に近い。
それでも、命を預けろと言われてそれに頷いた以上、その言葉を真実にするのが侍の矜持であった。

「ぐっ、がはっ!」

一方、ヤンがやっている事は先ほどとなんら変わらない。
彼の左側はショウだから良いとして、右側にいるキュルケを守るためには剣でフォローも入れなければならない。
自然、身体で受け止めなければならない攻撃は少なくなかった。
人間の二倍の巨体から繰り出される一撃は、駆け出しの戦士であれば即死しかねない勢いを持っている。
最高級の装備にリリスとタバサの防御呪文を受けたヤンがそれをまともに食らう事はほぼ無いが、それでもこんな無茶な戦い方を続けていれば、自然限界は遠くはないはずであった。
だがヤンは戦士(ファイター)である。
パーティで最も防御力に恵まれている彼をおいて仲間の楯になれる人間は居ない。
防御力と耐久力で言えば、ショウですら彼には一歩譲るのである。
正直ヤンはルイズがこの状況をどうにかできるとは余り信じていない。
それでもルイズを守るのは、それが彼のパーティにおける役目だからである。
愚直に己の役割を果たし続ける、ある意味それこそが戦士というクラスの神髄である事に彼本人はまだ気づいていない。
一方キュルケは初手で全力の火球を叩き込んだ後は火花を散らす呪文で敵の視界を奪い、行動を阻害し続けている。
タバサは風の障壁を維持しつつ回避に専念し、リリスは先ほどと同様に治療呪文の詠唱に忙殺されていた。



"古より絶えたることなき浄めの炎よ――"



レッサーデーモンの鉤爪に切り裂かれたキュルケの右腕に最後の大治(ディアルマ)を唱え、次に自らに通常なら解毒呪文と同レベルにあるために滅多に使われない回復呪文、治癒(ディアル)を唱えようとして、リリスの身体が硬直した。
あり得べからざる詠唱を、その耳が捉えたからだ。
今まで悪魔達は攻撃呪文を全く使ってこなかった。
ごく初歩の攻撃呪文や、高位僧侶の使う強力な単体攻撃呪文を除けば(そして悪魔族に僧侶系の呪文の使い手は決して多くない)、リリス達の世界の攻撃呪文は効果範囲が広すぎて、ルイズを巻き込まずに攻撃できないからだ。
だからリリス達もこの戦いにおいては敵が攻撃呪文を使ってくることはないと思っていたし、仮にそうでなかったらとっくの昔に決着がついていた事だろう。
だが。だがこの呪文は。
レッサーデーモン達の雄叫びの中で切れ切れに聞こえてくる、アークデーモンが詠唱しているあの呪文は!

「爆炎(ティルトウェイト)だとっ!?」

自ら魔術師呪文を操るショウも気がついたらしい。

「嘘っ!?」

顔色を変えたのはヤンだった。
身体が僅かに動きを鈍らせた隙にレッサーデーモンの拳がその身体を捉え、彼にくぐもった声を上げさせる。
爆炎(ティルトウェイト)。魔術師系7レベルに属する、リリス達の世界における最強の攻撃呪文である。
彼もそう何回も見たことがあるわけではないが、攻撃呪文の威力を減衰させる迷宮の魔法結界の中でさえ大概の怪物を、いや、無効化できなかったほぼ全ての怪物を即死させるだけの威力を有していた。
あの威力が自分たちに、それも魔法結界のない野外で向けられるとすれば、まず何がどうなろうと生きてはおれまい。
ショックにもかかわらず敵の攻撃を捌き続けるのはさすがであったが、それでもその顔色が青くなるのだけは止められなかった。
そして呪文に集中して周囲が全く見えていないルイズはともかくとして、他の二人にも事態の深刻さは伝わったらしい。

「って、ひょっとしてリリスの死言(マリクト)よりも強力なの? どうするのよ」
「ショウの技で、ここから狙い撃てない?」
「無理だな」

拳を打ち下ろしてきたレッサーデーモンを開きにしつつ、ショウがタバサの提案を退ける。
無論、この会話の最中も彼らはそれぞれの前にいるレッサーデーモンと交戦している。

「鳳龍の剣技は撃てて後1,2回。こいつ等を突破するには心許ないし、かといってここから打てばレッサーデーモン共が楯になって一撃必殺とは――」
「いかないか」

舌打ちし、リリスはアークデーモンの方を一瞥する。
林立するレッサーデーモンの足を透かして、アークデーモンのまとった深緑色がちらりと見えた。
横殴りに振るわれた丸太のような腕をかがんでかわし、もう一つ舌打ち。

「しょうがないわね、やるだけやってみますか! ちょっと回復が遅れるのは勘弁ね!」

自らを鼓舞するように言い放つと、リリスは静寂(モンティノ)を唱え始める。
これが効けばよし、効かなかった時は・・・考える必要もないだろう。
あらん限りの高速で呪文を詠唱するリリス。その集中を妨げないため、ショウはこれまで以上にカバーに専念する。
一方回復呪文が遅れるのを覚悟し、ショウを除く残りの三人は回避と防御に専念することにした。
短いながらも息詰まるような時間が過ぎる。
最高位の呪文である爆炎(ティルトウェイト)に対し、2レベルの呪文である静寂(モンティノ)の詠唱時間はかなり短いとはいえ、詠唱を始めたのは相手の方が大分先である。
効くかどうかの前にまず、相手が詠唱を終える前にこちらの詠唱が終わるかどうか、リリスは時間とも戦わなくてはいけなかった。



"我に仇なす邪なる者共の――"


"静寂(モンティノ)!"

追い詰められた集中力のゆえか、本人も信じがたいほどの驚くべき早さと正確さでリリスは静寂(モンティノ)の呪文を詠唱し終えて見せた。
相変わらず、林立するレッサーデーモンの足の隙間から見える深緑色のビロード。
それに向け、リリスの渾身の呪文が放たれる。
だが、詠唱は止まらない。
リリスの呪文により自らの周囲に発生しようとした魔力をアークデーモンのまとっていた魔力の力場が打ち消し、沈黙の力場が発生する前に魔力を消滅させ、呪文の効果それ自体を打ち消してしまったのだ。
時を同じくして、レッサーデーモンの後方でこれらを督戦していたヘルマスターがレッサーデーモン達から離れる。
それは、アークデーモンの呪文の完成がごく近い事を意味していた。

「ワルド!」

いちかばちか、やけくそ気味にショウが声を張り上げる。

「アークデーモンの呪文の詠唱をやめさせろ! このままではルイズも巻き込まれて死ぬぞ!」
「何!?」

無視するかとも思ったが、即座にワルドは行動を起こした。
自らの斜め後ろに向き直り、アークデーモンに指を突きつける。

「おい! その呪文の詠唱を辞めろ! 今のままでも奴らは全滅できる!」

残念だが、ワルドよ。あの娘は『虚無』である可能性がある。我らはそれを見過ごす事は出来ぬ

「・・・なっ! 何故お前達がそれを!?」

愕然とするワルドの様子に得心したか、アークデーモンが頷く。

やはりか。それ以外の事であれば従ってもやろうが、あれだけは別だ。人間如き羽虫など群れた所でどうという事はないが、あれは、我らの仇敵――いや天敵と言っていい存在の血と力を受け継ぐものゆえにな

「知った事か! 今すぐやめろ!」

もう遅い

「やめろぉぉ、ぉ?」

ワルドの絶叫が唐突に途切れる。
アークデーモンはそれを不審に思ったが、爆炎(ティルトウェイト)の呪文の詠唱はもう残り僅かであり、それを完了させる事を優先する。
それが命取りだった。
詠唱し終わる直前、アークデーモンの周囲を影が覆った。
思わず上を仰ぎ見た彼の視界一杯に広がるのは、頭上から落ちてくる土の壁。

彼の失敗は三つあった。
一つ、周囲を守っていたヘルマスター達をショウ達との戦いに全て投入した事。
二つ、これは彼ばかりではなく異形の者の通弊だが、人間の力を甘く見すぎていた事。
三つ、そして彼の立つ位置が、フーケのゴーレムの残骸だった土の山のすぐそばだったという事。

土の山から突然生えてきた、長さ十五メイルの土の腕。固く握られた、直径四メイルはあろうかという拳が上から十分に加速をつけ、アークデーモンに叩き付けられる。
呪文の精神集中のさなかであり、何より完全に意表を突かれたアークデーモンはそれを回避する術を持たない。
次の瞬間、詠唱を完了させることも、自分に降りかかった事態を理解することもなく、彼は文字通りハエのように叩き潰された。



地響きが森を揺らす。
アークデーモンを叩き潰した拳の一撃は、レッサーデーモンの足下を透かしてショウ達からも見えていた。

「あれは!」

警戒と喜びが入り交じった顔でショウが叫ぶ。
地面の染みとなったアークデーモンのすぐそば、森から姿を現したのはやはりフーケ。“土くれ”のフーケであった。

「はっ、人間様を舐めんじゃないよ羊野郎」

その姿を認め、混じりっけなしの歓喜と共に、ワルドが叫ぶ。

「よくやったフーケ! 先ほどの失敗は帳消しにしてやるぞ! さぁ、ショウ達にとどめを刺せ!」
「馬鹿かあんたは。何であたしがあんたに味方しなくちゃいけないのさ」

喜びもつかの間、冷め切った表情でこちらを見下ろすフーケに、その顔が強張る。
次いでその顔が朱に染まり、怒りが口を突いて出た。

「おのれ、裏切ったかフーケ!」
「は、お坊ちゃんには分からないだろうねぇ。あたしは故あらば寝返るのさ!」

もっとも、フーケはこの男の味方になったつもりは最初からない。
脅迫して仲間に引き込んだくせに裏切るのか、とはお笑いぐさであった。
それならそう言えばいいものだが、まぁその辺は言葉の綾である。

「なら貴様も死ね! やってしまえ!」

ワルドの命令と共に金属板の触れ合う音がして、フーケは取り囲まれた。
先ほどの攻撃で生き残っていたフィーンドと、後退していたヘルマスター、そしてヘルマスターが引き連れるヘルハウンドが半円状に包囲する。
森へ逃げ込むしかないであろうこの状況で、だがフーケは見下したような笑みを浮かべた。
その視線の先で、15メイルの巨大な腕が音もなく持ち上げられる。
今度は拳ではなく腕全体で悪魔達を叩き潰そうと巨大な土の塊がフーケのすぐ横の地面に叩き付けられ、だが流石に警戒していたか、後ろからの不意打ちをフィーンドやヘルマスター達は左右に分かれて避けた。

「ふん、そんな攻撃が通用・・・」

ワルドの言葉が途中で途切れる。
奇襲をかわされてなお消えないフーケの笑み。
その意図する所を正確に理解したからであった。
ひょい、といった感じの気安さで、地面に叩き付けられた腕の手の平にフーケが飛び乗った。
フィーンドの剣やヘルマスターの鞭が届くよりも、二呼吸ほど早い。
ワルドが呪文で仕留めろと改めて命令するよりも早く、腕は力一杯、オーバースローでフーケを放り投げた。



"現(うつつ)の身を焼き尽くし――"



腕ゴーレムの手の平に乗ったフーケは自分の身体が一瞬重くなり、次いで「フライ」で空を飛んでいる時はまた別種の、自由落下している時と同じ浮遊感が全身を包んだのを感じた。
放り投げられる時の加速による負荷は思ったほどでもなかった。
虚勢を張るまでもなくニヤリと笑みを浮かべる余裕さえあったほどだ。

「あんたらもブッ飛びな、ベイビー」

飛んでいく自分を見上げ、そろって間抜け面を晒すワルドとデーモン達に、フーケはアルビオン流の侮辱の仕草をしてみせる。
次の瞬間、轟、と空気が唸りを上げた。
地面すれすれ、大気を引き裂いて、フーケの作った「腕」が大きく振り回される。
それに巻き込まれたフィーンド共が派手に吹き飛ばされ、その鎧が卵の殻のように容易く砕けて中から黒い煙が上がったかと思うと、次の瞬間鎧ごと黒いもやと化して空気に溶け込む。
拳の通過する空間から僅かに外側にいたものの、運悪く先端が頭をかすめたヘルマスターは角をへし折られ、首を異様な方向に曲げて地面に転がった。
腕と地面の間に挟み込まれたヘルハウンドたちは、炎を吐く暇もなくすり潰されて赤い染みとなった。
そのまま、人間で言えば裏拳のような形で拳がワルドに叩き付けられるかと見えた瞬間、障壁に叩き付けられたその拳が木端微塵に砕け散った。
障壁の中にはやはり衝撃は全く伝わらなかった物の、さすがに4メイルの拳が十分な加速を付けて飛んできたのは刺激が強すぎたらしく、足をもつれさせて転んだのが唯一のワルドに与えたダメージだった。

「チッ、やっぱりダメかい。こうなりゃあの娘の呪文に期待するしかないかねぇ」

舌打ちしながらフーケはくるりと身体を宙で反転させ、着地点を探る。
丁度真っ正面に一体のレッサーデーモンの顔面があるのを確認すると、再び身体をひねった。
放物線軌道を描いて飛んできたフーケを叩き落とそうと、横殴りに振るわれた腕を軽やかに蹴り、さらに高く飛ぶ。
レッサーデーモンが上を仰ぎ見てこしゃくなチビを叩き潰そうと腕を振り上げた次の瞬間、その目と目の間にフーケのブーツの硬いつま先がかかと近くまでめり込んでいた。
瞳孔も虹彩も無い目を眼窩から半ばはみ出させ、血とは違う透明な液体を両目から溢れさせてレッサーデーモンが動きを止める。
クリティカル・ヒット。
烏兎と呼ばれる必殺の急所を正確に貫き、フーケは一撃でレッサーデーモンの生命活動を停止せしめたのである。
そのまま額を蹴りつけてつま先を抜き、後方に身を翻して僅かに自由落下した後、今度は山羊よろしく髭の生えた顎を蹴りつける。
後ろにゆっくりと倒れていくレッサーデーモンにはもはや目もくれない。フーケはそのまま音も立てずふわりと、ショウ達の作る円陣の内部、ルイズのすぐ横に着地した。

「この期に及んで呪文に没入してるのは頼もしいんだか危なっかしいんだか・・・」

ルイズを一瞥して呆れ気味にぼやいたフーケに、ショウが声を掛けた。

「味方、ということでいいんだな?」
「取りあえずの間はね。あのうさんくさい髭野郎が気になったから戻ってきてみれば、ドンピシャだったよ」
「可愛い可愛い妹のルイズが心配になったのよね?」
「うぐっ」

キュルケの指摘に思わず言葉を途切れさせたフーケに、パーティ全員が程度の差はあれ笑みを浮かべる。

「笑うな、この小娘ども!」
「いえいえ感謝しておりますわ『お姉様』。一つ借りておきます」
「・・・・・・・チッ」

舌打ちをして防御に加わろうとしたフーケに、今度はタバサが声を掛けた。

「確認したいけど、あなたを動かしていたのはワルド子爵?」

ピン、とフーケの中でひらめく物があった。
心の中で邪悪な笑みを浮かべつつ、言葉を選んで吐き捨てるように口に出す。

「ああ、そうさ。顔と名前を知ったのはついさっきだけどね。
 ある晩、仮面を付けたあいつがやってきてね。妹と、妹が育てている孤児達を人質に取って、あたしに貴重な魔法のアイテムを盗み出し、奴の計画に荷担するように命令したのさ。
 おかげであたしは盗みをやるハメになり、長い事命令に従い続けなきゃいけなかったって訳だ」

リリスとヤン、キュルケが深い同情を表情に浮かべた。
タバサは僅かに眉を寄せたが何も言わなかった。
確かに嘘ではない。嘘ではないが、いくつかの事実を隠して誤解を招くような表現を故意に用いているのも事実である。

「家族を人質にとって犯罪行為を強要するなんて、分かってはいたけど本気で最低な男ね、子爵!」

視線は目の前のレッサーデーモンから離さないまま、キュルケが叫んだ。リリス達もそれに同調する。

「泥棒の罪を全部フーケに押し被せて、自分は貴重なマジックアイテムを手に入れ、旨い汁を吸っていたのね! それともレコン・キスタや『牙の教徒』の資金源だったのかしら!」
「貴族にしちゃ気さくでいい人だと思った俺が馬鹿だったよ! ルイズちゃんがお前みたいな最低の悪党に騙されなくて本当に良かったぜ!」
「ちょっと待てーっ!?」
「「「待つか!」」」

いつの間にかフーケの全ての犯罪の責任を押しつけられる形になったワルドが絶叫するが、無論それで納得するキュルケ達ではない。

「・・・まぁ、似たような事はやっていたのだろうし、大した問題ではない」

計画通りとばかりにほくそえむフーケを一瞥し、誰にも聞こえないように、タバサがぼそりと呟いた。



"その魂を御身が下へ還さんがために――"


濡れ衣を着せられてアウアウ言っているワルドを置き去りにしたまま、パーティはレッサーデーモンとの白兵戦を続けている。
ルイズの詠唱ももはや終盤ではあるが、防御呪文があるとは言え前衛職ではないリリス・キュルケ・タバサには流石にダメージと疲労の色が濃い。特に防御力と体力に劣るタバサ・キュルケは既に限界に近かった。
だが、ここへ来てのフーケの加入はほつれる寸前だった防御線をぎりぎりの所でつなぎ止めることになる。
といってもタバサやキュルケに代わって壁になった訳ではない。
そもそも本来忍者はこうした防衛戦を得意としない。
特に装甲で敵の攻撃を防ぐのではなく身のこなしで敵の攻撃をかわす無手の忍者にとって、足を止めて敵と殴り合うのは自らの長所を殺すのに等しいからである。
だから、ルイズを守るためにフーケが出来る事があるとすればそれは味方の防壁の前で縦横無尽に動き回り、味方への圧力を減らす事・・・言ってみれば機動防御とも言うべき戦術であった。

ショウやヤンは自分で何とかして貰う事にして、キュルケはまずリリスの正面のレッサーデーモンの膝の正面に、足に体重が乗ったタイミングで真っ直ぐ突き蹴りを放つ。
異形の者とは言え、人間と同じ形状をしていれば身体構造も大差はない。
膝の半月板が割れる感触がフーケの足の裏に伝わった。
レッサーデーモンの巨体の頑丈さ故か、蹴り抜かれた膝が本来の正反対の方向に曲がる、とまでは行かなかった物の動きは大幅に鈍った。
苦鳴を上げるレッサーデーモンは放置し、次いでフーケが狙ったのはキュルケの右前方にいる一体のふくらはぎ。
全身の回転を乗せた鋭い回し蹴りがふくらはぎの急所に決まり、レッサーデーモンが悶絶して膝を突いた。
無論その時にはもうフーケは身を翻し、キュルケとリリスの間をすり抜けてタバサの目の前の一体に向けて走り出している。
そのまま跳躍し、背の低いタバサを軽々と飛び越えたフーケを、レッサーデーモンの黄色い眼が捉えた。
先ほどまでのフーケの行動を見ていたか、小癪なハエを叩き潰そうと横殴りに腕を振るう。
だがそれもフーケの予想の範疇。
先ほどの再現のように身をひねり、襲ってきた腕を蹴ってさらに一段跳躍。ひねりを加えつつ空中で倒立してレッサーデーモンの頭の横を通り過ぎたかと見えたその瞬間、倒立した姿勢から裏拳気味に繰り出された手刀がレッサーデーモンの首を綺麗に切断していた。
一抱えもある山羊の首が落ち、青黒い血を噴水のように吹き上げながらレッサーデーモンが倒れた時、フーケは既に次の獲物のあばらを数本まとめてへし折っていた。
今フーケは味方を守る必要もなく、自由に動き回る事が出来る。
対してレッサーデーモン達はショウ達を包囲するため肩が触れ合うほどに密集し、満足に回避行動を取る事も出来ない。
しかも倒す必要はなく、最悪牽制するだけで良いのだから、忍者であるフーケにとってこれ以上有利な戦場もそうはなかった。

しかし、フーケの参入によってぎりぎりの所で戦線の崩壊を防いだとは言え、それもあくまで一時の事でしかない。
攻撃の密度は減ったものの、疲労と負傷が蓄積しているのは変わらなかった。
そしてリリスにもタバサにも、それを完全に回復させるだけの治療呪文の持ち合わせは既にない。
状況が累卵の危うきにあるのは変わらなかった。
そしてついに破綻が訪れる。
足下をふらつかせたキュルケがレッサーデーモンのパンチをまともに受けた。
肩口から入った一撃に鎖骨と肩を砕かれたか、左手をだらんと下げて物も言わずにうずくまる。
かさにかかって繰り出された追撃を、ヤンは割って入る事で自分の身体で防ぎ止めたが、それは当然戦線に大きな穴を作り出す事になった。

「くっ!」

"鳳龍双波斬!"

咄嗟にショウが繰り出した二条の気がヤンの持ち場の前にいた二体を仕留めるが、そんな物はその場凌ぎでしかない。
交代するべき控えがあちらにはまだ数十体残っているのに対して、こちらにはもう予備戦力はない。フーケを円陣に参加させてキュルケが抜けた穴をふさぐので精一杯であった。
だがそれとてもう限界だ。
今はまだ何とかなっているが、フーケという遊撃部隊が居なくなった以上、増した圧力に遠からずタバサかリリスが潰れる。
そうなれば、レッサーデーモンの巨体ならこちらの防御を抜けてルイズに直接手を伸ばせるようになってしまうだろう。
そうなったらいかにショウ達が踏ん張ろうとも、押し切られる。
ショウやヤンの顔にも既に疲労の色は濃い。今は内心の焦りを顔に出さないでいるのが精一杯であった。

(まだか!? ルイズ!)



"その大いなる炎の力を我に――"



それは呼びかけ。
自分の内面に存在する呪文の式への呼びかけであり、自らのうちに眠る魔力への、そして森羅万象に内在する大いなる魔力への呼びかけであった。
その時、ルイズは全てを理解していた。
何故自分が魔法を使うと常に爆発が起きていたのか。
何故四系統のいずれもが自分の物でなかったのか。
何故自分はこのような呪文を知っているのか。
全てはルイズのうちに、生まれた時から存在したのだ。
ただ思い出せなかっただけ。
ルイズはその記憶を持っていながら、思い出す事の出来ない性を持って生まれてきた。
だが、今彼女は本来必要な鍵なしにその枷を打ち壊し、自らの奥に秘め隠された真実(オカルト)へと到達したのである。

(ルイズ!)

それは幻聴か、それとも心と心が通じたのか。
トランス状態の中で響いたその声に、ルイズの意識は急速に覚醒してゆく。
この数ヶ月で聞き慣れてしまった、時として妙にルイズをいらだたせ不安がらせる、そしてどこか懐かしさを持った声。
ああ、そうだ、自分は常にこの声の持ち主と共にあったのだ――。
そこでルイズの意識は完全に覚醒した。
固く閉じられていた瞳を開き、それとともに唱え続けていた呪文の最後の一節を力強く詠唱する。

"我に貸し与え給え!"

閃光が走った。
ショウ達の周囲を光る魔力力場が覆い、これから生み出される魔法効果の唯一の安全地帯とする。
次の瞬間、震動と、熱と、轟音と、目を開けていられないほどのまばゆい光が走り、周囲を埋め尽くしていたレッサーデーモンは、悉くその光の中に消え去った。



"爆炎(ティルトウェイト)!"



先述したように、爆炎(ティルトウェイト)はショウたちの世界における最強の攻撃呪文である。
この世界と次元の壁一枚を隔てた異空間において原子核融合を発生させ、その際に生じる熱と衝撃波だけをこちらの世界に呼び込み、効果範囲内の全てを焼き尽くす。
放射線や放射性物質を発生させない代償としてその効果範囲や熱量は本来のそれと比して微々たるものではあるが、それでもその威力は凄まじい。
一千度を越える炎は火炎に耐性のある炎の巨人や火竜でさえ即死させ、衝撃波は人間サイズの生物ならば問答無用で吹き飛ばし破砕する。
この「熱と衝撃波をこの世界に呼び込む」と言うところが鍵だ。実はルイズが魔法の失敗によって起こす"爆発"は即ち不完全な爆炎の呪文なのである。
未だショウ達のうちでは誰も知らぬ事ではあるが、ルイズは虚無の使い手である。
その血統に始祖ブリミルが隠した呪文の情報はルイズの中に不完全な形で発露しており、本来魔法を発動する際に例えば「ロック」や「レビテーション」と言った個々の呪文に注がれるべき魔力を全てバイパスによって「爆炎」の呪文に導いてしまう。
それで何故本来の爆炎の呪文が発動しないのかといえば、ルイズの精神には「爆炎」の呪文へ魔力を導く経路だけが存在し、肝心の「爆炎」の呪文そのものはごく不完全な形でしか存在しなかったためである。
魔力を注ぎ込んだ量に応じて異空間での核融合は発生するものの、それによって生じる熱と衝撃波をこちらに呼び込む為の次元の経路を充分に開くことが出来ない。
結果としてこちらの世界に呼び込まれるのは衝撃波だけ、しかも本来の数百分の一にしか過ぎない。残りは次元の壁を越える際のロスによって相殺されてしまう。つまりそれがルイズの発生させる「爆発」という現象の正体なのである。
ならばもし呪文が完全なものとなり、その威力を十全に発揮すればどうなるか?
答えは今、まさに目の前にあった。

呪文によって異界からもたらされた爆炎と衝撃波が、ルイズ達を中心にあっという間に広がり、レッサーデーモンを、森を、そしてワルドをも殆ど一瞬のうちに飲み込む。
超高熱の火炎が全てを焼き尽くし、大地を揺るがす衝撃波があらゆる物を打ち砕く。
時間にすれば僅か数瞬であったろう。
だが炎が消えた時、そこに残っていたのは巨大なクレーターのみであった。



眼下に広がるのはガラス化した緩やかな斜面。爆炎の余熱か、キラキラと陽光を反射するその表面に陽炎がたゆたっている。
距離にして二百メイル、深さにして十メイルほども下った後はまた緩やかに登りに転じ、数百メイルばかり向こうまで続いている。その先にようやく森が姿を現していた。
ショウ達以外、クレーターの中で動くものは何もなかった。

「信じられない・・・これがたった一つの呪文のもたらした結果だって言うの?」

呆然とキュルケが呟く。タバサもまた呆然と、魂が飛んだかのようにただ眼下の風景を見つめていた。

「多分、そうだと思います・・・結界の外で爆炎(ティルトウェイト)唱えたのを見た事なんて俺もないんですけど」
「・・・」

同じく呆然とするヤンに対し、リリスは無言のままで疲労した脳をフル回転させていた。
ありえないのだ。
威力がではなく、悪魔族が一匹も生き残っていないという事が。

何度も繰り返しているように殆ど全ての悪魔族は呪文の魔力を打ち消す対抗魔力の力場を身にまとっている。
これは強力な呪文、あるいは強力な術者であれば抜ける、と言ったたぐいの物ではない。
1レベルの小炎(ハリト)であろうと7レベルの爆炎(ティルトウェイト)であろうと、また唱えたのが1レベルの駆け出しであろうとマスターレベルの達人であろうと、同じ個体が持つ対抗魔力であれば常に同じ確率で無効化に成功、あるいは失敗する。
例外は一切の魔力抵抗を許さない禁断の呪文、変異(ハマン)と大変異(マハマン)くらいの物である。

つまり、生き残った=呪文無効化に成功した個体が居なければおかしいのだ。いかに爆炎の呪文とて、対抗魔力で打ち消されれば一切のダメージを与える事は出来ない。
レッサーデーモンの対抗魔力はアークデーモンほどではないにしろ決して低くはない。ましてやあれだけの数が居て全部が全部無効化に失敗するはずがないのだ。

(敵の策? それともハルケギニアでは私たちの知っている呪文が異なる働き方をするという事?)

悩みつつ、周囲を注意深く観察するも答えは出ず、また動く者の姿も、異形の者が出現する徴候である空間の歪みも捉える事は出来なかった。



ふうっ、とルイズは大きく息をついた。
魔力と共に全身に満ちていた高揚感は消え、重い疲労がずっしりと肩に乗っている。
全身から発汗して、ブラウスや前髪が張り付いて気持ち悪かった。
だがそれでも、達成感があった。
満足感があった。
自分はやり遂げたのだ。
自分は、魔法が使えたのだ!

ショウと目があった。微笑みかけてくるショウの胸へ、ためらうことなく飛び込む。

「お、おいルイズ?」
「私・・・私ね・・・」

戸惑うショウの声など聞こえていない。
泥や返り血のはねた鎧も気にならない。
今のルイズはただ、満足だった。
ショウの首に手を回し、顔を近づける。
幸せそうな顔が、ショウに近づいてくる。

「な、なんだ一体?」
「私ね、私・・」

背伸びすれば唇と唇が触れ合いそうな距離。
視線が絡み合い、ショウが身体を硬くした。その頬が赤い。
キュルケがぐっと拳を握り、リリスも両手で目を隠しつつ、指の間から二人を注視している。
タバサは無表情を装いつつも、耳がほのかに赤く染まっていた。

「私・・・・・・・・・・・・・・なんだっけ?」

あれ、と心の中で首を傾げるルイズ。
あの時自分は何かを見たはずなのだ。
全てを知って、全てを理解し。そしてどうやら、その全てを忘れてしまったらしい。

(・・・・ま、いっか)

そのまま湧き起こる衝動に身を任せ、ルイズがもう少し背伸びをしようとしたその時。

「使い魔とのキスなど、許さぁぁぁぁぁんっっっっ!」

喉も裂けよとばかりの絶叫が響く。
がぁぁっ、と吠える獅子のような表情で――言っている事は些か情けないが――両手を振り上げて。
一行のすぐ近く、ガラス化したクレーターの底を突き破ってワルドが復活した。




(・・・・きす?)

ルイズが気がつくと、目の前にショウの顔があった。

「きゃぁぁっ!?」

我に返ったその瞬間、ルイズは悲鳴と共に思い切りショウを突き飛ばし、突き飛ばされたショウは不意を突かれてたたらを踏んだ。
一方突き飛ばした本人は逆にバランスを崩して尻餅をつく。
尻の痛みに顔をしかめながら、ショウをにらみつけるルイズ。

「ちょっと、何するのよショウ! ぼやっと見てないでさっさと助け起こしなさい!」
「・・・ヤンさん。俺は生まれてこの方、今ほど不条理な言いぐさを聞いた記憶がないんですが」
「ショウ君。男はね、みんなそうやって大人の階段を上っていくんだよ」

憮然とするショウに対し、その肩を叩いて慰めるヤンはどこか悟りきった表情だった。
一方女性陣からは怒濤のブーイングが飛ばされている。

「いいところだったのに!」
「空気を読まないわね!」
「敗者は潔く消えるべき」

読んだから出てきたのであるがそれはさておき、当然キュルケたちの抗議になどワルドは耳を貸さない。

「許さない! 許さないぞルイズ! 僕の目の黒いうちは、使い魔との接吻など絶対に許さないっ!」
「キ、キスなんかするつもり無かったわよ! さっきだってキュルケに無理矢理・・」

慌てて立ち上がったルイズが顔を真っ赤にして反論するのを、一転して色っぽい目つきになったキュルケが遮った。

「あら、照れる事無いじゃないの。ささ、私たちやあんな馬鹿に遠慮せず、さっきの続きをぶちゅーっと行きなさい、ぶちゅーっと」
「あんたは黙ってて!」

がぁっと吼えるルイズ。
キュルケが色っぽい目つきのままそれを柳に風と受け流すのは年期の差か。

「ル・・・イ・・・ズ・・・」

震えるワルドを尻目にキュルケがまた何か言おうとした瞬間、ルイズとキュルケが同時に顔色を変えて口を押さえた。我慢しきれず、うずくまって嘔吐し始める。
他の五人も、程度の差はあれ表情を変えて向き直る。
ワルドの方から吹き付ける物があった。
それは余りに濃密な、邪気。
悪魔族がまとう、異界の気配。
ショウとリリスは脂汗をかくだけで済んだ。
ヤンとフーケは顔から血の気を引かせている。
タバサはかろうじて吐き気をこらえたが、立っているだけで精一杯。

邪気はワルドの後ろから吹き付けてきていた。
空間に揺らめくいくつもの巨大な影、その大きさに比例するかのような巨大な邪気。
それだけの邪気が異界より漏れてきているという事は、即ちそれだけ巨大な次元の穴を必要とする存在が召喚されつつあるという事。
今はそれも希薄な、向こうが透けて見える影に過ぎず、実体化も今までの召喚と違って遅々としたものだったが、その姿だけでもショウ達全員に嫌悪感と恐怖を与えるには十分だった。
身の丈はおよそ10メイルあまり。ねじれた水牛のような角、ドラゴンのような青みのかった金属色の表皮、背に広がる翼。瞳孔のない目。
鼻はなく、口からは無数の鋭い牙が生えている。鋼の束のような筋肉が全身を包み、鋭い爪と太い尾の先は不気味にぬらぬらと光っていた。
それが六体。

「グレーター・・・デーモンっ!」

ヤンが絶句した。
グレーターデーモン。
アークデーモン以上の呪文無効化能力は呪文を全くと言っていいほど通さず、鋼殻の如き表皮の硬度は巨竜の鱗をも凌ぐ。
巨体から繰り出される攻撃は見た目以上の打撃力を誇り、時としてマスターレベルの戦士をも即死させる。
そればかりか爪牙からは身体を麻痺させるものと、呼吸障害を起こして体力を奪うものの二種類の毒が分泌され、速やかに犠牲者を死に至らしめるのである。
加えて5レベルまでの魔術師呪文を使いこなすほどに知能は高く、異界から仲間を召喚して無限に増殖する能力すら備えている。
およそ弱点という物が存在せず、また集団で行動し無限に増殖する習性が故に、知られている中では最強最悪ともされる恐るべき悪魔であった。
通常なら、例え召喚の書があったとしても容易く召喚できる存在ではない。
やろうと思えば先ほどの二回の大量召喚を合わせたよりも更に莫大な精神力の消費が必要となる。
加えて綿密に計算して構築された召喚陣、専用の結界と触媒、長時間の詠唱と儀式が不可欠だ。
だがそうした要素を無視して無理矢理にでも次元の穴を広げ、これだけの召喚を為せる精神力が今のワルドにはあった。

キュルケが仕掛けたショウとルイズとの強制キス。
そしてたった今のキス未遂。
嫉妬。
嫉妬。
嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬。
心の奥よりわき上がる嫉妬が憎悪と怒りを引き出し、それが更に新たな負の感情を生み出す。そしてそれら全てが魔法を発動するための精神力としてワルドの糧になる。
ワルドの人並み外れた強靱な精神だからこそ抱えこむことのできた、巨大な闇。
それが今、蒼き獣魔の姿を取って具現化しようとしていた。



「くっ・・・・!」

ヤンやリリスと違い、ショウは直接それを知っている訳ではなかったが、きわめて危険な存在だと判断するのには邪気だけで十分だった。
剣を脇に構え、刺突の構えを取る。

"鳳龍――"

井上真改が唸りを上げる竜巻を帯び始めたのと同時にカシナートを構えたヤンが突進している。
ワルドが反射的に身構えるが、ヤンの視線は彼を見ていなかった。
後ろのグレーターデーモンが狙いだと気づき、ワルドが即座に「ライトニング・クラウド」を詠唱する。
閃光の二つ名通りの速度で完成されたそれは、一直線にヤンに向かって伸び、直撃した。
だが止まらない。
常人なら即死でおかしくない所を、ヤンは僅かに速度を落としただけで走り続ける。

「戦士(ファイター)舐めるなよ、魔法使いっ!」

怒号と共に振り下ろされたカシナートが空気を轟かせ、放たれた「気」の塊が実体化しつつあるグレーターデーモンに叩き付けられる。
だがバシッと重い音を立て、ヤンの放った気の放出はグレーターデーモンには届かずに四散する。

「障壁(シールド)!」

リリスの叫びにワルドが安堵の笑みを浮かべようとする寸前、ヤンより僅かに遅れてショウが剣尖から渾身の一撃を繰り出していた。

"渦旋斬!"

ワルドの頭上を飛び越え、ヤンの攻撃が当たったのと同じ場所にショウの生み出した横殴りの竜巻が叩き付けられた。
全てをすり潰す「気」のうねりがヤンの一撃を受けた障壁に当たり、さしもの障壁もその形をゆがめる。
散らされた威力の余波が数メイルに渡ってクレーターの底をえぐり、ガラス化した大地を飛び散らせた。
だがそれでも障壁は耐えて見せた。ショウの渦旋斬が生み出した気の竜巻が晴れた後、障壁の中のグレーターデーモンには傷一つついていない。

「・・・ふう。ヒヤリとしたがこれで今度こそ終わりだ。此奴等が実体化した時こそ、お前達の最期よっ!」

冷や汗をぬぐいつつ、ワルドが改めて宣言した。
それに反論する声はショウ達からは上がらない。



ヤンが後退し、ショウと並んで再びパーティの前衛に付く。
一方渦旋斬を繰り出したばかりの剣を再び引き、なにがしかの技を放とうと気を集中させた途端、ショウは肩に置かれた手によって引き戻された。
振り返れば、リリスが真剣な表情でこちらを見ている。

「多分グレーターデーモンをどうにかしようとしてるんだろうけど無理よ。今、奴らはワルドを守っているのと同レベルの障壁に守られている。いくら貴方でも・・・」

言葉が途中で途切れて消えた。僅かの間無言でうつむいていたショウが顔を上げる。

「帰還(ロクトフェイト)は使えるようになりましたか?」

その問いに、リリスは力なく首を振って答えた。
ショウはしばし瞑目し、ようやく立ち上がったルイズに視線を送る。

「ショウ?」

何かを感じ取ったのか、ルイズが不安そうにショウの名を呼んだ。
その顔を見ながらショウは思う。
この意地っ張りでやかましくて後先考えないあるじにとって、信頼していた婚約者の裏切りは計り知れないショックだったに違いない。
だがそれでもこのあるじは自分の『義』を貫き通した。
悲しみと痛みに耐え、為すべき事を為した。

「なら、ここで俺がおくれを取るわけにはいかないだろうな」

ショウの鞘が、爆発によってえぐられた地面に落ちた。
自ら外して、捨てたのだ。
リリスの顔色が変わる。

「ショウ!」
「ルイズを頼む」

振り向いたショウの、恐らくは初めて見せた年相応の初々しい微笑み。
それが、リリスから言葉を奪った。
ルイズは無言のまま、ワルドに歩み寄るショウのその背を見つめるしかできない。
しゃがみ込んだリリスにキュルケが声を掛ける。

「・・・リリス?」
「侍にとって、刀は己の命を。そして鞘は命が帰る場所を意味するの・・とと」

独り言のように、誰にともなく語りかけながら、リリスがショウの捨てた鞘を拾い上げる。
それはそのまま人を撲殺できそうなほどに堅く、そして重かった。
非力な司教とは言え、いっぱしの冒険者であるリリスが持ち上げようとしてよろけたほどである。

「だから侍の持つ鞘は、他のクラス、例えば戦士であるヤンのそれに比べて恐ろしく頑丈な作りになっているわ」
「そうみたい、ね・・・・え?」
「わかった?」

キュルケが息を呑む。タバサは無言のまま、強く杖を握りしめた。ヤンとフーケも表情を強張らせている。
そしてルイズは頭ではその言葉の意味する所を理解していながら、心がそれを受け入れることを拒んでいた。

「すなわち侍が鞘を捨てるのは刀を戻す必要が無くなったとき・・・」

やめて。そのさきをいわないで。
そんなルイズの心の声は、リリスには届かない。
いや、届いていてもリリスはこれを言わなければいけない。

「つまり、死を覚悟したという事よ」

ルイズがショウの方を振り向いて、大きくあえぐ。精神的にも、そして肉体的にも限界に達している彼女からは、もはや言葉を紡ぎ出す余裕さえ失われている。

残酷な事実をルイズに突きつけて、だがリリスは何故か頭のどこかで楽観的な自分がいるのを感じていた。
奇妙な既視感をリリスは抱いている。
九割九分確実に彼の命を奪うであろう、彼が繰り出そうとしている奥義。
そもそも今の彼では成功するかどうかも怪しいのではないかと思えるそれ。
にもかかわらず、それでもどうにかなりそうな気がしていた。
あの不器用で、けど頼りになる『彼』が『今度も』何とかしてしまいそうな気がするのだ。
リリスはまだ、自分のその認識の意味する所に気がついていない。


ワルドまで十数歩の位置まで来た所で、ショウは足を止めた。大きく足を開き、敵に正対する。剣を大上段よりさらに大きく振りかぶり、切っ先を背中に垂らす。
目がかすむ。
体に力が入らない。

(やれるかな・・・と)

心の中で呟く。

"疑念は即ち失敗に通ずる!"

弱気が頭の隅をチラリとかすめた瞬間、剣術の伝授で聞き飽きるほどに聞いた父の叱咤が脳裏に甦り、ショウは苦笑した。

「ハイハイ父上、解ってますよ――」

どれだけの葛藤があろうとも、父こそはショウに全ての剣技を仕込んでくれた恩師である。
その伝授された剣技でこの窮地を切り抜けられたのなら、少しは父親に対する感情を和らげても罰は当たるまい。
加えてここでしくじれば、父親以前にルイズにあわせる顔がない。それは侍として、いや男として面子が立たないにもほどがあるだろう。
この期に及んで剣を構えるショウをワルドが見下し、あざけり笑う。

「ふははは、無駄だと言っているだろう、使い魔。お前の剣などこの僕には通用しない!」
「無駄かどうかは、やってみなけりゃ――」

言葉が途中で途切れる。だが、その目が口以上に雄弁にその意志を語っていた。

(わからんさ!)

ガンダールヴのルーンが、光り輝く。



余裕たっぷりに左手で『召喚の書』をもてあそぶワルド。
その視線は既にショウの方を向いてすらいない。
ぎり、とショウの奥歯が鳴った。
奴は間違っていない。
これからショウが放とうとしている技は鳳龍の剣の奥義の一つである。だがそれ故に難度も消耗も桁外れに大きい。成功させるには、元より技量も気力体力もそして剣の格すらもが足りていなかった。
残り少ない全身の気を奮い起こす。
気の使いすぎでがくがくと震える膝に無理矢理活を入れ、命の最期の一滴までをも刃に注ぎ込むつもりで剣を構える。
だがそれでもなお届かない。
いかに才があり、また実戦を経ていようともショウは未だ十三才の少年に過ぎない。
技量とはまた別の次元で、体も心も未熟なのである。

「相棒!」

その時意外な声を聞き、ショウが目を走らせた。
果たして、声の主はデルフリンガーであった。
ワルドがうち捨てた後どこをどう吹き飛ばされた物か、ショウとワルドとデルフで正三角形を作るような位置に鞘ごと突き刺さっている。

「デルフか。お前も大概頑丈だな」
「うわ、あっさりしてるんだね、あんなのに巻き込まれてどうにか生きながらえたってのに」

不満そうなデルフであったが、普段ならともかく今のショウに彼の愚痴に付き合っている余裕はなかった。

「言いたい事はそれだけか? おしゃべりなら後にしろ、今忙しい」
「いやいやいやいや、俺これからいい事言うから! 聞き逃しちゃ駄目よ? 絶対役に立つはずだぜ!?
 相棒! ガンダールヴの力は心の力なんだ! 何でもいい、感情を昂ぶらせろ! 敵を倒す闘志、仲間を守る気持ち、怒り、悲しみ、何でもいい! それがルーンを光らせ、おまえさんの力になる!
 守るべきものを思い浮かべろ! 倒すべき敵を見据えろ! そういった目標に対して、何でも良い、ありったけの感情をぶつけるんだ! とにかく心を震わせな、俺のガンダールヴ!」

些か焦り気味に、どこか必死で勢いよく喋るデルフリンガー。

「・・・どよ? 分かった? もう一回話そうか?」
「いらん」

にべもなくデルフの申し出をはねつけつつ、だがショウは何とはなしに腑に落ちる物を感じていた。
ヤンのルーンが輝き、ゴーゴンを一撃で屠ったラグドリアン湖畔の戦闘。
ショウの烈風斬が通常の数割増しの威力を発揮したモット邸での戦い。
アニエスと戦った時も、ケイヒと対峙した時も、このルーンは強く光り輝いていたという。

(ならば今度も力を貸せ、ガンダールヴのルーンとやら! 俺が伝説の使い魔だというなら、それなりの力を見せてみろ!)

ワルドを見る。
フーケの家族を人質に取り、犯罪を強要していた男。
ルイズを手に入れるためならばトリステイン一国を皆殺しにすると言い切った男。
レコン・キスタに通じ、牙の教徒に組し、そしてルイズを裏切った男。
ルイズを騙し、ルイズを悲しませ、ルイズを傷つけた男。
心の中に湧き上がったのは怒り。
ガンダールヴのルーンが放つ光が、目に見えて強くなる。
それと共に、ショウは自らの中に力がみなぎり、更に意識がより絞り込まれて集中していくのを感じる。

次に思ったのは仲間達の事だった。
到底20代半ばとは思えない程落ち着きが無くてすぐに手が出る乱暴者だが、気立てが良くて面倒見の良いリリス。
いきなり殺してしまったにもかかわらず、それをかけらほども根に持っていないお人好しのヤン。
他人にちょっかいを出したりからかったりするのが大好きで、でも本質的には情に厚いキュルケ。
反対に物静かで他人と関わろうとはしないが、友人が危機に陥れば全力で救おうとするタバサ。
二度もショウ達を助けた、悪人ぶってはいても家族の事を見捨てられない優しいフーケ。
そして、誇り高く意地っ張りで負けず嫌いな彼の主。
自分の事も顧みず、考えなしに危険に突っ込んでいく、危なっかしい少女。
自らの身の程もわきまえず、それでも筋を通そうとする困ったほどに真っ直ぐな主人。
だが、その真っ直ぐさがショウは好きだった。
尊敬していると言ってもいいかもしれない。
どうしようもない現実を目の前にしても自らの『義』を貫こうとするその姿勢は愚かであり滑稽であったが、それ故に純粋で尊かった。
ああ、そうだ。
ショウは、そんなルイズが好きなのだ。



ルーンの輝きは今や小手からあふれ出し、ショウが全身にまとった「気」そのものまでをも輝かせる。
全身の輝きが空気を震わせ、さながら遠雷のような轟きを生む。それは後ろに控えるルイズ達の腹の底に響き、全身をその震動の中に包み込んでいた。
ことさらに余裕を作って見せていたワルドも『召喚の書』をもてあそんでいた手を止め、ショウに視線を戻す。

「・・・これは」

その視線を正面から見返し、ショウが静かに口を開く。

「何となくわかったよ、ワルド」
「ほう?」
「何故ブリミルがそれを封印したか・・・それは、この世界に不必要な物だからだ!」
「ふん・・・戯言を。何をしようとしているかは知らんが、いかにガンダールヴとは言え剣士如きに今更何が出来る。
 僕はこの『召喚の書』によって神となったのだ! たかが剣士など、もはや僕の足下を這う蟻に等しい!」

ショウは無言のまま答えず、だが全身から生まれる轟きはいよいよ強く大気を震わせ、全身の輝きは最早直視できないほどに強い。

「行け!」

ふっ、と。
ショウの叫びと共に、大気を揺るがしていた震動が消えた。

"鳳龍"

唐突に訪れた無音の中。
黄金に輝くガンダールヴが、乾坤一擲の一太刀を振り下ろす。

"虚空斬!"

“何か”が駆け抜けた。
だがそれを知覚できたものは誰もいない。それを放ったショウですら。
代わりにその場にいた全ての者が見たのは、ショウの真改が澄んだ高い音を残して鍔元から砕け散る様だった。
力尽きたかのように、ショウが膝をついた。息を止めて成り行きを見守っていたルイズが慌てて駆け寄る。
荒く息を吐くショウを哀れみすら込めた視線で見下ろし、ワルドは傲岸に言い放つ。

「実に愚かしい事だ。潔く諦めておけばそれほど苦しまずに済んだ物を」
「愚かしいか――どうか、自分の――身体で――確かめて――」

ワルドを指を突きつけながら立ち上がろうとして、ショウがよろける。

「ショウ!」

ルイズが駆け寄ろうとして、ショウの肩に手を掛けた所で呆然と立ち尽くした。

「え? ・・・きゃあっ」

そのままルイズは身体のバランスを崩したショウに巻き込まれ、一緒に後ろに倒れた。
立ち上がれず、呆然としたままのルイズの顔を駆け寄ったキュルケが心配そうにのぞき込む。

「ルイズ、大丈夫!」
「わ、私は大丈夫・・・でも・・・あれ・・・」

震える手でルイズが指さした先で、ぴしり、と音がした。
そこに存在するのはひび割れ。空中に、何もない所に唐突に存在するひび。
そのひび割れは布を引き裂くような音と共に見る間に広がり、ひびは切れ目に、切れ目は断絶になる。
その断絶はワルドと左手に持った召喚の書の間を断ち切るように存在していた。

「・・・馬鹿な」

ワルドが呆然と呟く。
『召喚の書』から与えられた知識が、彼にその現象がなんであるかを教えた。
だがそれでもなお、それは彼の想像を絶している。

「馬鹿な・・・空間を切り裂いただとっ!?」

断絶の中には何も見えない。
真っ白な空白。
人間には知覚できない空間の裂け目。
ショウの太刀が切り裂いた世界の裂け目。
『存在』と『存在』の間の何もない、空間すら存在しない断絶。
それはとりもなおさず『無』そのもの。
その『無』の切り口が、ワルドの存在する空間と彼の左手の『召喚の書』が存在する空間をワルドの左腕ごと断絶し、グレーターデーモン達が召喚されようとしている次元の門を真っ二つに切り裂いていた。

唖然とする一同の耳に、風鳴りのような音が響きはじめる。

「な、何この音・・・」
「やばっ!」

叫んだのはリリス。
風鳴りは見る間に強くなり、それと共に空気が動く。
それはすぐに空間の裂け目へ向かう暴風となって彼らを押し流そうとし始めた。
タバサは、この期に及んでもなお崩さない冷静な表情のまま自らの使い魔に問いかける。

「どういう事?」
「『無』よ! 空間が切り裂かれて『無』が出現したものだから、空間はそれを塞ごうとしているの! ましてや次元の壁に穴を開け、異界から怪物が召喚されようとしていた矢先よ!
 何もかもまとめて吹っ飛ばして、その後で空間を修復しようとしているの! 吸い込まれたら一巻の終りよ!」
「あー。よくわからないんですけど、もうちょっと簡潔に」

要領を得ない顔のヤンに頭をかきむしるリリス。代わって主人がそれに答えた。

「要するに すごい ヤバい」
「よくわかりました」
「ともかく吸い込まれたらどこに放り出されるか分からないわ! みんな固まって!」
「って言われても!」

既に風は立っていられないほどに強くなり、ショウ達を裂け目の中へ押し流そうとしている。
キュルケが手を伸ばしたが、ショウとルイズには届かない。却って押し流され掛け、ヤンがその手を取って自分の方へ引き寄せる。

「くっ・・」

どうにか起き上がったショウをルイズが背中から支えようとするものの、逆に彼女もショウにすがりついて立っているだけで精一杯だった。
空気が唸りを上げるその中心で、ワルドは憎悪に顔をゆがめていた。

「ショウ! おのれショウ! 僕の夢を! 僕の母親を!」

ショウへの怨念。事破れた無念。それらがワルドの口から叫びとなってほとばしる。
そしてその眼前で互いを支え合う二人の姿。
それは、それこそがワルドの欲しかった物。
もう、今となっては彼には届かないもの。
だが怨念と呪詛をまき散らす時間すら彼には残っていなかった。
ずるり、と。
白い断絶が彼の身体を引っ張るのを感じ、ワルドは一瞬何もかもを忘れた。

「い、いやだ・・・ルイズ! ルイズ! 助けてくれルイズ!」

一転して顔を恐怖に染めたワルドがルイズに向けて右手を伸ばす。
だが次の瞬間、ルイズの見ている前でワルドの顔が断絶に飲み込まれ、僅かに間を置いて空中をかいていた手も飲み込まれた。

「ワルド・・・」

だがルイズ達にも他人を気遣う余裕はない。
リリス達は重装備のヤンを中心に一塊になって空気の流れが作り出す暴力に抵抗している。
だがショウ達は二人、加えてショウもルイズも限界まで気力体力を消耗している。
しゃがみこんで風の抵抗を減らすので精一杯だった。

「せめて――刀があればっ!」

だがショウの愛刀井上真改はもう無い。その柄も先ほど倒れた時に手を離し、断絶に吸い込まれてしまった。
リリス達も自分たちが吸い込まれないようにするので精一杯だし、こんな時に役に立ちそうな土メイジであるフーケももう精神力が残っていない。
だが、ショウのせめてもの願いに、助けの手は意外な所からさしのべられた。

「ふふ、俺を呼んだかい、相棒!」
「・・いや、お前があれば少しは役に立つだろうが・・まさか取りに来いってんじゃないよな?」

先ほどのガンダールヴについてのアドバイスは役に立ったが、それでもこれまでがこれまでだけに、デルフに対しては些か白い目にならざるを得ないショウである。
だがデルフリンガーはそんなショウに対してかちかちと鍔元の金具を鳴らし(ちっちっち、と指を振っているつもりかも知れない)、自信たっぷりに言い放った。

「へっへっへ、見てろよ相棒、オレ様の実力を――いち、にの、どぉりゃぁぁぁっ!」

気合い一閃。普段自力で鞘を出入りする時とは比べものにならない加速を付け、デルフリンガーが勢いよく鞘から飛び出す。
しゅぽんっ、と音を立ててばね仕掛けのおもちゃのように飛び出したそれは、一直線にショウの元に向かっていた。

「そら、俺を使え相棒っ!」

飛んできたデルフリンガーの柄をとっさに右手でつかみ取り、逆手で深々と地面に突き立てる。
左手はいつの間にかルイズを抱えていた。
デルフリンガーが胸を張って――剣だから胸はないが――嬉しそうに喋る。

「へへん! どーだいっ! 俺が役に立つって事が少しは分かったか!?」
「わかった、わかったから少し黙っててくれ」

苦笑しつつショウは飛ばされぬよう、柄を握る右手とルイズを抱く左腕に力を込めた。
これなら耐えられるか、そう思った瞬間目の前で断絶が大きく広がる。


「手を離さないで! 万が一にも戻れた時のために、ばらばらになっちゃ駄目!」
「ワーッ!」
「キャァッ!」
「テファーッ!」
「あいるびーばーっく」

それまでとは比べものにならないほど勢いを増した空気の流れに、ヤン達がそれぞれに絶叫を残し、断絶に飲み込まれた。
タバサだけは無表情のまま親指を立てていたような気がするが、この際それは無視する。

すがりつくルイズの手に力がこもるのを感じ、ショウが腕の中のルイズを見下ろした。
こちらを見上げていたルイズと目があう。
口が動いているので何かを言っているのだろうが、勢いを増したこの暴風の中ではまるで聞き取れなかった。
だが、かすかに微笑んだその表情に安心感が満ちているのは見て取れる。
微笑みを返そうとして、その顔が歪んだ。
ついにデルフを突き立てていた地面そのものがえぐり取られ、ショウ達ごと断絶の中に吸い込まれたのである。
それでもルイズを強く抱きしめ、離れないようにする。
ルイズもショウを固く抱き返す。
そうして意識を失う寸前、ショウはフードを深く下ろしたクロークの男を見たような気がした。



ルイズとショウは宙に浮いていた。二人とも気を失っている。
二人の横に同様に浮いているのは、先ほど離れた森の中から様子をうかがっていた謎の男である。
高度は数百メイル程か、足下に広がる森やそれを貫いて延びる街道、平野に広がる大都市や山の隅にへばりつくようにして存在する集落が一望できる。
何かを探すようにそれらの光景を見渡していた男が、何かに気がついたかのように顔を上げた。

「ほう、運かそれとも呪文か・・私が助けるまでもなかったな。大した物よ・・・そしてワルドも、か。奴も『有資格者』だったと言う事――まこと惜しむべき事よ」

リリス達5人がこちらの世界に戻った事を感知し、その悪運に感嘆の溜息をつくクロークの人物。
こちらの空間に戻る時にヤンが真っ逆さまに落ちて首の骨を折っていたりするのだが、流石の彼にもそこまでは察する事は出来なかった(ちなみに彼がクッションになったおかげで他の四人は無傷である)。
人知を越えた存在である彼だったが、それでも全知全能にはほど遠い。
故にワルドもまた戻ってきた事までは察知できても、それ以上を知る事は出来なかった。
だが元より彼は知る事は出来ても手出しする事は出来ない。
彼にできる事は、ただ状況を動かせる人間を選び、手助けするだけなのである。今のように。

「それはいいんだけどよう、旦那。俺どこかであんたに会った事無かったっけ?」
「さぁな。忘れているなら大したことではないのだろうよ」

そして唯一目が覚めている(?)デルフリンガーが男に話しかけた。
男はそれまでの口調を一変させ、面白げにそれに応える。
特徴のないクロークのフードから覗く、蒼い美髯が笑みを浮かべている。

「うーん、どっかで引っかかるよーな気がするんだよなー。その昔何回か会ったような・・・」
「何か思い出せそうかね」
「んー・・・・・駄目だ、思い出せね」
「そうか」

その口調には旧友に対するような気安さがある。

「ところでデルフリンガー、私がこうして彼らを助けた事は内密にしておいてくれないか」
「何で?」
「何でもだ」
「・・・ま、いっか」

それを諾意と取り、男は頷く。

「さて、この辺でいいか」

山に広がる森の中に三人と一本は降り立つ。
男は一本の大樹の根元を選び、ショウとルイズを並べて寝かせた。
二人ともその呼吸に乱れはなく、死んだように眠っている。
その間には鞘に収められたデルフリンガーが置かれていた。

「今はゆっくり休むがいい。新たなる試練はすぐに訪れようほどにな・・・」

一人頷き、男は踵を返す。
その姿が森の中に消えてしばらく。
しゃこん、と音を立ててデルフリンガーが鞘から顔を覗かせた。

「起きろ、相棒! 起きろ! 娘っ子! 朝だぞー! おはようの時間だぞー!」

わめき続ける事しばし。
まずルイズが呻いてうっすらと目を開けた。
ごろりと寝返りを打って騒音の元が目の前のデルフリンガーだと認識すると、寝ぼけた顔のままおもむろに鞘を蹴っ飛ばす。

「いてっ! 何するんだよ娘っ子!」

蹴飛ばされたデルフの柄がショウの鎧に当たり、ショウもまぶたを開いた。

こちらはルイズのように寝ぼけたりはせず、すぐに意識を覚醒させた。
素早く上半身を起こし、周囲を見渡す。
その目がルイズを捉え、安堵の色を浮かべた。

「・・・・・あれ? ショウ? ・・・・そうだ、ここはどこ? キュルケ達は!? ワルドはどうなったの!?」
「あー、落ち着け娘っ子。そこらへん分かる限りで答えてやっからよ」

がばりと身を起こし、パニックを起こしかけたルイズをデルフがなだめる。
言われたルイズは深呼吸をして心を落ち着かせ、髪を手櫛で整え、ショウは胡座の姿勢になり、デルフリンガーを見下ろした。

「じゃあまず最初に、ここはどこだ?」
「知らね」
「私たちを助けたのは誰よ?」
「覚えてね」
「・・・あれからどれくらい経ったの?」
「わかんね」
「・・・リリス達やワルドはどうなった?」
「さーね」

いくつか質問する間に、ショウとルイズの視線は等しく剣呑なものになっていった。

「ねぇショウ、この剣売り払って新しいの買う気ない?」
「刀はこっちじゃ手に入らないからな・・・鍛冶屋でここの金具をねじ切って貰えば余計なおしゃべりは出来ないようになるんじゃないか?」

本気で話しているようにしか見えない二人の様子に、デルフリンガーが震え上がった。

「待て、待て待て待て待てよ相棒に娘っ子! 本当にわからねぇんだって!
 相棒が空間ぶった切ったもんだから俺たちゃ元の世界から吸い出されて、世界と世界の間をさまよってたはずなんだよ!
 それがこうしてどこかの世界にたどり着いて、それはいいけど一体どこの世界かはわからねんだって!
 時間にしても、世界と世界の間には時間ってもんがないから、どれだけ時間が経ったかは調べてみないとわからねーし。
 それに別々に吸い込まれたんだからあっちの嬢ちゃん達の行方なんか俺っちにゃわからねってば!」

ねじ切られてはたまらないと早口で喋るデルフリンガーに、ショウとルイズが視線を合わせる。
取りあえず納得したようでお互いに頷きあい、ルイズは何かに気がついたかのように動きを止めた。

「ちょ、ちょっと待って。別の世界ってことは、私たちハルケギニアに戻れないの!?」
「そーかもしれないね。ま、どこも大差ないよ。十分生きていけるって」
「ちょっと、そんなの無いわよ! もうお父様にもお母様にもちいねえさまにも会えないってことじゃない!」
「落ち着けルイズ。まだそうと決まった訳じゃ・・・」
「なによ! この考えなし! あなたが空間なんか斬るからいけないのよきっと!」
「なんだと? お前には言われたくないぞこの桃色頭! 大体お前だったらあの時何とか出来たって言うのか!」
「あー、また桃色頭って言った!」
「言って悪いか!」
「悪いわよ! ご主人様に向かってなんて口の利き方を!」
「ふん、聞きたいなら何度でも言ってやる! 桃色頭! 桃色頭! 桃色頭! 桃色頭!」
「こ、この童顔童顔童顔童顔童顔童顔!」
「あー、相棒に娘っ子。ちょっと現在の状況というものをだね」
「錆び剣は黙ってなさい! この馬鹿犬にはご主人様に対する敬意という物を教えてあげる必要があるわ!」
「主君がそれに相応しければ、敬意というのは自然と芽生えるものだがな」
「何よ女の子みたいな顔してるくせに!」
「だっ、誰が女顔だ! 大体それとこれとは関係ないだろうが!」
「ふふーん、だって可愛い顔してるじゃない!」
「それを言うならお前だって十六にはとても見えないだろうが! 案外実際は俺より年下なんじゃないのか!」
「なっ! なんですってぇぇぇぇっ! 誰がチビのペチャ胸のやせっぽっちの色気なしの幼児体型よ!?」
「そこまで言ってない! ちょ、待てお前やめろ!」
「あなたが謝るまで! 呪文を唱えるのをやめないっ!」
「あー、もう駄目だねこりゃ」

デルフリンガーが肩をすくめるように鞘に引っ込んだ次の瞬間、山に爆発音が轟いた。
同様の音が二度三度と響いた後、爆発は唐突にやみ、山は元の静寂を取り戻す。

「・・・あいたたた・・・・」
「・・・・はぁ、なんでこんな考えなしが俺の主なんだか・・・・」
「うっさいわねぇ・・・・」
「ま、娘っ子が考えなしに暴走するのは毎度の事なんだね」

煤だらけになったショウと煤だらけのデルフリンガー、同じく煤だらけになったルイズ。ルイズの頭には落ちてきた木の枝で出来た大きなたんこぶ。
さすがのルイズももう口論する気力は残っていないのか、ショウのぼやきにも力ない反論を返すだけだった。それでもデルフには一発蹴りを入れたが。
そんな二人と一振りは数十メイルも歩けば森が途切れて視界が開け、ガリア王国の王都リュティスが眼下に広がっている事にまだ気づいていない。
もはや立ち上がる気力も残っていない二人が爆発音を聞いてやってきた地元の猟師に発見されるのはこれから二時間ほど後、日が暮れる直前の事であった。
この国で彼らを待ち受ける新たなる運命と出会いを、この時二人はまだ知らない。

S)TATUS

ショウ Lv.16 G-SAM HUMAN AGE 13 

H.P. 53/152

STR 16
INT 14
PIE 13
VIT 15
AGI 15
LUC 14

SPELL(呪文使用回数)
Mag 9/9/7/4/3/0/0 
Pri 0/0/0/0/0/0/0

SPELL BOOKS(習得呪文)
Mag 1L HALITO 2L DILTO 3L MAHALITO 4L MORLIS 5L MAMORLIS 6L - 7L -
MOGREF SOPIC MOLITO DALTO MADALTO
KATINO LAHALITO MAKANITO
DUMAPIC

Pri 1L - 2L - 3L - 4L - 5L - 6L - 7L -

E デルフリンガー
E ますらおのよろい
E どうのこて


ルイズ Lv.10 G-MAG HUMAN AGE 16 

H.P. 53/53

STR 7
INT 16
PIE 4
VIT 16
AGI 14
LUC 17

SPELL(呪文使用回数) 
Mag 9/8/6/4/2/0/1 
Pri 0/0/0/0/0/0/0

SPELL BOOKS(習得呪文)
Mag 1L - 2L - 3L - 4L - 5L - 6L - 7L TILTOWAIT
Pri 1L - 2L - 3L - 4L - 5L - 6L - 7L -

E つえ
E がくいんのせいふく
E きぞくのマント


リリス Lv.16 G-BIS ELF AGE 17

H.P. 34/67

STR 12
INT 17
PIE 18
VIT 11
AGI 16
LUC 13

SPELL(呪文使用回数) 
Mag 9/9/8/4/0/0/0 
Pri 9/9/5/4/6/4/2

SPELL BOOKS(習得呪文)
Mag 1L HALITO 2L DILTO 3L MAHALITO 4L MORLIS 5L - 6L - 7L -
MOGREF SOPIC MOLITO DALTO
KATINO LAHALITO
DUMAPIC

Pri 1L KALKI 2L MATU 3L LOMILWA 4L DIAL 5L DIALMA 6L LORTO 7L MALIKTO
DIOS CALFO DIALKO BADIAL BADIALMA MADI KADORTO
BADIOS MANIFO LATUMAPIC LATUMOFIS LITOKAN MABADI
MILWA MONTINO BAMATU MAPORFIC KANDI LOKTOFEIT
PORFIC DI
BADI

E こおりのくさびかたびら
E ちいさなたて


ヤン Lv.12 G-FIG HUMAN AGE 18 

H.P. 0/118 DEAD

STR 17
INT 8
PIE 7
VIT 18
AGI 14
LUC 3

SPELL(呪文使用回数) 
Mag 0/0/0/0/0/0/0
Pri 0/0/0/0/0/0/0

SPELL BOOKS(習得呪文)
Mag 1L - 2L - 3L - 4L - 5L - 6L - 7L -
Pri 1L - 2L - 3L - 4L - 5L - 6L - 7L -

E カシナートのけん
E えいゆうのよろい
E まもりのたて
E にんたいのかぶと
E ぎんのこて
E かいふくのゆびわ
はじゃのゆびわ
 ほのおのつえ

キュルケ Lv.? N-MAG? HUMAN AGE 18 
タバサ Lv.? N-MAG? HUMAN AGE 15 

フーケ Lv.14 N-NIN HUMAN AGE 23 

ワルド Lv.? E-MAG? HUMAN AGE 26 


さぁう゛ぁんといろいろ 第八話 『跳躍』 了

さぁう゛ぁんといろいろ 第一部 『迷宮のハルケギニア』 完



KEEP TRYING, THE GOD SAVE YOU !!











投下終了。支援と掲載、代理に感謝。

タバサの笑みは「ハレのちグゥ」のグゥをイメージして書きましたが、いまいち上手く再現できませんでした。
絵って偉大だなー。
なお「ラ・ボエームのランチセット」に関してはプッチーニのオペラから何となく名前を貰っただけで、同じ名前の店があったとしても全く無関係であると申し上げておきます。念のため。


ワルドの告白シーン、アニ魔の主題歌をエンドレスで流しながら書きました。
口説き文句とか全然思いつかなくて結構苦しかったのに、書いてて凄く楽しかったです。
なんでさ。

作中の「転移を妨害する結界」ですが、詳細は不明ながらベニー松山のウィザードリィ小説「隣り合わせの灰と青春」で登場してますね。
ゲーム本編でも「最下層(最上層)には直接テレポートできない」ってのはお約束ですし、石垣版のギルの迷宮でもそんな感じの結界で迷宮が空間封鎖されてました。


アニエスさんメインの外伝を一本挟んだ後に第二部を開始する予定です。
あんな終わり方ですが、第二部までの間にメンバーが誰か死んだり行方不明になってたり、という事はありませんのでご安心を。
でも勿論ヤンは別です。




余談。
ゴーレムの重量については人間離れした体型のプロレスラー、ヘイスタック・カルホーン(183cm,287kg)を参考にその比率を20倍し(通常のおマチさんゴーレムより大型という設定なので)、普通の土(比重1.7)として計算してみました。
結果は3944トン。まぁ、こんなもんでしょうか? ちなみに通常のおマチさんゴーレム(30m)だと2200トンちょいでした。
誤差もあるし魔法ですからこれより軽かったり重かったりはするでしょうけど、目安にはなるかと思います。
後ヘイスタック・カルホーンって誰だって人はググってください。力道山の時代の人だから多分大半の人はご存じないと思いますけど。

ステータスですが、ルイズの場合はAGIRITY(敏捷性)は、割に運動能力が高そうなのでちょっと高め。STRENGTH(筋力)は見た目どおり。LUCK(運のよさ)もかなりありそうなのでこの数値です。
シュヴルーズが気絶した爆発を余り苦にしてないあたり魔法使いにしてはVITALITY(生命力)やHPも高いんでしょう。
Pietyは「信仰心」、僧侶系に必須の能力ですね。D&DだとWISDOM(賢明さ、判断力)だったりしますけど。つまりルイズは勉強もできるし知識もあるけど・・・げふんげふん。多分アン様もPIETYは低いと思います(ぉ
ショウの方は能力値設定は成長の途中という事を考慮して実際のゲームの16レベル侍よりはやや低めに設定しています。
まぁ厳密に適用していける訳でもないので双方参考程度に。




ではまた、忘れた頃に。



ウィザードリィを知らない人向けキャラクター解説と用語説明

アークデーモン

シナリオによって違うが、概ね準最強クラスの力を持つ悪魔族。大概は単体で現れる。
本作に登場しているのはティルトウェイトを用いている事からも分かるとおり、「ダイヤモンドの騎士」バージョンである。
「ベニー松山の小説と同じで結局かませじゃねぇか」とか言わないように。


レッサーデーモン、ガーゴイル、フィーンド、ダークライダー(&ダークスティード)

前二つはシナリオ#1「狂王の試練場」に、後ろ二つはシナリオ#3「リルガミンの遺産」に登場する悪魔族。
ダークスティードはダークライダーの乗っている馬。ゲームの上ではそれぞれ別のモンスターとして扱われている。
ガーゴイルはゲームでの分類は「魔法生物」なのだが、石垣版では悪魔族の一種として扱われている。某ドス島伝説の魔神兵(デーモンスポーン)のような、上位悪魔に作られた悪魔と解釈する事も出来るだろう。


グレーターデーモン

戦闘バランスが全般的によくまとまっている第一作「狂王の試練場」において、頭二つ飛び抜けた戦闘力を持つ最強最悪のモンスター。
防御力もHPも高い上呪文が殆ど全く効かず(一応20回に1回くらいは効くが)、その上強力な範囲攻撃魔法を連発してくるのは作中述べたとおり。
装備や編成にもよるが、4,5匹も出てくれば13レベル(一応ゲームをクリアできるレベル)程度のパーティでは逃げるしかなく、逃走に失敗すればそれだけで全滅を覚悟しなくてはならない。
ウィザードリィというゲームを象徴する存在の一つであり、他のシナリオでも頻出する。
単体のスペックではより上位のモンスター(例えばアークデーモン)に劣るとしても、数に任せたその強さが反則的脅威なのはどのシナリオでも変わらない。「戦いは数だよ兄貴」ってなもんである。
石垣版ではゲームのスペックをさらに越えた圧倒的な存在として描かれており、本作でもそれに準じる。


鳳龍虚空斬

鳳龍の剣技のうち、「斬」の三つの禁じ手の一つ。その威力に付いては作中の通り。


謎のクロークの男

現時点ではまったくの謎。つーことにしといてください。