FLAT OUT

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 金曜日の朝がきた。レースウィークの金曜日は、午前と午後に一回ずつのフリー走行があって、マシンのセッティングにその全てが費やされる。明人がレーシングスーツに着替えてガレージに入ると、やはり赤月ではなくてマリオが、同じように準備を始めていた。
 色々な事実が次々と明らかになっていく最終戦は、まるで最終戦のような雰囲気ではなかった。ルールの変更もふつうはシーズン開幕前や中盤での話だし、カラーリングの変更もそうだろう。相変わらずFAは明人の常識を覆す勢いで回っている。だが、いつもと変わらないこともあった。技術面でチームを率いるテクニカル・ディレクターが、マシンの下に潜り込んで何やらやっているのだ。
「星矢さん、おはようございます」
「おう、明人か」
 明人が声を掛けると、瓜畑は寝板の上に横になったまま声だけ返してきた。
 ふつう、テクニカル・ディレクターは工具を持たない。彼の仕事は統括で、ボルトを締めたりオイルに汚れたりするのはその範疇ではないからだ。だが瓜畑は、いつもそうやってメカニックの仕事に手を出している。

 少ししてやっとマシンの下から出てきた瓜畑は、人差し指を立て、「来い」と明人を裏のモニター室に招き入れた。そこで彼は、何台もあるモニターの一つを指差したのである。
「ブロック40型。最終スペックだ」
 それはエンジンの性能グラフである。たぶんファクトリーのエンジン・ベンチで計測した値なのだろう、出力は1200馬力を超えている。ただ、それだけなら明人も驚かなかった。
 空気とガソリンを混合して爆発させるレシプロ・エンジンは、元となる空気の密度によってずいぶんと馬力が変わる。標高の高いブラジルGPでは通常のスペックから100馬力落ちることもあるし、冬場のテストではいいタイムが出ても、夏場になると出なくなることもよくあった。グラフにはそれらが補正されて示されてはいるが、その補正値とここイモラの空気も、また違う。だからエンジニアは、エンジン出力の目安として回転数を見る。明人もそうだ。そして、驚いた。
「シフト・ポイント、2万2千回転?」
「そうだ」
 今年の開幕戦で使った去年のエンジンは、2万回転が限度だった。それが日本GPでやっと新型になり、2万1千になった。そこから何度かアップデートはあったが、半年とちょっとで1千回転も上がったのだ。もちろん他チームも同じくらい進歩しているからそれだけで勝てるとは言わないが、シーズン中にもこれ程進化したのは、FAという世界がそうさせたからであろう。そして辿り着いた最終スペック。
 しかし瓜畑は、それほど嬉しそうではない。むしろ悔しそうに、怒っているようにさえ見えた。
「すまねえ、明人」
 彼はそう言って、謝るのである。
「どうして? 投入時から1千回転もアップしてる。嬉しい限りだけど」
「それがこのFAでトップの回転数ならな。だが、残念ながらそれは俺たちじゃない。カヴァーリは2万2千5百まで回してやがる」
 エンジニアの戦いとは、そこなのだ。ドライバーの求めるスピードはタイムとなって目に見えるが、エンジニアたちにとってはそうではない。マシンはエンジンだけでは走らないし、タイヤだけでも無理だ。それらが絶妙に組み合わされることで驚異的なスピードを生み出す。回転数は、その中の一要素、エンジンの指標でしかない。
「でも、僕たちは彼らに勝ってきたよ」
「ああ、まあな」
 瓜畑は苦笑いを浮かべる。今でこそ技術統括の立場にある彼だが、生粋のエンジン・エンジニアでもあるのだ。それが専門分野でカヴァーリに勝てなかったとあって、一層悔しいのだろう。
 しかし、彼はすぐにそれを振り切るかのように「はっ」と息を吐いた。そして今度は、明人の肩をぽんぽんと叩くのである。
「まあ、今年はだめだった。仕方ねえ。だが来年は待ってろよ。なぁに、去年の夏から開発は始まってるんだ。今度こそFA随一のエンジンにお前を乗せてやるからよ」
「楽しみにしてますよ」
 過労死か家庭崩壊、それは昨今のFAでよく言われることだが、彼はそのどっちでもない。後者については少し危うい場面もあったと他のスタッフは言うが、それも明人の知らない昔のことらしい。今の瓜畑は、明人が知る限り、そんな弱みのない頼りになるテクニカル・ディレクターなのだ。
「そうだ、忘れるところだった。それで、最終スペックのことなんだが」
「………忘れないで下さいね」
 少しだけ彼の評価に修正を加えつつ、明人は椅子に座りなおす。瓜畑は、モニターの右上の方を指差した。エンジンの性能を示すグラフの、最高回転数が示されている辺りだ。
「ここだ、2万2千回転のところ。上が『RPM4』の通常パターンで、下が『RPM1』。RPM1なら、シフトアップは2万2300回転になる」
「RPM」はシフトアップのタイミング設定のことである。数字が小さくなるほど、高回転まで使ってシフトアップして、パワーを稼ぐのだ。とくに「1」は、一発の予選や、レース中に前を走るマシンを追い越す時などによく使う設定だ。ただ、これはエンジンをほぼ限界状態にする設定なので、使用制限があった。明人はいつも、エリナからの無線指示で使うのである。
「こいつは、完全なパワーベストのチューンがされてる。だから、エンジン寿命にマージンはほとんどない。フリー走行が少なめに見積もって45周、予選で6周だろ。ウォームアップで3周、それに決勝がアウトラップとフォーメーションラップを入れて64周。距離にすればだいたい570キロだ。そしてこのエンジンの寿命は、計算上は700キロ。これだけでも今までのエンジンより1割近く少ないが、RPM1をレースの10パーセントで使った場合は、さらに660キロまで短くなる。わかるだろ」
「つまり、ギリギリってことですね」
「そうだ。何もしなければ壊れないが、何かすれば必ず壊れる。その分のパワーだよ。フリー走行でセッティングがすんなりいけばいいが、そうでなければ、正直に言って、レースを走りきれるという保障はない。レース中にRPM1を多用しすぎても同じだ」
 なぜそこまでぎりぎりのスペックにしなければならなかったか、その理由は明白である。カヴァーリもまた、このサン・マリノに最終スペックを持ち込んでいるからだ。同じようにぎりぎりまで攻めたセッティングなっているであろうことは、容易に想像もついた。彼らとて、負けるわけにはいかないのだから。
「なんとかしてセッティングを見つけますよ」
「そうしてくれ。飛ばす必要がない時はできるだけ高いギヤで回転を抑えろ。それと、何があっても絶対にリミッターは超えるなよ。ボン、でお終いだ」
 瓜畑はそう念を押すと、明人の顔を確かめた。かつてないほどデリケートなエンジンを前に、さすがに明人も緊張する。彼は、それを和らげるように小さく笑った。
「俺はプロスペクターとは違うからな。勝てとは言わん。頑張れとも言わん。ただ、お前のやりたいようにやれ。俺はお前にこのエンジンを、マシンをやる。それでお前がやりたいことをやれ。そうしたら、結果がどんなだって後腐れはねえさ」
 まあ、他のメカニックたちがなんと言うかは知らんが――そう彼は付け加えた。
 やっぱり彼は職人だ。明人はそう思った。本当は統括ではなくて自分でエンジンを作っていたいのだろうが、たぶん、後継者を育てるためにそれを引き受けたのだろう。それらの人々が育つのに最もいい環境を、自分の手で提供するために。そうでなければ、技術面での最高責任者である彼が、若いメカニックとともにマシンの下へと潜り込みはしまい。
「少なくとも僕のタイトルは、プレゼントしますよ」
 明人が言うと、瓜畑は照れ笑いを浮かべた。


 1回目のフリー走行は午前十時からの1時間だったが、明人は走らなかった。普段あまり使われないこのコースは細かい砂や塵に汚れていて、セッティングができるほど路面が出来上がっていないからだ。
 逆に午後二時から始まった2回目のフリー走行で、明人は走り込んだ。天候は安定が予想されており、それが番狂わせを生じさせる可能性は低い。となれば、レースが行われる午後と同じ時間帯でテストできるのはここだけだ。土曜の午後は、もう予選である。
『最終スペックはどう、明人君』
 エリナの声がヘルメットの中に響く。
「いいよ。低回転も使える。RPM1は試さないでおいた方がいいかな」
『前にハリがいるから、彼がピットインしなかったら次のホームストレートでスリップに入ってみて。その時RPM1も使って、どのくらいまで伸びるか確認するわ。伸びすぎたらその分ダウンフォースに回しましょう』
「了解。それでいい」
 相変わらずエリナは用意周到だ。いや、たぶんチームはどこもそうだろう。
 ここイモラでどのくらいの最高速度が出るのか、それは事前のシミュレーションで既に分かっている。明人のマシンもそれに準じたギヤ比でトランスミッションが組まれているのだが、スリップストリームに入るとマシンの速度は弾かれたように上がるのだ。それがリミッター超えにならないよう、確認をする。どんなにテストで完璧な仕上がりを見せても最後の確認は現地でやるしかなく、それを考えれば、前に最高速度の高いカヴァーリがいるというのも実は計算ずくのことだったのだろう。
 そして、おそらくはエリナの思惑通り、ハリはピットロードに入らなかった。最終コーナー、クランク状のシケインになっている『ヴァリアンテ・バッサ』を、ハリはレコード・ラインを保持したまま走り抜けた。その後ろにぴたりとつけたのが明人である。
 2万2300回転でのシフトアップは、ほんの数百回転だけでも、まったく違った。エンジンは金切り声を通り越して、悲鳴である。ハリはまだ回転数を抑えているのか、遅いとすら感じた。
 あっという間に距離が縮まる。そして直線を半分も行かないうちに、明人はこのままでは近付きすぎると思い、ラインを変えて追い越しにかかった。速度は、たぶん時速320キロほどだろう。ギヤは7速、三段階のリミット・ランプは1段目が点いただけだった。

 第1コーナー、『タンブレロ』。去年ここを走った時には、感傷を全く持たなかったとは言わないが、平静としていた。ここで何が起きたのか、それを知らなかったからだろう。そこは父が死んだ場所であるというだけで、もう一人のドライバーの命運を絶った場所でもあることに、明人は気付かなかった。
 全自動のブリッピングが背後に響き、3速まで減速してまずは左コーナー。曲がりきろうかというところで右、そして全開の左。十二年前、時速300キロの左コーナーひとつだった『タンブレロ』は、天河治己の事故をきっかけに中低速のS字コーナーへと様変わりしていた。
「データはとれた?」
 続く直線へと出たところで、はやくも明人はRPMのスイッチを10段階の「10」まで絞っていた。エンジンはできるだけ温存しておきたいのだ。
『まあまあ、ね。ハリ君はまだ全開じゃなかったみたいだけど。スリップを使う暇もなかったでしょう』
「たしかにね。でも丁度いいところだと思うよ。今のでリミットの1段目だから、最後までスリップに入っていたとすれば、たぶん3段目が点くか点かないか、ってところまでいける。絶妙じゃないかな」
『そうね。一応予想通り。カヴァーリだって、まさかあれが限界とは言わないでしょうし』
 それはないだろうと、明人も苦笑いを浮かべる。なにしろサン・マリノGPは、モンツァのイタリアGPと並んでカヴァーリのお膝元である。赤いチームのファンにとっては、聖地に等しいのだ。となれば、チームとしてもここでタイトルを奪取するために並々ならぬ闘志を抱いているに違いない。
 明人はペースを落として、ハリに先行させた。ピットに戻る周回は極力回転を落としてエンジンを温存するように、とのお達しだ。
「そうだ、エリナ。後ろのバネを1ティック柔らかくしてよ。『トサ』の立ち上がりで跳ねるんだ。Pダンパーも少し柔らかく。サードダンパーはそのままでいいから」
『わかったわ』
 明人の指示が細かかったからか、エリナは少し笑いながら答えた。

 

 1時間のフリー走行の間に、明人が走ったのは23周だった。明日の午前中にある2回のフリー走行で、同じく20周前後して最終的なセッティングを決める予定である。今日のところは基本となる設定と、タイヤの選択を終えた。
 夕闇が迫り、明人がそろそろホテルに引き上げようとしていた頃である。ガレージに着いた人物がいた。赤月である。
「やあ、明人君。遅れてすまなかったね」
 いつもの飄々とした笑顔を振りまきながら、彼は言う。しかし明人には、彼のそれがいつもよりずっと儚く見えた。もしかしたら今までも彼は、内の辛さをそうやって隠し続けてきたのかも知れないと、そう思ったからだった。
 ああ、うん、と明人がなんとも言えない表情で返したものだから、赤月は困ったように薄笑いを浮かべた。
「誰かから話を聞いた?」
「うん、まあ……」
 なるべく知られたくはなかったのだろう、だから明人も、プロスペクターから聞いたということは言わなかった。もっとも、赤月もだいたい察してはいたように見える。
「まあ、君には話しておいてもいいだろう」、彼はそう言って、明人を個室に招き入れた。
 イタリアで出されるコーヒーはとかく甘いが、さすがに赤月の入れたものはそうではないようだ。ただ、彼は明人をどう思っているのか、悪戯っぽく「砂糖は五杯くらいかい」などと尋ねてきたので、明人もわざと怒ったのだが。
 すると、ドアを叩く音である。赤月がそれに答えると、入ってきたのはプロスペクターだった。彼は明人に気付いても、とくに表情を変えはしなかった。
 三人分のコーヒーがテーブルの上に並び、皆が席についたところで、赤月が口を開いた。
「それで、兄のことなんだが」
 プロスペクターは一応ことの経過を聞くためにやってきたのだと、明人は思った。チーム代表としてドライバーを把握しておくのも仕事だから、と。しかし事実はそうでないことに、俯いた赤月に気をとられていた明人は気付かなかった。
「容態は、芳しくない。現代医学というのは大したものだよ。余命の宣告ってやつは、どうやら天気予報よりも正確らしい」
 明人は驚いた。そこまで深刻であるなど、全く知らなかったのである。それはたぶん、赤月が悟られまいとひた隠しにしてきたからなのだろうけれども。しかし次のプロスペクターと彼の会話に、明人は眉をひそめるのである。
「では、貴方が後を継ぐことになるというのも、現実のものになってしまいそうですな」
「そうだねえ。まあ、潮時だとは思っていたけど」
 どうにも、二人はそれほど深刻そうでない。プロスペクターは少しばかり言い難そうであるのだが、当の赤月が他人事のように落ち着いているのだ。
「ちょっと待って。僕だけが話についていけてないらしいけど、いったいどういうことなんだい」
 明人が口を挟むと、プロスペクターはちらりと赤月を窺った。つられるように赤月を見れば、彼は「うーん」と目を瞑って考え事をしているようである。しかし、相変わらず口元にはいつもの薄笑いが浮かんだままだ。そして彼は顔を上げて明人に向き直り、言った。
「つまりね、このサン・マリノGPが僕の最後のグランプリになるということさ」
 彼の言ったことを言葉どおりに理解するまで、少しかかった。
「最後、って……。引退するっていうこと?」
「そうだよ」
「まだ若いのに?」
「君ほどじゃないけどね」
 そんな馬鹿な、と明人はソファに沈み込んだ。明人ほど若くないと言っても、彼はまだ二十代後半に足を踏み入れたばかりだ。デビューからのキャリアはまだ五年程度。その間に一度チャンピオンを獲得しているのだから、彼だって天才児であったに違いない。それがこうも早く引退するとは、ファンだって信じられないだろう。
「お兄さんのことはよく知らないけど……それは君が引退するほどのことなのかい」
 たしかに十二年前、父を亡くした明人はモータースポーツから離れた。しかしそれは子どもの頃の話で、二十歳もとうに過ぎた今ならそんなことは考えないだろう。今はもう、自分のすべきこと、したいことが分かっているからだ。
 唐突に失う悲しみと、失うことが分かっていながらその悲しみを隠し通すこと。それが全く等しいものでないことは百も承知だが、何かが失われたとしても最後に残るのは自分だ。それなら、自分が信じることをすべきではないだろうか。
 そこまで明人は言葉には出さなかったが、ある程度は伝わってしまったのだろう。赤月は再び困ったように「うーん」と視線を落とす。説明しにくいことなのか。明人がじっとそれを見つめたままでいると、彼は降参だとでも言うようにふうと息を吐いた。
「たしかにね、今の本音とは少し違うかも知れない。でもいつか、それも本音になると思っているよ。引退することはともかく、兄の後を継ぐのは僕にしかできない。そしてそれは、いつかではなく、今なんだ。今やりたいことをやり続けるのも大切なことだけど、それを投げ打ってもやらなければならないことが生じてしまうのも、また人生だろうしね。僕はそれを知っていたし、その時がきたということさ」
「……やらなければならないことって?」
「それはまだ言えない。シーズンが終わったら……明後日の決勝レースが終わったら、僕の引退会見の後にでも話してあげよう。決して君に関係のないことではないだろうから」
 ほの暗さに、明人は窓の外を見た。日はもう森の向こうに消えて、空も藍色になり始めている。それは秋らしく、遥か高いところに雄大な絹雲が流れていて、枯葉が一枚、風に吹かれてはらはらと舞いながら飛んでいった。
 ふと思い出したのは、ベルギーGP、ガレージ裏での赤月とプロスペクターの密談である。
「ベルギーでしていた内緒話は、これのことだったの?」
「……君、妙なところで鋭いね」
 思えばたった一週間前のことである。しかし明人にはもう遥か昔のことに思えた。赤月の意思がどうとか、チーム代表は彼個人をちゃんと評価しているとか――少し高くついても勝つためには仕方ないと言ったのは、もしや赤月の後釜を探してのことだったのか。
 口を開いたのはプロスペクターだった。
「まあ、少し変わってきてしまいましたが、そういうことですよ」
「変わってきた?」
 明人が聞き返すと、プロスペクターはいつになく意味深な笑みを浮かべ、首を振るのである。
「それは今シーズンが終了したらお話ししましょう。今はレースに集中してください」
「そういうこと」
 赤月まで彼に合わせて口を閉じてしまったものだから、明人がこれ以上尋ねることもできない。 
 でも、と明人は思う。
 なぜ彼らは――赤月もプロスペクターも、のんびりとそんなことを話していられるのだろう。ベルギーでの会話は、言葉の端々から察するに、赤月の後釜についての話であろう。高くつくとか、勝つために必要だとか、赤月個人を評価しているのに、とか――。しかし、それを本人がしているのだから解せないのである。
 少なくとも赤月にとっては、自分はまだ走っているのに後釜を探されるなど、いい気分であるはずがない。すると彼は、かなり早い時期から引退を決めていたことになる。
「いつから……?」
「まあ、具体的には今シーズンの序盤かな。おかげで今季はボロボロだった。情けない引退シーズンだとは思うけど」
 そんな状態でありながら、彼はずっと明人を心配しながら気遣ってくれていたというのだろうか。日本GPでは一緒に夜桜見物をしたし、イギリスでは明人がレースに懸ける本音を吐露もした。イタリアGP後、ジロの葬式にもついてきてくれた。
 彼の、実の兄のような目に見えない心遣いは、思い出そうとすればきりがない。彼は、明人がFAで得た初めての親友であり、チームメイトであったのだ。
 明人は俯いた。テーブルの上に置かれたコーヒーは、いつの間にか湯気も立たなくなっていた。
「……君がそう決めたのなら、僕には何も言えないよ。二年間一緒に戦った君とのお別れは、悲しいけど」
 すると赤月は、小さく笑みを浮かべるのである。
「まぁ、そんなに遠くへは行かないけどもねぇ……」
 そう言って彼は、話を切り上げるようにして立ち上がったのだった。










to be continued...


どなたか、「バレバレだよ」と(作者に)言ってやって下さい。


誤字訂正しました。(06/03/30)

 

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代理人の感想

ここで私が「バレバレだよ」というのもマンネリなので、読者の方どなたか(笑)。

それはそれとして全ての伏線が最終決戦に向かって収束しているわけですが、

アカツキにかんしてはどう決着がつくのかなぁ。

これはこれで結構楽しみではあります。