機動戦艦ナデシコ

The prince of darkness episode AKITO












【アキト】












【アキト】












【アキト】




「・・・・・・う・・・・・・」




【アキト】




アキトは自分の名を呼ぶ声を感じる。




【アキト】




その声は聞こえてくるというよりは魂に呼びかけられているような声だった。




【アキト】




「う・・・・・・」
アキトは覚醒し、ゆっくりとまぶたを開いていく。

(ここは?)

その視界は極度にぼやけていてどこだかわからない。
しかし、それでもとにかく見えるということは視力が回復していることを示している。

(見えている・・・・・・のか?)

【アキト】

「え?」

直接頭に響いてくる声と共にぼやける視界をさえぎるものが現れる。
それは白と薄桃色のパートに分かれているがはっきり知覚することができない。
しかし、その中で鮮明に映るものがある。





金色の瞳




「ルリ・・・・・・ちゃん?」

アキトは呼びかける。

「アキト・・・・・・」

その存在は声に出してアキトの名前を呼ぶ。

「その声は・・・・・・ラピス・・・・・・か?」

【ウン】

「!!?」

再び頭に響いてくる声。

(今のは!?)

【私の声】
【アキトとワタシ、繋がっている】
【アキトの声、聞こえる】

(どういうことだ?)

そう思いつつも右手を伸ばすとラピスがその手を取る。

(温かい・・・・・・)

触覚も回復しているということだ。

アキトはラピスの握っていない左手を使い半身を起こす。

「ここは・・・・・・?」

周囲を見回すが現在のアキトの視力ではどこだか判断できない。
しかしそのぼやけた視界の中で近づいてくる存在があった。

「目を覚ましたの?」

「その声は・・・・・・イネス・・・・・・さん?」

「ええ、おはようアキト君」

声のした方を注視するが、やはり視界は不鮮明で確認することはできない。

「じっとしてて」

イネスはアキトに近づきバイザーをかける。

「!?」

バイザー越しにアキトの視界が鮮明になる。
正面に見えるのはイネス。そして右手に見えるのがラピス。

「どうかしら?」

「見えるよ・・・・・・よく・・・・・・」

「そう、よかった」

イネスは嬉しそうな顔をしながら水の入ったコップを差し出す。

「・・・・・・」

黙ってそれを受け取るアキト。
コップを傾け喉を潤していると不意に部屋のドアが開いた。



「アキト君が目覚めたって?」

「エリナ・・・・・・さん?」

「私がわかるの?アキト君」

「ええ・・・・・・でも・・・・・・」

(俺は視覚を失っていたはずだ。どうして見えているんだろう?)



【アキト】


不可解に思っているアキトの頭に再び響く声。
アキトは頭に手を当ててラピスを見ると、その金色の瞳はアキトを捉えていた。

「ラピスが・・・・・・呼んだのか?」

ラピスは黙って頭を縦に振る。

「どういうことなんだ?」

不思議そうにラピスを見つめているアキトの横でイネスとエリナが視線を交わす。
そしてエリナが頷くとイネスはアキトの正面に回り身を乗り出した。

「いい?今から説明するから落ち着いて聞いてね」





イネスはラピスとのリンクの強化を説明する。


視覚、聴覚、触覚のある程度の回復。
視覚のバイザーでの補正。

そして戻らない嗅覚と味覚・・・・・・。


アキトにはショックなことであろう。それを聞いて強く歯をかみ締める。
だが、まず口にしたのはそのことではなかった。

「なぜそんなことをした!?ラピスには普通の暮らしを与えてやってくれ!」

「マシンチャイルドである彼女に普通の暮らしなどできないわ。
再び火星の後継者や他の企業に狙われるだけでしょうね。
彼女たちにはそれほどの突出した能力があるのだから・・・・・・たとえ望んだものじゃなくてもね」

怒り心頭のアキトにエリナが冷静に返事を返す。
その態度にアキトの頭も冷えていくが、それに対して別の心配事が生まれていた。

「・・・・・・じゃあ、ルリちゃんは?」

「あの子にはネルガルのSSが付いたわ」

エリナの言葉に安堵するがそれならと思うことがある。

「ならラピスにも」

「無茶言わないで!ネルガルのSSも無限じゃないのよ!
それに、あなたと共に行動することは彼女自身が望んだことなの。
人形じゃない彼女が選んだことなの。
あなたに彼女の意思を否定する権利なんてないわ」

「ラピスが・・・・・・?」

小さな両の手で自分の右手を握っている存在に目をやる。

ラピスは視線が合ってもニコリともしない。
それどころか表情一つ変えないのだが・・・・・・・・アキトの手を握る力が少し強くなる。

(ラピス・・・・・・)

「それにあなたの感覚を補助するのに必要不可欠よ。
いい?あなたは彼女のサポート無しでは普通の生活さえ到底不可能なの」

「・・・・・・普通の生活・・・・・・か」

アキトはそうつぶやくと視線を落とす。

「しばらくは不自由する面もあるでしょうけど、ネルガルは貴方をサポートするわ。だから」

「それでももうコックはできないんだろ?」

「それは・・・・・・」

すぐには肯定も否定もしないが、エリナの態度がYESだと言っているのを感じるアキト。
ギリッと歯を噛み締める。



「アカツキに・・・・・・会わせてくれ」

「既にこちらに向かっているわ」

「そうか・・・・・・。すこし・・・・・・一人にしてくれ」

イネスたちが出て行った後、アキトはバイザーを外し握り締める。

「・・・・・・う・・・・・・うぅ・・・・・・なんで・・・・・・なんでだよ・・・・・・?」

ナノマシンの奔流がこの上なく強く現れる。
様々な負の感情はアキトの心を容赦なく攻め立て、その波はいとも簡単にアキトの心の堤防を突き崩していった。












「                      」











「「!?」」

エリナとイネスはアキトの泣き声を感知する。

「人って・・・・・・こんな声で泣けるのね・・・・・・」

魂をすら揺さぶるアキトの慟哭に身を震わせるエリナ。

「お兄ちゃん・・・・・・」











「ここか・・・・・・」

「会長・・・・・・?」

今まで見せることのなかったアカツキの深刻な表情に戸惑うエリナ。

「二人だけで話す。みんなは外で待っててよ」

アカツキは深刻な表情で扉をにらみつけた後、ゆっくりと目を閉じ呼吸を整える。

(テンカワ君・・・・・・)

そして目を開けたときにはいつもの軽薄な笑みをその顔に貼り付けていた。





病室を訪れたアカツキの前に立つアキトは以前のアキトとは明らかに変わっていた。
白い清潔感のパジャマを着ているのだが、その顔には視覚補正のためのバイザーをしていて違和感がある。
だがそれよりも決定的に違うのはアキトの雰囲気。
鬼気といってもいいだろう。



「アカツキ、俺に力をくれ」

エリナから聞いていたアキトの様子からこの台詞はある程度予測していたアカツキ。
外れてくれたほうがいいと思っていた予測であったのだが・・・・・・。

「それで、どうするんだい?」

「ユリカの救出と復讐」

予想できた答えにアカツキはやれやれと肩をすくめる。

「それで、ネルガルにどんなメリットがあるんだい?
企業としては利益のないことには協力しかねるんだよね」

「俺はA級ジャンパーだ。どんな実験にも協力する」

――実験。 それはアキトにとって忌むべきこと。
だが、それでもアキトは決断したのだ。

「それに、ユリカは遺跡に融合させられるはずだ。
ユリカの救出は遺跡の確保にも繋がる。
ネルガルに恨みを持つヤツラに遺跡を研究されてボソンジャンプを独占されればネルガルとしても都合が悪いだろう。
遺跡を手に入れた後は好きにすればいい。
悪い話ではないと思うが?」

「確かにね。ヤツラの手の内に遺跡があるままにしておくのはウチとしても死活問題となる・・・・・・」

アカツキはため息を吐きつつもアキトの主張の正しさを認識する。

「オーケー、わかったよ。
でも君自身がどうこうする必要はないんじゃないかな?
ウチのシークレットサービスに任せてくれればいい。
君は体を直すことを考えて・・・・・・」
「アカツキ!」

アカツキの表情からはじめて軽薄な笑みが消える。

「・・・・・・どうしても・・・・・・かい?」

「これは俺の戦い・・・・・・俺の復讐なんだ」

「それはわかるよ・・・・・・けど、ルリ君にはなんと?」

アキトはギクリとしてナノマシンパターンの奔流が輝きだす。
アカツキはアキトの感情が高ぶったときにナノマシンパターンが輝くということは報告で知っていた。
アキトの葛藤を察してその答えを待つ。

「知らせなくていい・・・・・・」

うめくように言葉を搾り出すアキト。
顔の半分がバイザーで隠れていてその表情は読み取れないがその心中を察することはできる。

「ルリ君の元に帰るという選択肢もあると思うけど?
復讐をしたいがため彼女を放っておくってんなら僕は協力しかねるな」

アカツキのこの言葉はアキトを思えばこそだ。
A級ジャンパーの協力は得難い価値がある。
かつてのアカツキであったなら是が非でもそれを得ようとしただろうが・・・・・・。

「やつらを野放しにしておけない・・・・・・。
誘拐と人体実験、遺跡の確保、ボソンジャンプの独占。
やつらの意図が現政権との協調や譲歩を求めたものでないことは明らかだ。
このままやつらの思い通りになれば彼女の身の安全など無きに等しい。
それはラピスを見てもわかる。
俺は・・・・・・やらなければならない」

アキトはアカツキにだけ自分の心中の一端を明かす。

「ふぅ・・・・・・」

アカツキはため息と吐く。

(ルリ君のためにも・・・・・・か)

それが唯一正しい選択であるとは思わなかったが、とりあえずアキトが自分の大切な人のことを忘れていないことが確認できた。
その優しさは完全には失われていない。アカツキとしてはそれで満足だった。

「確かにね・・・・・。
やつらの思い通りになればネルガルはもちろん、ナデシコに関わったものたちの未来もなくなることは疑いないな。
オーケー、とりあえずはジャンプ可能な機動兵器の実験に付き合ってもらうよ。
その間に自分に必要な力を蓄えればいい。協力は惜しまない」

「すまない・・・・・・」

「いいよ。こちらも君を利用させてもらうことにするから」

「ああ」

「けどね」

アカツキはアキトに近づきその肩を掴む。

「君が動くのは力量が備わったと判断できた後だ。これは守ってもらう」

「・・・・・・ああ」











社に戻ったアカツキは詳細の手配を始める。

「よろしいのですか会長?」

プロスがアカツキに問う。
感情をコントロールする術に長けている両者の表情からはその考えは読み取れない。

「君もテンカワ君を見ただろ?とても言うことを聞きそうにないよ。
頑固なところは全然変わってないね」

やれやれといったジェスエスチャーをする。

「自分で抱え込もうとするところも・・・・・・ですかな?」

「そうだね・・・・・・いかにもテンカワ君らしいよ。その部分はね」

変わった部分は確実にある・・・・・・ということなのだろう。

「よろしいのですね?」

アカツキは静かにうなずく。

「とりあえずは協力しよう。
それで実力が付かなければその時は諦めてもらう。
その間にネルガルはA級ジャンパーのデータを取る。
テンカワ君がモノになろうとなるまいと、とりあえずは利益になるし損はないと思うよ」

「そうですな・・・・・・。で、私はどういう風に動けばよろしいのですか?」

「火星の後継者の目的が現政権との対決であろうことはテンカワ君が語った通りだと思う。
だから焦点となるのはその手段と時期、それと共にその事態に対応する策もだ」

プロスはアカツキの考えに賛同して首肯する。

「手段としては幸い・・・・・・と言うのはなんだけど、ボソンジャンプを用いたものであることはテンカワ君やミスマル・ユリカ君の現状が雄弁に語っている。
限られた戦力とボソンジャンプ・・・・・・。だいたいの見当はつく。
問題となるのはその時期と対応策だ」

「なるほど」

「だからネルガルの諜報部としてはその時期を確定する情報を掴んで欲しい。
もちろん遺跡とユリカ君の居場所も重要ではあるが、やつらの決起の時期を特定することを最優先としてくれたまえ」

「はぁ、やってみますが・・・・・・」

「自信なさそうだね」

「今のNSS(うち)の状況、わかってらっしゃるんでしょう?」

「やれやれ・・・・・・。軍需産業部門でのシェアを持っていかれたネルガルとしては、NSSはクリムゾンに誇れる数少ない部署だったんだがねぇ」

「今でもクリムゾンなんかには負けてはいませんよ」

両手を軽く広げて心外だという風なしぐさをするプロス。



確かにクリムゾンには負けていない。
だが現状ではネルガルシークレットサービスはクリムゾンのSSと同時に火星の後継者の闇の部隊をも相手にしているのだ。
特に北辰の率いる部隊に被った損害はかなりのものであり、人材不足となってきているのは確かだ。
常に後手に回ることになるのも致し方ないと言うべきであろう。

その中でようやく相手を出し抜けたのがアキトの奪還なのであるが、それだけでは現状を覆すことにはならない。
その作戦でアキトだけでなく遺跡も奪還できていればその限りではなかったのだが・・・・・・。

「火星の後継者の闇の部隊を抑えられる人材がいれば何とかなるんですがね・・・・・・」

「月臣君は?」

「彼は親友を殺させられたことで草壁を離反したのでしょう?」

「僕たちが同胞を殺せとか言ったらネルガルからも離反しちゃうかい?」

「テンカワさんの救出作戦には働いてくれましたが、同胞と殺し合いをすることになればそうなる可能性は高いと言わざるを得ないでしょうな。それに・・・・・・」

「それに?」

「それに彼では闇の部隊には勝てないでしょう」

「ほう?僕は彼をテンカワ君につけようと思っているんだけど・・・・・・」

「確かに月臣さんは強いですよ。訓練室で"まともに戦えば"私では彼に勝てないでしょう・・・・・・」

プロスはメガネをくいっと指で直すしぐさをする。

「ですが闇の戦場で出会えば私が生き残り、彼は命を落とすでしょうな」



月臣は木連式の腕は達人クラスでも、実際に人をその手で殺した数はそう多くない。
木連での訓練ではさすがに相手を殺したりすることもなく、大戦中にしても機動兵器によって戦うことはあっても生身で相手を殺す機会にはあまり直面していない。
だからその力量はともかく生身での実戦経験においては闇の部隊には遠く及ばないのである。

「彼に任せるのは間違っていると?」

「そうは申しません。とりあえず敵となる木星人の"技"を知り、身に付けることは十分な意義がありますから。
ですが、それだけでは"強さ"を手に入れられはしません」

プロスの言わんとしていることはアカツキにもおぼろげながら理解できる。

「その先はテンカワ君次第だと?」

「そういうことですな」





会長室を出て行くプロスを見送ると軽薄な笑みが剥がれ落ち深刻な表情に変わる。

ダン!
アカツキは両腕をデスクに叩きつける。

「何がネルガルだ!?何が会長だ!?僕は・・・・・・友達の未来すら守れないじゃないか!」

彼はネルガルの会長である。
だけど、それだけがアカツキ・ナガレという人間のすべてじゃない。
そこにはネルガルの会長ではなく苦悩する青年の姿があった。


内出血した両手を見て溜息を吐き冷静さを取り戻すアカツキ。
その瞳には決意の色が浮かんでいた。

「テンカワ君、君が戦うというのなら僕も・・・・・・僕の戦場で戦おう」

アカツキは反会長派を排してネルガルのすべてを握ることとクリムゾンを凌駕するための戦略を練り始める。










「無理よ・・・・・・」

「エリナ?」

「あのアキト君に戦うことなんて・・・・・・復讐なんてできっこないわ。それに・・・・・・」

「それに?」

「復讐なんて何も生みはしないわ。そこに残るのは虚しさだけよ」

「あなたにだってわかるでしょ?」

エリナは同意を求めてイネスを見やる。


「知らないわよ・・・・・・」

しかし返ってきたのはエリナの予想したものではなかった。

「えっ?」

「知らないって言ったの。だって私は復讐なんてしたことないんだから」

「イネス・・・・・・」

別にエリナが復讐を経験してそう言っているわけではない。
一般的にそのように言われているからである。
だからイネスにこう反論されては二の句に詰まってしまう。

「私はアキト君を止めない。そして私は、私にできるすべてでアキト君の力になるわ」

イネスはそう言ってエリナに視線を向ける。

「だから貴方にはあくまで公人としての立場で接して欲しいの」

「どういうこと?」

「私もまた私情によって動くわ。だからこそ誰かは冷静に私たちの行動を判断する必要があるの」

「そういうことを考えられるんならアキト君を止めなさいよ!
復讐なんて何も生まないわ!」

「そうね・・・・・・。ホントは私もそう思うわ」

「なら!」

「みんながみんな貴方みたいに"お利口さん"ならそうかもしれないけど、そんなわけにはいかないのよ」

イネスは自嘲気味な笑いを浮かべるとエリナから視線を外す。

「それに・・・・・・戦わなければ守れないものもある。
これは私の戦いでもあるのよ」

「イネス?」

「私のママはね、ヤツラに殺されたのよ」

「!?」

「そして今度はお兄ちゃん・・・・・・。
私はもう、奪われることに耐えられない。
だから勝ち取りにいくのよ」

「勝ち取る・・・・・・?なにを?」

「私たちの居場所よ」

「居場所?」

「火星の住人やマシンチャイルドたち・・・・・・。
異端の者たちが差別されず、穏やかに暮らしていける場所・・・・・・よ」

「・・・・・・」

「火星の後継者が人間社会を支配すれば私やアキト君、A級ジャンパーである火星の人間はこの天地に身の置き場なんて存在しなくなる。
現行の政府を信用しているわけじゃないけど、とりあえずは火星の後継者たちよりはマシだと思うから」



だから戦う。
そして戦うなら必ず勝たなきゃならない。
どんなに想っても、どんなにがんばっても負ければ奪われるわ。
恋人も、家族も、尊厳も、命も・・・・・・。

戦うからには勝たなければならない。
全知全能を尽くす。
最大限努力する。


「きっとアキト君もそう思っているはずよ。
だからネルガルが何とかするから知らない振りして暮らしなさい・・・・・・なんて言っても聞くはずないわ。
理不尽に奪われ続けた人間にはね。
だから私も戦うの、私なりの戦い方で・・・・・・ね」

「ホントにそれでいいの?」

「私がただの女なら、泣いて引き止めようとしたかもしれない。
私がただの学者なら、困難さを説いて説得しようとしたかもしれない」

イネスはエリナに振り向き見つめる。

「でも、私はイネス・フレサンジュよ」

イネスの瞳の強い光にエリナは何も言えなくなる。

「私はこう思うの・・・・・・。
私がお兄ちゃんより年上で、医者で、科学者で・・・・・・様々な知識を身に付けてきたのは今、お兄ちゃんの力になるためだったんだって」

説得することはできないと悟ったエリナは皮肉気な笑みを浮かべる。

「いつから運命論者になったの?」

「ついさっき・・・・・・ということにしておくわ。それより返答を聞かせて」

「返答?」

「貴方の立場についてよ」

「私は・・・・・・」

下唇を噛み締めるエリナ。


自分もアキトのことを想っている。
心配している。
女として惹かれている。

でも自分にはイネスほどの覚悟を持てないことに気づいたからだ。



「私は・・・・・・ネルガルの会長秘書・・・・・・だから」









「ラピス・・・・・・」

「アキト・・・・・・」

「ほんとにいいのか?俺は君を利用しようとしているんだぞ?君を復讐の道具にしようとしているんだぞ?」

「アキトといられるならいい。アキトが笑ってくれるならいい」

「ラピス・・・・・・」

アキトはラピスを抱きしめる。

「アキト・・・・・・温かい」

そう言ってアキトの顔を見上げるとラピスの好きなアキトの笑顔があった。

それは以前のような太陽のような満面の笑みではない。
悲しさを宿しながらも愛する者のために笑ってみせる。
喩えるなら月のような笑顔であろうか。

ナデシコでの彼を知るものならば、この笑顔を見れば余計に居たたまれなくなるかもしれない。
そんな笑顔ではあるが、とりあえずはまだ笑うことができている。
そしてそれはラピス・ラズリの存在があればこそのもの。

彼女にはアキトの笑顔を見る権利があるのかもしれない。










それぞれに決意を抱く者たち。


彼らの選んだ道はあまりにも険しい。







はじめまして、平(”へー”と読んでください)と申します。

内容としてはアキトを主役としての劇場版に至るまでと、劇場版ということになります。

アキトは五感を不自由してはいますが、寿命がどうとかいうことはないです。
だから復讐だけを考えるほど追い込まれてもいないわけで、ダークにはなりません。

エリナとの会話からわかるように、イネスが主要な役割を演じていくことになると思います。

初投稿なのですが、頑張りますのでよろしくお願いします。

 

 

代理人の感想

とりあえずは楽しませていただきました。

完結するまで、もっと楽しませてもらいたく思います。