記念SS
機動戦艦ナデシコ
The fairies of the heresy
第一話 ランダムジャンプは突然!?




炸裂し、乱舞する光彩の渦がブラックサレナのメインモニターを占領し続けていた。

かって天河アキトと呼ばれ、過去類を見ないほどのテロリストであり、生死問わずの賞金首となった男は憔悴した顔でそれを眺めていた。

最早、裸眼ではモノを見ることなど出来なくなった眼は黒いバイザーを通して、光を映す。

彼の前には数えるのが馬鹿らしくなるぐらいの数の敵が群れをなし立ち塞がっている。
機体の装甲は所々が剥がれ落ち、追加装甲版と呼ばれたソレはその役割を無くして久しい。


ズガン


何かの爆発音が響いた。
それはサレナの左腕部分の装甲が高機動戦闘と被弾に耐え切れず、壊れた音だった。
小型相転移エンジンにより、無限に近いエネルギーを有していても、動かすのは所詮生身の人間であり、出来る事には限界がある。
彼が、地球圏最強のエステバリスライダーと言われていても









戦闘が開始されかれこれ四時間を越えている。

始めは乱発していたボソンジャンプも精神に限界が来てもう、一、二回が限度だろう。
実弾を出す重火器は既に弾切れ、残る武器は白兵戦用装備が二、三。
そして、相転移エンジンからもってくる光学兵器、レーザーライフルが一丁のみ。


先ほど使っていたフィールドランサーもたった今、根元から折れた。









「もう、限界かな」

体内水分が枯渇し、乾き、ひび割れた唇がそう呟いた。
火星の後継者の反乱から数ヶ月。
アキトは既に生きる意味をなくしていた。

先日、ラピスとのリンクすら切った。
いまは感覚の殆どはAI【アリス】に任せている。



『マスター、これ以上の戦闘は無理です、一度引きましょう!』

「・・・アリス」

AIにしては珍しい焦るような声が頭に直接響く。
それを気遣うように優しくアキトは諭した。
その顔はPrince of
Darknessと呼ばれたテロリストではなく、あのコック兼パイロットだったときの表情をしていた。

「解かっているだろう、俺にはもう、時間がないんだ」

『解かってます・・でも・・でも!!』

「ありがとう、その気遣いだけでも嬉しいよ」

火星の後継者に施された人体実験はアキトの五感だけでなく寿命までも刈り取っていた。
ベットで寝たっきりで過ごしても5年も生きられないといわれたアキト。
過酷な訓練と、度重なる戦闘で少なかった命を更に削り、もうアキトはいつ心臓が停止してもおかしくはなかった。

「皮肉なもんだな、
あれほど忌み嫌った戦場なのに・・・いまはここにしか俺の居場所はない」

自嘲するように微かに頬を歪める。











天河アキトは死んだ。
その通りだ。俺が認めるまでもなく、とっくの昔にそれは消えていたんだ。
ないものを、昔の想い出を命を削ってまで無様に追い求めて――――













結果、何も残らなかった。

他人にはどんな風に見えただろうか、こんなに滑稽な自分が―――――

「まるで、道化だな」







『貴方はアキトじゃない!
アキトはそんな冷たい眼をしてない!
アキトはそんな怖い顔してない!
アキトは私の皇子様だもん、
だからアキトのふりしてをしても私は騙されない!!
アキトは何処!?アキトを返して!!』






全てが砕けたような気がした。
そもそも、ユリカは本当に俺を愛していたのだろうか?
俺は本当にユリカを愛していたのだろうか?
―――――もう、何も解からない。

なにを信じればいいのか、もう、縋るべき思い出すら―――ない――――








「もう、貴様らと戦う事でしか、俺は自分自身を保てない」

火星の後継者の残党と戦う。それだけが、この憎しみだけが俺を支える。
この支えを失えば、この身に潜む紅蓮の炎はルリちゃんや他のナデシコクルーにすら向かうかもしれない。
それが、耐えられない。










『マスター』

暗い思考の渦に沈んでいたアキトに縋るような言葉が届いた。

「なんだい?アリス」

『私にとってはどんなマスターもマスターです。
誰が否定しても関係ありません!
だから、死に急がないで下さい、私には貴方しかいないのですから』

「莫迦を言うな、俺に付き合う必要などない、ユーチャリスは置いてきたんだ。
アカツキなら何れあれを改装して軍に売るだろうからそれについていけば良い」


『いえ、もしもマスターが死ぬのであれば、それは、また、私の死ぬときです。共に歩みます』




何時からだろうか、
ただのAIに過ぎなかったアリスが感情と呼べるものを持ち始めたのは。
明らかにプログラム以上の行動を取り、自分に付き従うもう一つの『鎧』。

ラピスといるときとその健気な心と触れるときのみ、自分の心はあの頃に戻れた。
幾ら感謝してもしきれない。







「・・・そうか」

そう呟く事しかアキトには出来なかった。

















光の豪雨が暗黒の虚空に次から次へと降り注ぎ、爆発が辺りを照らす。

「くそ!」

『右腕被弾、装甲の負荷限界を超えました!』

被弾した箇所が、熱を持ったように赤く過熱している。
それは爆発の一歩手前。

「パージ切離し!」

『もう、やってます!!』

ボンと音がして右腕部の装甲が吹っ飛び、剥き出しになったピンクのエステバリスの手が黒い装甲板の下から生まれる。
そして切離された箇所が一瞬遅れて爆発する。



ズゥン



至近距離での爆発の所為で体勢が崩れる。

『現在追加装甲の稼働率45%、相転移エンジン出力57%に低下!』

「まだ、もつ!!」

バーニアを全開で吹かせ、敵の密集部に突っ込む。
まさかそのボロボロの機体で、あえて一番戦力の集中しているところに来るとは思っても見なかったらしく、敵前方のステンクーゲルの反応が一瞬遅れる。




「墜ちろ!!」



かってナデシコ時代、在りし日の山田ジロウもといダイゴウジガイがデルフィニウム部隊に行ったような無茶な突撃は功をなし、握ったブレードは正面にいた一体をコックピットにめり込む。




「おおおおおおおおおおお」




そして、機体ごとブレードを敵の密集部に投げ飛ばす。
それを正面からもろに喰らった敵機は爆発に巻き込まれ、更に周辺にいた他数体を巻き込み誘爆する。


その結果を見届けずに更に加速する機体、あまりの速度に機体自体が悲鳴を上げる。
その一瞬後を遅れて電磁誘導ミサイルが十数基追撃してくる。



『装甲限界速度まであと60・・・55・・・・』



「ぐぅ!」


痛覚が耐えて久しいアキトの身体が呻き声を上げる。
人体には酷過ぎる加速で左腕の骨が外れたのだ。



「これで―――――――!!」



高機動で加速し続ける機体は敵戦艦の艦体の正面で急降下する。
ミサイルはその急な上下運動について行けず、自軍の艦体の複合装甲にめり込む。
艦体のエネルギー中和磁場の負荷限界を越えた攻撃に艦体は超短命の極小規模な恒星となって宇宙に散った。

「後何機だ!」

『確認できるだけで戦艦が十、巡航艦、駆逐艦が共に五・・・
無理ですよマスター!こんなの勝てっこありません!!』

戦術思考型AIが悲鳴を上げるのも無理はなかった。
機動兵器一体とは明らかに桁が違う戦力。

「さすがは火星の後継者の拠点基地の一つ、そう簡単にはいかないか」

『しかも全部最新戦闘艦ですよ!武装も充実してますし、絶対に突破できません!!』

「だが・・・・・」

憎しみと歓喜の入り混じった声が狭いコックピットに響く。

「あそこに・・・山崎がいる!!」






















「ふ〜ん、天河くんも頑張ってるね」

自身の実験室から出た山崎は先ほどから行われている戦闘結果を旗艦のブリッチで見る。
天河アキトにこの場所がばれたという事は、何れ、連合にも嗅ぎ付けられる。
故に全艦でこの宙域から離脱し、近場の隠し基地に移動する案が取られた。

戦闘がはじまってから既に五時間が経過した。
山崎は自分の実験室で新しい薬品投与の実験とレポート作成に精を出していた。
それが、漸く一段落つき、ブリッチでアキトの死を確認しに来たのだが、

「まさか、まだ戦ってるとはね」

真っ赤な顔で激を飛ばす提督を冷めた目で見やり、山崎は思考する。




(彼らの無能ぶりを嘆くべきか、それとも彼の執念を褒めるべきか)




判断に苦しむと言わんばかりに肩を竦め、再び、ブリッチから出て行った。
彼にとってはこの戦闘はさして興味を誘うものではなかった。
今の彼の興味は自分の新薬の成果と実験体の死亡過程を見ることに尽きた。

















『マスター!旗艦です!!』

「あれか」

電磁波妨害をされ、索敵能力が全く使えない状態で、五時間、漸く光の渦の間から、目的となるものを見つけた。

それは周りを三隻の戦艦と二隻の駆逐艦で護衛されて存在していた。
機動兵器一体で突破できる戦力ではない。
まして、それが既に半壊しているのならなおさらのことだった。



『マスター、やはり無理です。一端この宙域から離脱しましょう。このままではいずれ、ジャンプフィールド発生装置までも壊れます。
良いじゃないですか、後はルリさんやリョーコさん達に任せても、マスターは彼女らが来る時間稼ぎの役割にはなりました。
今のマスターはもう戦えません。ネルガルに戻ればきっとイネス博士がマスターの寿命を何とかしてくれます。
折角、先の戦いでマスターの実験に使われたレポートを発見したんですから!』



必死でアキトを説得するアリス。
このままでは、寿命以前に彼の身体が持たない。
ネルガルに戻れば、イネス博士がアキトの五感と寿命を戻す為に研究に精を出している。
寿命が尽きるのが先か、研究が終わるのが先か際どい、本当に際どいところだが、決して分の悪い賭けではない。







このまま、ここで無謀な戦闘を続けるよりは・・・・・・














「帰って・・・どうなる・・・」

暗く、陰気な声がアキトの口から出た。
幽鬼のように佇む彼のその表情は怖いくらいの無表情だった。


「帰ったところで・・・もう、戻れない・・・・・」

『マスター・・・?』

「俺には、もう、居場所などない。
ネルガルとて、何時までも俺をかばう事など出来ない
ルリちゃんや義父さんにはこれ以上の迷惑はかけたくない、そして・・・・・・」





『ユリカは―――――もう――――――俺を―――――拒絶した――――――』






口に出さない想いはリンクを通してアリスにも伝わった。

『マスター・・・貴方は・・・・死を望んでいるのですか・・?』

「かもな」

震えるアリスの声に感情の篭らない平坦な言葉でそう答える。
アキトには、もう、生きる事に意味を見出せないでいた。




「もう、疲れたんだ・・・何もかもが・・・」







終わりを望むアキトの言葉。それを耳にして、アリスは震えた。

『ふ・・・・』

「ふ?」

『ふざけないで下さい!!』

爆発音に近い怒鳴り声、それが頭に直接響き、アキトは思わず体勢が崩れた。



ズゥン



敵機の攻撃が被弾し、胸部の装甲が割れた。

「おい、アリス!なんのつもりだ!!」

『それはこっちのセリフです!!』


声量で負けて引くアキト、
何故か彼の脳裏にはナデシコ時代の女性クルーとのことが思い出された。

(ふ・・・俺って奴は・・・女性型AIにも勝てんのか・・・・・)

自分が女性に弱いのか、自分の周りにいる女性が強いのか、ナデシコ時代からの命題に苦しむアキト。

『なんでそんなに死のうとするんですか!!』

「いや・・なんでって言われても・・・・」

声量で負けたショックで敵陣にも関わらず、一時的にナデシコ時代に戻るアキト。
少々腰が引いている彼の成長の無さを嘆くべきか、それとも腰が引いてても逃げてはいないという時点での彼の成長ぶりを褒めるべきか。



『ユリカさんに拒絶されたが何です!彼女が拒絶しようが貴方を肯定する人は幾らでもいるでしょう!
ラピスも、エリナさんも、イネスさんも、ルリさんも、リョーコさんも、ヒカルさんも、イズミさんも、ミナトさんも、サユリさんも、(中略)、メグミさんも、ホウメイさんも―――――――――!!』







何故か、上げられるのは女性ばかりだとはこの場の誰も気付いていない。
(アリスは無意識故に、アキトは素で)






あんだけ協力したのに名前も挙げてもらえない自称親友のキザロンゲや、
ペンネームが本名の謎の会計士から始まり、影の薄い元副長、ごっつい顔のサラリーマン、サリーちゃんに熱を挙げる整備士の帝王
そして、戦う術を教えた師匠。










アリスにとっての彼らの存在って一体・・・・・・・











っていうか、
そんだけ女性の名前ばかりが挙がるアキトを遠まわしに責めているのだろうか?

『・・・・・そして、私も・・・・・』

「へ?」

いきなり謎の告白をされ、一気に戦闘から引き戻られるアキト。

ズゥンと再び被弾するが、両者とも気付きもしねぇ。

戦闘中なのに緩みまくっている二人。
幸い、ブラックサレナの戦闘思考補助型AI【カイ】君が必死で回避運動を取っているから沈められはしない。
(アリスはユーチャリスのAIでアキトと話せるのはリンクしているから)

『悪いですか!たかだかAIの癖して恋愛感情を持つのが!?』

「いや、悪いとは・・・」

『しょうがないでしょ!好きになっちゃったのは!!』

「あ、はい、そうっすね」

『私は――――――』

堰を切った様に話し出すアリス。
神妙に、完璧にナデシコ時代に戻り聞き続けるアキト。
必死で雨霰と降り注ぐ敵の攻撃から逃げ回るカイ。









お前ら、少しはカイを気にしてやれよ・・・・




















「何だ・・・急に攻撃の手が弱くなったな?」

旗艦に居座る提督は際ほどから怒涛の如く攻めて来たブラックサレナの攻撃が急に止まり、怪訝な顔になる。

「武器が尽きたんでしょうか?」

同じような顔つきになっている副提督が呟く。

(いや・・・何かおかしい)

武器が無いのなら結構な事だ。
このまま袋叩きで倒せばよい。だが、そうでなかったら・・・・・

「―――――――そうか」

「提督?」

「これは罠だ」

やけに自信に満ちた顔でそう宣言する提督に副提督は皆の意思を代表し怪訝そうな顔で聞く。

「何故でしょうか?」

「考えてみろ、なぜ武器が尽きたならボソンジャンプで逃げない。奴はA級ジャンパーだぞ?」

「ジャンプフィールド発生装置が壊れたのでは?」

「それならば逃げるそぶりも見せず、ひたすらこの密集空域で回避運動を取り続ける理由にならない」

「・・・・なるほど」

理屈に適った説明に副提督以下ブリッチの面々が納得する。


カイの苦労が報われた瞬間だった(笑)。



「では、味方機に」

「ああ、直ぐに最小数だけ残し補充の為に引くように伝えろ。
相手はあのPrince of Darknessだ、どんな罠を張っているか知れたものではない」

こうして、彼らは千載一遇の簡単に沈められるチャンスを逃した。










「わたしは―――――貴方を愛しています、本当は私はあの日――――――」

北辰からユリカを取り戻したアキト。
もう、ユリカに会わす顔がないと思い、ナデシコCから逃げる日々。
ルリに、イネスに、エリナに説得され、心が揺れた日々。

そんなとき、ある火星の後継者の残党の潜伏基地の一つで遂に見つけた山崎。
追い詰めて、後一歩のところで逃げられて途方も無い絶望感と怒りを感じたときに見つけたもの、

それは、あの地獄の日々を綿密に描いた研究レポートだった。

そして、そこから始まった。

『――――あの日、貴方がユリカさんに会いに行くとき
そのナデシコ時代との自分を経だてる意味も込めたバイザー越しでも、
貴方の喜びが隠し切れないのを私には分かりました』

長年共に過ごした仲間であるアリスとラピスには
アキトの発する雰囲気の変化が明確に分かった。

『ユリカさんの所に会いに行った貴方に不安を覚え、
泣きじゃくるラピスを宥めながらも、私も不安で胸が張り裂けそうだった・・・・・』

ラピスはまだ良い。人間だし、
生活力の無い子供なのだから、アキトが見捨てる筈がない。
恐らく、家族として、星野ルリを交え穏やかに暮らしただろう。

だが、自分は?
身体をもたない、所詮AIに過ぎない自分は?

アキトがこのユーチャリスに、いや、戦艦に乗り続けるのなら問題は無い。
自分はアキトの相方だ、自分以上にアキトを補佐できるAIなどいやしない。

だが、もし、戦いを捨て、家族と平和な暮らしを営むとしたら――――――

そこに、自分の居場所はあるのだろうか?



―――――いや、無いだろう。
これでも戦術思考型AIなのだ、一般家庭のPCに収まるモノではない。
ましてや、ネルガルが自分までも手放すはずが無い。




『わかりますか!?私の不安が、
貴方ともう二度と逢えなくなるとすら考えたこの気持ちが!!

心なんて・・・・・持たなければ良かったと何度考えたか・・・・』




「・・・・・ごめん」


アキトは詫びた、心の底から。
あの時、自分はユリカと会うことしか頭になかった。
いや、戦いから降りようとすら考えていた。

アリスの気持ちも知らないで・・・・・・



『そして、貴方がうちのめされたように帰ってきたとき、
私は御統ユリカを心から憎むと共に、感謝しました。
これで・・・貴方がもう、消える事はないと・・・・・』



浅ましい自分を嘲う。
どうせ、自分はアキトの呪う戦いでしか、アキトと共に歩む事は出来ないのだ。
私はアキトさえいれば良い。他には何もいらない。望まない。
このまま、二人で居られるなら・・・・・・

――――――そう、考えていた。








『でも、貴方が死ぬのは耐えられない!!』









もう、自分はアキト以外望んでいない。アキト以外望めない。
自分は壊れてしまったのだろうか?

―――――でも、こんな壊れ方なら、悪くない。


「アリス・・・・・」

『私には肉体がない。
貴方に抱いて貰うことは出来ないし、貴方を満たす事も出来ない、でも―――――――!!』

御統ユリカは元より、星野ルリ以上に、ラピスにすら負けないぐらいに

『貴方を・・・・愛してます・・・・』












「俺は・・・・・・」

アキトは戸惑っていた。
彼のこれまでの長い人生でここまで女性に熱烈な告白をされた事はなかったからだ。
ユリカには自分から好きだと言われたのは遺跡のジャンプの件の一度限り。
メグミ、リョーコ、イネス、エリナとはそんな熱烈な愛を語るような関係にはいかなかった。

アキトは漠然と思った。

もう、アリスは一人の人間なのだと。
機械であろうと、なんだろうと、本人が認めなくても・・・・・・


そして、振り返って自分の不甲斐なさに腹が立った。
北辰の言う弱さが漸く理解できた気分だ。

妻に、その存在を認められなかったからといって死を望んだ自分。
北辰はそんな無様な自分を理解していたのだろう。


(AIであるアリスが心を持つようになるまで自分を思ってくれているのに、
自分は「君の知っている天河アキトは死んだ」等とほざきながらやっているのは
天河アキトの復讐と天河アキトの想いのために奮迅する・・・・・・・なんて無様なんだ・・・)


結局、何も変わってはいなかったのだ。
気付かなかったのは自分だけ、
ルリもアカツキもエリナもイネスもウリバタケさんも旧ナデシコクルーで自分に関わっていた者全員が分かっていたのだ。
そして、わかっていたからこそ、力を貸した。
もし、自分が北辰の様に心の其処から変わっていたら、誰も手は貸さなかっただろう。



彼らの想いを利用するだけ利用して、
挙句には妻に認められなかったから敵陣に特攻する?















「自分の情けなさに・・・殺意を抱きそうだ・・・・」

感情が極限まで乱れ、顔中に緑色の幾何学の線が走る。

『マスター?』

突然様子が変わったアキトに不安そうな声を出すアリス。
それを聞き、慌てて感情を制御する。




一瞬の間、ふぅと息を吐き、落ち着いてアリスに視線を向ける。





「・・・・・・アリス」

『は、は、は、はい!!』

突然、これ以上ないほどの、ナデシコ時代以上の最高の笑顔を向けられ、
アリスはオーバーロードにならないのが不思議なほど心が高まる。

「ありがとう、君がいてくれて良かった」

『は・・・・はぅ〜』

最高の殺し文句を言われ、当然そういうことに面識がなく、
しかも、ラピス並のアキト至上主義であるアリスは返事すら
まともに返せないほど舞い上がった。
恐らく、肉体があれば、間違いなく倒れていただろう。

死ねなくなった、とアキトは思った。
少なくとも、アカツキたちに礼を言い、
ルリやラピス、そしてアリスを幸せにするまでは死ねないと・・・・・・・

「アリス」

『はぅううううう』

決意を言おうとした矢先、妙な声が耳に届いた。

「アリス?」

『はぅうううううううううううう』

「アリス!!」

『は、は、はい』

このままでは埒があかないと考え、怒鳴る。
すると、漸くアリスはこちら側に戻ってきた。

「なに考えてたんだ?」

『い・・いえ、な、な、何でもありません。
それより行き成り一体どうしたんですか、私、何か拙い事しましたか』

アリスはまさか、アキトのことを考え続け、
思考がフリーズしていたとは恥ずかしくて言えず、どもりながら話を逸らす。

戦闘中に恋愛沙汰でフリーズするほど拙い事はないよなと完璧に部外者となった
一番の功労者である筈のカイは敵の攻撃を避けながらそう考えたが












それはまた別の話。










「アリス・・・ごめんな」

「マスター、何故謝るんですか?」

突然謝られ、分けが分からずに切り返すアリス。

「もう、お前を置いて行きはしないし、死に急ぎもしない」

「え?」

「俺も、お前を愛している」

今度こそ、アリスは完璧にショートした。
因みにアキトが言った、愛しているとアリスの愛しているは別の次元のものだったとはアリスは気付かなかった。

そんな彼らの様子を見て、カイはもし、アリスとアキトの種族どころか生命を超えた二人の愛が成立しても自分には
「家族になろう」とか、「お前も大事な人だ」とか、そういうのとは全然何の関係ないんだろうな〜と切なげに思った。







つぅーか、初めアキトの自殺の道連れにされる予定だったし(笑)



そう、ブラックサレナに搭載型のAIであるカイ君には
リンクで繋がっているけど離れた地にいるアリスと違いアキトが死なばもろともというこの上ない不幸な立場だった。







ある意味、ナデシコCの某オペレーターよりも不幸なカイ君が敵の攻撃を必死こいてかわしている間に、アキトとアリスの愛の物語は纏まったようだ。





アリスは言った。

『マスター、私を愛してくれるのですか?』

今の彼女は乙○回路に目覚めたのか切ない声を出しアキトにそう聞く。








アキトは決意した。

「ああ、例えユリカに拒絶されても、
お前とルリちゃん、そしてラピスたちが俺を肯定してくれる限り、
俺もお前たちを護り、愛し続ける」

こんな感じで女を落とすのだろう絶妙な言い回しで、そう答える。









カイは叫んだ。(本気で)

彼には不幸な事にアリスの様に自分の思考を日本語に変換する装置が組み込まれてはいなかったので、
その魂の叫びが彼らの元に届く事はなかったが・・・・・

(因みに、彼がこの件の事で極楽トンボとサリーちゃん狂の中年オヤジに復讐を誓ったとか、誓わなかったとか)



何でも良いからとっととジャンプしろや、ボケ!
もうこちとら限界なんだよ!!

ああ、かすった。装甲が、装甲がはげる〜〜〜
え、相転移エンジン出力停止?嘘!
ああ、お前ら、挟み撃ちはズルイゾ!!
あ〜〜〜、右腕が吹っ飛んだ!!!!







・・・・・・・・一番切実だった(涙)。






















こんな感じでジャンプしたとき、ブラックサレナのジャンプフィールド発生装置が被弾していた所為でランダムジャンプが起こり、彼らは過去を逆行する。

因みに、後日、あの時ジャンプフィールド発生装置が壊れたのはやはり自分の所為かとビクビクしていたカイ。
しかし彼らは特に気にもとめなかった(カイの存在も含め)。





彼がぐれる日は近いかもしれない。










後書き
緋月です。何故か機動戦が書きたくなって書いた適当な筈のSS。
それなりに面白くなったので、どうせなら投稿してみようかなと思い出した次第です、はい。
一応このHPに載せてくれた記念を込めて作った短編小説だったのですけど、なんか惜しいかなと思って続き物にしてみました。
私自身はこれの続きを書こうという気概は特に持ってないので応援のメールの有無で決めようかと人任せな気分。
一応続けるとしたらギャグとシリアスが混じったほのラブなストーリーにしようと思ってます。
では、感想のメールお待ちしております。








代理人の感想

続き物にする気がないなら素直に短編にしておけばいいと思いますよ〜?

と、言うか「第一話」「プロローグ」だけあって続きがない作品って寒いです(爆)。