機動戦艦ナデシコ〜時の流れに〜 アナザーストーリー
影の宰相
序幕 混迷するシナリオと必要ないかもしれない主人公
全てを失うと人はどうなるのだ?
死ぬのか?
死ぬ事に恐怖などない。
ならば「失う」とは何なのだ?
ワカラナイ。
ただ俺が、「俺達」が恐れるのは自分が、互いに見えなくなる時のみ。
曙光降りたつ草原に、若人独りあり。
顔には喜色を浮かべているも其の表情のおくにはどこか悲しみのある風情だ。
そして風が駈けた。
ただそれだけの事である。
だが、たったそれだけのことでも彼にとっては喜びに値する。
以前に見た草原の匂いを懐かしむ。
違った。
やはり、ただそれだけの事である。
が、それすらも感じられることは喜びに値する。
季節は冬、風の息吹は緩やかだがそれでも寒い。
だがこの喜び誰に伝えればよい事か!
今は亡き妻にか?
それとも蝶よ、花よ、と慈しんだ義妹にか?
否、他の誰でもない。彼自身にである!
彼は喜びのあまり叫びたくなる衝動を歯を食い縛って押さえ、
あてもなく、ただあてもなく、彼は、彼は、駆けたのだった。
「火星が落ち、戦局は悪化の一途。全世界の各方面軍には補給物資すら満足に行き渡らない。まあ上出来だな・・・」
とある大きなビル、というより「巨大な」という方がよりふさわしい。
その最上階の一室で灰色の髪をした男がつぶやいた最初の言葉だった。
男の名はロバート=クリムゾン
齢二十三の若さにしてクリムゾングループの会長として以来四十余年の永きに渡ってグループの権力を握った男である。
一時期、内訌により分裂しかかったグループをネルガルの脅威から救い辛難艱苦の末、
ネルガルに迫る大企業に育て上げた経営の天才。
その辣腕は四十年に渡る時間と不断の努力によって練磨され、おそらくは今世紀最大最高の企業人と言える。
この手の企業家にしてはあまり広いとは言えない執務室のスクリーンに映る宇宙戦略地図と、各方面軍の戦力一覧、物流と株価の一覧、
一際大きく映し出されたのが、
追い詰められたネルガルの起死回生の策 <スキャバレリプロジェクト>の要となる、ある戦艦の映像である。
老人は165センチくらいの、あまり自慢出来ないがよく引き締まった体躯を椅子から起こした。
「して、この戦艦の名は・・・?」
呼ばれた若い白髪の筆頭秘書はかく答えた。
「ナデシコと呼称するようです、なかなかセンスが宜しいようで。」
「センスが良い?お前の感覚は理解できんな・・・」
この細身の青年は容姿は衆に冠たるものがあるが「美」に対する思考の方は常人とはかなり違う。
だが権謀術数と情報収集では業界随一の腕前を誇るであろう。何しろ足跡1つ残さないのである。
警戒しようがないから当然「やり易い」。奪られるほうは気付きもしない。軍事企業の情報網の二割は彼の手の平にあると言っていい。
「ですが会長らしくもない、このような戦艦一隻でどうこうできる戦局ではないでしょう?何故そのような事をお気に召します?」
青年は白い髪を細い指でかき上げ軽く微笑みながら言った。
「あまり主人を試さぬ事だな。1パーセントの可能性でも敵の成長の芽は摘み取るのが成功の秘訣だ。
ましてや今尚ネルガルの優位は変わらぬ。」
「お言葉ですが、敵の成功は潰すのではなく成果を奪い取る事をお考え下さい。
それに木連が圧勝するのは我らにとっても好ましくありません。」
宇宙地図を指し、一息つくと
「それに我らのこの『事業』は完全勝利をしなければ成功とは言いません。
五年近くこのために準備してきたのです。軽はずみな真似は失敗に繋がります。」
「わかっておる。
だがマシンチャイルドの研究面と人型機動兵器の開発に遅れをとっておる。極秘裏にやるには予算が少ないようでな・・・」
「確かに・・・、ココ最近色々と予算を使いすぎましたからね。が、今の投資は3年後に必ず倍になって還ると確約しましょう。」
「倍?計画では3倍のはずだったろう?」
「安請け合いはしません。しかし私に全権をお任せ頂ければ年内といってもよろしいですが?」
老人は即答で答えた。
「断る。お前のような油断も隙もない奴に実権を握らせたら何時会社を乗っ取られてもおかしくないからな。」
「そこまで言いますか(笑)・・・まあ、僕の指示に部長連が従うとは思えませんがね。」
青年は笑いながら肩を竦めた。
この二人の関係はただの主従というには親密すぎたし、
肝胆相照らす仲、というにはどこか不実な感じがした。
それにお家乗っ取りを謀る野心家と経済による世界制覇を企む老人というにはどこか欲が無いように見える。
「そんなにウチが欲しいならば、わしの孫娘の代になってからにするんだな」
老人はフッと笑って青年を見た。
青年はこともなげにアッサリ言う。
「お断りします。そこまでするほど覇者の座は欲しくありません。」
これには偉大な企業家も呆れた。
権謀術数の大家が手段を一々選ぶとは。
孫の魅力云々よりグループ乗っ取りのオーソドックスな方法を拒否したのである。
しかし、息子のリチャードよりも目をかけてきたからか彼は息子よりも自分に近い。若き日の自分をみるようである。
能力は有能極まりなく人材登用の要諦を心得ている。人望はまだないものの器量は自分すら超えるかもしれない。
かの老人は珍しい思考の持ち主で財産とは徳あるものが継ぐべきであると思っている。
もしくは才あるものに奪われるもの、といっても良い。
とにかく「現代」においては先祖から受け継いだそのような財産などその程度の価値しかないのだ。
そしてそれは「世界」が一つになったころからの正義ですらある。
そのような思案に耽っている時、青年は思い出したように口を開いた。
「人型機動兵器のデータに関しては僕が奪ってきましょう。少々角が立つかもしれませんが、マシンチャイルドに関しては・・・」
老いたる覇者と茫洋とした捉えどころのない青年は言を合わせた。
「無ければ借りる、借りたら捨てる。」
互いに微笑み、青年はドアを開けコツコツと軽い音を立てながら退出していった。
そして、老人はただ彼のあまり広いとはいえない背中を目に喜色を浮かべ見ているだけだった。
夜も明けビルのふもとから見える曙光はさながら覇者達の未来を暗示しているかのように映えたのだった。
(次回予告) 1幕 実は必要だった主人公と嫌なオンナ に続く
〜〜後書き〜〜
こんにちは初めまして。
飛燕と申します。
気合を入れて書いたのですが大丈夫でしょうか?
正真正銘の初投稿なもので短い上に槍先生のパクリみたいになってしまいました。
挨拶もなしにいきなり投稿をしても大丈夫なんでしょうか?
ダメだったらすいません。
あと設定がいまいち狂ってるかもしれないし、描写が未熟で分かりにくいでしょうがココまで読んでくれたらありがたいです。
個人的に「武力は智謀に如かず」という前提とネルガルやクリムゾンの社員や役員が
そこまで愚劣なのだろうかという疑問の上に書いたので、
最強最狂最凶アキト様はテンで弱くなるうえ悪辣になるだろうし、
ナデシコは戦争の英雄としてだけで書く気でいるので気に入らない方はすいません、
Benさんの〜時の流れに〜に感化されたためしばらく書いてみようと思います。
管理人の感想
飛燕さんから初投稿です!!
おお、実に楽しみなコンセプトですね!!
何しろ政治関係とか、経済関係にはとことん弱いですから、私は(苦笑)
こういった作品は大歓迎ですよ!!
今後も楽しみにして待っていますね!!
それでは、飛燕さん投稿有難うございました!!
感想のメールを出す時には、この 飛燕さん の名前をクリックして下さいね!!
後、もしメールが事情により出せ無い方は、掲示板にでも感想をお願いします!!
出来れば、この掲示板に感想を書き込んで下さいね!!