機動戦艦ナデシコ
ROSE BLOOD

第三話

著 火真還




 ナデシコのディストーションフィールドに阻まれて、最後のミサイルがレーダーから消えました。

 それ以上の攻撃がないことを確認して、報告します。


「第四次防衛ラインを突破しました。

 これで、残る防衛ラインは三つ。

 第三次防衛ラインは、大気圏中空機動部隊のデルフィニウム。

 第二次防衛ラインは、低高度衛星軌道上に配備された大型ミサイルランチャー。

 そして最後の第一防衛ラインは、高高度衛星軌道上に設置されたバリア衛星、通称"ビッグバリア"です。

 そろそろ第三次防衛ラインに入ります」


「ここまでは順調ね」

 うーんと背伸びして、ミナトさんが疲れた肩をほぐしています。


「第二、三次防衛ラインはともかく、ビッグバリアは厄介だよね……。

 そうだ!


 何か思いついたのか、艦長がすごく楽しそうな笑みを浮かべました。

 ―――やるんですね、やっぱり。



 ***



 連邦軍を構成する宇宙軍、空軍、陸軍は、互いに縄張りを争う仲なのだが、当然ネルガルの最新機動戦艦ナデシコの拿捕を行うための連邦会議が開かれていた。


 第七〜四次防衛ラインの不甲斐ない結果を見せ付けられ、内部紛争にまで及ぼうかと言うときに、新たな火種が落とされたのである。


「連邦議会総長、通信が入っております」

「うむ」


 中央に設けられた演壇の脇から声が上がり、総長は声を荒げた。


「ナデシコから通信だと!?

 モニターに出せ!」



 ヴン……


『明けまして、おめでとうございまーす!』


 ぴきっ……

 議会に出席しているほとんどの高官たちは思わず絶句した。

 
 ナデシコ艦長、ミスマルユリカが振袖姿でそう言ったからだ。


 ―――な、何を考えてるんだこの艦長は!?


 彼女の奇行は、軍の首脳部にしっかりと焼き付けられることになる―――が、それは別の話。


「むふぅ、振袖姿に色気がありすぎる……」

 ただ一人、ミスマルコウイチロウ提督だけが、愛する娘の麗しい姿に目の端を緩ませていた。


「いったい何の真似だ!」


『えー、似合いませんかぁ?』


「用件を、言えーっ!!」


 ブチキレ寸前である。総長はゼイゼイと息を吐きながら、応答を待った。


『えーと、

 ナデシコは火星に行きたいのですが、防衛ライン―――特にビッグバリアが邪魔なんです。

 できればコレ、解除してほしいんですけど』


 シンプルかつ明瞭なユリカの言葉。

 しかし、この状況では総長の精神を逆なでするだけに過ぎない。

 そのことを彼女は判っているのだろうか?


「ふ、ふざけるなっ!!

 ビッグバリアを解除する理由などない!」


『え〜、ユリカ残念。

 じゃ、いいです。

 強引に突破させて頂きます。

 でわ』


 プツン……


 しーん。


「な、ナデシコからの応答、途絶えました……」



「こ、小娘めっ! 目にもの見せてくれるわ!!」


 すっかり悪役の台詞であった。




 ***




 ナデシコ食堂。


「と、言うわけでして、テンカワさんにパイロットを兼任して頂きたいのですよ」

 目の前のラーメンを啜るプロスさんに、唐突に切り出された。

「え、と。

 その、成り行きで戦ったっつーか、俺」


 別に戦いたかったわけじゃない。

 ―――俺しか、いなかったから。


「ガイは復帰できるんでしょう?

 アイツがいるなら、俺なんかがパイロットなんて」

「まだ療養中でして。

 もちろん、補給ポイントであるサツキミドリに行けば、正規パイロットが三人、加わってくれますので、それまでで良いのですが」

「な、なるほど」


 ……今は地球脱出の真っ最中。といっても、敵なんか居ないよな?


「判りました。

 そういうことなら」

「いや、ありがとうございます。

 もちろん、お給料のほうもこれこのとおり」


 ポンポンポン。


「うわ……いいんですか、こんなにもらっちゃって」

「コックにパイロット。

 両方とも大変なお仕事だと思いますが、それではお願いします」

「はい」



 ***



 ウリバタケの指示で、ムネタケ以下18名の身柄を拘束した貨物室が開く。

「……フン。

 小娘の癖に、ワタシをこんな目にあわせてただで済むと思わないことね!」

 ムネタケは嘲笑。部下達も、暗い笑いを俺に向けている。


「ケ、好き勝手言いやがって。

 かまうこたぁねえぜフィリスちゃん。

 こいつら海に叩き落してやればいいんだ」

 嫌悪を丸出しにして、ウリバタケがムネタケを睨む。


「こいつらの装備は?」

「いや、銃器は取り上げたはずだけどよ……」

 流石に専門ではないので、隠し持たれた何かを発見するまでは至らなかったか。

 ―――だからこそ、こいつらが脱走。それを目撃した為にガイは死んだんだからな……。


 ガイは、アキトの事を相棒だと言ってくれた。もちろん、それは話の盛り上がり上、口に上っただけの言葉だっただろう。それでも、嬉しかったのだ。アキトの傍にいてくれる友。そういう機会を無くしたこいつらに、俺が情けをかける必要が、何処にある?


「余計な真似をされる前に殺しておくか

 俺は殺意を―――最大級の怒りと冷酷な殺気を、止める事が出来なかった。

 ガイを救う事は出来る。

 しかし、どうしてもムネタケらが『何もせずに』ナデシコから脱走するとは思えないのだ。


「な……なによアンタ! や、やろうっての? ワタシを殺したら軍が承知しないわよ!」

「関係ない。

 目障りだから消す。それの何処がおかしい?


 ナイフを取り出す。銃はダメだ。人間の体を貫通する可能性は捨てきれず、跳弾は避けるべきだ。


食堂で失敬したナイフは、それほど切れ味がいいわけじゃない。

 多少『
痛い』だろうが、まあ我慢してくれ。

 なるべく苦しませずに逝かせてやる


 ―――俺は笑っていたのだろう。厚薄の笑みを浮かべて、しっかりと『本気』だった。


「ち、ちょっとフィリスちゃん、まずいんじゃねぇか? そりゃ」

「とめるな、ウリバタケ。

 こいつらは―――死んだほうがいい


「「「ヒ、ヒイィィィィィ!!!」」」


 みっともない悲鳴をあげるムネタケの前で、一人の部下を蹴り上げる。

「ゴハッ」

 叩き落す。

「グハァ!」

 後ろ手に縛られているから抵抗は出来ない。鼻血を出して肉達磨のように地に這いつくばるこの兵士を、俺は最初の犠牲者に決めた。

「まずはこいつからだな。

 さて、遺言はあるか?

 ムネタケに言いたい事の一つもあるんじゃないか?」


「ヒヤアアアア、た、タスケ……」

 ナイフを首元に這わせる。首の皮一枚を、丁寧に切っていく。血が―――うっすらと滲む。


言う、言うから助けてくれ〜!!


「な……」

「貴様、軍を裏切るのか!」


 残る兵士達の声。


「酷いヤツラだよな。

 お前は黙って死ね、だとよ。

 どうする? 企んでいる事の一つもあるんだろ?

 言えば―――そうだな、お前はちゃんと地上に送り届けてやる


「「「―――!!!!」」」


 兵士はガクガクと頷いた。自分の命だけがかかったチップ。

 自分のために使うのは当然だ。

 人望のない副提督に、絶対の忠誠を誓う兵士などいない。


「そうか、話してくれるか」

「こ、この艦に付き合うつもりはないから、せいぜい嫌がらせをするつもりだった。

 適当なところで脱走する前に、メインエンジンとエステバリスを使用不可能にして、艦載機で逃げる予定だったんだ!」


「な、なんてこと考えやがる!」


 ウリバタケが本気で怒っている。

 俺の暴走に辛抱強く付き合ってくれたお陰で、こいつらの目的ははっきりしたわけだ。


「こいつら置いとくとろくなことがねぇ!

 フィリスちゃん、こいつらさっさと落としてしまおうぜ!」



 !?

 呆然とするムネタケ以下。





「そうだな、艦載機に詰め込んで放り出すか。

 一応、エステとエンジンはチェックしておいたほうがいいな。用心に越した事はない」

「わかった」


 状況をようやく理解できたのか、

な……まさか、アンタタチ!!

 頭で湯を沸かす勢いで、ムネタケが怒り狂う。

「ちょっとしたもんだろ? 俺の演技も」


 そーいうわけで、ムネタケ以下18名は、第四次防衛ラインから艦載機ごと落とされる事になった。



 ***



 第三次防衛ライン。


 僕はミスマル提督にお願いして、ココ、防衛衛星サクラのデルフィニウムの格納庫に来ていた。

 目的はひとつ。


 ―――ナデシコを、このまま火星に行かせるわけにはいかない。

 軍を敵に回して、いくらネルガルといえども、無事で済むはずがない。

 だから、なんとしても―――僕がユリカを説得しないと。


「いいんですか、ナノマシンを注入するということは、貴方の経歴に無用な―――」

「いいから、貸せ!」


 IFSを形成するナノマシンを打ち出す無針注射を奪い、首筋に押し当てる。

 プシュー


「知りませんからね、私は」


 自分の保身のみを心配する軍医を下がらせる。

 そういう人物を、僕は好きになれなかった。

 
 右手の甲に浮かび上がる紋様。

 IFSが定着したのを確認して、僕はデルフィニウムを見上げた。


 自分の乗ることになる機体を。




 ***




「第三次防衛ライン、防衛衛星サクラより、デルフィニウム部隊が出撃しました。

 後、12分後にこちらに接触します」


「流石に素通しはさせてくれないなぁ、

 よし、エステバリス出撃準備!

 アキト、頑張ってね!


 艦長が私事を交えながら交戦を宣言。

 にわかに忙しくなってきました。


「エステバリス・パイロットは至急、格納庫へ急いでください」


 メグミさんが艦内放送を流します。

 といっても、アキトさんしかパイロットが居ない状態なので、あまり意味はないようにも思ったりしますけど。


 と思っていた矢先。ウリバタケさんからコミュニケの通信が。


『ちょっとブリッジ!

 大変だヤマダのやつがっ!』


『ダイゴウジガイだ!!』


 ヤマダさんが割り込みます。


『俺達が止めるのもきかず飛び出しやがった!

 しかもっ、武器も持たずにだぁーーー!!


 ―――あの、バカ。またですか。



 よれれ、と倒れかける艦長に、ミナトさんが


「か、艦長しっかり!」


 などと励ましています。


『何やってんだよっ、ガイ!

 まだ足、治ってないんだろう!?』


 ようやく格納庫に到着したアキトさんがヤマダさんを止めようとします。


『フ、心配無用! 先に行くぜアキト!

 このヒーローの戦い振りを、その目に焼き付けておけぃ!

 博士、スペース・ガンガーを射出してくれ!』


『スペースだか、ガンガーだのいう装備は、ここにゃ、ねぇよ』

『1−B装備のことじゃないですかね、班長』

『あー、あれね。

 適当にやってくれ、俺はもう知らん』


 すっかり投げやりになってます、ウリバタケさん。


 やや遅れて、1−B装備が発射されました。ヤマダ機目掛けて、一直線に飛んでいきます。



説明しよう!

 これこそ俺の作戦そのいち!

 『ガンガー・クロス・オペレーション』だ!!

 まず丸腰のが敵をひきつける!

 当然、敵はを狙って攻撃してくぅる!

 そこで!!!

 射出されたスペース・ガンガーに換装し、一気に敵を叩く!!



 がくーーーーー!

 皆さん、聞くんじゃなかったって顔してます。


『それって……何の意味があるんだ? ガイ』


 あ、アキトさんも呆れています。

 初めからその『すぺぇすがんがぁ』で出撃すれば何も問題なかったのですが。

 まあ、知ってましたけどね。別に止める気はありませんし、私。

 アキトさんが行くまで、死なない程度に頑張ってください。


 ……あ、アキトさんも、ようやくエステバリスに乗り込んだみたいですね。


『テンカワ、いきまぁす!』

「がんばってー、アキトー!」







きたきたぁ〜!!

 行くぞ、ガンガークロスオペ』


 ドガァァァン!!

 デルフィニウムの対空ミサイルを十発以上受けて、1−B装備が爆発しました。

 ……狙ってくれって言わんばかりでしたからねー……。



『……失敗かぁ』


 残念そうですね、アキトさん。少しは期待したんでしょうか?


「1−B装備、撃破されました」

「……むぅ」

「ああぁ、費用対効果からみても最悪ですよっ、これは!」


 プロスさんの嘆く声が聞こえてきます。

 ―――成功すればそれなりに凄かったかも知れませんが。


『な、な、なんのこれしきっ!』


 ヤマダさんがデルフィニウムが十数機いる真中に突っ込んでいきます。


『ガァイ・スーパーナッパアアアアアアー!!!』


 ヤマダ機のエステバリスの右腕―――ディストーションフィールドを利用しての打撃―――それなりの破壊力はあります―――こぶしが、狙ったデルフィニウムの頭に叩きつけられ、爆発しました。


『わーはっはっは。

 見ぃたぁかぁ、俺の実力ぅ!!』




『バカが。

 狙われるぞ』



 ―――突如、フィリスさんが通信してきました。

 そういえば今まで見なかったような……。


 その言葉どおり、三機編成の三グループによってヤマダ機は動きを封じられ、ついには何時の間にか忍び寄っていた背後の二機に、両腕をがっしりと拘束されてしまいました。


 そして、




『ナデシコ、聞こえるか!

 これ以上軍に抵抗を示すなら、こちらにも考えがある!』


 その声は……。


「ジュン君!?

 どうしてそこに居るの? ってあれ? 後ろにいない!?」



 をい……。


「ちょ、今まで気づいてなかったの艦長!?」

「やだ、ジュンさん可哀想〜!」


 ミナトさんとメグミさんが……ちょっとそれ以上アオイさんを刺激しないで下さい。



『くっ、こうなったら

 このパイロットを殺してでも、止めさせてもらう!』


 ジュンさんの乗るデルフィニウムが、ライフルをヤマダ機に向けました。


『やめろーっ!』



 ***



「さっきまでいっしょにいた仲間だろう!?

 どうして殺すなんて言えるんだよぉ!」


 俺は頭に血が上っていた。

 ―――いくらナデシコを止める為って言っても、そこまでやることはないじゃないか!


 ガイを拘束している二機を掠めるように、相手の動揺を誘う。


 俺が背後をついたために、二機のバランスが崩れ、ガイは間一髪、危機を脱した!


『助かったぜ! テンカワ!』

「ガイ! コレ、おまえの武器!」


 フィリスさんに渡すよう頼まれたラピッドライフルを、ガイに投げる。


『サンキュウ!!!

 行くぜぇ、オラアァ!!!』


 受け取ったガイは左手を上げて礼をいい、見違えるような腕前でデルフィニウムを蹴散らし始めた。


 ―――すごい!



 それは、訓練を受けた者と受けてない者の差、なのだろう。


 レーダーのオレンジの点がミサイル。青が友軍、赤が敵。


 必死に避ける。

 赤は少しずつ減っている。


 俺の攻撃は、はっきり言って『当たらない』。

 敵の攻撃を避けながら、照準を敵機に合わせることができるような技量はない。


 だから、逃げに逃げる。


『右手、下の敵が止まってるぞ―――行け!』

「はい!」


 そして、フィリスさんの指示があったときだけ、そいつを狙う。


 ドガアアアン!!


「あ、当たった!」

『後ろに付かれるぞ!

 下に逃げろ!』


「―――!」


 一瞬後、上を火線が通り過ぎた。ライフルで狙われたんだ……!





『地球に戻ってくれ、ユリカ!

 今ならまだ丸く治めることができるんだ!』

『駄目!

 私が私でいられるのはココなの!

 ミスマル家の娘じゃなくて、

 お父様の娘でもない、

 自分の意志で決めた、このナデシコなんだよ!

『君を軍の敵にしたくないんだ!』

『ジュン君……』




『く……テンカワアキト!

 僕と勝負しろっ!!


「……はあっ!?」


 何、言ってるんだ、副長は。


『君が勝てばナデシコは通してやる。

 しかし、僕が勝ったら、ナデシコはココで軍に徴収させてもらう!』

『『おおー!!』』

『男の純情よねぇ?』

『けど、アキトさん気づいてませんよ、アレは』

『くうっ、良いねぇ。

 痺れるじゃねぇか、チクショウ!

 おいアキト、ヒーローはおまえに譲ってやらぁ!』

『費用面から見てもその提案を受け入れたほうがよろしいですな、艦長』


『……判ったわジュン君。

 この勝負、受けてたちます!

 がんばってね、アキト♪


 ……をい。


「コラコラコラコラ、そんなことで決めちゃっていいのか!?」



 ジュンのデルフィニウムが突っ込んでくる。それをかろうじて避け、機体を立て直す。


「なんで、こんな事になってんだぁっ!」


 フルバーニアでデルフィニウムを追跡する。


 ジュンの苦し紛れのミサイルをラピッドライフルで破壊する。



 ドドドドドォオン!!


『くぅっ!!』



『おおっ!』


 煙の中を抜けて、デルフィニウムと接触。


僕は……君が憎い!

 ユリカといっしょにいた時間は僕のほうが長いのにっ、

 何故、お前だけがユリカの視線を独占できるんだ!』

知るかそんなこと!

 大体、独占したいならずっとそばにいればいいだろうっ!!

 だからナデシコって、お前もココに来たんだろう!?」


 ―――自分でも支離滅裂だと思う。でも、それくらい頭に血が上ってる。


『それができないからっ、こうしてるんじゃないか!!』

「ばかやろー!!」


 思いっきり、殴りつけた!



 ***



『た、隊長!

 もうすぐ第二次防衛ラインです。撤退しましょう!』

「お前たちは帰れ!

 僕のことはいい!」


『了解しました!』


 あっさりと、生存していた六機がサクラへと帰っていった。落ちていった四人も、大して怪我はないだろう。脱出は確認したし、下は海だ。



 ―――とはいえ、自分の機体も、そろそろ燃料が尽きかけている。


 
「はは、僕の人望なんてこんなもんさ。

 ……分かっていたことなんだ。

 僕にはユリカをとめることは出来ない―――」




 少ない燃料を振り絞って、上昇をかける。


 ナデシコの上空。

 第二次防衛ラインが作動し、ミサイルランチャーから数百発のミサイルが落ちてくる。


 ナデシコの上で、僕はデルフィニウムの両腕を広げた。

 僕の後ろに、ナデシコがあるから。

 僕が、彼女を守らなきゃ。



「それでも、僕はこうするしかなかった。

 ごめん、ユリカ―――」



『なぁに、かっこつけてるんだ副長!』

『迎えに来たよ』


「な、君たち……燃料はもう無いんじゃ……」


『ナデシコが追いついてきたからな!』

『戻ろう、ジュン。

 きっと、ユリカは分かってくれるよ』

「……う」


『ジュン君に戻ってきてくれたら、ユリカ嬉しいなっ」


「ゆ、ユリカ〜……」



 格納庫に戻ってきた僕を、皆が受け入れてくれた。


「気にすることなんて無いよ、ジュン君!

 ユリカがジュン君のこと忘れてきちゃったんだもん」

「そうそう」

「元はといえば、ユリカが悪いんだよ……」

「えへ、ごめんなさい。

 じゃ、ジュン君。仲直りの握手!」


「え……」


 おずおずと手を差し出す。


 にぎにぎ。


 乾いた、さらさらの手。


 顔が赤くなる。



「……男の純情ねぇ」

「ミナトさん、顔が笑ってますよ?」


「そういえばジュン君、どうしてナデシコを止めたかったの?

 あ、ひょっとしてぇ……。

 ジュン君、ナデシコに好きな子がいるんだぁ!

 ねぇ、誰なのその子。ユリカに教えてくれないかなぁ?



「ゆ、ユリカ〜……」


 ふ、ふふ。

 分かってたさ、分かってたのさ〜。ユリカがそういう人だってことは。



「か、かわいそ……」

「やっぱり気づいてなかったんですね、艦長……」


「ジュン……俺、なんて言っていいか……」

「いや、いいんだテンカワ君。

 なんとなく、こーゆー落ちだってのは、分かってたから」



 ***



 これからが大変だな……。

 俺は騒ぐ皆から離れた―――廊下の陰に隠れて、成り行きを見守っていた。

 出来る限り、手は出したくなかった。

 逆行者といっても、神様ではないのだ。

 すべてのフォローなど、出来るはずも無い。

 ……いや、するつもりは、無い。

 だが、やはり死なせたくない人は出てくるものだ。

 それでも、こうして『できるだけ』史実通り進んでくれると、俺は安心できた。

 ―――これが、自分のわがままなのだとしても。


「ふー、一件落着、かな?」

「そーですね」

「わぁ!?」


 俺の横で、何時の間にか覗き込んでいたルリちゃんが言う。


「よかったですね、『アキト』さん?」

「な゛っ」


 ……正体ばらすような真似はしなかったはずなんだが。

 これ以上ごまかすのも意味が無い。俺は開き直ったように、


「……何時から気づいてた?」

「ついさっきです。

 ムネタケ副提督、下ろしちゃったんですね、もう。

 ヤマダさんを助けようとするのは、アキトさんぐらいですから」


 ……あー、そーいうこと。 


 少し泣きそうな眼になって、ルリちゃんは俺に抱きついてきた。


「もう……もう逢えないかと思ってました。

 どうしてもっと早く言ってくれなかったんですか?

 最初から言ってくれてたら、こんなに苦しまなくてすんだのに」

「すまん」



 暫くそうやって抱き合っていたら―――。


「あ〜っ! フィリスちゃんとルリちゃんが抱き合ってる!!」

「「「「なんですとーーー!!」」」」


 し、しまった!!!


 どどどどどど!!!




 ***




「何があったんだ!」

「どうしたの!?」

「くうっ、コレはコレで!!」←< 問題発言 >



「いや、その」

「姉妹の契りを交わしてたんです。

 私のお姉さんですから」

「る、ルリ……」



 ぼへーっと艦長がこっちを見比べてます。


「そっかぁ!

 ルリちゃん、お姉さんが出来たんだ!」

「はい♪」



『そろそろ戻っていただけませんか?

 ビッグバリアを突破しなければならないのですが』


 怒りを押し殺したようなプロスさんの通信。


 そういえば忘れてました。


「た、大変!

 皆さんっ、持ち場についてくださぁい!!」





 ……こうして、ナデシコはあっさり、とは行かなくても何とか地球を脱出しました。

 目的地は火星。

 しかし『アキト』さん? これからどうしますか?


ルリちゃんにバレました。早速。

某整備班長ではありませんが、コレはコレで!!!

……嘘です、御免なさい。

二人はそーゆー関係ではありません。

多分。

 

 

 

代理人の感想

ルリならやりかねん。

・・・とか思ってしまうのは問題?(爆)