おお、友よこの調べではない!
もっと快い、喜びに満ちた調べに声を共にあわせよう。



















「くそっ!!」

ズガン!!

アキトの放った一撃によりまた一機積戸気が落ちていく。

「まったくゴチャゴチャと…何処にこれだけの戦力を隠していたんだ!!」


その日、ユーチャリスは火星の後継者の残党に襲撃を受けた。
普段は此方から襲撃するのが常だったが、決して逆に襲撃を受けたことが無かったわけではない。 むしろ、彼等の主の仇とばかりに頻繁に襲われていたが、今回は少しばかり異常だった。 敵の数が異様なまでに多かったのだ。戦艦は目に見える範囲だけでも両手の指では数え切れず、 機動兵器もステルンクーゲルに積戸気といった彼等の主力兵器が周りを覆い尽くさんばかりに囲んでいる。
さらには……



ガキィン!

「うぉっ!!」

一瞬気を抜いたその瞬間に、紅い疾風が彼を襲う。

(くそっ、なんで夜天光までいるんだ!アレを使いこなせる奴が北辰以外にいるとはな!!)

ギ・ギ・ギギィィ…

敵の錫杖を、戦艦並みの強力なディストーションフィールドで受け止めたが
夜天光は構わずフィールドを破らんばかりに錫杖を押し付ける。
ブラックサレナはじわじわと押されていった。


「ふははは、い〜ぃザマだなテンカワアキト!!あの北辰を倒した貴様といえども、
スクラップ寸前の機動兵器で我が輩、白虎の西条の一撃に耐えられはすまい!!」

「くっ、べらべらと煩い!!」

ガガガッ!!

左手のカノンが火を噴き、夜天光を引き離す。
ユーチャリスの援護は期待できない、他の戦艦や機動兵器に邪魔されてアキトが近づくことすら 厳しいのだ。

(くそっ、せめてサレナが本調子であればこんな雑魚っ!!)


カッ!

ズガァン!!

どうやらほんの隙を突いてユーチャリスがグラビティブラストを放ったようだ。
戦艦が爆発四散するのを横目で見ながら、アキトはスラスターを吹かして夜天光へと向かっていった。






機動戦艦ナデシコ
〜 I bless you 〜

第一話:賽を投げたのは誰






火星の後継者鎮圧後、アキトは火星の後継者や宇宙軍から狙われ、終われ続けていた。
ナデシコはアキトを連れ戻そうと、統合軍は多数の寝返りを見過ごし、その失態を世間の目からそらす為のスケープゴートを求め、 火星の後継者の残党は憎き主の仇を討つ為に。 だが、既に一部の人間は一連のテロ犯のバックに感づき始めていた為、おいそれとネルガルのドックに入ることが出来ない。
また、例え無事ドックに入ることが出来たとしても妻や養女が待ち構えている可能性も有り (実際何度か有ったがエリナやラピスのお陰で逃げられた)、直前にキャンセルすることも 一度や二度ではなかった。

結局、ギリギリまで補給や整備を受けられない為にボロボロになったユーチャリスやブラックサレナを見て
怒り狂ったエリナ女史にお説教を食らうのも当然といえよう。

今回は正に補給限界ギリギリの状態でドックに連絡を入れた、そんな矢先の襲撃だったのだ。
どうやら通信を偶然傍受されてしまったらしい。
(くそっ、もう少し注意すべきだった!)
そんな後悔が頭をよぎる。

そしてその一瞬の不注意が、勝敗を決してしまった。

「ふはははは、もらったぁ!!」

ガズン!!


<< アキト!?>>

油断した瞬間、夜天光の錫杖がバックパックに突き刺さった。
運の無い事にその一撃は内部のジャンプユニットとエネルギーラインを寸断、スラスターが停止。
コクピットをレッドランプとアラートが埋め尽くし、そしてウインドウに機体のダメージ状態が 無慈悲なまでに浮かぶ。
ここまでか、アキトは本気でそう思った。


<< ラ、ラピス、、、一人で逃げろ、、、>>
<< イヤッ、アキトモイッショニニゲヨウ>>
<< ジャンプユニットを貫通された、、、単独での帰還も脱出も無理だ>>
<< ソンナ、、、>>












(アキトガシンジャウ…)

ラピスは蒼白になった。
単なる実験体(モルモット)だった自分を一人の人間として扱ってくれた唯一のヒト。
心のつながりを通して、自分を人形から人間にしてくれたヒト。
すべてを共有している、一番大切なヒト。
それが今、死の危機に瀕している。
生まれたときから隔絶された環境でモルモットとして生きてきたため、 一般的な常識を知らない彼女は「死」というものを完全には理解できていない。
だが、それが「二度と会えなくなる」ことを意味するくらいは理解していた。

冗談ではない。

彼女にとってたった一つの大切な絆、それが奪われようとしている。
そんなことは到底寛容できない。


(私はアキトの目、アキトの耳、アキトの手、アキトの足、アキトの、アキトの、、、、アキトのすべて!!)

覚悟を決めたラピスは、彼女の持つ最後の切り札を発動した。


(回線ふるおーぷん、SOS最高出力デ発信!!)











ラピスが最終手段を発動した頃、西条はブラックサレナの前で勝ち誇っていた。


「ふふふ、無様だなテンカワアキト、そろそろ年貢を納めてもらおうか!」


ギラッ

夜天光の手の中で錫杖が、仇敵の息の根を止めんと鈍く輝く。


「さぁて、草壁閣下の仇を、、、ぬっ?」

『西条様、緊急事態です!!』


突然開いたウィンドウに気勢を殺がれた西条は、八つ当たり半分に怒鳴った。


「どうした!今まさにテンカワアキトを仕留めるところだったのだぞ!!」

『もうしあけありません、ですが…』

「なんだ!早く言え!!」

『はい、敵戦艦が全回線でSOSを発信しました!!
それに伴い宇宙軍基地の監視から戦艦の発進準備が確認されたと連絡が入りました!!』

「なん、、、だと!?」


西条は顔を真っ赤にさせて怒り狂った。
今回の作戦は襲撃場所も厳選してある。近隣にはほとんど基地もない筈だ。
それも殆ど艦が無いのは確認済み、あとはあるのはネルガルのドック位の筈、、、
とはいえ軍がこちらに向かって来るというのでは、のんびりする気など起きない。

「くそっ、いたぶる時間が無くなってしまったではないか」


西条としては、積もり積もった恨みを一撃で晴らす気など無い。

(そうも言ってはいられなくなったか)

だが、少なくとも息の根さえ止めれば多少は気が晴れるだろう。
それによく考えればこれだけの戦力だ。のこのこやってきた多少の敵などあっさり蹴散らして、
後続が来る前に逃げればいい。
心配することはない。そう自分に言い聞かせ、再び獲物に目を向けた。
そのとき

ビーッ、ビーッ、ビーッ、ビーッ












(マニアッテ、マニアッテハヤク!!)

ラピスは自分の策が成功するのを、残り少なくなった無人兵器を操りながら願った。
バレてはいないはず、そう信じてはいるが少しづつ不安が浮かび上がってくる。
バレたかもしれない、届いていないかもしれない、気づかないかもしれない……
どれか一つで即破滅だ。


瞬間、虹色の輝きが彼女の視界を奪った。


―――――ボゾンの光芒









ビーッ、ビーッ、ビーッ、ビーッ



「今度は何事だ!!」


母艦からの通信にまたもや邪魔をされ、西条は再び顔を真っ赤に染め上げて怒鳴った。


『た、大変です!!』
通信士は西条の怒声に一瞬詰まったが、絶望的な悲鳴を上げた。
『ボ、ボゾン反応を確認…』

「…なんだと?」

『艦隊後方に戦艦クラスの質量が跳躍、直後に重力波砲で当艦隊の10%を消されました…』

「なっ!!」

『識別コードを確認、、、て、敵はナデシコ、ナデシコCです!!!』











「敵艦隊の10%の消滅を確認しました。現在、目標A,B共に健在のようです」

「気を抜かないで下さい。続けて、システム掌握します。IFSレベルMAXへ。
艦のコントロールはハーリー君に任せます。
サブロウタさん、リョーコさん以下エステ隊は目標の確保と護衛をお願いします」

「頑張ります!!」

「「りょーかい!!」」 「リョーコと貝、りょーこかい、、、、、、、ぷぷぷ」

ルリの前に4つのウィンドウが開き、威勢のいい返事が返ってきた。(除く1名)



(間に合ってよかった、、、)

ホシノルリは心の中で一息ついた。
敵のシステムを掌握するのは簡単だ。
火星の後継者の本拠地はおろか火星全域をもたった一人で制圧した彼女にとってはなんでもない。
今回はむしろ時間が勝負の分かれ目だった。
ギリギリの勝負に勝ったルリは、ウィンドウに映る彼女の元養父の機体を見あげた。
かつてコロニーを落した漆黒の機体は満身創痍だが、彼自身は無事のようだ。

(アキトさん……)



(しかし、このメッセージが無ければ大変なことになってましたね。
ラピス・ラズリでしたか、、、よくこんな博打をとっさに打てるとは…)

時を少し遡る。

そのとき基地にて偶然発進準備をしていたナデシコCに、一通のメールが届いた。
差出人も書かれていない、宙域の座標と「T・A」とだけ書かれたメール。
ルリはただそれだけですべてを理解し、そしてそれがラピスの狙いだった。
ただ普通に救難信号や通信をしたのでは敵には傍受されるが、手の込んだ暗号を
作り上げる暇は無い。むしろ暗号文など敵に怪しまれるだけだ。
そこでラピスはフルオープン、最大出力でSOSを打ったのだ。
その影で、基地ギリギリに届くか届かないかの低出力でメールを送信。
少し考えれば誰でも思い付く初歩のトリックだが、だからこそ普通なら使おうとはしない。
しかし、使いどころさえ間違えなければ素晴らしい効果を発揮する。


(通信能力が命のナデシコCでしか受信できないほどの低出力での送信。
座標と”T・A”、そしてSOSを結び付けられる頭を持つ人間が居ること、、、
どうやら、あちらは私がここにいることを事前に知っていたようですね)

それも仕方が無い。こちらは一応まがりなりにも軍属、スケジュールが存在している。
むこうにはマシンチャイルドが存在しているのだ、多少の情報漏れはどうしようもない。
(それより、私たちがここに居ることを知っていてなおドックに近い宙域にくるとは、
どうやら本格的にせっぱ詰まってきていたようですね)

先日、ネルガルのドックで待ち構えていたその目の前でボゾンジャンプして逃げられた情景が
目の前に浮かび、ふふふ、と暗い笑みが浮かぶ。

そんな状態で戦闘をしたからあそこまでボロボロなのだろう。万全の態勢で彼等が、いや「彼」が敗れるとは彼女には思えない。
ルリは駆けつけることが出来た幸運を改めてかみ締めた。


「か、艦長、大変です!!」











「うは〜、なんとまぁボロボロだなこりゃ」

サブロウタはかつて見た漆黒の鬼神のなれの果てを見てつぶやいた。

「コイツはヒデェな」
「ほんとー。アキト君腕が鈍った?」

リョーコ、ヒカルも少々驚く。

「食事の用意ができましたよー、、、、、、、ご、はんかい 、ぷっ」

ただ一人、彼女だけはいつもと変わらなかった。


「しっかし、この機体がここまでやられるとはな…」

「ああ、敵うのは火星で倒したあの赤い奴だけだと思ってたんだけどな」

「リョーコもけちょんけちょんにやられちゃったもんね〜」

「ふっ、無様ね」

「るっせい!!」

「「きゃははははははは」」



「やれやれ、っとあらら?」


三人娘が姦しい中、サブロウタがブラックサレナの異変に気づいた。


「おわっ!」

再びその眼に光を宿したサレナは、ユーチャリスの方へと動き出した。

「あ、コラ待ちやがれテンカワ!!」











「ク、、、ナデシコC、ルリちゃんか、、、」

ウィンドウに向こうから近づいてくるスーパーエステバリスが見える。
逃げなければ、そう思いアキトはシステムを再チェックした。

(戦闘は…無理だな)

まともに動いているところなど皆無だった。
逃げる以外に方策が無い。

<< ラピス、逃げるぞ。ジャンプの用意を>>
<< ウン、ワカッタ>>


今のままでは確実に彼女らに捕まる。しかし、まだ帰るわけにはいかないのだ。
そう思い、生き残っているスラスターを吹かした。


『あ、コラ待ちやがれテンカワ!!』
『逃げちゃ駄目だってば』
『往生際悪いぜ、いい加減』
『観念したら?』


懐かしい声が聞こえてくる。今はもう戻れない過去の幻影。

(御免、皆。君達の知っているテンカワアキトは死んだんだ…)


『うわっ、邪魔すんなコノヤロー!』
『あ〜ん、アキト君行っちゃうよ〜』
『くそっ、こいつら統制が取れてて、、、』


ユーチャリスから援護のバッタが射出され、足止めを始めた。
確実にエステ隊の前を塞ぐ無人兵器の群れ。









そして、後の運命を変える一発の銃弾が放たれた……





『コイツで足止め、、、食らえ!!』


ドン、、、ズガァァァン!!


『リョーコのバカー』
『わりぃ、アマテラスの時のつもりで撃っちまった!!』



ビーッ、ビーッ、ビーッ、ビーッ


「危険!」「危ない!」等のウィンドウがコクピット内に溢れかえる。


<ジャンプシークエンス、スタートします>


「やばい、今の衝撃で誤作動したか!?」


アキトの叫びが狭い室内に木霊する。


<< アキト!>>
<< ラピス!ジャンプユニットが誤作動を!>>



<3、2、1、ジャンプ>


<< アキトーーーーーーーーー!!>>










「………」

弾けた虹色の残光が、皆の目から消えていった。
あまりのことに、誰も声を発することが出来ないでいる。

静寂。

わざとユーチャリスを残してサレナがジャンプするわけがない、逃げたのではない。
いや、それ以前にあんな状態の機体でジャンプ出来るわけが無い。

そこから導かれる結論、即ち………



「ラ、ランダムジャンプ……」





それは、「死」と同義語。










これからのち、
"Prince of Darkness"テンカワアキトの姿を見たものはいなかった、、、、、、








機動戦艦ナデシコ
〜 I bless you 〜

第一話:賽を投げたのは誰











はいどーも、日和見です。
この度改訂版を送らせて頂きました。

とはいっても、多少の表現変更と誤字脱字の訂正だけですけどね。
誤字脱字は、一個や二個ならともかく何個もあると読む気がもりもり失せちゃうんで
結構気を遣ってたんですが……あるわあるわ。まだあるかも。

ま、今回の改訂はv0.89→v0.99と言った所でしょうか。
後日、再度改訂を行う可能性大です。(第二話に続く)


次回予告


目を覚ましたアキトの目の前には、記憶にあるあの光景が広がっていた。
己の持つ技術と引き換えにナデシコに再び乗るアキト。
しかし、そこは既に彼の知るナデシコとずれ始めていた。
居る筈の人間、居ない筈の人間…
ここは本当に過去なのか?

次回、第二話「望んだ筈の世界」


「君は、ダレなんだ?」





 

 

管理人の感想

 

日和見さんからの連載投稿です!!

オリキャラが出てきましたね〜

ですが、結構キてるキャラのようで(笑)

で、次からは過去編と・・・

ですが、アキトだけですよね戻っているのは?

これから先、どんな展開になるのでしょうか?

実に楽しみにですね!!

 

では、日和見さん投稿有り難うございました!!

 

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