_ 今回の『漆黒の戦神 その軌跡』は、巴里のある貴族のお屋敷にお邪魔しております。

  今回はお忙しい中お時間を割いていただいて

 

 

「失礼。ずいぶんとくたびれたスーツを着ていらっしゃるようざますけど」

 

 

_ (ざ、ざます!?)はあ、ちょっと最近家に帰る暇がなかったものですから・・・

 

 

「我がブルーメール家に出入りしていただく以上、そのようなみっともない格好では困るざます」

 

 

_ は、はぁ・・・

 

 

「ローラ!ローラ!」

 

 

コンコン

「失礼致します。お呼びでしょうか?」

  

 

「このお方をゲストルームへご案内して差し上げて。あと、バスの用意と来賓用のタキシードをサイズを合わせてご用意して差し上げなさい」

 

 

「わかりました。ではどうぞこちらへ」

 

 

_ いえ、あの、ちょっとーーーーっ!!

 

 

 


 

 漆黒の戦神 アナザー −さくら戦神−

ブルーメール家メイド長 タレブーの場合

 


 

 

_ (ピシッ!!)・・・・・・え〜、では改めてお名前をお願します。

 

 

「ブルーメール家のメイド長、タレブーというざます」

 

 

_ それでは早速ですが「彼」についてお話を聞かせていただけますでしょうか?

 

 

「テンカワの事ざますね。あれは戦争が終わって暫く経った頃ざます。

 お館様が・・・グリシーヌお嬢様がテンカワをお屋敷に連れてきたざます」

 

 

_ こちらのお嬢様が?・・・それはまたどうして?

 

 

「その頃お嬢様は巴里のシャノワールという劇場に出入りしていたざます。

 あまりそういった場に出て行く事はブルーメール家の頭首としてふさわしくないと常々申しあげていたざますが・・・

 失礼。お話がそれましたね」

 

 

_ いえ、かまいません。続けてください。

 

 

「あるときお嬢様がそのシャノワールに住み込んでいる男を一人連れてきたざます。

 お嬢様が仰るには『下々に貴族の生活を体験させる』ということでした」

 

 

_ それが『漆黒の戦神』テンカワ氏だったわけですね。

 

 

「そうざます」

 

 

_ それで彼はこの屋敷に住むことに?

 

 

「このブルーメール家の使用人はすべて女性ざます。

 本来ならお客様以外はお屋敷に泊めないざますが、お嬢様の頼みとあっては仕方がないざます」

 

 

_ それで「彼」は貴族の生活を体験したわけですか。

  いや、羨ましいですね。

  

 

「違うざます。

 テンカワはメイドとしてこの屋敷に来たざます」

 

 

_ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はあっ!?

  メ、メイドですか!?

  あの『漆黒の戦神』が!?

 

 

「勿論ざます。さっきも言ったようにこのお屋敷には女性だけ、執事などいないざます。

 だから当然メイドをするのが筋というものざます。

 それに男物の服は以前大旦那さまが着ていた服しかないざます」

 

 

_ ということは当然彼は・・・メイド服だったわけですか!?

 

 

「そうざます」

 

 

_ とても想像できませんね・・・。

  あの、写真とかはないんですか?

 

 

「ないざます。あいにくと写真機などは持ち合わせてないざますから」

 

 

_ (・・・写真機ってか)

  はあ、しかしメイドとはいえ男が一人だけいたら何かと問題があったのでは?

 

 

「問題というほどの事はなかったざます。

 ただ、男性がいるとどうしても他のメイドが浮かれてしかたなかったざます」

 

 

_ そうですね。

  まあ「彼」の場合、子羊の群れの中に狼を放りこむようなものですしね。

 

 

「そうざますか?」

 

 

_ そりゃあ、噂が噂だけに。

 

 

「噂ではなく、ちゃんと自分の目で確認することが大事ざます。

 私が見た限りでは、狼の群れに放り込まれた羊のようだったざます」

 

 

_ ・・・・・・・・・・・・は、はっ?

  え・・・と・・・それは、どういう事で?

 

 

「テンカワが来て3日目のことざます。

 お茶の時間だったので、仕事の手を休めてお茶を頂いていたざます。

 ちょうどお屋敷の衣裳部屋を掃除した後だったので、ローラがウィッグを見つけてきたざます」

 

 

_ ウィッグというと・・・かつらですか。

 

 

「そうざます。

 昔から貴族のファッションにウィッグは欠かせなかったざます。

 中世の肖像画に描かれている貴族もかつらをかぶったままのものがあるほどざます」

 

 

_ それで一体どんなことがあったんですか?

 

 

「そのウィッグをかぶって遊んでいたざます。

 お茶の時間でしたからあまりうるさく言う事はしなかったざます」

 

 

_ (なんとなく話の展開が読めた)

 

 

「すると何を思ったかローラがそのウィッグをテンカワに・・・」

 

 

_ (やっぱり・・・)

 

 

「それがまぁ、私の若い頃にそっくりで!!」

 

 

_ ぶホッ!

  (お、オーラが、オーラが出ている!)

 

 

「面白がって遊んでいるうちに同じくメイドになっていたエリカやコクリコも一緒になって、

 最後にはグリシーヌお嬢様や花火お嬢様まで一緒になってしまったざます。

 グリシーヌお嬢様に至ってはご自分のドレスまで持ち出す始末・・・」

 

 

_ ・・・・・・は、は、は、は

  (違う! これは、俺の知るオバチャンオーラではない!)

 

 

「私、何年ぶりだったざますか、あのようなときめきを感じたのは・・・」

 

 

_ (これは・・・・・・乙女オーラ!!

 

 

「ああ、私も後5年も若ければご一緒させていただいたのに・・・」

 

 

_ (5年! ホントにいいのか5年で!!)

  あぁ、はは・・・・・・そ、それで彼は抵抗しなかったんですか?

  そこのところちょっと疑問なんですが。

 

 

「最初は抵抗していたざます。

 トラウマとか以前にもとか言っていたざますけど、

 お嬢様が『お仕置きするぞ。』と言ったらそれはもう大人しくなったざます」

 

 

_ ・・・・・・え〜と、今までの取材で彼にはいろいろとトラウマが多いことが証明されてますから・・・

  たぶん、その一つでしょう。

 

 

「そのあとはもう大変だったざます。

 ことあるごとにお嬢様が『お仕置き』、コクリコが『お仕置き』、エリカが『お仕置き』・・・

 特にエリカには脅えていたざます」

 

 

_ はあ・・・(写真を拝見)・・・なるほど。(どこか納得がいった)

  ええ、話は変わりますが、タレブーさんが彼を漆黒の戦神だと知ったのはいつのことですか?

 

 

「最初から知っていたざます」

 

 

_ え・・・最初からですか!?

  知ってて彼をメイドとして働かせたと!?

 

 

「わがブルーメール家ではお嬢様の言うことは絶対ざます。

 たとえ誰であろうと、お嬢様が仰ればメイドとして働いてもらうざます」

 

 

_ 徹底してますね。

  ではどこで彼のことを知ったのでしょう?

  テンカワアキトは写真さえ一般公開されていないはずですが。

 

 

「私はある縁で西欧方面軍司令官のグラシス・ファー・ハーテッド中将と面識があるざます。

 今でも親しい友達としてお茶を一緒することがあるざます。

 テンカワの事は以前グラシスから聞いていたざます」

 

 

_ なるほど、グラシス中将は『漆黒の戦神』の後ろ盾として有名ですからね。

  ですが、彼の事は中将のお孫さんがしつこくマークをかけていたはずですが。

 

 

「そこざます。

 テンカワがこのお屋敷を出て行ったこともそれが原因ざます」

 

 

_ それは・・・すいません、そこのところちょっと詳しくお願します。

 

 

「わかったざます。あれはテンカワが来てちょうど一週間経った頃ざます

 

 

 

『よく来たざます、グラシス。来るのではないかと思っていいお茶を買っておいたざます』

 

『いや、これはすまない、マダム・タレブー。あ、いや、マドモアゼルでしたかな?』

 

『グラシス、おたがいこの年になってお嬢さんというのはないざます』

 

『ふふ、確かに』

 

 

 

「あれはグラシスが西欧軍防衛会議で巴里に来ていた時のことざます。

 いつも時間が出来るとグラシスはよく私やだんな様、お嬢様とお茶を飲んでいたざます」

 

 

 

『最近よくヨーロッパ中を飛び回っているようざますね』

 

『戦争も終わったばかりですからな。まだまだ安心は出来ませんよ』

 

『グラシス。ティーは何がよろしいざますか?』

 

『セイロン・ティーを。今日はお嬢さんはどうしたのかな?』

 

『今日はシャノワールという劇場にお出かけざます。最近よくお友達とあそこへ出かけるざます』

 

『ほう、巴里のシャノワールといえば名高い劇場じゃないですか。さすが、ブルーメールのお嬢さんだ』

 

 

 

「戦争中はなかなかあえなかったもので、結構話が弾んでいたざます」

 

 

 

『ちょっと待つざます。もうすぐメイドが美味しいお菓子を持ってくるざます』

 

『ほ、それは楽しみだ』

 

 

 

「そのお菓子を、なぜかテンカワが持ってきたざます。トレイで顔を隠して・・・

 そんなこと、ブルーメールのメイドとして恥ずかしいことこの上ないざます」

 

 

 

『お、お待たせしました・・・(高)』

 

『・・・? マダム、彼女は?』

 

『お嬢様が連れてきた新しいメイドざます。

 そのトレイをのけて挨拶するざます』

 

『は、はじめましてグラシス中将・・・(高)』

 

『テンカワっ!』

 

『は、はひっ!』ぱた

 

ぶほっ

 

『テ・・・・・・テンカワ君・・・・・・?』

 

『あ、は、はははははは・・・・・・お久しぶりです、グラシス中将・・・・・・』

 

 

 

「そのときのテンカワの顔は忘れられないざます」

 

 

_ 目に浮かぶようです。

 

 

 

『どーか、この事はサラちゃんやアリサちゃんには内密に・・・・・・』

 

『ああ・・・そりゃかまわんが・・・気をつけんと、躍起になってきみのことを捜索しておるぞ。

 ひとつの場所にとどまるのは得策ではないと思うが』

 

『下手に情報が漏れるよりもこの屋敷みたいにしっかり情報統制されてるところの方が隠れやすいんですよ・・・』

 

 

 

「その時ざます」

 

 

 

『グラシス、肩に何かついてるざます』

 

『何・・・・・・?・・・・・・・・・・・・! これはっ!』

 

グシャッ!

 

『テンカワ! お客様になんて事をするざます! 大切なものかもしれな』

 

『発信機と盗聴器です! 中将、今日はこれで失礼します。タレブーさん、俺、これで失礼します。

 グリシーヌのほうには俺から言っておきます。

 あと、数時間後くらいに女の子が何人も来るかもしれませんけど、絶対に屋敷の中へ入れないようにしてください』

 

『・・・何か、事情があるざますね』

 

『はい』

 

『私はこのブルーメール家のメイドざます。用のない人間は絶対に屋敷の中に入れないざます』

 

『・・・ありがとうございます。

 中将、尋問には気をつけてください。』

 

『わかっておる。達者でな、テンカワ君』

 

『はい、では!』

 

 

 

「テンカワはそれっきりこの屋敷には来てないざます」

 

 

_ はあ・・・それで、彼の言った女の子は?

 

 

5分後に6人ほど来たざますが、『アキトを出せ』というばかりだったのでお引取り願ったざます」

 

 

_ 恐るべしは、彼女達の機動力ですね。

  で、彼のその後はご存知ですか?

 

 

「お嬢様の話では、しばらくの間巴里を転々としていたらしいざます。

 大きく動くより見えないところを見つけて止まるほうがいいとお嬢様が仰っていたざます」

 

 

_ えと、具体的には?

 

 

「路地裏のバーの屋根裏や、修道院の納屋などにいたらしいざます。

 そうそう、サーカスのテントにいたこともあるらしいざます」

 

 

_ なるほど。ありがとうございました。

  では最後に彼に一言お願します。

 

 

「テンカワ、短い間だったとはいえ、あなたはこのブルーメール家でメイドとして働いたざます。

 そのことを誇りに思い、常に自信をもって行動するざます。

 

 あと、お嬢様があなたが作ったチーズスフレを食べたいと仰っていたざます。

 花火お嬢様もあなたの草餅を大変気に入っていたざます。

 ローラたちにクッキーの作り方を教える約束を覚えているざますか?

 

 時間が出来たら、早く来るざます。

 

 でないと、『お仕置き』が待ってるざますよ」

 

 

_ はい、ありがとうございました。

  では、また次回

 

 

民明書房刊 「漆黒の戦神、その軌跡 α外伝」より抜粋

 

 

 

 

 

 

巴里 某劇場

 

「ちくしょおーーーっ!」

 

「ロベリア! 楽屋で暴れるな!」

 

「なんであたしだけ見てないんだーーーーッ!! アキトのメイド服ーーーっ!!」

 

 シャノワールは今日も賑やかである。

 

 

 

日本、某所

 

「ルリちゃん、見た!?」

 

「遅いですよユリカさん。由々しき事態です。既にサラさんとアリサさんには召集をかけました」

 

「クリスマスパーティーのときはただの女装だったから・・・そこまで踏み込めなかったんですよね」

 

「でも、けっこう長い時期巴里にいたみたいだぜ。見つからなかったのかよ!」

 

「リョーコさんが言うのももっともです。あの時期は世界各地で目撃情報がありました・・・

 ですがそれを全てダミーだと考えれば、確かな情報は巴里からのみです」

 

「迂闊だったね。ルリちゃんとラピスちゃんは今までの情報をダッシュとオモイカネで整理しなおして再検討。

 私達はもう一度アキトがいそうなところに網を張るよ。

 それとエリナさん、ルリちゃんが出した場所に移動できるように手配しておいてください」 

 

「わかったわ」

 

「でも、アキトのメイド服・・・・・・」

 

「ウィッグつき・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「ルリちゃん、モンタージュお願い」

 

「了解です」

 

 ぴんぽん♪

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

  (−−)b  ぐっ! d(−−)

 

「ルリちゃん、プリントアウトよろしくね♪」

 

「あ、私も・・・」

 

「お、俺もな」

 

「あたしラミネート加工してね」

 

「え〜〜〜、ラミカは有料だよ。あと引き伸ばしサイズもね。タペは出来ないから」

 

「ラピス、有料でもいいからいくつか作るんです。あとKIS○L○を使って着せ替えソフトも作りますよ」

 

「了〜解!」

 

  

 

 

某ひなた温泉

 

 ぱんぱん!

 

 今日も今日とて家事に勤しむ浦島アキト浪人生兼ひなた荘管理人である。

 

 物干し台で洗濯物を干す彼の顔がやけに充実しているのは気のせいであろうか?

 

「アキト〜、おるか〜?」

 

「ふ〜、今日もいい天気だ・・・・・・何もかも・・・忘れてしまいたいな・・・・・・」

 

 否。現実逃避してただけらしい。

 

「アキト。おるんやったら返事せんかい」

 

「・・・あ、キツネさん。何か用ですか?」

 

「おう、ちょっと頼みがあるんやけどな」

 

 紺野みつね。通称キツネさん

 

 昼日中からビール片手に人生を満喫している素敵な女性である。

 

「なんですか?」

 

「ちょっとな、チーズスフレっちゅうもんを作ってもらえんか?」

 

 ゴン!

 

「・・・いくら木の柱でも角は痛いやろ、角は」

  

「ははは・・・また、どういう風の吹き回しで・・・?」

 

「いや、ちょっとな」

 

「アキト、ここにいたか」

 

 剣道着姿の女の子、青山素子。

 

 京都のとある剣術道場の跡取娘でその腕は免許皆伝クラス。

 

 長い髪がなんともいえない可愛い子である。

 

「ちょっとすまんが、草餅を作ってくれ」

 

 ガコ

 

「・・・角は痛いだろ」

 

「いや、まあ、それほどでもないよ・・・二人とも、どうして急に・・・」

 

「あ、先輩!」

 

 ちっちゃい女子中学生、前原しのぶ。

 

 健気で大人しくて純情でかあいい女の子である。

 

「あの、クッキーの美味しい焼き方、教えてもらえませんか?」

 

 どす。

 

「・・・あの、角って痛くないですか?」

 

 

 

 

「もう、ヤダ・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 彼の平穏は遠い。

 

 

 

 

  

 

 

 

 

作者から

 

 時間軸は蜥蜴戦争終了からナデひなまでの間。

 

 それよりも乙女タレブーを堪能ください。

 

 

追伸

 托塔天王さんの設定を一部使わせていただきました。

 事後承諾でもうしわけありません。

 

 

代理人の感想

 

タレブーさん・・・まだ「女」をやめてなかったのね(笑)。

 

まぁ、実際にお年は召されていても「女としての恥じらい」とか

そう言ったものを持ちつづけてらっしゃる方はいらっしゃいます。

若い時は外見や行動を自然と気にかけるものですが

年を取ってくると恥じらいを捨てると言うか、

「女を捨てる」人が加速度的に多くなるのは皆さんも経験があるでしょう(笑)

 

考えようによってはスカートで胡座をかくオバタリアン(&一部の若い女性)よりも

髪の乱れをそっと直す老婦人の方が「女らしい」と言えるのではないでしょうか。

 

 

・・・・・さすがに「萌え」はしませんが(爆)。