クルスは先程の、
殺気を放つアキトを見ても変わることない態度をとる。
それがアキトには嬉しかった。
しかし・・・
「しかも!
『彼女等は爪先から髪の毛の先まで全部、俺のだ』
俺の物発言!
何げに亭主関白宣言か!?」
「いや、あのそれは・・・」
しかし!
このからかい癖だけはどうにかならないだろうか?
口調まで真似てからかってくる
この親友をどうかわそうか?
それがこの夜アキトが抱えた最大の問題だった。
一冊の本が生んだ哀れな男の愉快な喜劇
第7話 前編
―第一次対同盟直接戦争―
作者 広島県人+アヤカ
翌日
カナット財団がシュバルツリッターへ提供した宿舎は、
豪華ではないものの趣味の良さを感じさせ、
適度な広さを持っていた。
オウカ=アカギの利用していた宿舎もその一つであり、
他の社員と同じ内装になっていた。
だが、元々独身者用の宿舎であった為、
設置してあるベットは名目上ダブルとなっているが、
実際にはシングルベットより多少大きい程度の物だった。
前日までならそのベットは、
その部屋の使用者が自分には大きすぎるベットの端の方に
丸くなって寝ているのだが、
今日は違った。
一人の男を中心として、
左右の腕を占有している赤と緑の髪を持つ女性が
白く健康的でいながら艶やかな肌を見せているし、
本来の使用者は、
仰向けで寝ている男性の胸に頭を乗せ、
血色の良い顔に至福の表情を浮かべている。
中心に居る男性の方は若干疲れが見えるものの、
幸せそうな表情である事に変わりは無い。
「ん・・・ん〜・・・・。
ん〜・・にゅ・・・・ふぁ」
赤毛の女性が目を覚ましたのか、
猫がそうするように、
手を前に突っ張って
足を抱え込んだまま背筋を伸ばす。
後ろから見れば、
下半身、特に形の良いお尻を突き出すようだ。
前から見れば、
眠気が完全に去っていない表情はトロンとしており、
ふくよかな胸が強調されているにもかかわらず、
どこか子猫を連想させ微笑ましい。
体を伸ばした事で眠気がだいぶ去ったようだが、
傍らで今だ眠りの国に留まっている想い人を見ると、
小さく欠伸をした後、
間近で想い人の寝顔を観賞する。
こんなに幸せなのは初めてだな。
と考える。
続けて思う。
絶対や、永遠なんて物は存在しないと何処かで聞いたことがあるが、
だからどうした。
そう思ってるのは勝手だが、
それを自分達にまで当てはめるな。
少なくとも自分達は、
事故か、故意か、寿命か解らないが、
いつか訪れる死が自分達を別つまで、
ずっと一緒に居る。
ずっと傍に居る。
支えて貰うだろうし、
支える事もあるだろう。
自分たちは知っている。
彼は脆い所があるし、
意外に独占欲だって強い。
自分達を独占しようとする彼を見るのは、
はっきり言ってかなり嬉しい。
自分達が彼にとって、
とても大切な存在だと感じる事が出来るから。
確かに彼と一緒に居る事は良い事ばかりじゃない。
第一、敵の存在があるせいで一所に留まる事が難しい。
負ける気はしないが、
話が通じない・死なせてもいけない相手との戦いほど厄介な物は無い。
まぁ、これも良い方に取れば、
世界中をまわって
今まで見た事が無い物を見れる。
世界の広さを実感できるなどの点があるし、
手加減の練習が出来る点もある。
何はともあれ、当分暇と思う事もないし、
それなりに楽しく幸せな日々が過ごせそうだ。
とりあえず、今はそれで満足できる。
これから先の事はみんなで考えれば良い。
もう、独りじゃないんだから。
朝起きたら北斗が幸せそうな笑顔で覗き込んでいた。
何というか、
・・・・・思わず見惚れた。
何とか意識を取り戻し
取り合えず挨拶をしようと考える。
「おはよう」
「ん、おはようアキト」
何となく、
北斗が抱き枕代わりにしていた左手で、
北斗の髪を撫で始めた。
「ん」
軽くキスをすると素直に撫でられ始める北斗。
何というか、
・・・・今日の北斗可愛すぎ!!
「むぅ〜〜〜」×2
ん?
眠り姫達が起きたようだ。
もっとも北斗ばかりかまっているのがお気に召さないようだが(苦笑)
最後に北斗の頭を軽くポンと叩くと姫君達のご機嫌を取る事にする。
ふと、外を見た。
見事なまでに晴れ渡っている。
ん、今日も良い日になりそうだ。
PM12:27
「アキト・・・眠そうだな」
「?いや、別に」
「・・・昨日はそんなに楽しんだのか?」
「それが言いたかったのかよ!」
「はっはっはっはっは!」
昼食を一緒に食べようという連絡が入ったのが、
2時間前だった。
それまでオウカは書類に目を通したりと中々に急がしそうだった。
そんな彼女を置いて自分達だけで観光をするほど
アキト達は薄情じゃない。
千紗が企業秘密に抵触しない範囲で事務処理を手伝い。
アキトと北斗はこちらに出向していたシュバルツリッタ−社員の
訓練に付き合っていた。
それらが一段落ついた時、
そんな時のお誘いだったのだ。
クルスとの会食は北斗とアキトが賛成し、
オウカ・千紗の二人が追認した形だった。
北斗は地元の名産品が食べられると思ったらしい。
そして出向いて親友との会話を楽しんでいる時に、
その親友が言ったのが『眠そうだな』
どうやらクルスは昨夜どんな事が起きたのか推測しているようだ。
「まぁ、それはそれとして、
アキト達に伝えなきゃならない事がある。
・・・ナデシコが動き出した」
「・・・マジ?」
「残念ながら、な」
のどかな昼食時間が、
クルスの一言でがらりと空気を変えた。
アキトは『どうしよう?』と、
ここ最近忘れていた厄介事に、眉間に皺を寄せて考えている。
千紗はアキト同様、どうしようか善後策を考えている。
北斗は『頭脳労働は俺の仕事じゃない』とばかりに、
昼食を再開している。
もっとも、あれだけはっきりと拒絶の意思を伝えられたにも拘らず、
早くも活動を再開した同盟に対して呆れていたのも確かだった。
オウカは至福の時間が思ったよりも短くなった事が残念そうだ。
クルスは親友がどんな決断を下すのか楽しんでいるようだ。
この場合、決断もなにも選択肢は三つしかないのだが。
「ん〜・・・・仕掛けるか」
唸っていたアキトがボソッと呟く。
『仕掛ける』と。
その言葉を聞いた女性陣が意外そうな表情を浮かべつつ、
アキトの顔を見る。
これまで通り、同盟から逃げる為にこの地から離れると考えていたのだ。
下手に接触して包囲されたら振り切れないとは言わないが、
同盟を煙に巻くのは困難だからだ。
精神年齢や思考法に多大な問題が存在するとは言え、
ナデシコには、同盟には『能力だけ』なら
太陽系でもトップクラスの人材が多いのだ。
それを死なせる事無く、無力化し、逃亡する。
まさにミッション・イッポッシブル!
漆黒の戦神と真紅の羅刹の太陽系最強の二人と、
木連精鋭部隊でありながら個性的な隊員達を纏めてきた優華部隊隊長。
さらに地球連合軍屈指の防衛戦の達人・イージスの盾。
とまぁ、
ある意味ドリームチームのようなメンバーであるからこそ可能な事なのだ。
そのドリームチームでさえ困難な事なのに、
こちらから仕掛けると彼女らの想い人は言うのだ。
意外と思わない方がおかしいだろう。
だが、彼女らのすぐ傍に意外と思わないおかしい人物がいた。
漆黒の戦神の親友であり、
地球圏有数の財団の長でもあるクルス=カナットだ。
クルスは悪戯小僧のような笑みを満面に浮かべアキトに告げる。
「アキト、面白そうだな。
俺も混ぜろよ」
「・・・言うと思った。
いいのか?かなり迷惑をかける事になるぞ?」
呆れたように親友の顔を見るアキト。
どうやらある程度予想したどおりの反応だったらしい。
「いいさ、
ついでにネルガルのヨーロッパ進出の芽も潰すから」
「・・・そっちはついでなのか?」
「勿論」
悪戯小僧の笑顔を浮かべたままさらっと言い切る。
事業家としての手段が『ついで』でしかない。
クルス=カナット。
公人としても私人としても只者ではないようだ。
・・・現時点では私人としての面が強いようだが。
ちなみに女性陣は、
二人の悪戯小僧の邪笑を見て
二人は苦笑を、一人は似たような邪笑を浮かべていた。
ここに第一次対同盟直接戦争の開戦が決定された。
さて、時間を少し戻して、
同盟サイドを見てみよう。
同日未明
同盟サイド
「・・・では、現在ATは」by科学者
「ええ、イギリス地方ロンドンにいます」by妖精
静かな興奮が薄暗い室内を満たす。
数日前、ドイツにおいて間接的に、
そして遠まわしにとは言え拒絶されたにも拘らず、
同盟はアキトを追っていた。
件の花言葉やアキトとオウカの会話等、
何らかの手段で偽造若しくは『ヤラセ』であると判断していたのだ。
同盟らしいといえば、同盟らしい結論のつけ方だった。
それだけに愚かしくもあるのだが。
同盟はアキトが既にドイツ地方にいないと判断し、
捜査の範囲をヨーロッパ全域に拡大した。
同時にアキト達の目撃証言に莫大な賞金をかけたのだ。
これまでのアキト達の移動手段は、
通常の逃亡者が人目を避けるのに対し、
あえて一般人と同じ交通手段を用いている事が判明していた。
ならば賞金をかけて一般人から目撃証言を得る事で、
その行方を知ることは容易になると考えたのだ。
その考えは図に当った。
同盟とアキトの確執を知らない一般人は、
単純に漆黒の戦神が知人達と旅行に出かけたまま、
連絡をせずにぶらぶらしていると思ったのだろう。
当初の予測よりも目撃証言は多かった。
そして今朝、決定的な目撃証言がもたらされた。
昨夜、漆黒の戦神一行と思われる集団が、
ロンドンのバーにいたと言う情報が入ったのだ。
電子の妖精達は即座に情報提供者たちへコンタクトを取り、
確認作業をおこなった。
情報提供者はいかにも遊んでいる感じがして、
正直好きになれないタイプだったが、
写真による確認により当人だと判明。
さっさと賞金を指定の口座に振り込むと即座に通信を切る。
あんな輩にかかずらっている時間は無い。
何はともあれ、
電子の妖精達は手に入れ、
確認をとった情報を同盟会議に提出したのだった。
その時の会話が上記の物である。
「少なくとも現在、
イギリス地方からATが出た様子はありません。
今だロンドンにいる可能性は非常に高いです」by妖精
「ここで終わらせよーぜ」by紅の獅子
「ええ、
でもその為には、もう少し戦力が必要ですね」by銀の糸
「『救出』する際の戦闘を考慮するとそうね」by裏方
「NSSは?」by科学者
「既に呼んだわ。
NSSの精鋭三個中隊。
あとヨーロッパに展開しているNSSを一個中隊。
その他、情報収集能力に長けたのを26名」by裏方
「足りるんですか?
あの漆黒の戦神と真紅の羅刹ですよ?」by五華リーダー
NSSと言えば地球圏でも最高峰の非合法集団だ。
何と同盟はそれを計四個中隊を今回の作戦に投入するらしい。
もっともそれでもなお不安は残るのだ。
なんと言っても戦車や戦闘ヘリを有するテロ組織が、
某人物の結婚式の際に襲撃をかけたものの、
彼ら二人で軽々と制圧してしまったのだからそれは正しい認識だ。
「そうは言ってもこれ以上の戦力は投入できないわ」by裏方
「仕方ありません。
紅の獅子さん達に期待しましょう」by妖精
「いくらアキト君や真紅の羅刹でも素手では
最新鋭機動兵器とエースパイロット相手では分が悪いわね」by裏方
薄暗い部屋を同盟メンバーの低い笑い声が満たしていく。
嫉妬深き般若たちの笑い声が、
今ナデシコを激戦の地へと向かわせていた。
同日・PM2:00
シュバルツリッターに提供された休憩室
「聞いたか?」
「ああ、
カイザーがとうとうナデシコと事を構えるんだってな」
「らしいな。
少佐殿は一個人としてそれを助けるらしいが・・・」
「あぁそれなら俺も聞いた。
会社とは無関係だって事にしたいんだろ」
「まぁ今日でカナット財団とは契約が切れるし、
俺らも休暇が決まってるけどな」
「やる事も決まってるし?」
「当たり前だろ?
漆黒の戦神、マインカイザーと一緒に戦えるんだぞ?
参加しない手は無いさ」
カナット財団に出向しているシュバルツリッター社員に
通達が来たのはPM1:30。
内容は
『本日2400(フタヨンマルマル)時をもって、
カナット財団との契約は履行されたとみなされる。
シュバルツリッター社員には各自の引継ぎ作業終了を持って、
当初の予定通り一週間の休暇を取るように』
と言った物だ。
その通達が伝わるとほぼ同時に、
カナット財団の補給担当者から一つの噂がもたらされた。
曰く
『漆黒の戦神がとうとうナデシコと事を構える事にした』
『アカギ=オウカがその手伝いをするつもりでいる』
『銃火を交えた事態になる可能性が高い』
噂の出所である補給担当者はアキト達の昼食中、
すぐ隣の席で食事をとっていたのだ。
当初、すぐ隣にいるのがアキト達と気付かなかったが、
聞くとは無しに聞いていた話の内容と呼び名から、
隣にいる人物達が誰かが解ったらしい。
アキト達は周りに人がいたとしても、
自分達の話の内容を周囲の客が気にすると思っていなかった為、
あまり気にしなかったのだが、
隣にいたのはそれなりに話の内容を理解できる人物だったのだ。
ちなみに食事をとっていたレストランは、
安さと美味さが売りの極一般的な店だった。
太陽系屈指の知名度(漆黒の戦神・真紅の羅刹)と
資金力(カナット財団取締役社長)を誇るメンバーにも拘らず、
食事の好みは庶民派だった。
翌日
AM6:30
引継ぎ作業の終わったオウカが自室に帰り仮眠をとった後、
明日勃発するだろう戦闘に備え、
アキト達と準備を始めていた。
クルスの提案により、
カナット財団から銃器等の支給を受けた
アキト達(主に銃器が必要なのはオウカと千紗だが)は、
迎撃場所の選定を行っていた。
いくら太陽系最強タッグがいるとはいえ、
自分たちは4人しかいない。
同盟はNSSの精鋭を多数投入してくるだろう。
しかもエステバリスの投入もありうる。
不利この上ない状況だ。
出来るだけ挑発するなどして
指揮官(NSSのではなく、同盟を指す)の精神状態をかき乱し、
マトモな作戦を取れなくする必要がある。
一番良いのは相手が猪突猛進してくる事だ。
猪突してくるなら、
それをそらし、各所で分断し、各個撃破する事が可能かもしれない。
その上で敵(既に敵と認定されている)の
機動力・ナデシコなり輸送機なりを航行不能にし、
置き土産をして離脱する。
これが千紗とオウカの考えた基本作戦だ。
この他幾つかの作戦が立案されたが、
これらはあくまで予備とされた。
AM11:28
逃亡者サイド・移動中
決戦の地はロンドンの北にある都市・ルートン郊外。
山岳と森林が雄大な自然を否が応にも感じさせる地帯だ。
近くには河があり、
いざと言う時の脱出路ともなる。
何より最寄りの都市であるルートンから離れてしまえば周囲に大きな集落も無い。
つまり、多少無茶をしても人的被害はないと言う事だ。
さて、移動中の車内だが、
定位置と言うのだろうか?
いつかと同じ様にアキトが運転。
助手席に千紗が座り、
後部座席に影護姉妹とオウカが座る。
大規模な戦闘を前に流石に緊張・・・
「うぅ〜お腹減ったぁ。
アー君、何か無い?」
「ん?
確か足元のバスケットの中にサンドイッチと
水筒に紅茶が入ってるよ」
「そろそろ休憩してお昼にしましょうか?」
「ちょっと早いですが、
枝織さんが限界みたいですね」
「アー君のサンドイッチ♪」
してなかった(汗)
流石というべきか、
暢気と言うべきか・・・。
何はともあれ適当な場所を見つけ、
丁度エンジンを止めたとき。
前方から軍用ジープが走ってきた。
「ん?あれは・・・」
ウ チ
「シュバルツリッターのジープですね」
「(本社の方へ)帰るんなら何でこんな所に・・・」
社長と元アルバイトが揃って首を捻っていると
そのジープから野戦服を着込んだ白人男性が降りてきた。
「バイエルライン中尉?
どうしてこんな所に・・・」
オウカの問いかけに白人男性・バイエルラインは
苦笑を浮かべつつ言い切る。
「どうしてってカイザーと少佐達が
何やら派手な事をすると聞いて先回りしてたんですよ。
ここから10キロ先の森の中に、
今回イギリスへ出向した人員全員がキャンプを張ってます。
・・・我々も混ぜてください」
「派手なことって(汗)」×2
遊びに行く計画を立てている子供のような笑顔を浮かべ、
言い切るバイエルライン。
千紗とオウカは
『確かに派手な戦闘になるだろうなぁ』
等と思いつつ引きつった笑みを浮かべた。
「バイエルライン?
これから起こる事は俺の個人的な厄介事なんだ。
君らを巻き込む訳には・・」
「・・・・マインカイザー、
私達は、シュバルツリッターの社員達は戦争中、
何度も貴方に助けられました。
今回の事は僅かながらその恩返しの一端です。
少なくとも邪魔にはならないと自負しています」
「だけど・・・」
なおも説き伏せようとしたアキトだが、
『絶対について行く』とバイエルラインの目が雄弁に言っていた。
アキトはオウカの方を見る。
オウカは苦笑して首を左右に振った。
「解った。力を借りるよ。
ただし、ナデシコは・・・相手は手加減なんてしないだろう。
まさに実戦だ。
危険だと判断したら即座に撤退するように」
ヤー マインカイザー
「御意、我が皇帝よ」
芝居がかった仕草で敬礼ではなく、
左胸に右手を当て恭しく礼をするバイエルライン。
ここにシュバルツリッターの対同盟参戦が決まったのだった。
実際問題としてシュバルツリッターが参戦した事は、
紛れも無いプラス要因だ。
警備会社シュバルツリッターが
カナット財団に出向させた人員は仕事の規模から、
同社に所属する人員の約三分の一に相当する。
人数的にはざっと二個中隊・327名。
その全てが歩兵で固められている。
これは彼らの職業が警備である以上当然だ。
だが、この二個中隊は少数の通信士等を除き、
純粋な戦闘員ばかりだ。
ちなみに補給に関して考慮していないのは、
単純にカナット財団が受け持っていたからだ。
実はこのシュバルツリッターの戦闘行動における補給もクルスを通じ、
カナット財団が負担する事が負担する事が既に決まっている。
暗躍していたのはカナット財団取締役社長・クルス=カナットだったりするのだが。
この二個中隊に所属する彼等・彼女等は
通称・蜥蜴戦争の激戦区イゼルローン基地において、
「イージスの盾」の渾名をもつ
連合軍屈指の防衛戦の達人・オウカ=アカギの指揮下にいた者の他に、
二十世紀〜二十一世紀当時世界最強と謳われた
イギリス特殊部隊SASを母体に持つ、
元西欧方面軍特殊部隊出身者などが多く在籍している。
言わば歴戦の精鋭部隊と言えるだろう。
つまり彼らの参戦はアキト達にとって、
あきらかにプラスなのだ。
翌日未明
同盟サイド
朝と夜の狭間
うっすらと白みを帯び始める世界
そんな中を白亜の戦船が進む
狂気(嫉妬心)を纏い
血塗られし(ハーリーの血)刃をその内に秘めながら
白亜の戦艦・ナデシコはアキトを追い求め、
アキト達が前日通った道の上空を進む。
アキト達の情報を提供したのは、
彼らを匿う可能性が最も高かったカナット財団取締役社長・クルス=カナット。
何故彼が親友一行を売るようなまねをしたか?
それは三つの要因が絡んでいる。
一つ
ナデシコが大都市ロンドン市内にある本社ビルへ
グラビティブラストを何の躊躇無く向け、
明確に恐喝しつつナデシコ艦長は言い放った一言。
「アキト知りません?(は〜と)」
これは流石のクルスも驚いた。
まさかここまで逝ってしまった脅迫をするとは思わなかったのだ。
当初、同盟としても『ここまでやるのはどうか?』
と言う意見があったのだが、
つい先日、自分達へ『欺瞞情報』を流した『雌狐』が
出向しているとの情報があったためこの方法がとられた。
もし『雌狐』が現れた場合、
死なない程度に痛めつけた上で洗いざらいの情報を引き出す気でいたのだ。
つまりカナット財団へ対する威圧行為はついでであり、
本命はアカギオウカへのプレッシャーだったのだ。
それにどうもアキトの知人達は彼を自分達に会わせたがらない。
『ならば手っ取り早く・・・・』
という事でどの道カナット財団社長クルス=カナットは、
脅迫される立場にいたのだ。
意外なことにカナット財団はあっさりと了承した。
ただし交換条件付きで、だが。
これが要因その二だ。
ナデシコに乗船しているネルガル会長秘書に対し、
『ネルガルのヨーロッパ進出を50年間取り止める』
と言う事を確約させたのだ。
カナット財団としては、
トカゲ戦争を通して規模を拡大させた
ネルガルとまともに事を構えるのは回避したかったのだ。
負ける気は毛頭無いが、
無駄な損失は避けたい。
それが上層部の考えだ。
もっともクルスにとってこの件はついでに過ぎないのだが・・・。
そして最後に要因その三
ナデシコに情報を流すのは、
当初の予定通りなのだ。
つまりナデシコはに張り巡らされた
罠の中に自ら飛び込む事になったのだ。
ナデシコが進路をルートンへと向け進んでいく姿を
社長室の座りなれた椅子に座ったクルスは、
机に両肘を乗せ顔の前で手を組むと呟く。
「全てシナリオ通りだ(ニヤリ)」
某総指令の様な暗い邪笑ではなく、
悪戯小僧が会心のイタズラを
成功させたような笑みを浮べていた。
3時間後 同盟サイド
「NSS降下準備完了」byルリ
「了解。
そのまま待機させてください」byユリカ
「はい」byルリ
同盟規約により
『10回お仕置きへの参加を禁止し、
会議場での発言権を刑の終了まで凍結』
とされているユリカとメグミだが、
こと作戦行動にユリカの力が必要な為、
独断専行を硬く戒められた上で、
ナデシコ艦長・ミスマル=ユリカは今回の作戦指揮を取っていた。
ちなみに戦闘準備を進めているのは、
最寄りの住民達から
(同盟主観)
『泥棒猫達』がアキトを連れて、山に向かったと情報が入ったためだ。
「・・・森林戦に持ちこうもうって考えだね」byユリカ
「多分そうでしょうね。
アキトさんが一緒にいる以上、
ナデシコ最大の武器であるグラビティブラストは使えませんから」byメグミ
「むぅ・・・ルリちゃん。
場所の特定でき・・・どうしたの?」byユリカ
とにかく場所の特定を、
と考えたユリカが周囲の探索をしている筈のルリに話し掛けるが、
電子の妖精姉妹を中心として周囲にはブリザードが出現していた。
ルリは無言でブリッジ正面にウィンドウを展開させる。
ビシィ
ガラス製品にヒビが入ったような音が、
同盟員には聞こえた。
ウィンドウに映されていたのは平和な光景だった。
緑髪の美女が茶色がかった黒髪の男に膝枕をしており、
寝転がっている男のお腹を赤髪の美少女が枕にしている。
三人共とても安らいだ表情をしている。
「・・・・あ、アキ・・ト?」byユリカ
呆然とユリカが呟くが、
語尾がかすれている。
ウィンドウに映し出されている三人に変化が起こる。
緑髪の美女が男のおさまりの悪い髪を愛しげに撫でる。
男はそれをくすぐったそうにしつつも、
笑顔を浮かべ自分のお腹の上に乗っている赤髪を撫で始める。
「ふっ・・・ふふふふふっふふふふ」×複数名
ブリッジに形容しがたい空気が生まれる。
あえて言うなら今まで通りの『鬼気』と言うべきだろうが、
現在漂っているのは『瘴気』とも呼べるだろう。
断言できる事はそれが負の空気である事だ。
この空気であれば凶悪犯の死刑にも使えるだろう。
同盟にとって、
アキトの姿をカメラ越しとは言えリアルタイムで見たのは久しぶりなのだ。
それが、自分達にも滅多に見せない
(同盟のオシオキが激化してから全く見れなくなった)
最上級の笑顔を浮べているのだ。
これが(同盟にとって)どれだけ許し難いか、
同盟全員の心はこの時一つになった。
『あの女二人はブチ殺す!!
テンカワアキトは・・・クス(はーと)』
再び映像に動きがあった。
赤毛の美少女がこちら(カメラ)を向くと微笑(嘲笑)する。
そして野良犬でも追い払うように手を振るのだ。
ブチィィィ
同盟員に今度は皮製の紐が、
力ずくで引き千切られる様な音が聞こえた。
ユリカがふらっと二歩後退すると
凶眼をカメラ越しに赤毛の少女に叩きつける。
そしてブリッジに集合していた同盟全員の顔を見る。
全員が同時に頷く。
軽く息を吸うといっそ穏やかとも取れる声で、
開戦を宣言する。
「これよりR・AT(レスキュー・テンカワアキト)作戦を開始します。
全ての障害を完全に殲滅し任務を達成してください」
ブリッジに詰めている全員が無言のまま、
ナデシコが高度を下げ、
格納庫にスタンバイしていたNSS四個中隊が
野戦重武装を最終確認しつつ出番を待っていた。
彼らは相手が真紅の羅刹と聞き、
士気が著しく低かったが、
一緒に漆黒の戦神がいると聞き
『いざとなったら漆黒の戦神に降伏しよう』
とかなり後ろ向きな思考になっていた。
全員が知っているのだ。
真紅の羅刹と漆黒の戦神の人類から逸脱した戦闘能力を。
さて、この戦いは血で血を洗う殲滅戦となるのか?
はたまた本来のお馬鹿な流れに戻るのか?
第8話に続・・・
ガン!
(トンファ右側頭部命中)
ゴン
(反動で左側頭部を壁にぶつける)
こんな中途半端な所で切ったら
唯でさえ少ない読者の皆さんの精神面に悪いでしょ!
これ以上読者さんに負担かけてどうすんのよ!
唯でさえ遅筆なんだから・・・。
ほら!
とっとと続き書く!
い、いえす まむ。
ゴホン!
えーっと後編に続きます。