嫌動戦艦ナデシコ外伝『凄いや!!北斗さン』 第二話『I’m Free』前編



 あの(1)忌まわしい事件から一週間。
 未だ混乱の醒めやらぬシャクヤクを更なる衝撃が襲った。

 「幽霊ィ〜ッ!?」

 千沙から報告を受けた舞歌は思わず、声を上げた。

 「はい。今週に入ってから整備員から十八件、一般乗組員から六件ほど報告が上がっています。」
 「北斗がおかしくなったと思ったら、今度は幽霊?勘弁して欲しいわね、全く。」

 アンタもな・・・という言葉を飲み込む千沙。
 頭に巻かれた包帯が痛々しい。
 因みに千沙同様、舞歌パンチを受けた氷室を始めとする数名のクルーは未だ入院中だ。

 「・・・とは言え、このまま放っておくとクルーに悪影響を与えかねないわね。」
 「はい。格納庫第四区での目撃が多発しています。至急、調査班を組織し、向かわせるのが宜しいかと。」
 「・・・そうね。人選の方は貴女に任せるわ、千沙。」
 「了解しました。」

 それでは、と舞歌の私室から出て行く千沙。
 一方、舞歌は、

 「何かしらね。この胸をよぎる『ごっつい嫌な予感』は・・・。」

 収まりきれぬ嫌な予感に悩んでいた。






 数時間後、再び千沙は舞歌の私室を訪れた。

 「何かあったのね?千沙。」
 「申し訳ありません、舞歌様。全ては私の責任です。」
 「御託はいいわ。何があったのか、率直に言いなさい。」
 「・・・はい。調査班が連絡を絶ちました。」
 「・・・・・・全滅ってワケ?」
 「いえ、高杉少尉は帰還しました。が・・・。」

 千沙はそう言葉を濁すと、舞歌の一枚のディスクを差し出した。
 舞歌はそれを無言で受け取ると、机上にあった再生装置に入れる。
 其処には・・・。






 『ふふふ・・・燃えた、燃え尽きたぜ。親御さんにヨロシク・・・。

 言葉通り、燃え尽きて白髪になった三郎太の姿が映っていた。

 「見ての通り、高杉少尉は廃人同様となり果ててしまいました。」
 「相変わらずの役立たずっぷりね。」

 全く三郎太の事を心配しない二人。・・・所詮、三郎太はそんなもんだ

 「どうしますか?」
 「どうしますかって・・・はぁ〜、仕方ないわね。私が行くわ。」
 「そ、そんな!!危険です、舞歌様。舞歌様の身に何かあったら、どうするんですか!!」
 「大丈夫よ、だって貴女も一緒だもの。」
 「・・・へっ?」

 にっこり笑って千沙に死刑宣告を下す舞歌。
 千沙も薄々予想はしていたが、まさかど真ん中の直球勝負で来るとは思っていなかったらしい。
 唖然とした顔でその場に立ち尽くした。

 「さぁ行くわよ、千沙!!」

 舞歌は勢い良く立ち上がると固まったままの千沙の首を鷲掴みにする。

 「イヤァァァッ・・・まだ死にたくないッ!!」
 「おだまり、千沙!!好い加減、覚悟を決めなさい。」
 「嫌ですッ!!私は嫁き遅れの舞歌様と違って婚約者も居れば、失う物も沢山あります!!」
 「舞歌パンチ。
 「おふう!!

 舞歌は足掻く千沙を問答無用の全力パンチで黙らせると、そのままズルズルと目的の場所まで引き摺って行った・・・。






 「・・・ふっ、とうとう来てしまいましたね。舞歌様・・・いや、舞歌ッ!!」

 格納庫第四区に辿り着いた舞歌(と千沙)を待っていたのは、戦闘着を纏った零夜だった。

 「零夜・・・貴方が居るということは格納庫には北斗が居るわね?
  そう・・・やはり幽霊騒動には貴方達が絡んでいたか。・・・最近、大人しいから妙だな、とは思っていたけど。」
 「流石、木連少将・東舞歌と言った所ですか。しかしッ!!コレを見ても、そんな余裕でいられるかなッ!?」
 「こ、これはッ!!」

 零夜は言葉が終わると共に何処かを指差した。
 何事かと零夜の指差す先を見る舞歌。
 其処には・・・まるで賽の河原の石の様に積み上げられた調査班の死体(注:死んでません)が。

 「ふっ、お喋りは此処までだッ!!東舞歌、覚悟ッ!!」

 そう言うなり、零夜は舞歌へ向かって猛スピードで駆け出した。
 ふいを突かれた舞歌は少しうろたえたが、何かを思いついたのか、零夜に不敵な笑みを浮かべる。

 「喰らえッ!!(2)南斗獄屠拳ッ!!

 その叫びと共に舞歌に飛び掛る零夜。
 しかし、舞歌は、

 「甘いわね、零夜。必殺、












 ロケット千沙。」

 気絶した千沙を物凄い勢いで飛び掛ってきた零夜に投げつけた。
 当然、零夜には物凄い勢いで飛んでくる人間爆弾桜花千沙を避けられる筈もなく・・・


 ゴチィィィン!!


 正面から激突した。
 そして舞歌は、

 「戦いとは・・・なんて虚しいものなの。」

 ドクドクと血を流している上に痙攣まで始めた千沙と零夜を寂しげな目で見ると、奥へと進んでいった。






 「此処まで来るとは・・・零夜を打ち倒したか。」

 舞歌の予想通り、格納庫第四区最深部に居た居たのは北斗だった。

 「いい加減にしなさいッ!!北斗、こんな事をして何の利があるというのッ!?」

 北斗はそんな怒声を上げる舞歌を一瞥すると、肩をすくめた。
 まるきっり話にならない、とばかりに。
 そしてその人を小馬鹿にしたような態度が更に舞歌の機嫌を悪化させる。

 「クッ・・・人を馬鹿にした態度を取って・・・。(3)そんな北斗、修正してやるッ!!

 舞歌は怒りの全力パンチを北斗に放つが、あっさりと受け止められてしまう。
 しかも、片手で。

 「ふっ・・・甘いわッ!!」

 舞歌の攻撃を受け止めた北斗はニヤリと笑うと、空いた右手から(4)強烈な闘気を放った。
 凄まじいまでの闘気の奔流に吹っ飛ばされる舞歌。
 豪快に(5)車田落ちを披露する。

 「せめてもの情けだ・・・直ぐに楽にさせてやろう。」

 顔面を強打し、鼻血を出しながら悶絶している舞歌にゆっくりと歩み寄る北斗。
 ・・・そして舞歌に近づくと、北斗をトドメを刺すべく、拳を振り上げた。

 「覚悟ッ!!」

 しかし、北斗の拳が舞歌に届く瞬間、



 ドカァァァン!!!!



 何者かが煙幕弾を格納庫に投げ入れる。

 「クッ!!何者だッ!?」

 伏兵が居たのか?と身構える北斗。
 しかし彼女の予想に反して、伏兵?からのリアクションはなかった。
 数分後、煙の収まった部屋でソレを見た北斗は思わず声を出す。

 「ぬぅ!!変わり身か、よくやるッ!!」

 北斗が見た物は・・・、











 『まいか(はぁと)』と名札が付けられた(6)キン消しだった。









 後編へ続いてしまう











 【特殊用語解説】


 (1)第一話のこと。

 (2)南斗孤鷲拳の技。この技を使うと言うことは、やはり零夜の宿星は『殉星』なんだろうか?

 (3)北斗さンが嫌いな人の心の叫び・・・なんだろうなぁ、やっぱり(苦笑)

 (4)北斗が使った技は恐らく『北斗剛掌波』と思われる。

 (5)受身なんか無視して、顔面から豪快に地面に落ちること。リングにかけろ、聖闘士星矢など参照。

 (6)作者の世代的にはガン消しなんだろうけど、うすた先生へのリスペクトとしてキン消しを採用。

 

 

代理人の感想

 

零夜が殉星やったら・・・慈母星は誰や(爆)?

さすがに北斗でないのは確かやろうけど(笑)。

 

ちなみに「南斗孤鷲拳」というのは某殉星のシンが使う拳法の正式名称でおまんねん。

 

・・・・・・は、ショックの余りエセ関西弁!?