断崖都市デグレア…否、今では魔導都市バブルクンドと名を変えた街の中央部にある王立魔導学院。
蒼の派閥と金の派閥。
召喚術の使用目的を巡り、長らく対立をしていた両派閥は十数年前に起きた『とある事件』を期に歩み寄りを見せる。
派閥間での共同研究や人材交換など派閥間の緊張緩和のために幾つかの案が出され、実行された。
王立魔導学院の建設もそんな緊張緩和策のひとつであった。
『派閥と言う枠に囚われず、聖王国の発展に貢献する優秀な人材の育成』
それが学院が建設された一応の目的である。



学院の最上階・学院長室。一人の男性が不機嫌な顔をしながら、部屋の中を落ち着きなく歩き回っていた。

「…トリスはまだ見つからないのか?」

酷く冷めた声で呟いた男───この男こそ、魔導学院の院長ネスティ=バスクその人である。

「ま、あの娘は親に似て無鉄砲だからねー」

忙しなく部屋を歩き回るネスティとは対照的に落ち着いた様子でソファーに座る女性。
学院の副院長ミニス=マーンはのんびりと言い放った。

「なッ!?君は…」

ネスティが何か言いかけた瞬間、召喚師らしきローブを着た一人の男が転がるように院長室に飛び込んできた。

「い、院長!」
「どうした?トリスの居所が判ったのか!?」
「い、いえ…それはまだ。現在、市内を全力で捜索しております」
「そうか…じゃあ、なんだ」

ギロリと冷たい視線を男に向けるネスティ。

「はぁ〜」

ミニスは溜息を吐くとネスティの視線を浴びて震え上がる男の緊張を解くように穏やかな声で話し掛けた。

「院長。そんな怖い顔をしては彼も話し辛いでしょう。で、貴方。一体、なにがあったの?」
「あ…は、はい!実は…」



バブルクンドからトライドラに至る街道を一台の馬車が走っていた。

「ふふふ…上手くいったようね」

一人の少女が馬車の荷台からひょっこり顔を出す。その顔は悪戯に成功した悪ガキのように嬉しそうだった。

「あ、あの…トリスさん。もう帰りましょうよ。ネスティさんもミニスさんも心配してますよ」
「なに言ってるのよ、レシィ。私、あんなところに戻るのは嫌よ!」

そう言い放った少女こそが、先ほどからネスティが探しているトリスである。
世界最強の召喚師と謳われるマグナと癒しの聖女アメルとの間にできた一人娘。現在、我が侭盛りの十四歳。
その横に従者のように侍る気の弱そうな少年はレシィ。
獣界メイトルパから召喚されたトリスの護衛獣だ。…因みに年齢は不詳。

「そ、そんな〜…これから僕達どうするんですか?」
「決まってるじゃない!冒険者になって世界を駆け回るのよッ!!」

幾らなんでも十四歳の少女と護衛獣が世界を旅するのは非現実的過ぎる。
熟練の召喚師なら護衛獣と二人(一人と一匹?)でもなんとかなるかもしれないが…
レシィがなんとかトリスを説得しようと口を開いたとき、馬車が大きく揺れた。

「きゃー!!」
「う、うわッ!痛ッ…ひ、ひたかんだ(舌噛んだ)!!」

その反動で荷台から外へ投げ出されるトリスとレシィ。
恐らく馬車はバブルクンドに荷物を運んだ帰りなのだろう。
幸いにしてトリス達が隠れていた荷台には何も積み込まれていなかった。
もし荷物があったら、彼女達は荷物に押し潰されていただろう。

「痛たたた…」

しかし、それでも馬車から投げ出されれば痛い。かくいうトリスも尻を痛打し、目に涙を溜めている。

「あれ?レシィは?」

お連れの少年がいないことに気付いたトリスは周囲を見回す。

「…げっ!?」

直ぐにトリスはレシィの姿を見つけ…固まった。
俗に言う『車田落ち』をし、もんどりを打っているレシィの姿を見たからである。…レシィのその姿はあまりにも悲惨過ぎた。
トリスはソレを見なかったことにし、更に周りを見渡す。既に馬車は彼方まで去っていた。

「…ったく、一体どーしたっていうのよ」

逃げるように去っていった馬車の後ろ姿を見て、トリスは悪態をついた。
此処ら辺は城砦都市トライドラが近いこともあって、治安は良い。盗賊やモンスターに襲われることなど滅多にない筈である。
事実、トリスが周りを見渡しても盗賊やモンスターらしき影は見つからなかった。
では、何故馬車は逃げるように去っていったのか?
トリスがそれを考えようと空に視線を向けると………ソレはあった。

「な、何よ…アレ!?」

白い光の粒子が空に集まっている。それはまるで異世界から召喚獣を召喚するときの様であった。

「な、な、な…」

驚くトリスを他所に光の粒子が集まり、一個の塊となっていき…強烈な閃光を放った。
咄嗟に目を塞ぐトリス。…後ろで誰やらが「眩しーッ!」と騒いでいるが聞こえない振りをした。
直ぐに光は収まった。トリスは恐る恐る目を開ける。
そして彼女が目を開けた先には…見知らぬ黒尽くめの男が地面に倒れていた。









<注意>
本作はサモンナイト2本編から十数年後のリィンバウムが舞台です。

 

 

 

 

代理人の感想

ここで引きかいっ!(爆笑)

 

 

卑怯過ぎるぜハニハニ、続き要求するビート〜♪ (銀河烈風な感じ)