聖王都の西にある港街ファナン。
海上貿易の中継点として、水道橋や銀沙の浜を抱える観光都市として国内外から集まった多くの人で溢れ返る街である。
其処に目を付けたトリス達は魔導学院の追っ手の目を誤魔化すため、人溢れるこの街に身を潜めていた…



「ふぅ…」

此処はトリス達が居を置く裏路地にある、安宿『快楽亭』。…名前はちとアレだが、値段も内装も比較的良心的な宿である。
…が、とある理由から店には閑古鳥が鳴いていた。

「あらぁん♪なっちゃん、お帰り〜♪」

宿に戻ってきたナオを迎えるやけに重低音な黄色い声。ナオはその声を聞いて、心底嫌そうな顔をしたが、なんとかして笑みを顔に貼り付けた。
声の主…この宿の主がドスドスと重い足音と共に現れたからだ。

「あ、あはははは…。マスター、今帰りました」
「いやぁん♪マスターなんて水臭い呼び方は…い・や。あたしのことは、ま・ゆ・みって呼んで♪」
「あ…あはははははははははははははははははは(汗)」

角刈りの頭。青々とした髭の剃り跡と割れた顎。まっちょな体。
男性として非常に立派な体格のこの男こそが、快楽亭の主人マユミ(本名・ゴライアス、独身、38歳)である。
場末にある宿にしては値段と内装が良いこの宿が何故流行らないのか?…それがお分かりになったと思う。

「あら?なっちゃん、お疲れ?」
「え、ええ、まぁ。」

内心、誰のせいだよッ!と呟くナオ。
そんなナオの心の声は当然マユミに届くはずもなく、彼女?は何かを懐から取り出すとナオに突き出した。

「良かったら、これ飲んで♪マユミ特製のスタミナドリンクよ♪」

そう言って突き出されたのは毒々しい色の液体がみっちりと詰まったかなり大きいビン。
ナオは思わず、何時か何処かで見た『何か』を思い出す。そう…あの、腹黒い三つ編みのそばかす少女の影を……。

「あ、いや…えっと……あの、その遠慮し…」
「(うるうる)飲んでくれないの?」
「……い、頂きます!」

嫌な予感に断ろうとしたナオだったが…結局はマユミの姿(今にも泣き出さんばかりに瞳を潤ませたムサ苦しい男の姿)に、
結局は断りきれず、その怪しげな、スタミナドリンクと称する液体を受け取ってしまう。

「うふ♪じゃあ、此処で飲んでみて♪」
「はぁ、じゃあ頂きます……って、え゛っ!?こここ、此処でっすか!?」
「(うるうる)やっぱりダメなの?」
「え、あー…いや、あの、その……」



ナオがある意味、一生に関わる決断に迷っていたその頃、トリスとレシィは何をしていたのかと言うと…

「5番テーブルのお客さん。野菜炒め定食でーす」
「あいよッ!トリスちゃん、2番テーブルの焼肉定食が出来たから、お願いね!」
「はい!」

下町通りにある飲食街の定食屋でバイトをしていた。理由は勿論、旅費を稼ぐためである。
因みにナオも早朝から波止場で荷物の積み下ろしのバイトをしている。

「はい、お待たせしまたー。焼肉定食でーす。あ、いらっしゃいませー。レシィ、お客様の案内お願い!」
「分かりました!いらっしゃいませー。すいません、今混んでいて…他のお客様と相席になってしまいますが、宜しいですか?」


……
………

「ありがとうございましたー。またのお越しをー」

数十分後。店から最後の客が出て行く。時刻は既に昼食時を過ぎていた。

「ふぅ…ようやく一息付けるわね」
「そうですね。あ、僕、のれん下げてきます」
「お願いね。私はお皿の片付けをしておくから」
「はい!」

レシィが外へ出ていくのを見送ると、トリスはテーブルの上に残された皿を片付け始めた。

「あ、トリスちゃん。お皿片付けたら、休憩ね。まかないは此処に置いておくから。レシィちゃんにもそう言っておいて」
「はい」

厨房から顔出した店長が皿を片付けていたトリスに声を掛ける。
トリスは皿を洗い場に持っていくと、カウンターに置かれた自分とレシィの分のまかないを客席まで持っていった。
トリスが席に着くと同時にレシィが外から戻ってきた。

「あ、レシィ。店長が休憩にして良いって。これ、貴方分のまかない」
「はい、分かりました。じゃ、頂きましょうか」

レシィがトリスの対面に座ると、二人は少し遅い昼食を食べ始めた。
少し経ってから、自分の分のまかないを持った店長が厨房から出てくる。

「あ、すいません。先に頂いています」

店長を見たレシィが少し申し訳なさそうに言う。トリスは口に物が入っていたため、店長にぺこりと少し頭を下げた。
そんな二人を見て、店長は少し苦笑する。

「別に構わないわよ。まだ皿洗いが残ってるから、しっかりと食べてね」
「はい、頂きます」

店長はトリス達と一緒の席に座ると、自分のまかないを食べ始めた…









<言い訳>
すいません!(汗)

 

 

代理人の感想

いきなしバイト日記になってますねぇ(苦笑)。

ほのぼのしていて・・・・血沸き肉踊る冒険、波瀾万丈のスペクタクルはどうしたんでしょう。

次回は急転直下して「危うし! ファナンに薔薇が散る!」とかゆー

サブタイトルだったりしてもそれはそれで困りますが(核爆)。