死神が舞う〜第三話〜
「遅い、遅すぎます。まったく…あの人は何をやっているんですか!」
魂判別所の一室で神経質そうな人が叫んだ。
「こちらも、そんなことに時間をかけている余裕はないんですが…」
しかもだれもいない、独り言だ。
「こんな簡単な仕事でまさかミスを…いやいやいくらなんでもそれはないでしょう。」
部屋を行ったり来たりしている。
「VIPですから他に人を付ければよかったのかもしれません。
でも、それだけの余裕が…。はあ」
がっくりと肩を落とす。
と、そのときコールがかかった。
「何でしょう。」
「シルフィーナ様がいらっしゃいました。」
「本当ですか?早く私のところに来るように伝えてくれませんか。」
「分かりました。」
今まで焦っていた人物は話が終わったあと、やっと落ち着きを取り戻した。
「さて、お迎えの準備をしましょうか。」
その人物は独り言を言いながら、何かの準備をはじめた。
魂判別所。
どこかの超高層ビルや高級ホテルと勘違いしそうな外見の建物。
その入り口に僕は来た。
魂を間違うという最悪のミスをしてしまったため、かなり入りづらい。
しかし、これは僕のミスではない。
予想外の出来事だった。
そう、僕に非はない。
堂々と入ればいいのだ。
判別所の中もホテルのロビーのようになっている。
カウンターにいる娘に話をつけるため、
忙しく動いている人を尻目にカウンター目指して一直線に進む。
「シルフィーナだ。局長はどこだ。」
なぜか娘は困った顔をしている。
おかしい、これで通じる筈だか?
お互い疑問符をぶつけ合っていると、
今度は突然奥から来た女が僕に駆け寄る。
「すいません。シルフィーナ様ですね。少々お待ち下さい。」
後で来た女はもともといた娘に頭を下げさせながら謝った。
「ああ、すまない。それと、気にするな。」
「すいません本当に…。」
「先輩、何で。」
もともと居た娘は不服そうだ。
「いいから。」
そう言われて、もともと居た娘はいかにも恨めしそうに
「すいませんでした!」
といいながら頭を下げた。
ルールを分かっているじゃないか。
「今つなぎますので…。」
後に来た女は奥に下がると、時間をおいて出てきた。
「650002の部屋に来ていただきたいとのことです。」
「そうか、わかった。」
場所もわかったし、行くか。
650002室前に着いた。
ここだな、ノックをして入る。
「おい、来たぞ。」
そう言うと、奥でガタンと音が鳴り、
「シルフィーナさん、あなたいつまで待たせるんですか?!
全くあなたという人は私の気持ちを少しでも考えたことがあるんですか?!」
そうまくしたてると、一息ついて、
「はぁはぁ、まあいいです。っで、持ってきたのですか?」
「ああ、でも…。」
「そうですか、では行きますよ。」
そう言い放って部屋をでるやいなや、ものすごい勢いで走っていった。
いそがないと、見失うな。
行くか…。
まったく、せっかちだな。
僕の話くらい聞けばいいものを…。
前にいた奴は足を止めた
「着きました。入ってください。」
ある一室に僕達は入った。
その部屋にはソファーから僕には用途が分からないものまである。
奴は部屋の扉が閉じられたことを確認すると、僕に向き直り、
「さて、ミスマルユリカさんの魂を渡してください。」
「それがな、渡せない。」
「な!?、まさか渡すのがいやになったとか、忘れたとかそんなことではないでしょうね。」
「いや、違う。」
「では、なぜですか?」
「実は…間違えた。」
「はぁ?」
「ミスマルユリカではない魂を持ってきてしまったようだ。」
「あ、あなたという人は、なんと言うことを…とりあえず見せてください!」
「ああ。」
そう言って、僕は魂を渡した。
その魂を見た奴はかなり驚いたようだ。
「これは…テンカワアキトさん?」
「ああそうか、テンカワアキトだったか。」
多分そうだと思っていたが。
「ああそうか、じゃありません!なぜ気づかなかったのです。」
「僕は男女の識別しか出来ないからな。」
「そういう意味では…はぁ、とりあえずテンカワアキトさんと話しましょう。
それから考えましょう。」
『話す』その言葉に僕は違和感を覚えた。
「なに?話せるのか?魂の状態では無理だろう。」
「それが出来るのですよ。そのための装置がちょうどそこにありますし。」
「その、なんだか分からないものか?」
「そうです。」
「しかし、もともとミスマルユリカの予定だったのだろう?必要あったのか?」
「その言葉をあなたが言いますか…。まあそれについては守秘義務がありますから。」
「そうか。」
奴は淡々とでかい箱に球状のガラスのようなものを付けた物体に、
テンカワアキトの魂を入れていた。
「それにしてもテンカワアキトさんですか…、
そのほうが都合がいいかもしれません(ボソ)。」
「なにか言ったか?」
「いえいえ、独り言でして…。」
奴が何か言っていたのは分かったが何を言ったまでは聞き取れなかった。
そこで会話らしい会話はぷつりと途切れた。
奴の手が止まった。
「さて、準備が出来ました。いいですか?」
「ああ。」
「では、いきますよ。」
そう言うと、手元にあるスイッチを押す。
同時にテンカワアキトがホログラムのように現れる
テンカワアキトは動かない。
「おい、動かないぞ。」
「ああ、寝ているのですよ。
現れたときにいきなりわめき出したり暴れ出したりしたら困るでしょう。」
「そうだな。」
「今起こしますよ。」
そう言うと、今度は違うボタンを押した。
そして、テンカワアキトは動き出す。
ここはどこだ?
また俺はどこかに飛ばされたのか?
目が開く、光が差しこむ。
不思議だ、いつもより視界が開ける。
「起きられましたか?」
目の前に痩せ型でいかにも神経質そうな中年がいる。
頭が覚醒する。
そうだ、ルリちゃん、ユリカ…ユリカは?
「ユリカはどこだ?返答によってはどうなるか分からんぞ。」
目の前の中年が温和そうな笑顔で答える。
「まあまあ、落ち着いてください。」
落ち着けるものか、やっと…やっと…
「もう一度だけ聞く。二人はどこだ。」
言い終わって初めて、中年の隣に人がいることに気づいた。
見覚えのある顔だ。
…そうか、ユリカを殺そうとした奴だな。
「貴様か?ユリカを殺そうとしたのは。」
そう聞く自分の声は驚くほど静かだった。
「そうだ。」
返答はあまりにもストレートだった。
それが余計俺の癇に障る。
「そうか…ならば、殺す!」
「出来るのか?」
「俺に人が殺せないとでも思うのか?」
「いや。今のお前は僕を殺すことは出来ない。」
「そう思うのか。」
それ以上の言葉はいらなかった。
俺は一気に奴に間合いをつめ……られない。
何故だ。
「ようやく理解したか。」
奴の声が気に障る。
「貴様。」
「いい加減にして下さいい!!!」
大きな声で多少我に返る。
「テンカワさん、これ以上の喧嘩は無意味ですので…。
シルフィーナさんはむやみに挑発しないで下さい。
テンカワさん、私から説明しますから。」
「しかし、」
俺はおさまらない。
「ミスマルユリカさんもホシノルリさんも生きてますし。」
「生きてるのか、無事なのか!」
「生きてます。詳しい情報は部下が調べに行ってますので。」
そうか…少しは気が楽になった。
「ですから、ここは私の顔に免じて。」
「しかし。」
俺は少女の顔を見ながら再度言った。
「分かりました。シルフィーナさん、謝ってください。」
「何故だ。理由がない。」
少女は憮然としている。
「私を怒らせる気ですか!」
中年にそう言われた少女は『悪いな』と謝った。
許すつもりはないが、これ以上の対立は無意味なのはわかっている。
とりあえず説明をしてもらわないと、分からないことだらけだ。
「テンカワさん、おとなしくしていただけるなら、
こちらもできうるかぎりの疑問にお答えしますので。」
好都合だ。
「では、質問をさせてもらう。」
俺は聞いた。
今の状態…魂となり、ホログラムと同等らしい。
ここにいる原因…少女のミスらしい。
そして今、目の前の奴等について…
「私はネゴシェイター、ネゴスとお呼び下さい。」
「本名か?」
「いえ、これはペンネームみたいなものです。
それに、ここには本名と呼べるものを持っている人は少ないのです。
ここにいるシルフィーナさんもそうです。」
「シルフィーナだ。死神をやっている。長いならシルフと呼んでくれてかまわん。」
死神とは…仕事?ユリカのこと、割り切れるわけがない。
「逆に質問だが。」
そんな中シルフィーナと呼ばれ、シルフと呼べと言った少女が口を開く。
「なぜお前、いやアキトは僕が見えた?」
「分かるわけないだろう。」
と返したとき、ネゴシェイター、ネゴスさんが口をはさんだ。
「シルフィーナさんそれではなにを聞きたいか全く分かりませんな。
さて、テンカワさん。死神とは、文字どおり死をつかさどるものです。
死に面している本人ならばともかく、ここ数日の寿命リストにすら載っていないあなたが、
なぜシルフィーナさんを見ることが出来たのか?ということを聞かれてるみたいです。」
おいおい、そんな説明をされたって分かるはずないだろう。
「だから、分からないと…。」
最後まで言い終わる前に、ネゴスさんの説明が入る。
「でもテンカワさんに分かるはずないですよね。
答えなら、大体私がわかるのでお答えしましょうか?」
『はい』というしかなかった。シルフも同じらしい
「では、お話しましょう。」
「実を言うと、テンカワさんは何時死んでもおかしくない状態です。
寿命とはその人が死にゆく時間です。ただし交通事故等の即死はちがいます。
さて、死に間際の人は死神を感知できます。
この場合ユリカさんがこれにあたります。
しかし、テンカワさんの場合は特別で、正式に寿命になるのが2週間後です。
本当の肉体の限界、それまで生きつづけるみたいです。
まあ、そんな状態だったのでシルフィーナさんが見えたと。
私はそう思いますがどうでしょう?」
「なるほど。」
シルフが答えた。
「俺は2週間後、つまり14日後に死ぬ予定だったのか。
そうか…死が事前に分かるというのはかなり複雑な気分だな。」
と呟いた俺の言葉にネゴスは反応して、
「すいません!本当は言っては行けないことなのに…忘れてくれませんか。」
「無理だ。」
はっきり答えた。
多少ブルーになったが最後の質問に入る。
「なんで、あんたらは俺のことを知っているのか?」
俺にとっては意外と素朴な質問だった。
「それはですね。その私達はやはり死に行くもの達のことを把握しなければ
ねえシルフィーナさん。」
ネゴスはかなり慌ててまくし立てた上にシルフにふった、かなり怪しい。
「そうだな。アキトは有名だからな。」
どういうことだ。
ネゴスさんも慌てている。
「シルフィーナさん、あなたという人は…全く。」
「しかし、事実だ。」
ネゴスさんは諦めたように
「こういうことは順序よくいかなければいけないですけどね。
まあいいでしょう。
テンカワさん、あなたは確かに私達の間で有名です。
理由、わかりますか?」
なんとなくわかる。
俺は分かるという素振りをした。
「そうですか。あなたの察しの通り、理由は大量殺人です。
このことは、魂をあつめる私たちのところにも直接関係ありました。」
「そうか…。」
としか言えなかった。
沈黙が支配する。
その沈黙を破ったのは、やはりというかネゴスさんだった。
「ところで、テンカワさん。」
「何だ。」
「あなた、やり直して見ませんか?」
「何をだ?」
突発すぎる。いまいちつかみきれない。
「人生をですよ。」
ばかげている。何を考えているんだコイツは…。
「その顔、信じていませんね。でも、私には出来ますよ。
魂を置換させればいいだけですから。」
「残念ながら興味はないな。」
「でも、あなたの魂を見ました。そのとき私に見えたものは、
『ナデシコ』、『家族』、『後悔』、そして『死』です。
もう一度やり直して、出来なかったこと、助けられなかった人、
どうにかしたくないですか?」
ありえないと思いながら聞き入っている自分がいる。
「そのことに、あなた達のメリットは何ですか。
慈善事業では逆に怪しい。」
「メリット?ありますよ。
先ほど言いましたよね、大量殺人で私達の仕事が増えたと。
それで、てんてこ舞いなんですよ。
だから、私達が過去に戻ったあなたに求めることは、大量殺人をしないこと。
個人で仕事を増やす人がいたら減らすようにと、
例え別世界の話でも…。」
なぜだ!…こんな話にぐらついている自分がいる。
「ああ、もちろんこのまま、あちらに戻ることもできますよ。
2週間しか生きることはできませんが…。」
そうだ。俺にはこの世界がユリカがルリちゃんがいる。
「俺はユリカやルリちゃんとわだかまりがなくなった、気がしている。
だから、こっちの世界にしか用はない。」
「そうですか。」
そう言ったネゴスは残念そうだが、何か含んでいた。
「他にも・・・」
そのとき、部屋がノックされる。
「すいません。ネゴシェイター殿、例のものもって来ました。」
若い女性が入る。
その女性の手には、モニターらしきものがあった。
「ちょうどよかったです。テンカワさん、ご覧になりますか?
ミスマルユリカさんとホシノルリさん、そしてあなたの肉体の今を。」
「ああ。」
当たり前だ。という言葉を抑えて言う。
女性はモニターの前に立つと指示棒を伸ばした。
「まず、これがテンカワアキトさんの状態です。」
霊安室にいる俺が顔に白い布をかぶされている。
「次にこれがミスマルユリカさんの状態です。」
次に映ったのはICU(集中治療室)の文字、
部屋の中は無機質で、中心のベッドでユリカが眠っている。
ユリカの身体には計器のプラグがついていた。
ショックだった。会ったときは元気そうだったのに。
「最後にホシノルリさんです。」
映ったものは個人用の病室のベッドで寝ているルリちゃんだった。
ただ、目は開けていて、その目は光を写すことなく、
焦点の定まらない瞳は虚空を見つめていた。
限界だった。
「やめてくれ、もう見たくない。」
「でも、あなたが見たいと……。」
「ネゴスさん、俺を怒らせないでくれ。
狂わず、発狂しないだけでも誉めてくれよ。」
「すいません。」
ネゴスさんは素直に謝ってくれた。
「でも、私は質問しなければなりません。
このことを踏まえた上でもう一度聞きます。
『過去に戻る気はありませんか?』」
俺の心は決まった。
「ネゴスさん、これ見て決めました。」
「はい!」
「俺は・・・・・」
「俺は、過去に戻る気はない!ユリカとルリちゃんのため再びあの世界に戻る。」
本当に守りたい、守らなければならない対象がやっと分かった気がするから…。
今ごろ気づくなんて遅いけど…。
「ではテンカワさんは2週間しか生きられない上に、
目を覚まさない2人と生きると言うのですね。」
「ああ決めた!もう迷わない。
それに目を覚まさないなんて決まったわけじゃないから…。」
観念したのか、ネゴスさんは『はぁ』とため息をついて、
「テンカワさん、私にちょっと提案があるんですが…。」
まだ諦めきれないらしい。
「ユリカさんのことなのですが…、
本来寿命で死んでいる筈の人物が生きていても目を覚ますことはありません。」
「そうなんですか…。」
そうか、でも俺は諦めたわけじゃない。
っていうかまだネゴスさんの話は終わってないらしい。
「それで提案なんですけど、テンカワさんあなた、ユリカさんに寿命分けませんか?」
「な!?」
ネゴスさんの提案は俺を驚かせた。
「特例ですよ。迷惑をかけましたし。いや、あなたがより生きたいならしませんし。」
「分けてください。お願いします。」
「でも、お二人とも一週間、つまり7日間しか生きられませんよ。よろしいですか?」
「それについては問題ないです。でも、ルリちゃんは?」
「すいません、ルリさんは寿命とは関係なく、心の問題ですから…。」
「そう…ですか。」
ルリちゃんは…でも逆にいうと目がさめる可能性もあるってことだから。
時間はないけど、ゼロじゃないから。
「では、本当にいいんですね。」
ネゴスさんは念を押す、俺の気持ちは最早変わることなどありえない。
「ではシルフィーナさん、送ってあげてください。」
「あ、ああわかった。」
シルフは突然呼ばれたことに驚いたのかどもっていた。
と思ったら泣いていたらしい、涙のあとがくっきりとある。
「シルフィーナさん、こっちへ。」
ネゴスさんはシルフを呼ぶと何やら話し始めた。
ここからでは聞きこえない。
話をついけたのか、ネゴスさんはこちらに向かってきた。
「では、あなたとお話しできるのはここまでです。
テンカワさん、さようなら。あと、おまけがあるかもしれません。」
「はい?」
「いえいえ。」
疑問は答えてくれなかった。
さいごに
「テンカワさんは失敗しましたか、まあこれはイレギュラーなことですし。
しかたありません、今度はあの人達にたのみましょうか。」
というネゴスさんの声が聞こえたような気がした。
いったい何度目の覚醒だろう。
そんなことを思いながら目が覚める。
さて、ネゴスさんの言ったこと、試させてもらいますよ。
俺はICUに急いだ。
部屋に入ると、そこにはジャンプしてついたときと同じ格好をしたユリカが居た。
「あ、アキト。あれ、私どうしてたかな?」
よかった。
俺はなぜか足に力が入らず、膝をついた格好になっていた。
情けない。
「ユリカ、俺が教えてあげるよ。信じられないかもしれないけど…。」
「うん。でもその前に2つ聞いていい?」
「何?」
「ルリちゃんは?」
「それは、一緒に話すよ。」
「あともう一つは、後ろの娘だれ?なんか飛んでいるんだけど…。」
「えっ。」
後ろを振り返るとそこにはシルフィーナ、シルフがたたずんでいた。
「お前、なぜまだいるんだ?」
「よく分からんがネゴスの指示だ。
バツとしてお前の最後を見届けろと。」
「だからお前から半径5メートル以上離れられんぞ。」
「わかったよ。」
「だれなの?知り合いみたいだけど。」
ユリカが再び聞く。
「そうだな。それも含めてゆっくり教えるよ。」
そう、有意義にするために・・・・
「・・・・というわけだ。」
話を終える。
聞いたユリカは微妙な顔つきをして
「へぇ、そんな夢見たんだ。」
いや、確かに夢みたいな話だが…。
「違う、これでも本当なんだ。」
「ふふ、冗談だよ。アキトが嘘付くはずないもん。」
ユリカ…
「それにしても、ルリちゃん心配だね。」
「ああ。」
俺はうなずく。
「ルリちゃんも心配だが、ユリカ、お前の命は一週間しかない。すまない。」
「ううん、いいよ。ちょっと短いけどアキトと一緒だったらね。
それにシルフちゃんだっけ?ごめんね、大変な役押し付けちゃって。」
「気にするな。これも仕事だ。」
シルフは珍しく照れている。
ユリカは突然考え出した。
無理もない、死についてだろう。
ユリカが口を開く。
「そうだよね。シルフちゃん、アキトから離れられないなら家族と一緒だよね。」
「そんなことを考えていたのか。」
あきれてしまった。
「重要なことだよ。それにアキトもお前とか呼んじゃ駄目だからね。」
相変わらず俺は押しに弱いらしい。
「分かったよ。」
「あと私とルリちゃんの部屋の変更ね。一緒じゃないと。」
「ああ、そうだな。」
それには、大いに賛成できる。
その後、ルリちゃんの部屋を訪ねたが、追い返された。
面会謝絶らしい。
ただ、次の日になればユリカと同室になるので、その後ならよいと言われた。
再びユリカの部屋
「ルリちゃんどうだった?」
「会えなかった。明日までお預けだって。」
「でも明日、今日の分まで話せばいいよね。」
「そうだな。」
ユリカとは色々な話をした。
離れてからのお互いの時間はあるようでなかったのかもしれない。
過去の話はすぐ尽きる。
しかし、面白いと言うか何と言うか、
過去の話の何倍も一般の人から見たらどうでもいい話をしていた。
そちらのほうが過去よりも何十倍も大切に思える。
途中からはシルフも話に加わり、ユリカの眠るまで続いた。
「アキト。」
「何だ。」
「何か楽しいな。」
「そうだな。」
2日目
ユリカの病室はルリちゃんと一緒になっていた。
部屋に入ると、ユリカはルリちゃんに話かけていた。
「面白そうだな。なあシルフ。」
「ああ。」
ルリちゃんは返事をしないが、
俺達はルリちゃんの言いそうなことを想像し会話する。
シルフが多少会話についてこれないがご愛嬌だろう。
たまに、『何をやってるんだろう』とか『恥ずかしいな』
などと思う自分に嫌悪感をおぼえた。
3日目
ユリカやシルフのお陰で2日目にあった考えもなくなり、
シルフにいたってはユリカになついたようだ。
「なあシルフ。」
「そうだな。」
4日目
事件が起こった。
雨がふっている。かなりの雨だ。
「今日は天気が悪いね。」
「ああ、そうだな。」
ユリカとシルフの会話
「でもあっちには天気の変化がない。
というより、天気という概念がない。」
「へぇ〜。」
強い雨。
ピカッーーー、ドン。
そして落雷。
「うわっ、近い。」
「なかなか風情があるな。」
「あの2人はお気楽だな。ルリちゃん。」
そんな会話の中、部屋に光が、まさか落雷か、室内に?
「えっ?」
「なんだ?」
「くっ。」
眩しい。
そして光がおさまる。
部屋の中央には人が居た。
薄桃色の髪の少女。まさか…。
「ラピスか!」
その少女を抱き上げる。間違いない、ラピスだ。
「ラピス!」
ラピスの目が開かれる。そして、
「アキト!
アキト、私アキトに会いたくて。」
「そうか!」
と感動の再会もつかの間、他のみんなは驚きと『誰?』という目で見ている。
「この子はラピスラズリ、ユーチャリスのオペレーターで俺と組んでいたんだ。」
「私はラピスラズリ。」
俺の後ろに隠れながら自己紹介する。
「よろしくね、ラピスちゃん。」
「よろしく。」
2人は挨拶を返す。もっと驚いてもよさそうなものだけど…、
そんな考えを持っているのは俺だけか。
「あとねぇ。」
ユリカがつづける。
「こっちがホシノルリちゃん。」
そう指した。
ラピスはルリちゃんには興味があったようで、
「アキト、返事しない。なぜ?」
と質問した。
「ルリちゃんは今ちょっと話すことができないんだよ。」
と答えた。
その後何時か話せるときが来るまで待ってと念を押した。
俺はラピスがここに来るまでの話を聞いた。
気がついたら、俺も行った魂判別所にいたらしい。
しかも俺と同様にネゴスさんにここに戻らないかと聞かれ、
俺を見て、こっちを選んだらしい。
しかし、ネゴスさんの最後の言葉はそう言う意味だったのか…。
「じゃあ、ラピスは俺があと3日しか生きられないのを知ってきたのか。」
と言う俺の言葉に迷わず、
「うん。」
と答えた。
話を聞くと、どうやらマキビハリくんに会ったらしいのだが、
ラピスは先に決めて来たので、どうなったか分からないらしい。
ラピスとの話が終わると、
「ネゴス、そんなことを。」
シルフが言い、
「そっか、じゃあラピスちゃんも家族だね。」
とユリカは言った。
大所帯だな。俺はそんなことを考えていた。
「となると、ラピスちゃんは、ルリちゃんの妹だね。」
まだ話は続いていたらしい。
「ラピスちゃん、ルリちゃんがお姉ちゃんだからね。」
「うん。」
ラピスがこの家族にすっぽりと納まるのは時間の問題だろう。
時間が進むのは早いものだ。
ラピスがなじみ、関係がよくなるほど時間はなくなる。
7日目、残り時間、15分
「さて、そろそろお別れだな。」
「そっか、もうそんな時間なんだ。時間が経つのは早いよね。」
俺とユリカは最期に向けて準備をする。
「やだ。」
ラピスの抗議。
分かっているつもりでも辛いのだろう。
かくいう俺も気持ちは同じだ。
「アキト、ユリカ、やだよ。私も一緒に…。」
「だめ。ラピスちゃんはルリちゃんの面倒を見るって決めたでしょう。」
「ルリの…分かってる。」
そう、ルリちゃんは今だ眠り姫だ。
「ラピス、これ二人で撮った映像。ルリちゃんが起きたら見せて。」
「分かった。」
よかった、ラピスはおとなしくしてくれるようだ。
ただし涙腺は緩みっぱなしであるが。
まあこっちにも涙腺は緩みっぱなしの奴がいるけど…。
「うるさい。あと2分だ。」
死神のくせに…。
「ギリギリまで時間延ばすのはいやだから…やってくれ。」
「そうだね。ラピスちゃん、お姉ちゃんをよろしくね。」
「アキトー!!ユリカー!!」
「アキトサン…ユリカサン…」
えっ、ルリちゃん?確か今ルリちゃんの口元が動いたような。
「アキトサン、ユリカサン、」
間違いない!みんなも気づいたようだ。
「ルリちゃん。」
「ルリちゃん。」
「ルリ!」
「ルリ。」
「アキトさん、ユリカさん、あ…れ?」
「ルリ(ちゃん)!!!!」
「アキトさん、ユリカさんとあれ、あとの人は?」
「よかったルリちゃん、起きたんだね。」
本当によかった。
「っと、あと30秒だ。」
時間は無駄に出来ないな
「そっか、これで家族全員起きたね。」
「そうだな。ルリちゃん、ラピスを頼むよ。妹だから…。」
「え?えっ?何ですか?」
「十秒!」
ルリちゃんはパンク寸前だ。
仕方ないだろう。
でも、説明する時間もない。
「じゃあね。ルリちゃん、ラピスちゃん。」
「姉妹仲良く助け合って…。」
「ゼロ!」
シルフィーナの鎌は振り下ろされた・・・・・
アキトさんとユリカさんがまた倒れました。
アキトさん、ユリカさん死んだのですか?
また?そうだ、私はまたアキトさんとユリカサンが倒れたのをみて…
「ルリ!」
だめ、頭が真っ白に、
「ルリ!」
目の前も真っ白に、
「お姉ちゃん!!!」
お姉ちゃん?私のこと?
『ラピスを頼むよ。妹だから…。』
いもうと、アキトさんに頼まれた。
は!私また同じ事をしようと…。
我に返ると、私の横でラピスが叫んでいました。
あまり面識はないはずなのに、本当の妹のように思えてきます。
「お姉ちゃん。」
「ごめんね。もう大丈夫です。」
もう前と同じ事はしません。
もうちょっとだけ頑張れそうです。
「ラピス、なにがあったの?おしえて。」
まずはそこからですね・・・
終章につづきます
あとがき
ひとみ みともです。
今回のあとがきに入る前に、まずは代理人様へ…
前回の後書きで勘違いさせるような書き方をしてすいません。
これはシリアスな話です。
前回のギャグは、
ただ箸休め的な、その、ずっとシリアスだと疲れるかな?という考えもあって残したものです。
本当に見なくても大丈夫です。
シリアスなのはこの話をみたら分かるとおもいますが…。
さて補足になりますが
>実はプロローグ、第一話をすっとばしてこの話が第一話になる予定でした。
>
>題名はその名残です。
>
>で、ギャグテイストな感じでいけたらなぁ〜、なんて思ってました。
>
>でも不自然すぎなので、第一話をはしょって、上に乗っけたら、
>
>気がついたら、激しく肉付けされてしまいました。
>
>そして、この結果です。(悪い意味ではありません)
>
>ただ、プロローグ、第一話を考えているときにルリ、ユリカの動きっぷりでああなって、
>
>激しくシリアスになりました。
と書きましたが、プロローグ(序章)、第一話のみシリアスになったのではなく、
プロローグ(序章)、第一話を含む全体(ラストまで)がシリアスになったという意味でした。
>ギャグテイストな感じでいけたらなぁ〜
これも企画段階の話で、
きちんとプロット作った時には、すでにシリアスでちょっと痛い風味になっています。
シリアスにあのギャグの入れ方はどうも…。
という意味でしたら、参考にさせていただきます。
ともかく、すいませんでした。
アキト君の話は事実上これでおしまいです。
次の話は終章(エピローグ+外伝)の予定です。
さて、今回の話以上に長いです。
いつもの倍以上の量です。
きってもいいかな?と思った場所は結構ありましたが、あえてきりませんでした。
理由は自分がいやだったからです。
ネゴシェイターさんのもとキャラ分かりますよね。
分からないならみともの表現があまいだけです、気にしないでください。
ちなみにネゴシェイターとは英語で交渉人です。
もうちょっと話したいことがありますが、次回にまわします。
今回は本編に使いすぎました。
それでは、次回に…。
代理人の感想
ぬ〜〜〜〜〜ぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ。
惜しいっ!
面白いんですよ、面白いんですけど・・・・・文章力と構成力が足りません。
この展開とテーマを十二分に書き切るだけのものがあれば、
今回の話だけでもRoby114さんの「Waltz for Snow White」にも比肩する傑作になったと思うのですが。
具体的な所を上げれば、七日間の間の描写ですね。
死に行くまでの七日の間、日常の何気ない事件、
例えば食事を一食ずつ味わって食べるユリカとか、(そしてアキトも味を思い出しながらそれに付き合う)
「何か欲しい物があれば買って来る」と言うアキトに少しでも長くそばにいて欲しいと頼むとか、
弱気になったアキトが子供の頃聞いた話を思い出して地獄に落ちるのが怖いと独白するとか。
その他、窓の外の光景でも今日の天気でもTVで流れているニュースでも、
死を目前にした人間はそれらの事にもまず間違いなく普段とは違う反応を示すはずです。
それらに対してアキトやユリカ、またシルフやラピスがどう反応するか考えてそれを文章にするだけでも随分違ったと思います。
>箸休め
・・・・う〜〜〜〜〜ん。
こう言った短い話の場合、余分なものを挟むよりもそれだけで押し切った方がいいと思います。
書きたい事だけ書ききる、一つのテーマだけを書き切れるのが短編の強みの一つだと思いますので。
まぁ、それは個人的な好みも入っているのでこれ以上は控えますが、
ちょっと一息つく為のギャグを入れるにしてもこの長さの話で一話分と言うのは多過ぎかと。
例えば四クール長編五二話の中に数話ほど余分な話があればそれは「箸休め」になりますが、
作品の四分の一が「余分な物」ではちと多過ぎるかなと。
少なくとも私はそう思います。
シリアス短編で息抜きギャグを入れるならせいぜい数行〜ワンシーンくらいでしょう。