死神が舞う〜終章〜
「ゼロ!」
鎌を振る。
いつやっても嫌なものだ。
二人の魂を持って僕は天界へと行く。
ルリやラピスの顔を見る気にはならなかった。
わずかに聞こえるラピスの叫び声、つらいものだな、別れとは。
天界に向かう途中、アキトとユリカの魂を見る。
青と赤。よし、アキトとユリカだな。
まて、何故僕は今、魂を確認できた?
再び魂を見る。
ほんのり青い魂の内側にはアキトが立っていて、笑顔でこちらを見ている。
ユリカも同じだ。
幻か、感情移入が起こしたものか、それとも純粋に能力が上がったのか。
どちらにしても、見えないよりは良い。
確認できるし、何よりも落ち着く。
判別所に入る。
この魂を預けねばな。
ここに来て、さほど時間が経たないうちにネゴスが現れた。
「シルフィーナさん、テンカワさんとユリカさんの魂、
今度は間違いなくもってきましたか?」
「ああ、持ってきた。間違いない。」
その言葉を聞いたネゴスは嬉しそうだ。
「では、渡してください。」
「ああ、そうだったのか。もう預けてしまったぞ。」
僕はとっさに嘘をついた。
「なんて事を!。シルフィーナさんあなたは最後の最後で…。」
「残念だ。」
悪いなネゴス。
「はあ、分かりました。こちらで探してみます。
まあ、1時間もあればいいでしょう。
あなたは部屋に居てくださいね。
あと、探しても見つからなかった場合は、あなたのところに行きますので。」
ウインクしながらそんなことを言う。
ばれているのか?
まあいい、少しでも時間が持てればいいのだから…。
部屋に入り、魂を見る。
ちょっとだけだ、ネゴス。
僕には家族が居なかった。
だから、すこしの間こうさせてくれ。
そう、二人を見ているだけでも…。
「だからって嘘はいけないだろう。シルフ。」
「シルフちゃんは私達とお別れ会がしたかったんだよね。」
「お別れ会って、お前な。」
アキトとユリカの声が聞こえる、動きが分かる、表情が読み取れる。
これは!どうしたのだ、いったい。
「お別れ会は、おかしいよな。」
「え〜、お別れ会だよね。シルフちゃん。」
「そうだな。」
「ほら、お別れ会だよアキト。」
「まじか、シルフ。」
そうだな、理由なんていらないな。
話せる、これほどのことはないだろう。
それからの1時間は別れるものたちの会話では無かった。
ユリカが話し、アキトが話し、僕が話す。
どの話も脈絡がなく、結論も無い。
そんなことを話していると、
ドンドン。
「時間だな。」
僕がそう言うと、
「そうか、それじゃあな。シルフ。」
「シルフちゃん、ばいばい。」
二人は笑顔で別れを告げた。
「それではな。」
僕も笑顔で別れる努力をした。
結構難しいものだった。頬が熱い。
「ネゴスですけど、よろしいでしょうか。」
僕は呼び入れる。
入ってすぐにネゴスは切り出した。
「すいません。テンカワさんとユリカさんの魂、見つかりませんでした。」
「シルフィーナさん、知りませんか。」
ネゴスの言葉を無視して、僕は二人の魂を差し出した。
「これだ。」
ネゴスに渡す。
「すいません。シルフィーナさん。」
ネゴスが謝る。
「こちらこそすまなかったな。」
そう言うとネゴスは驚いていた。
「あなたからそんな言葉が聞けるとは…。」
失礼な奴だ。
「僕は今までも、非は認めていたつもりだが。」
「いえいえ、非を認めるのと、謝るのは別ですよ。」
「そうなのか?」
「はい。」
そうだったのか。
そんなことを考えていると、
「ところで、もういいんですか?
私の裁量でもう少し長く見なかったことに出来ますが…。」
ふっ、面白い奴だ。
「いや、もういい。
だが、次の仕事はもう少し待ってくれないか。」
少し時間が欲しい。
「わかりました。少し休んでください。
仕事は溜まってますから、張り切ってもらわないと…。」
「そうだな。」
アキト、ユリカ、ルリ、ラピス、みんな僕の家族だからな。次元が違っても…。
僕は伸びをすると、ソファーに倒れこんだ。
「それにしても、大きな仕事だったな。」
すごく良い天気。
不思議、お葬式というと暗く、雨のような天気のイメージなのに。
こんな日に限って良い天気なんですね。
でも、お二人のイメージにぴったりです。
お葬式、たくさんの方が出席されました。
前回と同じ方がほとんどです。
皆さん悲しそうな顔。
ユリカさんが
『どうせならお葬式より、結婚式やりたい〜!』
と昔いいました。
私もそう思います。
お二人が亡くなったあと、ラピスに話を聞きました。
その話はあまりにも突飛なものでした。
聞いたあと、私は何より悔しさがでてきました。
もっと、もっと早く復帰できていれば、
いえ、それ以上に、もっと心が強ければ…。
でも、悔やんでも仕方ありません。
数十秒でも会えたことに感謝すべきです。
それに、かわいい妹もいますし…。
私はラピスのほうを見て微笑む、ラピスは私に答えるように服をひっぱる。
ラピスのこと任されましたよ。
2度目のアキトさんとユリカさんのお葬式。
前回と明らかに違うのは身体があることです。
突然死、しかも二人同時に、肉体的損傷もなく、発作も起きない死。
聞いただけでは誰も信じません。当たり前です。
でも、アキトさん、ユリカさんの身体。
これでは、納得せざるを得ません。
アキトさん、ユリカさんとの最後の対面を終え、身体をカプセルに入れます。
土葬でも火葬でもなく、コールドスリープになります。
私とラピスのたっての希望で特別にしてもらいました。
ラピスの放った、
「またシルフがドジれば生きかえるかもしれないよ。」
の一言で決まりました。
きちんと、死と向かい合ってない。そう思います。
でも、私には支えが必要だから…。
もう少しだけでも…。
お葬式が終わった。お姉ちゃんは色んな人と話している。
アキトとユリカがシルフに連れて行かれたあと、お姉ちゃんはおかしかった。
私がはじめて、お姉ちゃんを紹介してもらった時と同じような…。
せっかく起きたのに、また眠っちゃうかと思った。
だから頑張った、いっぱい叫んだ。
そしたら、お姉ちゃんは眠るのをやめて、今度は私に質問責めしてきた。
だから話した。
アキトのこと、ユリカのこと、シルフのこと、
こっちに来てからの生活のこと、目覚めないお姉ちゃんのこと、
アキトとユリカの寿命のこと、まだまだたくさん。
「そうですか…。」
話したあと、お姉ちゃんは自分がきちんとした形でその場に
いられなかったことをすごく悔やんでいた。
「でも、アキトとユリカとシルフはお姉ちゃんが起きて、すごく喜んでいたから…。」
「それでも、アキトさんときちんと話したかった。
ユリカさんに謝りたいこともあった。
シルフさんにも会ってみたかった。」
「そう、だよね…。」
私だってアキトに会いたくてこっちに来たんだから…。
あれ?何か忘れているような…。
あっ!
「そういえば、マキビ…ハリだったかな?
その人を見たって、アキトがお姉ちゃんに言えって。」
「ハーリー君が?どこに居たんですか。」
「天界の魂判別所?だったかな。アキトの所に来る前に…
私はアキトに会いたくて、先に来たから、
ハーリーって人はどうなったまでは分からないよ。」
「そうなんですか。」
「うん、でもお姉ちゃんのこと見てショック受けてたみたいだから。」
「え?」
「もしかしたら…こっちには居ないかも。」
「そう…ですか。それは残念です。」
そう言ったお姉ちゃんはとても残念そうだ。
お姉ちゃんにとって弟みたいな存在って聞いていたから、私と兄弟なのかな?
あのときは面識なかったし、分かっていれば誘ったんだけどね。
ハーリーって言う人の話もした。
サブロウタっていう人は知らなかった。
でも、ナデシコは面白そうだった。
アキトがいて、ユリカがいて、お姉ちゃんがいて、
私もいたかったな、多分シルフも…
でも、私にはみんなで話した時間があるからいいかな?
またみんなで話したいな。
あっ、シルフは死ぬ時会えるかもしれないな。
あんまり良い話じゃないけど…。
お葬式が終わった、話が終わったお姉ちゃんは、こっちに向かってきている。
「ラピス、みんなと話したの?」
「いい。知ってる人には挨拶したから。」
十分だよね。
「それじゃあ、帰りましょうか。」
お姉ちゃんはやさしくて好き。
「うん。」
テクテクテクテク
私たちは歩く。
部屋に帰るために。
お姉ちゃんはうつむいている。
私は迷っている。
アキトとユリカに頼まれたものを見せるかどうか。
中身は知らない、でもこれを見たらお姉ちゃんはまた眠ってしまうのではないか?
そんなこと思ってる。
部屋につく、
お姉ちゃんは私に微笑みかける。
でも少し不自然。ため息も多い。
割り切れないのは分かっている。つらいのもわかってる。
それは私も一緒。
でも、お姉ちゃんこのままじゃだめ。
あれを見せたら変わるかも、でも逆も…。
それでもこのままよりは、
「お姉ちゃん!」
なるようになれだ。
「何ですか。」
突然の私の大声にお姉ちゃんは驚いている。
でも、つづける。
「見せたいものがあるの!」
眠ってしまったら私が起きるまで世話すればいいだけだから。
アキトとユリカがそうしたように…。
「見せたいものがあるの!」
そう言ったラピスの目はあまりにも真剣で、
私の心までも見とおしてしまうのではないか、と思わせるものでした。
「何ですか。」
「あのね、アキトとユリカからもらったの。」
そういって渡された一枚のディスク。
「お姉ちゃんに見せてって言われた。」
私に?
「とりあえず、見てみましょう。」
そう言った私の声は震えていました。
緊張してます。
アキトさんとユリカさんが私のために…。
ディスクを再生します。
現れたのは、アキトさんとユリカさんでした。
「ルリちゃん、これを見ているということは起きたんだ。」
「そうだね。おはよう、お寝坊さん。」
お寝坊さん扱いですか。
「まずはラピスに感謝して。
このディスクを届けてくれたのはラピスだと思うから。」
そうですね。
ありがとう、ラピス。
「次に、ほらユリカ。」
「あのね、ルリちゃん、あの、え〜と、その、」
「アキト〜。私、何て言うつもりだったっけ?」
「知るはず無いだろ。お前、自分で内緒とか言っておいて。」
アキトさんにそう言われてから少し経って、
ユリカさんはアキトさんの後ろのほうを見て、
「そんなぁ、シルフちゃん、私そこまでひどくないよ。」
シルフちゃん?シルフさんがいるのでしょうか。私にはわかりません。
何を言われたのでしょうか。気になります。
アキトさんも大笑いしてますし、相当のことを言われたのでしょう。
「やばい、時間が無いぞ。ユリカなんでもいいから言え。」
えっ、もうですか?
「そうだね。あのね、ルリちゃん。その、元気でね。」
「そんな、終わりかたはないだろう。シルフも何か言えって。」
無音、やっぱり私には聞こえません。
「ルリちゃんが死んだあとの話をしてどうするんだ。」
死んだあと、そのあたりを話しているようですね。
「じゃあ最後にアキトね。」
ユリカさんにそう言われたアキトさんは画面に向いて、
「ああ。ルリちゃん、ごめんね。ルリちゃんに謝ってなかったよね。
あと、・・・・
俺達は家族だから、生きてる時間が違っても次元が違っても家族だから、
少なくても俺は、そう思う。」
アキトさん…。
「私もそう思うよ。」
…ユリカさん。
「あのね、ルリちゃん、俺達はお互いのことを覚えているだけで繋がっているから・・」
プツン・・・・
切れました。何て締まらない終わりかたでしょう。
でも…。
「行こう、ラピス!」
私は突然立ち上がると、ラピスにそう言って部屋をでました。
「え?」
ラピスは驚いているようでしたが気にしません。
「急がないと、置いていきますよ。」
そう、もう分かったから。
私達は家族で、繋がっているって分かったから。
「待って、お姉ちゃん。」
だから、アキトさんとユリカさんの戻るべき場所は心だから、身体じゃないから。
「早くしないと、かえれなくなりますよ。葬儀を…」
涙のあとはとうに消え、私は心から笑えた気がする。
おわり。
あとがき
ひとみ みともです。
終わりました。ええ、『死神が舞う』はここで終結です。
書きたかったこと、書ききれなかったこと、書き足らなかったこと、
たくさんあります。
でも無事終結をむかえて結構うれしいです。
応援してくれた人、アドバイスしてくれた人、そして代理人様に感謝です。
裏話コーナー〜
まず、前回後書きで、
>次の話は終章(エピローグ+外伝)の予定です。
などと書いてますが、外伝はありませんでした。すいません。
理由はひとえに自分のせいです。
エピローグの量が多くなってしまい、かつ外伝も多くなりそうなので、
時間的、量的の問題からカットしました。
もし期待した人がいたらすいません。
ちなみに外伝は『ハーリーの冒険』という逆行話と、
『サブロウタの日記』という未来に跳ぶ話でしたが…。
次に、シルフとネゴスの関係ですが、上司と部下です。
まあ、どっちがどっちがかは言うまでもありませんね。
エンディング、結構迷いました。
シルフエンドとルリ、ラピスエンドの二つになりました。
みともは結構気に入ってます。
次の話は、ナイツさんの要望どうり
『死神が舞うifラピス15歳』(題名は変わるかもしれません)
を予定しています。
第二話の後書きに書いたものです。
あと、短編1つ考えてます。(こっちはギャグです。)
そっちが先になるかも知れません。
どちらにしても時間はかけません。
それでは、ありがとうございました。
代理人の感想
いい話でした。
構成とか文章とか少々力が足りなかった所はありますけれども、
ちゃんと完結させたのは褒められるべきですね。
最初からプロットをちゃんと決めていればそう難しい事ではないんですが、
(勿論話の長さに応じた執筆時間と持続力は必要です)
そうでない人間が余りにも多い現状を見るとそれだけでも賞賛されるべきでしょう。
また、前回の感想でも書きましたが文章力と構成力さえつければ
ひとみさんはもっといい物が書ける人だと思います。
頑張って下さい。
それでは、次回作に期待しつつ、さようなら。