死神が舞うif黒衣の死神〜第二幕〜
「一時間後、火星に強襲をしかける。ルリ、それまで休んでおけ。」
俺はルリにそう言い放つと、ブリッヂから見える宇宙に目を向けた。
黒い、何でも飲み込んでしまいそうな漆黒の闇。
今の俺にはものすごく落ち着く色だ。
自らの手を血で赤く染め、自らの体を真っ黒に染めてしまった俺にはな。
『そんなこと無いですよ!』
リンク越しにルリが反論する。
『ルリもこんな世界に巻き込んでしまったしな。』
『アキトさん、私は望んでアキトさんについてきました。
それ以上言うと怒りますよ。』
『悪かったな。』
『いえ。』
沈黙、リンク越しだというのに。
分かっている。
これからすることは成功する確率の低い賭け。
ユリカの救出、奴らへの復讐。
奴らがユリカを媒体に使いジャンプを行っていることを考えると、
奇襲になどならないかもしれない。
でも、俺を、俺の家族を、ユリカを。
やらないと
『そうですよ。助けましょう。』
『ああ。』
そのとき突然ルリが
「熱源感知しました。人がいます。」
「何!」
ドアが開く音がした。
俺は振り返る。
と、ブリッヂ内に声が響きわたる。
「アキト!」
「アキト!」
「誰だ!」
「誰ですか?」
私が見たものは立ってモニターを眺めていたアキトと、
私の席に座っているホシノルリだった。
私はそこに見えない壁があるかのように、その場に止まった。
「あ…れ?」
何で、アキトはいる、黒いバイザーとマントで。
でもアキトといるのは、オペレーターの席にいるのはルリ?
どうして?、私は未来に来たはずなのに…。
未来はかわってしまったの?
私の居場所はないの?
そんな考えがぐるぐる回っていると、アキトが
「敵か!」
といい、私に銃を向けた。
トリガーにかけている指は迷わず引き金を引こうとしている。
えっ、私死んじゃうの?
まだ、何も知らないのに、なにもしてないのに…。
でも、それを助けたのは、ルリの
「待って下さい!!」
の声だった。
銃口は向けられたままだったけど、撃つことはやめてくれたみたい。
アキトに銃口を向けられるのはつらいし、何より私を知らないことが一番辛い。
『待って』といったルリは私をじっと見ると、
「アキトさん、この娘の目を見てください。」
といった。
アキトは私を人とおり見ると、答えを出した。
「色素の薄い髪、金色の瞳、マシンチャイルドか。」
「ええ、多分。」
そう返したルリは私に聞いた。
「あなたはマシンチャイルドなの?」
「うん。」
私は答えた。
「そうですか…。アキトさん。」
そう言ったルリは会話をやめた。
沈黙…。
いや、違う。きっとリンクだ。二人だけで会話しているんだ。
今は無くなった私とアキトとの絆。
リンクでの会話が終わったみたいで、アキトとルリが再び私のほうを見る。
「あなたは何者ですか?行動よりも状況が不審なので。」
ルリが聞く。
「私は…。」
私は何て答えたらいいんだろう?
アキトに会いたくて過去から、いや未来から来たといえばいいのかな?
それとも、本当は私がその席に座ってるはずの人だといえばいいのかな?
どっちも駄目な気がする。
信じてもらえないと思う。
じゃあ何て答えよう?
私は、私は、
「私は、突然変異でボソンジャンプを任意で出来るようになったマシンチャイルドだよ。」
と答えた。
「な!?」
アキトが驚く。
「そんなことがあるのか?」
「分かりません。ただ、それだとほとんどのことにつじつまが合います。」
二人は答えを求めている。
私は嘘は言っていないので自信をもって再び答える。
「うそじゃないよ。」
「わかっています。嘘ではないことは…。」
ルリがそう言った。信じてもらえたみたいだ。
「でも、アキトさんを知っているのはどうしてですか?
私のことも知っているように見えます。」
「それは、」
その質問に答えることはさっき考えたことを言わなくちゃいけない。
「それは、内緒。」
「何を言って!」
「ルリ!!」
怒りそうになったルリをアキトが止める。
「俺達はそこまで聞く権利はない。話したくないならそれなりの事情があるのだろう。」
「はい、分かりました。」
アキトの説得でルリが折れる。
「それにしてもどうする。このままというわけにもいかなだろう。」
「では、一度寄港しますか?」
「そんな時間は無い。」
アキトとルリは私を無視して、私の処遇を決めている。
「では、どこかに置いておきますか?」
ルリ、私物じゃないんだよ。
このままじゃどうなるか分からないから、私は自分の意見を言うことにした。
「何してるか知らないけど…私も手伝いたいな。」
言葉を聞いた二人は唖然としてから、
「無理だ。それに危険すぎる。」
「何をするか知っているんですか?出来るわけありません!」
二人して否定する。でも私は
「じゃあ何をするか教えて、じゃないと分からないよ。」
と言い返した。
「それは…。」
二人はハモる。
「じゃあ、手伝うよ。いいよね。」
私は勝手に決めた。
「駄目です!」
「分かった。」
ルリが否定すると同時にアキトが賛成した。
「アキトさん、なぜ。」
「ルリ、揚げ足を取られたお前の負けだ。」
ルリはしゅんとしていた。
「じゃあ、いいの?」
私は最後の確認をする。
「ああ、どちらにしても何をするか話してやろう。それから考えて決めてくれ。」
手伝うことに賛成したのではなくて、話してくれるだけのようだ。
私はどちらにしても手伝うつもりだけど。
だって、他に行くところも無いし、私はアキトしかいなし…。
私は話を聞いた。
アキトが話したりルリが話したり。
もちろん私はナデシコAの頃などは大まかにしか分からない。
でも、私の知っている話とほとんど同じだった。
ナデシコでのこと、ユリカと結婚したこと、新婚旅行中に襲われたこと、
実験されたこと、ユリカが遺跡と融合していること。
変わっていたのは主にアキトが救出されたあとのことだった。
私がいないこと、私の代わりにいや私がルリの代わりだったんだけど…、
それがいない以上ルリしかアキトとリンクできる者がおらず、
アキトの反対を押しきってルリが自分自身の意思でなったこと、
ネルガルが他に人を巻き込みたくないという二人の意見を聞いて、
二人だけで行動できるように、
ワンマンオペレートを可能にしたユーチャリスが造られたこと、
遺跡に融合したユリカを探していたこと、
敵とユリカの場所が特定できたこと、
これから、敵の本拠地である火星に向かうところだということ。
「わかったか、これは安易に手伝うとか言えることじゃないんだよ。」
アキトが諭すようにいう。
「わかった。じゃあ手伝うね。」
私はあっさりと答えた。
「ぜんぜん分かってないじゃないですか。」
「ううん、大変だってことはわかるよ。命がけだってことも…。」
「では、何故だ。何故そこまでして手伝いたい。」
「他に、無いから…。私の出来ること、やりたいことが…。」
私の気持ちをわかってくれたのかアキトが
「では、手伝ってもらおう。何ができる?」
と聞いた。
「私は、ユーチャリスのオペレート、ハッキング、ジャンプが出来るよ。」
と胸を張って答えた。
やっと、アキトの役に立てるときがきたのだから。
「そうか、ではルリにどの程度の能力があるか見てもらえ。
実戦に入ってから『使えませんでした』じゃすまないからな。」
「そうですね。じゃあ、え〜と名前何だっけ?」
あ、言ってなかった。
「ラピス・ラズリ。ラピスって呼んで。」
「じゃあラピス、ちょっとこっちに来て下さい。」
ルリに呼ばれる。
もちろん、私の能力はルリにほとんどひけをとらなかった。
作業を終え作戦会議が始まった。
アキト達のもともとあった作戦はアキト曰く
「もともとの作戦は、ここからユーチャリスをジャンプさせ火星にいく、
着いたと同時にグラビティブラストをうち、そのままユーチャリスは敵の殲滅にあたる。
その間に俺はブラックサレナで本部に奇襲をかけ、
ルリは到着する前にハッキングにより草壁の位置を知らせてもらう。
終わったら、ルリはユーチャリスで撤退、俺は草壁を殺す。
頭をつぶしたあと、ユリカをもとに戻すという作戦だが…。」
「酷いね。」
作戦を聞いたあとの私の第一声はそれだった。
はっきり言ってむちゃくちゃ。
不確定要素が少しでも混じれば駄目だし、時間が足りない。
さらに、ルリの負担がかなり多い上に、
第一手であるグラビティーブラストが失敗したり、
ユリカに当たったりしたらどうするつもりだったんだろう?
死にに行くようなものではなく文字通り死にに行くつもりなのかな。
よくこんな作戦をルリが認めたなぁとつくづく思う。
「ともかく、作戦変更ね。」
私の一言で作戦が大幅に変わった。
作戦を検討し直すときはルリと私だけにした。
アキトだとどんな突飛な作戦が出るか分からなかったから。
その際、私がユーチャリスを操作し、
ルリはアキトのナビゲートとハッキングという役割になった。
「あと15分しかありません。急ぎましょう。」
ルリの声で私はピッチを上げる。
今つくっているのはアキトを助けることになるかもしれないプログラムだ。
私の予想があっていれば必要になる。
ルリにそう持ちかけると、あっさりルリは認めてくれた。
時間5分前に何とか完成した。
「がんばろうね。」
ダッシュとの挨拶をすると、
『うん、頑張ろう』
と返ってきた。
時間1分前
「フィールド安定してる。大丈夫だよ。」
「時間です。」
ルリがそう言う。
「ジャンプ」
アキトがユーチャリスを飛ばす。
光が収まり火星に着いた。
火星にはものすごい数の敵がいた。
「グラビティーブラスト発射する。」
そう言うと私は本拠地を掠めるようにグラビティーブラストを撃った。
「ルリ、探知機がこっちに注目している。逆探知からハッキングを!」
「もうやってます!範囲はここを中心に10キロまでが限界。」
「十分!」
あまりにも激しい攻撃、よけきることなんて出来ないから、
最小限の被害でおさえるのに私は必死。
ルリはハッキングで必死。
そのせいなのかアキトは
「俺も出る!」
なんて言い出した。
「ダメ(です)。」
私とルリはハモった。
「アキトが今出てどうするの!こんな乱戦じゃ無理だよ。」
「そうです!こんなところで出られても意味無いです。
アキトさんがいなくなったら私達の負けなんですよ!
そんなに私達が信じられないんですか?」
私達に怒られてアキトはちょっとしゅんとした。
でも、仕方ない。
アキトの出番はまだ、作戦はギリギリなんだから。
「第一次ミサイル群突破!アキト、今!」
「分かった!」
やっと出番が来たことに喜んだのか、アキトはものすごいスピードで本拠地に向かう。
「違います!アキトさんはまずユーチャリスの後ろにつくんです!」
「ちゃんと作戦聞いてた?」
「知ってる!」
そう言うとアキトは風を切ってユーチャリスの後ろについた。
「第二次ミサイル群来るよ!アキト、よろしくね。」
アキトに任せると私はユーチャリスを右におもいっきり旋回させた。
「まかせろ。」
アキトの乗ったブラックサレナはミサイル群をいとも簡単にかわしてあるいは壊していく。
そう、それは一つの舞であるかのようだ。
すべてのミサイル群を通りぬけたサレナはまるで挑発するかのように、
空中をふよふよと浮いている。
それでいいよ、アキトの最初の仕事は存在感を見せつけること、時間を稼ぐこと。
あとはルリの力があいつが来るまで間に合って!
アキトがミサイル群を越えてから2分、戦闘上ではかなりの時間、
それだけ経ったとき、ルリがハッキングを終わらせた。
現在半径10キロの範囲の機械がフリーズしている。
サレナは傷一つ無い。
「もって5分しかありません!次の作戦へ。」
ルリが叫ぶ。
「分かった。」
私が次の作戦に移ろうとした時、奴が来た。
私にとっては忘れることの出来ないトラウマ。
北辰!
私はすぐアキトと連絡をとる。
「敵が来る!アキトが復讐したい相手の一人、北辰が!。」
「北辰!!」
アキトは北辰と戦っている。
気になるけど、それ以上にしなければならないことがある。
レーダーをみる。
ほかの機体は無い?
探すけどなかった。やっぱりアキトとルリの言った通り北辰の単独行動なの?
アキトと北辰の激しい機動戦。
「ルリ、時間は?」
見入っていた私はふと気になって時間を聞いた。
「はっ!3分30秒、アキトさん時間がありません!」
ルリはそのことに気づいたみたいで、アキトに呼びかける。
多少危険な行為だとは分かっているけど言いたかったんだと思う。
ルリが言ってなきゃ私が言っていたから。
あと1分30秒で復帰した全ての敵と戦わなければならない、
それは、アキトにとって死を意味することだから。
ルリの言葉を聞いたアキトは北辰との距離を置いて構えた。
私とルリにとってそれは合図だった。
北辰に迫るアキトに、
「アキト、今すぐコード1934考えて!!」
と叫ぶ。
「…もう遅い。」
「いいから早く!!!!!!!」
なんか言ってるアキトを叱る。
すぐにアキトは目をつぶると今度は疑問を口にした。
「なんだ勝手に動き出したぞ!」
「今度はジャンプして!ルリに場所はまかせてジャンプ!早く!CCあるでしょ!」
北辰との距離がどんどん縮まる。
アキトは光につつまれ、コックピットから消えた。
直後、北辰機の腕がアキト機のコックピットに貫かれた。
が、アキト機はなにもなかったかのように北辰機を貫いた。
それを確認してすぐに私はユーチャリスをルリに任せ、本部へ跳んだ。
ジャンプで着くとそこにはアキトが倒れていた。
「アキト、起きて!」
アキトを起こす。
時間が無い、急がないと。
「アキトはこのまま作戦本部の草壁の真後ろに跳んで、私はユリカを助けるから。」
アキトにそう言うと私はジャンプした。
急いだせいかな?ジャンプに失敗して私はユリカの上に落ちた。
ユリカに触れた瞬間、遺跡に融合されまるで石像のようなユリカの身体が光った。
そのまばゆいばかりの光はユリカの身体を伝い、私の身体に入ってくる。
身体が熱い、そう思ったのもつかのますぐにもとに戻った。
何が起こったのか気になるけど、時間が無い。
ユリカの方を見ると、ユリカは遺跡と融合され石像みたいなユリカの身体は、
体温と赤みを戻し、もとにの姿に戻っていた。
もう、いちいち考えている余裕は無い。
ユリカはA級ジャンパーだったよね。
私はユリカを抱くと、ユーチャリスにもどった。
「おかえりなさい、作戦は成功したみたいですね。」
ユーチャリスに戻ると、ルリが迎えてくれた。
「アキトは?」
ここにいないのでルリに聞いてみる。
「草壁中将のところには送りましたが…。まだ帰ってません。」
『5分たったよ』
そのとき、ダッシュが時間を教えてくれた。
作戦時間は終わった。
アキトが危ない!
ルリもそう思ったのか二人して顔を見合わせる。
「私はアキトのところに行って助けてくる。」
「私は、ユリカさんを起こしてすぐにここから撤退します。」
「「月で会おう(会いましょう)。」」
私は再び本拠へ跳んだ。
「アキト!」
作戦本部に着いた私はアキトを呼んだ。
「ラピスちゃん。」
アキトは今にも草壁を殺そうとしていた。
「アキト!ユリカはもう助けたよ。帰ろう。」
「ラピスちゃん、俺はコイツが許せないんだよ!」
だめ!このままじゃアキトはアイツと一緒になっちゃう。
「アキト!!」
私はアキトにタックルをかます。
アキトは少しよろめく。
その隙に私は月へジャンプした。
月に着いた私とアキトはしばらく無言だった。
でも私はアキトに言いたいことがあったのを思いだして言った。
「アキト、ユリカを助けるためだったら草壁を殺すのも辞さないって言ってたよね。
でも、今のアキトは目的と手段が違っちゃてるよ。」
「分かっている。作戦の意味も、ルリとラピスちゃんの配慮も。」
「じゃあ問題無いよね。」
「でも…。」
まだなんか言いそうなアキトを無視して宇宙を眺める。
「来た。」
そこには、ユーチャリスがあった。
「ドッグに行こう。」
私は強引にアキトを連れていった。
「アキト!」
ドッグにつくやいなやそんな大きな声が聞こえた。
「ユリカ。」
アキトとユリカとの再会。
私の世界では起こらなかったこと。
嬉しい、手伝った甲斐もあった。
でも、やっぱり跳ぶ前と同じ終わりかた。
複雑な表情で再会を見ていると、私と同じような顔で再会を見ている人物がいた。
ルリだった。
ルリと私は二人で目を合わせ、そして目を逸らした。
「俺達は一緒に暮らすつもりだけど、ラピスちゃんはどうする。」
一段落した時アキトはそんなことを聞いてきた。
確かにユリカという媒体を失った以上ボソンジャンプによる奇襲攻撃が出来なければ、
数で勝る軍が勝つに決まっている。
アキト達はもとのとは言えないけど、普通の生活に戻るみたいだ。
私はどうしよう。未来も変わっちゃったし。
「わかんない。行くところも無いから。」
「じゃあ、一緒に暮らさないかい?」
「えっ?でもみんなが…。」
私は驚いて訳の分からないことを言っている。
「みんな賛成だって。」
すごく嬉しい。でもやっぱりお世話にはなれない。ここにいると辛いから。
「ううん、いい。
それと、ごめんなさい。行くところあったみたい。」
そんなよく分からない言い訳をしたらアキトが突然、
「やっぱりだ!ラピスちゃん、どこかであったと思ったら。
ナデシコに乗る前に会ったよね!」
えっ、なんで、まさか私が来たのはあの未来?
「格好が変わってなかったし、年齢も…。もしかしてあの後すぐ跳ばされたの?」
ずるいよアキト、そんなこといわれるとダメになっちゃうよ。
でも、やっぱり、ここにはいれない。
「多分、人違い。」
そう言うのが精一杯だった。
「そっか、残念。やっぱり駄目?」
「うん。さよなら!」
そう言うと私は走ってその場を去った。
少し走ったあと息を切らしながらふと思った。
アキトのこと振りきったけどこのあとどうしよう。
このあとどうしよう。
そんなこと考えていると、
『A happy end
物語はおしまい。めでたしめでたし。大団円。
そして、あなたは取り残される。』
後ろでトンという何かの着地音と声が聞こえてきた。
だれ?
振り返る。
「こんばんは、ヒロインちゃん。」
振り返った先には黒いフードを深くかぶり、マントを着けた女性がいた。
唯一見えている口元はわずかに微笑んでいる。
そして、私に話しかける声は確かに聞き覚えがある。
すぐに結論が出た。
そうあのとき、ナデシコが発進したとき私に未来に跳ぶよう勧めた人。彼女の声だ。
「あなた、もしかして私に未来に行けといった人なの?」
意を決して私は聞いた。
その質問を聞いた女性は少し考えたそぶりを見せると、
「私であるとも言えるし、私でないとも言える。」
と答えた。
私は話をはぐらかされたと思って、ちょっとむきになって聞き返す。
「どっちなの?」
女性は私の剣幕も全く効いておらず、今度はクスクスと笑い出して
「そう、どちらかと言うと私かな?」
やっぱりはぐらかしている。
でも、私はこれ以上やっても無駄だと思い、この人があのときの女性として進めた。
「あなただれ、何者なの?」
私が思っている疑問をぶつけた。
「私、私はそうね。あなたの名前は?」
「ラピス・ラズリ。」
「そう、じゃあ私の名前は……リングでいいわ。そう呼んで。」
誰がどう考えたって、仮名だ。しかも正体については一言も話してくれなかった。
「あなた、いえラピス。」
「何?」
私がそんなことを思っているとリングが突然私を呼んだ。
私はとっさに答えた。
「ラピス、これからどうするつもり?」
「それは…。」
いきなり核心をつかれた。
そう、私はこれからのこと、不安だった。
アキトとルリの誘いを断ったのだから行くところが無い。
未来は変わっちゃんだから…。
「どうすればいいか分からなくて途方に暮れていたんでしょ。」
その通りだった。
そんな私の顔を見て悟ったのか、リングは続ける。
「私があなたのところに来た理由は教えてあげるため。」
「教えてあげる?何を?」
教えてあげるだけではわからない。
「世界のこと、過去のこと、未来のこと。そのあたりの基礎を。」
「どういうこと?」
「つまり、あなたがこれから目的を達するためには大切なことってこと。」
「目的を達するって、もしかして!」
「そう、あなたは自分のアキトに会いたいんでしょう?そのこと。」
「えっ!アキトに会えるの!」
「だから、それは私の話を聞いてから。」
「うん!何?」
「そうね。まず、あなたは未来が変わってしまって、
もうあなたのアキトには会えないと思っていた。そうじゃない?」
「う、うん」
「それは、大きな間違い。それについて話しましょう。」
「分かった。」
「過去、現在、未来、世界は大まかに言うとこの三要素で出来ている。
そして、すべては過去に収束し、未来に分岐している。
過去は物事がおこった事実であり、
現在にいる私達は、いくつも、本当に数えきれないいくつもの分岐点と
その分岐した線を選ぶことになる。
それによって、未来が異なってくる。
つまり、過去は一つ、未来はたくさんあるってこと。分かる?」
「なんとなくだけど…。
でも、ここのアキト達は私とぜんぜん違う過去だった。」
「そうね、分かりにくいかもしれないけど、
それはあなたの過去ではなく、ここにいるアキト達の過去だから。
つまり、どの分岐点の一つでも間違えるとあなたが行きたい世界に行けない。
あと、質問は?」
「どうすれば、アキトに会えるの?」
「自分で考えなさい。と言いたいところだけど、最後の仕事だし。」
「え!最後の仕事って?」
「なんでもないわ、それより、ヒントをあげる。」
「ヒント?」
「そ、ヒント。
一度過去に戻りなさい。自分が分岐したと思う過去へ。」
私が分岐したと思う過去。
ランダムジャンプして私が目覚めたとき、たぶんそのとき。
「分かったみたいね。」
私を見ていたリングが言った。
「うん、じゃあ跳ぶね。」
そう私が言うと、突然リングが焦ったように
「まって!」
と言った。
もう、イメージングが出来ていて、跳ぶだけの私は、
「何?早くしないと跳んじゃうんだけど。」
と言いながら、リングに触れた。
触れた瞬間、リングはビクッとして私から離れた。
「私、もう跳べないの。だからくっつかれると!」
おかしな話しだと思う。
ちょっと前まで私にジャンプの基礎について教えていたリングが、
今度は跳べないという。
「でも、さっきまでジャンプとか…。」
「いいから離れて!!」
理由を聞こうとした私はリングのあまりに大きな声に離れようとした。
があまりに焦っていたせいで、逆にリングにぶつかってしまった。
「きゃあ!!」
「あっ、だめ!!」
その直後、私達は光に包まれた。
目覚めると、そこは見覚えの無い場所だった。
ただ、地面にあるナノマシンのせいでここが火星のどこかだとはすぐ分かった。
そうだ、リング!
彼女はどうしたんだろう?
周りに、人影は見えない。
私の行きたい場所に着かなかったことを考えるとランダムジャンプしたんだ。
だから、リングも違う場所に跳ばされたのかな?
考えにふけっていると突風が吹いた。
「ワプツ!!」
何かが飛んできたみたい。
よく見ると、それは黒いマントフードだった。そう、リングが着ていたものだ。
どこかにいるのかな?
探してみるとやっぱりみえない。
と、そのときリングの言葉を思い出した。
『まって!』
何か言いたいことがあったのかな?
まあ、考えても仕方ないか。
そして、もう一つの言葉も思い出した。
『私、もう跳べないの。』
もう、跳べないってまさか!
まさか、この服は…。
リングは…。
もしかして、リングはジャンプの影響で…。
リングは死んじゃったの?
私はリングを殺してしまったの?
人を殺した?
「いやーーーーーーー!!!!!」
私の意識はそこで途切れた。
ラピスの意識が途切れてから数分、一組の男女がその場所の近くに来た。
「ユートピアコロニーだな。俺達の故郷の…。」
「そうだね。」
二人は寄り添うように歩いている。
「ふふ。」
「どうした?」
「いや、──と結婚したんだなぁと思って。」
「ばか。お前なにいってんだ。」
「何照れてるの?」
「違うって!」
そんな、会話から推測するに新婚夫婦の二人は少女が倒れていることに気がついた。
「──、あれ!」
「誰か倒れているな。」
「助けなきゃ!」
「分かってる!行くぞ。」
「うん。」
新婚夫婦は少女に駆け寄った。
あとがき
ひとみ みともです。(もうこの手法でいきます)
死神が舞うif黒衣の死神〜第二幕〜いかがでしたでしょうか?
まず謝らないといけない人物がいます。
アキトくんです。第一幕のあとがきではラピスのこと記憶にないといいましたが
覚えていました。すごいです。(色んな意味で)
というわけでアキトくんごめんなさい。
今回は話のボリューム多いですね。これでも削ったほうなんです。
一話で一つの話を終わらせるというのは無茶だったのでしょうか?
疑問です。(でもきちんと終わらないとすっきりしないんですよ。)
裏話コーナー
いくつか消化しきれない謎が残っていまいましたね。
出てこない可能性のあるものはこっちで処理します。
(何分ラピスの一人称ですすめているので。一部アキト入りますが…)
北辰ですが、死んでません。(まあ殺しても死なないようなキャラですが)
コード1939についてですが、名前に意味はありません。
しいてあげるなら日常で考えない言葉ということでしょうかね。
プログラムによる命令は何かにぶつかるまで進み、ぶつかったら敵の中心を攻撃しろ。
とういうものです。
サレナは最後回収されています。
とりあえずこんなものでしょうか?
今回はオリキャラとしてリングがでたわけですが、
名前は某ハリウッドで人気になった日本映画のタイトルからとったわけではありません。
なのでS子さんとかは出てきません。
彼女、出てきて説明して消える、あの人みたいですね。
ちょっとかわいそうな役回りです。
ただし、死んだかどうかは分かりません。(ラピスは死んだと思ってるけど)
次に過去現在未来の考え方ですが、パラレルワールド的な考えかたにしています。
因果的(つまり過去で何かしたら自分までも変化するドラえもん的考え方)にしませんでした。
あと、説明がわかりにくいという人がいましたら教えてください。
もうちょっと詳しくもしくは噛み砕いて説明します。
さらに付け加えると、第一幕の直接未来が第二幕になります。
この時点でラピスの出来るジャンプは同時間の場所移動、直接の過去移動と未来移動です。
つまりAからBとCへの分岐がありBとCそれぞれにD、EとF、Gという分岐があった時、
ラピスがDにいたときに行ける過去はB、Aの二つだけです。 D
/
Cに行きたいならAに戻らなければなりません。 B─E
/
分かりにくいなら理解しなくともぜんぜんいいです。
A
\
分からなくても読めるようにしますから。 C─F
\
ここはあくまで裏話なので…。 G 参考図
そういえば、最後の最後にでたあの二人、もちろん誰と誰かわかりますよね。
──としてある部分には名前が入ります。
今はあえて伏せさせてもらいました。(一応、本編の主人公であるラピスは気絶中なので)
もちろん、次の話のメインの二人です。
次、どんな話になるかわかりますか?(ニヤリ)
ヒントは本編の文章の中にあります。
(まあそんなもの無くてもわかる人にはわかってしまうと思いますが…)
逆を言えば、その文章から第二話の最後を読めなくもないんですよ。
もちろん、『こうなる』ではなく、『こういう展開も話のどこかにあるのでは?』レベルですが…。
それでは、次作で会いたいです。
代理人の感想
うん、面白い面白い。
やはり話というのはころころ転がってナンボですね。
強いて言うなら話があっさりし過ぎていて読み応えに欠ける所ですが・・・
ま、それはおいおい。