生命の宿り木〜中編の弐〜
「ナデシコか…。ここまでくるのに苦労したな。」
アキトは今ここにいる過程を思い出し、ナデシコ内で肩を落した。
前回のことを考えると
『椅子にくくられ、プロスペクターさんが目の前にいる。』
という事実はあまりおかしくはないのだが、いかんせん過程が違いすぎた。
アキトはランダムジャンプで地球に着いたあと、
ラピスと話し終わり、現在の状態を考えた。
なぜ、俺は過去に戻った?
いや、俺だけじゃない。ラピスもそうだ。
まさか、ナデシコCに乗っていた人もそうなのか?
答えは…行けばわかるよな。
行く。そう、ナデシコに行こう。
俺のやりたいこと、やらなければいけないこと、
できなかったこと、全部ナデシコに詰まっているから…。
そして、ユリカ。会えなかった俺の子。ルリちゃん。
ん?…ルリちゃん?
「あ!!」
ルリちゃんが俺の知ってるルリちゃんならすごいことになりそうだ。
それだけで、行く気が半減する。
「ルリちゃん、誰が君を変えてしまったんだ!」
俺は夜の草原で一人叫んだ。
「大体佐世保って遠すぎるって!」
俺は今、佐世保への道をひたすら走っている。
よく考えたら、今俺は自転車を持っていない。
『間に合わないんじゃないのか?』
そんな疑問がさっきから頭の中で回っている。
『もし間に合わなかったらどうする?』
次の疑問まで出てきた。
やはりラーメン屋か?
いや、思いきって中華料理全般で勝負すべきか?
意表をついてフレンチ?いやそれは作れないしな。
じゃあなんだ?
そうだよ、料理屋になる必要は無いよな!
思いきってパイロットでどうだ!ってナデシコと変わらないジャン!
・・・・・・・・・・・やめよう。
いくら走り疲れているとはいえ、下らなすぎたな。
と、くだらないことを考えながら一生懸命走っていたら、
後ろから一台の車が来た。
まさか、あの車は!
見覚えのある車に俺は走るのをやめて、その場で止まり、
右手の親指をたてた。
ヒッチハイクの基本だ!
ブォォォォォオォォォォォォ
ドップラー効果……つまり車は俺を無視し、通りすぎた。
しかも、その車はトランクから荷物をあふれさせていて、
俺を狙ったかのように、荷物を投下してきた。
「まじか?」
俺は突然目の前に加速度的に迫ってくる荷物に対応が出来なかった。
トランクにぶつかる寸前、『ああ、こんなこともあったな〜』などと懐かしんでしまったが…。
さらに衝撃を受けるためガードしたとき、トランクに大きな変化が起きていたことに気づいた。
いや、ただトランクの口が開いただけなのだが…。
しかし俺はそのとき、そのトランクが猛獣に見えた!
そう、まるで猛獣が獲物を狩るが如し。
『殺(や)られる!』
そう思った次の瞬間、俺は暗闇の世界に叩きこまれた。
どれくらい経ったのだろう?
トランクという名の猛獣に襲われ不覚にも気絶してしまい、
今は何時得るとも知れない光を求めて、狭い空間でひたすらに耐えている。
……とでも言わなければ格好がつかない。
まさか、落ちてきたトランクに入ってしまい、そのまま出られないでいるなんて…。
それよりここはどこだ?
あのトランクがユリカのだとしたら、ナデシコにいる確率が高い。
というかユリカとジュンの声が聞こえたから99%以上の確率でそうだろう。
一応、ナデシコに来るという目的は達せられたのか?
こんな不法侵入みたい(注:みたいではなく不法侵入そのものです)
な真似になってしまったが…。
故意ではない、分かってくれるよな?(注2:故意であるないは関係ありません)
しかし開かない、どうなっているんだ?
俺は数えきれないほど出る試みをしたのだが全て失敗した。
むしろこのトランクに敬意を表したくなってきた。
『狭い』とういうのが最大の問題だ。
押そうにも叩こうにも力を発揮できるスペースが無い。
半ばヤケになっていたとき、一条の光が差し込んだ。
やった、俺は自由だ!そう確信したとき、
俺に光を与えた原因、つまりトランクを開けた人物と目があった。
トランクを開けた人物―ユリカは呆然とこっちを見ていて、
着替えをする予定だったのか下着姿で中腰という、
扇情的なのか間抜けなのかよく分からない格好でフリーズしていた。
どうしていいか分からなくなった俺は、とにかく手を振ってみた。
それが効いたのか、ユリカのフリーズは解けたらしい。
かわりに小さくささやくような声で
「き…。」
と言-った。き?
「き、き、き…。」
木?気?期?
「きゃ〜〜〜〜〜〜!、痴漢〜〜〜〜〜!!!。」
そこから先は・・・・・・考えるだけ滅入るだけだ。
「はぁ〜〜。」
たしかにナデシコに入れたがいくらなんでもひどすぎるだろう。
『痴漢』で『密航』なんて……。
回想を終えたアキトは再び周りを見渡した。
笑顔のプロスペクターさんとむっつりとしたゴートさんそれにSPのみなさん。
一見、普段と変わらなそうなのだが、殺気立っているのが分かる。
まあ諜報員か何かと勘違いしているのだろう。
が、違うといって「はいそうですか」と終わるものでもない。
このままでは拷問の可能性までありそうだ。
『このままではまずい』
『逃げるしかない!』
アキトの脳裏にその言葉がよぎった。
確かにこの現状―椅子に括り付けられて監視されている―では難しいが、
可能性はある。
もし自分の記憶と同じならばタイミング的にはそろそろのはずだ。
アキトがそう思った直後それは来た。
ドォォォォォォォォォォォォォォン
艦内の激しい揺れ、『木星蜥蜴』の攻撃に違いなかった。
ナデシコのピンチではあるがアキトにとってはまたと無いチャンスだ。
アキトは先ほどの体勢のまま勢いよく立つと、
一気に走り逃げようとして……こけた。
残念だが椅子に括り付けられたまま走るのはかなり難しい…
…のはうまくできていたのだが、目の前に障害物があった。
いや、障害『物』というのは少し違うのかもしれない。
何故ならそれは『声』を発し・・・発する『物』もあるかもしれないが、
それは『動き』自らぶつかってきた・・・動く『物』もあるが、
・・・とにかく!、それは『物』ではなく人、『者』だった。
アキトはその『者』にぶつかり、壮大にこけた。
アキトにぶつかったその『者』は目を回しながら、
本当は言うつもりだった言葉を紡ぎ出していた。
「パ、パパ…を…いじ…める…な」
親子の邂逅の瞬間であった。
あとがき
かなりおひさしぶりです。
ひとみ みともです。
まずはこんなに間があいてしまったことの謝罪です。
すいません! ごめんなさい!! 許してください!!!
いいわけは無しです。
私生活が忙しかったとかこの話が以外と書くのに難航してしまって泥沼化していたとか
そんなことは言いません。(バリバリ言っているような気もしますが気のせいです)
そんな状況を救ってくれたのは感想でした。
感想の力はすごいですね。感想メールを見たあと、
「書いてからこんなに時間が経っているのに感想が頂けるとは、
これは書かねばならない、強引にでも今すぐにでも!」
という気が起こりました。
(それでも感想見てから完成するまでかなりかかってます。)
そして、今作に至ります。
さて、前回あとがきで
>中編を分けてしまいました。二つに分かれる予定です。すいません。
と書いたのですが、中編また分かれそうです。
中編と自分の中で決めていた範囲まで到達させようとは思ったんですけど、
量の関係と長いこと書いてなかったリハビリを兼ねて、短めにしました。
内容は、う〜〜んって感じですね。
アキト一人称でギャグをやるには今のみともの実力からいって無茶があったのか?
そんな疑問をぶつけてみている今日この頃です。(直しが入るかも知れません)
ともかく、終わらせることは確かなので、
そこだけはご安心を(もちろん黒衣の死神も含めて)。
話変わって、やっと親子が会いました。
まあ、アキトの方はよく理解できていませんが…。
しかも、本人にとっては最悪の時に…。
まあ、みとも的に面白くなったので良しとしましょう。
裏話
ユリカのトランクですが突っ込みは受け付けません!(笑)
たぶん、きっと偶然が重なったんです。
落ちてきたトランクがアキトが入るくらい大きいのも、
どう考えたってユリカ達が中に人が入っているのに気づいてもよさそうなのに、
全く、どうして、これでもか、というぐらいに気づかないのも、
偶然です。もしくは奇跡です。さもなくばお約束です。
これ以上はなにも言うまい。
アキトの方だけで話が進んでしまって、ユリカやルリやラピスや他の人、
もちろんシノブもですけど、そっちの話が一切書かれてませんよね。
まあ、そちらのほうは中編の参以降で書くつもりです。
それで、初めて話がすべて繋がると思います。
(ルリに至っては全く触れてませんよね、前編で大活躍したのに…。)
さて、つぎは生命の宿り木〜中編の参〜の予定です。
その次が黒衣の死神〜第三幕〜と思っています。
最後に、もしこの作品達を楽しみにしていた人がいたら本当にすいませんでした。
次は幾分か出来てる分、早めに出せそうです。
管理人の感想
ひとみ みもとさんからの投稿です。
なんだか途中から、アキトの目的が変更されているような気が(苦笑)
ナデシコを守るより、逃げ出す事に尽力してるし(笑)
何よりその理由の一端が、ルリから逃げるためだとは・・・
ま、今更逃げようがないみたいですがねぇ
・・・・アキトが封印されたトランク(推定60〜70kg?)を誰が運んだんだろう?(笑)