一騎当千
『俺が帰るべき場所は・・・ナデシコだ!!
皆が揃っているナデシコだ!!
何処に跳ばされ様と、俺は絶対に帰って来る!!
例え、遥かな距離だろうと、時を超えても―――』
気がついたときにはそこは赤につつまれていた
いや正確には炎につつまれていたといえるだろう
焼けるにおいが俺の鼻腔を刺激する
俺はその状況の中で身体の異常を確認した・・・特に異常は無いようだ
「ディア!!ブロス!!」
俺とジャンプしたであろう二人の名を呼ぶがその姿―ブローディアを確認できなかった
「まさか、消滅してしまったのか・・・」
最悪の状況が浮かぶ・・・大切な家族を失ってしまったのかもしれないからだ
知らずに握った拳から血が滴る
自らの無力さに打ちひしがれていたとき、頭に声が聞こえた
『『アキト兄!!』』
「ディア!?ブロスなのか!」
聞こえるはずの無い二人の声が聞こえ、思わず叫んだ
しかし、声はすれども姿は見えない
『アキト兄、一体どうなってるの?』
「どうしたんだ?落ち着いてくれ」
どうやらひどく混乱しているらしい
かという俺も動揺していた
『なんかおかしいんだ・・・自分なのに自分じゃないような感覚で・・・』
『人間になって感覚を持っているみたいなの』
人間の感覚・・・?
姿は無いのに声はする・・・ひょっとして・・・
俺はその答えにひとつの仮説を立てた
確認のためにひとつ質問をする
「ディア、ブロス・・・お前たちには今何が見える?」
落ち着かせる意味でもゆっくりと問いかける
『うん、火が一面にひろがってる』
『僕も、建物みたいなものが燃えてみるみたい』
ちなみに俺の視界には一面火につつまれた火事(?)の様子が入り込んでいる
これは決まりだな・・・
「二人とも、これは推論でしかないが・・・」
『何なの?アキト兄』
「もしかして俺と同化しているんじゃないのか?」
ディアもブロスもAIで基本的にはプログラムだ
もしかしたら俺のナノマシンに精神、データというべきものが移ったのかもしれない
『同化・・?でもこんなこと初めてだからわかんないよ』
『でも一番それが納得できるよ』
「まあ、俺にとっては二人が無事ということが大事だけど」
そう、俺にとってはそれが大事だ、とにかく二人は存在しているのだから
安心したところで改めて状況を整理する
あたりは火につつまれているが山火事のような自然なものではない
どちらかというと戦場のような・・・
そこまで考えがいきはじめて火の風景に隠れていた
この場に溢れる戦場特有の殺気を感じた
「殺気か・・・しかしひどく混ざっていて良くわからない」
『なんだか気持ち悪いよ』
「大丈夫か?」
『あ・・・うん・・どうも感覚を自由に調整できるみたい』
『感じたくないと思うとその感覚をシャットダウンできるみたい』
同化というよりも、共生といったところか
しかし二人に痛みといった感覚を与えずにすむことはいいことだ
「しかしこんなに殺気があるとは・・・何十万もの殺気を感じるぞ」
いくら俺がいくつもの戦闘をしたといえども、戦場でここまでの多くの殺気を感じることは無かった
戦争は機動兵器か艦隊戦が主だからな
そのとき雑多な気の中に、大きく、精錬な気が徐々に弱っていくのを感じた
それに多くの殺気が集中している
俺はかまわずその場に向かって移動していた
ここが戦場ならばおそらく多くの殺気はその気を持つ人物を襲っているのだろう
少しでも状況の手がかりを得ようと火の海を駆ける
「うおお!!」
少し広いところに出た瞬間、俺はいきなり襲われた
槍というか矛みたいなもので二人ほど襲い掛かってきたのだ
その姿は見たことも無い格好で、どこか古臭さを感じた
俺は落ち着いてその攻撃をかわし、軽く攻撃して気絶させる
少し力が入ってしまって骨を折ったかもしれない
なぜなら攻撃そのものはたいしたことは無いがその殺気に引きずられたのだ
やらなければやられるという気を発していたのだ
見るとあたりでも同じような格好をした人たちが殺し合いをしていた
俺が今まで経験した戦闘ではなかった光景だ
そんな光景を見ながら俺は目的の方向へ急いだ
そのあいだ多くの人たちが俺に襲い掛かってきたので片っ端から気絶させていった
途中視界に「50人」「100人」といった数字が映ったり
『噂に違わぬ猛将よ』
とかいった声が聞こえたような気がしたが、丁重に無視しておいた
なんとなく自分の中で士気が上がっていくような気がした
「無念、軍師の言を聞いておれば・・・」
一人の男が多くの敵を前に奮戦をしていた
もう彼を守る護衛もいなくなっていた
身に着けた鎧は傷だらけで、剣も刃こぼれをしている
傷もあり決して軽くないようだ
それでも多くの敵が彼に襲い掛かってくる
彼は覚悟を決めた・・・
俺が目的の気にたどり着いたときまさに絶体絶命のところだった
その気の人物は周りの人とは違い豪奢な服飾をしている
傷つき片ひざをついて敵兵の刃をよける気力も無いようだ
「くっ!」
さすがにこのまま死なれるのも嫌だった
すかさずその囲いに突入しその刃を振り下ろす者を弾き飛ばす
いきなりの敵の乱入に相手も少しひるんだようだった
俺は傷つき動けない人物をかばうように立つとこの場で初めて殺気を放つ
「貴様・・・!!」
敵たち(もう立場上)はせっかく倒すことができると思ったら邪魔をされてしまい苛立っているが、俺の殺気を受けて動けないようだ
先ほどの一撃が俺を危険だと判断させたのだろう
しかし包囲をして逃げられないようにしている
しばらくにらみ合いが続く
どうやら引いてくれるということは無いらしい
私は囲まれたときもうだめだと思っていた
その瞬間、黒き衣に身をつつんだ青年が危機を救ってくれた
自分の配下にこんな青年はいただろうか
しかし状況は最悪だ
青年には悪いが運命は決まっているだろう
わが兄弟たちよ・・・お前たちのところに行くことになりそうだ
膠着状態が続く中で向こうに動きがあった
一人ほかの敵とは格上の人間が出てきた
俺の軽くとはいえ殺気を受けながらそれを受け流すことができるというのは注意すべきだ
「わが名は程普、字は徳謀・・・汝と手合わせいたす」
程普という人物はそういって剣を向ける
「引いてくれないか・・・というのも無理っぽいな」
「我らの目的がそこにある以上、引くわけには行かんので
恨みは無いがこれも戦場・・・参る」
程普は剣を振り下ろした
確かにそこに一般の敵と比べて攻撃は鋭いが俺にとって対処するのは造作も無い
だが、後ろにはけが人もいるためよけるわけにはいかない
俺は程普の振り下ろした剣を、間合い詰めその持つ手で受けることでとめた
そのまま懐にもぐりこみ肘で打つ
程普はその勢いで吹き飛び、囲んでいた敵を巻き込んで転がっていった
「おい!程普将軍がやられたぞ・・・!」
「甘寧様・・・甘寧将軍を呼んでこい!」
「弓兵はまだか、弓で攻撃しろ」
程普があっさりとやられたためか明らかに敵に動揺が見えた
しかし、その包囲が引くということは無かった
怪我の人物もさすがに厳しそうだ
さすがにかばいながら包囲を抜けるのは無理だな
突然包囲の中から弓を持つ敵の姿が見えた
「チッ!!」
飛んでくる矢を、マントを翻して防ぐ
このマントは防弾、防刃であるため弓矢ぐらいならどうでもない
怪我人がいなければよけるところだったがそうも行かない
俺は牽制の意味を込めて、地面に落ちた矢を敵に投げ返す
矢が当たりまた敵はひるむ
『アキト兄』
「どうした、ブロス」
『アキト兄の感覚を利用して調べたけどこの包囲は百人近くだね・・・しかも』
「ああ、大きな気が近づいてくるな・・・ディアは?」
『さすがにこの状況はきつかったみたい』
確かに機動戦とは違うこの生々しさには耐えられないだろう
その意味ではブロスは強いのかもしれない
そんな会話(念話)をしていたとき怪我の人物が声をかけてきた
「私のことはいい、貴殿だけでも逃げるのだ」
「しかし・・・」
「いいのだ、これも天命というものだろう
わが大義を果たすことができないのが残念だが」
「天命」という言葉に俺は反感を覚えた
敵に注意を向けながら反論する
「貴方の大義というものは諦められるものなのですか?
所詮、天命なんて後付の予言でしかない
諦めなければきっと道はできるのだから」
俺はそれをナデシコで学んだ
諦めたらそこで終わり、その中で戦ってきたんだ
「貴殿は強いな・・・なら私も足掻いて見せよう
私も劉備玄徳、蜀の主としてな・・・」
怪我の人物―劉備はそういって立ち上がろうとするがやはり怪我はひどく立ち上がれない
しかしそこに諦めは消えていた
そのとき包囲の外で変化が起こった
突然包囲が崩れ多くの人がなだれ込み敵と切り結ぶ
「殿!!」
包囲を破って数人の兵が劉備に近づいてくる
どうやら助けが来たらしい
しかしそれでも脱出するまでは危機は変わらない
だが、先ほどより状況は良くなっていた
「劉備玄徳!!逃がすわけには行かん」
突然、野太い声が敵側の方から響いた。
そこには矛を持った先ほどの程普と同じような身分の人間が構えていた
その気の大きさを見る限りかなりの強敵だ
Dとまではいかないが北辰以上の強さだろう
しかもその背後には同じような大きさの気が4つ存在していた
「わが名は呂蒙子明、邪魔立てするならば切る」
呂蒙と名乗った敵は矛を構え闘気を上げる
俺の後ろにいる味方たちはひるんでいるようだ
「俺はテンカワアキトというものだ
ここは見逃してもらえないだろうか」
無駄だと思いつつも俺は声をかける
呂蒙は少し口の端を上げた
「貴殿が程普殿を一蹴した者か・・・そなたの強さ伝わってくるぞ
玄徳を引き渡せといっても聞いてくれそうに無いな」
「さすがにそんなことをするわけにはいかない」
「では、参『ちょっと待ちな!!』」
いきなり俺たちの会話に声が割り込んできた
見ると上半身裸の刺青だらけの人間が大刀をもってやってきた
「甘寧将軍か・・・ありがたい」
「おう、呂蒙!俺もやる
早いとこケリつけて玄徳をやるぜ」
甘寧将軍か・・・豪快な人物だな・・・この人もかなりの強さだ
この様子だと二人がかりか・・・油断しないようにしないと
「さて、いくぜ」
「参る」
二人はそういって一気に間合いを詰めてくる
甘寧が振りかぶった大剣を振り下ろす
それを受けようとしたが横から呂蒙の矛が胴を払ってきたため後ろへ引く
すかさず連続攻撃を繰り出してくるがそれをかわす
カウンターを狙って攻撃しようとするが、絶妙なタイミングでお互いがフォローするためタイミングを失ってしまう
武器がないというのはリーチの上でかなりの不利を生じていた
昂氣を使ってもいいが、武人としての性なのか同条件にこだわってしまう
とりあえず、耐えて攻撃の合間を待つことに専念した
「おいおいよけてばっかじゃ、俺たちを倒せないぜ」
甘寧が挑発をしてくるがその手には乗らない
なぜなら呂蒙が静かに的確に急所を狙ってくるのだ
ペースを崩したら痛い目を見るだろう
しばらくすると逆に当たらないことに焦ってきたのか、瞬間二人の動きが重なり攻撃の空白ができた
そしてそれを見逃すほど俺は甘くなかった
瞬間、俺はまず甘寧の肩をつかみ、関節をはずした
痛みでうずくまる彼の水月に一撃を打つ
そのまま呂蒙の胸に手をあてカウンターの要領で寸剄を放つ
「「ぐっ!!」」
そのあとには吹っ飛ばされた呂蒙とその場でうずくまる甘寧がいた
殺してはいない、ただ気絶させているだけだ
どうやら味方であろう人たちが二人を捕らえる
私の目の前では信じられない状況が起こっていた
呉が誇る猛将の二人が名も知らぬ青年に倒されたのだ
しかも二人の命も奪ってはいない・・・手加減したのだろう
戦場において、命をとらずして戦闘力を奪うことはかなりの実力差が無ければできないということを私は経験上知っている
この偉丈夫・・・何者なのだ・・・
「貴殿は何者なのだ・・・名を・・・名を聞かせてくれ」
私は部下の兵たちに連れられながら思わず問いかけていた
「・・・アキト・・・テンカワアキトだ・・・・」
青年は少し悩んだようだが・・・大量の敵兵を見据えながら静かに言った
「テンカワアキト・・・?・・・『天』!?」
私はその名に聞き覚えが無かった
ただその背と感じる雰囲気からどこか引き込まれるものを感じていた
そうそれは兄弟たちに出会ったとき、軍師と出会ったときのような
おそらく姓が『テン』、名が『カワ』、字が『アキト』というところだろう
だからこそ『テン』という言葉には驚いた
『テン』という家はおそらくない
そしてこの強さと、引き込まれるような魅力・・・
この青年が天より使わされたものと感じてしまうのは当然だった
どうやら劉備は逃げることができそうだ
俺の名前は明かすとトラブルになりそうなため名を名乗るのか悩んだが、ここまでくるとここが俺の知らない世界であると感じていた。
だから正直に名乗った。
劉備が驚いた様子だったが、確認することはできなかった
なぜなら
「・・・ッ!!!」
小さな矢が飛んできたからである
正直に言おう、危なかった・・・なぜなら殺気を感じなかったからだ
しかも確実な急所だ・・・そこにあった鋭さを感じなければやられていただろう
殺気がないといっても枝織ちゃんとは違うものだ・・・知らないことの無さではない
言うなら純粋なる一撃だったからだ
基本的に行動には意志がこもる
達人はそれを小さくしていく・・・が、それがなくなることはない
しかし今の一撃は純粋だった・・・
「あーら、はずしちゃった・・・よけたんだ・・自信あったのに」
女性の声だった。
まさか先ほどの一撃は女性が・・・
振り向くと装飾のある軽装をした女性が・・・小さな弓を構えて立っていた
見てわかった
その集中力が・・・おそらく弓を撃つまで精神を水のように静かにして撃ったのだろう
しかし、撃ったときの波は隠せなかったというわけで俺にも認識できた
しかも気配を消すのではない・・・気と同化する手段を使っていた
俺はそんな方法は初めてだった
だからここまできづかなかったのだ
「呂蒙も甘寧も倒しちゃたんだ・・・」
「・・・引いてもらえないだろうか」
「それが無理なのは貴方が一番わかっているのではなくて」
「確かに」
俺は苦笑して構える
一度関わったんだ・・・毒食わば皿までだ・・・
相手は刀が円状になった武器を取り出して構えた
「さて、いくわ「待て孫尚香!!」」
始まるのかのそのときにいきなり勝負に水をさされた
見るとおそらくこの場で一番豪華な衣装を着ているだろう
しかしそこにある剛毅が姿だけのものではないのがわかった
「何で止めるの・・・お兄様!!」
孫尚香と呼ばれた女性は不満そうに振り向いた
「お前でも勝てんわ・・・この者はこの場にいるものの誰よりも強い」
「そんな!!お兄様・・・でも」
「まあ聞け」
男性は男くさく笑った
「勝てないまでも数人なら時間を稼ぐことはできるだろう・・・我々の目的は玄徳の首よ」
「でも、そんなの卑怯よ!」
「呉の命運を考えなければならんのだ、我慢しろ」
女性がその言葉に不満ながらも従う
よく見ているな・・・アカツキみたいに大局を見ている
男性はそうして今度は俺に闘気を放ってきた
「陸遜、貴殿も加わるのだ」
すると、今度は青年が兵の中から出てきた
他の男性と比べひ弱な感じがするが、それが柳のようなしなやかさであることを俺は見抜いた。
陸遜は両手に剣を持ち構える
孫尚香も再び構える
「わが名は孫権!我ら三人がお相手する」
孫権が宣言をし、俺を囲み始めた
囲いの外にいた兵は劉備を追いかけていくのだろう
しかし、俺は裏腹に安心していた
兵たちだけなら助けも来ていたことであるので大丈夫だ
孫権にしてみれば劉備を討つという確率を上げるためにこの方法をとったのだろう
このうち一人でも追いかけていたら劉備は逃げるのは困難になっていたと予想できる
『アキト兄・・・余裕だね・・・』
『おお、ディアか・・・大丈夫なのか』
『少しは慣れたけど・・・でもなんか相手に対して失礼じゃない?』
『僕も思うよ』
『いいんだ、相手も時間稼ぎなら、俺も時間稼ぎなんだから』
簡単に今の状況を説明すると
孫権たち三人の攻撃をよけつつディアとブロスと心の中で会話をしているのである
俺も武人の端くれだ相手に対し戦いたい気持ちもあるのも事実だ
『でもさ・・・思うんだけど』
『どうしたブロス』
『さっきの会話からこの孫権っていう人がえらい人だと思う』
『確かに・・・』
『なら、逆に倒して捕らえて兵を引くように言ったほうが・・・』
『そっちのほうが安全ね』
『まあ、やってみる価値はあるな』
そう会話しながら、俺は三人から間合いを取る
個人的にもこの戦い方は気にいらなかった
相手に対して申し訳ない気持ちもある
本気でやるのもいいだろう
昂氣はさすがに使わない
俺はそう思いながら闘気を発生させた・・・
孫権は圧倒された
予想していたとはいえ予想をはるかに超えている
この者を相手にするなら曹操軍百万を相手にするほうが良い
震えがとまらん・・・が、心のうちにあがる高揚感は何なのだ
体中の血流が踊るようだ
俺は喜んでいるのか、この男に対して
孫尚香は感じた
何なんだろう・・・この闘気
ひどく大きいのにどこかやさしさを感じる
私は本能的に敗北を悟った・・いやはじめからわかっていた
ただ惹かれたから
私はこの相手に値する興味が沸くのを止められなかった
陸遜もまた、優秀が故の敗北を知っていた
「我らの負けだ・・・好きにすると良い」
本気を出してさあというところで相手の降伏が告げられた
やろうとしていたのに終わってちょっと不満だった
すると残りの二人も悟っているのだろう、同じく降伏の意を示している
「なぜ降伏する・・・戦い自体は貴方の軍が勝っていたのではないか」
そうだおかしいのだ。別に引けばいいのに降伏することがわからない
しかし、孫権は黙って語らなかった
後日、孫権はその理由をアキトに語った
『あのまま引いてしまっては、もう会うことはなく過ぎると思っていたからだ』
周りの兵たちは動揺につつまれていたが、俺の強さに恐怖しているのか動けなかった
もはや戦闘は終わっていた
「さて我々は捕虜だ、いかなるようにしても構わん」
孫権が胡坐をして座り込んだ
捕虜なのに偉そうだ
よくわからんな。少なくとも上に立つものとしては失格の行動だろう
「とはいっても・・・」
どうしようかと悩んでいたとき
「テンカワ殿という方はどこにいらっしゃる」
と声がした。見ると劉備を助けにきた兵の者がやってきた
はじめ、この異様なこの場の状況にひるむものの俺の前にやってきた
確かに来てみれば敵の大将が目的の人物の前に座り込んでいるのである
驚くなというほうが無理である
ただ、瞬間少しその目に怒りの表情が浮かんだのを見逃さなかった
しかしよく俺だとわかるな・・・まあ、目立つ格好であるとはいえるが
「貴方は」
「私は蜀将の趙雲と申します・・・早速ですが劉備様がお呼びです」
そういうとそれを促す
俺は孫権たち三人をどうすべきか悩んだ
少し考えて・・・
「この三人を連れて行く・・・」
「何ゆえに・・・敵将を」
趙雲は眉をひそめる
「俺の勝手だ・・・まあ、そうしたほうが敵兵を抑えておくこともできるだろう」
「いつ暴れて襲うかわからないのですよ」
「そのときは俺が抑えるだけのこと・・・安全はおれが保証しよう」
といって俺は敵兵に向かって
「お前たちの主は捕らえた、兵を引け、必ず返すことを約束する」
と放った。兵たちは孫権らに対して不安の表情を浮かべる
しかし、面を下げゆっくりと引いた
俺は彼らの無念の情を感じた
「さあ、いこうか」
「急いでください・・・劉備様が・・・・」
今まで気づかなかったが、趙雲の顔は青ざめていたのだ
その後、趙雲に連れられ劉備の、蜀の陣に入った。
行く途中、簡単に劉備について聞いた
それを聞いてやはりここは自分の世界ではないことを悟った
陣の奥中央に位置する一際大きなテントのようなものに向かう
どうもいやな予感がぬぐえない
また敵国の君主がいるためか周りから剣呑な気を送ってもくる
仕方の無いことだろう・・・孫権たちも緊張していることがわかる
「劉備様、テンカワアキト殿をお連れしました」
テントに入って趙雲が挨拶する
するとそこには数多くの武将が並んでいた
多くの者は俺をみて訝しげな顔をして、次に孫権たちを見ると殺意をあらわにした
「貴様は呉の孫権!!」
いきりったって襲い掛かろうとする。
俺は予想してはいたのですぐさま間に入る
「おやめなさい!・・・殿の御前ですよ」
凛とした声が、その場を満たす
たった一言だが、場に静寂をもたらした
見るとローブのような着物を着て、羽扇を持った男性が現れた
「テンカワアキト殿ですね」
「っ!・・・ああ」
男性は俺の前に来ると尋ねる
俺は返事をするしかできなかった
なぜなら、驚きを感じたためだ
強さではない強さ、どこか底の見えない人間と思ったのだ
こんな人物ははじめてだった
「私は諸葛亮と申します・・・皆さん」
諸葛亮は俺に自己紹介をした後、この場に対して言った
「殿が参ります、ご静粛に」
「軍師殿・・・殿は?」
諸葛亮はそれに答えず黙っていた
そしてそこに寝かされた人が床ごとやってきた
劉備だった・・・しかしそこには包帯を血だらけにして蒼白な顔をしていた
劉備は俺の姿を見つけると軽く微笑んだ
「良かった、無事だったのだな」
「ああ、一応貴方の軍の安全は確保した・・・安心してほしい」
俺は劉備を安心させるように言う
いやな予感がとまらない
「さすがだな・・・さすがは・・・」
「もういい、しゃべるな!」
しかし劉備はやめようとしない
「聞いてほしい・・・私は天下の片隅に生まれ、筵を売って生活していた」
「そして兄弟たちに出会い、天下万民のためにここまで戦ってきた」
俺は黙って聞いていた・・・止められないことを悟ったから
「大義とはいえ多くのものの命を散らしてきた」
「そして兄弟たちも逝ってしまった・・・そしてまた私も・・・」
そこまで言って劉備は俺を見据えた
静謐をたたえた目だった
他の者は一言も話せなかった
「貴殿に頼みがある」
「何だ」
その真剣な目を見て、俺は遺言であることを知った
「テンカワ殿・・・いやテンカワ様・・・この天下に安寧をもたらしてください」
「何を!!会って間もない人間に・・・」
俺はこの世界に来て一番の驚きをもった
「貴方様は『天』より使わされた人、私は確信しています」
「俺にはわからないし、そんな存在じゃない」
「いいえ、貴方様は人を惹きつける・・・自分では気づいていないだけです」
劉備はにっこり笑う
「軍師にはこの後のことを申し付けております・・・私の朋友です・・・きっと助けてくれるでしょう」
「劉備さん!劉備さん!」
もう、こちらの声が聞こえない状態になっている
くそっ!!どうしようもないのか
「よろしくお願いします・・・テンカワ様・・・雲長、翼徳・・・今行くぞ」
そして力なく目を閉じる
しかしその顔は穏やかだった
皆すすり泣いていた
多くの人に慕われていたのだろう
俺も少し虚脱感に覆われていた
そこに
「テンカワ様、いえ殿ご命令をお願いします」
諸葛亮の冷静な声だった
「あなたは・・・!!」
俺はその冷静さに苛立ち諸葛亮を振り返った・・・がそこで言葉を失った
彼もまた涙を流していたのだ・・・しかし冷静さを崩さなかった
朋友なら悲しまないわけがない・・・俺は思った
「これから蜀は殿が君主です・・・それが劉備様の遺言です」
見ると、蜀の将は涙を流しながら、劉備の遺言に従う姿勢を見せ俺に対しひざを屈していた
「ご命令を」
諸葛亮が静かに言った
どうやら降りられないようだ・・・少し自分の人生を考えてみたくなった
俺自身、劉備の願いをかなえたいが俺に組織の運営はできない
それは跳ぶ前の世界でも証明している
ネルガルだってアカツキたちが運営を任せていた
しかもこの世界については疎い
難しいだろう
と悩んでいたところに更なる爆弾が追い討ちのため投下された
「テンカワ殿・・・我々の呉の君主にもなってもらえぬか」
その言葉に言った孫権と諸葛亮以外驚きにつつまれた
「孫権さん!・・・何を言っているのですか」
「言葉通りの意味です・・・私も劉備殿と同じく貴方に惹かれたのだ」
その言葉に驚きながら、助けを求めるように孫尚香と陸遜に目を向けると
孫尚香はどこか期待するような目で俺を見ているし
陸遜は従いますといった態度を示していた
ふと月が見たくなった
状況の結論から言うと、味方はいないということだ
断ると俺が悪者になったような気がするしな・・・
『アキト兄・・・どうするの』
『どうしたらいい、ディア、ブロス?』
『私はアキト兄の自由にしたらいいと思うけど』
『けど?』
『元の世界に戻るんだったらなんか後ろ盾があったほうがいいと思う』
『そうだね、情報を得る上では利点は大きいよ』
『うーんでもな・・・』
『気楽にやればいいと思うよ、自分らしくさ』
『そうだな』
『私たちも協力するから』
二人と相談して俺は決心した
「わかった・・・引き受けましょう・・・しかし条件がある」
「「何でしょう(ですか)」」
諸葛亮と孫権が同時に聞く
「基本的に君主にはなるが俺は国の運営はできない」
「だから基本的に今までと同じ体制でいく・・・俺の名代として諸葛亮さんと孫権さんがそれぞれの地を治めてくれればいい」
「俺は君臨すれども統治はしない、運営は得意な人間がするべきだ」
ここまで一気に言った
「わかりました・・・では蜀は任せてもらいます」
「わかりました・・・なんと欲のないお人だ・・・ますます・・・」
二人とも感心している・・・たいしたことは言ってないと思うが・・・
あとは軍を率いる上でも統制をしないとな
敵対していた二つの国がいきなりひとつになったんだ
しかもどこの馬の骨か知らないものが君主となるんだ納得しないものもいるだろう
ちょっと趣味じゃないが小細工をするか
「諸葛亮さん、孫権さん両方の将兵を集めてもらえます?」
曇天の空だった
目の前には雲霞のごとく人がいる・・・なかなか爽快な風景である
その前面の少し高い舞台に俺はいた
右後ろには諸葛亮さん、左後ろには孫権さんがいる
「皆のもの静まれ!!!」
「これより我らの新たなる主から言葉をもらう」
将兵たちがひどく動揺しているのがわかった
そうだよなー常識的に考えてまずありえないもんな
諸葛亮が俺に話すよう促す
なんか緊張するな・・・ここまで多くの人の前で話すのは初めてだ
火星極冠遺跡でのユリカとの会話を聞かれたときとは違う
俺は少し深呼吸するとゆっくりと話しはじめた
「劉備殿の後を受け、そして孫権殿の意を受け、蜀と呉の主となったテンカワアキトだ」
少し丁寧な言葉を選んで話しているがうまく言えているか自信がない
ここからは先ほどブロスたちと決めたシナリオだ
「俺の姓は「天」すなわち天より授けられた」
「天下の苦しむ人民に安寧をもたらすためにだ」
その言葉に少し会場がざわめく、ノってきたかな
「そのために力を貸してほしい!」
ここで俺は昂氣を発動させる
重力を遮断して宙に浮いてみる
周りから見れば、蒼銀の光につつまれた人間が浮いているように見えるだろう
「天下に泰平を!!」
止めといわんばかりに昂氣を空に放つ
昂氣は曇天を打ち破り雲間を作った
そこから日の光が差し込んでくる
おそらく見ている人には奇跡を起こしたように見えるだろう
気がつけばあたりは俺をたたえる言葉につつまれていた
うーん癖になりそう
つづくのか?・・・テンカワアキト明日はどっちだ?
あとがき、もとい言い訳
はじめましてほたてと申します
初めてのSSということで非常に難しさを感じました・・・特に戦闘シーン・・・逃げてます
他の投稿作家の方の技術のすばらしさをあらためて実感します
まあとにかくやってみましたがいかがだったでしょうか
元ネタはもちろんアレです・・・この合戦の名前もわかると思うのですが
かなりハマっちゃったんですよね・・・ある意味人外の歴史上人物です
年齢とか無視しちゃってます・・・だって原作も年取ってないのでね
一応この後考えているんですけど組み立てるの大変なんですよね
自分の構想力の無さが・・・
いきなり劉備殺してしまいました・・・
ファンの方すいません・・・フィクションということでお許しください
とりあえずアキト君には人妻(未亡人)4人を相手にする予定です
すでに3人は未亡人ですがあと1人どうやってくっつけましょう
何はともあれ、ここまでお読みいただきありがとうございました
代理人の感想
・・・・ああ、固い三国志フリークなら激怒しそうなあのゲームですか(爆)。
まぁ、元のゲームがかなりムチャですからこの程度は余り気にならなかったりして(核爆)。
ギャグなのかシリアスなのかまだはっきりとはしませんが、
取り合えずつかみはOK、ネタ的に通しですね。
次を期待しています。