一騎当千
〜第八幕〜










俺の目の前には二人の少女が眠っている。

二人は俺があの集落で保護した子供だ。


現在は手当てを受け、眠っていた。

ところどころに包帯が巻かれている。





少女達の傷は命に関わるほど深いものではなかったが、出血が多く衰弱が激しいと医者は話してくれた。

ここ二日ほど眠り続けている。

だが、傷のためか高熱におかされることもあり、予断を許さなかった。



俺は寝ずに二人の面倒を見ていた。

今日あたり目を覚まさなければ、体力が持たないだろうのこと。



俺は祈っていた…目の前で命が消えていくなど見たくはなかった。





あらためて俺は二人の顔を見た。


二人の顔は、何の変化もない。

今は高熱や悪夢でうなされたりはしていないようだ…。


包帯が痛々しい。

服に隠れて見えないが、体にも怪我がある。

それも、大きな傷が…

その傷跡は消えることはないだろう。


そして、その心の傷も…











この二日間、俺は二人を寝ずに見ていたが、その間何もなかったというわけでない。


まず、俺は孫権さんに国の警備を重視してほしいと頼んだ。

孫権さんはそれを受け入れ、特に先の戦場の近くには警備を重視してくれた。

陸遜さんは、今、周辺の賊の討伐に行っている。



その間、俺の警護は趙雲さんがいてくれた。

趙雲さんもまた俺に付き合って眠らずにいてくれる。

ただ、時おり、尚香ちゃんたちが来た時仮眠をとっている。


現在は、傍にはいない…定期的に周りの見回りに行っているのだろう。








実はこの二日の間に、諸葛亮さんからの早馬がやってきた。

驚くべきことに、蜀の南部の南蛮という地域において、反乱の動きが見られたという。

幸い、その規模は深刻なものではないが、後顧の憂いを絶つために平定を行いたいという。

蜀の守りについては心配がないとのこと。

俺は、陸遜さん達に相談するとそれに賛成する意見が多かった。



平定といっても、侵攻ではないだろうか…



そう思っていたのを陸遜さんは察したのか、


「心配しないでください、諸葛亮先生は考えておられます。

 先生の目的は南蛮勢力の取り込みです。徒に民を斬ることはありません。

 それだと、逆に意固地になって殲滅戦となるでしょう。

 おそらく、彼らを心服させるために軍を動かすのでしょう」


つまり、ある程度力を見せておいて、降伏を呼びかけるということか…。

国の安全を保証すれば反抗はしないだろう。




俺は諸葛亮さんにそれを認める旨の伝令を出した。

そこに必要なき力を振るうことがないように、もし破るものがいたならば厳重に処罰せよと…










俺がこの世界に来て約一月がたとうとしている。

これまでのことの影響が、この世界を動かし始めていることを感じた。












心配事は尽きないが、俺にとって当面の心配はこの二人の力なき少女のことだった。
























俺は二人の様子を確認して、一方の少女―憐麒の手を握った。

こんな少女が目にした現実…

斬られて先に気を失った桜蘭とは違い、この子はそのすべてを見ていた…




その心には何を思うのだろう。

見ている夢はどんなものだろう。

うなされているとき見るその絵は何なのだろう。





俺は、彼女の手を握りながら、少しでも穏やかな顔ができるように祈った。






次第に、俺の意識が暗くなってきた…

さすがに、眠っていない状況は厳しいようだ。

視界も狭くなってくる。







俺は憐麒の手を握りながら、眠りの世界へと沈み込んでいった。


















憐麒は夢を見ていた。

楽しかったはずの誕生日。

父も母も姉も笑って祝ってくれた。

お世辞にも裕福とはいえない家での、珍しい料理。

彼女のために街で買ってきてくれた服。

すべてが、幸せだった…それが続けばいいと彼女は思っていた。



でもそれは壊れた。



赤だった。




いきなり、男が入ってきて…


父が斬られ、姉が斬られ、母が…


憐麒自身も斬られた。


痛かったはずだ…でもそれより目の前の衝撃で痛みは覚えていなかった。


ただ動けなかった…


そこでまたはじめに戻る。





延々と繰り返される幸福と悲劇。







憐麒の心は悲鳴を上げていた。

このまま行けば壊れてしまうかもしれなかった。









しかし、憐麒は手に温かいものを感じた。

伝わってくる…自分を心配してくれることが…

とても気持ちよかった。

このままそれを感じていたい…そう思えるような…





確か、あの悲劇を見た最後に感じたものと同じ…

そう思った。







遠いところで光を感じる。

憐麒はその光に向かって進んでいった。























憐麒は目を覚ました。



そこは彼女にとって見覚えのないところだった。

自分の家より高い天井、広い部屋。


寝台の上に寝かせられていることに気づいた憐麒は上半身を起こす。


「っ!………」


身体に痛みが走る。



見ると包帯が巻かれている。

誰かが治療してくれたのかと思った。

だが、憐麒はそこで自分の手が握られていることに気づく。

見ると、知らない男の人が手を握りながら眠っていた。



普通なら驚いて手を振り払うのかも知れなかったが、憐麒はその温かさを感じていた。

ふと、表情が緩んだ…



そして、横を見た…

その瞬間、憐麒の表情が固まる。


隣の寝台には桜蘭が、自分の姉が眠っていたのだ。

思わず身を乗り出してその名前を呼ぶ……が…


「…お…ねえちゃ…ん…」


搾り出すようにしか声がでなかった。

思わず、喉に手をやる。

しかし、うまく声はでなかった。



憐麒はそのまま寝台を降り、桜蘭に近づきその身体を揺さぶった。

彼女にとって血だらけで死んだと思っていた姉がここにいるのだ。

必死だった。



「……!!」


憐麒が動いた拍子に、アキトも覚醒していた。

そして状況を把握すると、憐麒に近づき落ち着かせようとする。


「…憐麒ちゃん落ち着いて!桜蘭ちゃんは眠っているだけだから…」

「…ウッ、アア…おね…え…ちゃん…」


憐麒は声を出そうとするが、それはうまく言葉とならなかった。

喉を押さえ込んで、声を出そうと必死になる。



が、突然力を失ったように崩れ落ちる。

いきなり動いたことによる貧血のためだった。



「憐麒ちゃん…!」


アキトは叫んで、憐麒を抱えて体調を確認する。

そして、憐麒を再び寝台へと横たわらせる。
















「……ふう…」


俺は安堵の息を吐いた。

気づいたら、憐麒ちゃんが目覚めており、桜蘭ちゃんをゆすっていたのだ。


姉のことを呼んでいたようだが、声はうまくでていなかった。

そして喉を押さえ苦しそうだった。

この行動に違和感を感じた。


『…どう思う、ブロス?』

『…これは、失語症の兆候があるね』


俺の問いにブロスはそう診断した。


『…心的なストレスが原因で、言葉を発することができなくなることだよ…』

『……憐麒ちゃんにとって、あの現実は心に大きな負担を与えたの』


ディアが補足をする。


『…治す方法は?』

『…心の傷がいえるのを待つ…、つまり本人が乗り越えるしかないよ』

『…ともかく、時間が要るわ』




俺は憐麒ちゃんを見つめるしかなかった。

全く話せなくなったわけではないからまだ救いはあるのかもしれない。

しかし、この子はずっとその現実を背負っていくこととなるだろう。



俺のように…








俺は再び憐麒ちゃんの手を握り、その寝顔を見つめていた。






しばらく時間が過ぎていく…
















「…ん……」


そのとき、隣の寝台から、声が漏れた。

見ると、桜蘭ちゃんが身じろぎしている。

ひょっとしたら覚醒が近いのかもしれない。




彼女の目がゆっくりと開かれる。

そして二、三回まばたきをした。


「…ここは…私生きてるの…」


ボーとして桜蘭ちゃんはつぶやいた。


「……目が覚めたかい…」


俺は優しく声をかける。

刺激を与えて、憐麒ちゃんのように貧血になっても困るから…。

その声を聞いて桜蘭ちゃんは俺の方を向く。


「……貴方は?……助けてくれたのですか……」


どうやら、意外にも状況の判断を冷静にできているようだ。


「…ああ、憐麒ちゃんと一緒に……」


俺は答えたが、同時にその回答のうかつさを呪った。

これでは、言外に二人の両親は助けられなかったと言っているようなものじゃないか…



その葛藤をよそに、彼女は隣の寝台にいる憐麒ちゃんの姿を認め、わずかに安堵する。


「…父と母は……」


俺の恐れていた質問が投げかけられた。

どう答えればいいのか、どういえばショックが少ないのか、考えても浮かばなかった。



「………」



だから俺は何も言うことができなかった。






沈黙が落ちる。






おそらく、それで理解してしまったのだろう…見た限り聡い子だから…











そこに、動きが生れる。



憐麒ちゃんが目を覚ましたのだ。


「…おね…い…ちゃん」


上半身を起こし、先ほどのことを思い出して桜蘭ちゃんの方を向いた。

そして、寝台からあわてて出て、彼女に駆け寄る。

途中バランスを崩しかけたのを俺が支えたが、それにもかまわず憐麒ちゃんは駆け寄っていた。


「…憐麒…」

「…お…ねいちゃん」


桜蘭ちゃんの言葉に彼女は「お姉ちゃん」と話すだけだった。

そして、その身体に抱きつく。

桜蘭ちゃんも彼女を抱いた。


その瞬間、身体を振るわせる…





そして彼女は…



「う…ううっ…うあああああああ!!!」




哭いた…心の底から







桜蘭ちゃんはじっと抱きしめていた。

何かに耐えるかのように…





「…桜蘭ちゃん……、君は泣かないんだね…」


俺は聞いた、なぜ彼女は…


「…私はお姉さんですから…、私がしっかりしないと…

 ……憐麒を不安にさせちゃだめだから…」



もう両親はいないのだから。

彼女を支えてあげれるのは自分だけなのだと…

言外にそう言っていた。






俺はそれを聞き、思わず二人ごと包み込むように抱きしめる。

そして、その耳元で囁く。


「……強い子だね…、でも今は泣いてもいいよ

 君も悲しいのは一緒だから……泣けるだけ泣いて、そして笑って…」






君もまた失った子供、何も変わりはしない。








その言葉を聞いた後、彼女の中でこらえていた何かが切れたようだった。


その瞳から滴りが零れる。




「「うううああああああああああああ!!!」」




そして、二人して悲しみを表現するのだった。

俺は二人をその胸に抱きながら、護るように昂氣で包む…








願わくば、この少女達に幸せがあらんことを…








そう祈った。

























その様子を、病室の入り口の外で、聞いていた人物がいる。

尚香と大喬だった。


彼女達は、アキトの様子も気になり、その番を代わろうと思い訪れた。

しかし、ちょうど部屋の二人が目覚め、その感情を爆発させた。




抱きしめあう三人…



部屋に入ることは邪魔することになると思い、ここで立ち往生していたのだ。



二人は互いに目を合わせた。

相手も同じことを考えているようだ。

そして、室内の邪魔にならないよう、静かにその場を離れていった。













二人は建物の外の庭園にいた。

ここなら邪魔にはならない…そう判断してのことだった。


「やっと、目が覚めたんだ、良かったじゃない」


尚香が明るく言う。

しかし、大喬の顔は冴えない。


「しかしまだ幼子、失うという現実に耐えられるかどうか…」


大喬は不安を隠せずにいた。



尚香は庭園の風景を見回す。


「…今は泣けるだけ泣けばいい…その後、前に進むのはあの子達が決めることでしょ…」


その顔は現実を見てきた者のそれだった。


「…私のようにならなければいいのですが…」


大喬は二人の将来を案ずる。







父の孫堅を、兄の孫策を失った尚香。

夫である孫策を失った大喬。


武に徹することでその悲しみを昇華した者。

仮面を被り、自分の中の時を止めてしまった者。


それぞれがそうだった。










「…心配することはないんじゃない…」

「どうしてですか?」



「だって……」



尚香はそこでいったん言葉を切る。



「…アキトがいるから……」



「…そうですね」






…風を感じた






テンカワアキト、その実を自分達は知らない。

彼自身語ろうとしないからだ。



だが、彼女達はその持つ影を感じていた。

自分達もまた、失った者だったからだ。



彼はきっと誰かを護れなかった…そしてそれを後悔している。

だから、彼は護ろうとするのである。






たとえ自分を犠牲にしようとも…






それゆえ、彼には影と共に儚さを感じる。

強さの中の儚さ…

彼は硬い、されど脆い。









「私はアキト様に救われた…だから、私はアキト様を支えたい」


大喬は庭園の池に近づき、その映る姿を見つめながら心中を露土する。

その水面に新たな影が映る


「私も、アキトを見上げるんじゃなくて、その隣を歩きたい」


尚香が大喬の隣にいた。


そして、大喬は眼下の青から頭上の青へ視線を動かす。



「…アキト様はきっと、多くの人々を救ってくれる…それは信じられる…」


「…でも、彼自身を支えていけるのは私達……そうよね?」


大喬の言葉を尚香が続けた。




人が人を救おうと思うことは傲慢なのかもしれない。

でも、そこにある救いたいという気持ちは本当である。

だから、支えるということを自惚れてもいいのかもしれない。




お互いが、顔を見た…

穏やかな顔をしていた。

そして笑う。











「……策兄は…義姉さんがそんな顔ができて喜んでいるでしょうね…」



尚香が空を見上げて言う。

この前まで、大喬に孫策の名前は禁句だった。

しかし、今はその悲しみを乗り越えている。


「ええ、それが孫策様の願いでしたから…」


やんわりと微笑む…


「まあ…妬いて、死んだこと後悔しているかもしれないけど…」


尚香がつぶやいた…





―――策兄、私達はしっかりと進んでいるよ






届くように…























二人の少女は、泣き疲れたのかまた眠ってしまった。

俺はその間に、二人のために食事をつくることにした。



今まで、この世界では料理をつくることができなかった。

だが、今回は頼み込んで作らせてもらった。


俺のこの世界の初めての料理だった。


単純な粥だった。


これを食べて少しでも笑顔を持ってほしかったから…

だから、これをつくることは誰にも譲れなかった。





俺はその粥を二人に持っていく。

桜蘭ちゃんはまだ眠っていたが、憐麒ちゃんは外の景色を眺めていた。


俺が部屋に入ってくると憐麒ちゃんが俺に手を伸ばそうとしてくる。


「そんなに動くと、落ちちゃうよ」


俺はそういって寝台に近づく。


「(コクン)」


そんな音が聞こえてきそうな頷きをする。

あのとき、泣きに泣いた憐麒ちゃんは、なぜか俺の服をつかんで放さなかった

少しでも、離れようとすると、泣きそうな顔をするのだ。

どこか不安でたまらないのだろう。





「憐麒ちゃん、食事だよ……食べれる?」


俺はそういいながら、小皿に粥を取り分けている。

憐麒ちゃんはその様子を眺めている。



「食べさせてあげるから、口をあけてね…」


レンゲを使って粥をすくい、少し冷ましてから憐麒ちゃんの口へ持っていく。


「………」


憐麒ちゃんはそれを少しの間眺めていたが…



口をあけて



ぱくっ



食べてくれた。



もぐもぐ…ごっくん



そして数度咀嚼した後、飲み込んだ。




俺は反応を見守っていた。


「…どう?」


思わず聞いてしまう。



「…お…いし…かっ…た」



憐麒ちゃんは喉を震わせながら言って、やんわりと微笑んでくれた。









俺は不覚にも涙がでそうだった。



失語症でしゃべるのも難しいというのに、「おいしいかった」と言ってくれた。

そして、微笑んでくれた。



思わず、俺は憐麒ちゃんの頭をなでていた。

彼女はそれを目を瞑りながらされるがままにされている。










そのとき、桜蘭ちゃんの寝台で衣擦れの音がした。

どうやら、目を覚ましたようだ。

粥の香りや、食器の音に気づいたのだろう。


「…あ、食事ですか…?」


そう質問してくる。

それに俺が答えようとしたら…


「…おねい…ちゃん…」


憐麒ちゃんが、粥の器を桜蘭ちゃんに渡そうとしていた。

それをみて、桜蘭ちゃんはその意図を予想する。


「憐麒?……食べてって?」

「(コクン)」


姉の答えを妹は肯定する。

彼女は粥の小鉢を手に取る。


「さすがに、体が弱ってるから、粥だよ…
 
 俺が作ったんだが……口に合えばいいけど…」

「あなたがですか?」


そう言って少し驚く桜蘭ちゃん。

じっと粥を見つめる。



「…それでは」


そして、粥を口へと運んでいく。



はむっ




……こくん



またも沈黙が訪れる。

憐麒ちゃんもその様子を見守っているようだ。

そして


「…おいしいです…」


桜蘭ちゃんもそういって微笑んでくれた。

それをみて憐麒ちゃんが「でしょ!でしょ!」といった感じで笑っている。

自分と同じ感想を持ってくれて嬉しいのだろう。



その様子を見て俺は、なんとなく心の中にあった影が晴れていくような感じがした。




俺は笑って


「いままで二日も何も食べていなかったんだから、しっかり栄養をつけて…ね」


そう促した。


しばらく、部屋には食器の音が響いていた。

その雰囲気はとても穏やかなものだった。















「あの……ええと、その…」


食事が終わって、少し休憩していると、桜蘭ちゃんが俺に話しかけてきた。

ちなみに俺の服の端は憐麒ちゃんにつかまれている。


「なんだい、桜蘭ちゃん」

「あの、お名をまだ…」


よく考えたら、俺はまだ名乗っていなかったな…


「俺は、テンカワアキトっていう名前だよ」

「テンカワさんですか……」


桜蘭ちゃんは繰り返した。

で、彼女は言いにくそうに、心配そうに言ってきた。


「じゃあ、テンカワさん…、私達はどうなるのですか…?」


おれはそう言われたとき驚いた。

両親をなくして不安に思っているのだろう。

ただ、両親をなくした悲しみより先に、不安を持つことに、俺は彼女の強さを感じた。

だから俺は正直に答えた。


「一応、桜蘭ちゃんたちは孤児という扱いになっている…」

「そうですか…」


予想していたのか、桜蘭ちゃんは暗い顔をしている。


ここで俺が考えていることを言ったほうがいいのだろうか…



「あの……もしよければなんだけど…」

「…何ですか?」

「二人とも…俺のところへ来ないか……」


俺は少し緊張しながら言った。


「テンカワさんのところですか?」

「良ければなんだけど…」

「しかし、何の縁もない私達を…」

「行くところがないんだろう…」

「でも、何もせずただお世話になるわけには…」


しばらく桜蘭ちゃんとのやり取りが続く。

桜蘭ちゃんは見ず知らずの方に無償でお世話になるということが心苦しそうだ。

そこで俺は一計を案じる。


「じゃあ、二人とも俺の住み込みの小間使いとして雇われてくれないかな?

 簡単な身の回りの世話をしてくれればいいから…」


これなら、桜蘭ちゃんも世話されているだけではなく、心苦しくはないだろう。



俺のこの意図が伝わったのか、桜蘭ちゃんが笑顔で答える。

やはり聡い子だ。


「…そういうことなら……憐麒もテンカワさんに懐いているようですからね」

「(コクコク)」


憐麒ちゃんも頷く…

ちなみに、ずっと俺の服のすそと手を握っている。




というわけで、二人は俺の小間使いとして雇われることになったのである。















とそこで、俺にとって予想外の出来事が起こる。

発端は桜蘭ちゃんの一言だった。


「…となると、テンカワさんというのも変ですね…」

「…別にテンカワさんでもいいよ…」


しかし、それはさすがにまずいと彼女は言う。


「…テンカワ様、アキト様……色々ありますね…」


そう桜蘭ちゃんが呟いていたとき、大きな衝撃が俺の懐から訪れた。



すなわち、憐麒ちゃんの口から




























……ご…しゅ…じんさま……






















…間


























「それにしましょう」





































こうして「ご主人様」と呼ばれる日々がスタートしたのだった。




























ちなみに



趙雲さんたちがいる前で、この二人がこの発言をすることにより騒動が起こった。


「ダンナ、さすがにまずいぜ」

「アキト様、火遊びはほどほどに…」

「殿、私は何もいいません、いいませんとも」

「アキト、ちょっと相手してくれる?」

「まさか、アキト様!いたいけな少女に…」

「あはっ、アキトったら、やるぅ!」

「うぬ、アキト殿は若い方がいいのか…」



『なあ、ディア、ブロス…俺は悪いことしてないはずだよな…』

『確かにね…でもいいんじゃない』

『そうだよ…だって、あの二人が笑ってくれているんだから…』


そうだな、こういったことで笑顔が生み出せるならいいのかもしれないな……

でも、なんかドツボに嵌っているように思えるというのは気のせいだろうか…






『でも、ご主人様ってマニアックよね』


『さすがに、向こうの世界でもそういう言い方する人はいなかったから』


そんな会話が俺の奥深くでされていたことを知らない。









憐麒ちゃんが俺の服のすそをつかんでいる。

俺は彼女の頭を軽くポンとたたく。


「楽しいかい?」

「(コクン)」


彼女は笑って頷くのだった。











続く




あとがき、もとい言い訳


さて第八幕でした。

すいません。

本当はここに前回宣言していた魏の暗雲について書くつもりでしたが、次回に持ち越します。


憐麒と桜蘭との交流がメインでした。

失語症というのがどういうメカニズムで起こるのか詳しくは知らないのでおかしいじゃないかという突込みがあるかも。

まあご都合主義ということで…

しかし、SSにおいて言葉がしゃべれないキャラの存在感を出すのは難しいです。

色々、表現を研究しないと…

読み返してみると、同じような表現が多いのも事実だし…はあ…



やはりメインは憐麒です。

それは最後のあの一言に集約されています。

趙雲達の一言は上から、甘寧、陸遜、趙雲、尚香、大喬、小喬、孫権となります。


ここで憐麒と桜蘭を紹介しましょう。


憐麒(レンキ)……神威様よりいただきました(ただ、設定については変更いたしました)

アキトが助けた11歳の少女。誕生日の日に賊に襲われ、悲劇に遭う。

ショックのため、半ば失語症になっている。が、少しなら話せる。

姉である桜蘭か、温かさを持つアキトにいつもくっついている。

アキトに気づかれず近づき、いつの間にか服の端を握っている。

ある意味、この物語において最強の存在。基本的に甘え系キャラ。


桜蘭(オウラン)

アキトが助けた13歳の少女。憐麒の姉。同じく悲劇に遭う。

が、先に気を失ったため、心への負担は憐麒より軽い。

非常に利発で、アキトの身の回りの世話を完璧にこなす。

妹のことを大切に思っている。憐麒はアキトにくっついていくため、大抵はアキトと共に行動することになる。

キャラ的には尽くし系。


でもあのアキトの言葉、まるでプロポーズだな…


ということで、第八幕でした。

前回、誤字が多かったことをお詫びいたします。

特に黄巾の乱のくだりのところ「蒼天すでに死す、黄天まさに立つべし」が本当なのに……申し訳ないです。


次回こそ、魏について書きます。

そして、やっと戦争にもっていけそうです。

早く後一人のヒロインのエピソードを書きたいです。

感想を下さった、孝也様、マフティー様、カイン様、影の兄弟様、義嗣様、本当にありがとうございます。

これからも応援よろしくお願いします。それでは、また…

PS

 さーて、ゼノサーガだ(爆)

 

 

 

代理人の感想

戦・・・・南蛮討伐の話では無さそう(アキト出ないから)ですが、それはちょっと残念かなぁ。

あの滅茶苦茶な話も結構好きなので(笑)。

 

 

>失語症

正確に言うと「失語症」というのは脳溢血など脳の物理的な損傷によって起こるもの、

本当に言葉そのものを失ってしまうような状態を指し、

心的な原因(これは様々です)で喋れなくなったりする言語障害とは区別されるんだそうです。

 

ただ、フィクションでいうと言語障害というのは

「精神的に大きなショックを負った時」に陥る病気と言うのが通り相場ですね。

本当は違うのかもしれませんが、定番っぽいからいいんじゃないでしょうか(笑)。