西暦2199年5月。これは木連にて若手将校により行われたクーデター、通称『熱血クーデター』により地球連合と木連との国交正常化の動きが始まってから1年を過ぎた頃の話である。
「小雨の〜土曜日〜ワインが香るわ〜♪」
その日、メグミ・レイナードは歌っていた。
後ろでまとめた三つ編みを揺らしながら。可憐に。テンポよく。すごい上手なわけではないが、声優上がりの独特の声質を活かして彼女にしか出来ない歌声となっている。
今日の彼女の仕事は新しいアルバムのレコーディングだ。
ヘッドホンに手を当てながら精一杯の声を出す。
自分の歌で少しでも聴く人の心が安らぐように。戦争の傷跡を癒せるように。
「はい、オッケイ!」
一曲歌いきったところで監督の声が掛かる。どうやら合格点をもらえたようだ。
途端にレコーディングルームの内外にほっとした空気が流れる。
「お疲れ様でーす」
「いや、良い歌だったよ」
「ありがとうござます」
「佐藤さん、急いで。時間押してますよ」
「雑誌の取材らしいんだけど、誰か大河さん知らない?」
労をねぎらうもの、入ってくるマネージャー、とりあえず雑談に興じるもの……。レコーディング直後のいつもの光景。
「お疲れ、メグミちゃん。今日も気合入ってたね」
スタッフと挨拶をしていたメグミにマネージャーのイケダが声を掛ける。
「お疲れ様です。2度も自分の都合で声優をやめてしまったんですから、皆さんに大きな迷惑を掛けた分、少しでも多くの仕事をこなしてお返ししないといけませんしね」
そう言ってメグミはイケダに笑いかける。
彼女は先の大戦時に戦艦ナデシコに乗り込んでいたことから、戦場帰りの声優として注目を浴びている。
ただしその大戦を理由にスケジュールに穴を開けてしまったこともあったので、彼女のことをよく思っていない者も多い。
メグミはそんな自分をまた応援してくれるスポンサーやスタッフ、そしてファンのためにも貰った仕事は全て全力投球すると決めていた。
「おーけぃ。それじゃこの後の『ライブ』もしっかりやれるね」
イケダのその言葉にメグミの頬が引きつる。
「……わ、わかりました」
僅かな葛藤。しかし彼女は特に何をするでもなく諦めたかのように頭を垂れた。
1時間後、メグミはとあるライブハウスのステージに立っていた。眼前には収容人数500人ほどの中規模のライブハウスにぎっしりと詰め込まれた彼女のファンたち。
彼らのメグミを見る目は揃って歓喜の興奮と憧憬に溢れている。
復帰にあたってはどんな仕事も――声優だろうと歌手だろうと舞台だろうと――片端から引き受けた彼女の、それは1つの成果の証と言える。
他の誰でもない、彼女にしか出来ない歌で、彼女が自分の手で勝ち取った居場所。
仕事を引き受けた時点では、メグミ自身としても自分の歌で他の人が元気になるのなら、少しでも癒すことが出来るのなら、いくら過酷なスケジュールでもこなして見せようと言う気概に満ち溢れていた。
だが彼女がやらされているのは……
地響きのようなドラムに合わせてメグミは叫ぶ。
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「DOKUSATSUせよっ! DOKUSATSUせよっ!」
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悪魔を想起させる隈取のようなメイクにトゲやびょうの付いたやたら攻撃的な衣装で思いっきり低く磨り潰すようなデスボイスをがなり立てる。
そう。彼女がやらされているのは、『デス・メタル』だった。
失敗アイドル☆デトロイト・メグミ・シティ
ライブ終了後の控え室。メグミは声優『メグミ・レイナード』とは別に、『メグミザーU世』なる芸名でD.M.C――デトロイト・メグミ・シティ――というインディーズシーンで圧倒的な人気を誇る悪魔系デスメタルバンドのボーカルを務めていた。メイクを落としている彼女にイケダがねぎらいの言葉を書ける。
「いやー、今日のライブも最高だったね。さっきのレコーディングよりもぜんぜん輝いていたよ」
「は、はぁ。そうですか」
イケダの言葉にあいまいに頷くメグミ。デス・メタルのほうが向いてると言われては喜ぶに喜べない。しかしそれには気付かないでイケダは話を進める。
「プロデューサーだって大喜びだよ。ですよね、アクア・プロデューサー」
言って、奥にいる女性に笑いかける。
視線の先にはおよそデス・メタルとは縁がなさそうな、ふわふわの金髪と仕立ての良いワンピースを着た女性がいた。
彼女の名前はアクア・クリムゾン。メグミもといD.M.Cのスポンサー兼プロデューサーであり、メグミが所属していたネルガル・グループのライバル企業であるクリムゾン・グループ会長の孫娘である。
もっとも、例えライバル企業だとしても今のメグミは完全なフリーランスだ。どこから仕事を請けても問題はない。
アクアはメグミに対して柔らかな微笑を浮かべながら―――
「イカしたステージでLをキメる位にトベましたわ」
と言い放ちやがった。
外見と間逆のベクトルの台詞を吐いたこのアクアは、ある目的のためクリムゾングループの広告塔兼親善大使というお飾り的な役職に自ら志願している。
それを利用した各国の上層部への人脈作りや一般大衆への知名度はなかなかのものであるのだが、常に冷静な判断を求められるこの役職は今まで好き勝手やってきた彼女にしては酷く負担を強いるものであった。
そんな業務でのストレスの発散として、自身の好みどおりのメタル・バンドを結成させようとしたのが、このバンドのそもそもの始まりであった。
自分好みのオモチャを探していたアクアと、大口の企画出資者を求めていたイケダとの利害が一致したのである。
「この調子でこれからも私がハイになれるようなライブを続けてください」
「あ、あのアクア・プロデューサー?」
メグミがアクアに声を掛ける。アクアは無言で、首を傾げるようにしながら話の先を促した。
「デス・メタルだとやっぱり客層に偏りがあると思います。私は普通のPOP系の曲もできます。これからはそういう曲も入れるように方向性を変更した方が良いと思うんですが……」
多少控えめながらもメグミはそう主張した。
元々この仕事を引き受けたのは自分が歌うことで1人でも多くの人を元気付けられると思ったからだ。メグミザーU世などとふざけた名前でアクアの私的な玩具になる気などさらさらないのである。
言われたアクアはしばらく考えていたが、やがて無言のまま席を立ち、てくてくとメグミのほうに歩いてきたと思ったら、いきなりその胸倉を掴んだ。
そして先ほどと同じ見た目上品そうな微笑を貼り付けたまま額と額がこすり付けあうような距離でこう言った。
「それじゃ私が面白くないんですわ」
もう少し歯に衣を着せてほしい。唖然とするメグミが二の句を告げられないでいると、アクアはそのまま話を続けた。
「2度も仕事ばっくれてネルガル・グループ以外から総スカンされていたところを救ってあげたのは誰? あなたを庇って共倒れになりそうになったスタッフを救ってあげたのは誰? あなたがスポンサーにぶち切れてアルゼンチンバックブリーカーをかました時に警察や周りに手を回してあげたのはだぁれ?」
「…………」
「もう一度お聞きしますわ。方向性が何ですって?」
「………なんでもありません」
ぐうの音も出ない。じわりじわりと絡み取られて気が付くと完全な操り人形になっている。
そんなメグミのなんとも無力感漂う視線を受けつつ、アクアは満面の笑みでこう提案した。
「これからD.M.Cのプロモーション・ビデオを作ろうと思いますの。最高に過激でエキセントリックなものを。機材等の準備は私の方で準備しましたので、早急にスケジュール調整をお願いしますわ」
今日はこの後に雑誌の取材があったはずだが、ドタキャンしろということなのだろう。
もはや反論はどこからも出なかった。
そんなこんなで……30分後、メグミ側には一切情報が与えられていない割にやたら手回しの良いアクアたちによって、メグミはメイクを塗りなおして収録スタジオにスタンバイしていた。
「メグミちゃん、雑誌の取材はリ・スケジュールしてもらったから安心して」
俯くメグミに親指を立てながらイケダが言う。
「………はぁ」
正直、今はそんなことどうでも良いメグミは気の無い返事をした。
イケダはしかしそれには気を留めずに話を続ける。
「でね、今日のPV撮影には連合宇宙軍のお偉いさんも来るみたいなんだ」
「はぁ!?」
「なんでも、最近の入隊離れを防ぐために若者ウケしそうなイメージキャラクターを探しているみたいなんだ」
入隊離れの原因は今年の3月に反ネルガル派主導により結成された新地球連合が連合宇宙軍と併存の形で地球連合統合平和維持軍、通称『統合軍』を設立したためである。
旧連合陸・海・空軍と木連軍により設立されたそれにより、連合宇宙軍は既存のめぼしい人員や予算、新規の入隊希望者のほとんどを『統合軍』に持っていかれた形となる。
しかし幾らジリ貧とはいえ、デス・メタルバンドをイメージキャラクターにしようとは……
(……連合宇宙軍も疲れているんだなぁ)
などと遠い目をしながらメグミは心の中で呟いた。
それに対してイケダは至極まじめな顔で話を続けた。
「それで、だ。僕はこのイメージキャラクターにぜひ君を、と推している。アクア・プロデューサーも乗り気だ。どちらかと言えば連合宇宙軍はまだまだネルガルよりだけど、元々このバンドはアクア・プロデューサーのポケットマネーが基本となって始まった企画だ。クリムゾンのことは気にしなくて良い」
一拍。一息に言い切ったイケダはここで身を乗り出して……
「僕はこれを手始めに君をメジャーデビューさせたいと思っている」
と提案した。
だが息巻いたは良いが不意打ちを食らったのはメグミだ。
「えぇっ、ちょっと待ってください! 何でよりにもよって、この格好でメジャーデビューしないといけないんですか!? この仕事のことは親にも言ってないんですよ!!?」
「大丈夫。メイクはさらに濃くするし、年齢もサバ読んで10万20歳とでも偽って、それで一人称を我輩とかにすれば誰もメグミちゃんだなんて気付かないよ♪」
「完全にイロモノ扱いじゃないですかっ! 大体、私が声優で顔出しの仕事を始めた時は無理やりサバ読みさせて19歳のところを15歳として売り出したんじゃないですか! 何で今度は真逆の方向にベクトル持って行くんですかっ!」
メグミの魂の叫びにイケダは最高の笑顔を持って応えた。
「ああ。僕はロリコンだから。正直16歳以上は熟女にしか見えないんだよね」
―――僕はロリコンだから。
前後の文脈を無視してもなかなかにインパクトのある言葉だ。
私の周りはこんなんばっかりか、こんちくしょう。
思わずメグミがくらっとしたところで、様子を見に来たアクアが話に加わってきた。
「そろそろ出番ですのに、どうしました?」
さりげなくイケダに蹴りを入れながらアクア(20代)が言う。
メグミはそんなアクアに泣きついた。メイクがそのままなのでかなり怖い。
アクアは威嚇抜きに撃っちゃっても正当防衛が成立しそうだなーとか思ったが、とりあえずメグミの話をおとなしく聞くことにした。
「プ、プ、プ、プロデューサー! 何でですかっ、何でなんですか! 何で私の知らないところでどんどん話が進んでるんですか!?」
「話? ……あぁ、メジャーデビューの話ですの。悪い話ではないでしょう?」
「どれだけ売れたって、正体がバレたらもう生きていけませんよ!」
「良いじゃないですの。減るものがあるでもなし」
「減りますよ! 失いますよ! 色々と!」
「大丈夫、得るものだってきっとあるよ!!」
「ですって」
「イケダさんは本当にもう……、しばらく黙っていてもらえませんか」
「では茶番はそこまでにして、撮影に入りましょうか」
「プ、プロデューサー。だから私の話を……」
食い下がるメグミに対しアクアは先ほどと同じ笑みを浮かべてからこう言った。
「メグミさんがどう思っているかは分かりましたわ。ですが、あなたがメグミザー2世である事実を私は知っていますのよ?」
意訳:逆らったら正体バラすよ。
ああ。やっぱりそう来るのか、こんちくしょう。
メグミは諦めたように頭を垂れた。
「ではコンセンサスも取れましたし、撮影に入りましょう」
まるきし悪びれもしないアクアを見ながらメグミは心の中で盛大に毒づいた。
―――チクショー
―――チクショー!!
―――チクショー!!!
「闇夜にまぎれてあいつをレイプ! DOKUSATSUせよっ! DOKUSATSUせよっ!」
色々溜まっていた思いを吐き出すようなメグミのシャウト。
聴いた者いわく『本当に毒殺されるかのような濃密な迫力』が場を支配する。
「良いぞ。口ではなんていってもやっぱりメグミちゃんにはメタルが合っている」
イケダは自分の方針を確信した。
彼らがいるのは先ほどのライブハウスから程近い場所にある別のライブハウスである。
大きさとしては先ほどのものより一回り小さ目のものだが、こちらで見繕った特別ノリのいい客とPV撮影用の演出で盛り上がりはこちらのほうが明らかに上だ。
PV撮影だからと特別なことをするつもりはない。今日のところは宇宙軍のお偉方にD.M.Cのライブの盛り上がりを知ってもらうことをメインにしようとイケダは考えていた。
「ドクダミ、サンショウ、シイタケ、ゴボウ、レンコン、スッポンとマムシの生き血、シカのキモ、市販の栄養ドリンクを混ぜ合わせた特製ドリンクだ! 野郎はこれを飲んで顔を青くして死にやがったぜ!」
まくし立てるようなリズムをギターの音が加速させる。
「DOKUSATSUせよっ! DOKUSATSUせよっ!」
サビに入り盛り上がりを見せる中、メグミのインカムにイケダから通信が入った。
『メグミちゃん、今回のメインゲストがきた。テンションを上げていこう』
イケダの言葉にメグミが客席を見やる。
そこで彼女は信じられないものを見た。
(……ム、ムネタケ参謀長っ!?)
ムネタケ・ヨシサダ。先の大戦で戦死した戦艦ナデシコ提督ムネタケ・サダアキの実父であり、連合宇宙軍参謀長――事実上のNo.2である。
(フツーこういうのって広報担当とかもっと下の人が来るんじゃないのっ? そんなに人がいないの!?)
事実としては人がいないことと多忙すぎる彼に対する息抜き的な業務を入れてやりたいという同僚からの親切心が理由である。
それはともかく、デスメタルのライブハウスに連合宇宙軍の白い軍服とカサの開いた独特のマッシュルームカットが絶妙に珍妙な雰囲気をかもし出している。
客もムネタケに気付いてしまった。
デスメタルは反体制色の強い客層が集まりやすい。
案の定、ファンたちはムネタケの服装を見た途端に一斉にディスり始めた。
「ヘイ、おっさん。ここはおっさんが来るところじゃねぇぜ」
「軍人が何のようだよ」
「チンポみてーな髪型しやがって」
「何だと……」
あっという間に一触即発となるムネタケとファンたち。
慌ててイケダがメグミに指示を出す。
『メグミちゃん、このままじゃまずい。何とかフォローしてあげて』
「フォ、フォローなんてどうやってやるんですかっ?」
『それは君に任せる。頑張ってくれ』
任せるといわれても……。
思わずくらっとしそうになりながらもメグミはステージ上からマイクパフォーマンスの要領でムネタケともめていたファンに声を掛けた。
「なんだ、貴様等ー! そんなおっさんに注目して我輩の歌が聞けないのか!?」
「す、すいません。メグミザーさん。こいつの髪形がチンポみたいでおかしくって」
ムネタケを指差しながらへらへらとファンたち。
しかしメグミはそんな彼らを黙らせるようにこう言った。
「バカヤロー! それは公然わいせつカットといってかなり上級デスメタルのヘアスタイルだぞ。新曲のデスペニスもこの頭のことを歌った曲なんだ!」
これがメグミなりの精一杯のフォロー。
自分で言ってても馬鹿らしくなってきたが、D.M.Cファンの馬鹿さ加減はその上をいった。
「そ、そうだったのか……」
「そう言われると本物のチンポみたいで格好いい……」
「俺も公然わいせつカットにするぜ!」
(ちょ、何いってるの、この人たちィィィィィィ!)
メグミ(メグミザー)の言葉を信じてコロリと手のひらを返してしまった。
いきなり評価を上げられたムネタケはというと……
「D.M.Cか。なかなか見所があるじゃないか」
普段も髪型で何か言われていたのであろうか。こちらも思いのほかコロリとD.M.Cの評価を上げた。
一度気に入ってしまえば後はあばたもえくぼと言おうか、がなり立てる五月蝿い騒音も気分を高揚させる音楽に聞こえてくる。
そんなこんなで、メグミの望みとは逆に好感度は至極順調に上昇を続けていた。
『上出来よ、メグミさん。いえ、メグミザー』
アクアからメグミのインカムに通信が入ったのはその時だ。
『ご褒美にいいことを教えてあげますわ。実はこのライブにはもう2人、あなたの知人を招待しているの』
「えぇっ、まだ誰かいるんですか!?」
『懐かしいナデシコから2人。あなたと仲の良かったアキトとユリカさんですわ』
「―――っな!?」
音声だけしかないのだが、メグミにはニヤリと笑ったアクアの顔が見えた気がした。
『くれぐれも正体がばれないように。あ、でも正体がバレれば中途半端な未練もなくなるからそれも良いかもしれませんわね♪ ではごきげんよう』
(アクアァァァァァァ! あの人は本当に……もう……アクマァァァァァァ!!)
メグミの声にならない魂の叫び。
荒ぶるヘッドバンギングの要領で彼女は会場中を見回す。
2人はすぐに見つかった。最前列から3〜4列目の程近い位置からポカンとこちらを見ている。
「なぁ、ユリカ。ナデシコの誰かがバンドやってるって聞いてきたけど、会場間違ってないか?」
「ううん、ここで合ってるよ。それにせっかく頑張ってるんだからそんな事言っちゃダメよ」
(2人とも仕事忙しいのに来てくれたんだ! バレるのは嫌だけど、すごく嬉しい!)
メグミは感謝の気持ちに溢れたが、次の瞬間それは砕け散った。
「でもあれは誰なんだろうなぁ」
「メグミさんかリョーコさんじゃないかな? 私とアキトが話してると時々あんな顔になるよ」
(なんだと、このクソアマァァァァァァァァ!!)
「エリナさんかもしれないけど、あのバストの物足りなさはやっぱりメグミさんかも。もう少し近くで見ようよ」
「バ、バカっ。本人が聞いてたらブン殴られるぞ!」
制止しようとするアキトを無視してユリカはズンズンと最前列までやって来る。
彼女の洞察力にかかれば自分の正体がバレるまでそうはかからないだろう。
メグミの脳内がチリチリと空回りする。
(な、なんでユリカさんはそんなに正体を見極めたがるのっ? どうしようどうしよう、ねえ、どうしよう!)
はわわわ、と焦るメグミは仕方無しにある方法を選択する。
それはパフォーマンスに見せかけて暴れまわり2人を追い払おうというもの。
メグミは手に持つギターをふりあげてユリカたちの眼前に叩きつけようと力を込める。
が、やり慣れないパフォーマンスに直前で態勢を崩してしまう。
「きゃっ」
メグミは可愛らしい声をあげながら……
ゴギャッ!
とユリカの脳天にギターを叩き込んだ。
(やっちゃったァァァァァァ!!)
ユリカの脳天がぱっくりと割れて血が吹き出す。
メグミはそんな彼女を見ながらアワワワ、と慌てふためくことしか出来なかった。
しかし、それすらも観客にとっては最高のパフォーマンスにしか映らなかったようだ。
「出たぁ! アレは”48の地獄技”の1つ、”非情なるギター”だぁ〜〜〜〜〜っ!!」
「アワ、アワワワワ」
「メグミザーさん、笑ってるぞ―!」
そんなメグミに怒ったアキトが壇上に上がり食って掛かろうとする。
「おい、お前! ユリカになんてコトしやがるんだ!」
「ア、アキトさんっ!? 違うの……これはその……!!」
口ごもるメグミ。
必死に言い訳を考えようとするも既に詰んでいる状態なので何も思いつかない。
どうしようもない状況下で、彼女の中で何かかが切れた。
「ごめんなさいっ! 眠ってー!!」
ユリカを沈めたギターを横薙ぎにして今度はアキトの頭に叩きつけた。
ゴッ!
気合一閃。躊躇いなく振り抜かれたギターがアキトの頭を吹っ飛ばす。
キラキラと鼻血をまき散らしながら宙を舞うアキト。
『まだですわ、メグミザー。アキトの意識はまだ残っていますわ。バレたくなければきっちりとトドメを!』
「あー! もー! あァァァ! もォォォォッ!」
アクアからの通信。
前後不覚になったメグミは、アクアの言葉に忠実に従ってアキトに何度もギターを叩きつける。
その脇でハァハァと息を荒らげながらカメラを回すアクアの姿があったのだが残念ながらそれには気づかない。
「おい、この倒れてるのって”あの”ナデシコの艦長じゃねぇか!?」
「じゃあ、向こうでボコられてるのはパイロットのテンカワか!」
「さすがメグミザーさんだ! 軍だって目じゃねぇぜー!」
「ゴートゥDMC! ゴートゥDMC!」
恐慌状態のメグミがギター片手に高く吠える様にオーディエンスの熱は最高潮に高まっていく。
メグミが望んだ方向とはまるで違うが、これもある意味で歌によりリスナーに元気を与えるという彼女の望みどおりのものであろう。
この後、D.M.Cは武闘派メタル・バンドとしてさらにカリスマ的地位にのし上がっていくこととなる。
常にボーカルがシャウトするそれはとてもとても刺激的なバンドだそうな。
頑張れ。メグミ・レイナードもといメグミザー2世。
君の歌声で癒される人たちがいる限り。
「私の人生こんなんばっかかァァァァァ!!」
……彼女のこれからの人生に幸多からんコトを心から祈ってやまない。
楽屋裏
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:::::::: :.: . . /彡ミ゛ヽ;)ヽ、. ::: : :: どうしてこうなった
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