ノヴィスノアの持つ《バイタルウォッチャー》が高速でヨコスカ軍港へ向かって来る正体不明の機動兵器を捉えた。
その機動兵器に備えるべく、ノヴィスノアを含めヨコスカ軍港全体が喧騒に包まれていた。
さみしさに震えるモノ
第3話 逃げてきた少年
書いた人 H・Wiz
ノヴィスノアブリッジ
「ブレン隊は出られるか?」
「それが、ナンガ・ラッセ両名がまだ帰還していません。現在出撃可能なのはヒメ機のみです」
アノーア艦長は素早く状況を確認するとユリカの方を向き指示をだす。
「そうか。ミスマル、着任早々で悪いがエステ隊にも出撃してもらいたい」
「了解しました」
アノーアの指示を受けたユリカはすぐさまコミュニケを使ってパイロットへと連絡を付けた。
「アキト、リョーコさん応答して下さい」
『ユリカ、今の警報は?』
『敵か?』
すぐさま2人がウィンドウに現われる。
「えーと、正体不明の機動兵器が本艦及びヨコスカ軍港に向けて接近中です。テンカワ・スバル両名はノヴィスノアパイロットと協力して機動兵器の正体を確認してきて下さい。ついでに敵だったら落としちゃってください」
『わかったよ』
『まかせろ』
アキト、リョーコ、ヒメの3名はそれぞれ空戦エステ、空戦エステ、ヒメブレンで出撃していった。
ヨコスカ沖40km上空
出撃したアキト・リョーコ・ヒメの3名の眼前で木星蜥蜴のバッタと水色の装甲をした機動兵器が機動戦を繰り広げていた。
「なあ、あれか?接近中の機動兵器って?」
「そうみたいだな」
アキトとリョーコの2人はその機動兵器に特別思うところはなかったが、ヒメは違ったようだ。
「あ、あれブレンだわ。かわいいなぁ」
ヒメは水色の機動兵器がブレンだと確認できた途端、こう声に出していた。
(か、かわいい?)
ブレンをかわいいと言える感性は他の2人には判らないものだったが、初めて見たブレンの目を見て『優しい目をしてる』と言えるヒメらしいとも言える。
「兎に角、蜥蜴と戦ってんだ。敵じゃないようだし、オレは助太刀するぜ。おら2人ともついて来いよ」
そう言うが早いか、リョーコはエステを突っ込ませる。
「了解」
いち早く、戦闘空域に突っ込んだリョーコは、的確な射撃でバッタを次々と落としていった。
近接戦闘を好む彼女だが、遠中距離戦闘が苦手なわけではない。むしろその技量は水準以上である。
ただ、ナデシコに於いてはチームを組んでいるヒカルが中距離戦、イズミが遠距離戦を主体としている事から、近接戦闘を中心にした戦いをスタイルに固定していただけの事である。
水色のブレンをその死角から狙っているバッタがリョーコの目に入る。
そしてそれを苦も無く落とし、水色のブレンに公用周波数で声をかける。
「おい、そこの機動兵器。危ない所だったな」
『余計なお世話だ。誰が助けなんか頼んだ』
しかし、返ってきた言葉は余りにも失礼だった。おまけに声も若い。
「この・・・・」
リョーコは戦闘中だと言う事も忘れ、顔を真っ赤にして怒鳴りかけた。
「リョーコちゃん後ろ!」
「ふう、助かったぜ、テンカワ」
『テンカワ?』
「ねえ、その子新しいブレンだよね。すごくいい子じゃない。どうしたの?」
『五月蝿い奴だな。名前も知らない奴に教えられるか。第一、お前らノヴィスノアの連中だろ』
「ねえ、どうしてノヴィスノアの事知ってるのよ」
『っ・・・・もう追いつかれたか・・・』
その台詞と水色ブレンの視線の先には、ダークブラウンの機動兵器と灰色の機動兵器がやってきていた。
『あれは連合軍?ブレンがいる・・・ノヴィスノアか?』
灰色の機動兵器から水色のブレンに対して女性の声で通信が入る。
『ユウ!今なら博士達もお許しになるわ。一緒にオルファンに戻りましょう』
『カナン、オレはオルファンには戻らない。親父達や姉さんにはそう伝えるんだ』
『ユウ、なぜなの?』
『カナンには解らないよ』
水色のブレンと灰色の機動兵器は微妙な距離を保ちながら滞空していた。
そして、灰色の機動兵器を肉眼で確認した、ヒメが驚く。
「あれは、もしかしてリクレイマー!?」
「「何だよリクレイマーって」」
聞きなれぬ言葉に、アキトとリョーコはそろって疑問の声を挙げた。
「ナデシコが火星に向かったのと同じ頃から現われたグランチャーっていう機動兵器を使っている国際的テロ組織よ」
そう、ヒメが説明すると、割り込むように通信が入ってきた。
どうやら、先程水色のブレンに連絡する時に設定した公用周波数でアキト達と通信したため相手にも伝わってしまったようだ。
『テロ組織とは失礼だな。俺達はオルファンの意志を受けて活動しているだけだ』
その台詞と共に、灰色のグランチャーの後方に控えていた、ダークブラウンのグランチャーが突っ込んでくる。
そして、右手に持っていたソードのようなものを振り上げ、水色のブレン目掛けて振り下ろす。
ブレンは辛うじてその一撃を避ける。
『まったく、親不孝なガキだよなぁ、ユウ。あんまり我が侭がすぎると痛い目をみるぜ』
グランチャーから、不敵で聴く人の神経を逆撫でするような声がする。
『だからどうだって言うんだ!』
ブレンからは反論するような叫びがする。
グランチャーはなおもブレンに対して攻撃を続ける。
アキト達は困惑していた。目の前でブレンとグランチャー一機が争いを始め、もう一機のグランチャーがアキト達を牽制している為に。
『ぐあっ』
状況に変化が起こった。
グランチャーの攻撃が、ブレンにヒットしたのだ。
その瞬間、何故だかアキトは行動を起こしていた。
「だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
アキトは、エステをブレンと戦っているグランチャー目掛けて体当りさせる。
『なにぃ!!』
予想外の事にグランチャーは弾き飛ばされてしまう。
「そこの水色の!今のうちに下がれよ。とりあえず俺達の敵じゃないんだろ」
アキトは改めて、ブレンに対して通信を送る。
その声を聴いたブレンは少し後ろに下がる。
リョーコとヒメがそれをガードに入る。
『く、邪魔をするのか、連合軍』
『ジョナサン!!』
灰色のグランチャーから悲鳴のような声。
『・・・とりあえずここは退くぞ、さっきので予想外のダメージを受けた。第一、ノヴィスノアとの接触は想定外だ。カナン、クインシィの指示を仰ぐぞ』
『了解(ユウ・・・)』
アキト達と水色のブレンはなんとかグランチャーを追い返す事に成功した。
「で、なぜ追われていたの?もしかしてアンタもリクレイマーなの?」
「さっきからベラベラ五月蝿い女だなぁ。大体、人にモノを尋ねるなら自分の名前ぐらい明かしたらどうなんだ」
「ぶう、私はウツミヤ=ヒメ、ノヴィスノア所属のブレンパイロット。こっちの2人がネルガルから出向してきているパイロットのテンカワ=アキトとスバル=リョーコ。ほらこれでいいでしょ。さあ、きりきり答えなさい」
「さっきも気になったけど、テンカワ=アキトって・・・。なぁ、もしかして火星に住んでなかったか?」
「えっ、確かに俺は火星出身だけど、なんで知ってるんだ?」
「アキ兄、生きてたんだ・・・・。俺ユウだよ。火星で近所だった・・・」
「ユウ、イサミ=ユウか?そうか、ユウか、久しぶりだな。元気そうでヨカッタ」
「なあテンカワ、なんか感動の再会っぽいの悪いんだけどそろそろ戻らないとバッテリーが切れるぞ」
「え、マジ?
ユウ・・・ノヴィスノアにくるか?
よく判らないけどあいつ等から逃げてきたんだろ」
「悪いけど、俺はノヴィスノアに行くつもりはない」
「おい、なんでだよユウ」
「ゴメン、アキ兄」
そういって、アキト達の元を去ろうとするユウのブレンをヒメブレンは抱き着いて引き止める。
「アンタのブレンさっきので怪我しているじゃない。大体、長時間飛んでアンタもブレンもヘトヘトでしょ」
「う・・・」
そういわれるとユウは反論できなかった。
実際、先程の戦いでダメージを受けたのも確かだし、長時間の逃避行で疲れているのも確かだったから。
「ね、ノヴィスノアにきなよ。ブレンもいっぱいいるしさ」
ヒメはにこやかに喋る。
「わかったよ・・・」
ユウはしぶしぶと了承する。
「決まりね」
「話は済んだのか? じゃ、帰るぜ」
それまで、黙って脇にいたリョーコがその場を締め、一同はノヴィスノアへの帰途についた。
ノヴィスノア 格納庫
アキト達が帰還すると、主立ったブリッジクルーが格納庫までやってきていた。
「アキト、お疲れ様。さっすが、私の王子様だよね。ばっちり任務完了しているんだから」
エステから降りたアキトに飛びつくユリカ。
「こら、よせユリカ、よせってば」
ナデシコでは珍しくも無い光景だ。
しかし、アキトが発したある言葉に過剰反応した人物がいた。
ユウである。
「うそ、もしかしてユリ姉?」
そして、その台詞を聞いたユリカは、ユウの方に顔を向ける。
「・・・・・・?」
顎に人差し指を充て、首を少し傾け何かを思い出す仕種をする。
そばにいるアキトは耳に指を突っ込んで耳栓をする。
これからユリカがどんな行動を取るのか熟知している為だ。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
ユウくんだぁ。ユウくん。ユリカだよ、覚えてる?
ほら火星でご近所だった。ユリ姉って今でも呼んでくれるんだ。ユリカうれしい。ねぇ、ユウちゃんのご両親は?
そうだイコちゃんは、お姉ちゃんは元気なの?
よくアキトとユリカとイコちゃんとユウくんで、遊んだよねぇ。ユウくんったら、いっつもイコちゃんの後ろに引っ付いてたんだよね、ああ、もう懐かしいんだから」
ユリカは父親譲りの大声で、マシンガンの様にまくしたてた。
その威力はすさまじいもので、ユリカと耳栓をしていたアキトを残して、格納庫にいた全員が意識を飛ばしてしまい、その全員が意識を取り戻すまでに1時間を要してしまうのだった。
つづく
次回予告
逃げてきた少年
その少年の口から語られるリクレイマーの真実
そして、ノヴィスノアに命ぜられた一つの作戦
それは、驚くべきものだった
第4話 「北極作戦」
※なお、次回の内容は予告無く変更される恐れがあります。ご注意ください
あとがき
H・Wiz(以下Wiz):どうも、作者のH・Wizです。前回の投稿から結構時間が立ってしまいましたが、如何だったでしょうか?
スバル・リョーコ閣下(以下閣下):おい、なんでいきなりあとがきがキャラコメ形式なんだ?
Wiz:簡単なことです、この回を書いている最中に『リョーコ応援組合』に参加しましたから、ぜひとも閣下にはあとがきに出演していただきたいと思ったものですから
閣下:そうか、そいつはいい心がけだな。それはそうとなんでこんなに投稿の間隔があったんだ?
Wiz:いや、なんていうか友人の創作スランプの相談に乗っているうちに、自分にもそれが伝染いたしまして、それが結構重傷だったのですよ。何とかスランプは脱出したので、これからはもう少し短い間隔で投稿できるのではないかと。それに、スランプの間にアイデアやネタだけは浮かんできましたので、幾つか原案を書き上げて見ようかと。
閣下:どんなやつを考えてるんだ?
Wiz:『幼い閣下の初恋物語』とか『ムネタケ物語・士官学校編』とかシンジくんが出てくるナデシコがあるんだからアスカが居る話があったっていいじゃないかということでシンジじゃなくてアスカが出てくる話とか、掲示板で話題に上ってた『逃亡者シリーズ』で逃亡者なアキトと超人ロックが邂逅する話とかを考えたんですけど・・・
閣下:そうか、ならまずはオレの初恋物語から書け!
Wiz:御意・・・そのご希望に添えるよう努力いたします
閣下:よし、じゃぁな(閣下退場)
ふう。とまあ、閣下のご希望はさておき、上記の原案で何となく読んでみたいものってありますかねぇ
ご希望があれば頑張って書き上げますので・・・
それでは、代理人様どうぞ
代理人の感想
ど〜れ〜。(笑)
いや、「どうぞ」とか「お願いします」とか言われるとついつい(爆)。
ちなみに「イコちゃん」ですけど、多分本名は「イイコ」でしょう。
で、それが誰かというと…お楽しみ(笑)。