―これで、オレの役目は終わった―
漆黒のエステバリスの中でアキトは思った。
ユリカが救出され、アキトは火星の後継者の残党狩りをしていたのだ。
そして、今それを終えたところだった。
「ごほっ、ぐ・・・・う!?」
アキトは激しくむせこみ、真っ黒な戦闘服を真紅に染めた。
―もう、俺の命も長くはないな―
そう、アキトの体は今生きてるのが不思議なくらいにぼろぼろだった。
ヤマサキらの実験により過剰投与されたナノマシンが、アキトの体をどんどんと蝕んでいたのである。
特に、ラピスとのリンクを切ってからは、その進行は進むばかりだった。
「テンカワアキト、覚悟!!」
「な、なに!?」
突然、すべて倒したと思った火星の後継者の残りがアキトを襲ってきた。
「くっ!」
慌てて攻撃をよけようとするが、アキトは一瞬反応するのが遅れた。
ドゴォォォオオン
[エラー!警告!警告!]
「どうしたんだ、イリス」
イリスとは、ブラックサレナに搭載されている小型のA.Iのことである。
[ジャンプフィールド発生。]
「な、なに!?」
[さっきの攻撃によりジャンプフィールド発生装置に異常があらわれました。]
「こちらから制御はできないのか?」
[ジャンプフィールド発生装置が暴走し始めたため、不可能です。]
「そ、そんな・・・」
―ふっ、何をいまさら焦っているんだ、オレは。
どうせ、オレのような復讐者が生きてたって・・・。今ここで死ぬのも悪くないだろう。―
アキトは覚悟を決めた。
―ユリカ、おまえのことをずっと愛してたよ。もう一緒にはいられないけど幸せになってくれ・・・―
[ランダムジャンプします]
アキトの身体がひときわ輝き始めた。
―みんな、ありがとう―
ブォン
そして、アキトはこの世界から消えた・・・・・。
大好きなあなたへ
プロローグ
「ん、うう〜ん。」
アキトはベットの上で目覚めた。
「ここは、どこだ?」
あたりを見回すアキト。
小さな学習机に、イス、そしておもちゃ箱が置いてあった。
どうやら、アキトはこども部屋のようなところにいるよるようだ。
―なんか、この部屋見覚えがある気がする・・・?−
「って、何でこんなにはっきりと物が見えるんだ!?」
確か、アキトは五感を失っていたはず。ならいったいどうして?
―ん?もしかしたら・・・―
アキトは耳を澄ましてみた。
チュン、チュン
「き、聴こえる!!」
指を少しかんでみる
「っつう、感じる。」
今度はもう少し強めにかみ、血がにじんだ。
「血の味がする!!においも!!」
アキトは心から喜んだ。
料理人だったアキトにとって、味覚と嗅覚は命の次に大事なものだった。
しかし、度重なる実験によりこの二つは完全になくなっていたのだ。
そして、ラピスとのリンクをしていても、同じことであった。
それが戻ったのだから、よろこびも人一倍大きいのである。
―しかし、なんでオレの五感が戻っているんだ?―
「ん・・・!?」
ふと、アキトは鏡に目が止まった。
「なんじゃこりゃ〜〜〜!!!」
これが本日、一回目のアキトの叫びである。
「これって、オレだよな?なんで、幼くなってるんだ??」
鏡の中には、幼いころのアキトの顔が浮かんでいた。
―いったい、なにがどうなって俺が小さくなるんだ?
もしかしたら、五感が戻ったのはこのためなのか?―
アキトの頭の中は、疑問でいっぱいだった。
と、突然部屋のドアが開いた
ガチャッ
「だ、だれだ!?」
「誰だとは、失礼ね母親に向かって!」
そこには、腰に手を当ていかにも、失礼ねといった顔で立っているアキトの母ナツミの姿があった。
ぼうぜんと立ち尽くすアキト。
「おお〜い、アキト?」
いつまでもボーっとたっているアキトが心配なのか、アキトの目の前で手を振るナツミ。
「な、な、な・・・」
「なに、アキト?」
「なんで母さんがここにいるんだ〜〜〜!!?」
本日二度目のアキトの叫びであった。
「もう、寝ぼけるのもしいいかげんいしなさい。」
ナツミがちょっと怒ったふうに言う。
「朝ご飯もうできてるから、早く着替えて食べなさいよ。」
バタン
そう言って、ナツミは部屋から出ていき、
部屋には、一人立ち尽くすアキトだけが残された。
しばらくして、アキトは再起動した。
―オレは、もしかしたら過去の世界に跳んできたのかもしれないな。
ここが過去の世界だとすると、すべてに納得がいく
母さんが生きているのも、オレの五感が戻ったのも―
「でも、いったいなぜ過去に戻ってきてしまったんだ?」
アキトは自然と思ったことを口にした。
―まぁ、理由なんてどうだっていいか。
とりあえずオレはこれからどうしたらいいんだろう。―
自問自答するアキト。
―何もしないでこのまま自然にすごすか?いや、それはできるわけない。
もう、二度とあんな哀しい未来繰り返すわけには行かない!!
オレが、未来を変えてやる!!―
アキトは決意を固めた。
ぐうううぅぅぅぅ(腹の虫の音)
「アキト、早くご飯食べなさ〜い!」
「ま、その前にまずは腹ごしらえしなきゃな。腹がへっては戦はできぬだ」
なにやら一人でうんうんとうなづくアキト。
固い決意もどこへやら、早々と着替えて、今にもスキップしそうな勢いで食卓に向かった。
ガチャッ
―あ・・・―
そこにはエプロン姿で台所に立つ母、食卓のイスに腰をかけ新聞を読んでいる父。
そして、テーブルの上には母のつくった目玉焼きとサンドイッチ、牛乳
アキトにとってはもう何年も昔に失ってしまった食卓の風景がそこにはあった。
「おはよう、アキト。・・・ん?なに泣いてるんだ?」
「え・・・!?」
よほど懐かしかったんだろう。アキトの目からは、自然と涙が溢れていた。
「怖い夢でもみたのか?アキトは怖がりだなぁ。」
アキトの父ハルトはそういうと、そばに来て、アキトをそっとやさしく抱きしめた。
!?
「父さんがこうしててやるから、もう大丈夫だぞ。怖くない、怖くない。」
ぽんぽんと背中をたたいて、そっと語りかけた。
―父さん・・・―
しばらくの間アキトは、父の腕の中で泣いた。
「もう、大丈夫だから・・・」
アキトはそう言って、父の腕から離れた。
「2人とも何してるの?」
なかなか食べに来ないアキトのことが気になったナツミがたずねた。
「いやぁ、怖い夢でもみたのか、アキトが泣いてたから、ちょっと慰めてたんだよ。な、アキト」
いたずらっぽい顔で、アキトを見ながらハルトが答えた。
「アキトったら、ホント怖がりねぇ。フフフ。」
ナツミもアキトをやさしい笑顔で見つめながら言った。
―母さん・・・―
久しぶりに受けた両親のやさしさにアキトはじ〜んとした。
「さ、ご飯食べようか。」
ハルトが訊く。
「うん!!」
アキトはとびっきりの笑顔で答えた。
―もう、二度と父さんと母さんを死なせたりしない!―
アキトは心の中で、固く誓った。
さてさて、過去に戻った闇の王子様はこれからどうするんでしょうか。
あとがき
はじめまして、いもあんです。
いやはや、こんな駄文を最後まで読んでいただきありがとうございます。
小説書くのって難しいです。
こんな私ですが、よろしくお願いします。
もしよかったら、感想をください。
代理人の感想
子供の頃まで戻る逆行ものってたまにありますけど、続いてるのは少ないんですよね。
ナデシコ出航前後に逆行するものと比べてどう違いが出るのか?
出来る事がどう変わってきて、展開がどう変わるのか?
それをきちんと考えないと作品としてはぽしゃるでしょう。
恐らく、子供への逆行で一番差異が出るのはズバリ「時間」そのものでしょう。
単純に自分を鍛えるのみならず、今まで知らなかった知識を吸収し、技能を身につけ、
コネを作り、僅かずつでも歴史を変えて行く。
そういった事をやる時間が余裕を持って与えられているのです。
実際、木連が侵攻しないかもしれませんしスキャパレリプロジェクトも発案されないかもしれない。
それくらいのことをやる余裕はあると思います。
(裏を返せば、ナデシコを史実通りに発進させる必要も全くないということですね)