大好きなあなたへ
第1話 すべての始まり
「さて、まずは現状把握をするとしようか。」
腰に手を当て、いかにもやる気満々といった様子で、アキトは言った。
あのあと、朝食を済ませたハルトとナツミは研究所へと仕事に向かったのだ。
「それじゃ、アキトいってくるわね。ちゃんと一人でお留守番するのよ。」
ナツミはアキトの頭をなでながら優しく言った。
「うん、分かった。いってらっしゃい。父さん、母さん」
こんな感じで、アキトは一人でお留守番ということになった。
「手始めに身体能力でも測るとするか。」
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「こ、これはいったい・・・!?」
自分の手を開いたり閉じたりしながら、驚きを隠せない表情のアキト。
それもそのはずで、
ためしに握ってみたりんごが、握りつぶれたとか言うものでなく、粉砕され、
跳躍力について調べようととんでみたところ、勢いがありすぎ天井を突き破ってしまったのだ。
そのため今アキトの頭上には青い空がぽっかり見えてたりする。
そんなことは気にしてないような様子で、つぶやくアキト。
「どうして、こんな力が・・・。」
幼いアキトがもつには、異常すぎるほどの能力なのだ。
ていうか、幼くなくても異常なんだけど。
「まぁ、理由などどうでもいいか。なんにせよ力があるに越したことはない。」
一人で納得しているアキト。
過去に戻ってから、ずいぶんと前向きになったものである。
ピンポーン
玄関のチャイムが鳴る。
「はーい、今でまーす」
そう言って、玄関に向かう。
ピンポン、ピンポン、ピンポン、ピンポン、ピンポーン
アキトの声が聞こえないのか、来客はチャイムを連打する。
―こんなことする奴なんか、アイツしかいないな。―
そんなことを思いつつ、玄関のドアを開けるアキト。
ガチャッ
「ア〜キト〜!!」がしっ
「ごふっ!」
何者かのタックルが、アキトに決まった。
―こいつのタックルはこのころからすごかったんだよな・・・―
しみじみと思うアキト。
「おはよう、アキト!今日も遊ぼ!!」
抱きつきながら満面の笑みで言った。
「ああ、分かったから、とりあえず離れてくれないか?ユリカ」
「は〜い!」
そう、このタックルしてきたこどもこそミスマル・ユリカその人である。
お隣さん同士であったので、このころはしょっちゅうというか毎日遊んでいたのだ。
「今日はおままごとしよ!」
そう言って、ユリカはどこからともなくおままごとセットを取り出した。
ちなみに、おままごとセットとは、おもちゃの包丁、まな板、ミニコンロ、ミニちゃぶ台、にんじん、たまねぎ、その他野菜などが入ったバックのことで、この時代の幼い女の子3人に1人は持っているという大人気商品のことである。
―え!?おままごと・・―
アキトは戸惑った。
いくらが意見が幼いからといって、中身は22の大人。
おままごとするには、やはり抵抗というものがあるのだろう。
だが、アキトの心情とは裏腹にままごとの用意がユリカによって出来上がっていた。
とりあえず、ユリカに別の遊びをしようと言ってみようとするアキト。
「なぁ、ユリカ今日はちが「じゃあ、私が奥さんでアキトが旦那様ね!」・・・」
アキトの言葉は空しくも、ユリカにかき消された。
「あなた〜、朝ご飯作るからもう少しまっててね。」
ユリカの中ではもうすでに始まっているようだ。
―やらなきゃならんのか。・・・・しょうがないなぁ。―
「あ〜、分かった。」
それとなく演技をしながら答えるアキト。
ユリカは、台所(ユリカの中での)でおもちゃの包丁をつかい、料理をつくる振りをしていた。
しばらくして・・・
「あなた、できたわよ。食べましょ。」
奥様のような口調で話すユリカ、なんだか愛らしい。
「「いただきます。」」
ちゃぶ台におかれたお皿を取り、二人とも食べてる振りをする。
「あなた、おいしい?」
箸を動かすのをやめ、アキトに訊くユリカ。
「ああ、おいしいぞ。ユリカは料理上手だなぁ。」
アキトはお父さんのような口調で答えた。
何だかんだいいつつ、アキトもノリノリでおままごとをやっているようだ。
「もう、アキトったら。」
ユリカは顔を赤くして、イヤンイヤンと腰を振る。
「あはははははは・・・・・フッ」
―なんだか、3人で一緒に暮らしていたころのことを思い出すなぁ。
あのころもこうして小さなちゃぶ台を囲んで食べてたっけ・・・―
「お〜い、アキト〜」
あさっての方向を向いてたそがれているアキトの前で手を振るユリカ。
「え?、ああ、なにユリカ?」
「もう、ちゃんとおままごとしてよ。ユリカ怒るよ、プンプン!」
遠い追憶の世界から戻ってきたアキトの前には、頬をプーッとふくらましているユリカの顔があった。
「ゴメン、ゴメン」
苦笑しながら謝るアキト。
おままごとが再開される。
「あなた、そろそろ会社に行く時間じゃない?」
「ああ、そうだな。じゃ、行ってくるよ。」
「いってらっしゃい、あ・な・た(ハート)」
ここで、ユリカの投げキッスが決まった。
2人とも新婚さん夫婦のようであった。
そうこうして遊んでいるうちに晩飯どきになった。
「そろそろ帰る時間じゃないのか?ユリカ」
時刻は5時。ユリカの帰宅時間だった。
「え・・・あ、うん。」
なんだか、帰りたくなさそうに返事をするユリカ。
それを心配したのか、アキトがユリカに訊く。
「どうした?なにかあったのか?」
「実はね・・・・。」
なんだか言いづらそうである。
「なに?」
「明日・・・地球に引っ越すの・・・」
「なんだって!?」
突然のことに驚くアキト。
「今朝、突然地球に行くってお父様に言われたの。」
「なんで?」
「わからない。とにかく地球に行くんだって、お父様は言い張るの。
ユリカね、火星に残りたいって言ったの。でも・・・お父様は聞いてくれなかった。」
だんだん涙声になるユリカ。
「今日で・・ひっく・・・アキ・・トと遊ぶのも・・・う・・最後なの。
もう、逢えな・・ひっく・・かもしれな・・・い・・・う・・・うえぇぇぇぇん。」
ユリカは逢えなくなる寂しさからか、とうとう泣き出した。
「ユリカ・・・」
「!?」
泣いているユリカをそっと抱きしめてやるアキト。
いっそう泣き声が増した。
「ユリカ、アキトと離れたくない!もっとずっと一緒にいたいよ!」
ユリカはアキトの腕の中で叫ぶようにしていった。
しばらくの間、ユリカの泣き声だけが部屋の中に響いていた。
「もう泣くなよ。」
「う、うぅ・・アキト・・・」
泣きすぎて、目も鼻も真っ赤にしたユリカがアキトをみた。
「ユリカ、訊いて。俺達はきっとまた会えるから。」
アキトは、そっと語りかけた。
「うそ。だって、お父様はもう火星には戻らないって言ってたもん。」
また、泣きそうになるユリカ。
「ホントだよ。お前が戻らなくたって、俺が地球に行けばいいじゃないか。」
ユリカは目をぱっと開いて驚いた。
「そっか!・・・そうだよね。また会えるんだよね」
「そうだとも。俺はいつか必ずユリカに会いに行くから。ちゃんと待ってろよ。」
「うん!」
力強くユリカはうなづいた。
「おれが会いに行くまで、もう泣くなよ。
お前の一番いいところは笑顔なんだから。」
そう、まさにその通りである。
見ている人まで幸せにするような、太陽のような笑顔。
それこそがユリカの一番であった。
「じゃ、涙を拭いて。泣き顔なんて、お前には似合わないんだからさ。」
そう言って、優しくアキトは微笑んだ。
「アキト・・・分かった。ユリカもう泣かないね。」
涙をごしごしと袖でぬぐって、精一杯の笑顔をユリカは見せた。
「それでこそユリカだ。」
ユリカの笑顔に満足したアキトであった。
ユリカは、すっかり元気を取り戻した。
「じゃあ、ユリカ、もう帰るね。」
アキトの腕のなかから抜け出し、帰り支度をする。
帰ろうと、玄関までいったところでユリカは振り返った。
「明日、ぜったい見送りに来てね!」
「ああ、分かってるよ。」
もちろんといった感じでアキトは頷く。
「ばいば〜い!」
「ばいばい。」
一生懸命手を振ってユリカは帰っていった。
「さて、どうしようか・・・・・あ!!」
腕を組み、見上げたアキトの目に映ったのは、天井ではなく夕暮れの空だった。
さて、読者の皆さんは覚えているだろうか。
今朝、アキトが身体能力について調べているときにあけてしまったあの穴のことである。
アキト自身、自分であけておいて、今の今まですっかり忘れていたのだ。
「まずは、天井を直さなきゃな。ウンウン。」
そう言って、アキトは大工道具を持ち出し、天井を直し始めた。
ズドドドドドド
マシンガンのような速さで釘を打つアキト。プロも真っ青である。
モノの10分もしないうちに、アキトは天井を直してしまった。
もしかしたら、アキトには日曜大工の才能があるのかもしれない。
「さて、次は・・・・晩御飯の用意だな。」
このころ両親の帰りが遅いため、アキトが食事を作ることになっていた。
後に、コックになろうと思った原点はここにあったりなんかする。
「な〜にを、つ〜くろっかな〜♪」
久しぶりの調理にうれしさがこみ上げ、歌いだすアキト。
何しろ、味覚を失ってからは否が応にもコックの道を絶たれていたのだから、
味覚が戻った今、調理できるのは最高にうれしいのだろう。
何だかんだいいつつ、料理人魂がアキトには宿っているみたいだ。
「よし、決めた。今日はラーメンだ!」
悩んだ結果、屋台をひいていたあのころのテンカワ特製ラーメンをつくることに決まった。
なかなかの手際のよさで、ラーメンを作っていくアキト。
―やっぱり、調理をしているときは落ち着くというか、楽しいよな。―
しみじみとそう思うアキトであった。
「できた!テンカワ特製ラーメン完成!」
机の上には、丼が三つ並んでいた。
おいしそうな匂いが辺りに漂っている。
その匂いにさそわれたのか、ハルトとナツミが帰ってきた。
ガチャッ
「「ただいま。」」
「おかえり。」
「お、今日のラーメンはうまそうだな。」
机の上のラーメン丼を見て言うハルト。
「今、できたばっかなんだ。早く食べようよ。ラーメンは出来立てが一番おいしいんだから!」
「はいはい、わかりましたよ。小さなコックさん。」
ナツミは軽く笑いながら言った。
「「「いただきます。」」」
ズ〜〜〜ズズ〜〜〜〜
ラーメンをすする音が響く。
「ん・・・アキト、お前料理の腕上がったな。このラーメンすんごくうまいぞ!」
箸をとめ、アキトをほめるハルト
「ホント、このラーメンおいしいわ。」
ナツミもハルトの意見に賛成のようだ。
「ありがとう。父さん、母さん。なんだか、照れるなぁ。」
ラーメンによってか分からないが、アキトは顔が赤くなっている。
「アキト。おかわり!」
丼をあげつつハルトは言った。
「は〜い!」
「わたしもおかわりもらおうかしら。」
「・・・ふとるぞ。」
ボソッとハルトはつぶやいた。
「うるさいわね。たかがラーメンの1杯や2杯ではそんなに変わらないわよ。」
そう言って、アキトに丼を渡した。
「いやいや、その1杯や2杯が問題なんだ。それに最近お前太っただろ。
俺には分かる。おなかのあたりがたるんで・・・ぶへっ!?」
次の言葉を言おうとしたとたん、ナツミの右ストレートが決まった。
「もう、余計なことばっかり言うんだから。」
「ふふふ、あはははははは。」
それまで黙ってみていたアキトが突然笑い出した。
「どうしたのよ。突然笑ったりして。」
「ううん、なんでもない。ただ父さんと母さんって本当に仲が良いなって思って。」
「そ、そんなことないわよ。」
顔を真っ赤にして否定するナツミ。
「ひどいなぁ、俺はナツミのことを愛してるのに。」
いつのまにか復活したハルトが冗談っぽく言った。
「もう、恥ずかしいこといわないでよ。」
そんなことを言いつつもうれしそうなナツミ。
「何度でも言えるぞ。俺はナツミを愛してる。」
今度は真剣に言った。
「ハルトさん・・」
しばし見詰め合う2人、なかなかにいいムードがながれた。
いきなり、ハルトは忘れてないぞっと言わんばかりにアキトのほうにむく。
「もちろんアキトも愛しているぞ。」
まっすぐ、アキトの目を見つめて言った。
「なんてったって、わたし達の自慢の一人息子ですものね。」
ナツミも優しい微笑をアキトになげかけながら言った。
「恥ずかしいな、父さんも母さんも。」
かなり照れているアキト。顔から火が出そうなほどに真っ赤になっている。
「でも・・・・僕も父さんと母さんのこと、大好きだよ!」ニッコリ
そう言って、微笑んだ。
ポーーーー
あんまり綺麗な笑顔だったので、2人とも見とれてしまった。
―アキトったら、かわいすぎるわ!!!―
―う、ついつい見とれてしまった。こ、この笑顔は・・・ある意味犯罪だな。―
しばらくの間、2人はアキトの笑顔に魅了されていた。
一足早く、ハルトがアキトの笑顔の魔力から戻ってきた。
「さて、ラーメンの続きを食うとするか。」
「わたしも。」
ハルトの一言にナツミも戻ってきた。
「いや、おまえはやめたほうがふとる・・・ごふっ!?」
今度はナツミの左アッパーが決まった。
「もう、しつこい!」
「あはははははは」
アキトはまた笑い出した。今度はみんなつられて笑った。
「フフフフフ。」「あははははは。」
テンカワ家の食卓は楽しい談笑で包まれた。
―明日、ユリカは地球へ行く。ということは、クーデターが起きるのも明日だな。―
ベットにねっころがりつつ考えごとをするアキト。
―黙って、父さんと母さんが殺されるのを見過ごすわけにはいかないな。
さて、どうしようか。研究所に一緒にいて、暗殺者を殺ってもいいんだが・・・
父さんと母さんの前で人を殺すのはしのびないしなぁ。―
「う〜ん、どうしよう。」
本気で悩んでいる。
「ま、父さんと母さんに見られずに殺ったらいっか。」
かる〜い口調で恐ろしい事を平気で言うアキト。
「俺の両親を殺そうとする奴なんだから、それ相応の罰は当然だろう・・・」
ニヤッ
アキトは、口の端をゆがめて笑った。
闇の王子が目を覚ました瞬間だった。
闇の王子様が再び目を覚ます。
今度は、二度と哀しい歴史をたどらないために・・・・。
大切なものを守り抜くために・・・・。
あとがき
どうも、いもあんです。
アキトのパパさんくさいせりふ言いすぎですね。アキトもですけど
こっちが恥ずかしくなっちゃいそうです。
それにしても、パパさんに犯罪とまで言われるアキトの笑顔ってどんなんだろう?
ちょっと、見てみたいな。ぐふふ。
では、また次回に会いましょう。
代理人の感想
わ〜、なんかいいですね〜。
ほのぼのシーンがお上手です。
関係ないけど、史実では間違いなくあったと思われるミスマル家の家庭騒動も
今回は全くなかったに違いないですな(笑)。
>パパさんに犯罪といわせる
ふむ、つまりこの作品のアキトスマイルは男にも有効と言う事で・・・・・・って。
いもあんさんって台蒲鉾の同類だったんですか!?(核爆)
しかもなんか、ぐふふ笑いとか舌なめずりとかしてるしッ! (注:舌なめずりはしてません)
ああ、先日正蒲鉾が増えたばかりだというのに蒲鉾予備軍がまた増えるのだろうか(爆)。