大好きなあなたへ
第2話 動き出した王子様
ここは火星の空港。
幼い2人が、それぞれの両親が見守るなか
今、まさに別れようとしていた。
「元気でね、アキト。」
「ユリカもな。」
心なしかユリカの声は震えている。
昨日アキトに言われたことを守ろうと必死で涙をこらえているのだ。
「アキト、それじゃあ、行って来るね・・・」
「ユリカ、ちょっと待って。
俺のことを忘れないように、また会えるように、おまじないをしてあげる。」
そう言って、アキトはユリカに近づく。
そして・・・・・
チュッ
「え!?」(ユリカ)
「な!?」(ユリカのパパさん)
「まぁ!」(ナツミ)
「アキト、お前なかなかやるなぁ。父さんはうれしいぞ・・・ウンウン。」(ハルト)
アキトはユリカのほっぺにキスをしたのだ。
しばらくの間、その場が固まっていた。
ユリカの父コウイチロウが、現実に戻ってきた。
「お、おのれ
わしのユリカに〜〜〜!!!」
大切な一人娘にキスをされたものだから、完全に頭に血が一気に上ってしまっている。
今にも、アキトに襲い掛かりそうな勢いである。
「まぁ、まぁ、落ち着いて・・・。」
ナツミは、なんとかコウイチロウの怒りをおさめようとする。
「こ、これが、落ち着いていられるか〜〜〜!!!」
コウイチロウの怒りは増すばかりだった。
「もう、いいじゃないですか。別に・・・。
キスの一つや二つでそんなに怒らなくても。なぁ、ユリカちゃん?」
ハルトは、キスされた本人に訊いた。
「その通りですわ、おじさま。
わたし、アキトにキスされてとってもうれしいの!
ですから、お父様もそんなに怒らないで!」
「ユ、ユリカ・・・・」
娘の一言が効いたのか、おとなしくなる父。
「おじさん、あのぅ・・・・」
それまで、黙っていたアキトがコウイチロウに話し掛ける。
「な、なんだ?はっきり言いたまえ!」
やっぱり、まだ許してないらしく、語尾が荒くなるパパさん。
「そろそろ、搭乗しないと乗り遅れますよ。」
「それを早く言わんかい!!!」
コウイチロウのつっこみが炸裂した。
「それでは、行きますね。いろいろとお世話になりました。」
慌しく、アキトの両親に向かって別れの挨拶をした。
「それじゃあね、アキト。また会おうね!」
ユリカも父についで、アキトに別れの挨拶をした。
「ああ、分かってる。じゃあな、ユリカ。」
コウイチロウは一礼をし、急いで搭乗口まで行くために、ユリカを担ぎ上げる。
そして、搭乗口までダッシュをかけた。
と思ったら突然、途中で止まって振り返った。
「テンカワアキト〜〜、
お前には娘は絶対にやらんぞ〜〜〜!!!」
ドテッ
この一言にアキトは豪快にこけた。
そんなアキトの横では・・・
「アキト、絶対にユリカちゃんをあのお父さんから奪い取りなさいよ!」と、ナツミ。
「恋に障害はつきものだ。だが、負けるんじゃないぞ!!」と、ハルト。
アキトの将来のお嫁さんはきまったようだ。
これには、ただただ笑うしかないアキトであった。
見送りからの帰り道。
―そろそろ、爆破が起こるころだな・・・―
アキトの表情が厳しくなる。
「ところで、アキトなんで今日一緒に見送りに行こうって言ったんだ?」
ハルトが訊く。
そう、本当はハルトとナツミは見送りに行く予定ではなかったのだ。
それをアキトが無理を言って、2人を連れてきたのだった。
「えっと・・・それは、その、独りじゃ寂しいかなっと思って・・」
まさか、暗殺者から守るためなんて言えるわけもなく、返事に困るアキト。
「フフフ、アキトってば、独りでユリカちゃんとお別れする勇気がなかったんでしょ?」
ナツミが、からかうように言った。
「そ、そういう事。うん。」
「ふ〜ん、」
ズガガガァァァァン
突然爆音が辺りをつつんだ。空港が爆破されたのだ。
「きゃあああ!!」
ナツミの叫び声が響く。
「な、何が起こったんだ?」
震えるナツミを抱きしめ、つぶやくハルト。
辺りは一瞬にして混乱の渦につつまれた。
ザッ
混乱に乗じて3人の怪しい男達がテンカワ一家に近づいてきた。
―ついに、来たか!―
「テンカワ博士夫妻ですね?」
3人の真ん中にいるリーダーのような男が質問してくる。
「そ、そうだが。お前達はいったい誰だ!?」
ハルトはナツミとアキトを男達から守るように抱き、答えた。
「我々ですか?
名乗るほどの者ではありませんよ。
それに、名乗ったところで意味のないことですから。」
「どういうことだ?」
「こういうことです。」
リーダーの男が手を上げ、
両端にいた男達が銃をかまえる。
「あなた方夫婦にはここで死んでいただきますので。」
口の端を歪めて笑った。
「な、なんだと!?」
「殺りなさい!!」
両端の男たちが引き金を引こうとした。そのとき!
バッ
アキトが両親の前に立った。
「ア、アキト!?」
アキトの突然の行為に驚くハルトとナツミ。
「そんなところに立っていると危ないですよ、坊や。
我々が用があるのは坊やの両親だけなのです。
さぁ、そこをのきなさい。」
アキトは下を向いたまま一歩も動こうとしない。
「聞こえないのですか?もう一度言います。そこをのきなさい。殺しますよ。」
今度は殺気をこめて言った。
しかし、それでもアキトはまったく動かない。
「いい加減にしてください。聞こえているのでしょう?
そんなに死にたいのですか?」
それでも何の反応も示さないアキトに
だんだんとリーダーの男はイライラとしてきた。
「仕方ありませんね。
テンカワ夫妻だけといわれていたのですが・・・。
まぁ、子供の1人や2人死んだって、何も変わらないでしょう。」
男は冷たく言い放った。
この言葉にハルトとナツミが反応した。
「アキト、早く逃げろ!」
「お願いだから、早く逃げて!」
男の殺気に当てられ動くことができない、
2人の悲痛な叫びだけが響く。
「ゴメン、父さん、母さん。」
「「え・・・」」
アキトは一瞬にして2人の背に回り、首筋に手刀をはめ、気絶させた。
そして、ゆっくりと男たちのほうを向いた。
そこにはさっきまでの幼い坊やではなく、
かつて、全宇宙を震撼させた闇の王子が立っていた。
ゾクッ
アキトの凄まじいまでの殺気に、男たちの顔に汗が浮かぶ。
―な、何だ?こいつ。さっきまでと全然雰囲気が違う。
なんて殺気を放ってるんだ・・・―
アキトの子供とは思えぬ雰囲気に戸惑う男。
「な、何をしているんだ!?」
声が震えている。
「何をしているかって?」
アキトの声が冷たく響く。
「お前達を殺す準備だよ!!」
スッ
そう言うと、男たちの視界からアキトが消えた。
「な!?どこだ?」
「ここだよ!」
「ぐはっ!?」
右端の男が吹っ飛ばされた。
「こ、こいつ!!」
そう言って、左端の男が銃を慌ててアキトのほうに向けた。
バン、バン!
「そんなもの、あたらなければ意味がないぞ!」
笑いながら、余裕で弾丸を避けるアキト。
その微笑みは見ているものを凍らせるほど、冷たかった。
「ヒィィ!!」
恐怖のあまり、男は有り弾を全部アキトに向けてはなつ。
バン、バン、バン、バン!
すべて避けながら、男に近づくアキト。
どんっ
「く、くるな!!」
男はしりもちをつき、空になった銃を振り回しながら、後ずさる。
顔は恐怖で引きつっている。
「た、たのむ。殺さないでくれ!」
「殺さないでくれだと!?俺の両親を殺そうとした奴が何を言っているんだ!!」
ずぼっ
アキトの腕が、男の身体を貫いた。
「ぐあぁぁぁ!!・・・」
ぱたっ
男の命が事切れた。
「これで、残るはお前1人だな。」
返り血を浴びたアキトが、リーダーの男に向かって言った。
「なかなかやりますね。坊や。
ですが、これを見てください。」
!?
リーダーの横には、最初にアキトが吹っ飛ばした男がいた。
その手にはしっかりと銃が握られていて、
しかもその先は今もなお気絶しているアキトの両親に向かっていた。
「分かっていただけましたか。
我々の目的は最初からテンカワ夫妻の暗殺なのです。
坊やとの遊びの時間はもう終わったのですよ。」
そう言って、男は勝利を確信した。
「ふっ、くくくく。」
アキトが突然笑い出す。
「なにがおかしいのです?」
「遊びの時間が終わった?あんなのはただの準備運動だろ。
本当の遊びの時間はこれからだ!!」
ザッ
アキトが再び男たちの視界から消えた。
「早く、夫妻を殺してしまいなさい!」
何か危険を感じたのか、リーダーの男は殺しをせかした。
「暗殺はもっと、手早くやんないといけないなぁ。」
銃を構えた男の真横に立ち、耳元でつぶやいた。
「な、なんだと!?」
「遅いね・・・はっ!」
カラン
男の手から銃をたたき落とした。
「これで、最後だ!」
ぐしゃっ
アキトの回し蹴りが男に決まり、男の胴体は真っ二つにされた。
「うぎゃぁぁぁぁ!!・・・・」
男の断末魔が響いた。
「これで、本当にお前1人になったな。」
男の銃を拾い、ゆっくりと、アキトは最後の一人に近づいていく。
「坊や一人に殺られるとは・・・」
悔しそうにつぶやいた。
「お前はしゃべりすぎなんだよ。暗殺って言うんなら、さっさと殺しとくんだったな。」
バン、バン、バン!
アキトが放った銃弾が男の心臓を正確に貫いた。
「うぐぐぐぐ・・・・」
「ま、もっともその前に俺がお前らを殺しているがな。」
ぱたっ
最後の一人もついにやられた。
「俺の両親を殺そうだなんて、
俺がいる限り、お前らには一生かかったって無理なんだよ。」
もう動かなくなった男たちに向かい、アキトは冷たく言い放った。
「ん・・・う、うん」「う、う〜ん」
ハルトとナツミはほぼ同時に目を覚ました。
!?
「こ、これは一体・・・」
目の前のことに驚くハルトとナツミ。
2人が目にしたのは、
真っ赤な血の池の中にただ1人立っているアキトの姿だった。
そして、池の中には自分たちを殺そうとしていた男たちが見るも無残な姿で転がっていた。
「アキト、まさかあなたが・・・・」
言葉の続きが出てこないナツミ。
「そうだよ。俺が全員殺したのさ。」
抑揚のない声で言った。顔は血にまみれている。
息子の突然の変化に戸惑いを隠せない2人。
「な、どうして?」
「こいつらは父さんと母さんを殺そうとしたんだ。当然の報いだろ?」
殺して当然といった口調でアキトが言った。
「お前、本当にアキトなのか?」
アキトのあまりの変貌振りに、ハルトが訊く。
「アキトだよ。
ただし、この時代のアキトではなく、未来から来たアキトだけどね。」
「「はぁ!?」」
一瞬2人はアキトが何を言っているのか理解できなかった。
「どういうことなんだ?」
「ここでは話せない。
とりあえず家に帰ってから、話はそれからにしよう。」
そう言うと、アキトはひとり家路についた。
ハルトとナツミは、あまりのことにその場をしばらく動けなかった。
闇の王子が動き出し、
歴史が変わっていく・・・・・・
はたして、正しき道なのか、間違った道なのか・・・・・
あとがき
どうも、いもあんです。
人の動きとか書くのって、難しい・・・・。
皆さんにちゃんと伝わっているのか、不安です。
でも、がんばって書きます!日々精進、精進です!!
では、また次回!
代理人の感想
第二話にして闇の王子顕現、ですね。
親にバレてしまったアキト君と、それを見てしまった両親の苦悩とか葛藤とか、
そこらへんが次に描かれる事でしょう・・・・・多分(笑)。