大好きなあなたへ
第4話 下準備は万全に?
「じゃ、いってきまーす。」
手を振り振り、元気に出て行ったアキト。
「いってらっしゃ〜い。って、いったいどこにいくつもりかしら?」
「さぁ?」
ナツミもハルトもアキトの行き先については知らなかった。
「ここならだれにもきづかれないかな?」
アキトは人目につかない路地裏へとはいった。
ポケットから、C.Cを取り出す。
ちなみにこのC.Cというのは、研究所からこっそり取り出してきたものである。
「ジャンプ。」
ぼわんっ
アキトの存在は火星から消えた。
ところ変わって、ここは地球。
ネルガルの会長室では、一人思い悩む会長がいた。
手を組み、その上にあごを乗せるている。
会長ことアカツキゲンゾウが悩んでいるときのポーズだ。
「テンカワ夫妻の暗殺に失敗、
うちのSSが返り討ちにあった・・・・・・」
顔がより険しいものになる。
ネルガルのSSは、そこいらの軍人より遥かに強い。
ことさら、暗殺にかけては失敗などしたこともなかった。
このことは自慢などでなく、紛れもない事実である。
だが、そのSSたちが暗殺に失敗しその上、見るも無残な死体になっていたのも事実。
会長としては、信じられるはずなどなかった。
「一体、だれが・・・・・・・・・・」
天井を見上げ、だれに訊くわけでもなくつぶやいた・・・・
はずだった。
「俺がやったんだよ。」
―なに!?―
見れば、会長室の隅のほうに1人の少年が不敵な微笑みをうかべている。
少年とは思えぬ雰囲気を身に纏って。
ゲンゾウは一瞬焦った。
が、所詮ただの少年と思いなおし、発言を無視することにした。
「坊主、どっから入ったのか知らんが、
ここは坊主の遊び場じゃない。さ、かえれ。」
少年はゲンゾウの言葉なんか聞こえないといった様子で、近づいてくる。
「オイ、誰か、この坊主をここから連れて行ってくれ。」
ドアの方に向かい、ゲンゾウは命令した。
いつもなら、ここですぐにボディーガードやら社員やらが来ることになっている。
だが、いくら待っても来る気配すらない。
「呼んでも無駄ですよ。」
「どういうことだ?」
「ここまではいってくるのに、邪魔してきたのでちょっと眠ってもらったんです。」
少年は笑顔をつくった。
「なんだと?!」
大人ならまだしも、こんな幼い少年に簡単にやられるようなボディーガードではない。
いや、たとえどこかのSSだとしてもそう簡単にやられるような鍛え方をしてない。
だが、少年がここまで入ってきた事実がそれを完全に否定していた。
と、なればすることは一つ。少年に対する警戒である。
「お前、一体何者だ?」
「何者かって?・・・・・そうですね。
ネルガルに両親と一緒に殺されかけたかわいそうな少年ってとこですかね。」
少年は、くすっと笑った。
自分で言ってることがさぞかし面白いというように
「殺されかけた?・・・・・・お前、まさかテンカワ夫妻の・・・」
「ええ、息子のアキトです。
俺もあの時両親と一緒にいたんです。
名乗りもせず、いきなり死ね。だなんて言われてね。
怖かったんですよ。銃を向けられたんですから。」
そう言いながらも、アキトの顔は笑顔のままだった。
―なんなんだ、この笑みは・・・・・・・・・・・
!?こいつが、まさか・・・・―
ゲンゾウは何かに気づいた。
「会長が、いま考えている通りですよ。
さっきも言ったでしょう。俺がやったんだって。」
バッ
ゲンゾウは身構えた。アキトを危険な存在として認識したのだ。
「まぁまぁ、そう警戒しないでくださいよ。
今日は何もネルガルに復讐しに来たわけじゃないですから。」
そう言って笑いながらだが、どことなくプレッシャーがかかる。
やはり、両親を殺そうとしたことが許せないらしい。
「なら、一体なんの用だというのだ?」
アキトを恐れつつも、会長としての威厳を保って訊く。
「協力をしてもらいに来たんです。」
「協力?」
「そ、協力です。」
人差し指を立てて、ニッコリ微笑んでいった。
「え〜っと、主に2つあります。
資金援助、それと施設、場所の提供。
ある研究をしたいんでね。」
「だが、この私がそう簡単に協力してやるとでも思っているのか?」
嘲笑うように、目の前の少年を見た。
少年は表情をまったく変えようとはしない。
というか、むしろどこか余裕というものが見える。
「・・・・・・・・ボソンジャンプ。」
ボソッとアキトがつぶやいた。
「な?!なぜそれを。」
ゲンゾウに焦りが見えた。
自分たちが必死になって隠している情報が、こんな少年に知られているとは思いもよらなかった。
「もし協力してもらえるのなら、
ボソンジャンプについての情報を差し上げるといったらどうします?」
「お前、いったいなにを知っている。」
「ボソンジャンプ、CC,遺跡、たぶん今この世界にいるだれよりも知っていると思いますよ。」
ごっくん。
ゲンゾウは生唾を飲んだ。
アキトが提供するという情報は、ネルガルとしては喉から手が出るほどほしいもの。
協力するだけで、もらえるのなら条件として悪いわけではない。
だが、どうしてこの少年が知っているのか、また信じられるものなのか。
分からない今、むやみに協力をするのは悩ましい。
「さて、どうしますか?
俺としては、別にネルガルでなくてもいいんですよ。
クリムゾンでも、ほかの企業でも。」
明らかにこちらを挑発する発言をするアキト。
ネルガルとしては、人を殺してまでも隠したかった情報だ。
もらされるわけにはいかない。
だが、この少年が言っているのはすべて本当のことなのだろうか?
ゲンゾウの頭に一つの疑問が浮かぶ。
「お前の言っていることは信じていいのか?」
ゲンゾウのまなざしがアキトをつらぬく。
「今日会ったばかりで、信じろといっても難しいですよね。」
顎に手を当て、少し考え込むアキト。
ぽんっと、手を叩き何かひらめいたようだ。
「では、今からすることを黙ってみていてもらえますか?
ま、論より証拠といったとこです。」
そう言って、ポケットの中のC.Cをゲンゾウからは分からないように握る。
青白い光につつまれていくアキト。
「な、なんだ?!」
「ジャンプ。」
ぼわんっ
「き、消えた?!」
ゲンゾウの目の前で、アキトはジャンプをした。
しばらく、アキトの消えた場所をボーっと見つづけるゲンゾウ。
今、目の前で起こったことが信じられないといった様子だ。
「これで、信じてもらえますよね。」
背後からアキトの声が聞こえた。
「信じるも何も・・・・・・・・・・・・分かった、協力させてもらおう。」
両手を上げ降参といった感じでいった。
「ありがとうございます。」
それから10分後・・・・・・・
「こんなもんでいいか?」
「ええ、それで十分です。」
交渉終了。
案外早く終わった。
「では、用も済んだことですし、そろそろ帰りますね。」
ソファーから立ち上がるアキト。
ゲンゾウも立ち上がる。
「ご協力本当に感謝します。会長さん。」
「また、来ますね。」
「ああ、わかった。」
アキトは会長室のドアノブに手をかけようとしたところで、何かを思い出したように振り向いた。
「あ、そうだ。一つ忠告しておきます。
裏切りは絶対に許しませんよ。
もし、裏切りでもしたらどうなるか・・・・・・・・・・言わなくても分かってますよね・・・・・・・・。」
圧倒的な威圧感で、会長をつつむアキト。
「!・・・・・・・分かった。お前を裏切ることは絶対にせんよ。」
というか、できるわけないじゃないか。心の中で、ゲンゾウはつぶやいた。
「よかった。話のわかる人で。」
ニッコリアキトは微笑んだ。
だが、ゲンゾウには悪魔の微笑みに見えたという。
「では、また。」
一礼をし、アキトは会長室を後にした。
1人、ぽつんとたたずむゲンゾウ。思うは先ほどの少年のことばかり。
「あの、アキトとか言う小僧。一体何者なんだろうか。
フッ、まぁいい。こちらにも得なことはあるんだ。少なくとも今は協力しておくとしよう・・・・・・・・。」
「それにしても、あの眼・・・・・・・・・・・・・。
ただの小僧にしては、深い。
感情を読み取ることなどできなかった。
何を経験したら、あのような眼になるのか。」
ゲンゾウは虚空を見上げた。
しかし、答えを知るものはここにはいなかった。
「ただいま!」
地球からかえって来たアキト。
「おう、おかえり。」
「おかえり。もうすぐ、ご飯だから手を洗ってきなさいね。」
エプロンで手を拭きつつ、ナツミは言った。
テンカワ家の食卓には、ナツミ特製のオムライスとサラダなどテーブルいっぱいに料理が並んでいた。
ナツミによると、「今日は暇だったから、久しぶりに腕がなったわ。」とのことだった。
もともと料理は大得意なのだ。
「「「いただきまーす!」」」
もぐもぐ、ぱくぱく
ナツミ特製オムライスに大満足のアキト。
食べながらも、笑顔が一向にたえない。
「なぁ、アキト。今日は一体どこに行ってたんだ?」
「お昼ご飯も食べに帰ってこないし。」
ふと、端を止めてハルトとナツミが訊いた。
アキトも口に入っているオムライスを大きく飲み込む。
「ん〜〜っと、ま、内緒かな?」
口の周りに米粒をつけて、小首を傾げる。
なかなかに愛らしい姿。
「そのうち分かると思うよ。」
そう言うと、オムライスを再び食べだした。
いずれ分かるという事ならと思い、2人ともこれ以上訊くのはやめた。
「あ、そうだ。アキト、あなたにいっておきたいことがあるの。」
ナツミが何かを思い出したようだ。
アキトはデザートのアイスに手をかけようとしていたのをやめて、話を聞く体勢となった。
「ハルトさん・・・。」
ハルトは無心に妻の料理を食べていた。そう、彼は今目の前の料理しか頭になかった。
「ハルトさん!」
少し語尾を強めて言う。
それでも、ハルトは食べるのをやめない。というか、聞こえてないみたいだ。
「ハルトさん!!」
まだ食べつづけている。
ぶちっ
ナツミの何かがぶち切れた。
「いい加減、食べるのをやめなさ〜い!!」
言うと同時に、ハルトの食べているオムライスを無理やりとりあげた。
「あ・・・・・・・・なにするんだよ!」
せっかく楽しんで食べていたのをもっていかれたのだから、ハルトは大層ご立腹の様子。
「・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・ごめんなさい。」
だが、ナツミの無言の圧力の方がかなり上だった。
「じゃ、そろそろ本題に入るわよ。」
そう言って、アキトを見るナツミ。
「・・・・・・・アキト、あなたまで・・・・。」
アキトは、ほっぺにクリームをつけ無心にデザートのケーキと向き合っていた。
2人がやり取りしている間、暇だったからデザートでも食べていようと思ったのである。
「まったく、父子そろってこうなんだから・・・・・・・・。」
フゥ、と深いため息をついた。
「でも、とにかく話を進めたいんだけど。」
なかなか、本題に入れないことに少々苛立ちを感じ始めたナツミ。
体から妙なオーラが漂っている。
「ア、アキト、ちょっと食べるのをやめたほうが・・・・・・。」
ハルトが、ナツミが危険な状態なったのでアキトに注意を促す。
アキトのほうもなにやらただならぬ雰囲気が漂ってることに気づき、食べるのをやめナツミのほうを見た。
!!
そこにいたのは、凄まじいまでのオーラをはなつナツミだった。
なにやら、渦を巻いているように見えるのは気のせいだろうか。
「ねぇ、2人とも。わたしの料理を食べてくれるのはうれしいんだけど。
そろそろ、話を聞いてくれないかなぁ?」
ナツミは満面の笑みを浮かべた。
だが、目は全然笑っていない。凄みがある笑顔だ。
「「は、はい!」」
2人とも慌てて、もっていたスプーンをおき返事をした。
「母さんには逆らわん方がいいな。」「ほんと、そうだね。」
「なんか言った?」
凄まじいまでの視線が2人に注がれた。
「「い、いえ、何も。」」
「そう、ならいいけど。」
だが、目はそう言ってない。
「ま、いいわ。とにかく本題に入るわよ。」
ナツミの顔が一気に真剣なものへと変わった。
それに伴って、アキトとハルトも真剣な顔つきとなった。
あとがき
どうも、いもあんです。
文章を書くというのは、難しいものです。
書いては直し、書いては消し、なかなか前に進めない。
しまいには、何を書いてるのか分からなくなってくる。
SSという名の巨大な迷路がそこにあるのです。
といっても、わたしだけが感じてることなのかもしれないんですけど・・・・・。
とにかく、迷いながらもがんばって書いていくんで、
次回も見てくれればなぁって思います。
代理人の感想
迷うのは書き散らすだけではなく、ある程度以上考えて書くなら当然の事です。
ま〜、稀には書き散らすだけで面白いものを書いてしまう人もいない事は無いんですが。(爆)
我々凡夫は迷い悩みながら一歩ずつ昇っていくしかないわけですな。
>ゲンゾウ
恥をかかせおって(謎爆)。