―――――軍の戦艦の一室。

部屋のちょうど真中に置かれた広いテーブルにアキト、キノコと机をはさんでムネタケが座っていた。

「パパ。お久しぶりね。」

キノコが満面の笑みで言う。うわっ、きも!

アキトは瞬時に鳥肌が立った。

ムネタケはというと、平気な顔をしている。さすがは実父。キノコのヘン顔攻撃もなれているのだろう。

「3日前に別れたばかりだ。久しぶりなどではない。」

「ひどいわ。パパ。せっかく会いに来たのに・・・・・。」

目をうるませてムネタケの方を見る。これにはさすがのムネタケにも寒気がした。

「う・・・・・・。わかった。後で相手してやるから、その顔はやめろ。ついでに、どこか。そうだ、食堂ででも待ってておれ。」

「はい、パパ。」

そう返事をすると、キノコは食堂へと鼻歌混じりに出て行った。


残された2人。

「大変そうですね。」

「いや、もうあやつの扱いにはなれとるさ・・・・。」

アキトの言葉にそう返しつつも、どこか遠い目をしているムネタケ。いままで多くの苦労があったのだろう。

アキトもそれ以上は何も言わなかった。




と、おもむろにムネタケは会話を再会した。

「で、だ。アキト君、君に話が・・・・」

「分かってます。あの2人がきてるんでしょ?」



ぷしゅ~~



「はろ~~♪アキト、元気してた?」

「よ!アキト。」

1組の男女が入ってきた。

「はぁ~~~、やっぱり・・・・。」

2人の姿を確認すると、アキトは手を額に当て、ため息混じりにつぶやいた。

その様子に女性の方は不服と思ったのか、頬を膨らませてた。

「何よ~~、久しぶりの再会にため息つくわけ~?」

「いい年してその顔はないんじゃないかな?母さん。」

そう、この女性こそアキトの母。テンカワ・ナツミである。


「いいとしですって?そんな事を言うのはこの口かぁ?」

「いへ、いへへ。ひゃめへよ、かあはん。。」

アキトの頬を摘み上げるナツミ。


「おいおい、そのへんにしとけって。でないと、アキトの口が伸びるぞ。」

「ほうはん!」

さきほどの男、テンカワ・ハルトが妻ナツミをなだめた。

「ふぅ、分かったわよ。あなた。」

ナツミはやっと、アキトの口から手を離した。

「ハッハッハ。君たち親子は相変わらずだな。」

それまで3人の様子を黙ってみていたムネタケが、声をあげて笑った。

「まぁ、とにかく3人とも座りたまえ。」

ムネタケに促され、3人は席についた。


「で、父さんと母さんはなんでここにいるわけ?」

「そんなもん、お前に会いに来ただけに決まってるだろう。」

はっきりきっぱりと言うハルトにまたもため息をついた。

「そうじゃなくて、何か別に目的があってここにいるんだろ?」

今度は真剣に2人の眼を捕らえながらアキトは言った。

ナツミとハルトの顔もいつになく真剣なものへと代わった。


そして、言葉がつむがれる。




「――――べつに、ないわよ。目的なんて。」



どてっ



アキトは盛大にこけた。あれだけの真剣な顔でまさかこの言葉が出るとは・・・・。

アキトは心底自分の両親の考えが分からなくなった。

と、ここで部屋の扉が開いた。


プシュ~~


「お待たせしました。」

軍の将官にはさまれ、プロスとおまけのキノコがやってきた。


「結論は出たのかね?」

「はい、いろいろ協議、検討をいたしました、」

「で?」

「ナデシコはあくまでネルガルの使用物で、その行動に制限を受ける必要はない、ということです。はい。」

ぐいっと眼鏡を上げたからかにプロスが言った。

「な?!」

ムネタケは驚きの声をあげる。


ドォォォォン


「うわぁ。」「きゃっ!」

艦内を激しいゆれが襲った。


「いったい何事だ?!」


ムネタケが部下に尋ねる。


「わかりません!ただ。チューリップが活動を再開したもよう。」

「なに!!」

ただならぬ事態に其の場にいる全員が顔をしかめた。













―――――ナデシコ 食堂

ただいま、ダイゴウジガイによるゲキガンガーの上映中


「くぅ!燃えるシチュエーションだぜ!」

なにやら熱く語るガイ。皆、興味がないのか無視をしている


「みんなぁ!この状況に何か感じないのか!?忍び寄る悪の手先、残された子供達!何とかしようとは思わないのか!?」

「マスターキーないと、この艦、動きませんよ。」

「くっ!」

冷静にルリにつっこまれ、一瞬引き下がった。

が、そこは魂の名前を持つ男。イスの上に立ち上がり、勢いを取り戻した


ごんっ


「ぐわぁ。」

1人の見張りの男が、突然何者かに中華なべで叩かれ、倒れた。


皆、その音に気付き、その何者かに視線を寄せた。

ユリカが中華なべをもってそこに立っていた。

「私、アキト迎えに行ってきます。」





「だって、このままこうしてるのも嫌だし。なにより、アキトとまだほとんどおしゃべりしてないんだも~ん!」

一同あっけに取られた。


ドォォォォン


「へっ?」

突然艦内は激しいゆれに襲われた。












―――――――軍の戦艦


プシュ~

ムネタケと軍の将官たちがブリッジへと入ってきた。


「状況は?」

「チューリップ活動再開。護衛艦クロッカス、パンジーともにチュ―リップに飲み込まれました。」

「よし、ナデシコ発進準備。さ、アキト君。マスターキーをこちらへ・・・・・・・ん?いない!?」


今までなぜ気付かなかったのか、ムネタケは目を見開いている。


ピッ

『ここです。おじさん。』

突然ブリッジの真ん中に通信ウィンドウが開いた。アキトとプロスが操縦席らしきところにいる。

「アキト君??どうしてそこに・・・・。」


『ムネタケおじさん。ナデシコは火星へと向かいます。』

冷静にそして簡潔に用件を言い切った。艦長としての威厳を保って。


「なに?!ナデシコを明渡すわけじゃ・・・。」

『いえ、俺はただ火星に行く前に両親にあっておこうと思って。』

淡々と語るアキト。


『それに、艦長たるもの、いついかなるときでも艦を見捨てるな。そう教えてくれたのはおじさんでしょ?』

「いや、しかし。帰って来れる保証はないのだぞ?!」

『ご心配なく、ちゃんと戻ってきますよ。俺達は、ナデシコはそんなにやわじゃありません。』

アキトは綺麗に微笑んだ。誰もが惚れ惚れするような、そんな顔で。


『では、行きますね。プロスさん。』

『はい。それではごきげんよう。軍の皆さん。』

通信は切れた。

ブリッジはしばらくの間アキトスマイルの効果により、機能を失っていた。



「ふぅ~、さ、戻りましょうか。」

「よし、行こう!行こう!」

「しゅっぱ~~つ!」

アキトの声になにやらプロスではない声が2つ返事を返した。







「・・・・・・・・・ってなんで父さんと母さんがここにいるんだよ!?」

見ればナツミとハルトがうしろで立っていた。

「俺達も一緒に行こうと思ってな。隠れてたんだよ、な。」

「ええ、だってなんだか面白そうだったから。」

お互いにねぇ~っと、首を傾けアキトとプロスの顔を見た。


「はぁ~~、いいんですか?プロスさん。」
「ま、このことについては後程ということで、今は一刻も早く艦に戻らなければ。」


プロスは少々困ったという風に眼鏡を上げた。


「そうですね。」

プロスとアキトの言葉にやったと後ろでガッツポーズをしている夫婦。

「まったく。お?ナデシコの方からエステが・・・・」


操縦画面にナデシコから出てくるエステバリスの姿が映った。

赤いエステバリスである。



ぴっ


『よ~し!艦長!俺が着たからにはもう安心。早く艦へ戻ってくれ!』

暑苦しい男がウィンドウの中で言った。

「は~~。」

アキトは勢いにおされ、気のない返事を返した。


と、うしろからハルトとナツミがウィンドウによって。

「あのぉ、それって陸戦フレームだと思うよ。」

「海じゃ、ちょっとつかえないよねぇ~~。」

『な、なにぃ!!!』

ヤマダは叫びながら、エステバリスは海へと落ちていった。


「大丈夫かな?」

「一応、最高の人材のはずなのですが。。」

今回ばかりは人選ミスをしたのか、との思いがプロスの頭をかすっていった。

「と、とにかく、早く帰りましょう!」

「そうですね。」

プロスはヘリコプターの速度を上げ、ナデシコへの道を急いだ。





「ぴょんぴょん、よく跳ねるわね。」

「ほんとですねぇ。」

ブリッジの前方スクリーンに移る。ヤマダ機を見ながらメグミとミナトは素直な感想を述べた。



プシュッ



「ただいまもどりました!」

「おかえり~。」

駆け込んできたアキト。マスターキーを挿した。

ナデシコのエンジンが活動をはじめる。

「電圧正常。相転移エンジン再起動開始。システム回復。」

「お~る、じゃすと、完璧♪」

OK,安全、完璧、などというウィンドウが次々と出、最後に良く出来ましたの花丸でくくられた。


ブリッジ下段から、メグミがアキトに声をかける。

「あの、ユリカさんが発進許可を求めていますけど。」

「ユリカが?!」




ピッ

『アキト~、ユリカが守るから!』

ゆりかはそういい残しウィンドウを切った。まもなく、ナデシコから飛び立つ一機のエステバリスをブリッジ前方スクリーンが映し出した。



「いっけ~~~!!」


ユリカの叫びと共にチューリップの枝をバシバシ切り落としていく。


「うっそ~。」「まじ!?」

ミナトとメグミの驚きの声があがった。

「ディストーション・フィールドを使った攻撃ですな。」

プロスが冷静にユリカの攻撃を解説した。

「ナデシコ、全速前進。」

「やるの~?」

「やります!」

アキトの強い言葉に一同は素直に従った。




口をあけたチューリップにナデシコがまっすぐ進んでいく。

艦の船首が呑まれていく様子を見て、ユリカはナデシコに急いで通信をつないだ。

『アキト!なにしてるの!危ないよ!!』


だが、そんなユリカの言葉は聞こえていないとでも言うかのように、ナデシコは前進を続けた。


そして、艦のすべてが飲み込まれた。

「アキト!!」

完全に口を閉じたチューリップ。



と、チューリップの重なった部分から光がすこしずつもれだした。


「え?!」


ドォォォン


チューリップは中から四方八方へと飛び散った。中から白亜の戦艦ナデシコが黒い稲妻の余波を残しながら現れた。


「中からチューリップを破壊するなんて・・・・・・」

ユリカは驚きと感嘆をおりまぜたつぶやきを口にした。












――――――――軍の戦艦

ブリッジの正面スクリーンにはでかでかと飛び去っていくナデシコが写っている。

「追いかけますか?」

「いや、追いかけても無駄であろう。」


と、ブリッジの扉が開いた。1人の将官が提督の元へ駆け寄った。

「提督、テンカワ夫妻がいません。どうやら、あの戦艦に乗っていったもようです。」

「そうか、ご苦労。」

それだけ報告すると、ぴしっと敬礼をしてブリッジを出て行った。


「やはり行ったか。」

テンカワ夫妻が艦に乗ってきたときから、ムネタケには何か感づくところがあった。

だが、目的まではわからなかったのだ。


ムネタケはすっと目線を正面スクリーンへと移す。

そして、おもむろに口を開いた。





「すべての答えは火星にある。か。




・・・・・・・・たしか、そう言っていたな。ミスマルよ。」

















<おまけ>

軍の食堂。

「パパ、早くこないかなぁ。」

1人、父を待ちつづけるキノコ。




「はっくしょん!」

「提督、風邪ですか?」

「いや、だれか私の事をうわさしてるんだろう。はて、なんか忘れているような・・・・・。」

顎に手を当て考えるムネタケ。が、

「ま、どうせたいした事ではないだろう。」

と、キノコとの約束はたいした事でないの一言で片付けられた。




食堂ではやはり、ひたすら待ちつづけるキノコの姿が。

が、当然のようにムネタケが食堂を訪れる事はなかった。


「パパのうそつきぃ!!」

その日、食堂から奇妙な叫び声が聞こえたのはいうまでもないだろう。












あとがき

ども、おひさしぶりです。

いや~、なんですかね。しばらく、ぼ~~っとしていたら、こ~~んなにも間があいちゃいました(てへっ)

なんかひさしぶりに感想の方をもらいまして・・・・

で、書いてみよかなって。

そしたら、こうなっちゃいました(笑)


妙に長いし・・・・、場面はころころ変わるし・・・・。

そして、キノコはなぜか乙女ちっくに(爆)

いやはや、まだまだ修行不足です。

しかし、なんとかやっていこうと思うので、気長に見てやってくださいな。


一発ネタで終わらそうと思っていたのですが、続けていこうと思いました。

ですので、今後は大好きなあなたへともどもよろしくお願いします。

では、次回をお楽しみに。

 

 

代理人の個人的な感想

うーむ。

アキトだったらユリカみたいな奇天烈な戦法ではなく、

オーソドックスかつ堅実な戦法で正面からチューリップを撃破するような気もしたんですよね。

ユリカが艦長、アキトがコック兼パイロットではないのですから、

ユリカがコックであるが故の展開、アキトが艦長であるが故の展開を見せてほしいかなと。