金色の瞳・・・
色素が抜けた薄い桃色のような髪・・・
無表情な、それでいてどこか女の子らしい仕草・・・
ラピス・ラズリ 悲しき少女・・・己の運命に抗えず、ただ流され、そして・・アキトに出会った。
それは、運命的な出会いだった。心を閉ざし、幸せを感じることすら無かった少女に、一つの小さな歯車が動き出した。
【テンカワ・アキトとの出会い】
私は今までずっと、生きてきた。心を閉ざし、何の望みも持たなかった私を、生きているというなら、私は確かに、生きていた。
生まれはネルガルという大企業の研究所。
遺伝子細工を施され、無駄のない脳、病気などに対する強い肉体、そして、知識をたたき込まれた。
来る日も来る日も実験、実験。
それが当たり前だと思っていたし、また疑いもしなかった。
様々なことを学んだ。一般的な知識から歴史的な書物まで。
無駄なことは覚えない、一つの知的宝庫が私の頭脳になった。
今日も実験・・・いつもの実験・・だけど今日は、いつもと違った。
黒装束に身を纏った人達が、次々と研究所内に進入し、研究者達を殺していった。
そして、私を見た。あの赤い瞳が。
真っ赤な瞳。怖い瞳。
怖かった。あの冷たい氷のような瞳が、私を文字通り射抜いた。
私は心を壊し、あとはされるがままになっていた。
気がつくと、私は別の研究所に移されていた。
周りには知らない人ばかり。
今日からまた違う一日が始まった。
ここでの実験は、前にいたところよりも、肉体的苦痛が多かった。
精神的苦痛は心を閉ざしていたため、感じなかった。
考えることをやめていたから。
その方が楽だったから。
来る日も来る日も実験実験。
私の他にもみんな実験を受けていた。
苦悶の表情を浮かべ、叫び声を上げながら、怨念の呪詛を並べている。
その中に一人、一際目立った人がいた。
黒い髪に黒の瞳。男の人だ。
その男の人は、血の涙を流しながら、研究者達に呪いの言葉を投げかけながら、手や足から血が流れ、皮が破れ、肉が裂けても暴れ続け、殺してやると叫んでいた。
何がそんなに悲しいのか、何がそんなに憎いのかは解らなかったけれども、私は思った。
ああ・・あの人も、私みたいに心を壊せばいいのに・・と。
そうすれば悲しい思いも、怖い思いも、憎い思いだって感じずに済むのに・・・
なのに、あの人は抗い続けている。
ああ・・バカだな・・・私はそう思った。
そして彼は、研究者によって眠らされた。
そしてまた、彼とは会わなくなった。
私には、またいつもの日常が待っていた。
何も抗うことはない、何も感じることはない・・・どうにもならないんだから・・・
そして日々は過ぎていった。
そんなときだった。私の前に、あの人が現れたのだ。
あの、最後まで抗い続けていた男の人に。
「助けに来た」
男はそう言った。私に向かって。
「・・・どうして?」
私は声を出すのがやっとだった。
「君を助けたかったから」
彼は答えた。顔を黒いバイザーで覆いながら。表情が見えない彼の顔を見、そして言った。
「助けてくれるの?」
「ああ」
「ホントに?」
「ああ、本当だ」
こんなやり取りをしながら、思った。
何故彼は、私を助けてくれるのだろう。何故私を知っているのだろう。
「どうして、私を・・?」
この質問をどう受け取ったのかは知らないが、彼は答えた。
「さあ、どうしてだろうな。なんとなく、気になったからじゃ駄目か?」
「ううん・・いい」
私はそう答えると、彼の方へ歩き出した。
そして彼に触れると、彼の服に、ギュッとしがみついた。
「行くぞ。奴らが来る」
そう言って彼は、私を連れて黒い機動兵器に乗り、その場を発った。
遠くで、何かの爆音が聞こえた。