「ルリちゃん!! ナデシコをブローディアの近くに寄せて!!
ジャンプフィールドに接触していれば、私達も同じ場所にジャンプできるんでしょ?」
「はい!!」
『それは止めろ!!』
ユリカさんの提案を止めたのは、アキトさんでした。
『もう、間に合わない・・・
それに、何処とも知れぬ場所に皆を連れて行きたくはない。
皆の帰りを待っている人が、地球には居るんだぞ。』
「そんな・・・アキトさんを残して帰れません!!」
意味が無いんですそれでは!!
私が・・・私達が何の為に戦ったと思っているんですか!!
それなら、せめて私だけでも一緒に!!
私がそう叫んでいる間にも、ブローディアは虹色の輝きに包まれていきます。
・・・何時ものジャンプとは微妙に違うその光景に、嫌な予感だけが募ります。
異変を察した人達が、急いでブリッジに集まり。
そして、虹色の光芒に包まれた・・・ブローディアを見て固まります。
『・・・ジャンプが最終段階に入ったようだな。』
周囲の変化に目をやり、決められた事実を述べるように平坦な声でアキトさんが呟きます!!
「アキト!!
また皆を置いて行くの!!
あの火星の後継者との戦いの後で、私とルリちゃんを置いて行ったみたいに!!」
ユリカさんの言葉を聞き、アキトさんが顔を上げ―――
『ユリカ!! 俺が何時、諦めると言った!!
皆は地球に帰るべき場所がある、だからこそ俺は一人で消える!!』
『そうはさせん!!』
アキトが一度の別れを告げようとした時、その言葉が割り込んだ。
「「「「「北斗(さん)!?」」」」
『ふざけるな・・・!やっと闘える相手を見つける事が出来たんだぞ・・・!遺跡は遺跡らしく大人しく眠ってろ!俺からアキトを奪うな!!』
『いかん!北斗、離れろ!!』
ダリアがDFSを用いて遺跡からアキトとブローディアを切り離そうとする。それを僅かな期待を持って見つめるナデシコのクルー・・・だが、遺跡はダリアをも取り込み、刻一刻とジャンプの準備を進める。そして次の瞬間。
パシュゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!
ダリアとブローディアは共にその姿を消した・・・。
『異界の果てで・・・』
第一話:始まり
『北斗サイド』
「・・・う・・・」
軽く頭を振って、北斗は起き上がった。
「・・・どこだ、ここは・・・?」
周囲は穏やかな起伏のある草原が広がっている。どこまでも・・・果てが見えないその光景に『少なくとも木連のコロニーではないな』と見定める。とすると、火星か地球だろうか?いや、火星にしてはナノマシンの輝きが空に見えない事を考えると地球と考えるのが妥当だろう・・・とはいえ、生憎北斗には地球に対する知識は殆どない。降りた事自体がピースランドにおける枝織によるアキト暗殺未遂など僅かな回数でしかない。
まあ、地球育ちの人間でもいきなりだだっ広い草原に投げ出されて、そこがどこか即座に見当のつく人間などそうはいないだろうが。
「・・・確か、俺はアキトを助けようとして・・・」
そう呟きつつ、体を起こした北斗はカシャリ・・・という耳慣れない音にふと自分の体を見下ろして・・・絶句した。
「な・・・なんだ、これは・・・!?」
北斗の体は鎧に包まれていた。
白い柔らかい感じを与える鎧は北斗の体にぴったりとフィットし、彼女の女性らしいフォルムを明らかにすると共に、その動きを損なう事はなかった。そして、何故かそれは前から知っているような感じがあった・・・。
「・・・どういう事だ、これは・・・?」
呆然と呟く北斗、その耳に、微かな音が風を伝わって届いた。
「?・・・!これは剣戟の音か!?」
すい・・・と体を起こすと、猛然と北斗はそちらに向けて走り出した。・・・戦闘している以上、誰か人がいるはず。終わった後で話を聞く事も出来るだろう・・・そう考えて。
「あれは・・・」
それなりの距離があったのだが(少なくとも普通の人間なら走るより車を使おうと考える位には)、昂気を用いた北斗はさすがに速く、間もなくその視界に戦場を捉える事が出来た。いや、そこは戦場ではなく・・・略奪と虐殺の現場だった。
豪奢ではないが、品の良い馬車を囲むように騎士らしき格好の男達が必死に防戦しているが、周囲は大勢の無頼漢と思しき男達、騎士達が十名余に対し、百名近くいるだろうか・・・が囲んでいた。中心となる馬車以外は既に護りきれず、後ろの侍女達と思しき人物達の乗る馬車は無頼漢達に襲われ、女性達が襲われている・・・。
その光景を認めた時、北斗の体は既に宙を舞っていた。
「く、くそっ・・・!こんな所で・・・!!」
「諦めるな!姫を護れ!!」
騎士達が必死で防戦するが、何しろ数が違いすぎる。次第に彼らは圧されつつあった。元々最初はこの三倍の数がいたのだが、いきなり丘の陰からの奇襲で半数近くが倒されるか何らかの傷を負い、更に本来なら複数の馬車による列を組んでいたのだが、今では最重要の一台限りという状況である。
『まさか・・・こんな主街道の真ん中でこれだけの集団に襲われるとは!!』
油断、と言ってしまえばそれまでだろう。だが、彼らを責める事は出来ない。主街道は常の警備も厳しく、定期的な見回りが為されているし、それ専門の警備部隊もいる。増してや、ここ最近盗賊集団による襲撃もなかったのだ。
そこまで考えた時、隊長の頭にふと嫌な予感が浮かんだ。
『・・・これだけの集団が今まで見落とされてきた・・・?それも主街道沿いで?』
その異常さに、だ。彼の背筋に冷たい汗が流れる・・・それを考慮に入れて盗賊集団の動きを見ると、一部に確かに整然とした動きが見られる。よく見ると、それらが多数の盗賊達の攻撃に紛れ込ませて、的確な一撃を放ってきている。
『くっ、まさかここまでの手段を取るとは・・・!』
自分達の迂闊さに頭に血が昇りかけるが、全ては今生き残って始めて役に立つ事でもある。だが、この状況では・・・。
例え、自分が死んでも姫だけは渡す訳にはいかない。覚悟を決めるしかない、と思い定めた時、異変が起きた。
いきなり人が纏めて空を飛んでいった。
さすがに唖然として誰もが一瞬動きが止まる。物凄い速度で一直線に丘に向けて空を飛んでいって、それらは次々と丘に突き刺さるようにして叩きつけられ、そのまま絶命した。呆然としつつ、飛んできた方向に視線をやった彼らが目にしたのは、一人の女騎士が更に残りの侍女達に襲い掛かっていた無法者をついでとばかりに投げ飛ばす所だった。こちらも同じようにして丘に激突して命を落とす事になった。
「卑劣な連中だな・・・魂が腐っている」
そう吐き捨てるように呟いたのは無論北斗である。
一方、無法者(?)達はその強さというか人間をまとめて投げ飛ばす、その力に驚いたが、よく見ると文句なしの美女と言って良い女騎士である。そこらの侍女達とて選ばれた女性達であり、単純な美しさだけなら負けていないかもしれないが、その凛とした、ある意味日本刀にも通じる美しさは戦いを知らぬ者には持てぬ美しさだった。
いかに盗賊の類とはいえ、彼らも実戦をこなしてきた。しかも実際に仲間が纏めて片付けられたのを見て、手強い相手というのは理解していたのだが・・・しかし、無手である。・・・生憎彼らは彼女が無手でも文字通り一騎当千である事を知らなかった。
もちろん、先に警護側の騎士隊長が目をつけた一団はさすがに警戒したが、殆どの者は『こっちにはこれだけの数がいるんだ』という本来ならば至極真っ当な思考と男の欲望に従って彼女に襲い掛かり・・・その5分後にその場に立っていたのは騎士の生き残りや北斗、敵側では当初から北斗に警戒の目を向けていた面々だけだった。
「す、凄い・・・」
騎士達は呆然と北斗の戦いを見ていた。
見た所騎士か戦士と見えるが、剣を使っていないし、下げてもいない。だが、その戦闘力は際立っていた。
盗賊達が数に任せて突っ込んでくるのを、全部まとめて完全に見切って一撃を加える。その一撃で盗賊達はその場で絶命するか、空を飛んで死ぬか、そのどちらかを選ぶ事になる。
おおよそ半数が瞬く間に倒された事で、相手は総崩れになり、逃げようとしたが、北斗はそれ程甘くはない。
これがアキトであれば、逃げるなら見逃すかもしれないが、北斗にしてみればこのような不愉快な輩を生かしておく気もないし、それを止めるべき零夜もアキトもいない。結局、その場から逃げられた者は一人として存在しなかった。
「後は・・・あいつらだけか」
そう呟くと、北斗は残る盗賊団の生き残り。当初から彼女に警戒の目を向けていた一団に向けて足を踏み出しかけた。
『大地の力よ、我らに力を貸し与えよ。地に眠りし欠片を分け与え、我が敵を貫く鏃と為せ!』
その時だった。一団の幾人かが一斉に何かを唱え始めたのは。
北斗には意味が分からなかったが、後ろの騎士達には分かった。
「いかん!攻撃魔法だ!避けろ!!」
次の瞬間、一斉に力が解放された。そして、その瞬間に北斗にも危険性が理解出来た。
『魔神丸!!』
「!」
彼らのかざした手に一斉に鉄球が浮かんだかと思うと、そこから高速で鉄片が射出されたのだ。その様を例えるならば・・・そう、マシンガンによる一斉射撃とでも言うべきか。
一般人はもちろん、訓練を積んだ兵士でも瞬時に穴だらけにされて息絶える事必死の攻撃であった。・・・あくまで普通の人間が相手ならば。
生憎北斗は、並の人間ではない・・・本来なら軽く避け切ったであろうが、それでも魔法というものを経験した事が
ないが故に反応が一瞬遅れた。そして、それが彼女に魔法の直撃を浴びせる結果となった。
『殺った!』
相手はそう思っただろう。
『殺られた!』
と騎士達は思っただろう。
だが、弾丸の豪雨とでも言うべきその攻撃が終わった時、そこには・・・無傷の北斗が静かに佇んでいた。
「!!そ、そんな・・・馬鹿な!!」
誰もが思わず呆然と呟く中、北斗自身は先程の瞬間を思い出していた。
自分の動きが遅れた為に攻撃を受ける、となったその瞬間、北斗の鎧についた四つの宝石が鎧から放れ、結界を生み出し、彼女を完璧に護ったのである。それはまさしく・・・。
「四陣・・・お前たちなのか」
北斗の声に反応して、鎧の各所についた四つの宝石が淡い光を放つ。
しばし呆然としていたが、それでもトドメを刺せなかったと見ると慌てて再度の詠唱に入ろうとした。だが、今度はその危険性を理解した北斗がその時間を与えるはずもなかった。
そして・・・一旦北斗が本気になった時、その攻撃に耐えられる者はいなかった。
「本当にありがとうございます」
騎士隊長は北斗に深く頭を下げた。彼女のお陰で姫を護れた事に安堵していた。
「いや、礼など・・・」
北斗自身は別に礼をされたくて護った訳ではなかったし、別にこのまま立ち去っても良かったのだが、何分現在の場所も分からない上、自分が酷い方向音痴だという自覚位はある。更に言うなら、この格好がどうやら自然らしい上、魔法などというものが使われている点を不審に感じていた。
はっきり言ってしまうなら、あの程度の魔法なら銃を使用した方がいい。
呪文の詠唱の時間分早く行動出来るし、おまけに行動が分かりやすすぎる。実際、騎士達も詠唱を聞いた時点で魔法を使う、と気付いていた。
「ところで一つ聞きたいのだが・・・ここはどこだ?」
北斗が真剣な顔で聞くと、さすがに騎士達もあっけに取られた顔になった。まさかこんな事を聞かれるとは思わなかったのだろう。怪しまれると拙い。そう感じた北斗は取っておきの切り札を切る事にした。
「いや、実は私は酷い方向音痴でな・・・本来ならとうに目的地に着いているはずなのだが」
それでも完全に相手の不審を払うには至らなかったかもしれないが、騎士隊長からすれば相手は命と誇りの恩人であり、答えた所で大して問題のある事でもない。少なくとも、彼女が敵なら自分達では敵うはずもないし、大体別の事・・・そう、例えば馬車に乗っている人物の確認をしてくるだろう、と思い、素直に答えた。
「ええ、ここはミスマル連合王国ネルガル公国領の公都ナデシコから数km離れた主要街道という事になりますね」
「・・・成る程・・・連合王国?公国・・・?」
聞き覚えのある名前に納得しかけて、はたと気付いた。ネルガルは企業のはずだ。加えて、ミスマルという名は確かナデシコの艦長の名前がそうだったはずだが、連合と言えば地球連合のはずだ。連合王国などという名は聞いた覚えがない。
(なお、イギリスの正式名称はグレートブリテン及び北部アイルランド連合王国であるが、ここでは関係がないので省く)
「・・・どこだ?そこは?ここは地球ではないのか?」
騎士達も不審な顔になった。
「あの・・・ガイアの四大大国の一つを知らない、のですか・・・?」
「・・・ガイア?」
さすがに双方とも困った顔になった。騎士達にしてみれば、自国の名前やそもそも大陸の名前を知らないという事自体想定していなかったし、かといって、嘘を吐いているようには見えない。最も、それは北斗にしてみても同じ事だった。
だが、よくよく考えてみれば、一つだけ思い当たる事があった。
それはボソンジャンプの性格にある。鎧を纏った騎士達、彼らの乗っている馬(幾らなんでもそこまで地球の発展が遅れているとは思えない)、そして魔法。これらから考えられるのは・・・ボソンジャンプによって過去に飛ばされたか、或いは自分の知らない異世界に飛ばされたかという事である。
自分の昂気という現実があるから、過去に飛ばされたという可能性もないでもなかったが(魔法が使い勝手から自然消滅した場合)、どちらかと言えば、異世界に飛ばされた可能性の方が高いかもしれない。
それを実感したのは・・・夕刻になり出し、空に見えてきた・・・二つの大小の月だった。
結局、双方とも困惑状態に陥っていたのを止めたのは馬車の中の存在だった。
騎士達が頭を悩ませている内に一際豪奢な馬車の扉が開いたのだ。
「!ひ、姫様」
我に返った騎士隊長が慌てて姫と呼んだ相手を押しとどめようとするが、中の人間はその行為をたしなめた。
「命を救って頂いた相手に対して礼の一つもないのは失礼でしょう・・・それにその人からは邪気は感じられません」
それを聞いた騎士達は一斉に警戒を解いた。つまりはそれだけ彼女の邪気とやらを感知する力に信頼を置いているのだろう・・・そう北斗は判断したが、それは姫と呼ばれる相手の姿を確認するまでであった。
「ありがとうございます・・・私はミスマル連合王国第二皇女ルリと申します」
そう語る女性の姿を北斗は・・・呆然と見つめた。
ルリと名乗るその女性の姿は間違いなく己の世界での・・・。
「ラピス・・・ラズリ?」
北斗にしては非常に稀な事に呆然とそう呟いていた。
『後書き』
初投稿!(Actionでわ)
今回の作品は『ドラ雄』さんの絵を見て、思い立って書き始めた作品です。純白の鎧姿の北斗を見て、『彼女を主人公にしてSS書きたいなあ』とふと思い立ち、ドラ雄さんに感想と共に了承を求めるメールを送って待つ事しばし。
快く了承を頂き、書き始めて・・・さて、何故かは知らないけれど、筆の速度を低下させる事が色々あった・・・。
納得いかず消したのは序の口、仕事は急に滅法忙しくなるし、交通事故は起こしてしまうし(怪我人なし)、果ては入院する羽目に陥るし・・・やっとこさ書きあげた次第。
さあ、後は後書き書いて送るだけ・・・
え?休日出勤が急に決定?仕方ない来週書いて送ろう。
(翌週になって)・・・えらく体がだるい・・・げ、熱38度出てる・・・。
・・・まあ、呪われているかの如く延々と重なったですよ、ははは・・・ちなみに全て実話です。
代理人の感想
ふむふむ、面白そうですね。
時ナデ一部の続きなのにアキトが出てこないところが特に(爆)。
北斗というキャラは好きなので活躍を期待しています。
後、北斗の一人称は「俺」なんですが・・・
わざわざ言葉遣いを改めるほど気は利くキャラでもないし(爆)。
>そう北斗は判断したが、それは姫と呼ばれる相手の姿を確認するまでであった。
これだと「相手の姿を確認した途端、北斗は自分の判断を覆した」という流れになってしまいますね。
実際には単に相手の姿に驚いているだけなので不適切かと。