皆さんこんにちは。天河明乃です。前回はたくさんの敵との戦いや、巨大化から戻るまでずっとアサルトピットに座りっぱなしだったりしてホントに大変でした。巨大化はあの後三分ほどで戻ったのが救いでしたけど。

 そしてその後格納庫に戻った時にみんなが出迎えてくれてくれたんですが・・・

「お〜やっと戻ったか。ごくろうさん」

 と言って、私と横島くんにジュースを放ってくれるリョーコちゃん。

「ったく、臨時のくせに俺より目立ちやがって!・・・でももう一回あの斬艦刀見たいな〜・・・」

「ああいいよ・・・」

 なんですって?

 ジロリ

「あ・・・やっぱりだめみたいです・・・少なくとも宇宙では・・・」

 私が一睨みするとあっさり意見を取り下げました。当然です。宇宙ではまた複座になる確率が高いですからね。・・・でも、そんなに私の顔、怖かったんでしょうか・・・?

「でも2人ともホントにすごかったねー。わたし驚いちゃった。もうこーんなカンジ」

 といって目を大きく見せるヒカルちゃん。その眼鏡も小道具だったんですねー。

 と、なごんでいたら・・・

 グラッ

「だーーーッ!!なんだー!!床、床が傾いてる!?」

「ああッ!?床が壁!?」

「重力制御ぐらいちゃんとやれーッ!」

「・・・ナデシコの重力制御ってオートじゃないのね・・・」

 なんだかわかりませんが、今ナデシコは大きく傾いているようです!ああ、かく言う私も床を滑って壁に・・・じゃなくて床に激突・・・!!

 ぼすっ

 ・・・・・・・!・・・あれ?ぼす?

「う・・・だ、大丈夫?明乃ちゃん・・・」

 あ・・・横島くん・・・

「ご・・・ごめんなさいっ!!重いですよね!?すぐどきます!!」

「いやいやなんのなんの。・・・・・・それにいい感触だし・・・」

 はい・・・?感触・・・かんしょ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!!!

「な、ななな・・・!?なにをーーーっ!?」

 横島君の手が離れましたが、私はもう動転してなにがなにやら・・・!?

「ふ・・・偶然横島君がアキノちゃんの胸に触れていたとでも言い表すべきかしら・・・」

 言い表されても!!

「うむ・・・でかかった・・・あいかわらず」

 !!!!!なんてことをいうんですかーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!

「(ひそひそ)あいかわらずだってー」

「(ぼそぼそ)やっぱりあの二人はそういう関係だったか・・・」

「(ひそひそ)え?そうじゃないって意見あったのか?」

「(ぼそぼそ)鈍そーなヤマダ君さえこの意見・・・」

「(ひそひそ)ダイゴウジ・ガイ・・・」

「(ぼそぼそ)ってことはやっぱりそういう関係って事か?・・・意外っつーか似合ってるっつーか・・・」

「(ひそひそ)はたしてそうかしら・・・?」

「(ぼそぼそ)イズミ?」

 ああああああああ・・・よく聞こえないけど好き勝手言われているような・・・!?

「明乃ちゃん」

「な、なんですか?」

「前から思ってたけど、明乃ちゃんって外見からもでかいってわかるけど触れてみるとさらにでかい。しかも100%天然素材だと・・・」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・#


 ボゴン!!!


「ウゴフゥッ!!!」

 こ、このひとは・・・!!

「(ぼそぼそ)おおっ!すげえ!10cmの爆弾だぜ!!」

「(ひそひそ)注目すべき点はそこじゃないよ!あのプロポーションでさらに着やせしてるって!ボインちゃんだねー。うらやましー」

「(ぼそぼそ)おやじくさい言い回しすんなよ・・・」

「(ひそひそ)メンゴメンゴ」

「(ぼそぼそ)あいうえお・・・それは母音・・・プッ・・・くくくくく・・・」

「(ひそひそ)そういや、あの天然素材ってどういうことだ?」

「(ぼそぼそ)パットもシリコンも入ってないって意味じゃないかなー」



 ・・・もう好きに言っててください・・・

 それより・・・そんなことより、ブリッジに行かなくちゃ・・・!








GS横島 ナデシコ大作戦!!





第十話「イネス、来日(してないけど)」





 ついに火星に降り立ったナデシコ。空には散布されたナノマシンが輝いている。オーロラのようにも見える。


 ブリッジでは、今後の進路についてプロスが説明していた。


「では、今からナデシコはオリンポス山に行ってもらいます」


「そこに何があるんですか?」


「ネルガルの研究施設です」


「生存者が先じゃないんですか?」


「わが社の研究施設は一種のシェルターも兼ねておりまして、生存者がいるならばそこにいる可能性が一番高いのですよ」


「なるほどー」


「では、これから研究所に向かうメンバーを発表する」


 と、ゴートが口を開きかけた時、


「あの、すいません」


 明乃だ。心なしか思いつめた表情をしているようだ。


「何だテンカワ」


「あの、わたしにエステを貸してもらえませんか?ユートピアコロニーをもう一度見ておきたいんです。

 すぐに帰ってきますから!」


「駄目だ。そんな勝手は認められん」


「御願いします!故郷なんです!!

 壊滅して何も残っていないとは思います。ナデシコにとって何の意味も無いことだともわかっているつもりです・・・

 でも、でも・・・!もう一度だけ、見ておきたいんです・・・・・・!!」


「しかしだな・・・」


 ゴートもなんとなく困った顔をしている気がする・・・


「かまわん。行ってきなさい」


「提督!?」


「私はお飾りの提督でしかないが、実質的な権限は艦長よりも上のはずだね?」


「はい。それはそうですが・・・」


「ならば問題ないはずだ。そういう『契約』なのだからな」


「む・・・」


 プロスとゴートも退かざるを得ない。そしてフクベは明乃のほうに向き、


「と、いう事だ。行きたまえ。何も問題は無い」


 明乃の顔が喜びに輝いた。


「は、はい!ありがとうございます!!」


「ただし。危険があればすぐに戻ること。無理な戦闘は行なわないこと。これが条件だ」


「はい!!」





 ――――――――――





「で、何で横島さんまでついてくるんですか・・・?」


 火星の大地を二体のエステがズンズン歩く。フレームは砲戦能力を重視した重機動フレームだ。


「いや〜一度明乃ちゃんの故郷を見ておきたかったんだな〜。

 それに、一人より二人のほうが安全だろ?」


「まぁいいですけど・・・」


「そうそう。私も興味ありました」


 と、横島のシートの後ろから、ひょいとメグミが顔を出す。


「・・・・・・・・・え?」


「どーしたんだすか?ただでさえ緩い顔がさらに緩んでますよ?」


「・・・・・・・・・ッだーーーーーーーーーーーッ!!どこから入った!?どーやって入った!?」


「え?そりゃあ、外から、無理矢理開けて入ったに決まってるじゃないですかー?」


「・・・いま、不穏な台詞が聞こえたような気が・・・」


「空耳ですよ」


 そのとき、明乃機のほうからなにやら黒いオーラとプレッシャーが漂ってきた。


「へぇ・・・女性同伴で遠足気分ですか?優雅ですねー・・・」


 声と視線は氷より冷たい。


「いや違う!違うって!知らない間に侵入してたみたいで!マジで!!」


「いくらなんでも、シートの真後ろの狭い部分にいる人に気付かないことなんか無いと思いますけど・・・?」


「いや、ほらだって、只者じゃないし、気配を完全に絶つ術の一つや二つ・・・!」


「ありますよ(あっさり)」


「「え!?」」


「私の108個の隠し技の一つ、気配絶ち其の一です」


「108個!?」


「人の煩悩の数だけ!?」


「・・・と言うのは流石に言い過ぎで、本当はせいぜい80個くらいです。私もまだ未熟ですから。

 でもゆくゆくは、108個まで増やして見せます!」


「あ、それはそうですよね!108個なんて・・・一瞬信じちゃったじゃないですかー」


 明乃はあからさまに安堵の表情を浮かべていたが、


(・・・・・・今だけでも80個はあるのか・・・?しかも増えるんかい・・・)


 自分のすぐ後ろにいる人物に、とてつもない不安を感じてしまう横島だった。





 ――――――――――





「・・・問題なんじゃないですか?」


「なにがですか?」


 ここはナデシコブリッジ。上の会話は、いつの間にかメグミが明乃(実際は横島)に付いていったことに対してである。


「メグちゃんですよ!持ち場を放棄してアキノに付いていって!」


「いいんじゃない?敵さんもいないみたいだし」


「・・・うむ・・・そうだな。たいした問題は無いであろうしな・・・」


「そうですな・・・」


 プロスとゴートは珍しく歯切れが悪い。


「む〜!じゃあ私も行っていいですよね!?艦長の1人や2人、いなくたって・・・!」


「「それはは駄目だ(です)」」


 あたりまえだった。


「あーん!!メグちゃんだけズルイ!ズルイー!」


「「・・・・・・・・・・・・・・・」」


 ユリカが喚きだしたが、プロスとゴートは無視を決め込んだ。拡声器いらずの声を聞かされているに関わらずだ。


 ・・・もちろん、メグミが怖いからということは言うまでも無い。





 ――――――――――





 明乃機が足を止める。人の気配が無いのは同じだが、多くの瓦礫がそこかしこにある。


「・・・・・・ここが、ユートピアコロニー・・・いえ、ユートピアコロニーがあった場所です」


 言いながらエステを降りる明乃。それを見て横島とメグミもエステから降りる。


「・・・なんにもないですねー。あるのは瓦礫ばかりですか」


「・・・そうですね・・・でも、やっぱりどこか懐かしい気もします」


 明乃は瓦礫に近づき懐かしそうな顔をする。


「明乃ちゃん・・・」


「ここも見覚えがあります・・・ふふ、そういえば昔はよくユリカと遊んでました。ユリカとの思い出は、ユリカのわがままでひどい目にあったりとか、ユリカのわがままに付き合わされた結果、なぜか私だけ怒られたり、そういうのが多いですが・・・クスッ、ユリカってほんとに変わらないなぁ・・・」


「・・・・・・」


「ここだけの話ですが、ユリカが地球に行くことになった時、心の中で快哉を上げてたんです。ユリカの前では押さえてましたけど」


「ふむ、よっぽど苦労してたんですね」


「はい。今となっては良い思い出ですが」


 それっきり黙りこむ。そして、あたりを見回す。


「何か探してるんですか?」


「ええ・・・以前このあたりに墓地があったんですが・・・」


「墓地・・・」


「はい。私の両親のお墓があったんですが・・・

 まぁ町がこれだけ壊れてるんですから墓地が無くなっていてもおかしくないんですけど・・・」


「「・・・・・・・・・・・・」」


 立ち尽くす明乃の姿に、さすがのメグミも黙り込む。


 と、その時!


 ミシッ!ミシミシッ!!


 地面にひびが入る音が。下は空洞になっているのか、崩れ落ちそうになっている。


「!あぶない!!」


「くっ・・・!」


「え?え?」


とっさに反応する横島&メグミと、何が起きているのかよく解っていない明乃。どっちにしろ気付いた時には手遅れだったので意味は無いが。


「ち・・・!私としたことが、油断しすぎました!」


 悔しそうに歯噛みするメグミ。だが、その反応速度をもってしても落下の運命からはぎりぎり逃れることが出来ず、滑り落ちていった。


「きゃああああああ〜!」


「やっぱり修行が足りないてことかなー?」


「って言うか、落下しながらでも余裕あるなー!メグミちゃんは!!」


 横島もな。





 ――――――――――





 で、穴の底。地上からだと暗くて解り辛かったが、幸い、落ちて死ぬような高さではなかった。頭上には落ちてきたであろう穴が見える。


「ててて・・・明乃ちゃん、無事〜?」


「あ、はい。なんとか・・・」


「私も無事です」


「そうか・・・」


 横島は安堵のため息をついた。

 そしてあたりを見回す。人口の通路のようだ。前にも後ろにも道が続いている。真っ暗というわけではないが、薄暗くて奥は良く見えない。


「ふむん。地上への出口があると良いんですが。ま、いざとなれば横島さんの文珠を使えば問題ないですよね」


「・・・ギリギリまで使いたくないんだけどな・・・」


(前の戦闘のときには派手に使ったくせに・・・)


「ま、とりあえず先に進みましょうか」


 などと話していると、


「あら、客なんて珍しいわね。どちら様かしら?」


 フードで顔がよく解らないが、声からして女性のようだが。


「「え?」」


 思わず間抜け面を作ってしまう横島と明乃。


「・・・これはビンゴですか。あなたは?」


「私?私はイネス・フレサンジュ。

 ・・・あなたたちも名乗ったらどうかしら」


「ス、スーパーモデルーーーーーっ!?」


 神速の踏み込みからイネスの手を握る横島だが、首筋に感じた冷たい感触に台詞途中で停止する。


「あの・・・わたくしの首に押し付けているものはなんでせう・・・」


 青ざめながら両手を上げる横島。


「メスよ。ちなみにモリブデン合金製」


「(それは本当にメスなのか?)・・・いつどこから出したんでしょうか?」


「つい先程、袖からよ。

 他に説明は必要かしら?」


「しかたなかったんや・・・ミナトさんに続くお姉さんキャラやから・・・」


「何をわけのわからないことを・・・」


 2人のやり取りを見ていた明乃とメグミは、そっと(メグミはおもいっきり)溜息をついた・・・





 ――――――――――





 そして横島たち四人は地上に出た。イネスがナデシコに乗るのに良い顔をしなかったからだ。そこで、イネスに詳しく説明してもらうためにナデシコに足労願うことにしたのである。


「んじゃーナデシコに帰ろっか」


「その必要は無いわね」


「え?何でスか?」


「・・・来てるもの。お迎え」


 その言葉に後ろに振り返ると・・・


「・・・・・・なんでユリカが・・・」


『やっほーアキノ!心配だから迎えにきちゃった!』


 そんなユリカを見て、「嘘つけ!」と、心の中で呟いた人が多く存在したことは言うまでも無い。





 ――――――――――





「お断りよ」


「はい。だからそのわけを訊いてるんですが」


 このナデシコは人命救助も目的の一つである。もし生存者がいるのなら喜んでナデシコに乗ることだろうと、クルーのほとんどは漠然と思っていた。だから、明乃にしてもユリカにしても、助けは要らないというイネスの発言は、理解し得るものではなかった。

 ちなみに、横島は地球以外の惑星の土を踏むのは初めてだったので(月は衛星なので)、着陸したナデシコ付近でぼけっとしていた。


「わけ?わけを聞きたいのなら説明してあげる。

 このナデシコに搭載されている相転移エンジン・・・そしてディストーションフィールドの開発者の一人の私が断言するわ。このナデシコ一隻程度じゃ、火星の木星蜥蜴を駆逐することはおろか、火星を出ることさえ無理ね。そんなものに乗って無駄死にするのなら乗らないほうがマシ。それがこの艦に乗らない理由よ。

 あ、ちなみに、他の人も私と同じ意見だから」


「でも、私たちはたいした被害も出さずに火星に来れました!だったら全滅させるのは無理でも生きて帰ることくらい・・・!!」


「へえ?でもそれは火星の敵じゃないんでしょ?」


「何が言いたいんですか?」


 弱いと言われているも同然なのでさすがにむっとしている明乃。そこにルリから敵の接近が告げられた。


「艦長、敵です。これは・・・・・・敵戦艦12機、無人兵器およそ2300機」


「「「!!!」」」


 火星直前の戦闘よりも遥かに数が多い。


「第一次戦闘配備!!

 先手必勝です!!ミナトさん、グラビティブラストは!?」


「いつでもオッケー!」


「グラビティブラスト、発射ぁ!!」



 キュオオオオオオオオオン!!



 密集した無人機の中に、吸い込まれるように黒い閃光が炸裂した。いくつもの爆発光が見える。


「やったあ!!」


 大きく湧き上がるブリッジ。だが、


「いえ、まだよ」


「無人兵器、150機ほど撃墜したようです。ですが、敵戦艦はほとんど無傷。

 ・・・!敵チューリップ、更に戦艦を吐き出しています」


「えええっ!!」


「やっぱり無理だったようね・・・」


「敵艦隊、前進してきます」


「!!急いでディストーションフィールドを展開してください!!」


「待って!地下には私の仲間がいるのよ!?押し潰す気!?」


「あ!・・・では、いったん浮上、そしてフィールドを・・・」


「ごめん・・・急には飛び立てないみたい・・・

 頑張ってるんだけど後五分は・・・」


「そんな・・・う・・・」


 苦悩するユリカ。だが、ピンチはそれだけではなかった。


「あああ!!」


「あ、アキノ?こ、今度は何!?」


「イネスさんの仲間だけじゃありませんでした・・・」


「な、何が?」


「横島くんよ、ユリカ・・・横島くんもナデシコの近くにいるのよー!!」


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「「「はいぃ!?」」」


「何で横島クンが外に!?」


「火星が珍しいからまだ外に居たいって・・・」


「わお・・・」


「どうするの、艦長?フィールドを張れば私の仲間は生き埋め、張らなければこの艦が沈むわ」


「・・・・・・・・・・・・」


「ゆ、ユリカ?最新なんだしちょっとやそっとじゃ沈まないよね?横島くんを殺すなんてこと、言わないよね?」


「・・・・・・・・・・・・」


「・・・残念だけど、あれだけの数の敵の攻撃に耐えるなんて不可能だ・・・

 そして勝手に外に出ていた横島は自業自得だ。

 ぼく達の任務は救助だけじゃない・・・ユリカ、艦長はこういう時どうするべきか、わかってるよね・・・?」


「・・・・・・・・・・・・」


「艦長、ご決断を」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・アキノちゃん、だっけ?横島って子が外にいるんなら呼べばいいじゃないの?

 ・・・もう間に合わないと思うけど」


「!!・・・(ピッ)横島くん!?横島くん!!聞こえますかー!?」


「艦長、ナデシコ、ロックオンされました」


「艦長!」


「ユリカ!もうちょっとだけ待って!!」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 そして、口を開く。




















「・・・・・・ディストーションフィールド・・・展開・・・・・・・・・」





 ――――――――――





 時間はちょっとさかのぼり、横島は自分のエステの横に寝転がっていた。


(火星って・・・もっと赤いもんだと思っていたけどな・・・テラフォーミングの結果らしいけど・・・)


 今の横島は、たまに見せる何を考えているかわからない無表情だ。


(でも赤くなくてよかったかな・・・)


 いろいろ一人で考え込む横島。だがその脳はもともと難しいことを考えるのには向いていないのか、だんだん眠くなってきた。


「ふぁ〜〜〜〜〜あ・・・ねみぃ・・・」


(寝るのは夢見が悪いから・・・嫌なんだけど・・・)


「・・・・・・・・・・・・」


 うつらうつらしている。後もうちょっとで眠ってしまう・・・と、そんな時、


 ピッ!


(ん・・・?)


 いぶかしむひまも無く、


『横島くん!?横島くん!!聞こえますかー!?』


「ぶわっ!!いきなりなんだよ明乃ちゃん!」


『早くナデシコに戻ってください!』


「なんで?」


『敵襲です!!って言うか、そのままじゃナデシコのフィールドに潰されちゃいますよ!!』


「!?」


 即座に周りを見る。確かに敵の群れが見える。


「わかった!すぐに戻る!」


 言うが早いか、とっさにエステに乗り込んでナデシコに戻ろうとする。だが、


『ユリカ!もうちょっとだけ待って!!』

 横島に向けたものではない、明乃の切羽詰った声。


「!!」


 その声を聞いたとき、横島の体は勝手に動いた。無意識のことだったが・・・


『中』『和』―――――!!





 ――――――――――





 敵の群れから放たれた攻撃が容赦なくナデシコに降り注ぐ。だが無傷とは言わないまでも、そのほとんどはディストーションフィールドに阻まれた。しかし・・・


(殺しちゃった―――――)


 自分の一声で。


(助けに来た人たちを。横島さんを―――)


 しかもそれは、自分の軽率な行動の所為で。


 だが、


「・・・・・・信じられない・・・・・・」


(え?)


「よ、横島くん・・・・!!」


 急いでモニターを見る。そこには、エステに乗った横島が(急いでいたのでアサルトピットは開いたまま)光る文珠を掲げていた。


「ちょっと、どういうこと!?何でフィールドの下半分が作動してないの!?今の技術じゃ一部分のみの作動なんて出来るはず無いわ!」


「おそらく・・・横島さんが文珠を使い、フィールドの下半分を中和、あるいは無効化してるんでしょうね」


 さらりとメグミがコメントする。


「な・・・なによそれ!?そんなの人間技じゃ・・・だいいちもんじゅって・・・?」


 未知との遭遇に混乱するイネス。と、そこへ、


「艦長!飛べるわ!!」


「!!横島さん!急いでナデシコに戻ってください!撤退します!!」


『え!?りょ、了解!!』


「横島さんが乗り込み次第、全速力で敵を振り切ってください!」





 かくして、死者こそ出さなかったものの、ナデシコは敗走した・・・





 ――――――――――





 何とか敵を振り切ったナデシコ。だが依然として危機は去っていない。むしろ、悪化していた。

 撤退する際の損害で、大気圏の脱出は不可能、増えつづける敵、問題は山積みだ。


「これでわかったでしょう?最強の武器のグラビティブラストは敵のフィールドに阻まれ一撃必殺とはいかなくなり、逆に敵の集中砲火で大きなダメージを受けたわ。しかも敵はまだ増えてる。勝てない理由がわかったかしら」


 ぼろ負けした事実とその論調に誰も反論できない。文珠でどうこう出来る数でもない。


「では、この艦長の能力に今後を期待するとして・・・」


「「「「すると、して・・・?」」」」


「さすがにお腹がすいたわね。そこの・・・えーとアキノちゃん?食堂まで案内してもらえるかしら?」


「ええ・・・いいですけど」


 何かアイデアが出るのかと期待した面々だったが、その言葉にがくっとなってしまった。


「まぁこうなったら仲間のところに戻れとも言えないし、一蓮托生になっちゃったから、いいアイディア期待させてもらうわ」


 言い残し、明乃と共に食堂に向かった。





 食堂への道すがら。


「・・・・・・」


「不思議ね・・・なんだが明乃ちゃんを見てると、懐かしい感じがするのよね・・・」


「はあ・・・そうですか?」


「気のせいかもしれないけどね」


「はあ・・・」


 それっきり会話が途絶えてしまう。


 〜中略〜


「ここです」


「あれ?明乃ちゃんにイネスさん?」


「やっほーです。ちょっとイネスさんの案内に・・・

 あっ、今日は私もお客さんになってみます。横島さんの手料理、あんまり食べたことありませんから」


 名案とばかりに手をぽんと叩く。


「え〜?俺ってまだ明乃ちゃんにかなわないってのに・・・」


「うふふ・・ホウメイさんに代わって、私が味をみてあげます!」


「って言うかあなたたち・・・もしかしてパイロットとコックの二足のわらじ?」


「ええ。本職はあくまでコックで、パイロットの方は臨時なんですが」


「その割には毎回戦ってるけど」


「ふ〜ん・・・そういえばあなたさっき、なんか変な力で私の仲間を助けてくれたわね?

 ・・・その力、ちょっと興味あるわね」


 このとき、横島がぶっ飛ばされるのが確定した・・・(今回二回目)。


「俺もあなたに興味津々っスーーー!!前菜に俺を頂いてくださーーーい!!」


 いつもどうりぶわっと飛び掛る。横島のいた場所には上着が残るだけだった。ズボンを穿いたままなのは、ルパンレベルに達してないからか。はたまた横島なりの慎みか。・・・だからなんだ。


「何で服を脱ぎますかッ!!!」



 ドゴッ!!ズガン!!



「らぶふぉえばッ!!」


 神速でイネスと横島の間に割り込み、顎にホウオウアッパーを炸裂させる。二回目のズガンは天井に激突した音だ。


「・・・・・・」


 自分の前方で突如巻き起こったバイオレンスの嵐に、思わず引いてしまうイネス。


「おいおいテンカワ。天井の修理は手間がかかるから、浮かせ技は控えろって言ってるだろ?」


「あ、ごめんなさいホウメイさん」


 周囲の人間が平然と処理しているので、イネスは一瞬自分の正気を疑ってしまった。


「ねえ・・・そこの人」


「あ、なんですかー?」


 応じるのはホウメイガールズの一人のジュンコ。


「なんか誰も平然としてるけど・・・もしかして、これは日常・・・?」


「はい。そうですよ。日常どころか食堂名物ですね。これは。いつもならそろそろ復活するはずですけど・・・」


 言い終わるか終わらないかのところで、むくりと起き上がる横島。


「明乃ちゃ〜ん・・・今日のはちょっときついんじゃないの〜?」


「そうですか?そんなことより早く食事を作ってください。

 私はあんかけチャーハンで。イネスさんは?」


「あ、ちょっとまって・・・」


 今までの経験とか知識が全部否定されたようで、少しだけ人生について考えてしまう。


「ほんとに頑丈ですよね!壁にめりこもーが天井を突き破ろーが、すぐに復活しちゃうんですから」


「!?」


 思わず壁を叩いて硬さを確かめてしまう。やはり硬い。しばし呆然としたイネスだったが、すぐに笑いがこみ上げてきた。


(面白い・・・面白いじゃないの!研究材料にはもってこいってやつ?うっふっふっふ・・・)


 よからぬ笑みを浮かべた後、


「あ、横島君?私は火星丼で御願い」


 順応性は、それなりに高かった・・・










 続く。









 イネス先生の、なぜなにナデシコ出張版


 ふ・・・ふっふっふっふっふ・・・・・・ついに、ついに出番よ!!おーーーーーーーーーーっほっほっほっほっほーーーーー!!


Q1・今回の明乃の技は?

1、10cmの爆弾

 登場作品「B,B,」。主人公の高樹リョウ(漢字変換できなかった。あだ名はB,B,)の持つ必殺パンチ。10cmという近距離から放っても超絶的な破壊力を持っているわ。主人公はボクサーなんだけど、一時期このパンチを使い、戦場で多くの敵兵を殴り殺していったわ。


2、ホウオウアッパー

 登場作品「ジョイメカファイト」。ラスボスのホウオウの必殺技の一つ。しゃがんでからアッパーを放つとてもシンプルな技だけど、威力はこのゲーム中で1、2を争うわ。

 っていうか、この作品は、今は懐かしきファミコンの格闘ゲーム(しかもSFCが発売された後の)。一体どれだけ知っている人がいるんでしょうね・・・?作者的には超名作ゲームだと思ってるんだけど・・・


Q2・横島は何でイネスの名前を聞いたときモデルと間違えたの?

 私がモデルに見えたから・・・じゃなくて、同じ名前の有名人がいたからでしょうね。その人の名前は、「イネス・ドゥ・ラ・フレサンジュ」。貴族の家柄に生まれ、シャネル専属スーパーモデルになってトップモデルの座に昇りつめながらもデザイナーへと転身。45歳の今でも現役バリバリ。あまりの才能に「モード界のミューズ(美神)」と言われるほどよ。すごいわね。





あとがき

 実は火星編は一話に収めるはずだったんですが、長いので途中で切りました。11話は今回より短くなると思います。

 それと指摘が多いすごいミスについて。
 第二話の最後の、「それは横島と明乃がナデシコに乗ることになる1年前のことだった・・・ 」一年どころか六ヶ月くらいしかたってません。

 第三話。横島の台詞の、「最初は怖かったっスよ。戦争なんか三ヶ月前に初めて体験したっスから」 ・・・六ヶ月前からいるのに?これは言われるまで気付かなかったなぁ・・・


 ということで、自分の恥をさらした所で、今回はおさらば。

 

 

代理人の感想

メグ様、相変わらず無駄に謎ですね。

つーか何しについていったんだか(爆)。