三時間後。
〜アカツキチーム〜
「ふーむ。この分だとあと45分くらいで着くね」
「妨害もあったけど散発的だったしな」
「んじゃ、ここらで休憩しよう」
「なんでだよ!どうせならこのまま行った方が良いじゃねーか!休憩してる間に皆がやられたらどうすんだよ!」
アカツキの言葉に反応する横島。だがアカツキはその言葉に何の感銘も受けなかったようで、
「あのねぇ。自分じゃ解らないかもしれないけど、八時間近くも休み無しで動いてたんだよ?横島君が感じている以上に疲労はたまってる。ここで僕たちが失敗したら、それこそナデシコは助からない。そこんとこ解って言ってるのかい?」
「ぐ・・・」
「心配しなくても敵の妨害を考慮に入れて45分だ。余裕で間に合うよ」
「・・・・・・・・・」
横島はまだ何か言いたげだったが、「失敗すればナデシコは助からない」ということは横島にも解ったので、無言で頷いた。
〜防衛チーム〜
「・・・・・・・・・」
明乃はコンソールに突っ伏していた。他のメンバーも似たり寄ったりな状況だろう。
『皆さん良くやってくれました。とりあえず敵の攻撃は一段落したようです。次の給料には色をつけますよ』
普段は大喜びしそうなプロスの言葉にも反応を返すものはいない。
とりあえず敵を全滅させ、補給を受け、また警戒態勢についた状態だった。
(横島くん達は・・・大丈夫でしょうか・・・)
心の声まで疲れていた。
〜ブリッジ〜
「ふう。これで後はアカツキさんたちが無事に破壊してくれれば良いんですけど・・・」
「いざとなったら横島がいる。心配あるまい」
「そういえば、横島クンたち今何してるのかな?無事だと良いけど」
呟いたミナトに、メグミが応える。
「あの三人は休憩中です。もうかなり近い所まで来てますね。これなら心配なさそうですよ」
「ふ〜ん・・・・・・って、何でメグちゃんにそんなことが解るの!?」
「横島さんに発信機つけてますから。盗聴器も兼ねてるんですよ」
「「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」」
ブリッジにミョ〜な雰囲気が流れる。ジュンやゴートあたりが何か言おうとしたが、結局口を閉じた。どうせ何にもならないだろうと判断したのであろう。賢明である。
「・・・忠夫に発信機を・・・?今すぐ外して」
ルリの隣に座っていたモモが怖い表情で言った。
「え〜?・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・(じ〜っ)」
「う・・・・・・・・・」
かなり嫌そうな顔をしたメグミだが、モモの無言の訴えを見るとなぜか言い様の無い罪悪感がこみ上げてきて視線を反らしてしまう。
(こ、の私が・・・・・・。ヤキが回ったもんです・・・)
「い、今すぐは無理です。帰って来たら外しますよ」
了承してしまった。もしかしたら彼女もモモには甘いのかもしれない。
「・・・・・・・・・・・・」
ブリッジに沈黙が流れる。
「・・・・・・ヒマですから横島さんたちが何話してるか聴いてみましょうか?」
メグミの言葉に反対する者は、なぜかいなかった・・・・・・。
――――――――――
ほぼ同時刻。アカツキチーム。
夜中なのであたりは暗い。三人は焚き火を囲み、コーヒーを飲んでいた。
「横島君・・・あなた帰ってきてから自然になったわね・・・」
唐突にイズミがそんなことを言い出した。
「?・・・いきなり何っスか?」
「・・・実は横島君に初めてあった時からなんとなく感じてたんだけど、横島君は、何かを演じている・・・って思ってたのよ」
(おもって“た”?過去形・・・?)
アカツキは片眉を上げた。
明乃inエステ。
『横島君は、何かを演じている・・・そう思ってたのよ』
「!!」
コンソールに突っ伏していた明乃だが、イズミのその言葉にがばっと身を起こした。ご丁寧に、メグミはエステのパイロットにも三人の会話が聞こえるようにしていたらしい。
「・・・・・・・・・・・・」
明乃は目を見開いていた。とんでもないことを聞いてしまったかのように。
再びアカツキチーム。
「・・・・・・演じてるって・・・どういうことっスか?」
「言葉通りよ」
「んな馬鹿な。何の根拠があって―――」
「根拠?そうね・・・例えば・・・わざと女の子に殴られていたとか?」
その言葉を聞いた横島は、なぜか戸惑いの表情を浮かべる。
「・・・・・・・・・・・・」
黙りこむ横島。
「・・・否定しないのかい?僕は何のことかよく解らないけど」
アカツキの言葉にも何も返さない。
「別に理由を聞き出そうってことじゃないけど、まあなんて言うか・・・好奇心ね。何故演じてたのか、何故今は自然なのか、ちょっと気になっただけだから」
「理由って言われても・・・・・・。俺は別に演じてなんか・・・・・・」
そこまで言って一端言葉を切り、
「・・・・・・例えば?例えば俺の何を見てわざと殴られてるなんて・・・」
「以前、横島君に変な頼み事したこと憶えてる?ほら、廊下をただ往復しろって」
「・・・・・・ああ、あれ・・・・・・」
「あれは実験でね、その実験結果を元に、なんとなく観察してたのよ」
「・・・結果は?」
「横島君は、飛びかかった人が自分を殴って止めてくれる人か、女性に飛び掛ったところを殴って止めてくれる人がいない限り、女性には飛び掛らない」
「・・・・・・・・・・・・」
(そうなのか?)
アカツキは以前の横島を見ていないのでなんとも言えない。っていうか今とどう違うというのだろうか。
横島は無言。目を泳がせたり腕を組んだり。否定しないのは横島自身引っかかっているからか。
「・・・・・・・・・そう・・・なのかな?いや、そうかも・・・しれない、けど・・・」
「以前の横島君の行動には何か違和感・・・って言ってもほんのかすかだけど・・・を感じてた。でもその程度の違和感なら別に変じゃないの。人は大なり小なり外面を作るもの。その程度なら正常と言っても差し支えないわ。何でその程度の違和感が横島君に限って気になったかは解らないけど。
ところが、ここに帰ってきた横島くんはその違和感が無くなってたの。もう自然にナチュラルって感じで。だから、私は以前の横島君が、無意識に何かを演じてた・・・。そう確信したの」
「演じる・・・・・・・・・。ああ、そうかも・・・な。確かに、なんか納得できるような・・・」
横島はなぜか納得してしまった自分に少々戸惑っているようだ。
「・・・だからその原因をぜひとも尋ねてみたかったんだけど・・・」
「自分でも今やっと気付いたくらいだ。理由なんか解るはず無いよねぇ」
やれやれ、とアカツキは肩をすくめた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
横島は腕を組んで考え込んでいる。
「・・・・・・あの時・・・だから・・・・・・もしかし・・・・」
ぶつぶつ。
「あ・・・」
「何か思いついたのかい?」
「あ、いや・・・・・・」
言い渋る横島。
「できれば・・・聞かせてくれない?」
今のイズミはシリアスモード。かなり真剣な目だ。
「・・・・・・・・・・・・」
考える。言っていいものかどうか。そして数分後、
「これは完璧に憶測だけど・・・自分でもホンマかいなって思うけど・・・」
断りを入れ、息を吸い込み、そして言った。
「もしかして、俺って女の子と向き合うのが、深く付き合うのが、・・・怖かったのかも、しれない・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え!?」
それは付き合いがまだ浅いアカツキにとっても、耳を疑いたくなるような言葉だった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
対してイズミは無言。
「それは・・・どういうこと?」
「・・・・・・」
横島はまたも数分沈黙したが、意を決したように口を開いた。
「・・・俺の知り合いに結構ヘビーな体験をした奴が居てさ、もしかしたらそいつの話が参考になるかも・・・」
「横島君自体の話はどうなったんだ?」
「自分でもまだほとんど仮説の域って言うかさっぱり解らんにってのに話せるわけねーだろ」
「・・・君、僕の時だけ態度悪くないかい?」
「お前がキザでロン毛ってだけで理由としては十分だっての」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「睨み合ってないで、早く話してくれたら嬉しいんだけど」
「あ、そうだった」
そして横島は語りだす。
――――――――――
そいつはスパイ紛いのことをやっていた。本職じゃない。成り行きだ。
だがそいつは何がどうなったのか、その敵と、特に幹部の一人ととても仲良くなっていった。
その幹部・・・以下「彼女」と呼ぶぞ・・・が夕日を眺めながら言った言葉が印象に残ったからかもしれない。その言葉ってのは、
「ちょっといい眺めでしょ?昼と夜の一瞬の隙間・・・!短時間しか見れないから余計美しいのね・・・」とのことだ。
彼女の寿命が一年しかなかったことも理由の1つかもしれない。彼女は人間ではなかった、いわゆる魔族だったがそいつにはあまり関係の無いことだった。そいつは彼女が気になるようになった。
その後も色々あって、彼女もそいつのことをとても気にするようになった。ぶっちゃけ惚れた。彼女自身、下っ端の魔族は知能のわりに経験が少ないから惚れっぽい。子供と同じだって自嘲してた。
そんな彼女を見て、そいつは自分と一緒に逃げないかと彼女を誘った。寿命のことも何とかするとも言った。根拠は無かったが。
でも彼女は断った。やむにまれぬ事情があったんだろう。そのかわりそいつを逃がすと言った。
だが逃がす前に、彼女は自分が一年で消えることを知っていたから、そいつの思い出になりたいと言った。どういうことかは・・・解るよな?
だがそいつはひょんなことから知ってしまった。彼女が・・・まあ、その・・・ヤれば死んでしまうと。いわゆる裏切り防止策だったんだろう。
同じく事情を知ってしまった彼女の妹が必死に思いとどまらせようとしたが彼女の意志は固かった。
「どうせ一年で消えるなら、道具のまま消えるのなら、惚れた男と結ばれて終わるのも悪くない」・・・まったくもってそいつにはもったいない。
だがそいつもヤれば死ぬと知りながら手を出すことが出来るほど人でなしじゃなかったから、彼女に黒幕・・・以下「あの野郎」と呼ぶぞ・・・を必ず倒し、妹たち共々自由にしてやると誓った。そしてそいつは本来の仲間の所に戻った。
そこからは色々あった。そいつは強くなるために頑張った。仲間とともにあの野郎の本拠地に乗り込んだ。彼女はあの野郎から寝返っても無事なようになった。彼女と2人で束の間の平和を過ごした。まぁ色々あった。
そこに、実は生きていたあの野郎がとんでもない装置と共にまた出てきた。作動すれば人類滅亡は間違いないという凄い装置だ。
だがとあるアクシデントにより完全に作動することは無かった。アクシデントの原因が取り除かれるのも時間の問題だったが。
その時そいつは、あの野郎に忠誠を誓う彼女の妹の攻撃で魂が重傷だった。どれくらいかというと後十秒で死にマスってくらいだ。
そいつの命を救うため、彼女は自分の命をそいつに与えた。結果、そいつは命を取り留めた。
命が助かったことでそいつはあの野郎を止めるために走った。彼女は、すぐには動けないとのことでそいつを見送った。
でも、見送った所で彼女は限界だった。自分の命の大部分をそいつに与えた所為だろう。間も無く彼女は死んだ。
あの野郎のところに辿り着いたそいつは仲間と共に戦い、凄い装置の動力源を破壊する一歩手前まで来た。それさえ破壊すればあの野郎も終わり。人類の勝利だ。
でも追い詰められたあの野郎は言った。凄い装置があれば彼女を生き返らせることぐらい簡単だ。なのにその動力源を破壊していいのか?
そいつは選択を強いられた。すなわち、彼女を見殺しにして世界を救うか、彼女を救って世界を見殺しにするか。
・・・・・・そして選択した。そいつは、世界を救う方を選んだ。
そいつの中の彼女は、そいつに「ありがとう」って言って消えた。完全に彼女は消えてなくなった。
そいつは自分を責めた。自分は彼女に何もしてやれなかったのに、彼女は自分のために全てを失ったのに、最後は見殺しにした・・・。
だがその時代は神と魔が現存する世界。たった一つだけ、彼女と再会できる方法はあった。
そいつが死にかけた際、彼女は自分の魂の大部分をそいつに与えた。つまり、そいつの魂+彼女の霊破片、それがあれば、そいつの子供としてなら同一人物として復活できる可能性はある・・・。あくまで可能性だったけど。
そいつの中でどういう葛藤があったかは解らない・・・。解らないけど、やがてそいつはいつもの日常に戻っていった。
「・・・・・・とまぁ、そんなことがあったんだよ」
話は終わった。横島はどこか遠い目をしている。
「子供としてなら、同一人物として転生できる可能性はあるってもなぁ・・・。恋人が子供に?はは、お笑いだ」
「「・・・・・・・・・」」
もちろん、これを聞いている誰もが笑えなかったのだが。
「でも、確実に転生できるとは限らないし記憶が無いかもしれない。って言うか、記憶はあったらあったで問題だ。
第一、もしそいつに他に好きな人ができて結婚したとして、その人になんて言うんだ?『生まれる子供は俺の恋人かも知れません』?・・・気が触れてるとしか思えない。承知してもらえるわけが無い。んじゃどうする?遊んでる子に金を払って子供だけ産んでもらう?最初っから最初まで奥さんにはすべて何も話さない?・・・いずれにせよそいつには無理な話だ。
試験管ベビーで母親不在で未来の恋人を育てるってのはありかもしれないけど・・・・・・」
「ちょ、ちょっと待った!・・・まさか今の話を信じろって言わないだろうね!?
本当だと仮定するにしても、その話と君のことと何の関係があるって・・・」
「俺は別にお前に信じてもらわなくても構わないけどな」
再び二人の間に火花が散った気がした。
「む・・・・・・。まあ話が進まないから本当ってことで話を進めよう。
えーと、その話を例として引っ張り出してきたってことは、横島君も似たような経験をしたことがあるってことかな?」
「・・・・・・・・・・・さあね」
「おいおい、ここまで来てそれは無いだろ?」
「俺は俺の事を教えるとは一言も言ってないだろ?
んで、そいつは、もう彼女のことは吹っ切れたと思ってた。でもある日、とある友人の女の子と抱き合った・・・ちなみに事故だ・・・ってことがあった。その時、そいつに言い様も無い不安がと恐怖が襲った。原因は不明。終わり」
「おわりって・・・それはちょっと・・・唐突過ぎないか?」
「唐突でも何でも、女の子と関わるのが怖くなった、俺と症状が似てる、それで十分じゃねーか」
そこにイズミが声をかける。
「・・・横島君。こんなこと聞くのは何だけど、「そいつ」は「彼女」と恋人になったことを・・・後悔したことは無いの?こんなに悲しいなら出会わない方が良かった・・・とか思ったことは・・・?」
一瞬変な顔をした横島だが、首を横に振る。
「俺が知ってる歌の歌詞にこういう一節があるんスよ。
悲劇の恋なんて言うけれど そんなもんありゃしない
恋に出会えないほうが よっぽど悲劇だろ
・・・・・・まあそういうこと」
「・・・そう」
その時のイズミの顔は、横島の気のせいかもしれないが、一瞬だけ笑ったような気がした。
――――――――――
ナデシコブリッジ。ここではイズミやアカツキのように疑問を挟む事もできないので、全員が横島の話に聞き入っていた。
『んで、俺の場合』
プツリ。
横島がそこまで喋った時、言葉が途切れた。それは、いつのまにかメグミのそばまで来ていたムネタケが、スピーカーをOFFにしたのだ。
「提督!?何するんですか!?」
聞き入っていた所為か、ムネタケに接近に気が付かなかったメグミが驚きも冷めぬままに問う。
「聞くに堪えなかったのよ」
「え?」
「あんな三流お涙頂戴話、聞くに堪えないって言ったのよ!」
「ふむ・・・?」
メグミの片眉が上がった。
「あのね、結局あいつがした話ってのは、『「そいつ」の過去話』でしょ!?で、要約するとその内容は『皆を守るために恋人を見殺しにした』ってことよね?
・・・・・・感想を言わせてもらうと、はっ、泣けるどころか笑えもしない。不愉快なだけね!あんな自虐的告白は!!」
「あの・・・それは言い過ぎじゃ・・・」
ユリカがおずおずと言うが、
「言い過ぎ!?アタシの意見を言わせてもらえばねぇ、内容が陳腐すぎんのよ!って言うか、あんな話どこにでもあるのよ!
艦長。指揮官たる者、大を生かす為に小を見殺しにするなんて当たり前の事なのよ?そんなの日常茶飯事なのよ?今ここでのんびりしてる間でも世界のでこかでそんな決断を迫られる人はいるわ。世界の危機と1つの命。比べるのだって馬鹿らしい。どちらを選ぶことになるか解りきってる分、そいつとやらは幸運ね!
それをああも・・・!あ〜〜〜もう!!何かを勘違いして悲劇の主人公を気取るならまだしも、今はすっかり立ち直ってるし・・・!ったく、何なのよあいつは!?」
「「「「「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」」」」」
最後はヒステリーが入ったものの、言ってること自体は間違ってるとは思えないので全員あっけに取られていた。ユリカは、火星で自分たちが助かるために火星の難民を殺してしまいそうなことがあったので、かなり複雑な顔をしていた。
「提督・・・「自虐的告白」って・・・あれは横島とは関係ない話なんですよね?なんで自虐的なんて・・・?」
ジュンが恐る恐る意見を口にする。
「アンタ・・・馬鹿?本気で真に受けてんの!?だったらそのままでいることね。言うことは何も無いわ」
「え!?」
ジュンはまだよく解ってないようだった。
「でもどうせなら最後まで聞きたかったかな・・・」
ミナトがボソリと呟いた言葉をムネタケは聞き逃さない。
「アンタね、暗い女(イズミ)は最初に言ったでしょ。『“今は”自然』『何かを演じてると思って“た”』どうせ問題自体は解決してるんだからもう聞く必要なんかないでしょ。さっきも言ったでしょ?陳腐で聞くに堪えないって。過程が気になるなら後で訊いたら?」
「む・・・・・・」
他のメンバーは驚きを隠せずムネタケに注目していた。
ムネタケはそんな視線を振り払うかのように、
「それから、アタシはさっきの会話、忘れたから。あんなどこにでもある話を頭に置いとくのは容量の無駄だからね。アンタ達もそうしたらどう?一般的には盗み聞きは悪趣味ってことになってるのよね?あの男だってあの二人しか居なかったから話したわけだし」
「??何であの二人だったから話したってことに・・・?」
やはり良く解ってないジュン。
「あ、あんたってナマケモノ並に鈍いわねぇ。呆れを通り越して感心するわ。プロスペクターがあの男の活躍を話したことあったでしょ?(第五話)後から合流したあの二人はその話を聞いてないでしょうが。だから躊躇しつつも話す気になったってことでしょ」
「はあ・・・・・・」
その表情はやはり納得しているとは言いがたい。
「・・・・・・・・・」
ムネタケは肩をすくめ、それ以上説明しようとはしなかった。
ジュン以外のクルーは、悪趣味といわれてむっと来た人も数人居たが、半強制的(勝手に持ち場を離れられないから)とはいえ聴くのをやめようなんて気はまったく起きなかったので、そのまま黙り込むしかなかった。
「・・・ふぅ」
「どうしたの?ルリ」
「・・・モモは驚かないんですね。横島さんの話にも」
モモは他の人と違って別段表情が変わるといったことにはなっていない。
「・・・・・・あの話はちょびっとだけ聞いた事あったから。それに忠夫が悲しむ姿をわたしはすぐ近くで見てきた。さっきの話があんなに悲しんだ理由なら、むしろわたしは納得したし」
「そう・・・なんですか・・・」
ルリはそう呟くしかなかった。
(ふ〜む。提督も結構見てますねー。ちょっとだけ見直しましたよ)
メグミは怪しい手帳の「ムネタケ」の欄に、◎を書き込んでいた・・・。
――――――――――
エステバリスの中で、明乃はただ俯いていた。
「・・・・・・・・・・・・」
(あの話は「そいつ」の話・・・。でも・・・夕日を見た時の横島さんの様子・・・以前プロスさんが話した、横島くんが世界の危機を救うのに大きく貢献したって話・・・横島くんは「そいつ」は知り合いって言ってたけど・・・同じ時代に同じような体験をした人が二人居た?それとも、「そいつ」ってのは・・・?)
「・・・・・・・・・・・・・・・っ」
確かめなければ。明乃の中にはその言葉だけが渦巻いていた。
――――――――――
「んで、俺の場合、確かに女の子と深く付き合うのを無意識に避けてたかもしれない。でも、たぶん火星に着いたころにはそんなことなくなってたと思う」
(そして、最近悪夢もあんまり見なくなったんだよな・・・モモと枝織ちゃんに感謝か?)
横島はため息をついた。
「ま、あんまり詳しくは訊かんで欲しい。俺にも語りたくないことの一つや二つあるから。
まとめ。無意識に女の子を恐がったかもしれない。それでわざと女の子に殴られてたかもしれない。でも今はそんなことは無い。以上!」
「・・・・・・まあいいわ。ありがとう横島君。無理を言わせたみたいで悪かったわね」
「暇つぶしにはなったかな」
軽く流してくれた二人の態度が、横島にはありがたかった。
「おっと、そんなこんなであと二時間か。んじゃ2人とも、そろそろ出発しようか?」
「へーい」
「わかったわ・・・・」
軽く返事し、冷めたコーヒーを一気に飲み干す。そして各自のエステに戻った。もちろん火の始末は済んでいる。
「あ、そういや、ナナフシまで後45分なんだろ?その後の一時間ちょいでナナフシ壊せんのかな?」
「馬鹿ね。それ以前に私達の弾薬が一時間も持つわけ無いでしょう。一斉射撃するんだから」
「あ、そっか」
そして、アカツキチームは問題なくナナフシを撃破した・・・・・・。
――――――――――
ナデシコに帰還したアカツキチームは艦のクルーから労いの言葉を受け、エンジンの修理が終わるまでこの場を動けないため、格納庫で解散した。
「ふ〜疲れた・・・。でも明乃ちゃんたちのほうが疲れてるかな。エステもボロボロだしなぁ・・・」
なんとなく明乃たちのエステを見上げていると、廊下から横島を呼ぶ声が聞こえる。そちらへ向くと、明乃が立っていた。
「あ、明乃ちゃん。どうかした?疲れてんじゃないの?」
その言葉には反応せず、
「ちょっと時間良いですか?」
「・・・まぁ、いいけど」
その言葉を聞くと明乃はさっさと歩き出す。着いて来いと言う事だろうか。怪訝に思いながらも、横島は明乃の後を着いて行った。
廊下の途中で明乃は足を止める。辺りに人気は無い。
「明乃ちゃん・・・?いったい・・・」
しかし横島の言葉を遮り、明乃は訊ねる。
「単刀直入に訊きます。・・・横島くんの言う「そいつ」・・・それって、横島さん自身のことじゃないんですか」
「え・・・!?」
「だったら、横島くんは私と関わりあうことを嫌って、わざと私に殴られてたってことですか」
「な、なんで・・・・・・」
何でそのことを知っているのだろう。あの二人に喋るヒマが有ったとは思えない。そこまで考えた時にさらに言葉を重ねられる。
「理由なんて良いんです!答えてください!」
明乃の目は真剣だった。横島はうかつな答えは返せないと悟る。笑ってごまかすことはできないと悟る。
「・・・・・・本当、かもしれない・・・けど」
「・・・私は、これでも結構横島くんとは仲が良いつもりでしたけど・・・それは私の勘違いってことに・・・なるんですか!?」
「明乃ちゃん聞いてくれ!俺は」
「今は違うって言いたいんですか!?だったら昔はそうだったと認めるんですか!?」
「・・・・・・・・・・・っ!」
否定は出来ない。半分以上が地だったとは言え、そういう気持ちがわずかにでもあったであろうことは先ほど自覚したのだから。
「仲が良いつもりなのは私だけで!ちょっかいかけられたときにちょっとドキドキしたり・・・!
そんなの馬鹿じゃないですか!私、馬鹿みたいじゃないですか!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
横島は何も言えない、言えるわけが無い。何を言っても言い訳になる気がする。事実、そうなのだろう。
「馬鹿にして!何とか言ってください!これは私の勘違いですか!?だったらそう言ってください!勘違いって言ってください!単なる早とちりだって言ってください!」
明乃は叫びながらも頭の隅の冷静な部分で考える。何で私はこんなに必死なんだろう。何でこんなに憤っているのか。勘違いだったらどうだというのか。何が気に入らないのか。
わからない。
「横島くんは!横島くんはっ・・・!」
もう明確な言葉さえ出てこない。でも何でこんなに必死に・・・?大体そんなに怒ることか?何でなんだ?私にまるっきり脈が無いって解ったから?って言うか脈って何?彼は単なる同僚でお友達なのに。
本当に?
「明乃ちゃん・・・。その・・・ごめん」
「!!」
横島は失敗した。いくら目の前の人が憤り、自分を責めたといっても、安易に謝るべきではなかった。謝るということは、悪いことをした。そう認めたも同然なのだから。
廊下に乾いた音が響いた。
平手打ちだった。
明乃の目には、涙が浮かんでいた。
明乃は気がついた。自分がここまで怒る理由。それは横島を、横島のことを―――――
「明乃ちゃん!」
明乃はこの場から走り去った。
横島はその場から一歩も動けなかった。正直な話、何がどうなってるか解らなかった。かろうじて解ることは、自分が悪い。それだけだった。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
横島は叩かれた所を触る。痛い。
今まで明乃から受けたどんな攻撃よりも、痛かった。
何か大切なものが壊れたような、そんな気分だった・・・・・・。
続く。
イネス先生のなぜなにナデシコ出張版
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あいた、いたたたたたたたたたたたたたた・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
Q1:羅刹掌って?
PSゲーム「サガフロンティア」における最強クラスの体術(打撃系)よ。一撃必殺の文字が特徴。追加効果:戦闘不能。
Q2:チンジャオロースー
一般的な中華料理の1つで、ピーマンとタケノコと牛肉の(すべて細切り)を炒めたもの。「チンジャオ」はピーマン、「ロー」は肉、「スー」は細切りという意味よ。つまり、「チンジャオロース」という呼び方は間違い。最後は伸ばすのよ。
Q3:エステバリスのマーチ
テレビ版でも実際に歌ってたわね。・・・・・・軍の中ではやってるのかしら?
Q4:横島が口ずさんだ歌は?
ちゃんと実在する歌よ。ちなみに、アニソンじゃないから。
あとがき
今回は本当にしんどかったです。何回も何回も何回も何回も(中略)何回も何回も何回も何回も書き直しました。今でも完全に納得しているとは言い難いんですが、今はこんな感じです。長かったです。
それと、私は以前、「メグミの秘密は本編中で何一つ明かされない」、と書きましたが、ほんの少しだけ明かされそうです。メグミの秘密が本編の内容にちょっとだけかすりそうなので。いや、それだけなんですけど。
次回、明乃あんまり出番無し!(ヲイ)
追伸。十七話執筆にあたり多大なる迷惑をおかけしたMr.JOEさんに、心からの感謝を。ありがとうございました。
前回の訂正。
誤・第二次スーパーロボット対戦
正・第二次スーパーロボット大戦α
誤・魔方陣グルグル、ガンガンで連載中
正・魔方陣グルグル、今年の九月号に連載終了
誤・To Hart
正・To Heart
・・・・・・・・・・・・・ダメダメやん。
代理人の感想
うーむ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
原作十三話あたりの話でかなり大きく関わってきそうですね。
特に、この話ではメグミがアレなわけですし、アレしてコレしてごにょごにょと。