皆さんこんにちは。ホシノルリです。


 ナナフシの撃破から約二週間。あれからもナデシコはそれなりの戦果を挙げ、今日もまったり航行中です。


「ルリ?」


 あ、そういえば、今はモモにオペレーティングのレクチャーをしている所でした。


「えっと、これはですね・・・」


 正直、モモのオペレーターとしての能力はまだまだです(私と比べれば、ですが)。でも、ウェイトレスと漢字の勉強との三足のわらじであることを考えると、非常に優秀といえます。マシンチャイルドであるという事実を差し引いても。

 って言うか、この短期間で私に並ばれたら、私のなけなしの自信が修復不可能になるんですけど。

 漢字にしても、もう常用漢字はほぼマスターしたようなので、現在は一般常識を教わっているようです。横島さんは何かと普通でない人ですから、これは必須ですね。ええ。・・・でもこのままだと料理まで作るようになりそうで怖いです。それが実現したら完璧超人ですね。


 ・・・・・・・・・・・・・・・なんでしょう。この危機感は。


「あ、そういえば、最近横島さんはどんな様子ですか?」


「・・・・・・」


 モモは手を止めてこちらへ向きました。・・・?単なる雑談のつもりなんですけど。私から話し掛けるのはそんなに変ですか?


「クルスクのことがあってから、ブリッジにいた人やパイロットの皆さんが横島さんに対して優しく接してますよね。本人は不思議がってましたけど」


「ルリには忠夫がどう見えるの?」


「え・・・?いつも通りじゃないんですか?」


「・・・・・・・・・」


 そのまま私をじっと見つめてきます。・・・どうでもいいんですけど、モモってちゃんと人の目をまっすぐに見て話しますよね。私には出来ない芸当です。


「ルリにはそう見えるのね」


「え!?」


 モモは話は終わりと言わんばかりに目線を外し、オペレーティング作業に戻りました。


(・・・・・・・・・)


 私にはそう見える・・・ということは、横島さんはいつも通りでない・・・?


 私はこの二週間の横島さんの様子を思い浮かべてみました。・・・・・・・・・・・・やっぱりいつも通りな気がするんですけど。モモのブラフ?いえ、モモがそんなことをする理由がありませんし、第一そんな回りくどいことをする子じゃありません。ならば・・・?


「・・・・・・・・・」


 私は必死に・・・なぜ必死なのかは私にも解りませんが・・・考えました。


「・・・・・・!?」


 突如気が付きました。確かに横島さんはいつも通り。でも、何かが足りないような・・・?それは・・・?

 むむむ。

 ・・・・・・・・・あれ?そういえば、横島さんとテンカワさんが話してる場面、最近見ないような・・・?・・・たまたまその場に居合わせなかっただけだと思いますけど・・・・・・。








GS横島 ナデシコ大作戦!!





第十八話「夢か現か幻か」





 ナデシコ食堂午後四時。三時のおやつを食べに来る連中も減り、夕食にはまだ早い。そんな比較的余裕が出来る時間帯。横島は食堂のテーブルを拭いていた。


 そんなときに彼女はやってきた。


「横島君」


「あ、イズミさん。小腹でも空いたんスか?」


「ちょっとね」


 そして入り口近くにあった椅子に腰掛け、何かを注文するでもなく沈黙し、そして横島のほうを向いた。


「な、なんスか?」


「横島君・・・ナナフシの時、私は横島君のことを「自然になった」って言ったけど、あの後からまた自然じゃなくなった感じがするんだけど・・・。何かあったの?」


 横島は、なんか最近心が休まってないなーとか思った。


「・・・・・・あ、やっぱ解ります?」


「一体どうして・・・?」


「いや、こればっかりは。正直、俺にも良く解っているとは言い難いし・・・。

 でも、敢えて言うなら、たぶん俺が悪いのかもってこと・・・・・・かな?」


 横島は曖昧に笑いつつ言った。


「・・・よく解らないけど、言いたくないのなら仕方ないわね」


 イズミはちらりと厨房のほうを見、


(ま、十中八九アキノちゃんが関係してるんでしょうけど)


「それじゃ。邪魔したわね」


 そう言い残し、イズミは食堂から出て行った。


「・・・・・・・・・・・・・・・」


 イズミを黙って見送った横島は、布巾を持ったまま立ち尽くしていた。そして、二週間ほど前のあの日、ナナフシ撃破作戦の次の日のことを回想していた。










「ごめんなさい」


「は!?」


 横島は驚愕していた。限りなくローテンションだったにも関わらず驚愕していた。なぜだ。ありえない。メグミちゃんが、メグミちゃんが俺に頭を下げている!?今日はエイプリルフールでもハロウインでもないぞ!?もしかして、もしかして俺は殺される・・・!?


「何でそんなに怯えるんですか」


「あ、いや・・・」


「謝ることは先日のことです」


「先日?」


「単刀直入に言いますと、実は横島さんには発信機を兼ねた盗聴器をつけてたんです」


 そう言って横島のバンダナに手を伸ばす。そしてバンダナの裏から小さくて円形の機械を外す。これが盗聴器なのだろう。


「げ!?いつの間に・・・」


「まぁそんなことはどうでも良いんです」


(良くないぞ・・・)


 やはり(くどいようだが)、声には出さない。


「じつは、ナナフシ撃破作戦の最中の会話、聴いてたんですよね」


「・・・・・・は?」


「あまつさえ、休憩中の会話なんか、ブリッジとエステの中にも流してましたし」


「・・・・・・・・・・・・・!!(ひくっ)」


 さすがに横島の頬が引きつる。


(おいおいっ・・・!)


 さすがに羞恥心混じりの怒りを覚えたが、そこではたと気付く。


(だから・・・明乃ちゃんは・・・)


「聴いた人の大半は聴かなかったことにするようですから、横島さんも気がつかないフリをしてくださいね?」


 メグミは人差し指を唇につけて「し〜っ」と言った。


「で、知られてしまったことは私が全面的に悪いです。だから一発だけ、一発だけ私の顔をぶん殴って良いです」


 普通に考えたらぶん殴るくらいでは帳消しにはならないと思うのだが・・・・・・。


「・・・・・・・・・」


 不思議と、メグミをどうこうする気は起きなかった。先日のことを思い出したからだろうか。


「・・・?殴らないんですか?」


「・・・・・・まぁ・・・」


「困りましたね。このままだとモモちゃんに怒られ・・・じゃなくて、借りを作ったままじゃ気持ち悪いんですが・・・」


 ふ〜むとあごに手を当てて暫く考え込み、


「あ、そうだ。会話を聞いた人の秘密を教えましょうか?もちろん全員分」


「いらんて・・・」


 つーかなんだ。そのチョイスは。


 メグミはどうしても借りを返したいようだが、横島は明乃のことを落ち着いて考えたかったので、貸し借りのことは(今の時点では)どうでも良かった。だから当り障りの無いことを訊いてお引取り願おうと考えた。


「それじゃあ、メグミちゃんの昔・・・うん。10歳頃の話を聞かせてくれんかな」


「10歳頃・・・」


 ふーむと思案顔だ。


「そんなことで良いんですか?」


 と、前置きし、


「・・・実を言うと、私、13歳までの記憶が無いんですよ。一番古い記憶が14歳。気が付いたら火星でした」


「火星!?」


「ええ。生まれ故郷かどうかも解らないんですけどね。実際火星で廃墟を見ても何も感じませんでしたし。で、その後地球に行って、学校行ったり資格とったり・・・まあ色々です」


「は〜・・・・・・」


 昔を語るメグミの表情はいつも通り。楽しそうなわけでも、辛いことを我慢してる様子でもない。


(・・・・・・あれ?そういえば、メグミちゃんって今何歳だ?)


 本当にラッキーなことに、その言葉は口から出ることは無かった。


 もし出ていたら、五体満足では居られなかったことであろう。


(しかし・・・・・・まいったなぁ・・・・・・)


 明乃が事情を知っていた理由は解ったが、状況を打破する方法は思いつかなかった。


 もちろん、文珠で記憶の一部を消そうなどとは、欠片も思い浮かばなかった。その点だけは誉めるべきことかもしれない。


 そして、その後約二週間、明乃とのギクシャクした関係は、横島の精神を徐々に疲労させていった。





 ――――――――――





 同時刻、厨房。


「・・・・・・・・・・・・」


 明乃は横島の方をぼんやり眺めていた。


(はぁ・・・・・・)


 あれから横島とはほとんど会話していない。避けているのだ。言葉を交わしたときも、仕事中で一言二言事務的な言葉を交わしただけだ。


 明乃の心中は多くの感情が渦巻いていた。


 それは、怒りかもしれない。

 悲しみかもしれない。

 後悔かもしれない。

 諦めかもしれない。

 明確な定義が出来ない感情とも呼べないものかもしれない。

 全部かもしれない。


「ぜんぶ・・・なのかな、やっぱり」


 ぽつりと呟く。


 爆発するような激情は、既に明乃の中から消えていた。そして残ったのは倦怠と虚無と諦観と後悔が入り混じったような重い感情だけだった。


  もういい加減にしてほしいという気持ちさえあった。


(なんで・・・なんで横島くんのことで、こんなにも振り回されなけりゃ・・・!)


 うまく働かない頭でも、勝手な言い草だと思う。


 火星から帰還した時期は横島が居ないだけで、現在は四六時中ローテンションでネガティブシンキングだ。


 いつもの表情を作るのも、愛想笑いを貼り付けることも、つらい。


 解っている。いくら横島のせいにしたところで、結局自分の問題でしかないことに。


 大体、他の人が事情を聞けば、何だってそれくらいのことでそんなに落ち込んでるんだ?・・・と、言うだろう。


「でも・・・」


 いや、でももなにも無い。どっちが悪かろうが、それがどんな罪であろうが、歩み寄ろうとした横島を文字通り叩き返したのは明乃なのだ。そればっかりは認めざるを得ない。


 ただ、なんだか解らない怒りももちろんだが、それ以上の悲しみを、あの時感じていたのかもしれない。


 やはりそれがどんな悲しみなのかは解らないのだけど。



 ・・・・・・・・・本当だろうか。



(何が、「本当だろうか」よ。それ以外に何があるって・・・)


 全然支離滅裂な己の脳内に突っ込みを入れる。


 二週間毎日様々な感情が自分の中で渦巻く。このままだと遠からずまたよこしまが行方不明だった時の自分に逆戻りしてしまうかもしれない。


 ・・・・・・実を言うと、この最悪の状況から抜け出せる方法は、ある。


 そう。横島のことなどすっぱりと忘れてしまえばいい。愛想を尽かせば、どうでもいい存在まで格下げすれば、こんなに苦しい思いをすることも―――――




「・・・って、それができたら苦労しないんですってば!!」




「・・・・・・何がだい、テンカワ」


「あ・・・・・・」


 そういえば、ここは厨房だった。しかも、ヒマとは言え勤務時間中だ。


「あ、あははは・・・ごめんなさい、ちょっと考え事を・・・」


「いや、別にいいけどね・・・。ああ、ヒマだってんならジャガイモの皮剥きでも手伝ってくれないかい?十個程度だから」


「あ、はい」


 明乃にとってジャガイモ十個の皮剥きなど物の数ではない。いくらネガティブシンキングでローテンションでも全然問題ないほどだ。いつも基礎は欠かさない明乃にとって、料理の基礎は呼吸と歩くことの次に簡単である。それは明乃の強みと言えるだろう。それは横島も同様だが。


「・・・・・・・・・」


 無言でシャリシャリ皮を剥く。もちろん芽を取り除くことも忘れない。瞬く間に三つのジャガイモを剥き終る。


 そこで何気なく横を向いた。目に入ったのは、剥き終ったジャガイモ。ホウメイのものではなく、横島がテーブルを拭きに行く前に剥いているものだ。


「・・・・・・・・・」


 自分のものと見比べる。


「・・・・・・・・・」


 形に違いはあるものの、まったく同じに見える。


 だが、明乃には自分の剥いたジャガイモのほうが劣っている気がした。それは一定以上の腕前を持つ料理人にしか解らないほどの些細な差か。それとも後ろ向きな姿勢が見せる錯覚か。


 どちらにせよ、明乃が一層暗くなったことに変わりは無い。


「手が止まってるよテンカワ!」


「あ、すいません」


 再び皮剥きを再開し、さっさと全て剥き終える。


「あの、ホウメイさん・・・」


「ん?どうした、テンカワ」


「・・・私が剥いて良かったんでしょうか。横島くんのほうが上手く剥けると思うんですけど・・・。他の料理だって・・・」


「はぁ!?・・・・・・あー・・・つまり?」


「料理が劣る以上、私なんか・・・」


 溜息をつく明乃を呆れたように見ていたホウメイだが、


「テンカワ。あんたは横島がアタシより料理の腕が劣るからって料理を続ける資格が無いって思うのかい?」


「いえ・・・。そんなもったいない・・・」


「あんただって同じことさ。大体、他人より技術が劣るからって役目を放棄するなんざ、単なる怠慢さね。それにアタシから見りゃあテンカワも横島も大して変わりゃしないさ。半人前の実力差を議論した所で何を言わんや、ってねぇ」


「はぁ・・・」


「テンカワ。あんたに何があったか知らないけど、気分が滅入るときゃあ寝るなり気分転換なりをしたほうがいいと思うけどね。押して駄目なら引いてみな」


「今は勤務時間中ですけど・・・」


「今のアンタはそうしたほうがいい。アタシが許す」


 明乃は逡巡したものの、


「はい・・・。すいません・・・」


 結局部屋に戻ることにした。





 食堂から出て行く明乃。そしていまだ立ち尽くしたままの横島。そんな二人を見て、ホウメイは、


「若いねぇ・・・」


 とだけ呟いた。





 廊下をとぼとぼ歩く明乃。


(・・・私、なんて中途半端なんだろう・・・)


 料理でも、パイロットでも、横島への態度でも・・・。


(このままじゃ、悪くなるばっかりなのに・・・)


 なぜコックを目指しているのかという考えさえ一瞬希薄になる。


(宙ぶらりんって言うのかな・・・)


 明乃は、いまだかつて無い思考の迷路に陥っていた・・・。





 ――――――――――





 そしてまた二週間。


「敵です」


「またぁ?敵さんも仕事熱心ねー。二日に一回は来てるんじゃないかしら?」


「たぶん優先的に狙われてるんだと思う。先頭に立って戦ってるせいで」


「貴様らの頑張りすぎだぁっ・・・って感じですかねー」


 それでも緊張感が無いのは、最近負けが無いからだろうか。


「でもま、そっちがその気ならこっちもその気!徹底的にやっちゃいます!!

 エステバリス隊、出撃!!」


『それでは、祖国の平和を守るとしますか!』


『元気、元気!』


『負けないも〜ん!』


『お仕事お仕事。割り箸割り箸』


『割り箸?なんだよいきなり』


『わっ、バカ、ヤマダ、反応すんな!』


 時既に遅し。


『おしごとおしごと。おてもとおてもと。・・・・・・クッ、くくくくくく・・・・・・』


『うわぁ・・・横島君、関西人としてなにか一言』


『座布団全部取られるかな』


『フッ、厳しいわね・・・』


『妥当な評価だろうが!戦闘前に気が抜けること言うんじゃねーよ!ったく!』


『伊達に『脱力』は持ってないわ・・・』


『何の話だ?』


『ヤマダ・・・頼むからもう余計なこと言うな・・・』


『だったらヤマダと呼ぶな!ダイゴウジ・ガイと呼べ!』


『確信犯かよ!?』


 いくら実力第一とは言え・・・。


「皆さん・・・さっさと行かないとお給料下げますよ・・・」


『『『『は〜〜〜い』』』』


『何で僕まで・・・』


 最後まで賑やかなままエステ隊は出撃した。横島と明乃は、話題を振られた時以外は無言であった。


「全機、攻撃開始!!」


 そしてエステ隊は攻撃を開始する。




 敵と味方に向かって。





「・・・・・・・・・ルリ、あれってさっきの冗談の続き?」


「いえ、さすがにそれは・・・・・・」





 ――――――――――





「いっただき〜〜〜っ!」


 ヒカルがライフルの照準を敵機に合わせる。だが、


「あれ?あれれ?照準がずれちゃうよ!?」


 味方の方へ。


「もう一回!」


 また照準を合わせなおす。だがヒカルがトリガーを引いた瞬間、


「またずれた!?」


 今度は間に合わず友軍機を撃墜。


「お、おいおいおい!ミサイルが・・・!」


「何だってんだ、くそ!」


 エステ隊がミサイルを敵味方関係無しにばら撒いている。





「え!?ぇえ!?何が起きてるの!?」


「艦長、エステバリス隊、味方機を攻撃してます。・・・・・・ほう、三機同時撃破・・・。なかなかどうして、アカツキさんも口だけじゃないようですね」


「でも、あれって味方じゃあ・・・?」


「な、なんで!?」


「攻撃誘導装置には異常ありません・・・!一体どうしたの・・・!?オモイカネ・・・!」」


 ブリッジはいい感じに混乱している。無理はない。


「と、とにかく、攻撃止め!やめーーーっ!!」


「敵至近距離。攻撃止めたら全滅しちゃいます」


「敵だけ攻撃〜!!」


『僕達もそうしてるつもりなんだけどね!』


 だが言葉と共に放たれる攻撃は、敵味方を等しく攻撃する。


『なら、サイキックソーサーだ!』


 横島が投げつけた霊気の盾は、複数の敵機を破壊する。


『そうか!要はマーカーを表示させなけりゃいいんだな!』


 リョーコは迷わずイミディエットナイフを抜き、近くの敵に突撃する。だが、


『って、そっちは味方だ!』


 リョーコのエステはいきなり方向を変え、友軍機に向かう。


『だ〜ッ!!そっちじゃねえってばよ!』


 抗議虚しく、ナイフは友軍機に突き刺さった・・・・・・・





 それからも、ナデシコのエステ隊による無差別攻撃は熾烈を極めた。それは仕方がない。敵の第一の目標が自分たちである以上、攻撃の多くが集中するのは自明の理。ならば手を抜くわけにも行かない。結果、敵味方共に多くに被害が出る事になる。そして、それは現在進行形であった・・・。


『なんすんだコラ!』


『憶えてろこん畜生ーっ!!』


『被弾したことないのが自慢だったのにー!!』


 脱出した友軍は、口々に罵りつつ落下傘で落ちていく。


 横島の霊力だけは攻撃誘導装置の影響を受けないが、速射が効かないサイキックソーサーや数に限りがある文珠では大した戦果を挙げられない。自ずと霊波刀に頼ることになる。


 なぜイミディエットナイフ(以下ナイフ)は友軍機まで攻撃するのに霊波刀なら大丈夫なのか。それは、エステに搭載されているナイフを使えば攻撃とみなされるが、霊気による攻撃は、AIには、たとえそれがオモイカネといえど認識できないからである。

 解りやすく言えば、ナイフで攻撃を仕掛ければ、それは攻撃が目的の突撃とみなされるが、霊波刀で攻撃を仕掛ければ、AIが霊気を認識できないため、単なる移動行為とみなされるのである。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・ナデシコに被害がないのは不幸中の幸いです。ともかく、各機は自分の身を守ることを優先してください。こっちからは援護のエステを・・・」


「でも艦長。パイロットが居ませんし、それに、」


 ルリが言いかけたとき、


「ここは僕の出番だね!!」


「へ・・・?何でジュンくんが・・・?」


「僕が予備のエステバリスに乗るよ!ナデシコの危機、救ってみせる!!」


 拳を握り熱血するジュン。だが、彼は重大なことを失念していた。


『熱血してるとこ悪ぃが、そりゃ無理だ』


 ウリバタケがコミュニケで割り込みをかけてきた。


「え?どうしてですか!」


『予備が無ぇからだよ』


「予備が無い・・・?いや、そんな。予備があることぐらい最初に確認済みですよ!」


『確かにあったさ。でもな、予備の三機の内二機は横島とアキノちゃんが乗ってる。もう一機は横島の大気圏突入で大破。余ってるのはアサルトピット一つ。複座を合わせても二つだな。っつーかそれが余ってるからってなぁ』


「そ、それに加えてヤマダが居るから余りは無い・・・!?」


「ジュンさん。イエローカードですよその発言は」


 メグミが妙に怖い目をして呟いた。


「そ、そうだった・・・」


「・・・そもそも、アオイさんってIFS持ってないんじゃ・・・?」


「はぅあ!?そ、そうだった・・・今回のテンカワはおん・・・」


「レッドカード!!プロスさん、ジュンさんを医務室に連行してください!それと、『薬剤P』の使用も辞さない方向で!!」


「いいでしょう。副長、少々言動が軽率すぎましたな」


「ちょ、ちょっとまって!?チャンスを!もう一回だけチャンスを!ワンモアー!!」


「・・・残念ながら、もうその段階は過ぎているのですよ・・・」


「いやああああああああ!」


 ジュンは必死に抗うが、プロスはものともせずにずるずる引っ張っていった。


 そしてそこに残されたもの。それは、沈黙。


「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」


「ルリ・・・。『おん』って何?」


「さあ・・・・・・私、少女ですから・・・・・・」


「ルリルリ、多分それ関係無い・・・」


 突っ込み属性を持つルリも、なぜオモイカネがこんなことをするのかの原因究明に必死で、的外れな(ある意味順当な)返答をしていた。


「・・・ムチウチのほうが幸せでしたね」


 


 そんなワケの解らないやり取りをやっている間にもパイロットは必死で戦っているのだが・・・。


 結局、戦闘が終了したのは夕方だった・・・。





 ――――――――――





「戦闘に勝利したから良いものの・・・この戦艦一隻でいくらするとお思いです!?#」


「あ・・・あれ墜としたのアタシだ」


「あのですねぇ!あのジキタリスはナデシコより高いそうで・・・!」


 プロスは珍しく青筋を立てて怒っている。


「僕は墜とした数だけ言おう!敵味方合わせて74機だ!!」


「その内55機は友軍機です・・・!」


「あ・・・そう?」


「忠夫は味方7機しか落として無かったよ」


「俺だってな〜!横島みたいにヘンな力があれば!」


 変な力は無いだろう。


「・・・しかし、ナデシコクルーに負傷者が出なかったのは不幸中の幸いでしたが・・・」


 その台詞に、ユリカとミナトとゴートとムネタケはジュンが立っていた場所に目を向けたが、無言で目をそらした。


「・・・んで、こんなことになったのはどういうワケよ?何が原因だっての?」


「好きでやったわけじゃないもん」


「不可抗力ね」


「じゃあ、整備不良?」


「そいつぁ聞き捨てならねーな!俺たちの整備にケチつけようってのか?大体、ついさっき調べた時も異常は何にも無しだ!」


 ブリッジに漂う雰囲気が、やや険悪味を帯びたものに変わってきた。


「ま、まぁまぁ、みなさん落ち着いて!それを調べに連合軍が調査団をこっちに寄越すそうですから」


 ユリカが艦長らしく場を収めようとしている。


「ナデシコの防衛システムに問題があるんじゃないかって言ってますねー」


「お、あれがそうか?」


 ガイの指差す先には確かに調査船が見えた。その時、



 ピッ!



「んげ!?ロックオン!?」


「オモイカネ、駄目!それは敵じゃない・・・!!」


 だが、無情にも発射されるミサイル。


「ああー・・・発射されちゃったよ・・・」



 ドシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・!



 全員がミサイルの軌跡を目で追い、



 どっごおおおおおおおおおおん・・・・・・



「おおおお〜〜〜」


 救命艇が飛び立ったので、どうやら乗組員は無事に脱出できたようだが・・・


「おおおじゃないですよホントに・・・」


 プロスは、ちょっと泣きそうだった。


「わ、私何もやってないー!」


 ミナトはハンズアップして無実を主張。


「救命ボートが救助を求めてますけど」


「もちろん許可です!」


 だが、


 ピピピッ!



「ルリ、また・・・!」


「やめて!お願いオモイカネ!」


 救命ボートにまでロックオンがかかったが、ルリの懸命な説得により、調査団は無事着艦した。





 後編に続く。