「・・・・・・・・・・・・」

 明乃は、自爆しようとする敵機の近くのビルの屋上に出た。片手には小型のトランクを持っている。

(・・・横島くんでも駄目だったのかな)

 エステ隊の面々がこちらに気付いた。こっちを指差したり変なジェスチャーをしている。

(この分だとナデシコも気付いてる)

 おそらく逃げろやら生身で何が出来るやら言ってるに違いない。だが、皆を救うことが出来るかもしれないなら逃げるわけにはいけない。それに、

(横島くん。私はまだあなたに対する答え、出してないんですよ・・・!!)

 明乃は助走をつけ、トランクのロックを外し、敵機に向かって投げつけた。

 トランクは空中で開き、中の大量のCCが宙にばら撒かれる。そして敵のフィールドにCCが張り付き、発光し始めた。

「!・・・行ける!?」

 エリナが手に汗握った。

 そしてCCが大きく輝き、光が収まると・・・・・・

 

 

「おい・・・明乃ちゃんは・・・どこだよ・・・」

 

 

 明乃と敵機、両方消滅していた。

 しばらく、カワサキシティで動こうとするものは、誰も居なかった・・・・・・・・・。

 

 

 ――――――――――

 

 

 ナデシコのブリッジ。

 そこに居るクルーの大半は、内心はともかく表面上は普段どおりに見える。だが、ナデシコを良く知るものはその雰囲気の暗さにとても驚いただろう。

 中でも、横島とユリカの落ち込みようといえば相当なものだった。大方、文珠さえちゃんと操れていれば・・・などと考えているのだろう。ユリカは先程から自室に閉じこもっている。

「俺は・・・くそっ、また駄目なのか・・・!?いつもいつも肝心な時に・・・!!」

 横島は俯き、拳を震わせて呻く。事実を知っているブリッジのクルー&パイロットは横島にかける言葉が見つからなかった。クルスクで聞いた横島の話は、話し方自体はさばさばしたものだった。だが、全員が気付く。横島の心の傷は、完全には癒されていない。

「忠夫・・・また・・・またなの? またあの時みたいに、心が・・・死んじゃうの?」

「モモ・・・」

 それを見ていたクルーは息を呑む。モモは表情に乏しいというのがクルーのほとんどの共通見解だ。だが今のモモは、今にも泣き出しそうなほどに悲しげな顔だった。

「わたしじゃ・・・何も出来ないの?」

 横島の手を握り、訴える。

「モモ、モモには随分と助けられてる。もったいないくらいだ・・・」

「でも、慰めることも出来ないのに! そんなの・・・意味無いよ・・・!」

 横島はもどかしさに目をぎゅっとつぶる。明乃を助けられなかったばかりか、妹まで悲しませている。

(くそ・・・!あいつだって言ってただろ・・・! 明るく行かんと・・・でも・・・!)

 そこに、一人の女性がブリッジに入ってきた。

「みんな! テンカワさんは生きてるわよ!」

「!!」

 横島は顔をあげる。

「なんで解るんですか?」

「まあ待ちなさい。もうすぐだと思うから」

 何が?という突っ込みが入る前に、なにやら聞き取り辛い声が聞こえてきた。

『ナ・・・コ・・・デシ・・・! 聞・・・すか!?・・・ら・・・ワ。ナデ・・・、応・・・て・・・ださい』

「こ、この声って・・・!」

『ナデシコ・・・ナデシコ! 聞こえますか!? こちらテンカワ。ナデシコ、応答してください!』

 間違いなかった。

「向こうの通信の周波数に合わせます」

 ルリの言葉と共に、明乃の姿がスクリーンに映し出された。

『あ、やっと繋がった・・・』

「・・・明乃ちゃん」

 横島は、心底安堵したように呟いた。

「テンカワさんは今どちらに?」

『えっと・・・月。しかも一ヶ月経ってます・・・』

「「「「「月!?」」」」」

(それに一ヶ月経ってるって・・・?)

 まだ明乃が消えてから半日程度しか経ってない。

『まあ・・・詳しい説明はここじゃしにくいんですが・・・』

「よっしゃ! んじゃとりあえず、艦長を呼ばねーと!」

『あ、ユリカには先に伝えときましたから。たぶんすぐに来ると思いますよ』

 そして横島のほうに顔を向け、

『横島くん・・・』

「はッ! はひっ!?」

『一対一でお話があります・・・。良ければ、月神族の城まで来て欲しいんですけど』

「!!な、なんだって・・・!?」

「月神族の城? なんだそりゃ」

「バーの名前っぽいねぇ」

「昔の縦スクロールシューティングか?」

「それは式神の城だろ」

「昔のゲームボーイの3DダンジョンRPG?」

「それはあやかしの城です・・・」

「へ〜、新入りさん、マニアックだね!」

 とかなんとか、パイロットがよくわからない会話をしている中、プロスが胸中で呟く。

(どうやら、テンカワさんが一足先に接触したようですな・・・。結果オーライでしたが、上手くいったようで・・・)

 その顔は、心なしか安堵しているようだった。

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 モモは、悔しかった。自分では忠夫の感情を動かすことが出来ない。

 でも明乃はどうだ。いなくなる事で忠夫を悲しみの淵に沈め、生きているだけで忠夫はさっきまでのことが無かったかのように振舞う。

 自分は忠夫に大事にされている。それは解っている。

 ・・・それでも、悔しかった。

 

 

 ――――――――――

 

 

 その頃の格納庫。そこでは、先程の戦闘で、横島が沈黙させた自爆しなかったほうの敵機を、整備半が解体しているところだった。

『夢が明日を呼んでいる〜魂の叫びさレッツゴーパッション』

「おいおい、だれだよゲキガンガーなんか流してる奴ぁ?」

「おれじゃないですよ」

「この中から聞こえてきますね」

 整備員Aが指差したのは、解体中の敵機。

「って、そりゃ無人機だろ?」

「その筈ですけどねー・・・」

 と、ウリバタケが解体を進めていくと・・・

「・・・・・・なんじゃこりゃ」

 中には、ゲキガンガーの曲を流しつづける音源、ゲキガン人形、さらにポスターまで貼ってあったのだった・・・。

 

 

 ――――――――――

 

 

 敵機が無人機でなく有人機の可能性が高いことはムネタケの知るところになった。そのため、ムネタケの命により敵機解体を行った整備員、正規の軍人であるジュンとイツキ(もうナデシコクルー全員が正規の軍人じゃねーの? という突っ込みはムネタケ本人により却下された)等が敵パイロットの捜索を行うことになった。

 そしてその捕獲作戦は、コックピットの様子からかなりのゲキガンマニアだと見られた敵パイロットをおびき出すため、ゲキガンガーを利用した作戦が採用された。

 だが、その作戦は・・・・・・。

 ゲキガングッズを通路にばら撒いたり、ゲキガンガーのコスプレをしたジュンとイツキが艦内を練り歩くなどといった、ある意味ナデシコならではの作戦だったのだ。もちろん、邪魔が入らないようにガイは自室に軟禁されることとなった。自室にはロボットアニメが豊富なので暫くは苦情も無いだろう。

 しかし、コスプレすることに何の疑問も羞恥心も感じなくなったジュン。もうどこに出しても恥ずかしくないナデシコクルーである。何か違う気もするが、本人が何の疑問も感じてないので問題はない。イツキは半泣きだったが。

 

 

 所変わって、メグミの私室。

『待ってケン! ロクロウ兄さんと戦わないで!』

『ナナコさん・・・すまない!』

 顔をそむけ、ナナコの肩を向こうに押しやり、格納庫に駆けるケン。

『どうして・・・どうしてあなたたちが戦わなければならないの!? どうして!?』

 ナナコの叫びに答えるものは、誰も居なかった。

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 無表情でゲキガンガーを見ているのは、メグミであった。そして突然立ち上がり、

「どうして・・・どうして戦わなければならないの!?」

 涙目でポーズも完璧。だ。

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 そして数秒静止した後、

「私のほうが数段上ですね。客観的に見ても」

 元声優の血が騒いだのかもしれない。

 そして画面に目を向けたまま、

「そこのうさたん(きぐるみ)の中身。気配の絶ち方はなかなかですが、さっきから呼吸が荒くなってますよ」

 びくり、とうさたんが震えた。

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 沈黙。

「・・・・・・・・・」

「もう観念したらどうですか?」

「・・・・・・・・・」

 うさたんは何も語らない。

「・・・早送りしちゃったりして」

「あああああ待った待った待った!! 幻の、幻の十三話ー!! 聖夜の悲劇、サタンクロックM〜!!」

 

 

 横島は独自に侵入者を探していた。誰が乗っていたのかは解らないが、確かめておきたかったのだ。

「いないね」

「ナデシコってば広いからなー」

 とりあえず物置を片っ端から探していた。人が隠れるのに適しているからだ。

「・・・でも、誰が来たんだろうね。九十九とか源八郎とかかな?」

「あー確かにあいつらは強いけど・・・。あいつらだったら話は早いのになー」

 

 

 

「メグちゃん?部屋に居るの?」

「ミナトさん」

 ブリッジ要員は呼び出しがかかっていた。だがメグミの部屋に人の気配を感じていたのか、一応声をかけようと思ったのだろう。

「ちょっと部屋片付けてまして。すぐ行きます」

「手伝おうか?」

 ミナトが部屋に踏み込み、足元のリモコンを踏んづけてしまう。

 ぴっ

「あ」

『アクアマリーーーーーーーン!!』

 さっきまでつけていた、アクアマリンが死亡するシーンだった。

「アクアマリーーーーーーーン!!」

「うわっ!」

 テレビの前に陣取っていたでかいウサギの人形が突然絶叫する。

「・・・・・・このバカ」

「あくあまりぃん・・・・・・・うっうっ」

「な、なんなの?」

 困惑するミナトの声に反応し、ウサたんが頭の被り物を取る。

「失礼しました。私は、木星圏ガニメデ・カリスト・エウロパ・及び他衛星小惑星国家間反地球共同連合体、特別宇宙優人部隊少佐、白鳥九十九です!」

「・・・日本語?」

 

 

 ――――――――――

 

 

 九十九は下着に埋もれていた―――――

 九十九は、洗濯物を入れるカートに詰め込まれていた。下着はそのカムフラージュ。顔は真っ赤っ赤で、もちろん鼻にはティッシュを詰めている。洗濯物を汚さないための、実に妥当な対処だといえる。

「でも意外ですね」

「何が?」

「あっさり敵を逃がそうとすることですよ」

「まあ・・・悪い人には見えないし・・・。それに、あんな話聞いちゃったら、ね。

 あ、そういえばなんだかヤマダ君に似てるしね? 顔とか趣味とかそっくり!」

「言われてみれば似てますね」

 二人の視線が九十九に注がれる。すると、紅潮していた顔がますます赤くなる。

「そういえば、敵が人間だって知ったら、横島クンなら何て言うかな?」

「それは私も興味ありますね」

 その言葉を聞き、九十九がふと真顔になる。

「横島・・・?」

「え?」

 ミナトが怪訝に思ったとき、

「そこで何をしている!!」

 呼び止めたのはゴートだ。

「あ、ゴートさん」

「今は非常警戒態勢だと言っているのが聞こえなかったのか!?」

「なによ! そんなことまでして捕らえなくちゃならないの!? 追いかけて、追い詰めて!」

「むう・・・! いいから戻らんか!」

「痛!」

 ゴートがミナトの腕を無理矢理掴む。その時、

「貴様ぁ!! 婦女子に暴力をふるうとは何事だ! 婦女子は国の御宝ぞ!?」

 と言って、ゴートに銃を突きつける。

「あ・・・・・・」

「バカだ・・・・・・・・」

 メグミは、呆れる他無かった・・・

「曲者だ!」

「御用だ!」

 ゴート一人に銃を向けたところで、整備員に取り押さえられるのは考えるまでもなかったと言うのに・・・。

「・・・ルリちゃんじゃないですが、こういうのを「バカ」って言うんですねー」

 周りには聞こえないように呟いた。

 

 

――――――――――

 

 

 その頃の月。

 ずううん・・・

「きゃ!」

「何!?」

 突然の振動に飛び起きる明乃。そして居候先の一人娘、久美。

「まさか・・・木製蜥蜴!?」

「おい! 二人とも無事か!?」

 入ってきたのは久美の両親だ。

「皆さんは逃げてください!」

 ちょうど良いとばかりに明乃は言う。

「明乃ちゃんは?」

「奴らを・・・食い止めます!」

 

 明乃は家を飛び出し路地裏に駆け込み、懐から小さい板のようなものを取り出す。

 そこには「通行手形」と書いてある。

 あたりに人が居ないことを確認し、それをかざす。

 すると、何も無い空間に裂け目ができ、なんの躊躇いも無くその中に飛び込んだ。

「カオスさん!」

「おお、嬢ちゃんか」

 入った先は天井の高い空間。人型機動兵器が十体ほど並んでいる所を見ると、格納庫らしい。

「すいません!今すぐあれの準備をしてもらえませんか!?」

「わかっとるわい。今すぐでもOKじゃぞ」

「ありがとうございます!」

 礼を言って、真紅の機動兵器のコックピット(アサルトピットに非ず)に乗り込む。

「すまない・・・。本当なら我々も手伝いたいが・・・」

「人間には不干渉って決まりなんですよね?神奈さん、お気持ちだけで十分です!」

「・・・頼む」

 明乃はハッチを閉じ、気合を入れようとしたところにカオスと呼ばれた老人から通信が入る。

『CFランサーが間に合わなかったから、イミディエットナイフとレールガンが二つずつしかない。気をつけるんじゃぞ!そいつを壊されたらたまらんからの』

「わかってます。無理はしません!」

『・・・・・・もう、迷いは無いのか?』

「・・・はい。私なりに、答えは出したつもりです」

『なら、そいつを壊される確率は減りそうじゃの』

「努力はしてみます。

 天河明乃、ヘリアンサス、出ます!!」

 

 

「はっはっはー!! どうだ悪の地球人! 一ヶ月前の月に出た時は驚いたが! 二週間後やっとダイマジンが動かせるようになったと思った矢先に謎の大爆発でまた故障した時には泣きそうになったが! しかし今回は大丈夫そうだな!」

 ダイマジンに乗っていたのは月臣だった。さらに攻撃を仕掛けようとしたところで、何者かの接近を察知する。

「フッ! 悪の人型兵器め! このダイマジンの力、見せてやる!!」

 

 

「こいつ、地球に出現した奴と同じタイプ!?」

『解っているとは思うが、重力波ビームを出す施設はここら付近に無い。じゃから、』

「解ってます。大型ソーラーセイル、展開!」

 六枚の板が、ヘリアンサスの背に開く。

 大型ソーラーセイルが展開したその赤い機体は、大きな花びらのようにも見えた。

 

 ・・・・・・ちょっとだけかっこいいと思ったのは、月臣だけの秘密だった。

 

 

 ――――――――――

 

 

「驚きましたな〜。確かに地球人類です。多少遺伝子はいじくってありますが・・・・・・」

「地球人などと呼ぶな・・・! 自分は誇りある木連の軍人だ!」

 プロスの言葉に、九十九は噛み付くように反論する。

 そこに、横島とモモが駆け込んできた。

「侵入者が捕まったって・・・!」

 そして、横島と、九十九の目が合った。

「あ・・・・・・!」

 横島は驚き、口をぱくぱくとさせる。

 モモは、見た目は無表情だ。

(・・・・・・「やっぱり」?)

 メグミは、口をぱくぱくさせる横島の唇を読んだ。

「君は・・・!」

 九十九も生死不明の人物が現れたことに大きく驚いていた。

「おや。知っている人と似ていたのですかな?」

「い、いや。彼があまりに驚くので・・・」

「横島さん?」

「あ、えーとその。えらいガイに似とるなーって・・・」

 九十九と横島は、何とか無難な答えをひねり出す。

「横島!どこが俺と似てんだよ! このキョアック星人の如き野郎、俺とは全然似てねーよッ!」

「何・・・!? キョアック星人はそっちだろう! この悪の地球人が!」

「んだとぉ!? ゲキガンガーから攻めた事なんかほとんどねーじゃねーか! 攻めて来るばっかのそっちが、よりキョアック星人だろ!」

「ぐ・・・! し、しかし、過去の行いは誰がどう見てもそちらが悪だろう! 我々の行いは当然のことだ!」

「・・・・・・!」

「・・・・・・・・・!」

 あーだこーだ。

「・・・似てますよね」

「もうそっくり」

「似てますなぁ」

 そして二人同時に振り向き、

 

「「全然似てないっ!!」」

 

 同時に言った。そして瞬時に向き直り、

「真似すんな!!」

「そっちだろう!!」

 あーだこーだ。

「・・・・・・魂の兄弟?」

 モモの呟いたその言葉が、ここに居る者の共通の思いだった。

『艦長』

「「おわっ!!」」

 突然二人の間に現れたルリのウインドウに、二人、特に九十九は驚く。

「何? ルリちゃん」

『そろそろ月への着陸コースへ入ります。月面では現在、敵巨人タイプと、所属不明の機動兵器が戦闘を行っている模様です』

「所属不明? 連合でも木製蜥蜴でもなくて?」

 イネスが疑問を唱える。

『はい。どちらでもありません。ですが、正体不明機はエステバリスと似ているようで・・・あ、今入った月に駐留する連合軍によりますと、その正体不明機と通信を試みたところ、パイロットは天河明乃と名乗ったそうです』

「ええええっ!?」

「明乃ちゃんが・・・!」

「アキノ、大丈夫かな?あ、じゃあとにかくブリッジに」

『よろしく』

 プツリと通信が切れた。

「ちょっと待ちなさい! まだ終わってないわよ!」

 噛み付いてきたのはエリナだ。

「今はミナトさんたちをいじめるよりアキノの命のほうが大事です!!」

「よろしいのですか、艦長?」

「良いわけ無いでしょう! これは男と女の話じゃないのよ!? 戦争なのよ!?」

「でも・・・」

「え?」

 エリナは突然割り込むミナトの声に、ひとまず言葉を止める。

「私たち。男と女だもんねぇ・・・」

「む・・・!」

「はいはい! とにかくこれは艦長命令! 全員持ち場に戻りなさーい!」

 エリナはユリカを強く睨みつけたが、自分の怒気を軽く受け流すユリカを見て、仕方なく持ち場に戻った。

「そういや、なんで連合は明乃ちゃん一人と戦わせてんだ?」

「説明しましょう。それは、月のチューリップの一つが無人兵器を出し始め、その対応に手一杯だからよ」

「・・・なんでそんなこと解るんスか?」

「それは説明してあげません」

 

 

 ――――――――――

 

 

 九十九とアカツキは、廊下を歩いていた。ただし、九十九は銃を背中に突きつけられつつだったが。

 持ち場に戻る際、捕虜をとりあえず独房に入れることになったのだが、その役目を、まだパイロットの出番は無いからと言う理由でアカツキが名乗り出たのである。

「しっかし、艦長も色々甘いよねー」

「・・・・・・・・・・・・」

 九十九もそう思ったが、黙っている。

「さて、ここら辺でいいだろう」

「はあ・・・?」

 怪訝に九十九は振り向くと、アカツキが銃を構えている。

「木製蜥蜴は謎の異星人。それでいいじゃない。今更真実なんてモノを伝えなくてもさ?」

「貴様・・・!!」

 ごす。

「いたぃん・・・」

 ぱたむ。

 アカツキは誰かに後頭部を殴られたようだ。背後に立っていたのは、フライパンを持つ横島。そして飛び出そうとしていたミナトとメグミ。

「横島クン!?」

「ミナトさん・・・。それにメグミちゃんまで?」

 横島と同じく九十九を助けようとしていたと見て取れる。

「私はただのボディーガードです。念のための」

 それと面白そうだから、とメグミは言った。

「やはり横島君か・・・」

「お前もやっぱり九十九か・・・」

「え?え?知り合い?」

(やはり・・・・・・)

「ま、そんなもんス」

「で、でも何で横島クンが? この人、木星の人なんでしょ?」

「あーまぁ、そこら辺の事情は後ほど・・・」

 横島はこの場は笑ってごまかした。

「しかし、ミナトさん、良いんですか?こんなことして。私は敵ですよ? 横島君も」

「ま、なんて言うかね、

「俺は別にどうでもいいんだけど・・・」

「けど?」

 横島は少し逡巡し、

「お前が死ぬと、ユキナちゃんと千沙さんが泣くだろ。だからお前は生きて帰れ」

「!!・・・・・・やはり、君は横島君だったんだな・・・」

「それ、さっきも聞いたぞ」

「解らなけりゃいいんだ」

 九十九はちょっと嬉しげに笑った。そんな彼を横島が気味悪げに見ていると、

「!・・・まずいですね。人が来ます」

 気配を感じたのか、メグミが警告してくる。

「なぬ!?」

 横島は前方を見る。遮蔽物は特に無く遠くまで見える。足元には気絶中のアカツキ。言い訳は出来ない。

「ど、どうしよう・・・」」

 ミナトが声を上げた時、後方から整備員Cが現れた。

「あ! お前、何をしている!」

「きさま、まさか人質をとるとは・・・!!」

「え!?」

 驚いたのは九十九だ。だがそこは優秀な優人部隊。瞬時にその状況を利用した。気付いたのはメグミも同じ。さりげなく、自分も九十九に捕まっているかのように身を寄せる。

 最後に、横島も状況を把握した。

「くそっ! ミナトさんとメグミちゃんが人質に取られた・・・! これじゃあ迂闊に手が出せない!」

 さりげなく説明的な台詞を混ぜる。

「くっ・・・!」

 

 善良でちょっとはやとちりな整備員Cは、どうすることもできなかった。

 

 

 ――――――――――

 

 

「くぅっ!! ちょこまかと!」

 戦いは一方的だった。先程からダイマジンの攻撃は一発たりとも掠りもしない。向こうの攻撃はバンバン当たっているというのに。

「ゲキガンビーーーム!!」

 あっさり回避される。

「ならば! ゲキガン・シューーーット!!」

 虎の子のグラビティブラストもあっさり回避される。

「・・・手強い!! 地球で戦った奴より数段素早い!・・・だが俺は負けん! 我が正義に賭けて!!」

 

 暑苦しかった。

 

 

「チャンス!」

 グラビティブラストを放った隙に、発射口めがけて突進する。

「ぐぅぅぅぅぅぅっ!!」

 手にしたイミディエットナイフをフィールドに突き立て、突き破った。

(これでグラビティブラストは・・・!)

 被害の拡大が最小限に抑えられる。そう思ったとき、

『ザ・ザザッ・・・かやるな。悪の地球人!・・・ザ・・・が、この程度で、俺の正義の炎を消せると思うな!』

 接触したことにより通信が繋がるようになったのだろうか。

「な・・・!?」

(半信半疑だったけど、あの人たちが言った通り、木製蜥蜴は・・・人間!?)

 そんな明乃を余所に、月臣は斜め下の台本をちらりと見て、

『敵同士でなければ、もしかすると友になっていたかも・・・・・・なんだ?』

「え!?」

 いきなり月臣の様子が変わった。

『ちょっとまて、勝手にゲキガンパンチが作動する・・・!? ミ、ミサイルまで!? 故障か!? さっきの一撃で!』

「んな・・・・・・」

 ダイマジンの両腕が持ち上がり、ロケットパンチのように射出され、同時に小型のミサイルが発射される。

「く・・・!!」

 背後には居住区。

 エステバリスより機動力が上のヘリアンサスといえど、ロケットパンチ×2と小型ミサイルを全て落とすのは間に合わない。

 だから、奥の手を使う。ダイマジンから機体を離し、

「・・・・・・ジャンプ」

 シュン

 月臣の目の前から、ヘリアンサスが掻き消えた。

『・・・・・・・・・・・・・・・生体跳躍だと』

 

 月臣のつぶやきは、誰にも聞こえることは無かった。

 

 

 ミサイルの前にジャンプアウトした明乃は、フィールドをミサイルに接触させ、無理矢理爆発させる。

「く・・・!」

 強引な戦法に激しく機体が揺さぶられる。だが何とか機体を操り、片方のロケットパンチへ向けてゲキガンフレア。

 貫く。爆散。

「もう一個は!?」

 見回す明乃。だが、手遅れだった。

「あ―――――」

 もう、間に合わない所まで来ていた。それでも機体を前に進めようとした時、

 

『させんでござるッ!!』

 

 白いエステバリスが、刀のような武器でロケットパンチを切り裂く。

「・・・シロさん!?」

『いや、遅くなったでござるよ。バッタども、数ばっかり多くて・・・うざったいのなんの』

『貴様、あれだけの数をもう全滅させたというのか!?』

『バッタ如き有象無象・・・。拙者を止めるには役不足でござるよ!!』

 それに、無人兵器を相手にしたのはシロだけではないし。

『く・・・!!・・・ちょっとかっこいいぞ・・・

『おっと、天河殿のお仲間も来た様でござるな』

『援軍か・・・!』

 月臣は舌打ちする。いくらなんでも、今の状況が不利すぎる事は解る。メインの武器もあらかた使用不可になったこともある。

『ひとまず、この勝負預けるぞ!』

 ダイマジンは、ボソン光の中に消え去った・・・。

 

 

『しかし無茶をするでござるな。体を張ってミサイルを止めるとは』

「はい・・・とっさだったものですから・・・」

『いやいや。大した物でござる。あのような真似、思いついてもなかなか出来ぬよ』

「そう言ってくれると、嬉しいです」

 明乃はたははと照れ笑いした。

『さて、そろそろ拙者は消えるでござる』

「あ、でも」

『拙者は立場上、人との接触は最小限に・・・そう、なるべく自分の部隊内だけにしなければならぬでござる・・・』

「いえ、それは知ってますけど、」

『それでは失礼するでござる!!』

「あ・・・・・・」

 シロは、みなまで言わせず飛び去った。

「・・・・・・ナデシコには、横島くんが居るって言おうとしたのに・・・・・・」

 

 しょうがないので、ナデシコ合流前にヘリアンサスをドクターカオスのところに持っていくことにした・・・。

 

 

 一方その頃の横島は・・・・・・

「・・・ひどいもんだ」

 月面の居住区にいた。

 明乃の活躍により、居住区の被害は最小限に抑えられたものの、それでも死者は出る。

 なぜ横島がこんなところにいるかというと、救助活動に駆り出されたからである。ユリカとアカツキとリョーコ、そしてぎりぎり間に合った明乃は、小型艇ヒナギクに乗って九十九らを追っている。

 ちなみに、横島は明乃が帰ってきていることを知らない。すれ違いだったので仕方ないかもしれないが・・・・・・。

「よっと・・・」

 いつもの横島ならぶつくさ文句が出るとこだが、泣いている人たちを見たらそんな気は起きなかった。

 そんな横島に、近づく影が一つ。

「横島・さん」

「え?」

 振り返るとそこには、

「・・・マリア? マリアじゃねーか!!」

「イエス。お久しぶりです・横島・さん」

 

 

 続く。

 

 

 イネス先生の、なぜなにナデシコ出張版

 良い子の皆さんこんにちは。今日もなぜなにナデシコの時間がやってきました。ここではいつものように「GS横島 ナデシコ大作戦!!」のギモン・専門用語・モトネタ等を、解りやすく、かつコンパクトに説明するわ。

Q1:MMRって?

 マガジンミステリールポルタージュの略であり通称。平たく言えば、読者等から要望があった不思議現象を、無茶な論理展開で、とても仮説などとは呼べないトンデモ仮説をぶちあげ、皆で「な、なんだってーーーーーーーーーー!!!?」と叫ぶ漫画。・・・・・・え?全然解らない?

 ちなみに、事実を元にしたフィクションらしいわ。

Q2:ゴーナグール?

 1981年に放映されていたロボットアニメ、「戦国魔神ゴーショーグン」に登場した、主人公メカの偽物よ。

Q3:仮面ライダーリュウガ?

 主人公が変身するライダー、仮面ライダー龍騎にそっくりなライダーで、龍騎と違い黒を基調としたカラーよ(龍騎は赤)。アドベントカードはほぼ龍騎と同じで、全体的な能力はリュウガの方が一回り上ね。ただし、サバイブのカードは持ってないみたい。

 元ネタは、「仮面ライダー龍騎」。

Q4:式神の城って?

 近未来の東京を舞台にした、凶悪な殺戮を繰り返す鬼を退治する、オカルティックな縦スクロールシューティングゲームよ。X-boxやプレステ2で発売中。

Q5:あやかしの城って?

 ゲームボーイの、いわゆる3Dダンジョンロールプレイング。作者がプレイしたところ、一応クリアしたけどとにかく凶悪な難しさで、ラスボスを倒すのに絶対必要なアイテムがまた見つけ辛いという、プレイする人を選ぶある意味昔ならではのゲームね。

Q6:ヘリアンサスって?

 一応、このSSのオリジナル。

武装:イミディエットナイフ×2    CFランサー×2    レールガン×2     その他:大型ソーラーセイル×6

特徴:  機動力は通常エステの1,3倍。それ以外はあんまり変化なし。  劇場版の機体のアルストロメリアのように一次フレームにCCが使用され、自由にジャンプフィールドを発生、イコール、ボソンジャンプが可能となった機体よ。ボソンジャンプはジンタイプよりも融通が利くわ。

 CFランサーは、カスタムメイド・フィールドランサーの略で、ドクターカオスが軍からちょろまかしたデータにより作ったもので、武器の形状を彼の趣味で様々なタイプを用意したものよ。勿論、形状によって威力、射程が変化。

 レールガンはこれまた軍からちょろまかした月面フレームのやつをちょっとだけ小型化したもので、腰に装備。ヴェスバーやGアクセルドライバーを想像してもらったらわかりやすいかしら。運用法は、1・ジャンプで奇襲→2・死角から二種類の武器のどっちか(またはゲキガンフレア)で攻撃→3・離脱。これね。

 でも、これだけの機体を小型・高機動にするために従来通りにジェネレーターを搭載せず(このときはまだブラックサレナやアルストロメリアに搭載されているような、新型バッテリーを開発する技術は無かった)、重力波ビームのお世話になることが必要なの。でもそれではせっかくのボソンジャンプジャンプの特性が生かせない。そこでつけられたのが「大型ソーラーセイル×6」。これのおかげで重力波ビーム圏外でも、自由に行動できるの。ちなみに、この大型ソーラーセイルを取り付けたヘリアンサスは、シルエットだけ見たらゴッドガンダム(ハイパーモード)に見えるかも。

名前の由来:  「ヘリアンサス」とは、ヒマワリの学名、「Helianthus annus」のHelianthusからとったもの。説明不要なほど有名な花ね。  ヒマワリの学名は、ギリシア語のhelios(太陽)とanthos(花)に因む命名よ。そういえば、大型ソーラーセイル×6をつけた姿は、ヒマワリや太陽に見えなくも無いわね。  花言葉は崇拝・敬慕・光輝。

Q7:なんで明乃がボソンジャンプをしてるの?

 詳しいことは言えないけど、人類が生まれる前から存在している月神族は古代火星人のことをある程度知っているから、そのおかげ。

 あとがき

 最初に言っておきま〜す!

 

 シロはチョイ役です!!

 さすがに一発キャラではありませんが・・・。

 なんで人狼のシロがこの時代に居るのか?一応、屁理屈のよーな理由は考えてます。

 あ、それから、イツキもあんまり出番は無いと思います。ひすいんさんごめんなさい。

 明乃の新兵器ですが、このままだと強すぎる気がしますので、次回に何とかします。

 ・・・・・・あ、まだ横島との仲修復されてない・・・・・・。      

 

 

ゴールドアームの感想です。


 あやしいなあ、プロスさん(笑)。
 それはさておき、ついにGS系キャラ大量参入(というよりゲスト?)。
 みんなどことなくあやしげです。
 けどイツキを愛子と結びつけるとは、なかなかやりますな。
 カオスやマリアはそもそもくたばらないし。
 
 そういえばGS美神の最終回で横島(&美神)が見た夢も、ちょうど今頃なんですよね。確か200年後だったし。
 けどカオス、よくぼけてなかったなあ。
 
 
 
 この調子で行くと、後出てきそうなのはピートですか。彼も死にませんしね。
 
 
 
 さて、GS美神の話は置いといて。
 
 基本は原作のラインをなぞっていますが、微妙に違いが。
 どこまでが伏線なのかが楽しみです。
 こういう細かい謎をいいかげんにせずきっちりと片を付けていくようにすると、たいていは作品の質が上がります。くどくなるという欠点も同時に出ますので、バランスが難しいんですけど。
 あと、ナデシコ再構成型の作品にとって、ここから先は作者の腕が真にものをいう領域になってきます。原作においても、この話は重要な折り返し地点。そして2次創作にとっては、伏線を張ったり、いろいろと準備して来たネタを、そろそろ収穫しはじめる時期です。原作をふまえつつ、原作とは違った結末、違う主張に持って行くのが2次創作の作法。この先どうなるかを、私も一読者としてお待ちしています。
 頑張ってください。そして、横島君がナデシコに乗った事、そしてGS美神の世界が過去存在した事がもたらす変化を、見事に描ききっていただければ幸いです。
 
 
 
 ゴールドアームでした。
 
 
 
 
 
 PS
 ヘリアンサスについては保留。ま、新メカは楽しみですし。
 あと、「!」「?」のあとに文章(文字)が続くときはスペースを1文字入れましょう。
 これは文章を書くときの基本です。今回手直ししておきました。
 「……」とかの時はそのまま続けてかまわないのですけれども。