「マリア!? マリアじゃねーか!!」


「イエス・お久しぶりです・横島さん」


 独特の固い・・・だが何処となく感情らしき物を感じる声。間違いない。マリアだ。服装?も以前と変わらない。


「な、なんでこんな所に!?」


「横島さん。約150年前・何があったか・ご存知・ない?」


「いや、大体は話に聞いてっけど・・・。

 でも、マリアが居るって事はカオスのじーさんもいて、あれ? 皆居なくなったんじゃ・・・」


「それは・正確では・ありません。居なくなったのは・神・魔族・妖怪・亜人・一定以上の力を持った霊。

 ドクター・カオスと、マリアは・カテゴリー・外」


「あ・・・」


 そういやそうじゃんか。カオスのじーさんは1200年ほど生きてるけど一応人間、マリアはじーさんが作ったアンドロイドだもんな。


「ですが・ドクター・カオスと・マリアと言う存在は・オカルトそのもの・です。

 だから・ドクター・カオスは、万一に備え・身を隠すことに・したのです」


「成る程。それで今は月に潜伏中・・・ってわけか」


「イエス・横島さん」


 マリアはあっさり頷いた。別にチクるつもりは無い(つーか誰にどうやってチクるんだ)けど、そんなにあっさり喋っていいんかね?


「で、結局マリアは何してんの? 復旧作業の手伝い?」


「ノー。勿論・後ほど・手伝うつもりですが・今は・横島さんに・用が・ありました」


 はい? ・・・・・・・・・・・・なんですと!?


「マリアは、俺が月に来てるって知ってたのか!? ・・・・・・・・・だとしたらなんで!?」


「以前から・横島さんが・月に・来る事は・解っていました」


 解ったいたって・・・。俺が言葉に詰まると、マリアはさらに言葉を重ねてきた。


「ドクター・カオスの・言葉を・そのまま・伝えます。

 『小僧・お前に・力をやる』・・・・・・以上・です」


「力・・・!?」


「イエス。霊能力者・・・いえ、横島さん専用・機動兵器、」










「コンメリア」







GS横島 ナデシコ大作戦!!





第二十話「覆水、盆に還る」










 冒頭のやり取りよりちょっと前。小型艇ヒナギク内。


 ヒナギクには、ミナトとメグミを人質にして逃亡中の捕虜を追跡するため、リョーコとアカツキが乗り込んでいた。


「・・・まさか仲間を追っかける羽目になるとはな」


 リョーコは愚痴をこぼしつつ、目の前のなかなかつかないモニターと格闘している。


「くそッ!!」


 バンッ! といら立ち混じりにモニターを叩く。その剣幕のせいか、モニターは機嫌がなおったようだ。


 そこに、


「私も行きます! 私の責任ですから・・・!」


 ユリカが艇内に駆け込んできた。


「おいおい」


 実際の話、艦長が艦を放って置くのは上手くないし、居ても役に立つとは思いにくい。


 アカツキがたしなめようとしたところ、


「敵の捕虜が逃げたって本当ですか!?」


「アキノ!?」


 明乃もヒナギクに駆け込んでくる。ちなみに、ヘリアンサスはナデシコの格納庫に置いてきた。


「話には聞いてたけど本当に人間だったなんて・・・!」


「アキノは休んでていいのに。ほら、ここは私たちに任せて」


「いままで戦ってきたのが人間・・・? ユートピアコロニーを壊滅させたのも、アイちゃんを殺したのも・・・」


「私ね、自分が正しいと思うことをしたつもりだったんだ。でも私はこういうやり方しか出来なくて、アキノは解ってくれ」


「だーーーーーーっ!! うっせーッ!!

 とにかくヒナギク! 逃走した捕虜を追うっ!」


 同時に喋る2人を大声で黙らせ、リョーコはヒナギクを発進させた。





「・・・・・・・・・・・・」


 アキノは何も喋らない。ただ前方を睨みつけていた。





「アキノ・・・なんだかいつもと違うよ・・・怖いよ・・・」





 ユリカの言葉は、ただ沈黙をもって答えられた・・・。










 そして、テツジンの脱出艇(テツジン頭部)内では・・・。


「ね〜白鳥さん? それが自動操縦ならこっちに来て私たちと一緒に座らない?」


「い、いえ。私はこちらで結構ですので」


 ジンシリーズはエステバリスと比べかなりの大型である。そのため、脱出艇を兼ねる頭部内のスペースは、アサルトピット内より広いスペースが取られており、パイロットシートの後部に人が座るための座席があった。

 とは言っても、ギリギリ三人が座れる、と言うくらいのものでしかなかったが。


「でも、そっちで一人だけで座ってるのもなんでしょ? ホラ、まだ一人分くらいのスペースはあるし」


「そうですよ。一人だけというのはいささか心苦しいですし」


 ミナトとメグミがそう言っても、九十九は真っ赤な顔で首を振るばかりだ。


「し、しかし、私まで座ると、その・・・ふ、ふふ触れてしまうではないですか!」


「え? ・・・・・・はっは〜ん?」


「成る程、そういうことですか」


 二人はニヤソと邪笑する。


「白鳥さん・・・もしかして、照れてる?」


「そんなことはありません! ただ、ですね、男子たる物、そうそう女性に触れるわけには・・・なななんですか!? その笑みは!?」


「ん〜? べっつに〜?」


 ミナトは、ぴとっと九十九の左腕に抱きつく。無論、その平均を大きく上回るバストはしっかり腕に押し付けられている。


「はぅあっ!?」


 これ以上は無いと思われるほど顔が赤かった九十九だが、その羨ましい行為によってさらに赤くなる。


「あら、どうしたんですか九十九さん? なぜだかお顔がとっても赤いですよ?」


 と、メグミは右腕に抱きつく。ミナトとは逆に胸のサイズは平均以下だが、鍛えられ引き締まったその体は、ミナトのそれとはまた違った魅力を持っていた。


 女性に免疫を持たない白鳥九十九。その熱を持ちすぎ朦朧とした思考は、一瞬だけその感触に酔いしれる。


 ああ。女性の体とはなんと甘美なることか。女性とはかくも良い香のするものなのか。一口に女性の体といっても、左右の女性の肢体のもつ性質は全く異なる。全く異なるが、どちらも甘美であることは共通している。


 これがいまだ解明されていない女性の持つ神秘か!?


 自分は今まさに世界の神秘を体験しているのか!?


 鳴呼・・・神秘万歳。





「って違う!!」


「なにが?」


「ふふ婦女子がみだりに、その、男に触れるものではありません! 女性とは、えと、もっと慎みをもってですね、」


「あ〜んもう! 白鳥さんったら可愛いんだから〜!」


「全く同感です。地球でそんな態度を取ると、多人数からいぢられますよ? 「腐」女子な人たちから。まぁそれを観賞するのも一興、という気もしますが」


「ご、後生ですから許してください! あああ! 耳に吐息をかけないで〜!!」





 結構楽しくやっていた。










 そして、明乃たち。


「あれ・・・あの脱出艇、凄く揺れてるね」


「きっと2人が抵抗してるのよ! くっ、何も出来ないこの状況がもどかしい・・・!」





 この世の天国を味わう一方、いわれ無き冤罪をかけられようとしている九十九だった。





 ――――――――――





 横島がマリアに案内されたのは、月神族の城内、以前横島らが迦具夜姫に出迎えられた広間だった。


「うわ・・・本当に月神族の城だよ」


 相変わらずメーターがインテリアだなー、とか言いつつ、横島は辺りを見回していた。


 そこへ、


「月神族の城へようこそ。お久しぶりです、横島殿」


 横島は声のほうに振り向く。


「あああ・・・・・・ッ!!? か、迦具夜姫様!?」


「はい。お久しぶりですね」


 迦具夜姫はもう一度繰り返し、にこりと微笑んだ。文字通り、まさにこの世の物とは思えない美貌である。


 そんな笑顔を向けようものなら、


「相変わらずの美しさ!! ぼかーもー、神様と人間の禁断の恋に・・・!!」


 と、当然こうなることは火を見るより明らかだったが、


「・・・・・・我々も居るのだがな」


 神無の刀が横島の首に添えられ、横島の手は後一歩のところで迦具夜姫に届かなかった。


「し、失礼しました・・・えーと、神無に・・・朧か」


「まったく・・・あなたは150年たってもちっとも変わらないな・・・」


「いや、俺にとっちゃ一年くらいしか経ってないんだが。

 ってゆーか、いい加減刀を納めてくれないでしょーか」


「・・・・・・・・・・・・」


 神無は溜息をつき、無言で刀を納める。


「うふふふ。神無ったら照れちゃって。久しぶりだからって緊張してたのに、私たちの事なんかまるっきり目に入ってないんだから。それでぴりぴりしてるのよ」


 朧は笑いをこらえるような表情で言った。


「え!?」


「・・・横島殿。そんな事実は一片たりとも無いからな。間違っても勘違いせんでくれ」


「もう! 照れちゃって」


「朧!!」


 けらけら笑う朧に、顔を真っ赤にしつつ神無が噛み付く。典型的なからかいの図だが、それは長くは続かなかった。


「二人とも控えなさい。客人を前にして何をつまらぬ事で言い争っているのか」


 迦具夜姫の、静かだが有無を言わせない口調の前に、2人は一瞬でかしこまる。真面目な神無などは思いっきり恥じ入ってるようだ。


「申し訳ありません横島殿。我々から招いておいてお恥ずかしい所を・・・」


「い、いやいや! 全然気にしてないっスよ! むしろこういう雰囲気の方が肩の力が抜けますし」


 これは嘘ではない。自分ひとりに対して大勢が頭を下げる光景など、正直困惑しか感じない想像だった。


「そうですか・・・? ならば良いのですが・・・」


「あ、そういえば、俺のことカオスのじーさんが呼んでるとか何とか・・・」


「はい。なんでもドクターカオスが横島殿用の機動兵器を作ったとの事で、お招きしたのです」


「それはマリアから聞きましたけど、なんでまた俺専用の機体を?」


 いくら顔見知りだと言っても、あのじーさんがわざわざ自分のために作るとは考え辛いのだが。


「はい。なんでも、とある方から依頼されたとか。あ、そういえば、明乃さん用の機体も同じ方から依頼されてたみたいですよ」


「!? 明乃ちゃんの機体も・・・!?」


 って言うか、なんで迦具夜姫様が明乃ちゃんのことを知っているのだろうか。


「そう。そして横島殿用の物を作るとの事で、我々の技術や資材等を提供し、バックアップしたのだ」


 神無が言葉を引き継ぐ。


「で、でもなんで迦具夜姫様たちがパトロン紛いのことを・・・?」


「私は月神族の長、迦具夜。私たちはあなたたちから受けた恩を忘れてはいません。この程度のこと、安い物です」


「あー・・・・・・」


 そういえば、以前の事件の別れ際にそんなこと言っていたような気もする。


「引き止めてしまいましたが、格納庫までの案内はマリアが行なってくれるでしょう。

 それと、城内に居られる間は、以前と同じく神無を側におきます。有事の際は何なりとお申し付けください。・・・神無、お願いね」


「了解しました」


 びしり、と擬音が聞こえそうなぐらいの敬礼。


「それでは後ほど・・・」


 迦具夜姫は軽く会釈し、広間を後にする。続く朧は、「じゃーねー」という形に口パクしつつ、小さく手を振り後に続く。


 神無はそれを見届けた後、


「では横島殿、早速格納庫に行きましょう。マリアが居るのだから私は必要ないとは思うが、これも何かの縁―――」


「ねーちゃんたち俺のこと憶えてる!? え、マジで? いやー嬉しいなー! あ、んじゃもっかい仮面とってよ。

 ・・・・・・おおッ!? やっぱり可愛い子ばっかり!?」


 説明すると、月神族の兵士、月警官(げっけいかん)は、基本的に仮面をつけている。そして、月神族は全員が女性神なのである。だからこのように横島がナンパにいたるのは極めて自然なながれである。


部下を口説かんでくれ!! ほんっっっとうにあなたは150年前と変わらないな!」←


「だから俺には一年程度しか経ってないって・・・。あ、それに以前は忙しくてそんなヒマなかったし・・・」


「横島さんは・以前も今回と・同じ事を・していたように・記録されていますが」


 いままで口を挟まなかったマリアが、即座に訂正する。


「うっ・・・」


「まったく・・・」


 神無は、深く深く溜息をついた・・・。





 ――――――――――





「到着しました」


 マリアの先導に従い通路を進むと、先程の広間の数十倍のスペースを持つ空間が、一行を出迎える。でかい機材、完成・未完成問わず無秩序に並べられた機動兵器が見える。


「へー、無茶に広いけど、なんかなじみある光景やなー」


「ドクターカオスが好き勝手に増築・改築を繰り返したからな。正直、我々でさえ正確に把握しきれていない空間だ」


「おまいらはそれでいいのかよ」


「かまわない。この城は亜空間にあるからスペースは腐る程ある」


 さらっと答える。


「では・ドクター・カオスに・連絡します」


 そう言った直後、マリアの頭部辺りから機械音が聞こえてきた。連絡を取っているのだろうか。


「連絡・しました。到着に・五分ほどかかる・とのことです」


「・・・ここってそんなに広いのか?」


「イエス・横島さん。ドクター・カオスは・あるときを境に・人型機動兵器の・製作に・着手するようになりました。だから・ここまでの広さが・あるのです」


「・・・突込みどころは多いけど、とりあえず納得しとこう・・・」


(でも、こんな所に呼ぶって事は、俺にくれる「力」って、なんかの機動兵器かね?)


 横島は、雑然と並ぶロボットの群れを、なんとはなしに眺めた。











 それから五分ほど経過し、奥からエアカーが近づいてくるのが見えた。


「おお小僧、久しぶりじゃの」


「じーさんも。って言うか、全然変わらんなー」


「ふっふっふ。文字通り腐ってもヨーロッパの魔王と呼ばれたわしじゃ! 相変わらず物忘れは激しいが、まだまだいけるぞ!」


 以前と違い貧乏でない分、テンションが高くなっているようだ。


「しっかし、なんでまた俺に「力」とやらをくれるんだ? ボランティアをするまでに余裕が出来たのか? だったらちょっと金くれ」


 久しぶりに会った知り合いなのにあまり感慨がなさそうなのは、たぶんカオスが男だからだろう。


「勘違いするなよ小僧。わしは別におぬしのために作ったわけではない。ちゃんと注文を受けて作ったもんじゃぞ。それが誰かと言うのは、本人の意向で明かせんが」


「注文!?」


 横島は驚きに目を見開く。それも当然のことで、その注文をした誰かは、横島とカオスの両方を知っていることになる。


「ま、立ち話もなんじゃ。あとは道すがら話せばよい」


 その言葉に、横島の思考は一時中断された。










「しっかし、よくもまぁこんなに機動兵器をこさえたもんやなー実際」


 エアカーの中。横島はこの格納庫兼研究所を見て、率直な感想を述べた。


「フン。わしを誰だと思うとる。マリアを作ることに比べるとたやすいことじゃ。大体、こいつらはエステバリスにさえ及ばぬ物も多いしの。コンセプトにもよるが」


「ふーん・・・。

 あ、そういえば、注文はともかく、なんでまたロボットなんぞをこんなに作ろうと思ったんだ?」


「ふむ・・・」


 カオスは不意に遠くを見る目になった。ちなみに、このエアカーは自動操縦である。


「生活にある程度余裕が出来た時分じゃったかな。わしはついにTVゲームを購入してな」


「・・・・・・・・・・・・」


 しょっぱなから雲行きが怪しくなってきた。


「そのゲームに登場したビアン・ゾルダークという人物に、いたく共感している自分に気付き・・・」


「わかった。もう大体解った・・・」


 横島はあまりにアホらしい理由に溜息をつく。だがそのアホらしい理由でこれだけの数の機動兵器を作るのだから、凄いことに異義は無かったが。


「ほう。横島殿はあれだけの理由で解ったのか。私は全然理解できなかったが・・・」


 全然嬉しくない。










 エアカーで移動すること約三分。エアカーは、一体の機動兵器の前で停止する。


「これが・・・」


 その機動兵器は、一見するとエステバリスとさほどの違いは見受けられない。白を基調としたカラーで、部分々々に黒の部品が使われているようで、配色の割合は8:2くらいであった。


「そうじゃ小僧。これが小僧専用機動兵器、その名も・・・」


「コンメリアだっけ」


「そう! コンメリア・・・ってなぜ知っておる」


 ぽりぽりと頬を掻きつつ、


「もうマリアから教えてもらってたし」


 カオスはショックを受けた様子で拳を握り締め、


「く・・・ロボット開発者のロマンの一つを・・・・・・」


「申し訳ありません・ドクター・カオス」


 カオスは一言、「まあよい」と告げ、機体を見上げる横島に声をかける。


「どうじゃ小僧。感想はあるか?」


「へぇ〜」


 それだけだった。


「・・・いや、ほら、もうちょっと何か・・・別の言葉とかあるじゃろ」


「59へぇ」


「・・・・・・微妙な数値じゃな」


「いや、だって見た目はエステとそんなに変わらんし。ウラキ少尉じゃないからスペックも見ただけじゃ解らんし」


「ま、確かにの」


 ふむ。と顎に手をやり、説明をしようとするが、



「いや、それよりなんで迦具夜姫様が明乃ちゃんのこと知ってるんだ? そっちの方がよっぽど気になるんだが」


「お、おい! このコンメリアはな、小僧が聞いたら腰を抜かすほどの驚きの機能が・・・!」



「明乃ちゃんのが気になる」


「ぬぬぬぬ・・・! 

 ・・・・・・嬢ちゃんは一ヶ月前の月面にジャンプアウトしてきた。わしはボソンジャンプに興味があったから現場に行ってみた。現場におった嬢ちゃんを保護した。話を聞くと、なんと共通の知り合いが居るではないか! 向こうもこちらに興味を持ち、いろいろと話をした。紆余曲折を経て、嬢ちゃんはこの城でいろいろ修行を行なったそうじゃ。詳しくは知らんが。そして、間が良いことに、ちょうど嬢ちゃん用の機体の試作が出来た所じゃったからテストパイロットもして貰った。で、ちょっと前にナデシコが月に来たからとナデシコのほうに行ったんじゃ。

 これでよいか!?」


「え? ボソンジャンプ? 明乃ちゃん用の機体?」


「そこら辺はややこしいから説明は省く」


「・・・マジなのか、神無」


「本当だ。戦闘訓練は主に私が相手をしたしな」


 マジすかーーー・・・と横島は呆然とする。


「それとな、小僧の話もわしが知る限りしてやったぞ? なかなか面白い反応をしておった」


「イエス・ドクター・カオス」


「嘘だと言ってよバーニィ・・・・・・」


 横島は本気で頭を抱えた。これで明乃の仲は修復不可能になったかもしれないからだ。


「それに、そんなことして大丈夫なんか!? 一応いまはオカルトご法度なんだろ!?」


「問題はない。ここはある意味治外法権じゃからな」


「なんかいろいろ間違ってる気が・・・」


 自分は本来ボケ役やのに。それも論点が違うが。


「ま、何とかなるのではないか? 横島殿に降りかかる危機など、二週間前の「あれ」に比べれば取るに足らんだろう」


「マリアも・そう思います」


「二週間前?」


 そういえば、軍の偉いさんが、一ヶ月前と二週間前に月で大爆発があったとか言ってたような・・・?


「あれも横島殿が原因で騒ぎが大きくなったような物だしな」


「お、俺!?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・一体何が・・・」


「マリアは・それの件で・横島さんが・ミス明乃から・いろいろと・尋問を受けると・思いますが」


「それやったら何にもならんやないかーっ!!」


「それもそうだな」


 横島は、その場にがくっと突っ伏すしかなかったわけで。


「んで、そろそろコンメリアの説明を受ける気になったか?」


 横島は、なぜか、白旗をあげたい気分になった。





 ――――――――――





 所変わって、優人戦艦ゆめみづき。


 九十九らは味方の援護射撃もあってか、なんとか追跡を振り切り、自分の戦艦に着艦した。


 そしてあれよあれよと言ううちに、ミナトとメグミは豪華な座敷に通され、高級そうな懐石料理の前に座っていた。大きなスクリーンには、ゲキガンガーが放映されている。


「「・・・・・・・・・・・・」」


 ミナトは戸惑っているようだ。


「私たちって、捕虜じゃなかったっけ・・・?」


「・・・・・・・・・」


 彼女らの待遇は、捕虜どころか、まるで賓客のような扱いである。


「・・・・・・・・・」


「メグちゃん?」


 ミナトは、心ここに有らずといった感じであるメグミを見て、ミナトは疑問の声を出した。


 余談だが、ミナトは九十九が良い人そうなことは元より、いざとなったらメグミが何とかしてくれるんじゃないかなーとか思っていたりする。


 メグミがミナトの方を見て口を開きかけた時、


「くつろいでおられますか」


 九十九が部屋に入ってきた。背後には部下と思しき2人の青年。


「は、はあ・・・えっと、私たちって捕虜なんですよね?」


「捕虜である前に女性です! 女性は慈しむべき存在なのです」


「はぁ。どうも・・・」





「野蛮な地球の愚民はいざ知らず、我々は女性への接し方は心得ております」


 2人は、九十九にゆめみづき内を案内されている。ミナトは、いいのかなぁ・・・という感じだが、ミナトの心配は余所に、ミナトたちを疎んじている様子は何処にも見受けられない。他のクルーに敬礼までされるほどである。


「ああ、野蛮とは言いましたが、横島君は作法を心得てましたね。彼はきっと、生まれる星を間違えたのでしょう。うむ」


「あはは・・・横島クンは単に女好きなだけじゃ・・・・・・って、あれ?」


 ミナトがはたと立ち止まる。


「? 何か変なところでも有りましたか?」


「そういえば・・・・・・なんで、その、横島クンと白鳥さんが、顔見知りっぽいの!?」


「言ってませんでしたか。彼・・・横島君は、火星にて木連初の高機動有人機と交戦し、力尽きた所を拿捕されたと聞いています」


「横島さんが、木星にいた・・・?」


 いままで黙っていたメグミも少々驚いたようである。


「ええ。なんでも、動いていたのが信じられないほどボロボロだった機体であったに拘らず、一歩も引かずに戦い抜いたと・・・。

 その姿勢は我々も見習う所がありますね」


「「・・・・・・・・・」」


「彼と顔を合わせるのはは週に2、3回程でしたが、なぜか十年来の知り合いと錯覚することもしばしばでした」


 いやはや、と九十九は笑う。ミナトはその笑顔が偽物だとはとても思えない。


「・・・横島さんは、毎日を笑って過ごしていたのですか?」


「ええ。なぜか時々御剣さんや天津さんに追いかけられてましたが・・・

 でも、彼が木星から去る二月ほど前はどこか元気が無かったような気もしましたが、今思えば、あれは何かの前兆だったのかも知れません・・・・・・」


「成る程。そうですか・・・」


 メグミがそう呟いた時、足元から電子音が聞こえてきた。


「ピピピッ」


 ミニサイズなバッタが、背中に乗せたトレイにジュースを人数分のせ、こちらを見上げて?いる。


「ああ、ありがとうございます」


 メグミは、その中の一つを取り、ストローに口をつけた。


「あなたはこいつを見ても驚かれないのですね。我々にとっては忠実で親愛なるペットですが、横島君は最初見たときかなり驚いていたそうです」


「・・・はあ。そういえば」


「メグちゃんはいろんな意味で凄いから。これぐらいじゃ驚かないのよねー?」


「ミナトさんも驚いてないじゃないですか」


「そういえばそうねー」


 あははーと笑うミナトを余所に、メグミは、自分の様子がいつもと違うことを自覚し始めていた・・・。









 そして再び艦内の案内が再開された。


「ねえ、訊いていいですか白鳥さん」


「はい? なんでしょう」


「なんで地球に攻め込んでくるの? 一般人の中にも酷い目に会った人はいっぱい居るのよ」


 その言葉を聞いて、真面目な顔で沈黙する九十九。そして答えようと口を開いた時、


「酷いのはおまえたちだ!!」


 九十九を遮るように大声をあげたのは、長髪の木連軍人。


「元一朗!? 無事だったのか」


「ああ。一ヶ月前の月に行った時は焦ったぞ。・・・・・・いや、二ヶ月前の「あれ」に比べりゃ随分ましだが・・・


「でも、私たちが酷いってどういうコト? あなたたちが火星にチューリップを落としたのがそもそもの原因なんじゃ・・・」


「チューリップ?」


「地球での次元跳躍門の呼び名らしい」


 それを聞いた元一朗。妙なポーズをとり、


「だったら最初っからそう言えべらぼうめぃ! 変な名前付けてんじゃねーぞ地球人!!」


(木連男児は女性の扱いを心得てるんじゃありませんでしたっけ・・・)


 メグミの心の声と、


「・・・変なのはアンタだ、アンタ」


 ミナトの呟きは、幸い元一朗には聞こえなかったようだ。


 九十九は他の三人の様子には特に突っ込みを入れず、一人シリアスに説明をはじめた。


「・・・二年前、確かに我々は次元跳躍門を火星へ落としました。しかしそれは、あなた方が木星へ攻撃を仕掛けてきたからです・・・」


「え!?」





 ――――――――――





 そのころ、ナデシコ内でも真実の暴露が行なわれていた。エリナ&アカツキによって語られる真実を、ルリのハッキングによって全艦に流されていたのである。


 主犯・プロス 実行犯・ルリ 共犯・ほぼ全てのナデシコクル―。


 暴露が行なわれた発端は、ムネタケがエリナに何を隠しているのか訊ねたことから始まった。


 エリナがなぜムネタケに説明しようとしたのかは定かではないが、ムネタケに事実を伝え、それによって下手な動きをされないようにとの思惑があったのかもしれない。


 だがなんにせよ、奇しくも、捕虜の二人も含め、横島と明乃以外の全クルーが木製蜥蜴の真実を知ることとなったのである。明乃は先程の戦闘で負傷した久美の母の見舞いへ赴き、不在であった。





「・・・・・・・・・なんて、コト」


 ムネタケは、驚愕に顔を引きつらせたまま、ソファーに腰を落とした。


「こんなこと・・・誰にも言えないわ」


 月の独立運動に端を発した、同朋の事実上の追放。さらに追放先に核を打ち込んだのだからその体裁の悪さは人類史上でも5本の指に入る。しかも追放の理由が、独立運動に手を焼いたから。

 
 人類は自分の罪を隠すためなら、平然と多くの人を殺せると言う事実は、自分を善人で無いと自覚するムネタケにさえ、慄然とする物を感じさせた。


「誰にも言えない・・・? 当然ね。言う必要も、無い」


 そこが、黙って話を聞いていたユリカの限界だった。


『そんなことありません!!』


「艦長!! 盗み聞きしてたの!? プライバシーの侵害よ!! あなた、それでも艦長!?」


『艦長です! だから知る権利があります!! 私たちが誰と、何のために戦っているかを・・・!』


「知らなくても結果は同じよ! 戦争なんだから」


 ユリカのまなざしが、鋭く細められる。それは紛う事無き、艦長の目であった。


『直接戦う人に、死ぬかもしれない人に、何も知るなだなんて・・・言えませんっ!!』





 ――――――――――





 ゆめみづき艦内。


「無限砲、掘削準備!」


「質量弾、製造を開始します」


「無限砲、展開せよ」


『ダイマジン、準備できました!』


 ブリッジに、九十九と元一朗、そしてミナトとメグミが立っている。


「頼むぜ、元一朗!」


「よーし、内側から歪曲場を破壊する!」


 不敵に笑う二人は腕をくみ、


「「はっはっはっはっは!!」」


 と笑った。


「ちょっと待ってよ! あそこにはナデシコが・・・」


 そのミナトの言葉に二人は笑うのをやめ、


「慙愧に耐えんが・・・」


「・・・申し訳ありません」


 不要な犠牲を出したくないのは二人も同様。だが、ここまで来て、やめると言う選択肢は存在しなかった。










『ゲキガン・パーーーンチ!!』


 ダイマジンのロケットパンチが、月のディストーションフィールド発生装置を破壊する。


「時空歪曲場、消滅!」


「よしっ、てぇぇぇぇぇぇい!」


 九十九の掛け声と共に質量弾が発射される。


「第一射命中!」


「よし。続いていくぞ!」


 








 ナデシコ内。


 質量弾の着弾により、地下ドック内が激震する。


「ああっ! シャクヤクが!」


 着弾のショックによる瓦礫で、ナデシコの真横にあるシャクヤクが押し潰された。


「艦長。このままでは我々もシャクヤクの二の舞です」


「いいえ。ナデシコはフィールドが有るからもうちょっと持ちます。今はそれより・・・」


 ユリカは瓦礫の下のシャクヤクに目を向けた。










 ダイマジン内。破壊される敵施設を見、元一朗は一人ごちる。


「フッ、虚しいぜ・・・。地球人にも愛の心があれば・・・」


 その時、



 どごんっ!!



「ぐっ!? なんだ!?」


 自分の機体に攻撃を仕掛けたやつを確かめようと目を凝らす。


「さっきの赤いやつか!?」










 月神族の城、格納庫。


「・・・・・・以上がコンメリアの能力じゃ。わかったか?」


「・・・いや、じーさんマジで凄いもん作ったな・・・。これほどまでのもんとは・・・」


「はっはっは! もっとほめても構わんぞ」


 そこに、マリアが注意を呼びかけた。


「横島さん・敵巨人型優人機・ヘリアンサスと・交戦しています」


「なんだって!?」


 神無がすかさず外の様子をモニターに映す。見ると、確かにヘリアンサスがダイマジンと戦っている。


「やべ、止めないと! あれには人が乗ってるのに・・・でも地下ドックに戻ってる間に戦いが終わっちまうし・・・」


「止めるのですか? ですが・敵が反撃すれば・無力化も・ままならないのでは?」


「む・・・」


 確かに、エステ一機程度では、ダイマジンの動きは抑えきれない。明乃も決め手を欠いているようだ。


「この機体を使えばよいではないか」


 カオスが指し示すのは、コンメリア。


「これ、もう動かせるのか?」


「試運転はしとらんが、ま、問題あるまい」


「・・・・・・・・・・・・」


 はっきり言って、横島は心配だった。過去の経験で、カオスはいろいろ抜けていることを知っていたし、実際カオスとの思い出に穏やかであった試しはあまり無かったような・・・。


「でもまあ時間が無いのも確かか。いいぜ。試運転も兼ねてコイツで出る」


 選択の余地が無いのはいつものこと(悲しいことに)。ならば今回のケースは楽なほうだ。


「「「――――――――(びっくり)」」」


「? なんだよ。三人とも」


 なんでそんなに意外そうな顔をしてるんだ。マリアまで。


「いや、小僧。もうちっとごねるかと思ったんじゃが」


「あー、なんかこっちに来てから矢面に立たされることが多くてなー。柄じゃないとは思ってるけど。うん、習慣って怖いな」


 なははと笑い、早速コンメリアのコックピットに乗り込む。機動。


「うーんと」


 とりあえず通路の中心に立ち、屈伸をしてみる。


「・・・・・・各種機能問題なし。よし、いけそうだ」


『横島殿! 格納庫と外をつなげる! 準備は良いか?』


「おう!」


『あーっと待った! 嬢ちゃん用の武器もついでに届けてくれ! 小僧が来る前、ちょうど完成したところじゃ!』


「武器?」


 カオスが指差す先には、2本の剣が立てかけてある。片刃の長剣とオーソドックスな両刃の中剣。


「この剣か? なんだよこれ」


『CFランサーじゃよ。届ければ嬢ちゃんなら解る』


「ランサーって・・・これ、剣だよな? しかも片刃の方はディバインアームじゃねーかよ! マジでDC総帥にかぶれとったんか!?」


『男が細かいことを気にするな! しかも小僧とて、一発でディバインアームと看破したではないか!!』


 ぎゃーすかぎゃーすか。はっきり言って、大の男が口汚く言い争う(しかもレベルはものすごく低い)のは聞くに堪えない。平然としているのはマリアくらいだ。


 神無は、横島が来てから一年分の頭痛を一度にこうむっているのではないのだろうか。


『あの・・・横島さん・ドクター・カオス・そろそろ・援護に・向かったほうが・・・』


 平然としていたのは表面上だけだった。


「『あ・・・』」


 本気で忘れていたようだ。


 

 五分後・・・





『ではいくぞ! 三秒で閉じるからな!』


 その声と共に、コンメリアの目の前の空間が裂ける。


「よっしゃ!!」


 横島は間髪入れず、裂け目に飛び込んだ。


「あそこか・・・」


 横島が出た場所は、ヘリアンサスとダイマジンの交戦場所から1キロほど離れた場所。機動兵器にとっては目と鼻の先だ。


 バーニアを吹かし、現場に急行する。その間、横島はこの機体の説明を思い返していた。


『実を言うと、機体性能自体はエステに毛が生えた程度しかない。

 しかし!機体の核になる部分には小竜姫の霊力が込められた霊力の結晶があり、その霊力を使って文珠を作ることができるのじゃ!』


『小竜姫様の!? いいのか?』


『突っ込む所が違う! ・・・・・・ま、ばれなきゃ構わんじゃろ。小竜姫もこの話に協力的だったしの』


『ふーん・・・』


『淡白なやつじゃな・・・。

 続きじゃが、このコンメリアは機体の手の上に直接文珠を出すことができる。ただし、結晶から出せる文珠は一度に二個まで。文珠を使いきらんと次の文珠は出せん。

 ま、小僧自身が出した文珠は別じゃがな』


『確かに滅茶苦茶すげーな。とてもあんたが作った機体とは思えん』


『どーゆー意味じゃ・・・で、いくら小竜姫の霊力が込めらてるといっても、性質的には電池とさほど変わらん。霊力が空になったら補充が必要じゃ』


『満タンなら何個ぐらい出せる?』


『大体100個くらいじゃな』


『百個ぉ!? マジ!?』


『そもそも人間と神族では霊力のケタが違う。心置きなくバンバン使え』





「とうとう・・・とうとう俺も主役っぽい大活躍がーーーっ!!」


 明乃とダイマジンパイロット(横島は元一朗であると気付いていない)が心配じゃなかったんかい。


 つーかいままでの活躍を大した物ではないと本気で思っているのだろうか。単に忘れているだけだろうが・・・。それとも活躍と認識していないのか。





 ――――――――――





「てええいっ!!」



 ががががががっ!



 明乃はイミディエットナイフをフィールドの表面に突き立てる。そしてそのまま、前回のように貫こうとするが、


『何度も同じ手を食らうと思うなよ!』


 フィールドを貫かれる前に微妙に機体を動かす。


「くぅっ!」


(さすがに、もう素直に破らせてはくれないか・・・)


 明乃は無意識に唇をかんだ。

 はっきり言って、敵の攻撃は全く当たる気がしない。敵の予備動作もさることながら、ヘリアンサスは最新エステ(アカツキカスタム)の1.3倍の機動力を誇る。その点では負ける気は全くしない。

 だが、敵は堅牢だった。さらに以前のようにナイフを素直に受けてはくれないし、レールガンは通じるものの、絶妙に急所や脆弱な部分をさけ、結局有効打はほとんど与えていないことになる。


(・・・・・・悔しいけど、現状の火力では効果が薄い・・・。

 向こうの増援が先に来るか、こっちの援軍が先か・・・。そこが勝負の分かれ目!)


 明乃は気合を入れ直し、再びレールガンを発射した。





「いけっ! ゲキガン・シューーート!!」



 ぎょおおおおおおおおん!!



 胸部からグラビティブラストを発射する元一朗。だが、


『遅い!!』


 危なげなく、あっさりとヘリアンサスに回避される。


「チッ! ちょこまかと!!」


(まずい、解ってはいたが、ここまでとは!)


 元一朗は奥歯をぎりりとかみ締めた。

 正直、敵の攻撃は捌ききる自信はある。うぬぼれでなく自分はエースパイロットで、この頼もしい機体はダイテツジンと並び、現行のジンシリーズでは最新。装甲・歪曲場の強度は素晴らしい物がある。

 だが、敵は俊敏だった。ダイマジンのいかなる武装も掠りもせず、自分の技量と小型連装ミサイルを隠れ蓑にした重力波砲さえ、先読みしたかのように回避した。しかも、跳躍を温存して、だ。赤いやつのレールガンが通じる以上、急所を避けつづけるのは限界がある。援軍が来るまで持たせる自信はあるので、


(どちらの援軍が先に到着するかが肝か・・・!

 だが、援軍に頼らざるをえんとは・・・。優人部隊ともあろう者が、情けない・・・!!)


 自分に悪態を付きつつ、地球と同じく高機動小型人型機動兵器の必要性を説いていた舞歌の正しさを改めて実感した。自分はやはり舞歌には敵わないと思いつつ。


 もっとも、元一朗は男らしい(と思っている)この機体を降りる気は無かったが。





 そして、援軍は来た。










「明乃ちゃん!!」


『!!! よ、よこしまくん・・・・・・!? なんで・・・それにその機体・・・』


「惜しいけど話は後! カオスのじーさんからの届け物だ!」


 コンメリアは大きく振りかぶって、手に持つ二振りの剣を投げた。


『!! はっ!』


 ちゃんと明乃が回避するであろう場所へ。


 そして、


 
 パシィッ!!



 二振りの剣は、ヘリアンサスの手の中に収まった。










 明乃が片刃の長剣を振るうと、ダイマジンの右腕に七割近く食い込む。もう使い物にはならない。



 ヒュウッ!



 返す刀でもう一度斬撃を仕掛けるが、胸部を僅かに切り裂くだけに留まる。


 すかさず、元一朗が左腕でヘリアンサスにパンチを仕掛ける。


 だが、明乃は中剣で捌き、長剣を腹部に深々と埋め込む。





 ―――――圧倒的だった。










「ちょ、おい、明乃ちゃん? 行動不能にするだけでいいんだ。もうそこまでだ!」


 満身創痍のダイマジンにさらに攻撃を加えようとする明乃を、横島は慌てて止める。


『なんで!? こいつらは木星蜥蜴ですよ!?』


「でもそいつらは蜥蜴じゃなくて・・・」


『それくらい・・・・・・』


 それくらい知っている。敵の存在も一瞬忘れ、本気で言い返そうとしたその時、





『その勝負、待った!!』





 後半に続く。