地球圏の木星蜥蜴掃討作戦から数日。ナデシコは、宇宙を漂流する一隻の小型シャトルを拾っていた。





「女の子っ!? マジで!?」


 食堂で料理の下ごしらえをしていた横島が、小型シャトルの中にいた人物の事を聞いて色めきたった。ちなみに、言うまでもなく少女とは白鳥ユキナのことであるが、この時の横島は知らない。


 同じく下ごしらえをしていた明乃と休憩中のモモが面白く無さそうに半眼になった。しかし明乃は横島の反応が初めから解っていたようで、


「ちなみに見た目は十三、四歳ぐらいですから」


「え〜?」


 その言葉を聞き、横島はしおしおしお〜と力が抜けたようにへたり込み、無言で作業を再開した。


(なんて解り易い反応…)


 明乃は苦笑し、作業を再開する。


「ねぇ忠夫、さっきからなんで切ったり剥いたりばっかりしてるの」


「ん? これか」


 飽きもせず横島の手元を眺めていたモモが質問を発した。


「中華ってのは下ごしらえに時間の大半を掛けるって言われてるからな。こういう客が少ない時間に、夜の分や明日の分の下ごしらえをやっとくのは珍しいことじゃないんだよ」


「ふーん」


 モモの返事は気のないものに聞こえるが実際は興味深く聞いている。横島もそれはわかっているので特に何も言わない。




 その後、横島と明乃の野菜の皮を剥く音、肉を切る音といった音だけが響く。地味な作業だが、横島も明乃も、見ているだけのモモもつまらなそうな様子ではない。


 ややあって、


「ふぅ、切り物はこれぐらいでいいですね」


「だな。んじゃ煮込みものの準備でもするか。

 おれはガラでも用意しよっかね」


「じゃあ私は調味料でも・・・」


 二人は休憩を挟まず次の準備に移る。どうでもいいが横島と言う男、料理の時には真面目過ぎるほどに真面目になるヤツである。

 余談だが、この場合のガラとはダシに使う鶏や豚などの骨のことである。


 二人は瞬く間に準備を整え、材料の入った鍋を火にかけた。



「抜き足、差し足・・・。さささっ」


 ナデシコの廊下を動く陰が一つ。ユキナだ。


「ハルカミナト・・・・・・どこに居んの? 見つけ出してぎったんぎったんのめったんめったんにぃ・・・・・・!」


 廊下の角から周囲を確認しつつ、足跡を立てないよう移動する。

 まぁ、足跡は確かに立ってないが、独り言が多い上に擬音までも口に出しているので足音を立てない意味がまったく無いのだが。そもそも、いくら姿を隠そうとしても隠れる場所が殆ど無い戦艦の廊下ではすぐに見つかってしまう。しかし実際ここまで見つからずに来られたのだからそっち方面の才能は意外にあるのかもしれない。


 それはともかく、ユキナがスパイの真似事をしている理由はただ一つ。和平の為・・・・・・では無い。純朴な兄を誑かした、地球女ことハルカ・ミナトを見つけ出すためである。

 だから、小型艇内で気絶していたところを発見され収容されていたのは予定通りであるが、記憶喪失を装ったもののそこにいた女医らしき人物(イネス)が信じたかどうかは微妙だ。つーか普通信じない。


 そんなこんなで艦内を彷徨っていたところ、なにやら良い香りが漂ってきた。


「くんくん、いい匂い〜」


 ユキナは鼻をひくつかせた。その匂いのせいか、胃袋が空腹を訴える。


「腹が減っては戦は出来ぬ〜」


 ユキナはその匂いにつられ、ふらふらと匂いを辿った。






 で。


「へ〜その女の子って記憶喪失なんだ」


「可哀想になァ。宇宙で一人っきりで漂流とは・・・」


 ナデシコの食堂。そこには休憩中のクルーが集まって話に花を咲かせている。話題は勿論ユキナのことだ。横島らはまだ煮込みの最中。

 
 ユキナは物陰から食堂内を覗き見た。


「んで、その子可愛いの?」


「ちょい待てよ、っと」


 クルーAがコミュニケを操作し、ユキナの簡単なプロフィールと顔写真がホログラムで宙に現れる。


「結構可愛いなー」


「そうだなぁ。へー、こんな子が」


 物陰で様子を見ていたユキナは、自分の容姿が高評価を受けているのを聞いて密かにほくそ笑んだ。


「ふふふ。地球人にも美的感覚のわかる奴がいるのね〜(小声)」


「でも可哀想にな。こんな小さい子が記憶喪失だもんなぁ」


「オレの姪っ子もちょうどアレぐらいでなぁ」


「確かに。早く戦争が終わって家族と会えるといいのになー」


 周囲の人間も頷く。その様子を見て、ユキナは戸惑いを覚える。


「な、何よ……極悪非道の地球人のクセになんで・・・(小声)」


 だが、そんな考えを振り払うかのよう顔を勢いよく振って、


「ううんそんな筈無いわ。私が姿を消したことを知って油断させるために乗組員全員で芝居をしてるんだわ! そーよ、そうに違い無いわ!(小声)」


 ユキナは自らに言い聞かせるように念じ、地球女探しを再開することにした。その時、





「ってオイ! 救出された女の子ってユキナちゃんかよ!?」




「っ!?」


 突如響いた大声に、ユキナは慌てて叫びそうになった口を押さえた。


(あの人、横島さんじゃないのよ!)


 叫んだ人物は、仕込みをしていて今まで会話に参加していなかった横島だった。ようやく気づいたようだ。


「おいおい、まさか知り合いなのか?」


「そのまさかだよ。でもまさかあのユキナちゃんが記憶喪失とは……」


「……」


 横島の隣で、モモが人差し指を唇に当てなにやら思案顔をしている。


「…忠夫。もし本当に記憶喪失だったら、忠夫なら治せるんじゃないの?」


「・・・・・・んー・・・まぁな。ま、どっちにしろいないんだったら俺も探した方がいいのか…?」


「げっ」


 ユキナは思いっきり顔を顰めた。と言っても嫌だったわけではない。

 そもそも横島とユキナの関係は、兄妹のような友人というものだった。最初は地球人でスケベ野郎ということで蛇蝎のごとく嫌っていたが、兄や優華部隊の面々を見ると、その関係はとても良好に見えた。そしてちょっとずつ関わっていくうちに、いつの間にか平気になってしまっていたのだ。

 また、横島の料理もユキナには文句のつけようも無いものであり、木連では数少ないゲキガンガーのノリについて行けない人物として大いに共感したこともあり、さらには年齢と見た目が横島の守備範囲外だったことでセクハラ紛いの行為をされることも無かったことも、横島とユキナが馴染んだ要因である。


 だからユキナは、横島に遭遇してしまったら高確率でボロを出してしまうと思い、顔を顰めたのだ。


「横島くん、仕込みはもうちょっとで終わりますから探してきてもいいですよ」


「え、いいの?」


(よーくなーーーい!!)


 ユキナは心の中で突っ込みを入れた。


「でも、その分後で新メニューの味見、付き合ってくださいね?」


 明乃は頷き、にこりと微笑んだ。


「え、あ、うん……」


 横島は、ちょっと照れたように頷く。


(!?)


 その時、横島の反応に違和感を感じた人間が三人いた。


(うそ!? 横島さんがあんなこと言われたのに何もしないなんて・・・・・・!)


 ユキナは、木星時代のすぐに女性に迫ってはボコられる横島しか知らないのでものすごく驚いていた。


(記憶マージャンの後くらいから横島くんが何か変になったような・・・・・・? 何もせずに照れるだけだなんて)


 明乃は、ちょっとドキドキしつつ、記憶マージャンの時のことに思いを馳せた。


(忠夫が・・・・・)


 モモは目をちょっと見開き(とても驚いている)、横島と明乃を交互に見る。なんか面白くない。


「あ、んじゃ、俺向こうに探しに行くから!」


 明乃らがあっけにとられてるのを見て、急いで廊下へ飛び出す横島。


「はっ! こっちもこんなことしてる場合じゃなかった!

 とりあえず。横島さんとは逆方向に・・・(小声)」





 ――――――――――





(・・・・・・歌。歌が聞こえる。お兄ちゃんが好きなマンガの歌。お兄ちゃん・・・・・・)



「うう…ん」


 ユキナはゆっくりと眼を開く。頭が朦朧として状況がつかめない。頭の下に柔らかい感触、そして微かに聞こえる歌声。


「あら、眼が覚めた?」


「う・・・」


 ユキナは朦朧とする意識を支え、ゆっくりと体を起こす。

 周囲を見回すと、先ほど自分が潜入した脱衣所。そして団扇をそよがせる女性。


(・・・何がどうなったんだっけ・・・)


 簡単に言うと、ユキナが浴場に居るミナトを発見し、待ち伏せする為に脱衣所で服を脱いでいるミナトより先に浴室(温泉風)に進入したは良い物の、湯船の中に潜んだ為、湯の熱さと酸欠で見事に気絶してしまったのだった。


「・・・どうしてあなたがその歌を?」


「白鳥さんに教えてもらったの」


「お兄ちゃんは好きだけど、あのマンガは嫌い」


「やっぱり白鳥さんの兄弟だったんだ」


「ぅぐ・・・!」


 ユキナは言葉に詰まるが、もう今更なので言い訳や訂正はしなかった。


「…あなた、お兄ちゃんを誑かそうとしてたでしょ」


「その気があるんならとっくに行く所まで行っちゃってるわ」


「行く…ところ?」


 ユキナは意味が解ってないようだ。ミナトはそんなユキナを微笑ましく思った。


「深い関係になってるってこと」


「ふか……って、不潔だわっ!!」


 怒りと羞恥で顔を真っ赤にさせながらユキナは立ち上がった。だが、


「は、はれ? ばたん、きゅうぅ……」


 ユキナは強烈な眩暈とともに崩れ落ちる。


「ああ、のぼせた後なのに急に立ち上がるから」


 ミナトは慌ててユキナを支えた。





 数分後。


「……お兄ちゃんの良いところを言ってみて」


「白鳥さんの良い所? そうね……」


 ミナトは形の良い顎に指を当てて数秒考え込む。


「あ! あなたみたいな妹さんが居るってことかな?」


「ふざけてる!」


 ユキナは憤然とした様子で立ち上がる。


「ふざけてないよぉ。

 私はすごいと思うけどな。お兄さんのためにこんなところに一人で乗り込んでくるなんて。こんな妹さんを持った白鳥さんは幸せね」


「……」


 ユキナは複雑な顔で沈黙する。


「ふむ。それでか。こんな物騒なものを持ち込んだのは」


 ミナトが袖の下から取り出したのは、ユキナが持ち込んだ巾着袋だ。


「爆弾持って自決覚悟? 駄目だよ、そんなことしたらお兄さん悲しむよ?」


「ぅ……」


 ユキナは小さく縮こまる。


「ミナト……さんはお兄ちゃんの事、す、好き…なの?」


「えぇ?」


 ミナトは目を丸くして驚く。


「うん、そうねぇ……。好きなのは間違いないわ。

 けど……」


「けど?」


「私、他にも好きな人が居るのよねぇ」


「お兄ちゃんを二股にかけてるのっ!?」


 ユキナは恥じらいと怒りが微妙に混ざった顔で詰め寄る。


「って言うかユキナちゃん、私、いつからお兄さんとお付き合いをすること前提ってことになってるの?」


「へ!?」


 心底不思議そうに尋ねるミナトに、ユキナははたと気付く。

 よくよく考えれてみれば、兄がミナトにめろめろなのは一目瞭然だがミナトもそうであるとは一度も確認していない。兄を好ましく思っていることは確実だろうが、明らかに先走りしすぎだ。


「でも、今のところ一番好きな男の人はギリギリ白鳥さんだけど……でも、横島クンも……」


 横島の名前を出したところでミナトは少し寂しそうな顔をした。横島のことは、出会った頃から親しみを感じていたし顔を合わせる機会も少なからずあったことで、正直イイかもって思っていたりもした。

 しかし、当の横島はミナトを通して別の誰か……ぶっちゃけ美神令子を見ている気がしてならない。件の美神さんがどれだけ自分に似ているのかは知らないが、その人の代わりとして見られるのは辛すぎる。横島にその気がないにしてもだ。

 さらには、明乃とモモのこともある。明乃とモモの横島への想いを見ていると、自分が横島に抱く想いは遠く及ばないのではないか、という気がしてならない。


「って、横島さん!?」


「横島クンを知って……って、そういえば横島クンは木星にも居たんだっけ」


「あぁ〜〜〜、あの人かぁ……」


 ユキナは苦笑いをしつつ腕を組んだ。


「……なんか木星でも色々武勇伝がありそうね……」


 そう、色々な。


「そうなんですよ! 私には理解できないんですけど、あの人あれで結構競争率が……」





 と、その時。





「ユキナちゃんはこぉこかぁぁぁぁぁっ!?」





「「えぇっ!?」」


 突如脱衣所に突撃してきた我らが横島。そこに存在するはバスローブの美女。ちなみにユキナは横島の眼中には入らなかった。いつの間にか目的がすり替わっているが、今の横島には些細なことだ。それもこれも魅力的過ぎるミナトが悪い。そういうことにしておこう。


「はっっっ!? ミッナトさはーーーーーん!!」


 当然のようにミナトに反応する横島。そのままむしゃぶりつきそうになったところで、


「よーーーこーーーしーーーまーーーくーーーーーーんッ!!!

 ってりゃあああ!!」



 どばきっ。


「ぐっはああああああああああっ!!?」


 突如突進してきた明乃が、勢いを活かしたドロップキックで横島をダンプカーで撥ねるが如く吹っ飛ばした。ミナトとユキナには横島が床と平行に吹っ飛んだように見えたそーな。実際平行に吹っ飛んだのだが。


「すごい・・・・・・これが本場」


 ユキナが呆然と呟いた。


「横島くんッ! あの木星の子を探すんじゃなかったんですかっ!? なんでンなとこで目ぇ血走らせてるんですかッ!?」


 明乃は横島の胸倉を掴んでぐらぐら揺らす。横島の顔は血まみれだが既に出血が止まっているのは言うまでもない。


「し、しょーがなかったんやーーーっ!! ミナトさん程の御方が湯上りでバスローブって事態なら普段の魅力が蹴りの反動で通常の三倍って言うか分かりやすく言うと倍率ドンではらたいらさんに七千点を賭けても我が生涯に一片の悔い無しですよ志貴さんッ!!!」


「ワケ分かりませんからっ!? って言うかはらたいらさんに賭けるのはむしろ鉄板ですよ!」


 ワケが解らないながらも一部とはいえ突っ込むんですね。


 ちなみになぜここに明乃がいるかというと、ホウメイに、「大体仕込みも終わったから横島でも手伝ってきな。お疲れさん」と言われたからである。


「あっ、どうもお騒がせしました〜。ホラっ、行きますよ!」


 ぺこぺこと頭を下げ、横島の襟を引っ張る明乃。見事なまでにユキナに気がつかない。


「あ、ちょ、せめてっ! せめて匂いだキョグボァッ!!?」


 「匂いだけでも」。そう横島が言い切る前に鈍い音と共に打激音が聞こえ、静かになった。清めの音を叩き込まれたのか。





「・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・」


 しばらく呆然としていた二人だったが、


「あ、それでですね、ミナトさん」


「ん、何?」


 何事もなかったかのように会話を再開するあたり、横島との付き合い方をわかっているな、とお互い感じた。


「お兄ちゃんと、しませんか?」


「へ?」


 ミナトは目をしばたかせた。


「何を・・・・・・?」





 ――――――――――





 30分後。ナデシコのブリッジ。


「なんだありゃあ・・・」


「ロボット・・・ですね」


 ぎゅいーんがしゃん、ぎゅいーんがしょん、とクモのようなロボットがゆっくりと歩行している。ユキナが操作しているようだが、どんな機能を持っているのかはイマイチ分からない。


「しっかしユキナちゃんも人が悪いなー、わざわざ記憶喪失のフリなんかしてなぁ。さっさと俺に連絡取りゃあ良かったのに」


「撫子に横島さんが乗ってるなんて知らなかったんだから仕方ないでしょ。

 って言うか、実際視界に入ったはずなのに全然気付かなかったのは誰でございましたかしら?」


「ぐっ」


 ユキナの切り返しに言葉に詰まる横島。


 こんなやり取りを、明乃は壁際で見つめていた。以前ほどではないものの、敵愾心は消しようがないのかその表情はとても厳しい。


 横島はそんな明乃の様子に気が付いていたが、明乃の気持ちも有る程度は理解していた為何も言わなかった。


 そうしてロボットの動きが止まり、頭部らしき辺りがゆっくりと開き始めた。それは、さながら小型のチューリップに見えた。

 そして、開いた部分の中心に小型のスクリーンのようなものが現れた。しかし、


「あれ? あれ? おっかしいな・・・」


 ユキナがリモコンを何度も操作するが、スクリーンは砂嵐が映るばかりだ。


「なんか知らんが故障か? だったら蹴りゃあなおんじゃねーの?」


 横島はそう言ってガンガンとロボットを叩く。しかし、直るどころか砂嵐がひどくなるばかりだ。


「ああっ!? ひっどーい横島さん!! 通信機が壊れちゃったら帰れないじゃないのー!!」


「げっ、マジで!? 弁償はカンベンだぞおい!」


「そういう問題じゃないだろ・・・」


 ジュンはぼそりと突っ込みを入れた。


「そういうことなら、機械に強いわたしに任せて」


 と、不意に立ち上がったのはモモだった。


「えっ、モモちゃんが?」


「出来るんですか? モモ」


 ユリカとルリが意外そうに声を上げた。他の面々も少なからず驚いていた。なんせ、モモは横島が絡まない限り殆ど自己主張というものをしない。


「いったい何をやるっていうの・・・・・・?」


 エリナの台詞が、ブリッジにいる人間の気持ちを代弁していた。全員が固唾を呑んで見守る中、モモが普段通りの足取りでロボットに近づく。

 そしておもむろに片足を上げて、





「えい」





 がんがんっ!


 思いっきりロボットを連続で踏みつけていた。






 だああっ!


 全員がこけた。


「俺とやっとることは変わらんやんけ!」


 横島がモモに対し突っ込みを入れるが、


「えっ、うそ! 画像が安定してきた! って繋がっちゃったし!」


「何ぃ!?」


 驚愕する一同を尻目に、モモが口を開く。


「だから言ったでしょ。機械に強いって」


「んなアホなッ!!! なんか違うだろ!? 機械に強いってはそーゆー事じゃねーだろ!?」


 この時ばかりは、他の人も横島の意見に深く同意したという。


『ん? 通信が繋がっているのか…? 何か騒々しいが……』


「あ、お兄ちゃん!」


 横島が絶叫している最中、九十九の姿が映し出された。


『ユキナ? ユキナか! 無事か? 今何処に居る?』


 心配そうにまくし立てる兄を、ユキナは機嫌悪げにじとっと見つめる。


『ん? どうした』


「…特別だからね」


 ユキナはそう言って、隣に居たミナトに場所を譲る。


「お久しぶりです」


 ミナトははにかみつつ言った。


『えっ!? お、ああ、ミナトさん!?』


「はい」


『こ、困ったな・・・・・・いきなりだと何を話せばいいのか・・・・・・」


「はい」


「・・・マンガの話なんかしないでよ」


 ユキナがぶすっとした顔で釘をさす。


『ば、馬鹿っ、いくらなんでもそんな話するかっ』


「どーだかね」


 九十九は顔を紅潮させ焦った様子で言った。確かに疑わしい。


『みっみっ、ミナトさんは特にお変わりありませんでしたかっ?』


「はい」


『こっちも、その、特に変わりはありませんでした! 体が丈夫なことだけが取り得なものでして。ハハ・・・』


「はい」


 なんだか見ているだけで恥ずかしくなってくるやり取りである。しかしそれを良く思わない人物がここにいた。


「随分と嬉そーじゃねーか。顔が緩んでるぞ。顔が」


『横島君か!? 話ならできれば後に・・・・・・』


 九十九は不意を突かれたのか声が上擦った。露骨に嫌な顔をしないあたり流石だ。


 そして横島は爆弾を投下した。


「許嫁が居るくせに」


『んなッッッッッ!!』


 九十九は派手にのけぞった。当然だ。仮にも意中の人の前で許嫁の存在を明らかにされたのだから。


「ああ、確かに千沙さんが居たわね・・・。ミナトさんのことで頭が一杯で忘れてたわ。あは、あはははははははは」


 ユキナは、「失敗失敗(はぁと)」と言わんばかりに頭を掻いている。


 ミナトはそれらをやや驚いた顔で眺めていたが、まもなく笑顔を浮かべ、


「あらぁ、白鳥さんったら許嫁が居らっしゃったんですか? 言ってくれれば良かったのに」


『ち、違うんです! ミナトさん!!』


「何が違うんだよ。居るのは事実だろ?」


『横島君は黙っててくれ!!』


 泣く子も黙る木連三羽烏は、半泣き状態で怒鳴る。


「千沙ってだれ?」


 ユリカが疑問の声を上げ、モモはそれに答えた。


「ライジンオー歌ってた人」


「ああ・・・」


 納得した。


 その後、九十九は必死に言い訳じみた言葉をまくし立て、ミナトはそれを笑顔で受け流し、横島は勝利の高笑いを上げていた。


『う、恨むぞ横島君!!』


「はっはっはっはっはー! カップルは全員破局すればええんやーーーーーっ!!」


「じゃあお前も破局しろ!」


 突如現れたウリバタケが鬼の形相で叫ぶ。


「何で俺が!」


「やかましい! 今のお前、どれだけ恵まれた状況に居るのか分からんのか!?

 好意を抱いているのがバレバレな同僚、血のつながらない義理の妹、二重人格少女、黒髪のツンデレ剣士!

 何本フラグを立てりゃ気が済むんだよ! この男と女の敵がー!!」


「まだ少ないほうだと思いますけどねー」


 メグミの呟きは誰にも聞こえなかった。


「ウリバタケさんは既婚者だろーが!! つーかツンデレ剣士って誰だよ!」


「漢(おとこ)はいつだって夢追い人なんだよっ!」


「もームチャクチャ・・・・・・」


 明乃は苦笑しつつ前方のカオスを見るしかなかった。いつの間にか九十九とは関係の無い所まで話が広がっている。さらに、ウリバタケ以外のクルーまで騒ぎ始めている。


「ぷっ、くすくすくす」


『ミナトさん?』


 突然吹き出したミナトに、九十九は戸惑った。


「くすくすくす・・・・・・あー楽し。横島クンが居るといつもこうなんだから・・・」


『え、ええ、確かに。彼の周りではこういうことが多かった気が・・・』


「ホントにもう、何時でもどこに居たって変わらない・・・。いつも、誰かと一緒に・・・・・・」


 その言葉と、ほんの少しだけ複雑さが混じった笑顔を見て、


『ミナトさん、貴女は・・・・・・』


 九十九は何かを言おうとしたが、そのまま口をつぐむ。


「では、私の結論を発表します!」


 立ち上がり声を張り上げるユリカに、一同は注目した。


「私は、和平を受け入れたいと思います! 

 色々理由はあるけど、何より私は、この子の国と戦いたくないから」


「艦長さん・・・・・・」


 ユキナは、驚きと感動が入り混じった瞳でユリカを見上げた。


 その時、


「あ」


 メグミが小さく声を上げた。


 と同時に、艦内に警報が鳴り響く。


「え、なになに!?」


『どうした、何があった?』


「えっと、よく解んないけど後でまた連絡するから!」


『あっこらユキナ!』


 九十九が止める声も聞かず、ユキナは通信機のスイッチを切った。


 ブリッジにいた全員が外を見る。そこには五隻の戦艦が。


「シャクヤクにヒメジョオン・・・ふむ。連合の艦隊ですか」


「でもなんで?」


「私に振られても解かりませんよ」


 その時、艦隊の中心に位置する艦から通信が入った。


『久しぶりだね、ユリカ』


「お父様!」


『…』


「? お父様?」


『大きくなったな……』


「へ!?」


『胸が。…………じゃないよ?』


「お、お父様!!」


 ユリカは赤面し、腕で胸を隠した。


『だから全体的にだってば!』


 慌てて言葉を重ねる父コウイチロウ。ブリッジクルーは、ナデシコクルー以外の人がユリカを慌てさせた事に呆れる前に感心したという。


「あの人ただモンじゃねーな」


「横島くん、解るんですか? って言うかどう只者じゃないんです?」


「艦長の胸が、地球出発当時より三ミリでかくなってる事に気付くとは!」


「……」


 いや、確かにすごいけど。


『おほんっ。本題だが、白鳥ユキナ君と言ったね? 彼女を連合軍が安全に保護する事に決定した』


 その言葉に、緩んでいたブリッジの空気が引き締まる。


「保護って…。ユキナちゃんはもう私たちが安全に保護してます!」


 きな臭いものを感じたのか、ユリカはユキナの体を抱き寄せた。


『軍の上層部が決定した事だ。
 
 悪い事は言わん。さ、彼女を渡したまえ』


「嫌です」


『ユリカ!』


 だがユリカは父の言葉を取り合わず、


「ルリちゃん、グラビティブラスト発射用意!」


「了解」


『ゆっ、ユリカッ! ちょっと待ちなさい!! お父さんの話しを聞きなさい!』


「待ちません! グラビティブラスト、発射! 艦と艦の間を狙ってください!」


「了解」


 と、ルリはグラビティブラストを発射しようとしたが、コンソールの光が急速に薄れていく。


「ナデシコ、全システムダウン」


「ええええ!?」


 ルリの淡々とした報告に、ユリカは勢いを削がれ狼狽した。


「大丈夫、いきなりシステムダウンしたからと言って墜落なんかしないさ」


「あ、アカツキさん?」


 アカツキの言葉通り、ナデシコはゆっくりと降下していく。


「んで、システムダウンをした原因、僕は知っているよ」


「どういうことですか?」


「フフ・・・」


 アカツキは答えず、余裕たっぷりにブリッジを見渡した。





 と同時に、爆発音とものごっつい揺れがナデシコを襲った。





「んなぁっ!?」


 横島は予想だにしていない衝撃に狼狽の声を上げた。しかしそれは横島に限ったことではない。ブリッジは勿論、


「つつ・・・これはいったいどういうことだ!?」


 アカツキも突然の事態に困惑し、後頭部を抑えていた。どうやらぶつけたようだ。


 コウイチロウら連合軍も、


『ヒメジョオンか!? まだ何の命令も下しては・・・・・・っってナデシコがーーーーー!?
 貴様、ユリカに傷の一筋でも付いていてみろ! ただでは済まさんぞ!』


『もっ、申し訳ありません! 自分も命令を出してはいないのでありますが、部下が勇み足を・・・・・・』


『それで済むか馬鹿者がッッッ!!!』


 と、かなり混乱している。ちなみにこの会話はナデシコ側は誰も聞いていなかった。


「ルリちゃん、被害状況は!?」


「・・・解かりません。フィールドが切れている状態をやられましたから、システムを再起動させたとしても・・・・・・」


「むぅ・・・連合軍がこれほどの強硬手段をとるとは・・・・・・」


 メグミは頭をニ、三度振り、


「そういえばアカツキさん、さっきシステムダウンの原因がどうとか言ってましたよね」


「げっ」


 アカツキはあからさまに頬を引きつらせた。焦ってる。


「ってよく見ればその手に持ってるの、ナデシコのマスターキーじゃないですか!」


「あーーーっ、ホントだ! でもなんで? キーは艦長にしか抜けないはずなのに」


 メグミは口に手を当て、数秒考え込み、突如キュピーンと頭上に豆電球が閃いた。五月雨斬り。


「そうか・・・・・・。マスターキーを抜けるのは、艦長とネルガルの会長だけ。そしてアカツキさんはそのネルガルの会長・・・。

 謎は全て解けました! つまり全てはアカツキさんの陰謀だったんですよ!!」


「「なんだってぇーーーーーーーーーーっ!!?」」


 横島とヒカルが絶妙のタイミングで合いの手を入れた。


「ち、違う!!」


 アカツキの否認を信じる人間は、少なくともこの場には(エリナ以外は)いなかった。


「アカツキさんってネルガルの会長さんだったんですか!?」


「ええ。バレバレでしたけど。

 連合軍は過去の汚点を世間に知られるわけにはいかなかった。しかし今のナデシコを放置しては遠からず明るみになるでしょう。だからユキナちゃんを手に入れようとした。証拠となる人物さえ手中に収めれば、少数の人間がどういったところで信じてもらうのは難しいでしょうから。だから大群で包囲し、引渡しを命じた。しかし艦長はそれを拒み、抗戦の構えを見せた。

 多勢に無勢とは言え、こちらはYユニットで戦力の増した百戦錬磨のナデシコ。結果はどうなるかわかりません。そこで、アカツキさんが動いたんです。木連のことが明るみになることで不利益をこうむるのはアカツキさんも同じ。だからナデシコを撃破できるよう、マスターキーを抜いたんですよ!!」


「最低ですね、アカツキさん!」


「鬼畜!」


「金の亡者が!」


 明乃とユキナとリョーコが嫌悪の表情でアカツキを非難した。


「違う、そんなつもりでは!」


「だったらなぜ、マスターキーを抜いたんですか!!」


 明乃は、ストレートに詰問する。アカツキは一気にしどろもどろになる。その様子を見て、


「やっぱりあなたが・・・」


「誤解だ、アレはなんて言うか、一種のデモンストレーションというか・・・単にカッコつけたかっただけと言うか・・・」


「じゃあ連合軍があのタイミングで砲撃してきたのはなんなんだよ」


 今度はガイが言葉で鋭く切りつける。


「あれは・・・・・・その、ブッキングミスと言うか、連絡が行き届いてなかったんじゃないか、と・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・」


 しどろもどろなアカツキに、クルーの殆どが疑惑の目を向ける。


 そして、


「モモっ! おい、大丈夫か!?」


「・・・う・・・」


 そこには、どこかにぶつけたのか頭から一筋の血を流すモモと、モモを抱きかかえる横島が。





 一気に、アカツキへの視線が、氷点下まで、冷えた。





「くそっ、早く治療しないと!」


「・・・大丈夫、ちょっと頭を打っただけ・・・」


「待ってろ、今文珠で!」


「・・・忠夫、駄目だよ。かすり傷に・・・もったいない・・・」


「馬鹿、子供が遠慮すんなよ。兄貴をたまには頼ってくれって。な?」


 横島はニカッと笑い、不器用にウインクして見せた。


「忠夫・・・」


 モモは頬を染め、心の底から幸せそうにはにかんだ。





 ちょっと、和んだ。





「ごほんっ! それより私もすっかり油断していましたよ。行動に出るならもうすぐだとは思いましたが、まさかこんな手に出るだなんて。私もまだ若かったと言う事ですね」


「・・・・・・若いって、ただ若作りなだけじゃねーの」


 横島のその小声を、メグミは聞き逃さない。


「忍法撒菱指弾!!」


「げふぁッ!!?」


 メグミの何処からか取り出したまきびしが、横島の眉間に突き刺さった。鮮血が噴水のように吹き上がる。

 もういちいち書く間でもない事だが、横島の血が吹き上がる程度ではもう誰も驚かない。しかしブリッジクルー全員が、心の中で突っ込みを入れた。

 
 すなわち、「あんた忍法まで使えるんかい」と。


「安心してください。毒は塗ってません。それと、私はまだ19です」


「う・・・嘘・・・・・・つk」


「忍法撒菱指弾」


「がふぁっ!」


 今度こそ横島は意識を失い地面に突っ伏した。


「し・・・死ぬ、死んでしまう・・・・・・」


 否。意識はまだあるようだ。


「そんなことはともかく、ユリカ、ここはひとまず…」


「うん! ユキナちゃんは絶対渡せないしナデシコのみんなも死なせない!」


 やっぱりジュンも血まみれで痙攣する横島の図を「そんなこと」扱いした。


「いや、だから……」


「みんな逃げてください! 逃げてー!!」


 アカツキを無視しつつ叫んだその台詞を皮切りに、ナデシコのクルーは一斉に脱出を開始した。


「横島くん、いま肩を貸しますから!」


「いや、俺はもうちょいしたらなんとか……。それより、モモを頼む……ユキナちゃんも」


「…そう、ですね」


 確かに、この怪我では複数で逃げるより一人で文珠を使った方が楽だ。


「分かりました。二人は任せてください。でも」


「わーってるって。生きて帰るさ。死にたくないし」


 明乃は無言で頷き、モモとユキナを伴い、駆け出した。


「忠夫」


 モモはちらりと横島の方を見たが、足手纏いであることは自覚しているのですぐに同じく駆け出した。





 ――――――――――





『アカツキ会長。やはりこうなりましたか』


「結果はともかくこの状況は一体何なんだ・・・・・・

 ミスマル提督、部下の管理はホント頼みますよ・・・」


 クルーの殆どが脱出し閑散としたブリッジに、ミスマル父の真面目声とアカツキのヘタレ声が響く。

 ちなみに、今ブリッジに残っているのは血の止まった横島、メグミ、プロス、エリナ、そしてアカツキである。ゴートもまだ脱出していないが席を外している。


『それに関しては申し訳なく思っています』


 字面ではそっけなく見えるが、その表情には本当に申し訳なく思っていることがありありと伺えた。言葉が少ないのは、本当に言葉も無いからだろう。


「・・・・・・遺憾でした、で終わらせないのは好感が持てますがね。

 済んだことをこれ以上言っても仕方ありません。これからはしっかりとした部下の教育と選別を頼みますよ」


『は。では・・・』


 コウイチロウは通信を切った。


「なんかよく分からんが、ロクでもないこと企んどったからこうなったんちゃう?」


「・・・・・・だからさ、もう説明するのも疲れたけど、最初っから白鳥ユキナを軍に引き渡す気はなかったよ。軍でもミスマル提督だけは承知の上だったし」


「なんで? お前って、なんつーか木連は蜥蜴のままでいいんじゃんっぽいこと言ってなかった?」


「あの時と今じゃ事情が違うよ」


「?」


 中々理解を示さない横島に、エリナが業を煮やしたように説明を始めた。


「あのねぇ、確かに私たちは木星トカゲが人間でした、なんて公表する気はさらさらなかったけど、横島君。あなたが木星の人間と親しくなったから、最初の意志を曲げてわざわざ柔軟路線を採ったんじゃないの」


「んん?」


「ま、本当に路線変更をする気はなかったんだけど、木星の人間が何のイレギュラーかナデシコに来たから、まぁしょうがないかってことで。メグミ君もキミと考えが同じっぽいし」


「??」


 余計訳が分からなくなった横島は、更に首をひねる。


「だから、僕たちが白鳥ユキナをどうこうしようと思っても、マスターキーを抜いてナデシコを奪っても、キミとメグミ君がいれば結局は上手くいくはずないじゃないか」


「え」


「たとえ上手くいっても、後からあっさりと何とかされるだろうしね。
 
 横島君。キミは何時だって何とかしてきただろう。木星のキミのライバルが来たときは、君が倒されてくれたら、って一瞬だけ思ったよ。・・・・・・まさか本当に自覚がなかったのか?」


「・・・・・・・・・」


 横島には、自覚がなかった、と言うのが正直な心境だ。正直ピンと来ない。


「成程。ほぼあり得ない事ですが、ナデシコを停止させることが出来るということをちらつかせ、それに焦った私か横島さんのどちらかでもユキナちゃんの引渡しに同調すればそれで良し。そうならなければ・・・・・・えっと、どうするつもりだったんですか?」


「さてね。まぁ下手に邪魔するより木星の連中との和平に協力しても良かったよ。こうなった以上、問題を長引かせても結果が同じなら足を引っ張るだけ時間の無駄でナンセンスだからね。

 ま、僕たちは営利団体だから、せめてある程度は美味しいところをもらうつもりだけど?」


 アカツキは肩をすくめて答えた。メグミはしばし考え込み、


「火星・・・ですか? ネルガルは何故かあそこに拘りを持っているような気も・・・・・・」


 アカツキは眉をピクリと動かしたが、それ以上は反応せず、


「それは企業秘密ってヤツだよ」


 横島は、そりゃそーだな、と思っただけだった。実際興味なかったし。


「んで、これからどーすんだ? みんな逃げてもたけど、ユキナちゃんを狙おうって気は無いんだろ」


 横島の言葉に、アカツキは、「ぐっ」と呻いた。


「そうなんだよねぇ・・・・・・今、嘘だから戻ってくれって言っても・・・・・・」


 まず信用しないだろう。誰だってそーする。横島だってそーする。


「・・・・・・その方法はこれから考えていくものとしましょう」


 黙って事の推移を眺めていたプロスが、重苦しい空気を断ち切るように言う。


「それまでは、まぁ休暇とでも思ってもらえば」


「・・・・・・それしかないか」


 アカツキは苦々しく呟いた。


「んじゃま、俺は行くからな。いい加減明乃ちゃん達も心配してるだろうし」


「わかったよ。テンカワ君達にはキミのほうから説明しといてくれよ」


「折を見てな」


 横島は出口に向かって歩くが、急に足を止め、くるっと振り向き、


「ってお前ってネルガルの会長だったのかー!?」


「今そこに反応するのか!?」


 流石のアカツキも他の人と同じようなノリで突っ込むんでしまった。


 その時、ブリッジのドアが轟音を立てて吹っ飛ぶ。入ってきたのは・・・・・・





「行け、マリア! サーチ・アンド・デストロイじゃ!!」


「イエス・ドクター・カオス」





「なっ!」


 横島が引きつった声を上げ振り向いた瞬間、





「デストロイ」





 マリアの肩部ががしょん、と持ち上がり、蜂の巣状の発射口から大量のベアリング弾が一斉に吐き出された





「く、クレイモアーーーーーッ!!?」





 いくら横島でも放射状に広がる弾幕からは逃れられない。


「うわっ!?」


 アカツキは瞬時に床を転がり物陰に退避したが、無傷なのは横島が盾になったおかげと言ってもいい。


「ぎゃわはあああああああああっ!!」


「横島・さん?」


 奇怪な叫び声と視覚情報により、マリアはクレイモア射撃を中止。撃つ前に気付け。せめてもっと速く気が付けと言ってはならない。背後のカオスも横島に気付いたのか、ゆっくりと入ってきた。


「おお小僧、なんで挽肉になっとらんのじゃ?」


「せめて一言詫びろやジジイ!!」


 心底不思議そうなカオスに、横島は血まみれで絶叫する。


「ソーリー・横島・さん・でも・普通・死にます」


「うむ。普通の人間なら三回は死んでおる」


 カオスも重々しく頷く。ちなみに、クレイモアなんぞ喰らえばいくら横島でも死ぬが、驚異的な運と回避力で直撃弾はなかった。肉は抉れたが体内にベアリング弾も残らず後遺症は無さそうだ。驚異的ってレベルじゃねーぞと言いたいが、横島にはそんなことはどうでもいい。


「なんでいきなり撃たれにゃならんのじゃ!?」


「うむ。明乃嬢ちゃんが小僧がなかなか戻らないのが心配だとか言うもんで助けに来たんじゃ。血を噴出してたからそれが元で捕まったり殺されたりしとるんじゃないか、とな」


 その程度で死ぬなら美神令子の下で一万回は死んどるのにのぅ。とカオスは笑った。





「仮にも助けに来たんなら、見敵必殺なんぞすなっ!!!」





 横島の、珍しく正当な叫びがブリッジに響き渡った・・・・・・。



















 ちなみに明乃らとの合流後、血塗れの横島を見た明乃、モモ、ユキナは、アカツキに対して更なる怒りの炎を燃やすのであった。


 横島も訂正しなかった。合掌。
























 おまけ


 ナデシコから脱出したクルー達。勿論その中には整備班も含まれている。

 その仲の二人、ウリバタケと新入りは、運良くタクシーを捕まえ、ウリバタケの実家に向かっている最中だった。


 新入りは、窓から一定間隔で立つ街灯を何とはなしに眺めつつ、呟いた。


「うーん・・・・・・もうあとちょっとでおキヌちゃんが横島さんに会う準備が整うところだったのに・・・・・・」


「あン? なんか言ったか新入り」


「いいえ、別に。

 ・・・・・・って言うか班長、何時まで僕のこと新入りって呼ぶんですか?」


「あー・・・そうだなぁ。つーかお前の名前憶えてねぇや」


 はははと笑うウリバタケに、新入りはため息を一つついて、自分の名を言った。





「ピエトロ。ピエトロ・ド・ブラドー。ピートって呼んでください」






















 続く。
















 イネス先生の、なぜなにナデシコ出張版

 良い子の皆さんお久しぶり。今日もなぜなにナデシコの時間がやってきました。ここではいつものように「GS横島 ナデシコ大作戦!!」のギモン・専門用語・モトネタ等を、解りやすく、かつコンパクトに説明するわ。


Q1:横島らが冒頭でプレイしていたカードゲームって?

 説明すると超長くなるから、残念だけど割愛させてね。


Q2:横島らの抑圧されている性格って?

 横島:シリアスでハード。
 明乃:熱血全開。
 モモ:あまり変化は無いが思ったことをすぐ口にする。
 ユリカ:変化無し。
 ルリ:変化無し。
 リョーコ:おとなしくて押しが弱い。
 ヒカル:不思議ちゃん。具体的な台詞を喋らない。
 イズミ:落ち着いているが茶目っ気もある大人な性格。
 ガイ:変化無し。根っこから性格を改善させたのでネクラな性格は微塵の痕跡も無い。
 イネス:子どもっぽい性格。説明好きではない。むしろ子ども。
 アカツキ:明るい好青年。ちょっと子どもっぽい。
 イツキ:より使命感に燃える性格に。
 ムネタケ:やや熱血に。正直言うと、決めてません。
 メグミ:テレビ版準拠。


Q3:鳥人戦隊のブラックって?

 スーパー戦隊シリーズの15作目、鳥人戦隊ジェットマンの、ブラックコンドルこと結城 凱のことよ。
 平和になった世界で誰よりも信頼する親友(レッド)と、好きだった女性(ホワイト)の結婚式に駆けつける途中にひったくり犯に腹を刺され、それでも結婚式に駆けつけて二人を祝福した後に息を引き取ると言うラストはあまりにも有名。また、「俺に惚れろ!」等の名言を残したことも有名。


Q4:忍法撒菱指弾って?

「刀語(カタナガタリ)」に登場した、真庭忍軍12頭領の一人、真庭蜜蜂のもつ必殺技。
 二十丈(約66メートル)離れた場所からでも百発百中の命中精度を誇る投擲術よ。銃と違い轟音も火薬の臭いもさせない忍者らしい技で、棘に毒薬等を塗るのが普通。
他の頭領の持つ忍術の、完璧に他者の姿に自分を物理的に変化させる「忍法骨肉細工」や、海の上を歩けるくらいに身を軽くする「忍法足軽」に比べれば地味だけど、実際にはとてつもなく難度の高い技らしいわ。





 あとがき

 みんな騙されてはいけない! アカツキが窮地に追い込まれたのは、実は早い段階で状況は把握していたメグミによる戯言のせいだ! 孔明の罠だ!




 はいどうもこんにちは。K−999です。上の言葉は気にしないで下さい。

 えーさて、とてつもなくどうでもいい話しをします。実は私、明乃がどんな顔か実は知りません(自爆。背は横島より高いって事は無い程度にしか決めてません。スタイルが良いことは確定してるんですけど(ぉぃ。
いい加減な事夥しいですが、他のSS書きの皆さんは自分のオリキャラの大まかな姿形は決めてますか? まー当然決めてるんでしょうけど。


 明乃の場合、女版アキトであるからして、どーしてもアキトの顔がちらつくんですよね。Mr.JOEさんの明乃もベリーでグッドなんですが、やっぱり顔はアキトがベース(たぶん)なので、観賞用では絶賛活躍中ですが執筆中はあまり頭に浮かんできません。


 しかしある日。執筆中にふと思いました。


 明乃って、タマラセの夏月に似てない?


 似てないですか。すいません。

 しかし、その時の私はなぜかとても似ていると感じてしまいました。共通点として、

・ヒロイン。
・基本的に敬語。
・スタイルは良い(贔屓目入ってるか)。
・強い。
・主人公にラブラブオーラを発している。


 等です。思いついてしまったが最後、明乃の台詞を書いている最中は脳内で明乃は夏月の姿でした。


 その後、どっちの姿がより良いか悩みました。悩みすぎて夜も眠れないほどでした。昼に寝ましたけど(怒られた)。


 そして、昼食で広島焼きを食べていた時、急に悟りました。


「どっちも良いじゃん」


 “どっちでもいい”ではなく、“どっちも良い”です。ここ重要。


 皆さんも、明乃は上記の二人のどちらかで脳内再生してください。


 ――――――――――


 で、十分後上の駄文を読み返して思いました。


「マジでどうでもいいこと書いちまった・・・いや、どうでもいいことは無いけど・・・・・・」


 ここまで読んでくださった方はすいません。ちなみに作者は戦隊シリーズはタイムレンジャーが一番好きです。


 最後が一番どうでもいい話でした。



 おわれ。



 

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代理人の感想

ごぅおぅばーたいむあんすぺーす♪

タイムレンジャーも大好きなのですが、カーレンジャーやアバレンジャー、デカレンジャーも捨てがたかったり。

一番好きなのは多分デンジマンですけど(爆)

 

それはともかくアカツキむざん。

9割以上は日頃の行いのせいと自業自得でありますから、まぁ同情はできないのですが(笑)。

しかしシロタマに加えてピートまで・・・この世界って実は意外に神魔の管理がずさんなんじゃなかろうか(爆)?