<未来からの帰還?>
第1話 其の二
「ようこそ、NERV江………?」
シンジがミサトから渡された本の表紙に書いてあった言葉である。
「そう、国連直属の非公開組織……私もそこに所属してるの。ま、国際公務員ってやつね。貴方のお父さんと同じでね………。」
「父さん……か……。」
「どうした、シンジ。何を悩んでるんだ?」
シンジの声のトーンが下がったことに気づいたアキトがシンジに問い掛ける。
今、アキト達の乗っているルノーはNERV本部がある地下に行くためカートレインに乗っているためわずかな振動が伝わってくるだけだ。
「あ、うん。………父さんは何で僕を呼んだのかなと思ってね。」
「親父さんの仕事を知っているのか?」
「ううん、詳しくは。………でも、先生からは“人類を守るりっぱな仕事”だって聞いてる。」
わずかに逡巡してからそう答える。
その顔はまるで能面のように無表情。
両の手は膝の上で握り締めていた。
その手もほんのわずかだが震えている。
「親父さんのこと、苦手なのか?」
「………わからない。でも……会ってもギクシャクするのは分かってるから……。」
(父さんは僕を捨てたんじゃなかったのかな………?)
シンジはそう思った。
「シンジ、言いたい事は言える間に言っておいた方がいいぞ。いつか言えなくなるときが来るんだから。」
シンジはアキトからかけられた言葉に驚いて後部座席を振り向く。
ミサトもつられて視線を向ける。
「えっ?」
よく意味が分からなかったシンジは聞き返す。
「俺の両親は俺が小さい時に亡くなったんだ。」
◇◆◇◆◇
NERV本部 発令所
「UNもご退散か………。碇、どうするつもりだ?」
「………………初号機を起動させる。」
発令所の一般職員たちのいる所よりも一段高い所にある司令席で、初老の男――冬月コウゾウ――が、隣りにいる髭面の男――碇ゲンドウ――に問い掛けるとゲンドウは自信ありげに呟く。
「初号機をか?しかし、レイにはもう無理だぞ。」
「ふっ、問題ない……。たった今予備が届いた。」
冬月は驚いて再度問い掛けるが、ゲンドウは目の前のモニターから目を離さずにそう答えた。
◇◆◇◆◇
その頃、アキトはNERV内の通路をシンジと肩を並べて歩いていた。その数歩前には、ミサトが何か資料を持って歩いている。
「アキト君。………さっきはごめん。」
「ん?なにが?」
いきなりシンジから謝られたアキトは本当に身に覚えがなかったので少しマヌケな声を出す。
「さっき、父さんと会ってもギクシャクするだけだって言ったことだよ。
……アキト君の言ったとおりだよ。多分、会っても普通の親子の会話とかはできないと思う。
でも、僕が思っている事はできるだけ話そうと思うんだ。」
シンジは少しだけ、決意を込めた顔でそう言った。
「そうか、ガンバレよ。」
アキトはそう言い、微笑んだ。シンジもそれにつられて微笑む。
アキトとシンジ。
二人の間には対等とまではいかないものの、良好な友人関係が築かれていっているようだ。
………まあ、それはそれとして、
「ミサトさん……」
歩きながらアキトが問う。
「なーに?」
努めて軽い声で返事を返すミサト。
しかし、その額にはうっすらと冷や汗をかいていた。
「さっきから随分歩いてますけど……まだ着かないんですか?」
ミサトはひきつった笑顔を浮かべながら言う。
も、もう直ぐ着くわよ!!貴方たちは黙って着いてくればいいの!!」
言動を強まらせて言うミサト。
説得力の欠片も無い。
((迷ったんだな……))
アキトとシンジの心の声が重なった。
<<マスター、早く発令所に行かないと初号機に綾波レイが乗っちゃいますよ?>>
(それは分かってるんだが……案内人がアレじゃあな。)
そう(思考の中で)言い、ミサトを一瞥するアキト。
(なあ、ミコト。お前の中にNERVのデータってあるか?)
<<ええ、もちろん。>>
心なしか、胸を張って言うミコト。
(そうか。だったらナビゲート頼むな。)
<<えっ?ちょっとマスター?>>
ミコトのとがめる声も無視してアキトはミサトに近づき、
「それ貸してください。俺が見た方が早そうだから。」
言うが早いか、ミサトがまったく反応できないほどのスピードで資料――NERV内の地図――をひったくるアキト。
「ちょ、ちょっとアキト君!?」
ミサトは驚いて地図を奪い返そうとするが……
「……分かりました。俺について来てください。」
そう言って地図をミサトに返すと、アキトは足早に歩き出した。
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「まさか、ほんの二、三秒見ただけで地図を完璧に記憶するなんてね………アキト君すごい記憶力ね。」
「まぐれですよ。まぐれ。」
実際にアキトは、ミコトが言うとおりに進んだだけなので凄くも何ともない。
アキトとシンジ、ミサトの三人がそんなことを話しながら歩いていると、前方のエレベーターの扉がチーンという到着音とともに開いた。
「あら、今から迎えにいこうかと思ってたのに……。貴方が迷わずに時間どうりに到着するなんて雪でも降るんじゃない?ミサト。」
エレベーターから出てきた白衣に金髪の女性は指定した場所にミサトが時間どおりに居ることに、感心している様子だった。
「あのねえ、リツコ。それじゃ私がいつも迷っているみたいじゃない!」
「……ところで、その子がサードチルドレン?」
「人の話はちゃんと聞けえええ〜〜!!」
金髪の女性は騒いでいるミサトを無視して、シンジのほうを見た。
一方、見つめられたシンジは慌ててあいさつをする。
「あ……始めまして。碇シンジです。よろしく。」
(なんだ?サードチルドレン……って)
「あたしは技術一課、E計画担当博士――赤木リツコよ。わたしの事はリツコって呼んでね。よろしく、シンジ君。」
リツコは温和な微笑を浮かべて、シンジの顔を覗き込みながらそう言った。
「あんまり似てないわね。」
「えっ?」
「ああ、こっちの話よ。気にしないで。それより………」
「この子は誰?」
アキトを指差すリツコ。
「ああ、この子は……「初めまして、リツコさん。シンジの友達のテンカワ・アキトって言います。」(ニコッ)
ミサトの言葉を遮ってリツコにあいさつをするアキト。
リツコは、時間が無いためか、アキトの微笑を見たためなのかは知らないがそれ以上の質問はしてこなかった。
「では、アキト君もシンジ君も着いて来て。見せたいものがあるの。」
一方、無視されたミサトは………
「わた〜しは〜。ひと〜り〜。」
床に指でのの字を書いていた。
◇◆◇◆◇
暗闇の中、ライトがつき、紫色の鬼を連想させる凶悪そうな顔が現れた。
その途端、リツコが胸を張って「人造人間エヴァンゲリオン」だとか「我々人類の最後の切り札」だとかうんちくを述べているが、アキトは全く聞いちゃいない。
「これも……父の仕事ですか。」
シンジが震える声でそう言う。その時……
「そうだ。」
いきなり頭上から、異常なまでに高圧的な声が聞こえ、碇ゲンドウ出現。
「ひさしぶりだな。」
全く感情のこもっていない声でそう言う。
「父さん……」
シンジはゲンドウから目を逸らした。
「ふっ、出撃。」
ゲンドウは冷たく言い放つ。
「な!?待ってください!!碇司令。レイでさえ、エヴァとシンクロするのに七ヶ月かかったんですよ。今日着たばかりのこの子にはとても無理です!!」
「他に方法は無いわ。」
「まぢ?」
ミサトが叫ぶが、リツコは冷静に切り返す。
「乗るならば早く乗れ!!………でなければ、帰れ!!」
「私たちはあなたを必要としてるわ。」
「乗りなさい。」
シンジが叫ぶ。だが、大人たちはシンジに乗ることを強要する。
『人類を守るため』と称して……
先ほどまで反対していたミサトも、今ではシンジが乗ってくれと命令している。
シンジの思いも知らずに。
心に秘めてあった期待を自分たちが裏切ったことにも気づかずに……。
だが、彼らは知らない……。
シンジの隣りに『戦神』がいることを……。
◇◆◇◆◇
ATOGAKI
影法師です。
何でこんなに進まないんだろう?これでもけっこう場面削ったのになあ。
この調子だと、軽く五十話くらい逝っちゃいそうな………(字が違う(汗)
あと、アキトの二つ名を推敲しています。
とりあえず候補が、
1. ザ・マジシャン・オブ・ダークネス(暗黒の魔術師)
2. ウィザード(魔法師)
3. サイレント・アサシン(静かなる暗殺者)
の三つです。個人的には1が好きなんですけど……
すいませんが、どれがいいかメールで教えてください。
もちろん、これ以外のものでも構いませんので、よろしくお願いします。
代理人の感想
なんで部外者のアキトがジオフロントに入れるんだ(笑)?
というベタな疑問はさておき(ミサトさんがボケだったとか)、
まだエヴァ小説ですね、今回は。次回からの展開を楽しみにしたい所です。
特に初号機に乗るのはアキトかシンジか、或いはアキトが巨大化してサキエルを一刀両断するのか!
と言うあたりが(笑)。
ちなみにアキトの二つ名ですが、“称号”ならともかく“二つ名”で
あんまり仰々しいのは好きじゃないので私なら二番ですかね。
管理人の感想
影法師さんからの投稿です!!
いや、まあミサトさんだからアキトがついてきても気にしないでしょう(爆)
・・・本当に重要機関なんだろうか、ネルフって(汗)
しかし、展開上このまますんなりとシンジがエヴァに乗るとは思いません。
個人的には私はアキト巨大化に一票!!(爆笑)
あ、二つ名は私も2番を推します。
では、影法師さん!! 投稿有難うございました!!
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