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ハーリーは飛びついてきた香織の頭を撫でて笑う。
「どうしたんだ。少し離れただけでもう寂しくなったか」
「そ、そんなわけないだろ」
香織はハーリーの身体に回した腕に力を込める。
「やっぱり辰斗でも香織でもお前は変わらないな」
「ハーリーの前だけだ。・・・・・・こんなことするのは」
「ありがとう、香織。嬉しいよ」
柔らかな笑顔を見た香織の頬が赤く染まり、俯いてしまう。その小さな手がハーリーの
背中にいくつもの、のの字を書く。
その感触にくすぐったそうな顔をしながらも香織の好きにさせてやる。
「照れるな、照れるな。それよりも、俺はいいんだが周りの人間がこっちを見てるぞ」
「ばっ、バカ。それを早く言えよ」
慌てて離れる香織を見るハーリーの顔は相変わらず、柔らかな笑顔だ。
「ハーリー、あの人たちはいったい誰なんだ。特にあの女の人と後から来た奴は」
「あの女の子はウリバタケ・キョウカ。ウリバタケさんの娘だよ」
「ウリバタケ。あのT・A抹殺同盟の。写真でしか知らないが、でも全然似てないな」
「奥さんに似たんだろ。あの人美人だったから」
「・・・・・・そうか。で、後から来たのは一体なんだ」
「あの子はヤガミ・ナオさんの娘のメティだよ。でもメイと呼んでやれよ」
「どうしてだ。メティならメティでいいじゃないか」
「お前と同じで、なにか訳ありらしい」
「ふん。それより」
香織は懐に手を入れて、ハーリーとお揃いの小さな懐中時計を取りだした。
上に着いてるスイッチを押して蓋を開け、見る。
「そろそろ時間だ。行こうハーリー」
時計を仕舞うとハーリーの手を取り、歩き出した。
「さてさて、感動のご対面となるか、それとも・・・・・・・・・・・」
ハーリーの口元に笑みが浮かんだ。しかしそれは喜びや楽しさの逆の時に使われる笑み
に間違いなかった。
前方の人々からどよめきが上がる。主役の登場らしい。
二人はゆっくりとそこに近づいていく。
運 命 と 世 界 に 愛 さ れ し 者
第四章 前編 運命起動
人混みの向こうに二人はいた。
煌びやかな衣装に身を包んだルリとアキトは大勢の来賓達、一人一人から祝辞を貰って
いた。二人もそれに応え談笑している。
それを少し離れたところからハーリーと香織が見ていた。
「どうだ、辰斗。自分の父親の姿を見た感想は。涙が出るほど感動したか?」
溜息混じりに香織が言う。
「ハーリー、変なテレビの見すぎだ。たまにハーリーから聞くくらいしか知らなくて
実際に会った記憶も無い父親の姿を見たってなにも思うわけないだろ」
香織はアキトの姿を見て、再び溜息を吐く。
「だいいち、あんなにやつれた男が父親とはがっかりだ。漆黒の戦神なんていうから
もっと逞しくて強そうな男だと思っていたのに」
「まぁ、確かにやつれて見えるな。40キロそこそこと言ったところか」
「痩せすぎたせいでせっかくの衣装が似合ってない。それに一応はめでたい席なのにあ
の疲れ切った表情はなんだ。いったいなにがあの漆黒の戦神をあんな姿にしたんだ」
「十人を越える奥さんがいるからなにかと大変なんだろ」
「現代に蘇った合法ハーレムか。なんて・・・・・」
「羨ましい」
香織の言葉を横からハーリーが続ける。
「おい、今なんて言った。ハーリー」
「ん、なんか言ったか。俺」
ハーリーの反応に白い目で見る香織。
「そうだよな〜。ハーリーも男だもんな〜」
「ああ、だからお前に思い切り捕まれたときは悲鳴を上げて倒れたろ」
「ばっ、バカ。いきなりなに言うんだよ」
「なにって、男の証明だ。あれがなければ・・・・・いやないのもいるが、とりあえず
あれがあれば男だろ」
「ううううううううう」
赤い顔で香織がうなり声をあげる。
「そんなことはどうでもいいだろ! ほら、さっさと行く!!」
香織はハーリーの手を取って先へ進む。
しかし、多くの人が壁となり先に進めない。
「ハーリーなんとかして向こうへ行けないか」
「行けないこともないが。そこにあるテーブルを振り回してなぎ倒したほうが楽だぞ」
「よし。ハーリー、やれ」
「どうしてそこで俺が出てくるんだ。お前がやればいいだろうが」
「言い出したのはお前だろ」
「はぁ・・・・・わかった、わかった。なんとかすればいいんだろ」
溜息混じりにそう言うとハーリーは左手を横に。
「運命で切るのか。その人混みを」
「バカかお前は。こんな所であんな長ものを振り回すわけないだろ」
ハーリーの手が動き、空間に声が響いた。
≪運命を拒む道はこの世界にはあらじ≫
人の壁が開けた。
誰もそれには気がつかない。自分たちのいた場所が変わったにも関わらず。
彼らはハーリーに道を開けた。誰一人として動いていないにも関わらず。
香織はこの光景を見て息を飲んだ。
・・・・・ハーリーの能力は・・・・・この世界すら書き換える。
前に立つハーリーの顔はわからない。
香織は自分に背を向けるハーリーの背中を見て、
・・・・・ハーリーはどうやってここまでの力を。
「道が開けたよ。行こうか、辰斗」
ハーリーは香織の大好きな柔らかい笑顔といつも優しく撫でてくれる大好きな手、そ
して聞くだけで心が躍る大好きな声で呼ぶ。
「うんっ」
自然と笑顔になった香織は再びハーリーの腕に抱きついた。
そして二人揃って歩き出す。
その時、ルリ達天川の名を持つ者達はあまりに突然な変化に付いていけなかった。
今まで目の前にいた人々がいなくなった。
ごく自然に突然できた空白地帯に彼女らの視線が集まる。
そこには二人の人物がいた。
ハーリーと香織だ。
まずハーリーが軽く微笑み、口を開いた。
「お久しぶりですね。ルリさん」
「えっ?」
ルリはその言葉の意味が分からなかった。
・・・・・どうして合ったこともない人が・・・。
そう思ったのはルリだけではない。彼女らのほとんどが同じ心境だった。
たった二人の例外を除いて。
「・・・・・・マキビ・・・・・・」
「やっぱり来てたんだ。ハーリー君」
苦々しい北斗とは対照的に零夜の声は軽く明るい。
「零夜さん、あれから身体に異常はありませんか」
「異常なんてないよ。ハーリー君のおかげで前よりも調子がいいくらいなんだから」
「それはよかった。あの後なんのアフターケアもしていないから心配だったんです」
「またまたー。そんなこと言って本当は全然心配してなかったんじゃないの」
「わかりましたか。でも、いくら世界で3番目に腕のいい俺でも少しは心配しますよ」
「ふふ、ありがと。でも大丈夫」
「そうですか」
ハーリーはどこか安堵を含んだ笑みを浮かべる。
それに対し零夜も笑みを返す。
「ハーリーくん?」
固まっていたルリが再起動を果たし、やや疑念の隠った声で呼びかける。
「はい、ルリさん。本当にお久しぶりです」
ハーリーはルリの前に歩を進める。
「あなたに会えるこの日をどれだけ待ったことか。一日千秋とまではいきませんが、一
日を百日の思いで日々を過ごしてきました」
「私もハーリーくんのことを忘れたことは一度もありません」
ルリは堅さを消し去れていない笑みを作る。
「る、ルリさん。ボクはその言葉だけで・・・・・・ありがとうございます」
その目に涙を浮かべたハーリーは深々と頭を下げる。
顔が見えないくらいに。
・・・・・いくら自制の鎧を身に纏おうとも・・・・・心の動きは隠せる物ではない。
ハーリーはルリの感情を遺伝詞と言う形で見、そして聞いて、読んでいた。
ルリの遺伝詞は今、黄色く、速く演奏していた。
焦りの遺伝詞だ。
・・・・・ルリさんは嘘をついて・・・・・・いる。
知らずハーリーの口元に笑みが浮かぶ。
香織には見せたことはない、負の感情から出る笑みが。
その後、パーティが終わってからまた会うという約束を取り付けてハーリーは分かれた。
ハーリーは部屋の中を見回して呟いた。
「参るね」
ここはピースランド城の第十三応接間。
大きめの体育館並の広さの中には様々な調度品が並んでいる。
そのどれもが一般家庭なら一年は遊んで暮らせる程の物だ。
しかしこの程度の物は天川家の財力から考えると、とても客を持てなす部屋に置くべき物
とは到底言える物ではない。
香織は軽くハーリーの袖を引いて意識をこちらに向けさせる。
・・・・・どうかしたの?
他人の思考を遺伝詞という形で読むことができるハーリーに、遺伝詞で問いかける。
・・・・・動物園の動物か。モルモットになった気分だよ。
また香織もハーリーほどでは無いがある程度は遺伝詞を読むことができた。
そんな香織の為に強く自分の思考を表に出す。
オープン
倫敦風に言えば 外 燃 詞である。
香織はハーリーの言っていることがわからないという風に小首を傾げる。
・・・・・香織にはまだわからないか。
・・・・・なにが?。
ハーリーの心の声に香織は頬を膨らませる。
・・・・・参ったことにここにはかなりの細工がしかけられてるよ。
・・・・・そうなの。
・・・・・ああ。あちこちに小さいけど強く自己主張する物が山ほどだ。
・・・・・カメラとかマイクかな。
・・・・・完全にはわからないが他にもあるな。この床もそうだ。
・・・・・数年ぶりの再会なのに素直に歓迎してくれないんだ。
・・・・・仕方がないさ。俺が昔とは比べ物にならないくらい変わったからな。
・・・・・だからってこの仕打ちは無いと思うよ。
・・・・・誰でも理解できない力を持つ者は怖がられるし、それを理解するためにこんな
ことをする。別におかしな事じゃない。
・・・・・でも・・・・・・。
ハーリーは腕を組んで、
・・・・・ルリさん達は今の俺を、マキビ・ハリと認識していない。
・・・・・そんな、こと。
・・・・・昔のイメージが強すぎて、この現実が受け入れられないんだよ。
・・・・・私は受け入れられたよ。
・・・・・それはいつも一緒に居たからだ。変化の過程を見ることが出来たから。
ハーリーは柔らかな香織の髪を撫でる。
・・・・・それに今の俺は彼女たちに昔のような感情は持っていない。たぶんそれに漠然
とだろうが気がついたのかもしれない・・・・・そして俺が・・・。
ハーリーの思考が途切れる。
奥の、ハーリー達の背にある扉と同じ物が開きだしたからだ。
開かれた扉から天川家の女性達が姿を現した。
そのどれもが見知った顔だ。
もうすでにドレス姿ではなく、みんな動きやすそうな服に着替えていた。
彼女たちが近づいてくる。その先頭はラピスだ。
「ずいぶん変わったね、ハーリー」
第一声がこれだ。
「いつまでも男の子でいるわけにはいかないからね。大事な一人義娘も出来たし、色々
な経験させられたから、変わるのも無理ないよ」
ハーリーはラピスの身体を見て、
「・・・・ラピスの方は相変わらずみたいだけど」
「ハーリー、もしかしなくても喧嘩売ってる?」
笑顔のラピスがハーリーに問う。
ハーリーも笑顔で応える。
「若くてみんなから羨ましがられてるんじゃないかと思っただけだよ。ラピスはいつま
でもそんなふうでいてほしいな」
「それっていつまでも子供でいろってこと?」
「そう聞こえた?」
「うんっ!」
ラピスの二股の槍が横殴りでハーリーの顔を狙う。
ハーリーはしゃがみ込む事でそれを回避。
そして一気に・・・・・・スカートを捲りあげた。
まずハーリーの手が動き、腕が持ち上げられ、スカートがそれに続くように上へと動く。
ハーリーの腕が上がりきったその瞬間、ラピスの足は僅かに冷たい風を感じた。
「・・・・・・・・・黒のスパッツ」
やれやれと言いたげな顔でハーリーは立ち上がった。
「まったくスカートの下がスパッツなんて間違ってる。パンツかせめてブルマでしょう。
まあ、特例で水着までなら許可できるけど・・・・・・」
その一瞬後・・・・・・悲鳴があがる。
ラピスの悲鳴を間近で聞いたハーリーは顔をしかめる。
「ハ、ハハハ、ハーリーなんてことするのよ!!」
「別にいいじゃないか。そんな色気のないものくらい、減るものじゃなし」
「減るよっ!!」
ハーリーはラピスの乳と尻を見て、
「そうか。天川さんに見られすぎてそんなに・・・・・・・・・可哀想に」
思わず口元に手をやり、顔を背ける。
その口元には、ニヤリ笑いがある。
「ハ〜リ〜、殺す!!」
ラピスの顔には怒りがあり、その手に命を奪う武器があり、殺意もあった。
だが、ハーリーは怯まない。
ただ落ち着いて言葉を放った。
「ラピス、本当にそんなことが出来るのかい」
ラピスは言葉で応えず、行動で応える。
やや重心を落とし、槍を持つ腕を引いて、狙うはただ一つ。
自分を苛ただせる言葉を紡ぐ場所。
ハーリーがラピスの行動に割り込んだ。
一歩踏み込み、ラピスの目を正面から見て、その胸を軽く指で突く。
「ねえラピス、この指が刃物だったらここで終わりだよラピス。終わり、終わりなんだよ
それで俺を殺すつもりなの。本気で、できると思うの? この俺を」
ハーリーは穏やかとも取れる顔でラピスに言う。
ラピスはこの事実に驚き、動けない。
さらにハーリーの指がラピスの胸に沈む。
しかし限界が近い。
「それにしてもちゃんとご飯食べてる? 相変わらず小さいけど」
本日2回目のラピスの悲鳴が上がった。
「で、ハーリー君はなにしにここへ来たんですか?」
胸を両手で隠してルリ達の後ろでハーリーを睨むラピスを無視してルリは問う。
他の天川の妻達は交渉役をルリに任せて、成り行きを見守る姿勢でハーリーを見る。
「香織を天川さんに会わせようと思ってきたんですよ」
「それだけですか。私にはそれだけとは思えませんが」
「なんでそう思うんですか。俺には別の理由があると?」
「ええ。アキトさんに会わせるのが目的ならここにいない事になにか言うべきじゃない
ですか。ハーリー君」
「確かに、そのとおりです」
「それにさっきのラピスに対する挑発としか思えない言動。私たちになにを求めている
のですか。それを聞かせて貰えませんか」
ハーリーは肩を竦めて、
「別に大したことを求めているわけじゃないですよ。ただ・・・・」
「ただ?」
「世界で三番目に大人げない俺の八つ当たりに付き合ってくれると嬉しいですね」
「・・・・・・・・八つ当たりですか」
「そう。言葉を変えるなら俺がどの程度迄強くなったのか、それを見て欲しいんです」
「それで私に認めて、誉めて欲しいと・・・・・・そう言うことですか」
「全然違う、全く違います。あなたの目には今の俺が昔の俺と同じに見えますか」
「確かに昔と違って肉体的には大人になったように見えますが、中身はそう変わる物じ
ゃないでしょう」
「残念です、ルリさん、とても残念です」
ハーリーの大げさとも取れるその言動に眉をひそめる。
「なにが言いたいんですか、ハーリー君」
ハーリーは上着を後ろに投げ捨て、
「今の俺は昔の、あなたに恋慕の感情を持っていたネルガル重工製機動戦艦ナデシコサブ
オペレーター、マキビ・ハリではないんですよ」
≪運命とは共に歩む物≫
ハーリーの手の中に運命が握られる。
ヴィルト・フント
「今の俺は 野 犬 マキビ・ハリ」
「そうですか、あなたがそう言うつもりならこちらもあなたに合わせましょう」
ルリが後ろに下がり、北斗が、零夜が、リョーコが、アリサが、ラピスが、サラが。
拳とバット、刀、槍、二股の槍、消化器がそれぞれの得物を手に前へ。
後ろにいるルリ、イネスも端末を注射器を手にする。
その他の者は後ろに下がって、戦闘範囲から出ていく。
「ルリさん、一つだけこの流れを変えることが出来る方法があります」
「なんですか、その方法とは」
ハーリーの運命が床を打つ。
「俺に謝罪することです。今ここで、膝でもついて、頭を垂れて」
「拒否します」
ルリの口から冷たい言葉が、この場に響いた。
ハーリーは笑顔でこう、言った。
「それなら、この流れは変わらずにあなた方は後悔するだろう。この世界で三番目の俺と
の戦闘という流れを変えなかった事を」
そして、戦闘が始まった。
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後書き
どうも、お久しぶりです。
姓名判断だったか、画数判断でkageto2という名が良くないので、影人に変えさせて
いただこうと思っているkageto2です。
随分と間があきましたがみなさんには覚えていただけてるでしょうか。
とりあえずこんな中途半端な状態ですが、お送りさせていただきました。
後編もすぐ・・・・・・出せたらと思っています。
こんなセクハラハーリーですがこれからもおつき合いいただけると嬉しいです。
では、今回はこの辺で。
管理人様、代理人様、こんな遅筆な私ですがこのまま置いてやって下さい。お願いします。
次回はのんべんたらりと戦闘です。
代理人の感想
アキト哀れなリ。
ハーリーは……まぁ、別人であるのはさておくとしても
やっぱり「コノウラミハラサデオクベキカ」一歩手前状態(笑)。
に、しても三ヶ月しか間が開いてないのに
元ネタをゴリゴリと抉る作風が何やら懐かしく感じました(爆)。
>遅筆
ううっ……(ぐさぐさ)。←取り合えず影人さん以上に遅い人