機動戦艦ナデシコ

魔剣士妖精守護者伝

第2話 ナデシコ、シージャックされる

 


ナデシコの初陣は、素人の囮と、グラビティブラストの一撃によって決まった。

その素人の囮役は格納庫に帰還すると、ブリッジに向かった。

「兄さま! 大丈夫ですか?」

ブリッジに入って最初に声をかけたのは瑠璃だった。

「ああ。何とかな。で、なんか聞きたい事でもあるんすか?プロスさん?」

龍一がプロスを見やる。

「ええ。山下さん。貴方、機動兵器の操縦の経験は?」

プロスが答える。

「いや、ないっすよ。」

「嘘をつけ! 素人にあんな操縦は無理だ!」

龍一の答えをゴートは否定する。

「本当です。兄さまはただの刑事です。そんな経験無いに決まってるじゃないですか!」

瑠璃は龍一を弁護する。なお、龍一は実際に操縦の経験は無い。ただ……、

「ただ、ゲーセンでこの手のゲーム、得意だったんすけど。」

「しかし、ゲームと実戦は違うぞ。訓練を受けた新兵でもああは上手く戦えん。」

なおも食い下がるゴート。しかしおもわぬ所から龍一を擁護する声が上がった。

「もう良いではないですか、ゴートさん。」

プロスペクターである。もともと彼は、ただ確認のために聞いただけだった。

「しかし、ミスター…。」

「意外と頭が硬いのねえ? ミスターゴート?」

同じくハルカミナトも龍一の擁護にまわった様だ。

「彼に操縦経験がある、無いなんてどうでもいいじゃない。第一、彼があの時あのロボットに乗らなかったら今ごろ私達はどうなっていたかわかったもんじゃないわ。」

「ううむ…。」

ミナトのもっともな意見にゴート、反論でず。その時プロスが、ある事に気付く。

「そういえば、先ほどの戦闘のとき、テンカワさんは山下さんに的確なアドバイスをしていましたね?」

「アキトはユリカの王子様だから何だってできるんだよ♪ だからアドバイスぐらい…。」 

いままでジュンに押さえられて静かだったユリカが急に口を開く。と同時にジュンの目から涙が…。

「艦長は黙ってて下さい。テンカワさん、貴方もしかして操縦の経験がおありでは?」

プロスの質問に自嘲気味な笑みを一瞬浮かべるアキト。その瞬間を見逃す龍一ではない。おそらくプロスもだが。そしてアキトは答える。

「一応戦闘の真似事ぐらいは…。」

実際にはうんざりするほどだが…。

「そうですか…。」

そのあとは、2人とも戦闘が(一応)出来ると言う事でサツキミドリ2号でパイロットの補充が行われるまで臨時でパイロットを務める事(羽目、とも言う。龍一の場合)になった。 

その時の龍一のコメントは、「さすがプロスさん、反論できなかったよ。しかし予算削るためにパイロットの人数けずるとは…。雇う金よりナデシコ落ちた時の損失の方が遥かにデカイと思うんだけどなあ。」

もっともである。

 

 

 

 

ブリッジでの追求は不問に終わり(ゴートには、「才能じゃないんですか?」と瑠璃が言っておいた)、自分達への部屋へと向かった龍一と瑠璃。そこで問題が起こった。

「部屋が一緒? 何で?」

「兄さまと一緒の部屋?」

何故か部屋が一緒の龍一と瑠璃。ちなみに部屋は士官用。かなり広い。しかしそんな事には構わず、すぐさま支給されたばかりのコミュニケを使いプロスを呼び出す。

「プロスさん! 何で瑠璃と部屋が一緒なんだ?」

「ええ。その事ですか。何か問題でも?」

「当たり前だ。いくら兄弟とは言え同室ってのは…。」

「何ら問題無いじゃないですか。ああ、それからお母上から伝言を預かっております。」

楽しそうに笑みを浮かべるプロス。龍一はいやな予感がしながらも一応聞く。

「なんすか?」

「『間違いは起きてもいいわよ。ってゆうか起こしちゃいなさい。』だそうです。私には何がなんだかサッパリですな。」

さらっととんでもない伝言を言うプロス。龍一はずっこけながらとりあえずつっこむ。

「あんたなあぁ、ぜってー楽しんでるだろ!」

 

 

このことも不問になり(された)、とりあえず部屋に入る2人。戦闘で掻いた汗を流すため、シャワー室に入る龍一。瑠璃は風呂上りの龍一のために何か飲み物を買いに行った

「ただいま……。」

しばらくして、ルリが戻ってくる。そこには案の定お約束と言うべきか、

「きゃああああああああああああああああああ!!!!!!!!!

「ぬわっ!?」

風呂上りの龍一がいた。ただお約束と違うのは、龍一はバスタオルも巻いていないすっぱだかの状態だと言う事だ。なお、何故隠していないのかと言うと、隠す必要の無いほどの大いに誇れるモノを持っているからだ。モノが何なのかは秘密である。

 

10分後――――――――

部屋の中には顔を真っ赤にした瑠璃と、真っ赤なもみじを顔に付けられた龍一がいた。瑠璃は下を向いており、龍一は何処か憮然としていた。

「部屋入る時はノックぐらいしろ。」

「はい……。」

まだ精神的ダメージが抜けていない瑠璃。それを見ながら龍一は思う。

(だから一緒の部屋は嫌なんだ。これじゃおちおちエロビデオも見れん!)

男なら分かるだろう。

 

 

 

さらに10分後―――――

そこにはナデシコの制服に着替えた瑠璃がいた。ブラウスに黒のネクタイ、オレンジのベストにタイトミニのスカート。ルリと同じ服である。ちなみに龍一は、警視庁の制服を着ており、上からモスグリーンの軍用コートを羽織っている。

「これでますます分からんな。」

瑠璃はスカートの端を押さえている。どうやらミニなので恥ずかしいようだ。そこで龍一は声をかけてやる。

「安心しろ。色気も何もあったもんじゃない。」

瑠璃の答えは、無言で足の甲を踏む事だった。

 

 

 

ナデシコブリッジ。

そんなこんなでここに来た龍一と瑠璃は改めて自己紹介を行った。なおプロスの話では、アキトはナデシコのコック兼(臨時の)パイロットとして雇ったとの事。

「山下瑠璃、12歳。役職はナデシコの副オペレーターです。宜しくお願いします。」

ぺこっと頭を下げる。可愛らしい仕草だ。

「私はハルカミナト。役職は操舵手。よろしくね瑠璃ちゃん。」

にっこり笑うミナト。人を安心させるような笑みだった。

「は、はい。よろしくお願いします。」

対して少し緊張気味の瑠璃。仕方が無い。なにせ相手はかなり女性しているのだ。悔しいがスタイルではまったく歯が立たない。

(すごく綺麗な人だな…。うらやましい…。)

(う〜ん。ルリルリとそっくりな様だけど少し違うわね。こっちの方がおっとりしているわね。)

ミナト、すばらしい観察力である。

「私はメグミ・レイナード。よろしくね、瑠璃ちゃん。」

「はい。よろしくお願いします。」

今度は気後れする事も無かった。何故か…。

「私はホシノルリです。改めてよろしくお願いします、…瑠璃さんでいいんですよね?」

「うん。よろしく瑠璃ちゃん。あと私のことは『さん』は付けなくていいですよ。」

ルリとは同世代のためか、気後れしなかった。

「でも、やはり1歳とはいえ年上なので…。」

ルリは言う。と、龍一も、

「ぜひそうしてくれ。そうでないとこちらとしても分かりにくい。ああ、俺は山下龍一。コイツの兄貴だ。この船には警備担当で乗った。…本職は刑事だ。多分…。

同時に自己紹介も済ませた。ふと龍一は何か違和感を感じた。

「おい、そこの。艦長は?」

僕は副長なんだけど…。え? ユリカなら…何処行ったんだろう?」

 

 

そのころアキトは厨房にいた。部屋でルリと今後の方針を話した後、緊張しながらも厨房にやって来た。そしてホウメイさんの試験を受けたが、それは見事に合格。ホウメイさんは自分の味にアキトの味が似ていたのに不思議に思ったとか。

アキトが厨房で仕込みをしていると、案の定ユリカがやって来た。一瞬懐かしそうな、それでいて辛そうな表情したが、それに気付いたのはホウメイさんだけだった。

「ユリカ、艦長がこんなとこにいていいのか?」

「大丈夫だよ。お仕事は全部ジュン君に任せてるから。」

(相変わらずだな。ユリカもジュンも。って当たり前か。)

またも自嘲的に笑うアキト…。

(そういえば、そろそろムネタケの反乱か)

 

 

変わってブリッジ。

館内放送でいない艦長を無視してプロスによりナデシコの目的地が宣言される。

それにいち早く反論する人間がいる。ジュンだ。

「ちょっと待って下さい。それじゃ今地球に対して行われている侵略は見過ごすのですか?」

実直な彼ならではの意見である。

「しかしこうしているうちにも火星の人々の生存確率はどんどん下がってきているのです。貴方はそれを見過ごすのですか?」

「そうだよジュン君。 私達が助けに行かなくちゃ。行けるだけの戦力もあるしね。」

プロスとユリカがそのジュンに反論する。ブリッジクルーも彼らと同じ意見のようだ。…いや、一人違う人間がいる。その人間はおもむろに口を開いた。

「生きてる確証はあるんすか?」

龍一だ。プロスは答える。

「ええ。我が社の施設はある種のシェルターになっておりまして。あそこが一番生存の確率が高いと思われます。」

「けど、コイツはたしかに強ええが、敵の勢力圏にたった1艦で突っ込むなんて自殺行為だぜ。第一帰れる保証が無い。」

「そのための『人格に問題はあっても腕は一流』のクルーなのです。」

「限度があるわい! 熱血バカのパイロットに天然の艦長、見るからにマッドな整備班班長。これはアニメか?」

「そうよ。こんな人材にナデシコを任して置けないわ。よって軍が有効利用させてもらうわ。」

龍一の意見に便乗する形でムネタケが言う。

「血迷ったかムネタケ!」

「いいえ、提督。これはちゃんとした命令を受けてのことですわ。」

そして現れる連合宇宙軍の戦艦。

ルリとユリカの開いたウインドウの中のアキトは両耳を塞いだ。

「ユリカ――――――!!!」

「お父様!!」

サリーパパ、いや、ミスマル提督の音波兵器にブリッジウインドウの人間は全滅(防御したアキトとルリは除く)。それを尻目に2人の親子の会話は続く。

「ユリカ!! こんなに立派になって。わしは嬉しいそ!」

「お父様、今朝も一緒に食事したばかりですわ。」

(アルツハイマーかあのオッサン。)

いち早く復活した龍一はかなり失礼な事をか思っていたりする。

(可愛い娘を持った親は何処も同じなのか?)

なにやら実感のこもった意見である。

 

「これはこれはミスマル提督。一体どの様な御用件でしょうか?」

復活したプロスがミスマル親子の会話に割り込んだ。このままでは埒があかないと判断したからだ。

「うむ。それでは、機動戦艦ナデシコ。地球連合宇宙軍提督として命じる! 直ちに停船せよ!!」

そこには、サリーパパではなく紛れも無い地球連合宇宙軍中将のミスマル提督がいた。

その後――――――――

ユリカが皆の制止を聞かずマスターキーを抜き、ユリカはプロスとジュンを連れて、ミスマル提督の待つ戦艦に乗り込んで行った。

 

 

「かくして自由への道は1日にして断たれる、か。」

ウリバタケの呟きがもれる。

ここは食堂―――――

ナデシコの主要クルーはここに軟禁されていた。

「いやあうまい! ホウメイさんおかわり。」

この状況なのに食事をする龍一。なかなか図太い精神の持ち主だ。

「おお、兄ちゃん。おめえの料理もなかなかうまいぜ。」

「ありがとうございます。あと俺の名前はアキトでいいですよ。」

料理を誉められて嬉しそうなアキト。おもわず笑みがこぼれる。……頭の包帯が気になるが…。

「おう。俺も龍一でいいぞ。」

アキトの頭の包帯を気にしながら少々引きつった笑みを返す龍一。

瑠璃は他のブリッジクルーと戸惑いながらも話していた。

(人見知りを解消するにはいい機会だ。)

満足げに見やる龍一。そこには自分の通っている小学校について語る瑠璃と興味津々に聞くルリがいた。ふとアキトを見ると、自分と同じく満足げな表情をしていた。

(前からの知り合いか。けど何処で知り合った? どう見ても接点なんてねえけどな。…しかしこのまま軍がこの船使ってくれたら俺達はお役御免、はれて開放されるじゃねえか。やった。元の生活に戻れる。)

龍一が思考の海に落ちているといきなり暑苦しい声が聞こえてきた。

「どうした!! 皆、暗いぞ!!俺が元気の出る物を見せてやる!!」

再び懐かしそうな顔をするアキト。龍一はいぶかしんだが、流れてきたアニメを見て納得した。

(アキトって、このアニメのファンだったのか…。)

ある意味正しい。

 

気がついたら自称ガイは皆の先頭に立ち反撃に出ていた。それを見て動き出す龍一。

「あのチ○コ頭がのさばってるのはどうも気にくわねえ。とっちめてくる。」

いきなり放送禁止用語。聞いてしまった女性クルーは顔を真っ赤にしている。大丈夫なのは、ホウメイさんぐらいだ。

「あ、あの、チン○頭とは?」

勇気を出してアキトが聞く。

「ムネタケだよ、ムネタケ。あのカマ野朗。軍が海賊行為などとは言語道断。逮捕してやる。」

何か論点が違うような気がする。アキトは慌てて食堂から出て行く龍一を止めようとするが、

「○ンコの部下如きにやられるかボケエエ――!」

おもむろに挑発し、出会う兵士を皆ボコボコに叩きのめす。そして何処かに姿を消した。

「つ、強い…。けど、無茶苦茶だ…。」

アキトの正直な感想だった。

 

 

ナデシコクルーの蜂起を受け、各地で倒される兵士達。残すはブリッジのみとなった。

ブリッジに入ってくるクルー達。ブリッジにいたムネタケは往生際悪く、彼らに銃を向けた。ちなみにアキトは格納庫の方で兵士を排除している。

「これが目に入らないの?」

ムネタケは銃を見せる。

「素人かお前は。使い方はこうだ。」

そう言い放ち、愛銃であるワルサ―USPハンドガン(45口径)を腰のホルスターから抜き出し、右手で無造作に構え、撃つ。ムネタケの銃は弾き飛ばされた。とたんに龍一に向けてアサルトライフルを向ける兵士達。しかし龍一の左手にも何時の間にかワルサ―USPが握られていた。アサルトライフルを向ける兵士達に発砲する龍一。二丁拳銃だ。その銃撃は兵士達のそれより遥かに早かった。

アサルトライフルに当てられ落としてしまった兵士達が呟く。

「は、早過ぎる…。」

「お前らが遅いだけだ。俺より早い奴なんざ幾らでもいるぜ。」

 

 

呆然としたムネタケ達を縛り付けて龍一は宣言する。

「もはやお前はムネタケではない。チンタケだ!!」

後ろから『セクハラ退散』と書かれたハンマーを龍一に振り下ろすミナトがいた。

 

 

20分後―――――――

目を覚ました龍一は、瑠璃からナデシコが軍を振り切って逃走した事を伝えられた。龍一が気絶している内に、全てが終わったらしい。みなみに、副長が居なくなっていた事に気付いた人は誰もいなかった。

 

 

 

 

余談だが、(自称)ガイの怪我は全治3ヶ月、龍一は2週間だった。

 

 

 

第三話へ

 


後書き

こうして無事に第2話を送れてホッとしております。ここで少し補足を。

龍一の着ていた軍用コートはとある組織のものです。この組織はこの作品世界の中で後々大きな役割を持ってきます。ちなみに防弾防刃耐爆仕様です。

龍一の愛銃のワルサーUSPですが、これは完全に龍一の私物です。日本の警官に支給される銃はニューナンブですから(22世紀はどうなってるか分かりませんから現代を基準にしています)。

あと刀も持ちこんだのですが、出せなかった……。

それではこれにて。第三話も読んでくれると嬉しいです。

 

 

 

 

代理人の感想

二丁拳銃・・・ジョンウーの映画ですかこれは(爆)

それにしても四十五口径のハンドガンと日本刀が私物・・・

この時代銃刀法はどうなっているんでしょうねぇ(笑)。

 

追伸

読み終えた後R指定を入れるべきかどうか一瞬だけ迷った自分がいたのは秘密です(爆笑)。