機動戦艦ナデシコ
魔剣士妖精守護者伝
第3話 本当に早すぎる「さよなら」
「痛ってぇ〜〜。」
自室でミナトに殴られた個所を擦っている龍一。セクハラ紛いの発言を繰り返したので自業自得である。
「あんな事言っていたんですから仕方ありません。」
もっともである。
「けど、なかなかのナイスネーミング…「どこがです!」…ぐっ!」
思うところがあるのか、言葉に詰まる龍一。
傷の手当て?が終われば、最近サボっていた刀の手入れと銃の分解整備が待っている。その事を思うと少し憂鬱になる龍一だった。
地球連合統合作戦本部ビル―――――――
ニューヨークの国際連合ビルに隣接する形でそびえ立つそのビルの総司令部内大会議場では、ナデシコに対する処遇が討議されており、現在総司令が演説を行っているところである。
総司令である大柄な壮年の黒人男性が堂々とした態度で口を開く。
「ナデシコゆるすまじ!
国家対国家の戦争が終わった今、地球人類は一致団結して木星蜥蜴と戦うときだ!!
だが、ナデシコは火星に向かうと言う。このような暴挙を許しては地球はどうなる!!」
と、そこに緊急通信が入り、演説は中断された。
なんの前触れも無く突如開くウインドウ。
「あけまして、おめでとうございま〜す」
当然、ナデシコ艦長ミスマルユリカである。何故か振袖姿だが…。
「おおっ、フジヤマ!」
「ゲイシャ!!」
「ブラボー!!」
なぜか各国の高級軍人達は大興奮。ユリカ嬢、曲がりなりにも美人なので無理もないが…、時と場合をもう少し考えた方がいいと思う。
「なんで10月なのに振袖なんだ?」
「お正月まであと2ヶ月以上ありますよ?」
ユリカの後ろの方でつっこむのは龍一と瑠璃。どうやら武器(銃刀法違反モノ)の手入れは終わったようだ。
余談だが、今龍一は帯刀している(汗)。出会うクルー達に「銃刀法違反だ!!」とつっこまれまくったが、警察手帳を見せる事で事無きを得た(これを、職権乱用とも言う)。
極東方面軍日本代表の席では……、ミスマル提督がにやついていた。他の将官達は見なかった事にしている。
「私が変わろう。艦長、君は緊張しているようだ…。」
フクベ提督はその様子に焦るがユリカはまったく気にしない。
もちろん交渉は決裂。…いや、交渉とも呼べないものだった。
ナデシコとの交渉?の最中、一人の壮年の男性が難しい顔をして腕を組んで座っていた。胸についている階級章は大将。…山下将明……、龍一の父親である。
(プロスの奴、本気で火星に行くつもりか? フレサンジュの姉ちゃんの為とも思えん。第一゛あの゛ネルガルが人助けなど、絶対にせん。…となるとやはり遺跡!!? ……間違いねえな。ちっ、道化師め!)
そこでお茶を一口飲み、給仕の女性士官のお尻を挨拶代わりに撫でて、殴られてから再び思考の海に潜る。殴られた頬が少し痛む。自業自得だが。
(どちらにせよ、帰ってはこれんだろう。龍一と瑠璃は絶対に連れ戻さなければな。)
「おい、坂本。音無(おとなし)に伝えろ。『゛予定゛どうりにやれ』とな。」
「ハッ。」
将明が坂本中佐に指示を出した時に横から声がかかる。
「大将。ビッグバリアはどうします?ナデシコが地球圏を脱出する時にバリア衛星ごと消失しますよ。」
「役立たずのバリアなんざいらねえさ。」
「はあ…(責任者…尻尾切りだねこりゃ)。」
将明は質問してきた技術士官(少佐)に答えると、話題を変えた。
「そういや、アレはどこまでいっている?」
「出力はそのままに、小型化に成功しましたよ。奴らの巡洋艦クラスのディストーションフィールドぐらいなら楽勝に貫けます。まあ、あの威力を維持するのならエステバリスには搭載するのはきついですよ。もともと規格も違いますし。」
「当たり前だ。機体の方は?」
「試作機が3機。先行量産型が20機。量産に移行するにはあと3ヶ月ってところです。まあ、これはコストが張るんで指揮官用ですよ。量産機の方は…、これも3ヶ月後ですね。」
「性能は当初どうりだとエステが屁に見えるぐらいだが、実際のところは?」
技術士官(少佐)は嬉々として答える。
「予算の都合上、少しは落ちますが、無問題です!」
「よくやったレナード!!」
レナードと呼ばれた20歳ほどのアッシュブロンドの美形は嬉しそうに微笑んで、
「後は龍一と瑠璃が帰ってくれば完璧なんだけど。」
連合軍総司令は怒り心頭の様子で各方面軍にナデシコ補足の指示を出す(将明達の会話は聞こえていなかった)。
ちなみに先の会議での最後の発言はミスマル提督で、
「おほん、わが娘ながらとんでもない女ですな。
しかし… 振袖姿に色気がありすぎる…ムフ、ムフフ…」
…この発言に思わず頷いてしまった連合軍将官は結構いたりする。将明も当然その一人だ。
なお、まとまった軍事行動は久しぶりのため、木星兵器が刺激され、現在各地でバッタと交戦中だったりする。
「ナデシコめ、絶対に許さんぞ!! 第三防衛ラインを呼べ!!」
なんだか知らないが、総司令個人の恨みまで買っている。これでいいのか?
ナデシコでは――――――
ブリッジ要員が集められて状況説明と作戦会議の真っ最中である。
瑠璃が詰まるとルリが助けるという、実に微笑ましい光景が繰り広げられていた。が、ここ営倉ではそんな事は関係無かった。
「一体何時まで我々を軟禁するつもりだ!!なあ?」
「この扱いは明らかに国際法に違反しているぞ!おい!」
ナデシコの占領に失敗し、アキトに倒され、龍一に不名誉極まりないあだ名を付けられた軍人達が多数監禁されていた。
「うるせー!ガタガタ言ってると脳みそだけ残して体改造しちまうぞ!、大人しくしててよねまったく…」
そんな連中に面倒くさそうに言い放つウリバタケ。
「ったく、これから戦闘だってのによ…。なんで俺達が…。」
と言いつつ営倉の扉を閉める。
整備班は龍一と共に軍人達の移送をしていた。いかに人手不足とはいえ、たしかに整備班のする仕事ではない。龍一は、軍人達をテキパキと縄で縛るとブリッジに行った。
ただ問題なのは、
「どう、外せそう?」
「無理です。はっきり言って完全に玄人の縛り方ですよ。チンタケ提督。」
「私はムネタケよおおおお!!」
どうゆう玄人かは秘密である。
アキトの部屋――――――
「これで全部かい?ルリちゃん?」
「ええ。アキトさん。彼らについての資料は今調べられる範囲の中ではこれで全部です。」
アキトとルリは、龍一と瑠璃の資料を調べ上げていた。なにせ、『1回目』にはナデシコに乗っていなかった人間である。しかも龍一は、対人戦闘ではアキトクラス(アキト視点)ほどの実力があり、瑠璃に至ってはルリとうりふたつの容姿を持つマシンチャイルドなのである。気にするな、という方が無理がある。
「父親が連合軍の軍人、しかも大将とは…、とんでもないな…。」
「私が軍にいた時にはすでにいませんでした。何かしらの事情で退役されたのだと思います。」
考え込むルリ。しかしアキトはその事は今は関係無いと判断し、次の資料を見た。今アキトが欲しい情報は、なぜ龍一と瑠璃がナデシコに乗ったのかである。
「普通に高校まで行って、その後警視庁に…。経歴を見るとそんなに変な所は無いな。問題児だったみたいだけど。…ん?10歳の時に、4ヶ月間行方不明に?何だこれ?」
アキトが龍一の経歴を調べていて唯一見つかった不思議な経歴と言えばこれだけだった。一方ルリは…、
「ナデシコに乗る理由が見つかりました。…ええと、瑠璃さんはかつてネルガルの研究所にいたみたいです。その後、何らかの理由で山下家に引き取られたみたいです。それからは普通の子供のように普通に学校に行っていたようです。」
そこまで言うとルリは少し羨ましそうな顔をした。彼女は良くも悪くも学校に行った、いや、世間一般における『普通』のくらしの経験が無い。彼女自身、そういった普通のくらしに少なからず憧れを持っているのだから当然である。…もっとも彼女の場合、゛アキトと一緒゛と言う前提条件があるのだが。
「けど、研究所で名目上行われていた『研究用ドナー』の契約は生きていたみたいで、それを盾にナデシコのオペレーターとして取り立てられたみたいですね。」
「あの2人にとって、ナデシコに乗る事はこれまでの日常を急に奪われる事だったのか…。」
アキトは同情できた。なぜなら彼も火星の後継者に幸せな日常を奪われた過去がある。
「けど、゛前の歴史゛では乗っていなかったよね?」
「何らかの方法で乗るのを回避したみたいですね。しかし゛今回゛は乗っています。歴史は少しずつですが確実に変わってきています。」
そうしたアキトとルリのシリアスな会話(通信)は乱入者のお陰で途絶えた。
「ア〜キ〜ト〜!!もう!! 幾ら知り合いだからって、ルリちゃんとばっかりお話しして!!私もアキトとお話しがしたい、したい、したい!!!」
精神年齢は一体何歳なのか?と、とても気になるユリカ嬢の言動。しかしいくらナデシコだからと言ってあんな会話(通信)をブリッジでするのは問題だと思う。
「何を話すんだよ…昔の事も今までの事も、全部話して聞かせただろ?」
無意識の内に避けているユリカに内心の葛藤を顔に出さずに答えるアキト。しかし人格的な問題からか、ポーカーフェイスは苦手なアキト。その為にわずかに歪む表情を見逃す龍一ではなかった。
(苦手なのか?ああゆうタイプ。 俺は嫌だがな。ストレスが溜まる。)
…少し着眼点が違う。
(しかし、女の扱い方がなってねえな。馴れてねえ?いや、元々苦手なのか…。)
だから着眼点が違うって。
龍一の勘違いをよそにユリカの質問は続く。
「う〜〜〜!!じゃ、ルリちゃんと何を話してたか教えてよ!!」
「プライバシーの侵害です。」
(当たり前だろうが。)
この時から龍一のユリカに対する評価は「脳みそ小学生」となった。
「う!! ルリちゃん恐い。でもでも!! そう!! 艦長命令ですよ!!」
「黙秘権を行使します。」
まだ続いている。
「兄様、あの人本当に連合大学を主席で卒業したんですか?」
瑠璃がもっともな質問をしてくる。
「ああ。アレだ。よく一芸に秀でた奴は他の所がダメダメだったり未発達だって言うじゃねえか。」
「なるほど。ならあの人は精神面が…。」
「ガキなワケ。」
「結構的得てるわね、それ。観てる分には面白いけど。」
ミナトがそう評価する。とそこに、
『敵機確認』
「有難うオモイカネ・・・艦長、第3防衛ラインに入りました。同時に敵機デルフィニウムを9機確認。後、10分後には交戦領域に入ります。」
「う〜ん、ディストーションフィールドがあるから大丈夫だと思いたいけど。」
「今のフィールドの出力では、完全に敵の攻撃を防ぎ切れません。」
アキトを見るユリカ。結局は龍一も出る事になるだろうが。
「でも・・・あ、ヤマダさんがどうしてエステバリスに乗ってるんでしょう?」
メグミの呟きにブリッジクルーは完全一致で即答した。
「うそ?」
ルリが慌てて表示した通信ウインドウには、全身包帯男が、エステバリスに乗って飛び立とうとしている姿が映っている。
「・・・ガイ、一体何をしてるんだ?」
一応確認するアキト。
「決まってるだろうが!!俺のこの熱い魂で!! 俺達の行く手の邪魔をする奴達を叩きのめ〜す!!」
「ヤマダ機、ナデシコから発進。」
「あのバカ!何も持たずに出やがった!!」
遅れてウリバタケが通信を入れる。
「ユリカ…俺達が出て連れ戻してくるよ。」
「え?それって俺も入ってるのか?」
龍一の声を無視するかのように
「…仕方ないよね、許可します!!アキトも山下さんも無茶はしないで下さい。」
「兄様…気をつけて…。」
ヤマダから遅れる事10分。アキトと(嫌々ながらも)龍一はナデシコから発進する。
彼らが戦闘空域に到着した時、ヤマダ機は一応回避行動に専念していた。
「何してるんだアキト!!親友のピンチだぞ!! 早く助けろ!!」
などと言い放つ自称ガイ。
「コイツ…、落としてやろうか?」
と言いつつヤマダ機にロックオンする龍一。
「わ、ストップ龍一さん!」
慌てて止めるアキト。
その隙を好機と見て一気に襲い掛かるデルフィニウム。
「ちっ、こっちはIFSも使ってねえ初心者なんだぞ!!」
そう言いつつも、放たれたミサイルをギリギリで避けながら手にした二丁のラピットライフルを撃つ龍一機。
こちらはミサイルを適当に避けながら鼻息混じりに戦うアキト。
ふと龍一は自称ガイの操縦の矛盾に気付き、通信を入れる。
「おい!ヤマダ!お前なんでいちいち技名叫びながら攻撃するんだ?」
ちなみに周囲の敵は全てアキトが引き付けている。
「俺は…「んなこたぁどうでもいい!!」…ロボットなら必殺技だろうが!」
龍一にかなりびびりながら答える自称ガイ。
「バカか!?お前!!必殺技はいわばトリ!最後のシメだろうが!それを安売りするなんざぁ…、必殺技に対する冒涜だろうが!!!!」
その龍一の言葉を聞き、
「おおおお!!そうだったのか!!目から鱗が落ちたぜ!!」
感激するガイ。
「ふっ、それでいい…。」
何故か満足そうな龍一。
「行くぞ!ガイ!!残りの機体もぶっ飛ばすぞ!!」
「おう!龍一さん!!」
やる気満々のガイとその場のノリでテンションが上がってきた龍一はナデシコ(ユリカ)を説得しているジュンの機体に向かっていった。
「そんなに…。」
その頃、ナデシコのユリカにジュンが通信で説得をしていた。もう佳境だが。
「解った、ユリカの決心が変わらないのなら。」
「解ってくれたの、ジュン君!!」
ジュンが自分の考えを分かってくれた者だと勘違いしたユリカは喜びの声を上げる。が、ジュンの答えはユリカの予想とはまるで違っていた。
「あの機体をまず破壊する!!」
ジュンの目線の先には、そちらに向かってくる龍一の機体があった。
「げっ!マジ?」
龍一の機体に向けて複数のミサイルが発射された。
「ちっ、無茶をする!!!!」
実力を隠す事を一時忘れるアキト。
手に持つライフルのピンポイント射撃で全て叩き落すアキト!!
「龍一さん!! 今のうちに逃げろ!!」
んが、3機ほど撃墜に失敗していた。
「兄様!!!逃げて!!!!」
必死に叫ぶ瑠璃。
しかし、あろう事か龍一機はそのまま敵の方に突っ込んだ!
迫り繰るミサイルのホーミング性能を利用して、敵に突っ込みギリギリの所で回避!
龍一機が回避した直後、敵機の眼前にはミサイルがあった。
「ここまでうまくいくとは思わなかったぜ。俺って天才かも。」
とりあえず危機が去り、余裕が戻る龍一。と同時に、
「あのクソガキ……。いきなり撃ってくるたあいい度胸じゃねえか…。上等だコラ!!!!」
そう言ってジュンの機体に迫る。
「う、うわああああ。」
ジュンの説得にかかろうとしていたアキトを尻目に、八当たりとばかりにまだ無事な機体に張り付き、至近距離からラピットライフルを放つ。
そうこうしている内に何時の間にかヤマダ機も参戦。龍一の素人離れした(しかもIFSなしで)動きもあってか、残すはジュン機のみとなった。
「い、何時の間に…。う、うわあああ、く、来るなあああ。」
最後の仕上げとばかりに、ジュン機に張り付く龍一機。
「お坊ちゃまが…。た〜〜〜〜っぷりお礼してやるから、覚悟しろよ!!あぁ!!!」
そういってデルフィニウムを思いっきり揺さぶる龍一。慣性制御がエステほどできないため、コクピットの中でまさにシェイク状態なジュン。それはジュンの叫び声が聞こえなくなるまで(気絶するまで)続けられた。
「むごい…、むご過ぎる…。」
この光景を見たアキトは後にそう語っている。
「アキトさん。アオイさんへの説得は?」
「無理だろう?この状況じゃ…。」
『第2防衛ライン浸入、ミサイル発射を確認』
突然、オモイカネからの報告が入る。
「ちっ、仕方ない…。…ルリちゃん!!」
「はい、アキトさん。」
「俺はミサイルを破壊しつつ、回避行動に出る!!ナデシコのエネルギー供給フィールド内での回避行動だからな、かなり制限されるだろう!! それでも、ディストーション・フィールドは解除しないようにと、ユリカに伝えてくれ!!それとガイと龍一さん!早くナデシコのフィールド内に戻ってくれ。」
「お、おい、正気かアキト!?」
「ガタガタぬかすなガイ。このままじゃ俺達も死ぬぞ!!」
そう言いナデシコの方に自称ガイを蹴り飛ばす龍一。
「おいアキト!できんのか?」
「ええ。龍一さんも早く!!」
「わーったよ。…死ぬなよ。」
そう言って掴んでいたジュン機をナデシコの方に思いきり蹴飛ばして自分もナデシコのディスト―ションフィールド内に退避する龍一。
「さて、と…リハビリがてらに、真剣にやるか!!」
ユリカから入ってきた通信に答えながらアキトは宣言した。
そして―――――――――
「第2防衛ライン突破…」
「ルリちゃん…アキトは…?」
呆然とした様子でルリに聞くユリカ。
「テンカワ機…テンカワ機、応答願います!!」
必死で連絡を入れるメグミ。
「艦長、…残念ですが、あのミサイルとディストーション・フィールドの板挟みです。一流…いや連合軍のエースパイロットでも、生存は厳しいですよ。」
「…そんな、プロスさん。」
「アキトさんが信じられないんですか、艦長?」
なおも呆然とするユリカに、喝を入れるように尋ねるルリ。
そこにブリッジに入ってくる龍一。
「兄様!大丈夫ですか?」
「おう。時間はともかく,約束は守るんでね。」
瑠璃に優しく微笑みながら答える龍一。
「兄様……。」
今の状況も忘れ赤くなる瑠璃。龍一はユリカに向き直り、
「艦長さんよ。あいつはあんたに信じろって言ったんだろ。だったら信じるしかねえんじゃねえのかな?」
と言った。
「…そうですよ。アキトさんは強い人です。約束を必ず守る人です。山下さんが言うように私はアキトさんを信じています。」
ルリがそれに続く。そして…、
「…私も。私もアキトを信じてる!!それはルリちゃんにも負けないんだから!!」
その光景を見て、
「兄様、…やっぱり兄様ですね。」
「うるせ。…!」
と、そこまで言いかけて、
ピィン――――!!
「上だ!!!!」
龍一の中で゛何か゛が閃いた。
「「「「えっ」」」」(ブリッジクルー全員)
「上だ!!上にアキトがいる!!もっと上だ!!!」
――――程なくして、
『テンカワ機発見!!』
「オモイカネ!! 何処?」
『ナデシコより更に上空にて発見』
ルリの質問に即座に答えるオモイカネ。その答えは、龍一の言ったとうりだった。
歓声に包まれるブリッジ。アキトはルリの誘導に従い、ナデシコに帰艦…したが、着艦直後に気絶。過労らしかった。
その後、無事にバリア衛星を突破、チン(ムネ)タケは脱走。なおガイが撃たれる事は無かった。
完璧にしばっていたはずなのになぜ脱走できたのか、龍一は不思議がっていたが。
そして翌日―――――
アキトはプロスにブリッジに呼び出された。
「さてさて…テンカワさんの戦闘記録を今先程、ブリッジ全員で拝見させてもらいましたが。」
「正直言って、信じられん程の腕前だ。」
プロスが切りだしゴートがそれに続く。そして、
「てめえは何者だ?こんだけ腕立つのに、てめえの噂なんざ聞いたことねえんだが。」
そう言い、アキトに銃口を向ける龍一がいた。アキトはその素早さに反応できなかった。
「いきなり穏やかじゃないですね、龍一さん。」
「ちょ、ちょっと、何しているんですか山下さん!」
「艦長は黙ってろ。俺はコイツと話してんだ。おめえ、傭兵上がりか? いや、それなら噂は広がるよな…。」
龍一の剣幕に黙るユリカ。龍一の質問にプロスとゴートが続く。
「山下さんの言う通り、これ程の腕前を持ちながら、今までテンカワさんが軍などに所属していた記録は無い。はっきり言えば、テンカワさんの実力を持ってすれば…」
「装備が揃えば・・・コロニーでさえ単独で落せる。ましてやナデシコを落す事も可能だ、と言う事だ。」
裏の顔を垣間見せるプロスとゴート。…もっとも、それに気付いたのは龍一とアキトだけだが。
「けど、コロニーなんか装備が揃えば、ある程度の腕持った奴だったら落とせるだろ。ナデシコだってそうだぜ。」
プロスとゴートの言葉を否定したのは、龍一だった。
「なぜそう思われるのですか?」
龍一に質問するプロス。その龍一の答えは、プロスの想像を絶するものだった。
「バズーカに戦略核仕込んで近づいてぶっ放す。うまくいきゃあ、守備隊ごと消滅させられるぜ。…ああ、放射能汚染の心配も、純粋水爆使えば要らねえしな。」
結局、アキトに対する追求は、龍一のぶっ飛んだ意見の所為で不問となってしまった。
その日の勤務が終わった後、龍一と瑠璃は一緒に部屋に戻るために廊下を歩いていた。まだ乗船して二日しか経っていないが、瑠璃はこの時間がお気に入りになっていた。
ふと龍一が立ち止まる。
「兄様?」
不思議に思って声をかける瑠璃。辺りを見回した龍一は口を開く。
「何のつもりだ? 出てこいよ。」
その声に答える形で出てくる男達。龍一はその発言をすぐに後悔する事になった。
(思った通りやべえな…。今は瑠璃か居るから…、って一人でも切りぬけれねえぞこれは。)
5人もの男達に囲まれていた。彼らは、相当な手練だと言う事を龍一は即座に見抜いた。だが、それと同時になにか違和感を感じた。
(こいつら…構え方がまちまちだ。こいつU.S.SOCOM?こっちはSAS?SALLS?グリーンベレーにスペツナズ? なんだ、この統一性の無さは? …まさか?)
瑠璃は不安げに龍一の左腕を抱き締めている。その事に内心舌を打ちながらも瑠璃を庇う様にして立つ龍一。
「あんたら、傭兵だな?」
「よく気付いたな。」
「構え方がまちまちだ。」
「たいした観察眼だな。」
内心の焦りを表に出さず、傭兵達に質問する龍一。
「あんたらは何者だ? 目的は何だ?瑠璃か?」
もっとも考えられる事を言う龍一。
「違うな。俺達の目的は、君達を無事に地球に連れ帰る事だ龍一。」
突如聞きなれた声が聞こえた。この声の主を2人はよく知っている。
「「音無さん。」」
現れたのは、将明の特命を受けた音無和輝大佐(35)だった。
「じゃあ、親父は元々このつもりだったんすか?」
「ああ。宇宙に出た後で君達2人を確保して脱出する手筈なのだ。ここまでうまく行くとは思わなかったがな。」
何時の間にやら用意していたシャトルのコクピットで言葉を交わす音無大佐と龍一。瑠璃は龍一の横に座っている。不思議なのは、何時の間にやら自分達の部屋の荷物がシャトルに運び込まれていた事だ。
この事を音無大佐に質問したが、「知りたいか?」と嬉々とした様子で語ろうとするので聞かない事にした。龍一は世の中には知らない方がいい事もある、という事をちゃんと理解している人間なのだ。
こうしてナデシコから飛び去るシャトル。ルリはチンタケの部下の残りが脱出したものだと勘違いしていた。その結果、龍一と瑠璃がいなくなった事に気付くのは、サツキミドリ到着寸前となってしまった。
第4話へ
後書き
どうも、ようやく書けました。
さてさて今回、作品時間の中でですが、僅か二日でナデシコを降りた(連れ戻されたとも言う)龍一と瑠璃。なので、これからしばらくはオリジナルの話になります。しかし、彼らの運命はまた大きく動きます。
もっともそれは、作品時間の中では九ヶ月半後になりますが…。
それでは、またお会いしましょう。
管理人の感想
うう〜ん、確かにタイトルに偽りは無いですね(苦笑)
しかし、こうくるとは思ってもいませんでしたよ。
ガイとかムネタケならいざ知らず、龍一と瑠璃がね・・・
結構この龍一のキャラクターが好きなので、あのまま火星まで同行して欲しかったのですが(笑)
さて、この9ヶ月の間に、この二人にどんな事件が起こるのでしょうか?