機動戦艦ナデシコ

魔剣士妖精守護者伝

第5話 龍一の仕事

 


ここはグリプス1、兵士訓練場の大武道場―――もとグリプス1中央大学。軍に接収された後、改修され兵員宿舎と訓練場として使われている。―――に2人の男がいた。

龍一と将明である。

「こんなトコに呼び出して・・・何かと思えば只の稽古かよ。」

「その只の稽古をサボりまくってるのは何処のどいつだバカタレ。」

文句をたれる龍一に呆れながら注意する将明。

「まあ久しぶりだ。どんだけ強くなったか見ちゃる。」

「ウゲッ!手加減してくれよな。後で瑠璃の奴がうるさいからな。」

その龍一の言いぐさに苦笑しながら、

「でーじょうぶ。死なねー程度にするよ・・・って冗談だ。俺も瑠璃に嫌われたくない。」

こう答える将明。

「俺のことはどうでもいいのか?それよりもホントに何でこんなトコに呼び出したんだ?」

呆れながらの龍一の答えに、将明はふと真面目な顔をして、

「ふっ。行くぞ!!!」

そう言うと将明は竹刀を中段に構え歩み寄る。

龍一は竹刀を右手に持ちなおし将明に斬りかかる。実力差がハンパではない為、小細工などが一切通用しないからだ。

まず右上からの切り下ろし。そして左下からの切り上げ。右から左への薙ぎ払い。左から浅い切り上げ。そして脳天を狙い強烈な振り下ろし。・・・かなりの使い手でも防げないであろうこの連撃を、将明は鼻歌交じりで軽く弾き、受け流し、避ける。

「く、勝てるかぁーーー」

「ふふふ。なかなかに強くなって来たではないか。しかしこの俺の領域に達するには未熟もいい所…」

「達せれるか!大体親父は人間かどうかも怪しいんだからな!」

「俺は正真正銘純生の人間じゃ!! お前が俺の事どう思ってるか良ーく分かったぞ龍一。」

そう言いにじり寄る将明。口元は笑っている。・・・引きつっているが。

「ぼ、暴力はいけねーぞ、父ちゃん。冷静に話し合おう!!」

焦りまくる龍一。だがもう遅かった。

「さらばだ・・・。」

その一言を最後に聞いて龍一の意識は途絶えた・・・。将明は一瞬で龍一に近づき抜きざまに胴に一閃。

なお、1時間後に瑠璃の介抱で目が覚めた。

 

 

 

 

「う〜〜〜〜〜〜〜ん。良い部屋って中々見つからねえモンだな。」

ここは東京千代田区警視庁本庁捜査一課。龍一の勤務場所である。

すでにグリプスから帰還して1ヶ月の月日が経っていた。

現在は11月。寒さが厳しくなってくる時期だ。

その1ヶ月は元の生活に戻るのには十分すぎる猶予期間だった。瑠璃もちゃんと小学校に通っている。只一つ気がかりな事といえばナデシコだが、今のところ撃墜されたという話は聞いていない。

「う〜〜〜〜〜ん。折角一人暮しの許可がやっと出たってのに…。」

週刊○貸を見ている龍一。ちなみに現在勤務中だ。そのため…、

「なに見てるの山下君?」

「何でもないっすよ先輩。」

とこの様になる。

ちなみにこの先輩、なかなか面倒見が良く気さくな人である。

「どうでも良いけど課長に見つからないでね。貴方、只でさえ1ヶ月前に急に休職届け出して課長パニクらせたんですからね。結局は何時もの悪戯だったみたいだけど。」

「いやあ、ははは。あん時はすいません。」

多少顔が引きつりながらも感づかれず笑顔で返す龍一。…どこぞのすぐ顔に出る逆行者とは大違いである。

龍一は壁の時計を見、

「俺、今日はもうこれで勤務終わりっす。それじゃお先に。」

「あの、山下君。…まあ良っか。最近は何故か知らないけど事件は少ないみたいだし。ハア。」

この先輩、どうやら押しも弱いようだ。

 

 

自分の家がある葛飾区に帰り着いた(といっても一時間もかかっていない。寄り道はしたが)龍一。

「まだ4時か。・・・寄ってくか。」

歩き出した龍一。彼は何時もの彼らの溜まり場である喫茶店『サイレント・コア』に向かった。

 

「うっす。」

「またサボりか龍一?」

サイレント・コアに入ると同時に声を掛ける音無大佐。・・・ここは彼が開いている店である。

なぜ軍人である彼が喫茶店を開いているのか?という謎があるが、彼にして言わせれば軍人の方が『アルバイト』らしい。その他にも何処にそんな暇があるのか?という疑問も湧いて来るのだが、それは聞いてはいけない事である。

また給料減るぞ、お前。今度は金貸さないからな。」

・・・先客もいた。

「ウィルか。お前もサボりじゃねえのか?」

「ちゃんと終わったよ。お前とは違う。」

ウィルと呼ばれた20歳ぐらいの男性は笑いながら答えた。・・・ウィリアム=レッドフィールド。龍一の幼馴染兼親友である。

「ICPOって今忙しいんじゃねえのか?」

「いんや。まあ、戦争終われば忙しくなるだろうが。」

戦争犯罪の捜査でな。と付け足すウィル。彼はICPOである。ちなみに、龍一にもオファーは来ているのだが、かれは「めんどくさい。」の一言で断っている。

「音無さん。美月達はまだ来ていないのか?」

「もうそろそろ来る頃なんじゃないか?」

 

―――5分後、

カランコロン、と店のドアを開く音がして、美月と纏、瑠璃が入ってきた。

「あ、トム=クルーズ。」

「違うって美月。」

美月の第一声を聞いて呆れながらの否定するウィル。・・・実際似ているが。

「マスタ〜。イチゴパフェ。」

早速オーダーする纏。

「あ、あたしもチョコパフェ。それとお兄ちゃん、サボり?」

「違う!!それより金どうすんだ?」

「マスター。お兄ちゃんに付けといて。」

「あ、わたしも〜。」

「お前らな…。」

かなり容赦の無い美月と纏。だが、1ヶ月前の出来事(2人を放っておいてナデシコ乗船)のため強く出られない。

「ま、諦めろ。無論俺は払わないけど。」

ウィル、龍一に死刑宣告。

「さっすが! いよっ!トム=クルーズ。」

「だから違うって。いい加減そこから離れろ。」

結構気にしているらしい。

「今月ヤベーのに・・・。財布が・・・軽い・・・。後幾ら残ってんのかな・・・。げっ!!4桁切りやがった!!!」

「姉様達、やり過ぎです。兄様が可哀相です。」

「ああ・・・、俺の味方はお前だけだぁ〜〜。」

死に掛けの龍一と、それを庇う瑠璃。そんな光景を見て美月と纏は、

「無計画に使いまくってるお兄ちゃんが悪い。」

「そうだよ〜。龍一はもう社会人なんだから。っておばさんにも言われてるよ〜。」

瑠璃、反論できず。

龍一は見事に轟沈した。

 

「そういやお前、またおじさんに倒されたらしいな。」

(かろうじて)復活した龍一に向かって話し掛けるウィル。―――あれから30分が経った。

「アレには勝てん。無理無駄無謀。人間棄てなきゃなぁ。」

「そう言ったからからか。」

「おう・・・。」

瑠璃達は横の席で話し込んでいる。

 

――――さらに30分後、

「もう5時だし帰るか。」

龍一の言葉を聞いて帰る準備をする瑠璃達。そこに音無が龍一に声を掛ける。・・・瑠璃達には聞こえない声で。

「龍一、大将から『預かり物』だ。」

と言って何やらディスクを渡す音無。

「仕事っすか?」

「多分な。何所に行くかは知らんが。」

「俺に行けない所はないっすよ。」

皮肉めいた顔をした龍一の返答を聞いて、音無は哀しそうに笑った。

「そうだな。」

 

 

「まだしてたのか、龍一?」

帰り道、ウィルの第一声だった。

「ああ。自分で望んでやってる事だしな。」

「瑠璃の為か?」

前方で姉達と楽しそうに話している瑠璃を見ながら龍一に声を掛けるウィル。

「それもある。悲しいが今の世の中はこうでもしないとアイツはまともな生活はおくれねえ。ネルガルはともかく、クリムゾンやその他色々な組織が狙ってるしな。」

そこでいったん言葉を区切る龍一。そして悲しそうな、それでいて憎悪の篭った顔を浮かべる。

「それに・・・、まだ終わっちゃいない・・・。あいつ等は今も何所かでのうのうと生きてやがる・・・。まだ・・・残ってる。」

普段の龍一からは想像も出来ない、暗く、呪いの篭った憎悪の声を上げる龍一。常人が聞けば失神しかねないほどのその声を聞いて、顔をしかめるウィル。しかし、それは恐怖や嫌悪からではない。このような声を出せるようになってしまった親友を痛々しく思うゆえの表情だった。

「龍一、俺は最後まで付き合うぜ。それとあの子達の前でその顔は見せんなよ。」

龍一にとって、ウィルのその声は何よりも心強く思えた。

 

 

午後8時、山下家――――

龍一は愛用のコートを羽織って玄関にいた。ちなみに母親の夏樹は、今は出かけていて居ない。

「兄様、そんな格好をして何所かに出かけるのですか?」

「ああ。ちっと用事があるからな。」

瑠璃の質問に何事も無いように答える龍一。

「・・・今夜は遅くなる。大丈夫だと思うが戸締りはちゃんとしておけ。」

「私、子供じゃありませんから大丈夫です。」

頬を膨らまして反論する瑠璃。

「そう言ってる内はまだガキだ。」

苦笑しながら答える龍一。瑠璃はまだむくれている。

「それと、なんか用か纏?」

龍一の言葉の後、すぐに纏は居間から顔を出した。

「ふえ?よく分かったね〜。」

「そんな事はどうでもいいから早く言え。俺は急いでんだ。」

フンッと視線を逸らしながら纏を促す龍一。纏はその仕草を見て嬉しそうに微笑んだ。何故ならその仕草は龍一の照れ隠しの仕草だからだ。

『サイレント・コア』の帰り道から暗かった龍一を彼女は彼女なりに心配していた。

「えっとね〜、それじゃ帰りにケーキ買ってきて。」

「俺の財布の中身知ってんだろお前。」

ほえほえと答える纏をジト目で睨みながら答える龍一。纏の額には冷や汗が・・・。

「はいはい!とにかく行ってらっしゃいお兄ちゃん。」

強引にこの場を締める美月。龍一は内心感謝しながら家を出た。

家を出た直後、龍一は不意に立ち止まる。そしてあたりの気配を探る。

(1、2、3、・・・4人か。ご苦労なこった。)

「じゃあ俺が帰ってくるまで頼むわ。」

彼らは将明配下の諜報員である。この家から将明、または龍一が出ていった後、彼らの代わりに娘達を警護する命を受けている。直接には2、3回しか会っていないが中々に信用できる連中(漢達)である。

「「「「任せてください坊ちゃん。」」」」

坊ちゃんは止めてくれ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

某所。

窓がまったく見当たらない暗い部屋。幾つか開いたウインドウの光しか明かりの無い部屋で何やら話しこんでいる男達が居た。

―――――そう、居たが、今は科学者風の男以外全員頭を吹き飛ばされた死体になっている。

「き、貴様は何だ!?」

科学者風の男は失禁し、震えながらも突如暗闇から現れた男、―――龍一に質問する。

「俺を忘れた?・・・まあ無理ねえか。10年経ってっからな。」

感情を出来る限り押さえた声で男の質問に答える龍一。そうでもしなければ今にでも殺してしまうだろうから。

左目が僅かながら赤く光り、右手に持った紅く輝く刀身の刀―――ヒートブレードを男の右足に押し当てた。

「ギャアアアアーーー!!!足が!足が!!足が!!!」

「うるせえ奴だ。」

激痛とパニックで叫び、のた打ち回ってる学者風の男の方に向く龍一。

「てめえ・・・、覚えてんぞ・・・。あん時はよくも俺の体を好き勝手に弄くり回してくれたな・・・・。お礼はたっぷりとしてやるから覚悟しとけよ・・・。」

そう吐き棄てて右手に握っていたヒートブレードをのた打ち回ってる男の顔に押し当てる。

「ヒギャアアアアアアーーー!!!」

ジュウウウ、と肉の焼ける匂いが辺りに漂う。

「いいだろ・・・、このヒートブレード。俺の趣味だ。こんな使い方が出来るし・・・。それに中々切れ味もいいしな・・・。」

 

 

暫くして龍一の元に男が現れる。

「坊ちゃま、この施設の制圧を完了しました。」

「ああ。あいかわらず早いな。いい仕事っぷりだよ少佐。惚れ惚れしちまうぜ。」

「これも全て坊ちゃまの力が有ってこそですよ。それにここにいた連中の練度など恐れるほどでは有りませんから。」

談笑する2人。この死体達の事は無視している。取るに足ら無い事だからだ。

「で、坊ちゃん。目的のものは・・・。」

「ああ、このグリプスの新兵器の設計図ね。こんなモンが流出するとはヤバいんじゃない?」

「坊ちゃんにも言った様に内通者はコイツで最後ですよ。ご苦労様です。」

「どうってこと無いさ。またなんか有ったら呼んでくれ。」

 

音無が言っていた仕事とはこの事である。

龍一は時折グリプスの非合法活動に手を貸す。それは施設の襲撃であったり、破壊活動であったり、今のように暗殺や粛清であったり。

グリプスの特殊部隊は非常に優秀であるが、龍一はそんな彼等にある種羨望の眼差しで見られる程凄まじい能力を持っている。だからこそ手を貸す。

もっとも手を貸す理由はそれだけではないが。

 

「しっかし、今は連合内部でゴタゴタやってる場合じゃないと思うんだけどな。内部抗争している場合か?」

「コレばっかりは・・・。結局、人間の敵は人間なのですよ。」

残念そうに言う少佐。この件で龍一達グリプス勢に消された連中は同じ連合の一方面軍の所属だった。もっとも、明確な証拠は出てはいないが。

 

「俺はそろそろ帰るわ。少佐、後始末宜しく。」

「了解。お気をつけて。」

2人は部屋を出る。そこに残されたのは、4体の死体と人1人分の肉隗だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

龍一は家に帰ってきた。別に返り血は付いていないので着替えていない。

玄関から入ると、そこには美月がいた。

 

 

「なんつー時間まで起きてんだお前は・・・。」

ここは台所。美月は龍一の夜食を作っている。

こんな遅い時間まで起きていた美月を呆れながらも窘める龍一。しかし美月にも言い分があった。

「だって・・・、冷たいご飯なんて食べてもおいしくないよ?それに、何所か怪我してないか心配だったんだ。」

幸いしてなかったけどね、と付け足す美月。

龍一はこのお節介焼きの妹の心遣いに感謝しながらも心配かけた事を悔やんだ。

 

美月は龍一が今夜何故出かけたのかを知っていた。全ては偶然だった。1年程前に偶然仕事中の龍一に出会ってしまったのだ。当時はショックだったのだが今は完全に受け入れている。

『世の中は綺麗事だけでは生きていけない。』

仕事の事を問い詰められた時、龍一が美月に向かって言った言葉。その言葉と、龍一が暗殺(と粛清)を始めた理由を聞かされた美月は自分の浅はかさを呪った。

龍一は彼女達の身を守る為にこの業を始めたのだ。・・・無論それだけではないが、少なくても重要な要因の1つではある。

 

出来あがった夜食を食べる龍一。正直食べる気は無かったのだが折角作ってくれた美月の心遣いを無駄にはしたくなかった。

「うまいぜ。ありがとな。」

感謝の言葉を述べる龍一。すると美月はいきなり食べ終わった龍一に抱きついた。

「ごめんねお兄ちゃん・・・。あたしこんな事しか出来ないよ。」

龍一の胸に顔をうずめながら今にも泣きそうな声で呟く美月。龍一は普段の元気のいい様子からはまったく予測できない様子の美月をしっかりと抱き締めて頭を撫でながら耳元で優しく声を掛けた。

「こんな事、じゃ無い。俺はとても感謝してるぞ。どんだけ支えになったか・・・。ありがとな。」

龍一の本心から出た偽ざる言葉だった。

 

「あたし、瑠璃が羨ましい。」

暫くして、美月は呟いた。だいぶ落ち着いてきた矢先の言葉だった。

「ん?なんでだ?」

美月の話を促す龍一。

「えっ?い、いや、何でも無いよ!おやすみ!!」

焦りまくり、まるで脱兎の如きスピードで走り去る美月。

「そうかぁ?そうとは思えねぞ。普通でいるのが一番だからな・・・。」

少し辛そうにした龍一だったが、程なくしてこちらも寝る事にした。彼女の言葉の真意に果たして気付いているのかいないのか。

 

ちなみに、美月はその晩ずっと目が冴えていて眠れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

2週間後、ナデシコが火星で消息を絶ったという知らせが届いた。

 

第6話へ

 


後書き

どうも読んでいただきありがとうございます。

龍一、シスコン全開だぁーーー(爆)。

なんか途中でダークなシーンが・・・(汗)。蒲鉾菌とやらに侵されたんでしょうか。

それは置いといて、またお会いしましょう。

※訂正完了しました。ご迷惑をおかけしまして申し訳ございません。

 

 

 

代理人の感想

増殖中ですな。

これは全く由々しき問題。

最悪の場合全投稿作家のDARK化を招きかねません!

厚生労働省には早急な対策が望まれます・・・・・・ってActionにはないし(爆)

 

 

 

追伸

ついでにシスコン菌、ブラコン菌も増殖中の模様(爆)。