機動戦艦ナデシコ

魔剣士妖精守護者伝

第10話 月の魔剣士

 


グス、グス、ヒック、ヒック。

グス、グス、ヒック、ヒック。

泣き声が聞こえる・・・・・・・・・・・・。

遠くから・・・・・・・・・・。

いや、近くから―――――。

 

 

 

 

うっすらと目を開けると、3人の子供の泣き顔があった。

「死なないでよ・・・・・、りゅ・・ちくん・・・。死んじゃやだぁ・・・・・。」

緑色の髪の少女が側で泣きながら何かをしている。

(何たってんだ・・・?)

彼には少女が何をやっているのか解らない。

(ここ・・・・何所だ?)

何故ここに居るのかも・・・・・・。

(なんでだろ?触られてるのに何も感じない・・・。)

それに不思議な事だが体の感覚がまるで無い。

「ヒドイよ・・・・。何でこんな事・・・・・。りゅうちゃん、へんじしてよぉ・・・・・。」

その反対側で、薄紫色の髪の少女も泣きながら何かをしている。

(だから・・・何やってんだ?)

訳がわからないので、とりあえず体を動かそうとする。

 

「ぎあっ!!」

 

するとまるで無かった体の感覚が突如戻った。発狂しそうな激痛と共に・・・。

「だめだよ。まだ手当てが終わってないよ・・・・・。」

今度は瑠璃色の髪をした少年が彼を制する。目はやはり涙目だ。

あまりの激痛で気絶しそうになるが、皮肉な事にその激痛で意識を保った。

暫くして大分痛みがマシになって来たので周りを見回す。

周りには泣きながら自分の手当てをしている緑色の髪の少女と薄紫色の髪の少女、そして同じく泣きながら自分を心配そうに見つめる瑠璃色の髪の少年がいた。

そして彼らは全員金色の目をしていた。

 

そこで彼は思い出した。

ここが何所なのか。

彼らが誰なのか。

自分が何をされているのか。

 

「・・・泣くな3人とも・・・。俺は無事だよ・・・・・・。・・・あと、手当てありがとな・・・・・・・。」

口からは、彼等をこれ以上心配させない為の言葉とお礼が辛うじて出た。

 

その言葉を聞いて泣き笑いの表情を作る3人。

「り・・いちくん・・・・・。よかったあ・・・。良かったよぉ・・・・・。」

「りゅうちゃん・・・・・・・・。りゅうちゃん・・・・・・・・。」

「もう皆みたいに目を開けないと思ってたよ・・・・・・。よかったよぉ。」

最後の瑠璃色の髪の少年の言葉を聞いて、彼はあらためて生き残っているのが自分達だけなのだと思い知る。

彼らの声に答えるために左手を上げ、そのまま顔に乗せる。

「・・・え!?」

 

 

無かった。・・・・・・・・・・・・左目が・・・。

 

彼は途端に思い出す。

先程、何をされたのか。

只の実験ならここまでは傷つかない。先程彼は、研究員達の怒りを買いある男に体中を殴られ、蹴られ、斬られた。いい加減研究員に対して溜まっていた殺意が爆発し、僅かな隙を突いて大暴れしたのだ。

しかし、いかに彼の父親がとんでもないレベルの使い手で、彼も多少仕込まれているとはいえ、たかが10歳の子供である。じきに取り押さえられた。

その後彼は、見せしめの為男にいたぶられた。

その男は、この研究所の警備の責任者だった。

左目もその男に、その男の持っていた奇妙で巨大な槍で抉り取られた。

 

思い出したら急に体が震えだし、左目が痛くなった。

「どうしたの?」

緑髪の少女が聞いてくる。彼女はこの4人の中で彼と一番仲がいい。

「なんでもねえ・・・。」

それは恐怖に震えていた自分に対しての言葉だったのだろう。

彼はそのまま目を瞑る。どうせ寝ても悪夢しか見ないのだが、今は猛烈に逆らいがたい眠気が襲ってきた。

意識を手放す直前、あの左目を抉られた瞬間が再生された―――――。

 

 

 

「やめろ!!やめろ!!やめてくれよ!!」

「もう少し反抗すると思ったが・・・、やはり小僧か・・・・・。ま、これも仕事だかんな。悪く思うなや。恨むんならあそこでニヤニヤ笑ってるあのマッドを恨め。」

嬉しそうに口を歪め彼の上にまたがり押さえつける男。

槍が迫る。

切先が目に迫る―――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ!!!」

龍一はいきなり起きあがり、辺りを見まわす。どうやらここはナデシコの自室らしい。

「・・・・くそっ!!全然見なくなってたのによ。何でいきなり出てきやがる・・・。」

右手で顔を多いながら忌々しげに呟く。だがその呟きに答えてくれる人間は誰もいなかった。

「蛍の奴が1人で寝るようになってよかったよ・・・。こんなザマ、見せる訳にゃいけねえからな・・・。」

 

蛍は研究施設から助け出された後、暫くは1人で寝ることが出来なかった。

1人で寝ると、どうしても研究施設の事や、実験の事を思い出してしまうからだ。これはロックも同じらしい。

その為よく龍一のベッドに潜り込んでいた。ただ単に龍一に甘えたかったからと言うのも一因ではあるが。

龍一自身もその気持ちを痛いほど解るので優しく迎え入れた。

いつしか蛍はその事が習慣になってしまったが、ナデシコに乗るときに自身にヘンな噂が流れるのを防ぐ為このままでは色々問題があるので止めさせたのだ。

ちなみにここ一体は士官用の部屋で、龍一は1人、瑠璃と蛍は隣の部屋を2人で使っている。

 

体中が汗でベトベトなのに気付く龍一。そのままでは気持ち悪いのでシャワーを浴びにバスルームに向かう。

 

 

10分後―――――

龍一がシャワールームから出てくると、愛用の刀を持ってそのまま外に出ていった。

何時もなら、気を紛らわせる為にレナードを求めるのだが今はいない。その為、体を動かして紛らわそうと思ったのだ。

 

 

 

廊下を歩く龍一。ふと前方に同じく廊下を歩くアキトを見つけた。

「アキト、どうしたんだこんな夜更けに?」

何となく声を掛ける龍一。。

「いっ!?り、龍一さん。えっ、あ・・・。龍一さんこそ何しているんですか?」

気配が読めなかったのか、アキトはそれに必要以上に驚く。

「そんなに驚かなくてもいいだろ?あー、俺がうろついてる理由か・・・。それはちょっと夢見が悪かったからかな。カッコわりぃだろ?こんな歳にもなって。」

苦笑しながら自分の深夜の徘徊の理由を話す龍一。「・・・実際はちょっとどころではなく、最悪なんだけどな」、と心の中で付け足す。

「いや、そんな事無いですよ。俺も似たような物ですから・・・・。」

アキトも苦笑しながら龍一の理由に同意する。

それ以上お互いの徘徊理由について話さなかった。自分と同じ理由だと解ったからだ。

 

「刀・・・、持ち歩いているんですね。」

暫くして、隣を歩いていたアキトが口を開いた。

「ああ。ちとトレーニングルームでひと暴れしようかなって思ったんだよ。お前はどこ行くつもりだったんだ?」

「俺はイネスさんの所へ・・・。」

「何かの相談?」

「ええ。」

「俺はこっちか。じゃあな。」

「ええ、おやすみなさい。それと、今度戦闘訓練付き合ってくださいね。」

「ん〜、考えとく。」

 

アキトと別れた後、龍一はトレーニングルームで見た夢を忘れる為に1時間ほど大暴れした。ちなみに部屋は半壊だ。

 

 

 

 

龍一が部屋に戻ってくると、中から気配がした。

(またか・・・。昨日約束したばかりだろうが。)

中に入ってみると、気配の主は案の定蛍だった。ベットの端にちょこんと座っている。

「蛍・・・。もう一緒に寝ちゃダメだって言ったろ?なのになんで来た?俺の言う事が聞けないのか?」

『あの』夢を見た所為か、口調が少々強くなっていた。

それに少し震えながらも蛍は龍一に顔を向け、口を開いた。

「だって・・・・・・、お兄ちゃん・・・、とっても苦しそうだったよ・・・?」

その言葉で、龍一は蛍がリーディング能力の保持者だという事を思い出した。

(そうか・・・。蛍は俺の心を読んだ・・・?・・・いや、違うな。流れ込んだ・・・。なんにせよ心配かけちまったな。それを俺は・・・。ったく、気ぃ立ってっとロクな事しねえな・・・。)

そのロクな事にトレーニングルーム破壊は含まれているのだろうか?

「ごめんな蛍。俺の事心配して来てくれたんだな。」

「・・・(こくん)」

「ありがとな。」

龍一は蛍の頭に手を置いて優しくなでる。蛍は嬉しそうに微笑む。彼女はこれが龍一と一緒に寝る事の次に好きだった。

蛍は龍一にぎゅっと抱きついた。

「そろそろ戻った方がいいそ。明日仕事だろ?」

「・・・今日はここで寝る・・・。」

「蛍〜。」

ちょっと情けない声を上げる龍一。

「一緒に寝たら、怖い夢見ても大丈夫だよ・・・。」

蛍は精一杯に心配しているのだろう。龍一はそれがとても微笑ましかった。

「わかった。心配してありがとな。」

結局龍一は蛍と一緒に寝る事になった。

なんだかんだ言っても妹には甘かった。

 

 

 

 

 

翌朝、龍一の部屋 午前7:30――――――

龍一が目を覚ますと何やら気配を2つ感じた。それも自分がよく知る気配だ。

「・・・・・・おはよ、瑠璃。珍しく早えな。」

瑠璃はベッドの脇に立っていた。なお、龍一が言うように瑠璃が龍一より起きるのが早いというのは普段はまずありえない。

「おはようございます兄様。蛍は・・・・・。」

「ああ。ここだ。怖い夢見たらしい。」

適当に信憑性の高い嘘を言う龍一。瑠璃も蛍の力は知っているが、本当の事を話すのは気が引けた。

「よかった・・・。今朝起きたら蛍が居なくて心配だったんです。」

「成る程、そうでもなければお前が早く起きる事なんざねえもんな(笑)。」

笑いながらそう答える龍一。瑠璃は頬を膨らませて少し拗ねる。が、反論は出来ない。

「まあそう拗ねんな。とっとと起きて朝飯食いに行くぞ。蛍も、起きろ。」

 

 

 

 

 

ナデシコブリッジ――――――

着替えと朝食を済ませた龍一達は別段する事も無いがブリッジに来た。

 

現在ナデシコは、月面都市の中で最大規模を誇るフォン・ブラウン市の宇宙港に、補給の為3日前から停泊している。コスモスで修理は終ったが、補給はまだであった。

それに、配属早々バーニアが焼ききれるまで加速する羽目になったガンダムMk‐2の換えの部品(バーニア)を、早くも取りに行かなくなったのも寄港した理由の1つである。

なお、Mk‐2のバーニアは、本来はそう簡単に焼ききれる事は無いのだが、龍一は神皇から逃れる為にリミッターを外したためオジャンとなった。

ちなみにMk-2、サイズの関係でエステより慣性制御機構が充実しているので、龍一は気絶する事は無かった。

 

「おはよう、山下君、瑠璃ちゃん、蛍ちゃん。」

「おはようございます。」

すでにブリッジにはミナトとルリが居た。

「おはよっすハルカさん、ルリ。」

「おはようございますミナトさん、ルリちゃん。」

「おはよう・・・、ミナトさん、ルリちゃん・・・。」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・。」

そして何やら非常に機嫌の悪いエリナと目が合ってしまった。

どうやらゴートとジュンがブリッジに居ないのは、このエリナを避けたるためらしい。

 

「兄様、エリナさん物凄く機嫌が悪いみたいなんですけど・・・・・・。」

「お兄ちゃん・・・、あの人、怖い・・・・・。」

と、エリナに気付かれない様に小声で話す。

「付き合ってた男にフラれたんじゃねえのか?」

 

ギン

 

龍一の不用意な発言が聞こえたのか、エリナに思いっきり睨まれる。

(こ、怖っ!もしかして聞こえた?)

その視線の威力は龍一程の猛者であろうと冷汗物である

「いえいえそんな事はありませんよ。」

「どわ!?」

いきなり後ろから登場したプロスにビビる龍一。

「な、なんすかプロスさん?居たんすか?」

瑠璃と蛍は抱き合った状態で固まっている。

「エリナさんの機嫌が優れない理由ですよ。」

「あれって優れないのレベルなんざ通り越してキレかけっすよ。」

「ですからその理由です。コスモスとカキツバタの事なのですが・・・・・・。」

「ああ。軍に無償提供させられたって話っすよね。たしかコスモスが親父ん所(グリプス)で、カキツバタはアメリカ方面軍だったよな。けど、そんだけですんでまだ良かったと思いますよ。反逆罪でしょっぴかれるよりよっぽどマシっすよ。」

そう、連合軍は9ヶ月前のナデシコ地球圏離脱事件での損害賠償を求めてきた。連合がその賠償代わりとしたのがナデシコ級機動戦艦なのである。流石のネルガルも反逆罪の適用には敵わなかった。

たしかに龍一の言うように戦艦2隻の無償提供で事が済むなら安いものだ。

「まあ、4番艦のシャクヤクもよこせだのって言ってますけどね。けどなんでこんな事なんかで怒ってんだろ?エリナさんは。」

「彼女はプライド高いですからね〜。しかしご機嫌斜めな原因は他にもあるんですよ。」

「じゃあ・・・・・・・、アノ日っすか?」

「・・・・・違います。」

引きつった苦笑をするプロス。

「山下君、それってセクハラよ。」

ミナトはジト目で睨む。

「エリナさんが怒っている理由は恐らく、軍にも既に相転移エンジンとディスト―ションフィールドを搭載した戦艦が存在していると言う事だと思います。」

不意に横から掛けられた声の正体はルリだった。

少し顔が赤く、睨んでいるような気がする・・・。どうやら聞こえていたらしい。

「はは、わりぃ。」

その事に気付き、軽く謝る龍一。

「まあいいです。それより山下さん、貴方はこの事について何か知りませんか?軍の、それも上層部の方の息子さんである貴方なら何か知っているはずです。」

かなり露骨な探りである。しかし彼女にしてみれば、この事は龍一達の存在以上のとんでもないイレギュラーである。焦って探りが露骨になるのも無理は無い。

「う〜ん、そうだな〜。俺達が乗ってきたペガサス級のアルビオンなんかは、たしかグラビティーブラストも付いてたな。オモイカネは搭載されてねえけど、その分通常兵装が充実してたな。ナデシコより戦闘力は上なんじゃないのか?」

予想外の話だった。だが龍一の話はまだ続く。

「グリプスだけじゃなくて、他の所も建造してるって話だし。アメリカ方面軍や月の・・・なんだっけか、名前忘れたけど、そこら辺りは既に実戦投入してるし。アルビオンも進宙したのはナデシコの1ヶ月後だった様な・・・・・・。ああ、この話は機密じゃねえから別に気にしなくて良いぜ。」

あまりの事態にプロスとエリナは沈黙し、何やら考え始めた。

(ここまで事態が進行しているとは・・・。軍は我々が思っている以上に優秀な様ですね・・・。)

(これはヤバいわね。最悪ネルガルが軍を上回っている面は、オモイカネ級コンピューターの運用とボソンジャンプだけかもね。極楽トンボもナンパしてる場合じゃないわよ!)

エリナの様子から察するに、アカツキは相変わらずらしい。

(こんな事、前の世界には無かった・・・。この世界は、歴史が書き換えられているのではなくて、もしかしたらパラレルワールドなのかもしれませんね・・・・。そうなると、私達が持っている『未来を知っている』と言うアドバンテージは意味が無いのかもしれませんね。)

ルリも深く考え込んでいた。彼女の場合、プロスやエリナよりも重大だ。なにせ自分達の計画の大幅な変更もあり得るからだ。

そんな彼等の様子を見て龍一は独り言の様に呟いた。

「軍や政府は俺らが思ってる以上にトンでもないかもな。なまじ力があっから、裏でなにやってっかわかったモンじゃねえ。」

 

そんな重苦しい空気のブリッジに、アキトがユリカとメグミを引き連れ(られ)て来たのはその直後だった。

 

 

 

「どうしたの?みんな暗いよーー?」

「確かに暗いですね。なにかあったんでしょうか?」

「アキトーー、何があったか解る?」

「あのなあ、俺も今来たとこだぞ。」

そう言いつつも部屋に目を配らせるアキト。

(何かあったのかい、ルリちゃん?)

とりあえず一番客観的に物事を見ていた(とアキトは思っている)ルリに何があったのか聞くアキト。

(あとで話します。けど、これはとても重要な事です。)

(・・・・・・・わかった。)

アキトはルリの言葉に只ならぬ気配を感た。

「アキト!ルリちゃんとばっかりお話しないで私ともっとお話しようよーー。」

「艦長!アキトさんが困ってるじゃないですか!!」

「えっ!アキト、もしかして迷惑・・・?」

ついさっきの勢いは何所へ行ったのか急にしおらしくなり上目遣いにアキトを見るユリカ。

(十二分に迷惑だ。アキトも言ってやれ。)

と、心の中でツッコミをいれる龍一。だがそう言えないのがアキトなのである。

「いや、そんな事は無いよユリカ。」

アキト、自爆

「ほんと?」

「ああ。」

そっぽ向きながら答えるアキト。メグミはそれを凄い目で睨んでいる。それを見て龍一は―――――、

 

女の色気なんぞに騙されやがって!!修行が足りん!!!

 

何やら心の中でエキサイトしている。

と、同時にミナトからの視線に気付く。

「なんすか、ハルカさん?」

「山下君、よく誰かに似てるって言われない?」

「は?」

突然の質問に戸惑う龍一。

「ほら、この人よ。皆も知ってるでしょ?」

と言ってミナトが出してきたのは『月、その歴史』という歴史書と、『月の魔剣士』という映画のパンフレットのあるページだった。ちなみに、22世紀においても紙の本は消えておらず、一定の(といっても非常に大きな)シェアを誇っている。

「俺、知らないっす・・・。」

「私も知りません。」

「えっ!?アキトさんもルリちゃんも知らないの?小学生でも知ってるのに。」

いち早く反応したのはメグミだった。

「そうなのかい(ですか)メグミちゃん(さん)?」

アキトとルリの声がハモる。

「映画の方は今年の大ヒット作なんですけど、そっちの方じゃなくてその主人公の事なんですよ、アキトさん。」

「あ〜〜〜!私も知ってる〜〜〜。たしか100年前の月の紛争の時の映画だよね。実話を元にした、実在していたICPO捜査官が月の独立派のテロリストと戦うアクションサスペンスだったっけ。ああ〜、見に行きたいな〜ア〜キ〜ト。」

ユリカも反応する。アキトの方を見ながら。

それに反応するルリとメグミの気配を感じて顔が引き攣るアキト。

「昨日外出許可をとって見に行ったのよ。で、この映画の主人公、山下汰一(たいち)なんだけど・・・、えっと、『月、その歴史』の写真の方が解りやすいかな?」

そう言って『月、その歴史』のあるページの写真を指差す。

そこには、

 

 

 

どことなく優雅で高貴な雰囲気をし、

 

 

ビシッとスーツを着て左目に片メガネをして帯刀した、

 

 

長めの髪の、長身の(誰かにとても良く似ている)日本人男性が映っていた。

 

 

 

 

 

「うわ〜〜。山下汰一ですか。カッコイイですね〜〜。」

「映画の主人公より、元になった人の方がカッコイイよ〜。」

メグミとユリカのこの発言。これでは俳優も形無しである。

「「っ!(あっ!) この人・・・・・・。」」

アキトとルリは何かに気付いた様だ。

「「龍一さん(山下さん)にそっくりだ!」」

見事にハモる2人。その所為か、アキトはユリカとメグミの機嫌が急転直下で下がっていく事を気配で感じ、顔が青くなる。なおアキトは、まだリョーコがブリッジにいないという点でついていると言えた。

「そうよ。そっくりなのよ。山下君、よく言われるでしょ?」

龍一に向き直るミナト。それに龍一は、

「似てるのは当たり前っすよ。だって、ご先祖だし。」

 

 

「「「「「マジ!!??」」」」」プロス、山下兄妹以外のブリッジクルー

 

 

 

「ほ、本当なんです・・・。だから私達は、月に行くと時々物凄い歓迎を受けるんです。」

ブリッジクルー総員の驚愕の声を聞き、驚きながらも龍一に続く瑠璃。

「そういや明らかに国賓クラスの歓迎を受けた事もあるなぁ。」

思い出しながら腕を組み、そう語る龍一。その龍一をブリッジクルーは改めて見る。

そう言えば髪の長さと髪型が違うだけで他はうりふたつと言ってもいいぐらいだ。

もっとも雰囲気は、明らかに下町の兄ちゃんな龍一。高貴な気配を漂わせる汰一とは、全く異質なので気付かなくても無理はないだろう。

「解らなくても仕方ないですよね・・・。」

「そうだよ。雰囲気全然違うもん。」

「そうよね。同じ顔なのにここまで感じが違うと・・・。」

上からメグミ、ユリカ、エリナのコメント。龍一は腕を組ながら固まった・・・・・・・。

「兄様〜。お〜い、返事してくださ〜い。」

「お兄ちゃん、凍っちゃった・・・・・・・。」

瑠璃と蛍のコメントが全てを物語っていた。

 

 

 

 

 

その日の夜、アキトの部屋――――――

「・・・と言う訳なんです。」

アキトは今、ルリから朝ブリッジであったことを報告してもらっている。

あれからアキトは忙しくて中々時間が取れず、報告は夜まで持ち越しとなった。

「そうか・・・。それに、龍一さんの先祖の山下汰一・・・。ルリちゃんも聞いたこと無いのかい?」

「はい、無いです・・・。けど改めてネットなどで調べたのですが・・・、本当に有名な方でした。」

「となると、やっぱルリちゃんの言うようにパラレルワールドなのかも知れないね。」

アキトはそう結論付ける。

「だから計画の方は変更した方が良いかもしれないな。」

「その必要はまだ無いと思います。確かに歴史は私達の知らない方に変わって行っていますが、まだそれほど影響は出てきていません。それに、『アレ』なら大抵の事には対応できます。」

「それもそうだね。只でさえ『アレ』はとんでもないのに、これ以上は必要無いかもね。」

はたしてアキトとルリの判断は、吉と出るか凶と出るか。

この時点では知るよしも無かった。

 

 

 

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後書き

読んで頂いてありがとうございます。核乃介です。

前回でようやく本編の話に戻れたのですが、またまた脇道にそれてしまいました。

いやあ、ナデシコが火星から戻ってきてからは自由度の高い事高い事。

巷のナデシコSSは軍が無能だと言うのが多い。それに時ナデでは、アキト達は軍を完全になめています。実際は権力を持っている分、クリムゾンなんかよりももっと手強いはずなので、ここは思いきって趣向を変えてみました。まあ軍が無能だという描写は、ナデシコの活躍を際立たせるために必要な物だとは思いますが・・・。

このSSの連合軍は全く油断のならない存在ですよ。

龍一の夢やら、100年前の月の独立運動で大暴れした(であろう)ご先祖様やら、伏線らしき物も多数出てきましたので、どうか愛想を尽かさず最後まで見ていただけると嬉しいです。

それでは、また。

 

 

代理人の感想

まぁ、この世界の軍が無能ばかりではないと言うのは龍一の父親の描写を見た時点で感じていましたが。

まさかグラビティブラスト&相転移エンジン装備の船をネルガルと無関係に建造できるとは・・・・

ネルガルは「遺跡」(恐らく火星極冠のあれ)からその技術を手に入れた訳ですが、

軍はどこから手にいれたんでしょうか?

それとも、このSSでは太陽系には結構ゴロゴロ遺跡が存在するんでしょうか?

軍もクリムゾンも遺跡技術は手にいれ放題と。

 

そしてGB装備の艦を軍が量産できるのだとしたら・・・

極論すればナデシコの戦力としての価値など無きに等しい

と言うことになりかねません(苦笑)。

(軍が「スペックはナデシコより上」の艦を作れるならナデシコは只のワン・オブ・アザーズ、

 その他大勢の中に埋もれる只の独立愚連隊と言っても言いすぎではありません)

 

今後、ナデシコを目立たせるのに苦労するかもしれませんね。